諸外国の建築コストブックの実態に関する文献的調査

諸外国の建築コストブックの実態に関する文献的調査:日・米・英の労務費の構成
主席研究員
岩松 準
第1章 調査研究の目的と概要
1.1 研究の目的
先進諸外国において多くの建築コストブックが刊行されている。事情はそれぞれであろうが、そ
れら諸外国での建築工事の見積・積算、コスト管理等において、コストブックは一定の役割を果た
していると考えられる。一般に建築プロジェクトでは事前の個別原価計算が発注側でも受注側でも
必要であり、その根拠となる何らかのコスト情報が求められている。 日本では建設物価調査会、経済調査会等がいくつかの物価資料を刊行しているが、公共発注
者が定める予定価格算定根拠の提供を主な目的としているという事情から、諸外国のものとはや
や異なる位置づけにあるとも考えられる。 以上のような観点から、本調査は第一にひろく諸外国のコストブックを探索し、その実態につい
て知ることを目的とする。これは日本の建築コスト管理の位置づけを明らかにするためにも有益と考
えられる。 1.2 今年度の報告内容
上記の目的に照らして、現在に至るまで主要国の建築コストブックの収集を継続しており、順次
それらを探索的に調査している。当初の企画では、下記の取り組みをすることとしていたが、まだ十
分でないのが残念である。(なお、本研究は他の類似研究と統合的に展開予定) (1)各国での建設物価情報誌の発行状況等に関する調査
資料(コストブック)の収集を探索的に行い、発行状況・利用者・調査方法等についての実態を
調査する。なお、収集するコストブックは価格情報誌そのもののほか、付属するガイドブック・実務マ
ニュアル等を含めたものとする。 (2)入手した価格情報誌の内容分析
価格情報の種類(区分・内容)、量、改訂頻度、データの加工法、活用方法、コード、一般的資
材価格情報や労務費情報についての比較、などを行う。 今年度はコストブックや入手できた書籍・資料等をもとに、とくに労務費に関する情報に焦点を
当て、以下を報告する。 (1) 日・米・英の建築工事の積算段階で用いる代表的な労務費に関する情報源やその構成内容
等を比較分析する。
(2) 各国の歴史や文化の違いを認識しつつ、それらの情報の成立する背景等についても可能な
範囲で踏み込んだ記述をする。
- 5 -
第2章 労務費の分析の前提条件
2.1 労務費関係資料を比較する目的
日・米・英で公刊される建設技能労働者の賃金(wage)や労務費(labor cost)に関する幾つか
の建築コストブックや調査統計資料等をみると、その構成の違いに気がつく。一般に、前者の賃金
はあえて言えば「純賃金」であって、後者の労務費を構成する一要素になっている。そして、この両
者はどの国でも区別されている。賃金と労務費との差分は、労働者を雇用する会社が負担する私
的・社会的な費用であるが、単純な賃金水準のみでは語れない産業労働福祉に直接関わる事項
を含んでいる。日・米・英とも建設技能労働者の賃金や労務費のありようは様々であることは疑いが
ない。だが、そこに一定の傾向が観察されるのではという期待もある。 このように、労働慣行や歴史背景が異なるので十分な注意が必要だが、それらの情報に関して、
結論的に言えば、米国は情報源が多様かつ明示的であり、日本よりも価格水準は高くかつ職種間
や地域間の違いも大きい。英国では労使が取りきめたルールを厳格に運用する方法を採っている。
一方、日本は賃金に関する公的調査は存在するが、一方の労務費についてはその実態を明らか
にする公的統計が見当たらない。このような外国との比較は日本の事情を理解する上でもちろん
参考となる。ここでは文献的な検討によって、日・米・英の労務費の構成の大まかな違いについて
記述する。 2.2 本検討での賃金と労務費の区別
日本での各種事情を勘案すると、建設技能労働者の労務費と賃金を図2.1のように区分できる。
米・英でもほぼこのような図式が当てはまる。本報告での検討範囲は、より広範な「労務費」(labor cost)であって、「賃金」(fringe 付きの wage)はその一部であることに留意する。 <労務費(labor cost)>
<賃金(wage with fringe)>
A1. 基本賃金(base wage) 本 人 への支 給 分
C1. 賃金手取り分 A2.1. 諸手当(残業、ボーナス、
A2. 付加給付 休日割増、有給休暇、支給交通
C2. 組合費など(天引き分) 費、など) C3. 所得税など(天引き分) (fringe benefits) A2.2. 法定福利費(本人負担
C4. 法定福利費(本人負担分) 分) 会社負担分
B1. 法定福利費(会社負担分) B2. 労務関係の経費 (福利厚生費、車両代、宿舎代、訓練費、監督費等)
B3. 会社経費・一般管理費 (注) 日本の内容構成を念頭に置いて作成したので、英米の実情には合わない可能性がある。なお、ΣAi=ΣCi の関係があ
