サブプライムローンとは?

サブプライム問題
豊商事株式会社
サブプライム問題
2008 年 10 月 17 日
危機の起源、住宅バブルの誕生(住宅バブル化の金融政策の失敗)
サブプライム問題の起源は 2000 年後半に起きた IT バブルに遡る。当時、FRB(連邦
準備銀行)は、FF 金利(フェデラル・ファンド金利・銀行間短期金利)を数ヶ月の間に 6.5%
から 3.5%まで引き下げて、IT バブル崩壊に対応した。ところが、2001 年の 9.11 テロが発
生する。FRB は、この事件を受けて更に金利を引き下げた。
2003 年 7 月には、アメリカの金利は 1%という、半世紀ぶりの低水準にまで下がり、1
年間その水準にとどまったのだった。名目上の金利からインフレ率を引いた実質短期金利
は、31 ヶ月間にわたってマイナスだった。実質金利がマイナスという超金融緩和政策は、
住宅バブルと、LBO(レバレッジド・バイアウト/買収対象企業の資産を担保に多額の借
金をして、買収を実行する投資手法)の爆発的増加をもたらした。
マイナス金利というのは、資金を借りるコストが事実上無料だということを意味する。
資金の貸し手としては、借りたい者がいなくなるまで貸し続けるのが合理的であるという
ことになる。そして、その通りに行動したのが住宅ローン各社だった。貸付基準を緩め、
さまざまな新手法を導入して売上を伸ばし、手数料収入を増やしていったのである。
2000 年から 2005 年半ばにかけて、アメリカの既存住宅の市場価値は、50%以上も上昇
した。新築住宅建設も凄まじい勢いで進んだ。米証券大手メリルリンチは、2005 年前半に
おけるアメリカの GDP 増加分のおおよそ半分は、住宅関連だと推計した。この場合、「住
宅関連」というものには、住宅建設や家具の購入といった直接的なものと、住宅ローンの
1
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借り換えで生じた余剰資金による消費のような間接的なものとの、2 通りがあった。
1997 年から 2006 年にかけてアメリカの消費者が、ローンの借り換えや転売などの手法
で住宅資本(住宅の市場価値からローンの残債を引いた金額)から推計 9 兆ドルの現金を
引き出している。12000 年以降、このような「住宅資本の現金化」が個人消費の 3%相当を
賄っていると推計された。特に、2006 年第一四半期は、
「住宅資本の現金化」は、個人の可
処分所得の 10%に達している。2
このような背景の中、2007 年 8 月、今回の金融危機が始まった。この月に、主要先進国
の中央銀行が、それぞれの国の銀行システムに資金を供給しなければならないことを認め
たのである。危機の進展は、以下の通りだ。
2007 年
8月6日
アメリカン・ホーム・モーゲージ(米大手住宅ローン会社)が倒産。
8月9日
BNP パリバ銀行(仏)が系列 3 ファンドの営業を一時停止。
短期資金市場から資金が干上がる。
欧州中央銀行は、ユーロ圏の各銀行に 950 億ユーロを注ぎ込む。
FRB、日銀もこれに追随。
8 月 10 日
欧州中央銀行、追加で 610 億ドルを資金供給。
FRB、無制限資金供給を宣言。
8 月 13 日
欧州中央銀行、さらに 477 億ユーロを資金注入。
FRB、日銀も追随。
ゴールドマン・サックスが系列のファンドに 30 億ドルの緊急融資。
8 月 16 日
カントリーワイド・ファイナンス社(全米最大の住宅ローン会社)が
融資枠を使い切ってしまったことを宣言した。
ラムズ社(豪の住宅ローン会社)も資金繰りが苦しいことを認めた。
8 月 17 日
FRB、割引率(銀行への貸出金利)を 0.5%引き下げた。
先進諸国の中央銀行は、さらに多額の資金を、さらに長期にわたって金融システムに供
給せざるを得ず、かつてないほど多様な証券を担保として預ることになった。
9 月 13 日
ノーザン・ロック(英最大住宅ローン銀行)が破綻寸前であることを明らかに
した。
イギリスで、1 世紀ぶりの取り付け騒ぎ。
1
2
元経済諮問委員会委員長のマーティン・フェドスタインによる推計
2005 年 FRB 調査より
2
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実質マイナス金利下で詐欺同然の貸し出しを行う金融機関や不動産ブローカー
