「ワルキューレ」 ~輝かしい二つの目よ~ リヒャルト・ワーグナー作曲、第1幕60分、第2幕90分、第3幕70分 「ニーベルングの指環」四部作は、ひとつのプロローグと3日を要する舞台上演である。 その「第一日」に当たる「ワルキューレ」は、序夜「ラインの黄金」を除く三部作の実質 的な幕開けに位置づけられる作品である。 四部作はそれぞれ独立した性格を持ち、単独上演が可能で「ワルキューレ」は、もっとも 人気が高く、上演機会も多い作品である。感動的な愛情表現の場面や、ライト・モチーフ の使い方が自然かつ巧緻であるなど作曲技法のクオリティの高さから、四部作にとどまら ず、ワーグナーの全作品中でももっとも優れたもののひとつである。 生き別れていた双子の兄妹(ヴォータンと人間の間の子)ジークムントとジークリンデが 出会い、兄妹と知りつつ恋に落ち駈け落ちするが、この時ジーグリンデは英雄ジークフリ ートを身ごもる。妻ジークリンデに逃げられたフンディングの告発により、ヴォータンは 神としての立場から意に反してジークムントを見殺しにせざるをえなくなる。彼の愛娘で ワルキューレの一人であるブリュンヒルデは、父の本心を見抜いてこの兄妹を守ろうとす るが、結局ジークムントはフンディングに倒されてしまう。 ブリュンヒルデは、ジークリンデに英雄ジークフリートをみごもっていることを教えて逃 がしてやるが、この勝手な一連の判断がヴォータンの怒りにふれる。 ブリュンフルデは罰として神性を奪われ炎に囲まれた山頂に眠らされる…。 「カヴァレリア・ルスティカーナ」 ~トゥリッドゥが兵隊に行く前、彼の恋人はローラでした~ ピエトロ・マスカーニ作曲、全1幕、1時間10分 村娘のサントゥッツァの心は憔悴していた。その原因は恋人のトゥリッドゥである。 彼は兵隊に行く前、ローラと付き合っていた。しかし戦争から帰ってくるとローラは アルフィオの妻になっていた。… 彼はサントゥッツァを愛することで悲しみを消そうとしていた。 しかし、嫉妬深いローラは自分が人妻であることも忘れ、彼を取り戻そうとしている。 怒りに任せて取ってしまったサントゥッツァの行動が、その後のとんでもない悲劇に繋が る…。 オペラ作曲コンクールの優勝作であるこの作品は写実主義であり「田舎の騎士道」という 意味。全編を通して劇的な描写に富んでいます。ラストシーンの直前に置かれた間奏曲は、 嵐の前の静けさ。クラシック音楽の中でも最も人気のある曲として知られています。 「道化師」 ~笑え、道化師よ。砕かれたお前の心を~ ルッジェーロ・レオンカヴァッロ作曲、第1幕45分、第2幕25分 人を笑わせる商売の道化役者も、悲しみや苦悩を感じる普通の人間である。 イタリアの南部、カラブリア地方に旅芝居の一座がやってきた。座長カニオの妻ネッダは 嫉妬深い夫に嫌気がさしていた。しかしネッダに愛人がいる事を知り激怒するカニオ。愛 人の名前を問い詰めるが、芝居の時間も迫ってきていた。カニオは芝居小屋に戻り、道化 師の衣装を着け、自分の苦悩を笑えと鼓舞しつつ、泣くのだった。 その日の芝居は現実と似通っていた。妻の役であるネッダが夫の留守中に恋人を家に呼び 込んだところ、夫が帰ってきてしまうという話。夫役は、カニオ。カニオはネッダに問い 詰めているうちに、もう芝居なのか現実のことなのか分からなくなってきていたのだ…。 このオペラの最大の聴きどころは、座長カニオ役が歌うアリア「衣装をつけろ」 。道化師で なくとも、人は何かのために自分の苦悩を押し殺し、振る舞うことをしなければならない。 その痛切な歌声が深く心に響く。 「トスカ」~歌に生き、恋に生き、悪事など一つもない私に何故?~ ジャコモ・プッチーニ作曲、第1幕45分、第2幕40分、第3幕25分 1800年6月17日から18日の明け方までの出来事。 舞台はローマのテベレ川をはさんだ実在の場所である教会、ファルネーゼ館(現フランス 大使館兼大使公邸)、サンタンジェロ城。