る。また法定福利費は本人と会社負担に分かれ、A2.2=C4、B1>A2.2(詳細は本稿の表 4.1 を参照)である。なお、本
報では賃金に対する労務費の比率、すなわち、(ΣAi+ΣBi)/ΣCi の値の大きさにとくに関心を寄せている。 図 2.1 労務費と賃金の考え方(建設技能労働者)
- 6 -
表 2.1 World Labor Rates 記事データ
上で述べた意味に近いと考えられる労務費と賃金
の関係について、ある国際比較資料がある。米国の
専門誌 ENR(Engineering News Record)に毎年掲
載 さ れ る 調 査 結 果 で あ る 。 若 干 古 い が2008 年 12 月
22・29日合併号の Fourth Quarterly Cost Report に、
GARDINER & THEOBALD 社調べの30ヶ国(33都
市)の技能労働者の基本賃金単価(Basic Rates)及
び労務費単価(Total Billing Rate)の国際比較デー
タが掲載されている(表2.1)。日本からは東京のデー
タが入っている。職種名は不明なものの、労働者の技
能 レ ベ ル に 応 じ て 3 段 階 ( Unskilled ( 不 熟 練 ) , Apprentice ( 見 習 い ) , Skilled ( 熟 練 ) ) の Labor Rates 調査結果が、11月末時点での為替レート換算
の米国ドル表示で示されている。この資料には「厳密
な比較ではなく、各国の価格水準を相対比較する目
的で利用する」と注意書きされているが、各国の水準
差を明らかにしている。米国は世界的にも高水準であ
り、日本は西欧並み、中東・アフリカ・アジアは全般に
低い。(図2.2に Skilled(熟練工)を例に、その水準差
を示した。) この図には合わせて賃金と労務費の違い、すなわち、基準賃金に対する労務単価の比が明示
されている。不思議なことにその比率はそう暴れるものではなく、ほぼ2倍以内に収まっており、その
値が計算できる31都市の単純平均値は1.52倍である。 120
3.0
熟練工の基本賃金単価(US$/時)
熟練工の労務費単価(US$/時)
労務費単価/基本賃金単価の比(右目盛)
100
2.5
80
2.0
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1.5
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0.5
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東ヨーロッパ
西ヨーロッパ
中東・アフリカ・アジア
南北アメリカ
注) GARDINER & THEOBALD 社 調 べ 。ENR Dec. 22/29 ,2008, p.33 より 作 成 。 労 務 単 価 に は保 証 超 過 時 間 賃 金
(guaranteed overtime)、税金(statutory)、保険(insurance contributions)、連れ越し費(importation of labor)を含
む。週の標準労働時間に基づく賃金(各国で事情が違う)。現地通貨による調査価格を 2008 年 11 月 26 日の通貨レート
で米ドルに変換している。比較は厳密ではなく、各国の価格水準を相対比較する目的で利用する。 図 2.2 「熟練工」の 1 時間当たりの基準賃金と労務単価の国際比較(US$/時)
- 7 -
第3章 各国の労務費関係資料とその内容について
建設労働者の賃金(wage)や労務費(labor cost)に関する調査は、日・米・英の三カ国とも複
数の主体が取り組んでいる。以下、日本・米国・英国の順に、各国の労務費関係資料のなかで賃
金と労務費が具体的にどう扱われているか、その比率がどの程度かをみていく。 3.1 日 本
日本でよく知られ、実務的な積算でも活用されるのは国交省と農水省の2省による「公共事業労
務費調査」がある。各年10月に施工中の1件当たり1000万円以上の工事を選定母集団として、無
作為に抽出した1万件を超える工事で実際に従事した20万人程度の建設技能労働者の賃金を調
べるものである。うち、有効標本数は近年12万人分程度である(図3.3)。その結果は翌年度の予定
価格積算に使う51職種の47都道府県別の「公共工事設計労務単価」として前年度末までに公表
される。 なお、建設技能労働者の賃金についての他調査としては、厚生労働省 1 や労働組合関係機関 2
等による賃金調査があるが、現在ではそれほど大きな規模で実施されているものはない。 図 3.1 公共工事設計労務単価の内容例 (注)国土交通省 HP 資料より
この公共事業労務費調査では、図3.2に示すように、労働者が手にする実質的な賃金(wage)を
最終的な公表対象にしているだけであって、労務費に関する数値情報は一切明らかにしていない。
