【参考資料 / 研究発表(1)】 『半導体による省エネとクリーンエネルギーデバイス』 (理学部応用物理学科 大川和宏) - 太陽光エネルギーからクリーンエネルギーを生み出す - 窒化物半導体で水から高効率に水素製造 東京理科大学理学部の大川和宏教授の研究室は、窒化物光触媒を用いて水から水素を発生させる効率を大幅 にアップさせることに成功しました。窒化物半導体の光触媒機能による水素発生技術は、大川教授が 2001 年に 発明した技術です。(大川和宏、特許 3730142)今回、窒化物半導体表面の改質技術により、酸化・還元反応を 促進させることができました。その結果、光エネルギーから水素エネルギーへの変換効率は従来の 0.5 %から、 2 倍以上の 1.3 %に高められました。 太陽光エネルギーから作られる水素はクリーンでリサイクルが可能なエネルギーです。今後燃料電池などで必要 とされるエネルギーです。環境負荷の少ない窒化物半導体と、地球上に豊富に存在する水を用いて水素を発生 させる技術は、今後のクリーンエネルギー社会に貢献する技術として期待されます。今後、実用化に向けた信頼性 および更なる高効率化を進める予定です。 [新技術] 窒化物半導体表面に NiO のマイクロ電極を形成しました。ほとんどの光は NiO に遮られることなく窒化物半導体に 届き、電子と正孔を生み出します。電子は水を還元し、水素を発生させます。正孔は NiO マイクロ電極に引き寄せら れ、そこでスムーズに水を酸化し、酸素を発生させます。酸化反応も還元反応も同じ量だけ行われます。従来は正 孔の動きが悪く、酸化反応が遅くなっていました。そのため還元反応である水素発生が制限されていました。酸化 反応の促進で、還元反応も促進できるようになりました。 図1は発生した水素ガス量の時間変化を調べたものです。親指の爪よりも小さい1cm角のサンプルに太陽光と同 じ程度エネルギーを持つキセノンランプ光を照射しています。(実験システムは図3と同様)光エネルギーから水素 エネルギーへの変換効率は 1.3 %になりました。 図1.光照射による水素発生量の時間変化 1 [窒化物半導体] 青色発光ダイオード(青色 LED)やブルーレイ DVD 用のレーザに使われている半導体です。窒化ガリウム(GaN) を主成分とした半導体であり、In や Al を少量混ぜることに緑色や紫外の光まで発生させることができます。このよう に高効率な発光素子に使われている窒化物半導体は、高効率に光を吸収する物質でもあります。そのため、極薄 の数百ナノメートル(1ナノメートルは、100 万分の1ミリメートル)で光を吸収できます。さらにこの窒化物半導体は 低毒性であり、環境にやさしい物質です。この半導体を水に入れ、光を当てると、水を水素と酸素に分解する光触 媒機能を発見しました。これを 2001 年に特許出願(2005 年特許成立)しました。 [光触媒] 光触媒とは光エネルギーを用いて化学反応を促進する物質の総称です。臭い物質や汚れを光分解するものが、 最近製品化されています。光触媒効果で水を水素と酸素に分解する基本的研究は、1972 年米国雑誌「Nature」に 掲載された本多・藤嶋効果と呼ばれています。夢の技術ですが、まだ実用化されていません。効率や耐久性に問題 があるからです。 水素発生光触媒は、酸化物で盛んに研究されてきました。酸化物は化学的に安定だからです。窒化物半導体も 酸化物同様に化学的に安定です。しかも光触媒機能は図2のように高効率です。GaN 光触媒は 370 nm 以下の 短波長までしか光感度がありませんが、抜群に高い量子効率を示しています。一方、In を少量混ぜた InGaN 半導 体では効率が 500nm を超えるところまで感度が伸びています。400-450 nm 領域における効率は、従来の酸化物の 効率の 30 倍ほどの高さです。 図2.窒化物光触媒(GaN 光触媒と InGaN 光触媒)と従来の光触媒の効率の比較 2 [窒化物光触媒による水の分解とガスの発生] 図3の右図のようなシステムでガス発生実験が行われています。