中学校国語実践事例 はじめに 、本市では「潤いのある教育」を推進していく中で、「論理的な思考力と表現力の育成に努める」こ そこで とを重視している。そして「書く」活動を中心に、論理的な思考力を育てることに努めている。さら に、自分で考え、自分の考えをもち、自分の言葉で正しく相手に伝えられるよう表現力の育成に努め ている。 これに基づき、本研究委員会では「読み取ったことを正しく書くことができる」というテーマを定 め、以下に述べる実践に取り組んだ。なお、研究を進めるに際し、生徒の実態をアンケート調査して みたところ、子どもたちはもっと上手に長い文章を書きたがっていることが分かった。そして、効果 的な手だてを用いることで、書く意欲が増すことが検証できた。 実践事例1 適切な題材を選び、書き出しや構成を工夫する (1) 話題にふさわしい題材を選ぶ(文章名人 書くプロセス1) 「私が出会った美しい言葉」 現在の生徒の表現力は不足気味であり、語彙力は乏しい。そこで、 「語彙を豊かにするための工夫 によって、表現力を豊かにすることができる」という仮説を立てて、語彙の中でも生徒の関心が低い 「美しい言葉」を特に取り上げて、語句カード(ノート)に記入させた。 日常的な活動 語彙を豊かにし、表現力を豊かにするための工夫 「美しい言葉」の預金 語句カード(ノート)への記入 ★「美しい言葉」を考える主な視点…① 意味 ② 言葉の響き ③ 文字の印象 ④ シチュエーション(使用場面の効果) ☆ 記入する事柄 <表面> <裏面> ①出会った日付 ②場面〔だれがだれに言った言葉 か・どこに(書いて)あったのか・ どのような状況で出た言葉か〕 ③言葉の意味 ④一口感想 ○○○○○○○○ (私が出会った美しい言葉) スピーチや掲示による発表 実際のカード <裏> <表> 1 中学校国語実践事例 (2)分かりやすい構成で書く(文章名人 書くプロセス2) 集めた語彙を実際に文章としてまとめる際に、具体的な書き出しのパターンを数種類プリントで紹 介してみた。構成表を示し、題材を「自分が出会った美しい言葉」から選ばせたところ、読み取った ことや感じたことを友達に効果的に伝えることができるようになった。 なお、清書にあたっては、原稿用紙の正しい使い方を学ぶ学習(平成17年度国語科研究委員会報 告資料―実践事例2 「 『作文なんか怖くない』あなたも赤ペン先生」で用いた資料を使用)を本年 度も行い、作文の添削を担当教師が行った。 ①効果的な書き出しの紹介 ・ ・ ・ ・ ・ ②構成の工夫の仕方 会話・擬声語から書き始める。 疑問を投げ掛ける形で始める。 自分の感じたことから書く。 説明から始める。 自分の思い出やふだんの経験から書 き出す。等 ・ 時間の流れで構成を工夫する。 「過去→現在」 「現在→過去」 「現在→過去→未来」 「その他」 ) (1)と(2)を基にして書いた作文のスピーチによる発表 ―生徒作品から― しずく <擬声語から書き始める ― 過去・現在・未来 ― > 「ポチャン、ポチャン」この音は水滴が水たまりに落ちる音です。この音を聞いたときに、 私は「しずく」という言葉に出会いました。―略― 辞典で調べてみました。すると、 「雨」 の下に「下」と書いて「雫」と書くことが分かりました。私はそのとき、 「しずく」という言 葉にも漢字があったことに感動しました。 希望 <疑問を投げかける形で始める ― 現在・過去・現在 ― > 言葉に勇気をもらったことはありますか? 私はテレビドラマで「希望」という言葉に出会 い、勇気をもらいました。 ―略― 希望の意味は願い望むことと辞書では書かれていますが、 私はそれだけではなく、人に一番大切で、だれもがもっている、なくしてはいけないものだと 思います。 泡沫 <自分の感じたことから始める ― 現在・過去・未来 ― > 小さな泡が、一瞬で消えてしまうような儚いこと…。こんな意味をもつ泡沫という言葉。私 はこの言葉は意味のとおり儚い感じでどこか切ないけれど、その儚さの中に美しさがあるよう に感じました。この美しい言葉と出会ったのはずいぶん前の、小学校6年生の初めごろだった と思います。