渡良瀬川が流れる織物の街 / 桐生市

北
新
潟
県
上越新幹線↓
福 島 県
401
←上越線
吾妻線
↓
←関越
自動車道
渋川
上信越自動車道→
安中榛名
横川
18
254
桐生
50
←両毛線
高崎JCT
高崎
群馬藤岡
伊勢崎
藤岡JCT
↑
軽井沢
長野新幹線→
122
高崎線
野
↑八高線
462
県
埼
東北自動車道↓
406
県
146
前橋
長
美しい山々に囲まれ、
渡良瀬川が流れる織物の街
沼田
145
木
144 大前
栃
120
353
292
桐生市
群 馬 県
17
上毛高原
北関東
自動車道
玉
県
桐生市(群馬県)
水資源機構の施設がある市町村の観光名所など
の紹介をシリーズでお届けしています。
今回は草木ダムのある群馬県みどり市に隣接す
る、桐生市を取材しました。
織物産業をはじめとして、機械金属産業を基幹産業とした
「伝統と創造 粋なまち桐生」を将来都市像に、住みよい都市
づくりに努めています。
桐生市のプロフィール
群馬県の東南部に位置する桐生市は、大正 10 年に、全国
◆桐生織物のルーツ
84 番目の市として誕生しました。
白滝神社∼白滝姫伝説 桐生市川内町
以後、幾多の市域の変遷を経て、平成 17 年 6 月 13 日の平
今から 1200 年ほど前の桓武天皇のころに、舎人※の若者が
成の大合併で、勢 多郡新 里村と同郡黒 保根村と合併し、人口
上野国山田郡(現在の桐生市川内町)から朝廷に宮仕えに出
2
約 12 万人(平成 23 年 10 月 1 日現在)
、面積 274.57km の県
ました。その時、宮中で出会った官女白滝姫に恋した若者は、
で 5 番目の都市、新桐生市として生まれ変わりました。本年度
和歌に託して思いを切々と歌い、その見事な和歌は天皇から
は市制施行 90 周年と水道創設 80 周年を迎え、新たな一歩を
も認められるほどでした。身分の差を越えて結ばれた二人は、
歩みだしています。
若者のふるさとに戻り、白滝姫は養蚕と機織を村の人々に伝え
桐生市は、赤城山を西に望み、市街地には渡良瀬川と桐生
ました。こうして絹織物は盛んになり、桐生織物が始まったと
川が流れ、山々が屏風状に連なり、水と緑に恵まれた歴史と伝
言われています。
統が息づくまちです。
白滝姫が亡くなった後、若者は大そう悲しんでその亡がらを
北
奈良時代のはじめには、絹織物を朝廷に献上したという記
録が残るなど、古くから織物産業が盛んで、「西の西陣 東の
桐生」
と呼ばれるほど、織物の一大産地でもありました。今で
も、一歩裏道に入ると、ガシャンガシャンという織機の音がど
114
こからか聞こえてくるような雰囲気に包まれたまちです。
長年にわたり培った技術を生かした織物産業は、今、新た
な舞台に羽ばたいています。ニューヨーク MOMA のミュージ
白滝神社
ご神体石
アムショップで人気のストライプのマフラーは桐生市で作られ
たものです。
20
●
水とともに 水がささえる豊かな社会
※舎人:皇族や貴族に仕え、警備や雑用などに従事していた者
美しい山々に囲まれ、渡良瀬川が流れる織物の街 桐生市(群馬県)
凡例
高速・有料道路
62
国道
川
原向
私鉄
川
県境
わた
ら
根
県道
利
市町村境
JR
せ渓
谷鐵
沼 田 市
道
み ど り 市
沢入
黒坂
石川
122
343
桐 生 市
▲ 赤城山
富弘美術館
268
257
草木ダム
利平茶屋
小水力発電所
神戸
小中
70
中野
花輪
渡
345
川
瀬
良
337
くろほね・
やまびこ
水沼駅
温泉センター
335
本宿
336
334
257
353
上神梅
338
333
市
336
膳
粕川
上
毛
桐生が岡
遊園地・動物園
大間々
342
電
3
新川
新里
桐生
球場前
鉄
352
桐生天満宮
運動公園
赤城
天王宿
340
富士山下
丸山下
西桐生
78
有鄰館
栃
下新田
344
桐生市役所
218
227
新桐生
岩宿
木
県
67
291
73
ベーカリーカフェレンガ
桐生
相老
カリビアン
ビーチ
川
群馬県立
ぐんま昆虫の森
東新川
新屋
66
桐
白滝神社
343
