単一イオン入射によって窒化ガリウム高電子移動度 トランジスタで発生

Annual Report No.27 2013
単一イオン入射によって窒化ガリウム高電子移動度
トランジスタで発生する過剰な電荷収集
Enhanced Charge Collection by Single Ion Strike in GaN HEMTs
H25海自11
派遣先 2013年米国電気電子学会 原子力および宇宙放射線効果国際会議
(アメリカ合衆国・カリフォルニア州サンフランシスコ)
期 間 平成25年7月8日~平成25年7月12日(5日間)
申請者 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 研究員 小 野 田 忍
らの出席があった。会議は、ショートコース
海外における研究活動状況
とテクニカルセッション(口頭発表およびポス
研究目的
ター発表)に分かれている。
宇宙空間に代表される放射線環境では、高
初日に開かれたショートコースでは、
(1)ガ
エネルギー重イオンが半導体素子と相互作用
ンマ線による半導体のトータルドーズ効果、
することによって、様々な問題が引き起こされ
(2)電子線や陽子線による半導体のはじき出し
る。特に、高エネルギーの重イオン1個が半導
損傷効果、
(3)地上中性子による半導体のシン
体素子中で誘起するシングルイベント効果(SE
グルイベント効果、
(4)半導体に対する放射線
効果)と呼ばれる誤動作や故障は、人工衛星の
照射試験技術、
(5)スーパーコンピューターに
正常運用において大きな障害となっている。本
対する放射線照射効果に関して、本国際会議
研究では、衛星搭載用高周波増幅器として利
の50年の歴史を振り返った講演から、最新の
用される窒化ガリウム(GaN)高電子移動度ト
トピックスを交えた講演が行われた。2日目以
ランジスタ(HEMT)に対するSE効果の研究を
降のテクニカルセッションでは、39件の口頭発
世界に先駆けて実施した。
表と96件のポスター発表があった。
海外における研究活動報告
2.会議の詳細
1.会議の概要
筆者は、
「Enhanced Charge Collection by
IEEE Nuclear and Space Radiation Effects
Single Ion Strike in GaN HEMTs」という題目で
Conference(NSREC)は、半導体素子の放射
ポスター発表を行った。内容は、ワイドギャッ
線照射効果に関する国際会議の中で最も権威
プ半導体の一種であるGaN(Gallium Nitride)
のある会議の一つであり、50年の歴史を持っ
HEMT(High Electron Mobility Transistor)に対
ている。50回目の今回は、およそ500名が出席
して、単一の18MeVニッケルイオンが入射し
し、その多くは米国からであり、全体の約80%
た際に発生する過渡電流を測定・解析した結
を占めていた。米国に続いて、フランス(7%)
、
果について考察したものである。本研究は、単
ドイツ(2%)
、イギリス(1%)
、日本(1%)等か
一イオンがGaN HEMTに照射されたときに発生
─ 840 ─
The Murata Science Foundation
する過渡電流の位置依存性を明らかにした成
ことで、各種作業が効率的に行えるものと考
果であり、世界的に標準とされているブロード
えられる。しかしながら、民生デバイスの放射
ビーム照射試験法では得られない実験事実を、
線劣化・故障については不明であることが一般
マイクロビーム技術とシングルイオンヒット技
的であり、ipadも例外ではない。以上の理由か
術を駆使して明らかにした点が素晴らしいとの
らipadの照射実験を行ったところ、グラフィッ
評価を受けた。本研究のように過渡電流が原
クドライバ周辺が放射線に敏感であることが分
因となって故障が引き起こされるシングルイベ
かったと報告している。また、Lynbrook高校の
ント効果(SE効果)や、多量の放射線が照射さ
Y. Chenから、スマートフォンに放射線を照射
れることにより故障が引き起こされるトータル
した時の故障評価について報告があった。以
ドーズおよびはじき出し損傷効果が、HEMTに
上のように、テクニカルセッションおよびデー
おいても問題が顕在化しており、HEMT構造に
タワークショップを通じて、最先端の半導体
対する単一イオン照射結果、ガンマ線照射結
素子や民生機器の照射効果において次々と新
果、およびプロトン照射結果等がVanderbilt大
たな課題が浮上しつつあり、課題解決に向け
学やFlorida大学から発表された。GaNだけでな
た耐放射線性評価技術の高度化等の必要性・
くGaAs(Gallium Arsenide)半導体を合わせる
有用性を認識した。
と、HEMTの照射効果に関して5件の講演があ
最後に、財団法人村田学術振興財団より
り、HEMT構造に対する照射効果の理解が重要
賜った格別なご支援のおかげで、本国際会議
になりつつあるとの印象を受けた。
において研究成果を発信することができ、各国
GaN HEMTだけでなく、SiCパワーデバイス
の研究者との研究ネットワークを強化・構築
(MEI TechnologiesのM. Caseyら)
、カーボン
することができた。このような機会を与えてく
ナノチューブトランジスタ(Naval Research Lab
ださった貴財団および関係者の皆様に御礼を
のS. Francisら)
、25nmNANDフラッシュメモ
申しあげる。
リ(ESA/ESTECのM. Bagatinら)
、FinFET(Jet
この派遣の研究成果等を発表した
Propulsion LabのM. GaillardinらおよびVanderbilt大学のI. Chatterjeeら)
、Gate-All-Around
著書、論文、報告書の書名・講演題目
[発表]
MOSFET(Univ at AlbanyのE. Comfortら)といっ
S. Onoda, A. Hasuike, Y. Nabeshima, H. Sasaki, K.
た最先端の半導体素子に対する照射実験・解
Yajima, S.-i. Sato and T. Ohshima, “Enhanced Charge
析結果が多数報告された。データワークショッ
プにおいては、NASA/GSFCのS. Guertinらから、
第4世代のipadにガンマ線やプロトンを照射し
た際の故障に関する報告があった。有人宇宙
飛行においては、ipadのようなヒューマンイン
Collection by Single Ion Strike in GaN HEMTs,” IEEE
Nuclear and Space Radiation Effects Conference
(NSREC), San Francisco, USA, July 8-12, 2013.
[論文]
IEEE Transactions on Nuclear Scienceへ投稿中
ターフェースの優れた民生デバイスを利用する
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