脳の可塑性と操作、そして自発性

セッション2 演者紹介
脳の可塑性と操作、そして⾃発性
池⾕ 裕⼆(いけがや ゆうじ)
東京⼤学⼤学院薬学系研究科 准教授
<<略歴>>
1993年 東京⼤学薬学部卒業。1998年
博⼠(薬学)。1998年
東京⼤学⼤学院薬学系研究科博⼠課程修了。
東京⼤学助⼿、2007年より現職。
大規模に神経活動を記録することは脳を理解する
釈は脳にとってどんな意味があるのか。こうした問題
ために必須である――(真偽は私にはわからないが
にすぐにでも直面することは明白である。さらには、
私を含めた)多くの脳研究者はそう仮定して研究を
ビッグデータをどう解析したら人は「理解した」と実感
推進している。近年の脳科学技術の大幅な革新を見
するのだろうか。そもそも人間原理として「理解した」
れば、おそらく近い将来には、それなりの大規模
の成立条件は何なのかといった多元的難題にも真
データを得ること自体はできるだろうと私は楽観視し
正面から取り合わなければならない。
当日の講演では、私たちの研究室の大規模記録
ている。となると問題は「その先」にある。ここには問
技術を三つ紹介しながら、将来立ち現れるであろう
う必要のある課題がいくつかある。
「機能マップ」の姿を考えてみたい。
ま ず「 大 規 模 」 の 定義で あ る。 全脳 の す べ ての
ニューロンの活動を網羅的に記録する必要があるだ
ろうか。それとも部分は全体を代替するだろうか。後
者だとしたら、どの程度まで大規模であることが必要
十分条件であろうか。脳にはニューロン以外の細胞
種も存在するが、これらは無視しうる因子だろうか。
外界刺激とは一見無関係に思える「自発活動」は脳
活動の大半を占めるが、これはなぜ存在するのだろ
うか。内部表象(という実験者サイドからのデータ解
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