―略― 皆さんはどう感じましたか? 柳緑花紅 <自分の思い出から始める ― 過去・現在・未来 ― > 「りゅうりょくかこう?」 「柳緑花紅」を教えてくれたのは、小学校1年生のころの先生でした。―略― 先生は簡単 な読みを教えてくださいました。 「柳は緑、花は紅、紅は鮮やかな赤なんだよ。 」このときから 私は、 「柳緑花紅」は意味も字の組み合わせも読み方も美しいと思いました。 2 中学校国語実践事例 実践事例2 正確に読み取った内容を基に創作文を書く 1 学年の教材「オツベルと象」において、本文から読み取った内容を基にして、自分の思いを自分 の言葉で書き表すことをねらいにした「書き換え」の学習活動を取り入れる指導を試みた。 生徒の中には課題を難しく感じるものも予想されたが、作品自体がもつ魅力が土台となり、楽しく 活動することができた。そして、互いに読み合った際には、元の作品を皆知っているので、表現方法 の違いや共通点を理解しやすかった。 「表現を工夫して書く(文章名人 書くプロセス③)」 学習内容 「オツベルと象(宮澤賢治:作、教科書教材) 」を基に物語を創作する。 ね ら い 課 題 ○想像を豊かにして読んだり書いたりする楽しさを味わう。 ○書き換える視点を明確にすることで、自分の読みを深める。 表現を工夫して書く。 ・ 擬声語・擬態語や比喩表現を工夫する。 ・ 描写や会話などを生かす。 ・ 自分の思い・考えや評価を登場人物の言動で表す。 課題設定の理由 『オツベルと象』は擬声語や擬態語や比喩表現が多用されているので、作品を借りて創作しやすい。 また、牛飼いの語り口調で書かれている点を生かし、視点を転換して書くことが体験できる。さら に、登場人物の言葉が人物像を表しているので、これも生かす。 指導の過程 ・ 展開と構成の把握、ストーリーの整理 ・ オツベルと白象のものの見方や考え方や価値観の比較(言葉の表裏を使い分けるオツベルと、表 の言葉を信じる白象) ・ オツベルと白象に対する牛飼いの評価の考察 ・ オツベルと白象に対する自分の評価(考え・感想) ・ 擬声語や擬態語や比喩表現の確認(小学校既習『注文の多い料理店』 「顔がまるでくしゃくしゃの 紙屑のよう」→「顔をくしゃくしゃにして、ケースを握ったまま、もうくしゃくしゃに」 ) ・ 両作品のストーリーと登場人物の共通点の考察 ・ 最後の場面で白象が寂しく笑った理由の考察 3 中学校国語実践事例 生徒作品から 選択課題 ① 登場人物との出会いから別れを書く。 ある昼過ぎに少女は川沿いを歩いている。心地よい風が吹き少しぼうっとなった。その時ドー ンと大きな音がして、少女ははっとした。―略―「自分がこうして仕事ができるのもある人のお かげなんだ。∼仕事も与えてくれるんだ。 」少女は素直で純粋なこの白象と話していると、自分も そうなれそうな気がした。 「じゃあ、ぼくは帰るよ。さようなら。 」白象はそう言って、会った時 と同じ、ドーンという音を響かせ、去っていった。 選択課題②「第3日曜・第4日曜」を想像して書く。 第三日曜 オツベルはやっぱり頭がいいねえ。白象に疑われることなく仕事をさせているよ。―略― そ の晩、白象は月に「今日はとても疲れたよ。おなかもすいたよ。だけど楽しいね。サンタマリア。 」 第四日曜 なんてことだ、あの白象もついに限界か?「バタン。 」ある日突然、白象が山から薪をとる途中 で大きな音を立てて倒れてしまった。―略― その日からも白象は休むことなく働き続け・・・ 選択課題③『オツベルと象』の続きを書く。 白象ときたら、オツベルが死んで、森へ 帰れたというのに、 どうにも落ち着かない。 毎日、毎日、空を見上げ、ため息ばかりつ いている。仲間の象が声をかけても、寂し く笑うだけだった。 ところが、ある日、白象が言葉を発した。 「オツベルは好きかい」仲間の象が言う。 「うん。 」おどろきながら、白象は答える。 「なんだって、オツベルが好きだと?」 白象は仲間の象とも距離をおいて過ごす ようになった。 おや、もう昼かい。 その他…(例:百姓を語り手にして書く) コツベルと象 …ある羊飼いが物語る。 