IT バブル以降の低金利下において、住宅価格が二桁成長を続け、投機も活発になった。
不動産の価値が金利以上に上昇すると予想されるときには、自分が住むのに必要な以上に
所有することは、「賢明な投資」ということになる。2005 年 4 月になるとアメリカ人の購
入する住宅の 4 割が、投資用か別荘用になっていた。
実は、今世紀に入ってからのアメリカ人の実質所得の中央値(「普通の人」のデータを知
る上での指標)を見るかぎりでは、その伸び率はいたって微弱のものでしかなかった。普
通のアメリカ人の経済力は、決して力強い成長を見せていたわけではなかったのだ。
そこで住宅ローンの貸し手は、詐欺同然の「工夫」でもって、一般庶民にも住宅を手の
届くようなもののように見せかけようと画策した。そのひとつが「変動金利ローン」(たと
えば最初の 2 年間だけ金利を市場水準よりも低く設定するといったものだった。2 年後にな
ってローンの利子が上がるときには、住宅価格はさらに上がっているし、返済を続けてい
れば信用も増すから、もっと条件の良いローンへの借り換えも可能だと、借り手は「説得」
された。また、ローン会社は、借り換えを促進してそのたびに手数料を受け取った。)があ
る。
こうしてローンの貸付の基準が緩められ、一般の借り手ばかりでなく、ローンを組むの
が難しい(信用度の低い)「サブプライム」の借り手にもローンが大量に供給された。サブ
プライム・ローンの中には、
「嘘つきローン(所得や資産に関する証拠書類の提示をろくろ
く求めないまま、借り手に貸し付けるローン)」や「NINJA ローン(ニンジャ・ローン/
No-Income No-Job no-Asset ローン 無所得、無職、無資産の個人に貸し付けるローン)
」
なども含まれていた。
「証券化」という言葉で騙された投資家
さて、アメリカでは、銀行や貯蓄貸付組合(貯蓄と住宅ローンに特化した金融機関)が住宅
ローン融資を決めた場合、融資自体は住宅ローンの貸付を専門に行う業者「ブローカー」
によって貸し付けられ、そうして発生した住宅ローン債権が銀行に集められ、まとめて証
券会社に売られるのが一般的だ。その後、証券会社は、買い取った住宅ローン債権を一ま
とめの証券にして、格付け機関(証券の発行体から資金をもらって、証券の審査を行う民
間組織。審査基準があいまいということで問題視されている)からお墨付きを受けて機関
投資家に売りつけるのである。
このとき、証券会社はリスクの高い住宅ローン債権を何本も組み合わせて、CDO(資産
担保証券の一種)という名称の、新たな資産担保証券に仕立てて売却した。CDO は何千も
のローンの利払いと返済から生じるキャッシュフローを一括して、これをさまざまな組み
合わせかならなる金融商品に分割しなおしたもので、利回りやリスクが複雑化する半面、
さまざまな投資需要に応えることが出来るという触れ込みだった。
これらの CDO のおそらく 8 割程は、格付け会社から最高レベルの AAA(トリプルエー)
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の格付けを与えられた。これよりも格付けの低い CDO は、元になっている住宅ローンが不
良債権化したときに負わされるリスクが高かったが、その分利回りが高かった。しかも銀
行や格付け機関はこのリスクを大幅に過小評価していた。
こうした証券化は、リスクを段階評価し、元になる資産を分散させることで、リスクを
低くするとされていた。ところが、実際には、住宅ローンの債権の所有権を、借り手と直
接やりとりする銀行から借り手とはまるで無関係の投資家へと次々に移転することでリス
クを高めてしまったのだ。債権のリスクを他人が引き受けるのであれば、ローンの貸し手
の貸付審査は、どうしても緩くなってしまう。典型的なモラル・ハザード(倫理崩壊)で
ある。
しかも、ローンの貸し付けから、最後のローン債権の売却まで、各段階で手数料が発生
する。売り買いされる資産が大きければ大きいほど、それを扱う金融機関のボーナスも多
額となった。それが、住宅バブルを急激に膨張させた。
2005 年から前述したような証券化が、過熱した。これらの合成金融商品は簡単に作り
出すことが出来た。その結果、リスクの高い証券が実際に供給されている資産の何倍に