生
前 橋
102
北原
高 沢 川
桐 生 市市市
水沼
284
76
阿左美
114
219
69
50
小俣
293
東
桐
294
国定
生
伊勢崎IC
両
武
伊 勢 崎 市
線
藪塚
315
波志江PA
スマートIC
299
462
17
太
線
316
太田藪塚IC
山前
北 関 東 自 動 車 道
68
毛
田
市
332
256
治良門橋
太田桐生IC
1km
わが町紹介/桐生市(群馬県)
●
21
神社の大石の下に埋め、機織神として祀ったそうです。今でも
たくさんの近代化遺産が残っています。平成 4 年には「近代化
大石に耳をあてると、姫の機織の音が聞こえるという言い伝え
遺産拠点都市宣言」をし、近代化遺産を蘇らせ、保存、活用す
が残っています。大石はご神体石として、現在も白滝神社に白
ることに力を注いでいます。
滝姫伝説と共に祀られています。
本町 1、2 丁目には、蔵の店舗や建物があちこちに見られま
す。特に有鄰館には、明治時代以降に作られた味噌蔵や醤油
◆どこかなつかしい不思議空間
∼旧桐生市街地∼
ノコギリ屋根工場や蔵造りの歴史
ある建物が出迎える織物の街
蔵などがあり、本来の使用目的を終えた今は、展示スペースや、
コンサート会場、演劇会場として利用され、その独特な雰囲気
が人気となっています。
ノコギリ屋根工場の日常的空間への再利用や伝統ある織物
産業を生かした多彩な
イベント等が高い評価
を受け、平成 22 年には
ノコギリ屋根の工場 桐生市本町
(社)日本観光振興協会
桐生織物産業の象徴であるノコギリ屋根は北向きに採光窓
『第 4 回 産 業 観 光 まち
を設けた三角の屋根が並んだ形状で、この形が織機の賑やか
づくり大賞』を受賞しま
な音を分散させています。また、この工場は増築しやすい構造
した。
となっています。織物を作る工程では、織布の細かいところま
でチェックをしなくてはならず、北向き窓からの自然光は、影
を作ることなく手元を見られ、色の確認もできるので、織物工
場にはうってつけの屋根構造だと言えます。
有鄰館のレンガ蔵。裏手には味噌蔵、醤油蔵
などが軒を並べています。
◆子どもたちを育む街
現在、桐生市内に残るノコギリ屋根の工場は、200 棟以上
桐生が岡遊園地と桐生が岡動物園 桐生市宮本町
もあり、構造も木造、レンガ造り、鉄筋コンクリート造り、また、
桐生市街地にある吾 妻山 のふもとには、市営の遊園地と、
大谷石造りのものがあります。今ではその機音を響かせている
県内唯一の公立の動物園があります。どちらとも自然の丘陵
ところも少なくなってしまいましたが、この機能的で個性的な
をうまく利用した施設で、隣接しているため 1 ヶ所で二度楽し
建物は、ベーカリーカフェや、美容室、ケーキ店、アーティスト
めるお得な施設です。親子でゆったりとした時間を過ごすこと
たちの工房として再生され、桐生の新しい食や文化の発信場
のできる市民のくつろぎの場所です。どちらとも入場料は無料
所として生まれ変わっています。
です。メリーゴーランドなど、利用代金が高いものでも、子供
ノコギリ屋根
は 1 回 100 円というリーズナブルな価格で、関東エリアからも
多くの方々が訪れる、桐生が誇る観光施設です。
ベーカリーカフェレンガ
桐生が岡遊園地
織物産業を支えた近代化遺産と町並み
桐生市の町並みは、桐生天満宮の前から伸びる本町通りを
群馬県立ぐんま昆虫の森 桐生市新里町
中心に伸びています。江戸時代には桐生新町と呼ばれていま
2005 年 8 月にオープンした「群馬県立ぐんま昆虫の森」は
した。
22
●
桐生が岡動物園
感動は人を育てる をコンセプトに、身近な自然の中で生き物
戦災に遭わなかった桐生市内には、今でも江戸時代から、
を見つけたり、観察するという体験を通して、感動したり、楽し
明治・大正・昭和初期にかけて建てられた建造物をはじめ、
みながら命の大切さを学べる施設です。
水とともに 水がささえる豊かな社会
美しい山々に囲まれ、渡良瀬川が流れる織物の街 桐生市(群馬県)
屋外の里山では昆虫を採集することも体
験できるヨ。観察したら放してあげてね !