第一土曜 コツベルときたらオツベルに似てたいしたもんだ。百姓どもをたくさん働かせ、自分はぜいた くばかりしている。さて、今日はコツベルの兄オツベルの一周忌だ。―略― 4 中学校国語実践事例 実践事例3 学習ごとの感想を蓄積して二次感想を書く 一つの作品の学習を終えると、学習のまとめとして二次感想を書かせることがある。その際、学習 の終盤で読み取ったまとめの部分に着目し、そこを書く生徒が多いが、そこに至るまでの過程を大切 にしたい。 そこで、単元の学習の途上で個々の生徒が書きとめたものをそれぞれが蓄積し、二次感想をまとめ る際に生かすという指導を試みた。 『授業を通しての読み』 『授業を通しての読み』 『授業を通しての読み』 ○○についての自分の思い(考え) ○○についての自分の思い(考え) ○○についての自分の思い(考え) 蓄 積 二次感 想をま とめる視点 二次感想(まとめ)が書ける 「夏の葬列」での二次感想(まとめ)の書かせ方 ○ 学習課題1「小学生の彼を襲ったできごとについて読み深め、まとめる。」 A ○ 学習課題2「葬列を目にした彼の心情について読み深め、まとめる。」 B *「彼」や「ヒロ子さん」に対して、どう思いますか? 自分の考えを書きなさい。 ◎ 二次感想を書く際、 A、B で書いたものを参考としてまとめる。 《生徒作品から》 A ヒロコさんは、自分が動くと死んでしまうかもしれないということを自覚しながらも、 彼を助けに行ったのだと思う。ヒロコさんは彼を助けたかったのだと思う。彼はあんなに ヒロコさんに感謝していたのに、なぜ自分一人で助かろうとしたのか。 B むだな質問をしたばかりに二つの罪を背負って生きていかなければいけない彼が、かわ い そうな気がした。私だったら絶対に不可能だ。 【二次感想】 最初は、助けに来てくれた少女を突き飛ばして自分のことだけしか考えていなかった彼を、 私はあまりよくは思っていなく、逆に「ひどい人」だと思っていました。しかし、そんな過 去に責任をもち、生きていこうと決心した彼は強い人だと思うようになりました。もし自分 が殺人などを犯してしまったら、絶対にそんな強い決心なんてできません。罪を反省し、こ れからを生きると決心しているのなら、今彼を悪い人だなんて思いません。 5 中学校国語実践事例 実践事例4 学校生活の中から自然に題材を求めて書く 筋道を立てて考え、表現する力を付けることが求められる。「論理的な構成の文章」を書けるよう にするために、学校生活の中から自然に題材を求めて書くことを工夫してみた。 「定期テストの振り返り」を活用した取組 定期テストの答案返却の際に必ず「振り返り(資 料)」を行い、テストを振り返って次に生かすこと を書く。限られた時間の中で書くこともあり、不十 分なものも見られるので、分かりやすい文章につい ての話し合いを取り入れて理解を深め、論理的な文 章を書くための指導に取り組んだ。 ○ 課題 「テストの振り返りを分かりやすく書き直す。」 ① 次の3人の振り返りを読んで考えてみよう。 ……「中間テストの振り返り」から A とても悪かったので、頑張りたい。 B 今回は教科書の内容をあまり理解できていなかったので、次回は教科書を理解できる ようにする。 C 百人一首を覚える努力をしなかったため、一つしかあっていませんでした。頑張れば十点も とれたものだし、次は完ぺきに覚えようと思います。頑張ってやればもっとできるはずなの で、これからもっと努力します。 ②「気付いたこと」を発表し、まとめる。 ( 「わかりやすい文章」とは?) 気付いたこと A 何が悪かったの? 何をがんばるの? どれくらい悪かったの? どうして悪かったの? どうやってがんばるの? B 教科書を理解するってどういうこと?あまりってどのくらい? どうやって理解するの? C 一つしかあっていなかったというので、ダメだったのがわかる。 完ぺきにということなの で目標が見える。 どうやって覚えるの? なぜ努力しなかったの? 《生徒作品から》 <指導事項> ・「例」や「数字」を用いることでより具体的になる。 ・5W1Hを意識して、詳しく書くとわかりやすくなる。 ・「一つ目∼。二つ目∼。」「まず∼。次に∼。最後に∼。」 等の型を意識するとよい。 ・段落で伝えたいことを分ける。(段落構成) 今回のテストでは、悪かったところが三つあります。 一つめは、漢字です。漢字はあまり勉強しなかったため、書きが3つしかできませんでした。 次のテストでは、しっかりと「漢字工房」を勉強して、5回以上くり返し漢字練習をし、次は満 点を取りたいです。 二つめは、文法です。形容詞や形容動詞があまりできませんでした。もっと形容詞や形容動詞 の意味を理解できるように文法のテキスト問題でがんばりたいです。 (以下略) 6 中学校国語実践事例 「書くこと」に対する生徒のアンケート結果1 (1学期:中学1年生:男子72人、女子62人、計134人) 1 文章を書くことは、自分では得意だと思う。 ややそう思う そう思う 男 女 合計 8% あまりそう思わない 25% 67% 13% 39% 10% 48% 59 % 31% 2 もっと長い文章を書けるようになりたい。 そう思う 男 36% 合計 51% 13% 52% 38% 8% 51% 10% 先生や友達の心を動かすような、感動的な作文を書けるようになりたい。 そう思う 男 ややそう思う 36% あまりそう思わない 39% 25% 63% 女 合計 4 あまりそう思わない 40% 女 3 ややそう思う 34% 49% 37% 3% 15% 先生や友達をひきつけるような、魅力ある題名をつけられるようになりたい。 そう思う 男 ややそう思う 17% 42% 42% 女 合計 あまりそう思わない 34% 60% 38% 50% 6% 12% 5 その他 ・楽しく書けるようにしたい。 (女子) ・いろいろな表現や言葉を使って、他の人とは少し違う作文を書きたい。 (女子) ・多くの言葉の意味を理解して、難しい言葉を利用して作文を書いてみたい。 (男子) ・先が読みたくなるような楽しい話を書けるようになりたい。 (女子) ・自分でも納得できて、読んだ人から「この作品はすごい!」と言われるようになりたい。 (女子) ・もっと魅力ある文章を書きたい。心に残るような美しい文章にしたい!!(女子) 7 中学校国語実践事例 書く力を付けさせるための指導のポイント ◎ 本研究の取組み後の「書くこと」に対する生徒のアンケート結果2(中学1年生131人:1 2月実施)から、86%の生徒が「書くこと」の抵抗が少なくなったと答えている。そこで、 本年度の研究を振り返り、指導のポイントを5つにまとめてみた。 1学期より「書くこと」の抵抗が少なくなったと思う。 男 そう思う ややそう思う 24% 59% 女 合計 あまりそう思わない 17% 52% 38% 56% 30% 10% 14% 1 作文の感想を友達から聞くことで、自分の作文の良さに気付き、もっと良く書け るようになりたいという思いが増した。相互評価は生徒の学習意欲を喚起する。 2 書き換えの学習は、興味や関心を持って取り組むことができるので、作文指導に おいて有効な手立てである。 3 効果的な書き出しと構成の工夫の仕方を指導することと、作文を推敲する機会を 繰り返し持つことで子どもたちの「書くこと」への抵抗を減らすことができる。 4 途中の読み取りを蓄積して書くことで、豊かな内容の二次感想が書けるようにな る。 5 具体的に数値や例を取り入れることを指導することで、子どもたちは「わかりや すい文章」の書き方について理解することができるようになる。 今後の課題 ○「書くこと」に抵抗を感じている生徒は多い。しかし、必ずしも書く能力が低いというわけ ではない。今回の実践を通して、書く視点を明らかにすることにより、進んで書ける生徒が 多くなるということがわかった。さらに、ポイントをしぼって書かせるためには、指導者側 も観点を絞って効率よく評価することが大切である。 ○生徒の「書くこと」に対する思いの強さは明白である。今後も個々の生徒の書く能力に応じ た適切な指導を行うことが大切である。 8
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