ハンズオン素材活動展開モデル

ハンズオン素材活動展開モデル
なぜなぜ実験教室実験案
日 時:
場 所:
対 象:
2008 年 2 月 12 日
PTI チッタゴン 実験校
小学 4 年生
児童数 45 名(男 28 女 17)
授業者: 藤井 孝之 (理数科教師)
1.実験名
空気の不思議 (ハンズオン素材の実践「ペットボトルシャワー」より)
2.バングラデシュの理科について
バングラデシュにおける理科教育は暗記教科であり、教科書を読み進める授業が中心です。そ
のため教科書に実験内容は書かれているものの、授業で実験が行なわれることはほとんどありま
せん。それは実験器具がないこと、準備に時間を取られることを嫌うため、そして先生自体が実験
を見たことがなく方法がわからないという理由があげられます。教科書も子どもの興味や疑問を引
き出すような構成ではなく、事実が羅列されてあるものだといえます。そのような状況の中、実験
授業を取り入れ理科教育の質を上げる目的で、本校には協力隊員が派遣されています。
バングラデシュの教科としての理科は、小学3年生から始まります。1,2年生では、日本の生活
科のように‘自然に親しむ教科’ということで、理科・社会を1つの教科として学習します。週1回の
授業があり、教科書は使わずに行なわれています。3年生からは教科書を使って、理科は週3回
学習します。
3.PTI について
私の配属先である PTI(初等教育訓練機関:Primary teachers Training Institute)は政府管轄
で全国に54校あります。本校では採用1年程度の小学校教諭を対象に、1年間のトレーニングを
行なっています。今回授業を行なう実験校はその附属小学校に当たり、新しく取り入れる指導法
を実践したり、トレーニング中の教育実習を行なったりするところです。
PTI の実験校は、市内の一般小学校と違い入学試験が行なわれています。競争率は本年で
1.5 倍程度でした。そのため児童の学力は一般校よりも高くなっています。ただチッタゴン県のよう
な都市部などでは、学力の比較的高めの児童は私立の小学校に通うため、一般の小学校と差は
あるものの大きく変わるということはありません。また学力の高い児童の何人かは、入学後に他校
の編入試験を受けて転校しています。教育課程や行事などは、市内の小学校と特に変わりませ
ん。
4.本実験について
私の協力隊活動は、バングラデシュでは馴染みのない理科実験を行なうことです。子どもたちの
手と頭を使って実験させることで、科学に親しみを持たせられたらと考えています。さらに実験を通
して自然現象に興味を持たせ、なぜそうなるのかと子どもたちが自ら疑問を持てるようにしたいとも
考えています。
その流れの中で、今回ハンズオン素材(ペットボトルシャワー)を利用することになりました。この
教材を選択した理由は、材料がこの国でも容易に手に入り、作成も簡単で教師の大きな負担にな
らないからです。そのため、準備を面倒に感じる先生が多いバングラデシュでも、本教材が普及す
る可能性を考え、選択しました。本教材は操作が簡単な上、安全で、子どもにとって親しみやすい
と思います。また本教材の使用で目に見えない空気の存在が分かり、その性質を伝えることができ
ると考えます。ここでの実験が、今後大気について学ぶ時の足がかりになればと思います。そして
今回の授業では、ナミビアだけでなくバングラデシュでも、本教材の有用性を確かめたいと考えて
います。
今後は協力隊の活動内容の1つとして、定期的に今回のような実験教室を開き、子どもたちお
よびトレーニング中の訓練生に理科の楽しさを伝えていこうと考えています。
5.児童の実態について
バングラデシュでは、諸事情からすべての子どもが学校に行けるとは限りません。貧しさが原因
で、入学すらしない子どももいます。当校児童の家庭状況は、概ね開発途上国の中流階級といっ
た感じです。そのため通学用の制服・文具が買えないということは考えにくく、経済的理由で不登
校になる児童は、ごく稀だと思います。卒業後は高等学校(日本の中学・高校に相当)に進学し、
仕事を得るための学習意欲も高めだと感じています。当チッタゴン PTI 実験校の児童は、他の PTI
