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国際公共政策入門:
現代市民社会とNPO
2010.05.19.
大阪大学OSIPP 山内直人
今回学ぶこと
NPO・NGOとは何か、日本の特徴は何か
 なぜ存在するか、なぜ台頭してきたか
 具体的にどのような活動をしているか
 財源は何か、企業・行政とどう違うか
 寄付やボランティアの役割は
 法制・税制はどうなっているか
 どのような課題に直面しているか

2
Ⅰ.概念整理と現状
3
「新しい公共」とNPOの役割






政府、企業とならぶ第三のセクターとしてのNPO
古い公共:政府が税金で公共サービス提供
新しい公共:民間(NPOや企業)が、寄付、ボラン
ティア、補助金、事業収入などで公共サービス提供
古い公共の限界と新しい公共の可能性
新しい公共は、機動性、先駆性、多様性などの点で
優れている
NPOは、新しい公共の主要な担い手
4
これまでの10年を振り返る








1995年
1998年
2000年
2001年
2003年
2004年
2006年
2008年
阪神大震災、オウム地下鉄サリン
NPO法施行
介護保険制度スタート
中間法人法施行、認定NPO法人制度
改正NPO法施行
公益法人改革に関する有識者懇報告書
新会社法施行、公益法人改革3法成立
新公益法人制度施行
5
NPO・NGOの具体例を挙げると・・
国境なき医師団、地雷禁止キャンペーン
 アムネスティ、セイブ・ザ・チルドレン
 難民を助ける会、CARE、Oxfam
 日本野鳥の会、環境市民、グリンピース
 日本相撲協会、JAF、National Geographic
 イェール大学、同志社大学、灘高校、河合塾
 大阪大学同窓会、PTA、日本医師会、経団連

6
NPO台頭の背景
公共サービス需要の多様化
NPOの比較優位:機動性、先見性、信頼性など
 官から民への潮流
小さな政府、福祉国家破綻、東欧革命
 第三の道:行き過ぎた市場信仰の反省(ギデンズ)
 インターネットなどICTの普及
小規模なNPOでも、ICT利用で比較優位

7
NPOの様々な呼称






NPO(nonprofit organization 非営利組織):営利企業との
違いを強調
NGO(non-governmental organization 非政府組織):政府
との違い、あるいは国境にとらわれないことを強調
CSO(civil society organization 市民社会組織):ポジティヴ
な表現が好まれ、最近広く使われるようになった
CBO (community-based organization):地域に根ざして社
会的活動を行う団体
VO (voluntary organization):ボランティア中心で活動してい
る団体。英国ではNPOと同様の意味。
Third Sector Organization: 政府、企業と並ぶ第三のセク
ターであることを強調
8
NPOの定義的特徴
Structural Operational Definition
by Johns Hopkins Comparative Nonprofit Sector Project
a) not profit distributing 利潤の分配ができない
b) non-governmental 政府に分類されない
c) organizations 組織としての形式を備えている
d) self-governing 自己統治している
e) voluntary 寄付・ボランティアなど自発性の要素が
ある
9
重層構造のNPOセクター
最広義
広義
狭義
草の根団体
NPO法人
公益法人等
(民法法人、社会福祉
法人、学校法人など)
協同組合
コミュニティビジネス
10
ボーダーラインケース
外郭団体(財団法人大阪国際交流センター)
 地縁組織(自治会、町内会、消防団など)
 ボランティアグループやサークル
 協同組合(生協、農協、中小企業組合など)
 社会的企業、ソーシャルアントレプレナー
 宗教団体、政党、政治団体
 国際機関(国連、UNICEF、OECD、IMF)