も増えた。証券会社は CDO を更に分解して組みなおし、CDO2、更にもう一回分解し
て組みなおした CDO3 まで作り出していった。格付けの低い CDO でも格付けの高い債
券と組み合わせることで、AAA の格付けが与えられることがあった。こうして AAA 総
量を上回る残高の AAA 債券が生み出され、しまいには総取引量の半分にまで達した。
安易な証券化ブームは住宅ローン債券に限定されず、他の形の債券にまで広が
った。合成証券市場の半分を軽く上回る割合を占めていたのは、CDS(クレジット・デ
フォルト・スワップ)である。CDS は複雑な合成金融商品で 1990 年代初頭にヨーロッ
パで開発され、初期には二つの銀行間の個別の合意という形を取っていた。CDS は現物
債券を取引することなく、その発行体の信用リスク(デフォルト・リスク)のみを取引するための
ツールであり、社債等のデフォルトに対するプロテクション(保証)を売買する。
CDS 取引は金利スワップと同様、相対取引で行われる。例として、ある A
銀行が X 社の社債の信用リスクに対するプロテクションを B 銀行に売却するとする。X
社債がデフォルトした場合には、A 銀行が B 銀行 CDS 取引で想定された元本相当額を支
払うと同時に B 銀行は A 銀行にデフォルトした同額面の現物を受け渡すこととなる。
CDS
2 者間(買い手と売り手)の間で結ばれた次のような契約である。買い手が企業 A(参照企業と
いう)への貸付債権や社債を持っている場合などを想定するとわかりやすい。
4
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·
買い手は売り手に定期的にプレミアム(保険料)を支払う。
·
売り手は参照企業 A がデフォルト(債務不履行)した際に、あらかじめ決められたルー
ルに従い、その買い手の損失を補償する。
企業 A に対して貸付債券などを持っている銀行が CDS を購入することにより、貸し倒れのリ
スクを分散することが可能となる。
·
具体的な例
A 社と B 社がリスクの高い社債 L を 1 兆円ずつ購入する。 社債 L を対象にした CDS を A
社と B 社が お互いに 100 億円で売買しあえば、リスクプレミアムは相殺されたまま社債 L の引
当金は BS から消える。
この場合 CDS が清算されても A 社 B 社間での金の移動は起こらないが、 社債 L が 900 億ま
で値下がりした場合、CDS で消したリスクが突如として 9100 億円の実際の損失として発生す
る。
·
具体的な例 2
倒産リスク 100%の社債Zを 100 万円分購入する。利回りは年 30%で 30 万円である。 社
債Zを対象にした CDS を 100 万円分購入する。 これによってZ社が倒産しても社債元
本は CDS で帰ってくるのでリスクは 0 である。 通常は社債の利回りが30万円で CDS
の保険料は50万円。両建てすると20万円の損のはずだが A社とB社が
社債Zを
100 万ずつ購入し、 A社はB社が保有する社債Zに対してCDSを引き受け、B社は
A社が保有する社債Zに対して CDS を引き受けると CDS 保険料の50万は相殺されて0
円になるので、Z社が倒産するまでは両社は利回り30%の社債 を引当金無しで保有
することができる。
CDS が開発される以前には、資産構成を分散したいと望む銀行は債権を細切
れにして売却するしかなかったが、それには債券の借り手の合意を得られねばならず、
面倒だった。それだけに、借り手の合意なしで事実上、債権を売り買い出来る CDS は
金融界で流行した。CDS 契約の文言は標準化され、残高は 2000 年には 1 兆ドル前後
まで膨れ上がっていた。
2000 年を過ぎると、今度はヘッジファンドが CDS 業界に参入してくる。債券
投資に特化したヘッジファンドは、事実上、無認可の保険会社として機能し始めた。
CDO などの証券を保証することで、保険手数料を稼いでいたのだ。だが、こうした保
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証の値打ちは怪しげであることがしばしばであった。最終的な貸し手も借り手も取引の
詳細を知らないままに契約が成立していったからである。それでも CDS 市場は爆発的