に比べ男子児童数が多いこと、元気がありすぎて、注意してもすぐ授業中に騒ぐ子が多い特徴が
あります。
バングラデシュでは1月より新学年が始まります。当校は、各学年1クラス編成です。また日本
と違い、バングラデシュでは1月に編入試験が行なわれます。そのため4年生においても数名です
が児童の入れ替わりがありました。児童の中にはまだ顔を合わせて1週間で、外国から来た先生
に対して戸惑っている子がいます。人数が多い学年だからにぎやかで、おとなしくさせるのに相当
苦労しているクラスです。けれども子どもたちの反応は良く、教えていて楽しい学年です。授業以
外にも、お昼休みに一緒に遊ぶ子どもが多く、良好な関係が築けている学年です。
(4年生の既習事項)
〇空気について
・空気の存在(風を感じる、木の葉が揺れる、帆船が動くなどから空気が存在する。)
・空気の成分(窒素、酸素、二酸化酸素などから構成されている。)
・空気の必要性(窒素:食物の保存、酸素:酸素マスク、二酸化炭素:炭酸ジュース)
・空気の圧力(大気圧、自転車のタイヤの中)
・実験(酸素が燃えると体積が減る実験:教科書の記載に間違いあり)
・大気汚染・環境について(ゴミなどで大都市及びそこの空気は汚れて、感染症が発生する。)
去年、子どもたちは上記について学びました。そのため、空気の膨張・収縮に関することは新し
いテーマになります(小学校の学習課程外)。
6.指導構成
ハンズオン素材(ペットボトルシャワー)を使って、空気の持つ性質を、実験を取り入れながら紹介
します。本来この教材はナミビアの高校2年生向けであり、小学生にはそのまま使うことが困難で
す。そのため2時限扱いで、1時限目に空気の性質を子どもたちに教えておき、1週間後の本時
(2時限目)においてペットボトルシャワーを使った実験を行います。また本時の中でハンズオン素
材を用いて全員に実験させる中で、この国の小学校では一般的ではないグループワークを体験さ
せます。
1時限目についての授業計画
〇空気について知っていることを思い出そ ◇ビニール袋を使って、空気を捕まえる。
う。
・目で見えない。
◇重さがあることは、5年生で習うので触れ
・色がない。
・窒素・酸素・二酸化炭素・ヘリウム・アルゴ
ンが入ってる。
注射器の口を消しゴムで止めて、シリン
ダーを押したり引いたりしたら、中の水や
空気はどうなるかな?
ない。
◇注射器を扱う上での注意を確認する。
〇水を入れ押してみる。
・硬くて押せないよ。
・びくともしないよ。
・力を入れても変わらないよ。
◇子どもを何人か指名し、前で実験させる。
◇水をこぼさないようにする。
〇空気を入れ押してみる。
・水と違って押せたよ。
・硬くて押すに力がいるよ
・下まで押せないよ
〇引いてみる。
・引くこともできたよ。
・たくさん引けたよ。
・力がたくさんいるよ。
◇子どもに注射器と消しゴムを配る。
◇空気が漏れないように、指導する。
〇今日の実験をまとめる。
・空気には膨らんだり縮んだりしても、元に戻
る性質があるんだ!
7.本時について
過程
展開
(30分)
実験の流れ・子どもの動き
授業者の動きなど
〇クギで底に穴を開けて、ペットボトルシャワー
で実験を開始。
◇今日はペットボトルで楽しい実験をす
【準備物】 ペットボトル、クギ、大きめのバケツ、
ることを伝え、子どもの興味を引く。
水、タオル
〇水で満たしたペットボトルを水中から出す時、
どうなるか予想する。
・水がこぼれる。 ・穴から水が漏れる。
・水はこぼれない。
◇水をこぼさない、水の掛け合いをし
〇各グループに分かれて自由に実験をし、空
ない、実験が終わった子どもがうるさ
気と水の関係を探る。
くならないように注意する。
◇1グループに1つ、ペットボトルシャワ
ーを配布する。
◇同じ子どもが、実験器具を独占しな
〇子どもが、気付いた結果を発表する。
いように見守る。
・ペットボトルを振ると水が出た。
・フタを開け閉めすると、水が流れたり停まったり
した。
◇何人かの子どもを前に呼び、ペット
ボトルで実験をさせる。
なぜフタを開けると水が流れ、閉めると止ま
ったのだろうか考えよう?