フランス革命の影響を受けて、自由主義的、 共和主義的な思想がイタリアにも広がっていたが、そのような主義主張は反逆罪に値して いた。反逆罪で投獄されていたアンジェロッティが脱獄してきたところから悲劇は始まる。 歌姫トスカは、恋人カヴァラドッシが逮捕されたことを知る。脱獄犯アンジェロッティを かくまったからである。 警視総監スカルピアに、トスカはカヴァラドッシの助命を嘆願するが、スカルピアはその 代償としてトスカの体を要求した。彼の立場上、カヴァラドッシへ見せ掛けだけでも銃殺 刑を行わなければならない。その時は死んだ振りをし、その後二人で逃げれば良い、と…。 トスカは二人の逃亡のため、自由通行許可証を発行するようスカルピア要求する。通行許 可証を書き終わり、トスカを抱きしめようとせまったスカルピアだが、トスカはスカルピ アの胸にナイフを突き立てる…。 翌朝、執行された「見せ掛けだけの銃殺刑」。その真相は? 20世紀最大のオペラ歌手であるマリア・カラスはトスカを何度も演じ、あたり役とも言 われていた。しかし映像はパリ・オペラ座とコベントガーデンで行われた第二幕の部分し か残っていない…。 「ヴェニスに死す」~美は惜しみなく奪う~ ベンジャミン・ブリテン作曲、全二幕2時間30分 行き詰まりを感じているドイツの小説家アッシェンバッハ。 気分転換にとアルプス山脈を越えて南国への旅をしようと思い、 イタリアのヴェニスへ向かった。南国の海の景色は最高に美しく心を和ませたが、船旅は あまり楽しいものではなかった。 ヴェニスの暑さや騒々しさ…。彼は苛立ち、故郷が懐かしくなるのだ。 ホテルでギリシャ彫刻のような美少年を見かけ、帰国を決意したにもかかわらずヴェニス に留まることにして、彼を眺める毎日を過ごす。 ヴェニスでは疫病の被害が広まっていたが、何とか彼の気を引けないか、彼を追って運河 やサン・マルコ寺院をまわり、最後は彼に近づけぬままヴェニスに死す。 トーマス・マンの中編小説をルキーノ・ヴィスコンティにより映画化もされている有名な 作品。映画「ヴェニスに死す」はカンヌ国際映画祭でも受賞。 「魔笛」~復讐の炎は地獄のように燃え~ ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲、第1幕80分、第2幕70分 時は古代、舞台はエジプトで架空の世界。 大蛇に襲われている王子タミーノを「夜の女王」に使える3人の侍女達が助けるところか ら物語は始まります。タミーノは、侍女達から女王の娘パミーナの絵姿を見せられ一目惚 れし、悪人ザラストロに捕らえられた娘を救い出そうと決意する。侍女達から「魔法の笛」 を受け取り、ザラストロの神殿へと旅立つ。しかし、実はザラストロは悪人ではなく偉大 な祭司あることが分かり、夜の女王こそ世界征服を企んでいるという。邪悪な野望の犠牲 とならないようにパミーナを保護していたのだった。 夜の女王の復讐の炎は地獄のように燃えさかり、侍女達とともに、自らザラストロの神殿 に乗り込んでいく。モーツァルトが残した最後のオペラである「魔笛」は、誰でも知って いるメロディー、オペラらしいメロディーの連続で、極上のモーツァルトの音楽を聴くこ とができる。特に夜の女王のアリアと言えば、コロラトゥーラと呼ばれるソプラノ歌手が 綱渡りのように最高音を出すことで、このオペラの名物となっている。 「トゥーランドット」~氷のような姫君もあの人を愛するでしょう~ ジャコモ・プッチーニ作曲、第1幕40分、第2幕50分、第3幕40分 中国は北京、紫禁城前の広場である。絶世の美女だが氷のように冷たい心を持つ トゥーランドット姫は、 「3つの謎を解いた者を夫として迎えるが、その謎を解けなかっ た者は斬首の刑」という。 姫君の美しさに魅せられた王子カラフは謎解きに挑戦するのである。 カラフは見事に3つの謎を解いたが、動揺したトゥーランドットは妻となることを拒む。 そこでカラフは「夜明けまでに私の名を明らかにできたら、命を捧げよう」と逆に謎を 出したのだ。 トゥーランドットから北京市民へ御触れが出た。 