大きなドーム型の施設
温泉のある駅∼水沼駅温泉センター
「昆 虫 観 察 館」で は、展
桐生から栃木県日光市足尾町まで延びる、わたらせ渓谷鐵
示、映像、書籍だけでな
道は、車窓からの風光明媚な風景と、レトロな車両やさわや
く、多彩な体験型プログ
かな空気を感じられるトロッコ列車で人気を集めています。沿
ラムも用意されています。全国でも珍しい、昆虫の生態を通し
線にある「水沼駅」は、駅構内に温泉があり、直接駅のホーム
て自然とのふれあいを学習することのできる場所です。
から温泉に行くことができ、とても便利です。温泉からは、渡
屋外には 45 ヘクタールという広い里山が造られており、草
良瀬川越しに緑あふれる山々を望むことができます。地元の人
原や田んぼ、雑木林、池や小川といった懐かしい風景が広がっ
だけでなく、遠方からも
ています。
たくさんの方々が訪れま
群馬県立ぐんま昆虫の森
す。また、水沼駅から足
カリビアンビーチ 桐生市新里町
尾方面へ 4 つ先の神 戸
海のない群馬県です
駅は草木ダムへの玄関
が、そんな群馬県桐生
口となっています。
水沼駅温泉センター
市 にもこんな すてきな
名前の温水プールがあ
ります。正式名称は「桐
カリビアンビーチ
生市新里温水プール」
で
すが、市民からは「カリビアンビーチ」
と呼ばれ親しまれてい
◆桐生見どころ、味どころ
ます。カリブのリゾートをイメージした施設は、関東最大級の
桐生の夏の熱い 3 日間 !! 桐生八木節まつり
全天候型室内温水プールとなっています。旧桐生市とその周り
毎年 8 月の第 1 金・土・日曜日には、桐生八木節祭りが開
の 6 カ町村が、清掃センター(桐生市清掃センター)を新設す
催されます。桐生市で一番大きなお祭りです。ルーツは明暦 2
るにあたり、その余熱を利用する施設として「カリビアンビー
年(1656)の古い祭礼記録にある桐生祇園祭が起源と言われ
チ」が建てられました。平成 10 年にオープンした「カリビアン
ています。長い年月の間に変遷を繰り返しながら、昭和 63 年
ビーチ」は、環境保全と地域の活性化も担う施設であり、一年
には八木節の競演大会が行われ、その名を『桐生八木節まつ
中常夏気分が楽しめる、市民の身近な「海」なのです。
り』
として、現在に至っています。メインは八木節おどりで、た
くさんの人がやぐらの周りで円を描いて踊ります。
◆豊かな自然に恵まれた水源地
この夏の 3 日間は、こどもみこしまつり、ダンス八木節、まゆ
玉ころがし大会、全日本八木節競演大会、ジャンボパレードな
ど、多彩な行事が行われ、お祭り気分を最高潮に盛り上げます。
利平茶屋小水力発電所 桐生市黒保根町
を引き、
また、江戸、明治、昭和に作られた華麗な祇園屋台(鉾)
赤城山の麓にある黒保根町は、赤城山に降った雨がおいし
二台の鉾をすれ違わせる、曳き違いも迫力あるイベントで、大
い水として湧き出す場所にあります。
人気となっています。
平成 8 年には全国に先駆けて「水源村宣言」
(合併する前は
旧勢多郡黒保根村)を行い、このきれいな水を守っていくこと
を宣言しました。
水源地の豊かな水を利用して、「利平茶屋森林公園」では、
小水力発電所を設けています。園内を流れる鳥居川の上流の
治山堰 堤から取水し、下流
の広場にある水力発電機で
八木節おどり
神輿渡御
電気を作ります。ここで作ら
れた電気は、森林公園内の
天満宮古民具骨董市と買場紗綾市 桐生市本町
キャンプ場などで使用され、
○天満宮古民具骨董市
余った電気は売電されます。
県の重要文化財に指定されている桐生天満宮の境内では、
利平茶屋小水力発電所
わが町紹介/桐生市(群馬県)
●
23
平成 5 年 10 月から、古