戦後米軍占領時代の PW の流れをくみ、27 職種の賃金を調べる指定統計第 53 号「屋外労働者職種別賃金調査」があった
が平成 16 年調査で中止となり、同第 94 号「賃金構造基本統計調査」(年次調査)に統合されてしまった。また、同第 7 号「毎月
勤労統計調査」(月次)は建設業の企業規模別の賃金(所定内、特別、定期、超過)がわかるが、技能労働者の抽出は不能。 2 全建総連系の建設政策研究所が不定期で行う首都圏などの賃金調査など。 1
- 8 -
あえて、公表される公共工事設計労務単価が元下間の取引で労務費(labor cost)として利用され
る誤りを懸念し、この政府通達では「所定時間外の労働に対する割増賃金や現場管理費(法定福
利費の事業主負担額等)、一般管理費(企業の運営費用)等の諸経費は含まれていない」と注意
を促しているほどである 3 。図2.1でいえば、フリンジ付きの賃金、すなわち、A1+A2に相当する部分
に焦点が絞られたものといえる。 公共工事設計労務単価は、次の①~④で構成される ①基本給相当額 ②基準内手当(当該職種の通常の作業条件及び作業内容の労働に対する手当) ③臨時の給与(賞与等) ④実物給与(食事の支給等) 公共工事設計労務単価 = ①基本給相当額 + ②基準内手当 + ③臨時の給与 + ④実物給与
└
┘
└
所定労働時間内8時間当たり
┘
所定労働日数1日当たり
図 3.2 公共工事設計労務単価の構成
(注) 国土交通省総合政策局建設市場整備課「平成 23 年度公共工事設計労務単価(基準額)について」(平成 23 年 3 月 25
日)より引用。 日本にはさまざまな職種に関する賃金調査が
あるが、こと建設技能労働者のそれに関しては、
本項で取り上げた調査にほぼ限定され、しかも、
それはフリンジ付きの賃金部分にしか過ぎない。
労務費(labor cost)に相当する統計や調査は、
残念ながら公的なものとしては存在しない 4 。 図 3.3 有効標本の情報
(注) 国土交通省総合政策局建設市場整備課「平成 23
年 度 公 共 工 事 設 計 労 務 単 価 (基 準 額 )について」
(平成 23 年 3 月 25 日)より引用。 国土交通省資料では、単価に含まれない賃金、手当、経費として、⑤時間外、休日及び深夜の労働についての割増賃金、
⑥各職種の通常の作業条件又は作業内容を超えた労働に対する手当、⑦現場管理費(法定福利費の事業主負担額、研修訓
練等に要する費用等)及び一般管理費等の諸経費、をあげている。 4 会員の上場企業サラリーマンを対象にした(社)日本経済団体連合会の「福利厚生費調査結果」(http://www.keidanren.or.jp)の
ようなフリンジ調査がある程度である。 3
- 9 -
3.2 米 国
(1)米国の賃金・労務費関係のいくつかの統計資料の概要
米国には、賃金・労務費に関して、かなり充実した統計調査がある。よく知られているのは、以下
に述べる労働省労働統計局(www.bls.gov)が行うものである。いずれも、建設分野に特化したも
のではなく、その一部が建設業向けの集計になっていて、情報の抽出ができるものである。最初に
ある①QCEW(Quarterly Census of Employment & Wages (QCEW)は重要なマクロ経済指標
となる調査の一つであり、調査の規模も9百万事業所ということでかなり大きなものである。そこには
Wage 全般の四半期調査の結果が示されているが、建設業は1本の数値でしかない。一方、②~
④は若干規模が小さめの調査となるが、建設業の中が職種別等に区別されたものである。 ① QCEW (Quarterly Census of Employment & Wages) ② CES (Current Employment Statistics; 別名 The establishment payroll survey)) ③ OES (Occupational Employment Statistics) ④ NCS (National Compensation Survey) 表 3.1 米国労働省労働統計局(www.bls.gov)の労務費関係の主な3つの統計調査
調査・統
計名 公表頻度 調査方法
及び対象
等 地域区分
5 調査内容 (労務費
関係につ
いて) CES (Current Employment Statistics;別名 The establishment payroll survey) 月次(翌月第1金曜日に公表) 全米より抽出した39万事業所(農業
以 外 )の15万 企 業 へのサンプル調
査(賃労働者の約1/3をカバー)。郵
送 、インターネッ トなど調 査 手 段 は
多様。失業保険情報(UI)をフレー
ムに復元。 全米・州・MSA 非農業部門の支給額を平均時間
単 価 と して推 定 。労 働 者 自 身 が か
ける老齢年金や失業保険や組 合
