X線CTスキャナを用いたアスファルト 混合物内部の

土木技術資料 55-2(2013)
特集:土木材料の信頼性向上に向けて
X線CTスキャナを用いたアスファルト
混合物内部の品質評価手法の開発
聡 * 西崎
谷口
1.はじめに 1
到 ** 大谷
ターンテーブル
現 在 、 X線 CT(Computed Tomography)ス キ ャ
順 * **
供試体
回転
ナは医療用のみならず、金属、自動車、航空、電
X線発生器
X線検出器
気・電子等に関わる材料や製品の非破壊検査等に
使用されている。土木材料においても品質評価や
水平移動
X線
破壊メカニズムの解明等を行う有効な手段として
期待される。
図-1
X線CTの原理
土木研究所では熊本大学と連携してアスファル
ト 混 合 物 の X線 CTに よ る 評 価 研 究 を 実 施 し て い
ボクセル
る。今回、アスファルト量及び混合物種類の異な
る マ ー シ ャ ル 安 定 度 試 験 用 供 試 体 を 用 い て X線
X線
CTによる品質評価の研究を実施した。CT画像に
X線被照射部
(立体図)
供試体
よ る ア ス フ ァ ル ト 混 合 物 内 の 状 況 の 把 握 及 び CT
X線被照射部
(平面図)
値を用いた品質評価を実施した結果について報告
する。
図-2
2.X線CT
ボクセルの概念
2.2 ボクセル
図 -2に 示 す よ う に CT画 像 を 構 成 す る 最 小 要 素
2.1 X線CTの原理
本研 究で用いた産 業用X線 CTスキ ャナ(写真 -1)
は 「 ボ ク セ ル 」 と 呼 ば れ る 2) 。 こ れ は 、 2次 元 画
は医療用とは異なり、X線発生器及び検出器が固
像におけるピクセルにX線ビーム厚を加えたもの
定され、供試体が回転する機構となっている(図-
である。ボクセルはピクセルと同様、画像の濃淡
1) 1) 。 X線 CTの 原 理 は 、様 々 な方 向 から 「影 絵 」
等を示す情報を持っている。
を 測 定 し 、 PCで デ ジ タ ル 処 理 を 施 す こ と に よ り
2.3 CT値
供試体内部の各点のX線吸収係数(単位長さあた
式 (1)で 示され る CT値は ボク セルが 持つ画 像の
りのX線吸収量)を連立方程式で解き、それを画
濃淡等の情報を数値化したものである 1) 。CT値は
像の濃淡で表示する。X線吸収係数は密度の高い
密度の高い材料ほど大きく、密度の低い材料ほど
材料ほど大きく、密度の低い材料ほど小さい傾向
小さくなる傾向がある。
が あ る た め 、 CT画 像 の 濃 淡 は 供 試 体 の 密 度 の 違
CT値 = K
いを表すことができる。
X線発生部
µ − µw
µw
式(1)
こ こ に 、 µ : X線 吸 収 係 数 、 µw : 水 の X線 吸 収 係
X線検出部
数、 K :定数(通常、 K =1,000)
ア ス フ ァ ル ト 混 合 物 の CT値 は 、 X線 の 吸 収 を
もとに算出され、吸収量は骨材、アスファルト+
石 粉、空隙 の構成 比によっ て変化す る 3) 。す なわ
写真-1
ち 、 骨 材 の 量 が 多 け れ ば X線 の 吸 収 は 大 き く 、
X線CTスキャナ(熊本大学)
────────────────────────
Quality evaluation of asphalt mixture using X-ray CT
scanner
CT値 も 大 き く な り 、 空 隙 の 量 が 多 け れ ば X線 の
吸収量は小さく、CT値も小さくなる。
- 22 -
土木技術資料 55-2(2013)
表-2
総面積:S=S1+S2+S3+S4
頻度
15°C密度(g/cm 3 )
25°C針入度(0.1mm)
軟化点(°C)
60°C粘度(Pa·s)
180°C動粘度(mm 2 /s)
粗骨材:S4
細骨材:S3
アスファルト+石粉:S2
空隙:S1
-1000
T1 T2 T3
0
表-3
2000
CT値
図-3
No.