に成長し、名目資産ではあらゆる市場を上回るようになった。現在、CDS 契約の残高
は 42.6 兆ドルと推定されている。これはアメリカの家計の全資産の合計にほぼ等しい
金額である。米国債の市場規模 4.5 兆ドルはもちろん、アメリカの上場株式の時価総額
11 兆ドルさえも軽く凌駕する。今回のサブプライム問題の余波により、この市場に大
問題が起こることは必至だ。
証券化ブームは借入金のとんでもない膨張を引き起こした。通常の債券を保有
するには額面の 10%の自己資金が必要だが、CDSを使って組み立てられた合成債券
の場合、
自己資本は 1.5%まで引き下げられる。
債券間のリスクのちょっとした差でも、
自己資本に比べれば十分に大きく、売り買いすれば高収益を上げられることになり、そ
うして盛んになった売り買いが、債券のリスクプレミアムを引き下げた。
警鐘を鳴らす声が、全くなかったわけではない。
1994年
キダー・ピーボディー、550 億ドルの損失総額を出し破綻。
2000 年
FRB元理事、エドワード・グラムリッヒがサブプライムローン市場につい
ての警告。
2002 年
チャールズ・キンドル・バーガー アメリカの住宅バブルについて警鐘。
2006年
ニューヨーク大学 ヌリエル・ルビーニ教授が「住宅バブルが不況をもたら
す」と予測。
だが、今回のバブルがこれほど長続きし、これほど大きくなるとは誰一人とし
て予想できなかった。住宅価格が下がる方に賭けたヘッジファンドは多数あったものの、
どれも住宅市場の崩壊を見誤って大損を出してしまい、結局その賭けを放棄してしまっ
た。問題の兆候が見られるようになったのは 2007 年のことだった。
2 月 22 日
HSBC 銀行が米住宅ローン事業のトップを解雇。
108 ドルの損失。
3月 9日
住宅メーカーDRホートン社が、サブプライム住宅ローン損失についての警
告。
3 月 12 日
サブプライム住宅ローン最大手の一つ、ニュー・センチュリー・ファイナ
ンシャル社が、倒産の噂で上場停止。
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3 月 13 日
住宅ローンの返済の遅れと、住宅の抵当の流れが、新記録を樹立。
3 月 16 日
アクレディッド・ホーム・レンダーズ・ホールディング社が額面 27 億ドル
のサブプライム債券を、大幅に割り引いて売りに出した。
4月2日
ニュー・センチュリー・ファイナンシャル社は、不良債権を何十億ドル分も
買い戻させられ、倒産申請。
欧米金融機関の巨額損失が、どこまで膨張するか、まるで見通しが立たない
のは、保有資産の価格下落が、底なしだからである。例えば、リーマンが持ってい
た問題資産の評価は、破綻直前の第3四半期に、第2四半期のそれと比べて、大幅
に下げられた(下図参照)。
リーマンの問題資産(額面100)
第2四半期
第3四半期
Alt-A(プライムとサブプライムの中間的信用度ローン)
63
39
サブプライム
55
34
ABSCDO(債務担保証券)
35
29
サブプライムは3分の1まで目減りしているが、一般的な見通しを大幅に上回
るデフォルト率や損失率を織り込んだ水準で、かなり保守的な評価だ。金融機関が評価
水準を明らかにするのは珍しいが、このリーマン評価による下落度を他の欧米主要機関
の6月末の保有残高に当てはめ、損失の予想発生額を算出したのが下表である。
ABSCDO 、 サ ブ プ ラ イ ム 、 Alt-A か ら 見 た 欧 米 金 融 機 関 損 失 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン と 問 題 資 産 残 高
(単位:億ドル)
社名
自己資本
SBCD・サブプラ
予想損失額
イム・Alt-A
予想損失額対自
LBO ・ 商業用
己資本
不動産関連・そ
の他問題資産
メリルリンチ
348
60
17
5.0
815
モルガン・スタンレ
357
0
―
142
455
54
―
227
1,366
388
110
8.0
749
JP モルガン・チェー 1,331
298
114
8.5
1790
ー
ゴールドマン・サッ
クス
シティグループ
ス
7
サブプライム問題
社名
豊商事株式会社
自己資本
SBCD・サブプラ
予想損失額
イム・Alt-A
予想損失額対自
LBO ・ 商業用