費や年 金などの控 除 前の 支 給 額
( payroll) が 対 象 。 支 給 額 に は 時
間外、休暇・休日・病欠手当など直
接 会 社 からもらうものが含 まれてい
る。ボーナス、手数料、非貨幣の報
酬は月例でない限り含まれない。 → wage with fringeと呼ばれるも
のに相当すると考えられる。 OES (Occupational Employment Statistics) NCS (National Compensation Survey) 半年又は年次(半年後に公表) 1997年 に始 まった賃 金 調 査 。全 米
120 万 事 業 所 か ら抽 出 した 20 万 事
業所に5月と11月に3年に亘って調
査票を郵送する。(7割程度回収) 四半期(3か月遅れで公表) 19世紀から調査開始。20世紀半ば
から benefit 調査(下記)が加わっ
た。民間 企 業 及 び政 府に勤務する
個 人 へのサンプル調 査 (数 万 人 規
模)。 全米・州・MSA584地区ほか毎の公
表 (全 ての職 業 の公 表 がされない
地区もある)。 非 農 業 部 門 の 賃 労 働 者 の賃 金 額
を 対 象 に 、 約 800 種 類 の 職 業 毎 に
集 計 する。賃 金 の平 均 値 とそ の標
準偏差の他に分布形状を類推でき
る10, 25, 50(中央値), 75, 90%タイ
ル値 も集 計 している。賃 金 (wage)
には残 業 代 、負 傷 手 当 、シフト手
当、ボーナスなどは含まない。 → base wageと呼ばれるものに相
当すると考えられる。 センサスエリアから227地区(別資料
では152地区)の抽出調査。全米・9
センサス地域・85エリア毎の公表。 約450種類の職業毎に集計される。
賃金(wage)、俸給(salary)、ベネ
フ ィ ッ ト ( benefit ) の 調 査 。 季 節 調
整値を公表する。 → labor costに近いと考えられる。
(建設労働者を雇用するコントラクタ
ーの一般管理費等を含まない労務
関 係 コ ス ト ( Employers costs for employee compensation)の中 身
の実態調査) (注)www.bls.gov掲載資料より作成。Bureau of Labor Statistics(BLS)は 1884.6.27 に設立。1888.6.13 に独立
組織となり、1903.2.14 にBureau of Laborの一機関となり、1913 年にDepartment of Labor(労働省)に移管
されて今日に至る組織。主な仕事は、①物価指数算定などの価格調査、②雇用と失業に関する調査、③報
酬や労働条件に関する調査、④生産性の調査、などを行っている。(From Wikipedia) 上記の 3 調査は
CESとOESが②、NCSが③に係るものである。 ② ~ ④ の 特 徴 を 表 3.1 に 整 理 し た 。 各 々 は 大 標 本 サ ン プ リ ン グ 調 査 で あ り 、 米 国 産 業 分 類
NAICS や米国標準職業分類 SOC に従った集計もあり、建設業や各技能労働者に関する賃金や
労務費の情報が得られる。表3.1に示したようにそれぞれに調査方法や公表の内容に違いがある
5
米国政府統計の地域区分は大統領府 OMB が Metropolitan and micropolitan statistical areas( MSA)を定めている。 - 10 -
が、②CES はフリンジ付き賃金(wage with fringe)、③OES はフリンジがないベース賃金(wage)
そのもの、④NCS は厳密には労務費(labor cost)ではなく、建設労働者を雇用するコントラクター
の一般管理費等を含まない労務関係コスト(Employers costs for employee compensation)の
中身の実態が調べられていると考えられる。 表3.2と図3.4は①QCEW から、建設業の結果が分かる部分のみを抽出した。表3.2では標準産
業分類に基づく細かな業種別の企業数、雇用者数などの情報に加え、1人当たり平均週給も示さ
れるなど興味深い。また、図3.4はその給与水準の地域差がかなり細かく掲載されたものとなってい
る。日本の労務関係統計がせいぜい47都道府県止まりなのとは大きな違いである。 表 3.2 米国建設業の全機関数・全雇用者数・年間賃金総合計・1人当たり平均週給(産業分類(NAICS コード)
別;2009 年平均)
出典: BLSのQCEW employment data( www.bls.gov/cew/ew09table2.pdf )より建設業部分のみを抜粋。 (注) NAICS は全米標準産業分類で 23 番は建設業。これ以上の詳細内訳データはない。 - 11 -
