Kohnan Wind Orchestra 港南吹奏楽団通信 しおかぜ 発行者 港南吹奏楽団理事長・常任指揮者 玉 谷 敏 弘 第89号 2009年10月7日(水)発行 嵐と音楽 台風が近づいている。 久々の名古屋直撃コースで,どうも暴風警報で学校が休校になりそうだ。子どものころから,台風や雷が好き で(不謹慎だが),わくわくして胸が躍った。今回もなぜかわくわくしている。 そう言えば大学生のころに(平成2年の9月)上陸した「台風19号」は鮮烈に覚えている。プレハブのオーケス トラの部室で台風の暴風雨が吹き荒れる真夜中に大音響で音楽を聴いていた。その直後,扉が枠ごと部屋の 中に倒れ込み,そのとたん急激な部屋の中の気圧の変化で天井が抜け落ち,プレハブが一瞬にして半壊状態 になった。さすがに身の危険を感じた俺と親友「じ」と留年していた先輩「む」は部室を脱出。先輩の車に乗り込 み,近くの下宿まで車を走らせた。そのときの道路は完全に川になっており,信号機はすべてわけのわからな い方向を向き(しかも,停電している),サークルKのどでかい看板が空中を舞っていた。あの光景は忘れられな い。翌朝,台風が通り過ぎた後,大学まわりの巨木は何本も根こそぎ倒れて道路を塞いでいた。 あらためてデカイ台風だったんだなと思い,少し調べてみた。 最低気圧なんと890hPa(上陸時は945hPa)!伊勢湾台風でも895hPaなので,やはり威力があったんだ な。死者42名,行方不明者2名,負傷者197名で,こちらは伊勢湾台風とは比べものにならない(死者4697 名,行方不明者401名,負傷者38921名)が,大勢の死者が出た台風だったのだ。 台風という呼び方は,太平洋や南シナ海で発生する熱帯低気圧に対するもので,同じ気象現象でも大西洋 やインド洋ではハリケーンやサイクロンと呼び名はいろいろだ。しかし,ヨーロッパにはハリケーン(台風)は来な い。だから,クラシック音楽にハリケーンつまり台風を描いたのもはない。ただ,「嵐」の様子を描いたものはあ る。「嵐」というのは,まあ要は,強い風や雷をともなう強い雨のことだ。嵐の様子を描いた音楽はいろいろある。 すぐに思い出す音楽としては,ベートーヴェンの交響曲第6番ヘ短調「田園」の第4楽章だ。「雷雨,嵐」と名 付けられたこの楽章だけにはピッコロとティンパニが加えられ,楽しい村人の集いを突然襲う昼下がりの激しい 雷雨の様子が見事に描かれている。コントラバスが遠雷を,ヴァイオリンや木管が怪しい風音,閃光と雨足を, そして金管とティンパニが激しい雷鳴と大地の鳴動を表現し,最終部では雨足が遠のき雷雲が去って,雨が上 がり,晴れ間が差した清々しい麗らかな田舎の情景が見えてくる。本当に見事な表現で,音楽って素晴らしいと 思う。 次に思い出すのは,リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲だ。登頂し,下山を始めてしばらくしてからやっ てくる「嵐の前の静けさ」。遠くから雷(バスドラムとサスペンデッドシンバル)が聞こえてきて,だんだん暗くなって くる。ぽつぽつと降り出した雨(ヴァイオリン・フルート・オーボエ)は,次第に激しくなり,風が吹き出してくる(ウィ ンドマシーン)。 その後,一気に「雷雨と嵐」の描写へ。オルガンの和音とウィンドマシーンによる風の吹く中,ピ ッコロや木管,シンバルが閃光を低音楽器,バスドラム,ティンパニが激しい雷鳴をこれまたものの見事に表現 している。嵐の最も激しい部分ではサンダーマシーンがオーケストラ全体に素晴らしい強烈な落雷の効果音を もたらす。登山者は激しい雨の中を急いで下山するが,雨風が徐々に静まって,真っ暗な雷雲は遠ざかってい く。やがて嵐はおさまり,雲間から何とも感動的に美しい夕焼けの太陽が顔を出すのだ。この瞬間も本当に感動 的で音楽はやはり素晴らしい。 他にも,ヴィヴァルディの「四季」の夏にも,弦楽合奏によって嵐が描写されているし,ベルリオーズの幻想交 響曲では遠くで怪しく轟く遠雷の響きが4人のティンパニ奏者によって演奏される。 自然界の雷の音を聞くと本当に,誰か上等なバスドラムかコントラバスでも弾いているのかと思うほどいい音 がする。(あ,不謹慎発言。)いや,自然界の音を聞いてそれを楽器で描写した作曲家たちの感性が素晴らしい のか。
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