己資本
不動産関連・そ
の他問題資産
バンク・オブ・アメ 1,627
67
11
0.7
160
リカ
UBS
532
131
44
6.6
322
ドイツ銀行
503
12
2
0.4
610
クレディスイス
375
19
7
1.9
297
シティグループや UBS といった、苦境が囁かれる金融機関の自己資本に対する予想損
失額比率は6~8%台だった。LBO、商業用不動産担保ローン、その他の問題資産は
シミュレーションの対象とはしていないが、今後損失を計上、拡大するのは間違いない。
これらの指数は共に下落し続けているからだ。シティは、これらの問題資産の保有比率
が高く、今後、その 1 割が毀損されることになったとして、70 億ドル近い損失を更に
計上することになる。メリルの問題資産は 800 億ドル超で、自己資本の 2 倍を優に超
える。救済合併を求めるはずである。
住宅ローンで最も信用度が高いプライムローンでさえ、延滞率上昇に悩まされ始
めている。JP モルガンの試算では、来年中には焦げ付きが第 2 四半期の三倍になると
予想している。ホームエクイティローンも今後、更に焦げ付きが増加して行く。ノンリ
コースでの融資をしている州が半分ある。ノンリコースは対象資産(自宅)以外の資産
(現金など)による返済を求めないから、借り手は容易に返済放棄してしまい、焦げ付
き増加に拍車がかかる。
一部の金融機関ではオークションレート証券(ARS)の買戻しを迫られている。
これは、一定期間ごとに金利を見直す債券で、主に地方自治体が発行している。今年に
入って信用収縮に窮し始めた投資家が ARS の入札を敬遠し始めた。入札が成立しない
と入札前の投資家は換金できなくなり、発行体は予め設定された最高金利を払わなけれ
ばならなくなる。こうしたリスクの説明が不十分ということで、主要金融機関は買戻し
をする羽目となった。その金額はメリルで 120 億ドル、ワコビアで 85 億ドル、UBS
で 83 億ドル、シティで 73 億ドルに上る。買い取った後も当然こういった投資家に敬
遠された証券が額面で売れるはずがない。
モノラインに保証を受けているポジションについても、損失発生の可能性が残る。
MBIA、アムバックの格下げ後には保証を受けている証券化商品の評価も下げざるを得
ない。
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欧州への影響―米国 514 に対して欧州 752
米国発の金融危機は、既に欧州を飲み込んだ。米格付け大手のスタンダード&
プアーズによると、9 月 25 日に破綻したワシントン・ミューチュアルの債務を保証す
るCDSを組み込んだ CDO は全世界に 1526 本ばら撒かれた。
そのうち 514 本を米国、
752 本を欧州の金融機関などが保有している。ちなみに日本は 122 本、その他アジアが
138 本。欧州は金融機関の連鎖破綻が相次ぐ米国をはるかに上回る爆弾を抱えている。
ワシントン・ミューチュアルのものだけではない。欧州金融機関のバランスシートの資
産サイドには、いまだにサブプライム関連を含む債券関連商品が、詰まっている。売却
しようにも、市場自体が消えてしまったのも同然だ。 欧州のインターバンク市場では
銀行同士の疑心暗鬼が強まっている。ワシントン・ミューチュアル以降、利息が低いに
もかかわらず、ECB(欧州中央銀行)への預金残高が増え続ける一方で、市場で調達
できない銀行が駆け込み、貸し出しも急増している。
仏・ベルギーのデクシア、英 HBOS などの CDS は一時 500 億ドル前後まで跳
ね上がった。市場機能の不全を受け、仏・ベルギー政府はデクシアへの資本注入を、オ
ランダ・ベルギー政府はフォルティスの国有化を決めるなど、国家主導の銀行支援策が
相次いだ。10 月 8 日には英政府が 500 億ポンド(約 9 兆円)の資本注入を決めた。年
内に RBS、バークレイズ、HBOS の買収手続きを進めているロイズ TSB など八行の優
先株を 250 ポンドで買い取る。加えて、要請があれば 250 億ポンドの追加支援策を用
意するというものだ。そして、遂に米国、欧州、新興諸国十カ国の中央銀行による追加
利下げが実施された。
欧州主要金融機関の CDS(2008 年 6 月末時点)
社名
CDS
社名
CDS(bpt.