◇子どもたちがイメージしやすいよう
に、あらかじめ用意した教材を掲示
〇フタを開けると水が流れたね、なぜだろう?
する。
・水に重さがあるからだよ。 ・外から空気が入っ
てきたからだよ。 ・水は自然に流れるよ。
〇フタを閉めると水が止まったね、どうして?
・穴が小さいからだよ ・下から空気が押してい
るからだよ ・空気が水を押せなくなったから
◇なぜかを考えさせながら、もう一度
だよ
グループで実験をさせる。
〇なぜフタをすると水が止まったか、理由を考
◇答えが出ない場合、前回の注射器
えさせる。
の実験を思い出させる。
◇注射器と教材を使って、答えに導い
終結
(10分)
ていく。
〇空気には膨らんだり縮んだりしても、元に戻る ◇内容上・言葉上でも説明が難しいの
性質があることを、この前の実験でやったね。
で、用意した教材を使って子どもの
→空気には広がりたくないんだよ。
表情や理解できたかを確認しなが
→そのため、空気が水を引っ張ったんだよ。
ら、進める。
→だから、水は穴から落ちないんだよ
〇なぜ水が落ちなかったか理由を確認する。
・空気が水を引っ張ったから、水が流れなかっ
たのか!
教室が狭いため児童の出席状況によって、当日は立ってご覧いただくことになります。
隊員の皆さんには、実験中に教室のレイアウトのように子どもに付き、子どもが水をかけないように注
意や各グループの実験進行の補助をご協力お願いいたします。
8.授業で使用予定のベンガル語
চাপ
ঢালা
(上から下へ)押す
(水を)注ぐ
পিরবিতর্ ত হoয়া
ছাড়া
টানা
引く
ছুঁ েড় েদoয়া িনেষধ
変化する
আয়াতন
িফেল আসা
戻る
(水を)かけることは禁止
体積、面積
放す
9.授業者の評価(授業後)
本ハンズオン素材ペットボトルシャワーは、ナミビアの高校2年生向けの教材であり、それを小学
生に対して使うことに抵抗がありました。当初はイベント的に終わらせて、子どもたちに楽しさだけを
伝えようと考えていました。しかし子どもたちの貴重な授業時間を使うので、ある程度の説明は与
えなければと考えを変えました。
本時では、終結の部分でペットボトルシャワーの難しい原理を子どもたちが理解してくれるかどう
か非常に不安でした。ですが、ほとんどの子がきちんと理解をしてくれました。本時の前に注射器
のシリンダーを使って、(同気圧・同温度で)空気の体積変化が起こらないことを教えておいたこと
が、役に立ったと感じました。また授業者が作った注射器の教材も、子どもたちが視覚的にイメー
ジするのを容易にできたと思います。
子どもに‘なぜ’と疑問を持たせたかったので、本時では導入部分で前回の注射器の実験に触
れず、あえて展開から始めました。授業の始めに注射器の話を持ち出すと、それを使うということ
が分かってしまうからです。ですが、子どもたちは前にやったことを自分たちで思い出し、答えを出
してくれました。
高校生が対象であれば問題はなかったのでしょうが、小学生が相手だとペットボトルシャワーの
教材のための教材が必要でした。ハンズオン素材をそのまま使うことはできませんでした。小学生
が分かるように、どんな説明が適しているかを考えることがとても難しかったです。
授業内容については、子どもたちは授業中ほんとうに楽しそうでした。教材を使って、なぜなの
か自分で考えながら実験することの面白さが分かったと思います。またグループワークという初め
ての試みでもケンカすることなく、協力して実験できていました。授業が終わった後の、感謝の言
葉と子どもたちの笑顔は今でも忘れることができません。