窒化ガリウム(GaN)は n 型を用いています。n 型 GaN に光を照射すると、半導体中に電子と正孔が発生します。正孔は GaN 表面にある NiO マイクロ電極で水の 酸化反応を起こし、酸素が発生させます。一方、正孔は GaN から電線で運ばれ、もう一つの電極(この場合は Pt 電極)で還元反応を起こし、水素を発生します。水素と酸素の発生様子が図3の左図です。水の化学式は H2O なの で水素原子と酸素原子の数は2対1であり、その割合で水素ガスと酸素ガスが発生していることが分かります。 図3.光照射による水素と酸素発生の様子.光誘起電流は GaN 電極と Pt 電極間での値 [燃料電池] 循環型社会に必要とされている燃料電池は水素ガスを原料とし、空気中の酸素ガスと反応し電気を発生させま す。生成物は水だけです。現在の水素ガスの製造は、化石燃料(都市ガス等)を主としています。自然エネルギーで クリーンエネルギーである水素ガスが生成できれば、究極のエネルギーシステムになります。 用語解説 1. エネルギー変換効率と量子効率 エネルギー変換効率は、入れたエネルギーと出てきたエネルギーの割合です。この場合、照射した光の全エネ ルギーと水素ガスのエネルギーの割合です。水素ガスのエネルギーとは、酸素と反応した場合に得られるエネルギ ーであり、水素ガス1mol 当り 237.13 kJ のエネルギーが得られます。 量子効率は、照射した光の光子数と発生した水素原子の数の割合です。光子とは、アインシュタインが 1905 年に 出した論文に基づくものであり、光は波だけの性質でなく粒子としての性質があります。半導体に吸収された光子1 個は、電子と正孔を各1個生成し、電子1個から水素原子1個が還元される。すなわち光子2個から水素分子(H2)1 個が生成した場合、量子効率は 100%となります。。外部量子効率の外部とは外側で測った光子数の意味であり、 本研究の場合は図3右図の溶液容器の外側での光子数です。 2. n 型半導体と p 型半導体 半導体は自由電子がたくさんある n 型と自由正孔がたくさんある p 型があります。その伝導型制御のために、n 型 の場合はドナー性不純物を、p 型の場合はアクセプタ性不純物を半導体に添加しています。 3 【参考資料 / 研究発表(2)】 『環境低負荷半導体による排熱エネルギーリユース 熱-電気変換デバイス』 (基礎工学部材料工学科 飯田 努) 温暖化の主因である排熱を電気エネルギーに直接変換 高性能で環境低負荷な『排熱発電装置』の開発 ― 安価で大量生産可能なリユースシリコンの活用により汎用化へ ― 東京理科大学の飯田努准教授(基礎工学部材料工学科)を中心とする研究チームは、リユース シリコンから 合成した環境低負荷で安価な排熱発電材料「マグネシウムシリサイド(Mg2Si)」を用いた高性能な『Mg2Si 排熱発電 装置』を開発しました。世界に先駆け実用化を狙う本装置は、先に大量 合成に成功していた高性能な排熱発電材 料「マグネシウムシリサイド」を、熱—電気変換能力をさらに向上させてモジュール化したものです。素子単体で 2,500W/m2 相当の発電能力を有し、また、高温度大気中で現在までに 3,000 時間を越える連続使用に耐えるなど、 実用に十分な性能を実現しました。エネルギー利用効率が極めて低い工業用の高炉や自動車エンジンに適用する ことで、大幅な燃料消費削減、温暖化防止の実現が期待されます。また実用化実験を兼ねた実装採用も決定、 今後、全国各地の工業炉等への適用拡大が見込まれます。 ◆『Mg2Si 排熱発電装置』の性能と効果; 本装置は、有効温度差が 200℃~600℃と幅広く、各種工業用の炉や自動車をはじめとした広範な産業現場へ の適用・搭載が期待されます。ガソリン自動車に搭載した場合、排熱から 500〜1,000W 程度の電気エネルギーを 再資源化でき利用効率の増加が可能、国内の既存車両の 30%に適用すると年間 96 万klの石油代替効果が見込 めます。これは、2010 年に想定されている日本に おける太陽光発電の約 1.5 倍もの石油代替量となります。