)
(bpt.)
RBS
285.8 フォルティス
273.3
ドイツ銀行
174.6 HBOS
284.2
72.7 HSBC
101.7
BNPパリバ
バークレイズ
247.5 コメルツ・バンク
130
UBS
278.8 ロイズTSB
150
105 ナティクス
335
ソシエテ・ジェネラル
ING
159.2 BBVA
99
バンコ・サンタンデール
105.8 デクシア
380
クレディ・スイス
105.5 スタンダード・チャータード
63.7
9
サブプライム問題
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サブプライム問題をめぐる主な動き
アメリカンホームモーゲージ社の倒産や、仏金融大手 BNP パリバの参加ファ
ンド凍結に始まった、サブプライム問題。「早期収拾」という市場関係者の予想とは裏
腹に金融資本市場はほぼ、2~3ヶ月ごとに大揺れに見舞われている。一つ対策を打ち
出してもすぐに別の問題が噴出する「もぐらたたき」の様相を呈し、一年余りを経て、
ついに米国を代表する金融機関が破綻する事態へと発展した。性質上、米国一国だけの
問題ではないために、信用不安を煽る出来事が起こるたびに、為替も株も見境なく反転
する方向に動き出し、その変動幅は今までにないほど広い為、理論や過去のデータに因
る説明の範囲を大きく超える。
以下は、サブプライム問題をめぐる主な動き
①証券化商品ショック
07年7月31日 ベア・スタンズ傘下のファンドが破綻
8月
9日
17日
9月14日
BNP パリバが傘下のファンド凍結を発表
FRB 公定歩合を0.5%緊急引き下げ
英中銀 ノーザンロックへの救済融資を発表
②金融機関の巨額損失が表面化
10月
米シティグループ、メリルリンチなどが相次ぎサブプライム関連損
失を発表
11月26日
シティがアブダビ投資庁からの出資受け入れ発表
12月12日
米欧5中銀が資金供給声明
③モノライン危機
08年1月18日 フィッチレーティングス、金融保障会社のアムバックを格下げ
④ベアー破綻
3月16日
米 JP モルガンがベア・スタンズの救済買収を決定
6月
リーマンブラザーズが3-5月期決算で上場来初の赤字。60億ド
9日
ルを緊急増資。
25日
FRB が利下げ休止
10
サブプライム問題
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⑤住宅公社不安
7月11日
米住宅公社2社の経営危機が表面化、株価急落
米地銀、インディマックが破綻
13日
米財務省と FRB が住宅公社への緊急支援策を発表
25日
米2地銀が破綻
30日
米住宅公社支援法が成立
8月
6日
フレディマックが4-6月期決算で8億2100万ドルの最終赤
字を計上
8日
22日
9月
7日
ファニーメイが4-6月期決算で23億ドルの最終赤字を計上
通信社が「韓国産業銀行がリーマン出資を検討」と報道
米政府、住宅公社を管理下に置くと発表、合計2000億ドルの優
先株購入枠を設定
⑥リーマン危機
9日
リーマンと韓国産業銀行との交渉が決裂したと報じられ、株価急落
10日
リーマンが6-8月期決算で最終赤字が39億ドルに達するとの
見通しを発表、経営改善策を示したが株価は続落
11日
リーマン、米政府の仲介で身売り先を模索しているとの報道相次ぐ
12日
リーマンの株価が年初来高値から9割超安の水準に
リーマン問題で米財務長官、
NY 連銀、
金融業界トップが緊急会合、
週末も続行
14日
英バークレイズによるリーマン救済買収交渉が決裂
15日
リーマンが連邦破産法第11条の適用を申請
バンク・オブ・アメリカがメリルリンチ買収で合意と発表
18日
英銀ロイズTSBが英銀HBOSを救済合併
21日
米証券ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが銀行持ち
株会社に移行
22日
三菱UFJフィナンシャルグループがモルガン・スタンレーに出資
23日