(注) U.S. Bureau of Labor Statistics, ʺEmployment and Wages Annual Averages, 2007ʺ, Bulletin 2718, March 2009, pp.50‐51 を引用。この図は建設業の全米平均賃金を 1 としたときに各カウンティ(全米で 3140)の建設業の平均賃金の
比を計算して色分けしたもので、建設業賃金の特化係数(一種の地域差指数)である。明るく薄い色(1 より小さい)ほど
そのカウンティの平均レベルからみて建設業の賃金水準が低く、暗く濃い色(1 より大きい)ほど賃金水準が高いことを示
す。図によれば、西部、メキシコ湾岸、南東部が高い。なお、このレポートはQuarterly Census of Employment and Wages (QCEW:雇用賃金四半期センサス;別名ES‐202 プログラム)という 9.1 百万事業所に対する失業保険情報を元
にしたセンサス統計から作成されている。 図 3.4 米国建設業就業者の賃金水準の地域差地図(2007 年)(参考)
- 12 -
(2)労働統計局NCS統計による報酬額の項目内容
表3.1で述べた公的統計の④NCS(National Compensation Survey)による建設労働者の報酬
額の構成を表3.3に示す。ベース賃金のほかに、休暇手当、時間外などの加給(以上がfringeに相
当と思われる)、各種保険料、退職年金、社会保険税等が加わる。このように企業が負担する労働
費用の詳細が明示される。表
3.3データは建設業全体のも
のであり、職業内容、企業規
模、ユニオン企業か否か、地
域、年令、性別等によって金
額 の水 準 が違 う 7 ことは当 然
であるが、項目間の比率に大
差はないと思われる。但し技
能労働者では労災補償が多
くなり、かつ職 種 と適 用 州 で
バラツキが存在する 8 ので注
意を要する。なお、労働者自
身 の賃 金 からはPayroll tax
(給与税)と呼ばれる連邦・
州・地方の所得税、連邦社
会保険、労災補償(最後2つ
は労使折半)が差引かれる。 表3.3だけでは一般管理費
相 当 が 不 明 なので 、 賃 金 に
対する労務費の割合の計算
は不能である。つまり、この表
でカバーされているのは、図
2.1においては、A+B1辺 りま
でで、B2、B3に当たる部分の
表 3.3 建設業労働者1人当たり時間当たり総報酬額の内訳
Total compensation(総報酬) a + b a. Wages and salaries(賃金・俸給) 6 b. Total benefits(付加給付) b1~b5 b1. Paid leave(休暇手当) ・Vacation(年次有給休暇) ・Holiday(有給休日) ・Sick(病気休暇) ・Personal(その他慶弔など) b2. Supplemental pay(加給) ・Overtime and premium(時間外) ・Shift differentials(シフト手当) ・Nonproduction bonuses(ボーナス) b3. Insurance(保険料) ・Life(生命保険) ・Health(健康保険) ・Short‐term disability(短期傷害保険) ・Long‐term disability(長期傷害保険) b4. Retirement and savings(企業退職年金) ・Defined benefit(確定給付企業年金) ・Defined contribution(確定拠出企業年金) b5. Legally required benefits(法定福利費) ・Social Security and Medicare(社会保険税) ・Social Security(老齢年金) ・Medicare(高齢者医療保険) ・Federal unemployment insurance (連邦失業保険) ・State unemployment insurance(州失業保険) ・Workersʹ compensation(労災補償) (注) 支払額 ($/時) 31.59 21.92 9.67 1.17 0.63 0.41 0.09 0.04 0.97 0.62 (0.01) 0.35 2.33 0.05 2.20 0.05 0.02 1.70 1.10 0.60 3.50 1.81 1.46 0.35 0.03 内訳
(%)
100.0
69.4
30.6
3.7
2.0
1.3
0.3
0.1
3.1
2.0
(0.05)
1.1
7.4
0.2
7.0
0.2
0.1
5.4
3.5
1.9
11.1
5.7
4.6
1.1
0.1
0.33 1.33 1.0
4.2
労 働 省 労 働 統 計 局 NCS 資 料 ( http://www.bls.gov/news.release/pdf/ ecec.pdf )より作成(2011 年 3 月調査分)。なお、和訳は筆者の理解に基づ