また、 エネルギー利用効率が 10%前後に留まっている主要な工業用高炉に実装した場合、エネルギー利用効率向上に より、CO2 排出量を およそ 6〜11%削減できる計算となります。本研究チームでは、更なるエネルギー変換効率と 耐久性の向上を目指し、研究開発を続けています。 ◆研究開発の背景と環境性能に優れた素材開発の成功; 現代社会の主要エネルギー源である化石燃料は、エネルギー利用効率がわずか3割に留まっており、残りの 7割は「排熱」として捨てられています。この「排熱」を効率的に再利用することで化石燃料の使用量を削減し、CO2 排出量を抑えることは、温暖化対策の観点から世界的に注目が集まっています。しかし既存の排熱発電材料は、 希少かつ高価といったコスト面、人体や環境に有害である環境面で課題を抱えており、排熱発電普及の妨げとなっ ていました。こうした中、本研究チームは、安価で環境性能に優れたシリコンに注目、シリコンウエハー製造・加工工 程で大量廃棄されるシリコン廃棄物(シリコンの切断研削汚泥)から高性能の排熱発電材料「マグネシウムシリサイ ド(Mg2Si)」を大量合成する技術を開発(2008 年)、大幅な環境性能、汎用性能の向上を実現しました。 <本研究のこれまでの成果> ◇排熱発電材料マグネシウムシリサイドの合成に成功(2007 年 11 月発表); 従来、鉛とテルルの化合物(Pb‐Te)系が中高温度領域での排熱発電材料として知られていますが、鉛の有害性、 テルルの希少性といった点で問題があり、環境低負荷な材料の開発が望まれていました。本研究チームが世界に 先駆けて量産合成に成功したマグネシウムシリサイドは、地中に豊富に存在するシリコンで構成されており原材料 枯渇の心配もなく、生成および廃棄時における人体や環境への影響もないという特性を持っています。これにより、 環境低負荷な材料(シリコン)を用いての、環境低負荷を実現する新技術(排熱発電)の実現が可能となりました。 4 ◇リユースシリコンからマグネシウムシリサイドを合成することに成功(2008 年 2 月発表); マグネシウムシリサイドの主原料となるシリコンは、多様な電化製品に不可欠な半導体素材として多岐に渡る 場面で使用されています。しかし、超高純度シリコンの製造では大量のエネルギーが消費されているにもかかわら ず、多様な製造・加工工程で、原料の5割以上がシリコン・スラッジと呼ばれる大量の汚泥として廃棄されています。 これは環境破壊の一因になっているだけでなく、各種シリコン製品のコストアップにつながり、新素材・新技術の 普及を妨げる一因となってきました。本研究チームでは、これらシリコン廃棄物から、わずかな純化工程を経て排熱 発電素子向けのリユースシリコンを安定して低価格で製造することに成功。これにより、排熱発電の材料がさらに 環境低負荷となりました。 [熱電変換材料の比較] [熱電変換材料の種類と応用分野] <排熱発電の原理;ゼーベック効果について> 2つの異なる金属をつなげて、両方の接点に温度差を与えると、金属の間に電圧が発生し、電流が流れます。 (ゼーベック効果)。この原理を応用し、排熱を電力に変換する技術が、排熱発電であり、本研究では、金属部分に マグネシウムシリサイドを用いることで、環境低負荷で、高エネルギー変換効率な排熱発電を実現。さらに、マグネ シウムシリサイドをより有効に活用するための発電装置を開発しました。 [ゼーベック効果] [マグネシウムシリサイドを利用した排熱発電装置のイメージ] 5 <排熱発電装置と設置シュミレーションについて> [開発した発電装置] ※右上の小さな四角形の物体が、 マグネシウムシリサイド ※独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) が公表している、排熱発電素材の性能の目標数値。 [排熱発電装置を自動車へ設置した場合のイメージ] ¥ [排熱発電装置を自動車へ設置した場合の効果予測] 6
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