ゴールドマン・サックスが巨額増資
25日
米S&L最大手ワシントン・ミューチュアルが破綻
⑦米下院‐金融安定化法案否決
29日
米下院が金融安定化法案否決
ダウ平均が過去最大となる777ドル下落
英住宅金融ブラッドフォード・アンド・ビングレーを一部国有化
アイスランド銀行グリトニルを国有化
11
サブプライム問題
10月
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1日
米上院、金融安定化法案可決
3日
倍金融安定化法案成立
6日
ダウ平均が1万ドル割れ
7日
日経平均が一時1万円割れ
FRBがCP購入
8日
世界10中銀が同時利下げ
日経平均が952円安
ポールソン米財務長官が資本注入示唆
9日
シティグループ、ワコビア買収を断念
⑧G7
10日
G7が公的資金注入で協調
13日
英、大手三行に資本注入発表
14日
米25兆円資本注入発表
必要公的資金は約 150 兆円
金融危機対策として、
「公的資金」そして「投資銀行救済」という二本立ての政策を揃え、
米国は何とか深刻な危機を乗り切る手立てを打ったようにも見える。だが、この公的資金投
入が不良債権購入のみに使われるのであれば、その効果は限定的であろう。日本の不良債権
問題処理においても、整理回収機構という公的機関が銀行から不良債券を買い入れるという
仕組みを作ったが、実際に金融システムを再建したのは銀行への大量の資金注入であった。
日米で異なるのは、日本が商業銀行の問題であったのに対し、米国はシャドーバンキング(影
の銀行部門)と呼ばれる規制対象外の金融問題であったことだ。米国金融を大雑把に捉えれ
ば商業銀行部門の資産は総計約 13 兆ドルであり、シャドー部門では約 10 兆ドルと推定され
ている。後者に含まれるのは SIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル)と呼
ばれる簿外での CDO(資産担保証券の一種)投資や、GSE(政府支援機関)
、投資銀行、ヘ
ッジファンド及びプライベート・エクイティ・ファンドなどがレバレッジを通じて保有する
金融資産である。このシャドー部門において、どの程度評価損失があるのかがこれまでの焦
点であり、金融機関はその処理を進めると同時に増資を行い、何とか穴埋めをしてきた。だ
が、民間努力には限界があった。今回の公的資金はこのシャドー部門を中心に保有されてき
た住宅ローンないしその関連証券化商品の買い取りに充当されるという。ただ、不良資産は
シャドー部門だけに存在するものではない。当然、商業銀行にも存在する。住宅ローン関連
商品だけでなく、商業用不動産に絡んだ融資やカードローンなど個人融資、企業融資、つま
り、景気後退期に現れる「通常の不良債権」である。今回の景気低迷は大不況クラスであり、
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サブプライム問題
豊商事株式会社
かつ、長期化する可能性が高い。その厳しい環境下で、住宅ローン以外の不良債権もかなり
の規模へ急増する。住宅関連の不良資産だけを除去すれば銀行機能が復活すると考えるのは
早計だ。
現時点で必要となる公的資金は 1 兆 4160 億ドルで、その内訳は下表の通りだ。さらに、
シャドー部門のもう一つの主役であるヘッジファンドも解約殺到で破綻増が予想されるが、
政府救済の対象とはならないため、CDS ポジションでの損失を被る金融機関が増えるかもし
れない。米政府は市場予測を大きく上回る公的資金を投じる必要に見舞われる可能性がある。
当面は財政赤字によって賄うしかない。
不良債権買取
2660 億ドル
資本投入
3110 億ドル
ベア・スタンズ救済
290 億ドル
AIG 救済
850 億ドル
GSE(政府援助法人)救済
250 億ドル
7000 億ドル
不良資産買取
1 兆 4160 億ドル
合計
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