11
マクロ経済規模
非営利セクター就業者の生産年齢人口に占める割合
有給スタッフ
ボランティア
35カ国単純平均
オランダ
ベルギー
アイルランド
アメリカ
イギリス
イスラエル
フランス
ノルウェー
スウェーデン
オーストラリア
ドイツ
フィンランド
オーストリア
アルゼンチン
スペイン
日本
0.000%
2.000%
4.000%
6.000%
8.000%
10.000%
12.000%
14.000%
16.000%
12
非営利セクター就業者の生産年齢人口に占める割合
0.000%
0.500%
1.000%
1.500%
2.000%
有給スタッフ
2.500%
3.000%
3.500%
ボランティア
4.000%
4.500%
日本
イタリア
南アフリカ
エジプト
ペルー
韓国
コロンピア
ウガンダ
ケニア
タンザニア
チェコ共和国
フィリピン
ブラジル
モロッコ
ハンガリー
パキスタン
スロバキア
ポーランド
ルーマニア
メキシコ
13
日本の非営利セクターの成長率
非営利セクターの成長率とGDP寄与率
7.0
7
6.1
非営利セクター年平均
成長率
6.0
6.0
GDP年平均成長率
6
非営利セクターのDGP
寄与率
5.0
5
4.4
4.0
4.2
4
%
%
zu
3.0
3.5
2.5
3
2.7
2.0
2.2
2
1.0
0.6
0.0
0.0
0.0
90
-1.0
1
90-95
95-00
00-04
-0.2
0
14
Ⅱ.理論的背景
15
NPOの行動原理
営利企業:利潤最大化→株主利益最大化
 NPO:非分配制約の下で何かを最大化
 何かとは:生産、効用、受益者数、満足度など
-配当性向の低い株式会社との類似
-売上高最大化企業との類似
 営利企業より非効率を誘発しやすい
営利企業なら利潤最大化=費用最小化

16
市場の失敗をNPOが解決
Contract failure (市場の失敗の一種)
 情報の非対称性が大きい場合
 プリンシパル・エージェント問題
-プリンシパル(消費者・寄付者)によるエー
ジェント(NPO)のモニターに限界
 消費者や寄付者は、利潤が外部流出する営
利企業よりも非分配制約に縛られるNPOを
信頼して選択

17
政府の失敗をNPOが解決
非排除性・非競合性の存在→市場の失敗→
政府による供給の必要性
 需要の多様性(ハイディマンダーの存在)→
税金で仕事をする政府では十分対応できな
い
 ハイディマンダーの需要を満たすためにNPO
が公共財を供給(公共財の自発的供給モデ
ル)

18
Ⅲ.寄付とボランティア
19
寄付・ボランティアとは?
①直接的な見返りを期待せず、かつ②自発
的に行う金銭贈与または労働提供
 見返りが全くないケースは尐ない
 自発的といいつつ半強制的の場合も
 過去1年間にボラ経験があるのは3割前後
 年間平均寄付額は、世帯所得の0.1%前後

20
寄付・ボランティアの経済学
利他的か、利己的か
 利他的:相手の幸せは自分の幸せ
⇒他者(政府)が積極的なら意欲減退
 利己的:相手を幸せにする自分が幸せ
⇒他者(政府)の貢献は関係なし
 消費的か、投資的か
 若者のボランティアは投資的動機が強い?

21
寄付とボランティアの理論





消費者家計は、予算制約下で、寄付と寄付以外へ
の支出配分を決定する。
また、時間制約下で、労働とレジャーとボランティア
への時間配分を決定する。
寄付の相対価格(寄付以外を基準にして)は1だが、
寄付控除を導入すると1より低下
税制優遇は寄付を増やすインセンティヴに
ボランティアの機会費用は「賃金」(なぜか)
22
(円)
7000
年間寄付額額(左目盛)
個人寄付の家計消費支出比(右目盛)
(%)
0.16
0.14
6000
0.12
5000
0.10
4000
0.08
3000
0.06
2000
0.04
1000
0.02
0
0.00
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006(年)
個人寄付の推移
出所:総務省統計局「家計調査」
23
(億円)
7000
寄付総額(左目盛)
法人寄付の所得比(右目盛)
(%)
1.8
1.6
6000
1.4
5000
1.2
4000
1.0
3000
0.8
0.6
2000
0.4
1000
0
0.2
0.0
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006(年)
法人寄付の推移
出所:国税庁「税務統計から見た法人企業の実態」
24
日本は個人寄付が尐ない
(寄付支出額(十億ドル)、寄付支出比率、対名目GDP比)
日本 (2007)
名目GDP比 0.11%
総額5,910億円
0.96
19.11%
0.02%
アメリカ (2008)
名目GDP比 2.20%
総額3,077億ドル
(36兆2258億円)
イギリス (2007)
名目GDP比 0.80%
総額110億ポンド
(1兆812億円)
個人寄付
4.06
80.89%
0.09%
251.94
81.89%
1.77%
21.20
94.22%
0.76%
法人寄付
0%
14.50 41.21
5.95% 13.0%
0.10% 0.33%
1.30
5.78% 0%
0.05%
財団寄付
*1. アメリカとイギリスの個人寄付金額には、遺贈寄付を含む。
*2. ドル表示は、1ドル117.75円および0.52ポンドで換算
出所:総務省統計局「家計調査」、国税庁「税務統計から見た法人企業の実態」
AAFRC Giving USA 2009、NCVO UK Voluntary Sector Almanac 2008
25
時間寄付と金銭寄付の割合
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
ベルギー
74
26
オーストラリア
73
27
日本
91
ニュージーランド
36
60
アメリカ
チェコ
9
64
カナダ
時間寄付
金銭寄付
40
55
25
100%
45
75
26
Ⅳ.行政と企業
27
NPOと行政(自治体)の関係
共通点は地域を対象とした公共サービスを供給すること
-自治体も元をただせばNPO?
 NPOに比較優位
・多様化する公共サービスニーズへの対応
・特定受益者を対象にしたサービス
・状況変化に対応した迅速・機動的なサービス
 自治体に比較優位
・強制力を伴う規制型公共政策、税補助金を活用した施策
・定型的なサービスの安定供給
・公平性、ナショナルミニマムの確保のための無償サービス