く仮訳であり、詳細は別文献等を参照のこと。 情 報 はないと考 えられる。た
だ、この辺りまでの情報が公的統計で詳細にカバーされているのは、日本のそれにはない特徴と
言ってよいと思われる。 6 米国では wage と salary は区別されている。wage は時給労働者の賃金である。時給労働者の賃金は時給×労働時間で算出
される。ノンエクゼンプト(残業手当支給対象)職務の労働者は賃金が時給で決まっていることが多い。労働組合員の賃金も時
給で決まるのが通常である。一方、salary は年俸とか月俸のようにあらかじめ固定された賃金のことであり、働いた労働時間には
連動しない。企業はこの固定された賃金を労働時間が変動しても原則として引き下げることはできない。(笹島(2008)p.85 によ
る) 7 賃金水準そのものは、労働統計局の OES 統計において、いくつかの集計カテゴリー別の平均値とその標準偏差の他に分布
形状を類推できる 10, 25, 50(中央値), 75, 90%タイル値も集計している。このようなきめ細かさは日本の統計には無い優れた点
といえる。 8 R.S. Means 社の 2009 年版資料に載っている Workers’ Compensation Insurance Rates by Trade and States 表(後出の
参考資料 4 の図をみよ)では全職種平均で labor cost の 15.90%と高い。一番低いのは MA 州の Waterproofing 職で 2.09%、
最も高いのは MN 州の Steel Election‐ structure 職で 104.13%。危険な職種が高い傾向だが、同じ職種でも州間のバラツキ
が大きい。同様のことは資材費にかかる State Sales Tax についてもいえる(全米平均は 4.91%で、0%(AS など 5 州)~7.25%
(CA 州)に分布)。 - 13 -
(参考資料 1)R. H. Cloughの著書の新旧両版におけるFringe Benefitsの例示の違い
R. H. Clough の著 書 「Construction Contracting」第14章 には、米 国 の労 働 関 係 (Labor Relations)についてまとめられている。そのうち、fringe benefits に関する記述が新版と旧版では
書かれる順番とサブタイトル及びその内容に若干の変化がある。表は例示された fringe benefits
の項目名だが、新版では項目が若干増えている。また同書の記述ではフリンジの大きさは、平均で
payroll cost(賃金支給額)の30%→32%と若干増えている。このように、フリンジの中身は時代とと
もに変化しているのである。このことには、英国の事例でも説明するが、フリンジ部分の項目そのも
のやその大きさは、その時代の制度の変更と密接であるといえる。 表 R. H. Clough 著”Construction Contracting” 新旧両版でのフリンジの例示項目の違い
フリンジ(fringe benefits)の例示 pension plans(退職年金制度) profit sharing(利益配分制) health and welfare funds(保健福祉資金) life insurance(生命保険) paid vacation(有給休暇) paid holidays(有給休日) employee education(従業員教育) legal aid funds(司法扶助資金) annuities(投資年金) sick leave(病欠) bonuses(ボーナス) supplemental unemployment payment plans(補足の失業支払い計画) retirement(退職金) apprenticeship programs(見習期間プログラム) employee stock ownership plans (ESOPs)(従業員持ち株制度) employee‐sponsored 401(k) retirement savings programs(401k 確定拠出型企業年金) other types of benefits(他のタイプの利益) 新版 (2005) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 旧版 (1986)
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ - ○ - - ○ (注)内容はコントラクターによって異なる。なお、日本語は仮訳である。 新版:R. H. Clough et. al. (2005) chapter 14.3(Employee benefits), p.395 旧版:R. H. Clough (1986) chapter 14.22(Fringe benefits), p.426 (参考資料 2)米国の労務費関係の用語集
