PDF file - 梅村研究室

91kantou :
2011/9/8(10:56)
人と人を繋げるもの(言語)の影響力を再認識するできごと
言語は人と人の間でやりとりされ,人と人とを繋げているので,自然言語処理の研究は多く
の人に影響を与えることを理解はしていたが,このところ,それを実感するできごとがいくつ
かあったので,紹介させていただきたい.
まず, 3 月に豊橋で開催された大会において実行委員長を拝命したが,大会当日は家族にも
助けてもらった.家族は言語処理のことに知識はないので,プログラムの冊子の発表のタイト
ルをみても「難しそうなことをやっている」というレベルしか理解できないのだが,1 ページ
目に協賛に名を連ねている会社のリストには反応した.ちなみに,協賛の会社リスト(敬称略,
記載順)は,
「株式会社ロックオン/株式会社毎日新聞社/グーグル株式会社/ヤフー株式会社
/マイクロソフト株式会社/楽天株式会社/株式会社ミクシィ/株式会社はてな」である.各
社には,再度,大会開催へのご支援に感謝したいとおもう.この会社リストは,ごく一般的な
主婦や学生である家内や娘にも,自分と関わりの深い会社として認知している会社のリストで
あったこともご報告したい.専門分野に関わらない家族の反応が,自然言語処理の技術の発展
によって恩恵を受けることができる人の多さを示していると思えた.
つぎに,年次大会の最終日の平成 23 年 3 月 11 日(金)に,東日本大震災が発生し,多くの方
が被災された.心より,お見舞い申し上げる.東日本大震災に対応して,グーグル社が Google
Crisis Response を実施し,多くの有用な情報システムが実現したことに敬意を表明したい.災
害時において,人と人をつなぐ情報の仲介が重要であることが,心に刻まれるできごとであっ
た.これらのシステムで扱われている情報が自然言語という範疇にはいるかは,議論があるか
もしれないが,その情報を記述するのに使われる名前は自然言語を構成する基盤であり,名前
の扱いは自然言語の研究分野であろう.
最後に,不幸な中国での中国高速鉄道事故において,中国版ツイッターシステムとよばれる
「微博」を仲介として,マスコミとは別のレベルで情報が流通し,中国の人々の行動に影響を与
えたできごとがあった.事故に遭遇された方に心からお見舞い申し上げるが,人々の言葉を仲
介するシステムが人を動かすことを再認識するできごとであった.
「微博」の情報がつねに正し
いわけではないので,この新しいシステムを手放しで賞賛するような意見をもっているわけで
はないが,情報のチャンネルが多いのは悪くはないと思う.人間の判断は,それまでに触れて
きた情報に左右されるのは当然である.偏った食事が健康を損ねるように,偏った情報ばかり
に触れていると正しい判断ができないだろう.自分の希望として,自分は多くの情報のチャン
ネルを持つようにしたい.そして,その情報をコンピュータの力を借りて,多角的に整理でき
ることをしたい.この希望を持つ人は,国籍・年齢・性別を問わず,多いと想像する.
今回の年次大会は事前登録の参加申し込み数が 500 を越えた.言語処理に関する研究は,毎
年盛んになっているように思える.言語は人と人との情報を仲介するものである.ネットワー
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自然言語処理 Vol. 18 No. 4
September 2011
クの発展とコンピュータの発展とによって,仲介する人の範囲は広がり,仲介する言葉の量と
質も変化しているので,新しい技術が生まれ,必要性が生じている.言語処理に関する研究は,
人間の存在の根源的なところに根をおろしつつ,ネットワークとコンピュータの変化を栄養に
して育っているように思える.
このように考えると,研究の対象として,ネットワーク上にある言語の変化に追従して,研
究対象を拡大していくのは自然である.たとえば,Web, Wikipedia というような言語情報が生
まれたら,それに関しての処理を考えるのは自然である.豊橋での年次大会ではツイッターに
関係するテーマセッションがあり,これも自然で健全な成長の証拠と考えられる.また,コン
ピュータの発展によって利用できる手法が広がるのであるから,コンピュータの力を有効に使
えるような情報は自然言語処理技術の発展の栄養剤と考えられる.たとえば,最近の分散シス
テムやオンライン学習アルゴリズムの発展は,使える技術を拡大するものであるので,言語処
理の研究者にとって重要な情報と思っている.年次大会のチュートリアルで,機械学習に関わ
る話題が用意されているのも,プログラム委員会の配慮があるのだろう.
私には,コンピュータシステムもネットワークシステムも,単独で興味の対象であるが,多く
の人へ貢献するという価値観を是とすると,自然言語処理との関わりが必要と思っている.自
然言語という人間との関わりがないと,話が小さくなりそうな感覚をもっている.一方で,人,
そのものも面白い対象であるが,ひとを直接対象にすると話が大きくなりすぎ発散してまとま
りがなくなりそうな感覚をもっている.このようなわけで,コンピュータ,ネットワーク,自
然言語処理の 3 つの関わりに,興味深くて有用そうなものが密度が高く存在しているように思
えてならない.
梅村 恭司(豊橋技術科学大学)
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