28
補完性の原則:役割分担の考え方
政策決定は、それにより影響を受ける市民、
コミュニティにより近いレベルで行われるべき
だという原則。
 EUと各国政府の関係を整理する際に拠り所
とされたが、中央政府、自治体、NPOの役割
分担にも援用できる。
 すなわち、コミュニティベースのNPOでできな
いことを市町村で、市町村でできないことを都
道府県で、都道府県でできないことを中央政
府で実施すべき。

29
グローバル市民社会とCSR
企業も市民社会もグローバル化
 Global Civil Society: ホワイトバンド、地雷禁
止キャンペーン、マイクロクレジット
 CSR:企業が持続可能な社会のために自発
的、能動的に責任を果たすこと
 トリプルボトムライン:経済・環境・社会
 CSRの一側面としての企業とNPO・市民社
会の協働

30
国連グローバル・コンパクト
グローバリズムの影:南北格差、環境破壊、
労働・人権・・・
 1999年 ダボス会議でアナン事務総長提唱
 2000年 正式発足
 企業の参加要件:環境、人権、労働など10原
則の支持を約束、実践
 世界の2700社が参加(日本からは40社)

31
グローバル・コンパクトの10原則
1.人権擁護の支持・尊重
2.人権侵害に加担しない
3.団体交渉権の実効性確保
4.強制労働排除
5.児童労働廃止
6.雇用・職業差別撤廃
7.環境の予防的アプローチ支持
8.環境に責任を担うためのイニシアティヴ
9.環境技術開発、普及
10.あらゆる形態の腐敗防止に取り組む
32
V.NPOの法制と税制
33
日本の法人マッピング
特定公益増進法人など
農業協同組合
社会福祉法人
漁業協同組合
非
農林組合
更生保護法人
営
利
組
中小企業協同組合
消費生活協同組合
織
中間法人
医療法人
営
株式会社
利
合資会社
組
合名会社
織
有限会社
学校法人
民法上の財団法人・社団法人
特定非営利活動法人(NPO法人)
宗教法人
34
日本の非営利法人の数
法人名
根拠法
学校法人
私立学校法
7,874
社会福祉法人
社会福祉法
18,811
宗教法人
宗教法人法
182,641
医療法人
医療法
更生保護法人
更生保護事業法
NPO法人
NPO法
29,934
公益法人
民法
25,263
合計
法人数
40,030
163
304,716
35
NPO法人制度とは
草の根NPOに法人化の道開く
 内閣府・都道府県が認証
 簡便な書面による形式審査中心
 行政裁量尐なく、準則主義に近い
 公益法人は、主務官庁の裁量による許可
 17分野限定だが、事実上ほとんどの非営利
分野をカバー

36
NPO法人の概観
2009年2月末累計:受理数 38,384
認証数 36,826 、不認証数 538
解散数2,544 、認証取消333
休眠法人も多数
 ただし、都市部に偏在
 東京都・大阪府・内閣府だけで全体の1/3
 全国の市町村の1/3はNPO法人なし
 増加テンポは鈍化へ