アスファルト混合物における Pタイル法の概念
表-1
アスファルトの性状
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
実験計画表
混合物の アスファル
アスファルト量(%)
種類
トの種類
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
密粒度
ストアス
①
②
③
④
⑤
粗粒度
ストアス
⑥
ポーラス PMA H
⑦
①~⑦:実験番号
密粒度:密粒度アスファルト混合物
粗粒度:粗粒度アスファルト混合物
ポーラス:ポーラスアスファルト混合物
ストアス:ストレートアスファルト
PMA H:ポリマー改質アスファルトH型
空隙
6.5
5.6
4.0
3.6
1.9
4.8
18.8
体積率(%)
アスファル
細骨材
ト+石粉
14.1
15.3
16.6
18.0
19.0
15.4
13.2
32.2
32.1
32.2
32.3
32.1
19.3
7.7
X-ray
51.2mm
40.9mm
30.6mm
20.3mm
10.0mm
図-4
2.4 しきい値
を 特 定 す る た め に は 、 CT値 の し き い 値 を 設 定 す
PMA H
1.024
66
89.2
1.42x10 5
542
アスファルト混合物の体積率と密度
58.7mm
46.4mm
34.3mm
21.5mm
10.0mm
アスファルト混合物の出力画像から素材の構成
ストアス
1.041
65
47.6
1.94x10 2
71
粗骨材
密度
(g/cm 3 )
47.2
47.0
47.2
47.1
47.0
60.5
60.3
2.349
2.360
2.388
2.393
2.398
2.381
2.024
X-ray
X線照射位置
4.X線CT撮影
る必要がある。今回のアスファルト混合物のX線
供試体は円柱状であり、直径はマーシャル安定
CT撮 影 に お い て は 、 各 素 材 の 体 積 率 が 既 知 で あ
度 試 験 用 の も の と 同 じ 101.6mm、 高 さ は 密 粒 度 、
るためPタイル法 4) を用いた。
粗 粒 度 が 68.7mm、 ポ ー ラ ス が 61.2mmで あ っ た 。
図-3は典型的な密粒度アスファルト混合物のヒ
X線CT撮影はX線管電圧300kV、ビーム厚1mm、
ス ト グラ ムで ある 。 Pタイ ル 法は 図-3中 の混 合 物
ボ ク セ ル サ イ ズ 0.073×0.073×1mm 3 で 実 施 し た 。
の空隙、アスファルト+石粉、細骨材、粗骨材の
また、X線照射位置は図-4のとおり設定した。
面 積 比 率 ( S 1 /S~ S 4 /S )と 、 撮 影 さ れ た ア ス フ ァ ル
なお、供試体の撮影は初めにアスファルト量を
ト混合物供試体の空隙、アスファルト+石粉、細
変 化 さ せ た 供 試 体 No.① ~⑤ に つ い て 実 施 し 、 次
骨材、粗骨材の体積比率が同じになるようにしき
にアスファルト量が5%のNo.②、⑥、⑦の二度に
い値を決定する方法である。具体的な計算手法に
分けて実施した。
ついては谷口らの文献 3)を参照されたい。
5.結果と考察
3.アスファルト混合物
中 央 断 面 (密 粒 度 及 び 粗 粒 度 = 34.3mm,ポ ー ラ
今回の試験では、表-1に示す実験計画表に基づ
ス = 30.6mm)の CT画 像 を 図 -5に示 す。 CT画 像は
き、密粒度アスファルト混合物(以下、密粒度)、
アスファルト混合物内部の骨材の形状や空隙の分
粗粒度アスファル混合物(以下、粗粒度)、ポーラ
布を鮮明に表すことができる。また、アスファル
スアスファルト混合物(以下、ポーラス)について
ト量が増加するにしたがって空隙(色の濃い部分)
実施した。今回用いたアスファルトの性状を表-2
が減少する様子や、混合物の種類の違いを鮮明に
に、混合物の空隙、アスファルト+石粉、細骨材
表すことができる。
及び粗骨材の体積率と密度を表-3に示す。
- 23 -
土木技術資料 55-2(2013)
No.1(アスファルト量=4.5%) No.2(アスファルト量=5.0%) No.3(アスファルト量=5.5%) No.4(アスファルト量=6.0%) No.5(アスファルト量=6.5%)
a) 第一回試験(No.1~5)
No.2(密粒度ストアス)
No.7(ポーラス)
No.6(粗粒度ストアス)
1800
600
CT 値
b) 第二回試験(No.2,6,7)
図-5
CT画像(中央断面)
ボクセル数
2000
T3 (細骨材/粗骨材)
2000
As=6.5%
As=6.0%
As=5.5%
As=5.0%
As=4.5%
3000
T2 (アスファルト+石粉/細骨材)
T1 (空隙/アスファルト+石粉)
1500
CT
値 1000
As=アスファルト量
500
