Mg-doped GaNの正孔密度の温度依存性について~Mg流量

Mg-doped GaN の正孔密度の温度依存性について
~Mg 流量、アニール温度による変化~
E99030 勝矢 大輔
松浦研究室
【背景】電子機器の小型、軽量化が進むなか、高周波性にすぐれ、低消費電力を可能とする半導体として GaN が注目されている。
そこで GaN を用いた電界効果トランジスタを開発するためには、pn 接合が不可欠である 1)。しかし、GaN の結晶成長過程では良
好な p 型を作り出すことが困難である。
【目的】Mg を GaN にドープして p 型の GaN を作製し、GaN 中のアクセプタについて解析する。ここで Mg-doped GaN の多数
キャリア密度の温度依存性 p(T) について調べるためホール効果測定し、本研究室で提案されている FCCS(Free Carrier
Concentration Spectroscopy)法 2)を用いて GaN 中のアクセプタの Mg について調べるため解析する。
【実験】今回 MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法で成長させた Mg-doped GaN を窒素雰囲気で様々な
条件でアニールした。その後試料の四隅にオーミック電極(In 電極)を形成する。そして磁界 1.4 T、真空度 6.0×10-1 Pa、温度 80 K
〜400 K(In の融点が約 430 K)の条件で van der Pauw 法を用いたホール効果測定を行い、p(T)を用いて FCCS 法で解析した。
【FCCS 法】FCCS 法とは、ホール効果測定により得られた p(T)より不純物の密度と準位を評価する方法である。この評価方法は
仮定と微分を用いずに評価できる。そして FCCS 法で用いる評価関数(H 関数)は(1)式で定義される 2)。
H(T, E ref ) ≡
p(T) 2
E 
exp ref 
2.5
(kT)
 kT 
(1)
(1)式がピークとなる温度からアクセプタ準位が、H 関数のピークからアクセプタ密度がそれぞれもとめられる。しかし GaN の Mg の
アクセプタ準位は 100 meV 以上であり、アクセプタの励起状態は無視出来ない。したがって励起状態を考慮する FCCS 法の評価
関数が必要であり、励起準位をΔEr、縮退度を gr、励起状態の平均エネルギーを E ex として、励起状態を考慮した分布関数は
(2)式のように定義される 29。
f(ΔE A ) =
(2)
1
 E
1 + 4exp − ex
 kT


ΔE r − ΔE F
  g 1expΔE A −ΔE F  +
g r exp

kT
kT

 r =2


∑
 

 
Hole Concentration[cm-3]
ここで励起状態を考慮しない場合では r=1、gr=1、、 E ex =0 であるから、フェルミ−ディラック分布関数 fFD(⊿EA) (以下 FD 分
布関数)となる。
【結果・考察】正孔密度の温度依存性を図 1 に示す。図 1 よりふたつの試料を比較するとアニール温度の変化による正孔密度の温
度依存の違いは、低温領域(300 K 以下)では#36-2 の方が急激に減少している。次に、#36-2 での FCCS 法の解析結果を図 2
に示す。図 2 よりピーク温度は 279.6 K、ピーク値が 6.60×1043 cm-6eV—2.5 となる。このピークから FD 分布関数の場合は、#36-2
ではアクセプタ準位は 154 meV、アクセプタ密度は 1.81×1020 cm-3 の値が得られた。また励起状態を考慮した分布関数は、アク
セプタ準位は 155 meV、アクセプタ密度は 6.11×1018 cm-3 の値が得られた。ここで SIMS のデータから、Mg 密度は 2.0×1019
cm-3 である。Mg は 4 配位となるものだけがアクセプタとなるので、アクセプタ密度は Mg 密度より低くなる。よって励起状態を考慮し
た場合での結果の方が妥当である。また、図 2 からも励起状態を考慮した場合でのシミュレーションの方が実験値とよく一致してい
る。したがって、アクセプタの準位が深い場合、FCCS 法では励起状態を考慮した方がよい。#36-3 についても同様に、励起状態
を考慮した分布関数の場合をもちいて、アクセプタ準位は 184 meV、アクセプタ密度は 8.75×1019 cm-3 の値が得られた。
【結論】図1よりアニール温度の違いによる正孔密度は低温領域(300 K 以下)で変化があきらかである。また、Mg をドープした GaN
1019
(×1043)
では p(T)による FCCS 法では励起状態を考慮しなけれ
Mg流量 5µmol/min
6
]
ばならない。またシミュレーション結果は#36-2と#36-3を
5.
21018
V5
比較するとアクセプタの準位と密度が変化していることが
e6わかった。
m
1017
c
3 4
4
0
【謝辞】試料を提供してくださいました日本工
1[
)f
#36-2
1016
er
業大学の鈴木敏正教授に感謝の意を表しま
アニ−ル時間 20分
H(T,Eref)
E, 3
アニ−ル温度 800℃
T
(
す。
#36-3
simulation result
1
アニール時間 20分
1015
H2
f(∆EA)
アニ−ル温度 850℃
【参考文献】1)赤碕勇:Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体
simulation result
fFD(∆EA)
chapter 13 : 培風館 (1994)
1
100
200
300
400
180 200 220 240 260 280 300
2)H.Matsuura,New.J.Phys.4 (2002).12.1
Temperature [K]
Temperature [K]
図1 正孔密度の温度依存性図
図2 #36-2の温度依存によるH1関数と
FCCS法のシミュレーション結果図