「夜明けまでにあの男の名が明らかにせ よ。さもなければ誰も寝てはならぬ」と。北京を舞台にしたスケールの大きいオペラ、 合唱を中心に迫力のある場面が中国調の旋律とともに流れ、オリエンタルな雰囲気が特 徴である。第3幕のカラフのアリア「誰も寝てはならぬ」は、勝利への思いとトゥーラ ンドット姫への愛を熱烈に歌い上げるテノールのアリアとして、最も人気のある曲。 2006年のトリノオリンピックの開会式で、故・パヴァロッティが歌い、荒川静香選 手が金メダルを獲得した時にも使用された曲として有名である。 「Quartett」 ルーカ・フランチェスコーニ作曲 (世界初演のためデータなし) 「ロメオとジュリエット」 ~私は夢に生きたいの~ シャルル・グノー作曲、全五幕2時間40分 16世紀のヴェローナ。キャピュレット家の回廊で行われた仮面舞踏会で人々の注目を 集めるジュリエット。ロメオは、彼女の素性を知らぬまま恋に落ちるが、彼ら両家の対 立が二人の恋に影を落とす。庭園に忍び込んだロメオは、2階バルコニーのジュリエッ トに愛を告白する。恋の苦しみ知った神父は両家の仲直りを期待し、二人の結婚を認め る。 父キャプレットは、ジュリエットにパリス伯爵との結婚を命じ、すでにロメオと結婚し ている彼女は驚き、うろたえるが、人を仮死状態にしてしまうという不思議な薬を飲み、 パリス伯爵との結婚式が始まろうとする中、突然ジュリエットは倒れ、死亡する。 仮死状態を知らないロメオは、絶望し自ら毒をあおる。その後、目覚めたジュリエット は彼が絶命寸前なのを知り、短剣で胸を刺す…。世界でもっとも有名な悲恋物語、ウィ リアム・シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」をオペラ化。美しい旋律中に、 まるで宗教音楽を思わせるメロディーが絡み合う、心洗われる曲ばかりである。 「アッティラ」~ああ、なんとすばらしい異国の娘たち~ ジュセッペ・ヴェルディ作曲、全三幕2時間 西暦452年、イタリア。 フン族の王アッティラはアドリア海を望むアクイレイアを征服することに成功した。 彼のところにアクイレイア人の女戦士たちが部下のウルディーノに連れられてくる。 アッティラは「アクイレイア人を皆殺しにせよ」という指示に従わなかった彼を 非難するが、ウルディーノは王への貢物のためという。 その中の一人オダベッラは「イタリアの女は国のためなら勇気を出して戦う」と歌うの で、彼女たちの勇気に感銘を受けアティラは望みのものを与えるという。 オダベッラは自分の剣を返して欲しいと答え、代わりにアッティラは 自分の剣を与える…。ヴェルディは比較的初期には、例えば「ナブッコ」のように民族 意識を高揚させるような内容の作品を作っていますが、この「アッティラ」もその一つ といえる。 このオペラも愛国的な曲としてイタリアで熱狂的に愛された。 「アルジェのイタリア女」 ~むごい運命と嘆く美しいイタリア女~ ジョアッキーノ・ロッシーニ作曲、全二幕2時間20分 アルジェの太守ムスターファは妻エルヴィーラに飽きていた。そこでイタリア人の奴隷 リンドーロに、なかなか思い通りにならないという若いイタリア女を探して来いと命令 するのだ。 海賊に狙われた船に乗り、奴隷にされてしまった美しいイタリア女、イザベラは ムスターファの元へに連れて行かれてしまう。逆に男たちを思い通りに動かしてやろう と決意する彼女は、かつての恋人リンドーロと再会し、機転を聞かせて、彼を自分の 奴隷にして欲しいとムスターファに頼む。 リンドーロはムスターファに、女にモテル男たちの結社「パッパタッチ」に入るように 勧め、その間にリンドーロは逃げ出す計画を立てる。ムスターファは乗り気で「見ても 見ぬ振り、聞いても聞かぬ振り、食べて、喋らない」という入会の規則を守るようにと 誓わされる。ムスターファは奴隷達が去っていき、イザベラとリンドーロが愛を誓い合 っていても、ただ飲み食いをしているだけ。