1000
0
-1000
4.5
0
6.0
6.5
アスファルト量(%)
1000
CT値
図-6
5.5
5.0
図-7
アスファルト量が変化した場合のしきい値
(5断面平均)
アスファルト量が変化した場合の
CT値ヒストグラム (5断面平均)
5.1 アスファルト量の変化
アスファルト量が変化した場合の5断面平均CT
値のヒストグラムを図-6に示す。これより、アス
アスファルト量
=4.5%
ファルト量の増加に伴って双峰性が明確に現れる
ことが確認できる。また、アスファルト量の増加
空隙
に伴って、CT値が約1,000より小さい部分のボク
細骨材
セル数が少なく、CT値が1,000より大きい部分の
図-8
ボクセル数が多くなる傾向にある。
2.4に よ り 計 算 さ れ た ア ス フ ァ ル ト 量 が 変 化 し
た 場 合 の 5断 面 平 均 し き い 値 を 図 -7に 示 す 。 し き
い 値 1( T 1 )は ア ス フ ァ ル ト 量 5.0%に ピ ー ク に 達 し 、
し き い 値 2( T 2 )は ア ス フ ァ ル ト 量 の 増 加 と と も に
増 加 す る 傾 向 が あ り 、 し き い 値 3( T 3 )は ア ス フ ァ
アスファルト量
=5.5%
アスファルト量
=6.5%
アスファルト+石粉
粗骨材
アスファルト量が変化した場合の 四値化画像
(中央断面)
図-8は図-7のしきい値をもとに作成した中央断
面の四値化画像である。この画像から、アスファ
ルト量の増加に伴って空隙の領域が減少し、アス
ファルト+石粉の領域が増加することがわかる。
ルト量が変化してもほとんど一定である。
- 24 -
土木技術資料 55-2(2013)
混合物の種類が変化した場合の中央断面におけ
密粒度
3000
る 四 値 化 画 像 を 図 -10に 示 す 。 密 粒 度 は 小 さ な 空
ボクセル数
粗粒度
隙が点在している一方、粗粒度は所々に大きな空
ポーラス
隙が存在している。ポーラスは細骨材がほとんど
2000
なく、粗骨材がアスファルトによって結合されて
いる様子がわかる。
1000
6.まとめ
X線 CT撮 影 に よ り 得 ら れ た CT画 像 お よ び 四 値
-1000
1000
0
2000
化画像は空隙、アスファルト、骨材の分布を表現
CT値
図-9
で き る こ と が わ か っ た 。 ま た 、 CT値 ヒ ス ト グ ラ
混合物の種類が変化した場合の
CT値ヒストグラム
ムは、混合物の特性を顕著に表すことができた。
X線 CTは ア ス フ ァ ル ト 混 合 物 の 品 質 評 価 に 非 常
に有効な手段であると考えられる。今後は、プラ
ントコアと現場コアの比較等、現場におけるアス
ファルト混合物の品質評価の検討を行っていく予
定である。
密粒度
粗粒度
空隙
1) 大 谷 順 、 尾 原祐 三 、 菅原 勝彦 、 椋 木 俊 文: 地 盤 工
学 に おけ る産 業 用 X線 CTス キ ャ ナー の適 用 、土と
基礎、第48巻、第2号、pp.17~20、2000.
2) 菊 池 喜 昭 、 水谷 崇 亮 、永 留健 、 畠 俊 郎 :マ イ ク ロ
フ ォ ーカ ス X線 CTス キャ ナの 地 盤工 学へ の 適用性
の検討、港湾空港技術研究所資料第1125号、2006.
3) 谷 口 聡 、小 川慧 一 郎、 大 谷順 、 西 崎到 : X線 CTを
用 い た ア ス フ ァ ル ト 舗 装材料 の 定 量 的 評 価 に 関 す
る研究、土木学会論文集E1(舗装工学)、第67巻、
第3号、2011.
4) 高 木幹 雄、 下田 陽久 :新 編画 像解 析ハ ンド ブック、
東京大学出版会、2001
アスファルト+石粉
細骨材
図-10
参考文献
ポーラス
粗骨材
混合物の種類が変化した場合の四値化画像
5.2 混合物の種類の変化
混合物の種類が変化した場合の5断面平均CT値
のヒストグラムを図-9に示す。密粒度の場合とは
異 な り 、 粗 粒 度 、 ポ ー ラ ス 共 に -1,000~-800付 近
でピークが発生しており、空隙の影響が顕著に出
たものと考えられる。また、密粒度にあった双峰
性 が 、 粗 粒 度 、 ポ ー ラ ス に 行 く に し た が っ て CT
値 が 1,200付 近 、 す な わ ち 細 骨 材 の ピ ー ク が 崩 れ
る傾向がある。
谷口
聡*
独立行政法人土木研究所つくば
中央研究所材料資源研究グルー
プ新材料チーム 主任研究員
Satoshi TANIGUCHI
西崎
到**
独立行政法人土木研究所つくば
中央研究所材料資源研究グルー
プ新材料チーム 上席研究員、
博(工)
Dr. Itaru NISHIZAKI
- 25 -
大谷
順***
熊本大学大学院自然科学研究科
社会環境工学専攻、Ph.D、教授
Prof. Jun OTANI