37
NPO法人数の推移
40000
年間認証数
35000
36,300
累積認証数(各年末)
33,390
30000
29,934
データ:内閣府ホームページによる。
25000
24,763
20000
19,523
15000
14,657
10000
9,329
5,626
5000
1,176
1,176
1,9803,156
5,328
4,866
5,240
5,171
3,703
3,456
2,910
2007年
2008年
2,470
0
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
38
NPO法人の活動分野別分布
0
10
20
30
%
40
50
58.3
保健・医療・福祉
46.0
社会教育
まちづくり
40.4
32.4
学術・文化・芸術・スポーツ
28.2
環境保全
6.6
災害救援活動
地域安全活動
9.7
15.5
人権擁護・平和推進
19.8
国際協力
8.5
男女共同参画社会形成
40.1
子どもの健全育成
8.4
情報化社会の発展
科学技術の振興
4.5
12.2
経済活動の活性化
職業能力開発・雇用機会拡充
消費者保護
連絡・助言・援助
60
17.0
5.2
45.4
データ:内閣府ホームページ (2007年末現在)
注)一つの法人が複数の活動分野の活動を行う場合があるため、合計は100%にならない
39
経営基盤は零細・脆弱
年間収入100万円未満が全体の3割
 年間収入1000万円未満が全体の7割


典型的なNPO法人:有給スタッフ2~3人、ボ
ランティア数名、事務所共用、パソコン数台、
電話1本・・・
40
寄付税制の効果
寄付支出にのみ税控除を認めると、寄付支
出の非寄付支出に対する相対価格低下
 価格効果は(常に)寄付促進効果を持つ
 価格効果が所得効果を上回る限り、寄付を
刺激
 寄付増>税収減なら公共財供給促進
(M.フェルドシュタイン)

41
寄付税制に課題
一定の要件を満たす「認定NPO法人」に寄付
した個人・法人に寄付控除認める
 パブリックサポートテストの導入
 要件を満たすNPO法人はごくわずか
3万3千法人中わずか100法人弱(0.3%)
 要件の大幅緩和など必要
 寄付控除制度の見直し
税額控除、繰越控除の導入検討

42
年間課税所得(万円)
2000
1945
1890
1835
1780
1725
1670
寄 80
付
額 70
に
対
す 60
る
実
50
質
負
担 40
率
(
% 30
)
1615
100
1560
1505
1450
1395
1340
1285
1230
1175
1120
1065
1010
955
900
845
790
735
680
625
570
515
460
405
350
295
240
185
130
寄付の実質負担ー所得控除と税額控除の比較-
所得税の限界税率
90
所得控除
30%税額控除
50%税額控除
20
10
0
43
公益法人制度改革の概要
2006年5月、公益法人改革3法成立。2008年
12月に新制度に移行。
 公益法人制度を廃止し、公益性の有無に関
わらない非営利法人制度(一般社団・財団法
人)を創設。準則主義(登記)による設立。中
間法人を廃止・吸収。
 一定の要件を満たすものを公益社団・財団法
人とし、公益認定等委員会・都道府県合議制
機関の意見に基づき総理・知事が認定。

44
新しい非営利法人制度
◎法人設立等の主務官庁制・許可主義
◎主務官庁制・許可主義の廃止
法人の設立と公益性の判断が一体化
法人の設立と公益性の判断を分離
一体化
〇法人の設立(一般社団法人・一般財団法人)
<民法に基づく社団法人・財団法人>
登記のみで設立
〇法人の設立
各主務官庁の許可
・自由裁量
・縦割り
〇公益性の判断
各主務官庁の自由裁量
・準則主義
分
離
〇公益性の認定(公益社団法人・公益財団法人)
一般社団・財団の中から民間有識者による
委員会の意見に基づき総理又は知事が認定
・統一的な判断(縦割り行政からの脱却)
・明確な基準を法定
○税との関係
法人格と税の優遇が連動
・法人税は収益事業のみ課税
※更に一定の要件を満たす特定公益
増進法人については寄附金優遇
〇税との関係
①一般社
団法人及
び一般財
団法人に
関する法
律
②公益社
団法人及
び公益財
団法人の
認定等に
関する法
律
認定された法人について優遇
・収益事業のみ課税
・寄附金優遇の対象とする
45
事実上二層から三層構造に
①公益社団法人・財団法人
⇒収益事業のみ課税。公益目的事業は非課税
② 一般社団法人・一般財団法人
②-1 非営利性徹底法人・共益目的法人
⇒収益事業のみ課税
②-2 その他の一般社団法人・財団法人
⇒普通法人なみ課税
46
公益認定基準の問題
Public benefit test (vs. Public support test)
 公益目的事業比率50%以上
 公益に関する23種類の事業
 不特定かつ多数の利益の増進に寄与
 行政依存法人に甘く、自立型法人に厳しい
 中央集権的な認定システム

47
将来に向けた課題
公益認定のあいまい性と認定コスト
 一般法人が不祥事の温床になるリスク
 法人制度の縦割り構造は解消していない
 NPO法人の将来的な取り扱い
 学校法人、社会福祉法人などを含めた再編
 寄付税制の課題

48