船が去り、自分が騙されたことに気付いた ムスターファは? オペラ・ブッファの最高傑作。誰もかも腹をかかえて笑いころげながら「すごい!完璧 だ!」と叫んだ。 この作品はロッシーニの数あるブッファの中でも、スピードに満ちたストレートな笑い という点で秀でている。 「アラベラ」~だけど本当に、私のための人がこの世にいるのなら~ リヒャルト・シュトラウス作曲、全三幕2時間30分 1860年代のウィーン。退役騎兵大尉のヴァルトナー伯爵夫妻は、金もないのに年頃 の二人の娘を連れて豪勢なホテル住まいをしている。都会での派手な生活に加え、わず かな蓄えも博打狂いの伯爵によって底をつくが、家族は美貌の姉娘アラベラが玉の輿に 乗って一家を救ってくれるよう占い師にすがっている。 資産家の3人の伯爵が求婚しているがアラベラはその気がない。 軍人マッテオも求婚しているがアラベラは鼻にもかけない…。 シュトラウスは10代前半には作曲を始めた天才で、モーツァルトやワーグナーのオペ ラに親しみ、少年時代からオペラの作曲を始め、生涯に15作のオペラを作曲しました。 モーツァルトのオペラになぞらえ、シュトラウス版「コシ・ファン・トゥッテ」とも言 われています。 「ばらの騎士」~僕は夜明けが嫌いだ~ リヒャルト・シュトラウス作曲、第1幕70分、第2幕60分、第3幕65分 18世紀中頃、マリア・テレジア治下のウィーン 伯爵夫人と浮気をしている貴族の若者オクタヴィアンは、伯爵夫人の知人で田舎貴族の オックスの使者として結納のための「銀のバラ」を届ける役目を引き受ける。伯爵夫人 は愛人との別れの予感を感じてしまう。 何故ならバラの届け先は新しく貴族となった金持ちの娘ゾフィだが、案の定、二人はす ぐに恋に落ちてしまうのだ。 一方、オックスは決闘を彼に申し込み、怪我をした大げさに騒ぎ立てたオックスにたい して、オクタヴィアンは策略を巡らして欺くことにした。 オクタヴィアンは女装して伯爵夫人の小姓になりすまし、オックスを郊外のガストハウ ス(旅館、兼レストラン)に呼び出し、騒動を起こす。警官とともにゾフィの父ファニ ナルが駆けつけ、結局、婚約はご破算になる。伯爵夫人も現れてオクタヴィアンとゾフ ィの仲を認め、二人を祝福して自ら身を引く…。 筋立ては貴族達の恋愛がテーマのコメディ作品だが、全3幕からなる非常に大規模で演 奏困難なオペラ。 シュトラウスはこのオペラを作るにあたり、「モーツァルト・オペラ」にしたいと考え、 物語の舞台をウィーンに置かれ、ロココの香りを漂わつつ、遊戯と真実を対比させた作 品として仕上げられた。 「湖上の美人」~胸の思いは満ち溢れています~ ジョアッキーノ・ロッシーニ作曲、全二幕2時間30分 16世紀前半、山岳地帯に住む民族と国王派とに別れて争いが絶えないスコットランド。 スコットランド王、ジャコモ5世は狩りの途中で道に迷っていた。そこで湖上の美人と呼 ばれているエレナと出会い、彼女の家に案内される。エレナは、実はジャコモ5世の敵・ ダグラスの娘だったのだ。さらに反乱軍の首領ロドリーゴとの結婚を強いられている事を 知る。 ジャコモ5世もエレナに心惹かれてしまうが、彼女が騎士マルコムと愛し合っていること を知って身を引くことを決意し、「何かあったらこれを王に見せるように」と紋章入りの指 輪を渡して去っていく。 一方、ロドリーゴは、国王に対する反乱で処刑され、エレナの父も捉えられてしまう。エ レナは、父の助命を国王に嘆願しにいき、父の命と引き換えにジャコモ5世から求婚され るが、彼女はそれを拒む。エレナの気持ちを尊重する寛大なジャコモ5世は、ダグラスの 命を助けエレナと恋人マルコムとの結婚を許して二人を祝福するのだ。 この作品は、序曲を廃し、いきなり導入部から始まるという構成をとっている。ロッシー ニが歌劇本体に観客を集中させるためにとった改革である。ナポリ・サンカルロ劇場向け に作曲されたオペラ・セリアである。
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