きうどんや、カレーうどんにすると、身体が芯から温まります。
民具骨董市が開かれて
最近は、うどんの幅がとても広いものも出ています。身体だけ
います。毎月第 1 土曜日
でなく、心も温かくしてくれる桐生のうどんをご賞味ください。
の日の出から日没までと
天満宮古民具骨董市
いうユニークな時間設
食べたい! カラッと揚がった
『ソースカツ丼』
定で開催されています。今では東京東郷神社や川越骨董市と
ソースカツ丼は日本各地でルーツ
肩を並べ、関東三大骨董市と呼ばれています。毎回、見ている
説が出ていますが、桐生でも昔から
だけでもおもしろい品物がたくさん並び、境内は幅広い年代
食べられています。特徴はカラッと
の人々で賑わいます。
揚がった薄い衣の一口サイズのカツ
が、さらっとしたソースをまとってご
○買場紗綾市
約 180 年前の江戸時代、桐生新町の成立期に始まった「紗
ソースカツ丼
綾織」
という織物がたくさん作られるようになったのを機に、
スとご飯の絶妙なバランスが、後を引くおいしさです。
飯の上にのっています。カツとソー
天満宮境内で行われた絹市は『紗綾市』
と呼ばれるようになり
ました。その後、明治 16 年に今の場所に市が移り、昭和初期
桐生市のマスコットキャラクター「キノピー」
ころまでとても賑わいましたが、町の発展が南に伸びるに従っ
市制施行 90 周年を記念して、新しく誕生
て、市は自然消滅したと言われています。
した桐生市のマスコットキャラクター「キノ
そこで平成 8 年 3 月に、この地域の近代化遺産活用や伝統
ピー」です。桐生市の近代化遺産のシンボ
的建築物群の指定を目指し、町おこしの願いを込めて復活し
ルであるノコギリ屋根をモチーフに、市章
たのが『買場紗綾市』です。毎月第 1 土曜日の開催で、繊維製
や豊かな自然を盛り込んだ、親しみやすく、
品や生活雑貨などが並び、市内外からのたくさんの人で賑わ
かわいらしいキャラクターです。三つの屋根は、合併した桐生
います。
市、黒保根村、新里村を表しています。元気な桐生市の顔とし
天満宮の古民具骨董
て活躍しています。
市と買場紗綾市を両方
楽しめる毎月第 1 土曜
草木ダムの紹介
日は、桐 生を訪 ねるに
桐生市に隣接するみどり市東町の、緑あふれる渡良瀬渓谷
は、お勧めの日です。
に草木ダムがあります。近隣には、不動滝や富 弘美術館など
買場紗綾市
の見どころがあり、特に紅葉シーズンにはたくさんの方々が訪
れます。
おいしい! ひもかわうどん
草木ダムは、利根川・渡良瀬川の洪水被害を軽減し、首都
群馬県東部はおいしい小麦の
圏に水道、工業用水、農業用水を供給しています。
昨年の夏は、
産地で、桐生は麺どころとして有
※
渇水、洪水と続きましたが、取水制限や防災操作(洪水調節)
名です。
により、流域の皆様に安全に過ごしていただくことができまし
これからの寒い季節にお勧めな
た。
のは、ひもかわと呼ばれる、桐生
※防災操作:ダム流入量の全部または一部を貯めて残りを放流するこ
とで下流への放流量を調節(抑制)
し、下流部における洪水被害を軽減
する。
名物の幅の広いうどんです。鍋焼
ひもかわ鍋焼きうどん
平成の大合併後、ひとつとなった桐生市は 3 つの市と村が個性豊かに
調和する市となりました。掲載した場所以外にも見所がいっぱいです。桐生
市に足を運んで、豊かな自然と魅力的な近代化遺産の残るノスタルジック
な町並みを散策して、心癒される一日を過ごしてみてはいかがでしょうか ?
最後になりましたが、取材するにあたり、桐生市役所観光交流課関係者
の方々に、ご協力をいただきました。紙面をお借りして心から御礼申し上げ
ます。
24
●
水とともに 水がささえる豊かな社会