下表は労働関係の専門書からの引用である。Pay(or earnings)<Compensation とわかる。本
項で示した米国の統計情報は compensation の部分までフォローされているものといえる。しかし、
雇用する側の企業の労務関係費まで完全にフォローしたものではないと理解できる。 (注)Daniel Quinn Mills, Labor‐Management Relations, Fifth Edition, McGraw‐Hill Series in Management, 1994, p.500 - 14 -
(3)Saylor社の建設物価資料にある労務費の積算例
積算実務上の労務費は、いくつかの建設物価資料に代表的な例が掲載されている。ここでは
Saylor 社 のものを表 3.4に示 す。これは大 工 の場 合 の時 間 単 価 の算 出 例 だが、賃 金 にあたる
wage with fringe に対するサブコンの一般管理費まで含む労務費の比率は、ユニオン(Union)
の場合で1.65倍、オープン・ショップ(Open‐shop)の場合で2.08倍と計算できる。オープン・ショッ
プの場合、フリンジがゼロと計算している。また、その分、3)5)の項目は安いが、4)の監督費は高
めとしている。この辺りの根拠はこの資料では必ずしも明らかではない。しかし、統計情報とは違っ
て、建築コストを把握するための積算資料だからこそ示されるものといえる。 また、その他の職種を含めてユニオンとオープン・ショップとの労務費時間単価の差を図3.5に示
しておく。これは職種別の全米平均値である。 表 3.4 米国の大工の労務費(時間単価)の積算例
Carpenter, General(大工) Union 1) Base Wage(ベース賃金) 2) Total Fringe(フリンジ合計) 3) Payroll Taxes(雇用者負担分の給与税) 4) Supervision(監督費) 5) Workers Compensation(労災補償) 6) Sub Total(小計) 1)~5) 7) Overhead & Profit(一般管理費等) 8) Total(合計) 6)+7) 9) % Wrk Cmp(労災補償の比率)5)÷1) 10) % OHP(一般管理費等の率)7)÷6) 11) 労務費/賃金 8)÷(1)+2)) (注) 33.25 18.55 4.32 1.66 9.40 67.18 18.14 85.32 28.3% 27.0% 1.65 倍 Open‐sho
p 30.3 - 3.61 1.82 8.57 44.3 18.72 63.02 28.3% 42.3% 2.08 倍 Saylor Current Construction Costs 2008, pp.4‐5 より作成。労務費は 8) Total の
部分。金額単位は US$/時。11)は筆者の計算。 Total Hourly Rate
0
20
40
60
80
Laborer, Demolition
Hod Carrier, Brick
Laborer, General
Teamster, 4 yard
Hod Carrier, Plaster
Teamster, 95 yard
Cement Mason
Tile Setter
Operating Engineer, Oiler
Sheet Metal Worker, Deck &
Roofer
Pile Driver
Carpenter, hardwood floorer
Painter, Drywall (Taper)
Painter, General
Operating Engineer, General
Resilient Floorer
Terrazzo Mechanic
Structural Iron Worker
Glazier
Asbestos Worker
Lather
Bricklayer
Carpenter, Drywall
Sprinkler Fitter
Plasterer
Carpenter, General
Sheet Metal Worker,
Plumber
Electrician
Elevator Constructor
100
$/Hour
120
TRADE
Union
Open Shop
Source: Saylor 2008 current construction costs
図 3.5 ユニオンとノンユニオン(オープン・ショップ)の労務費時間単価の差(職種別)
(注)Saylor Current Construction Costs 2008 より作成。 - 15 -
(参考資料 3)米国のユニオンについて
日本の建設技能労働者は元請ゼネコンの雇用ではなく、サブコンの雇用が建前となっている。
一方、米国はユニオン労働者の場合は、工事ごとにゼネコンまたはサブコンとユニオンが結ぶ労使
協約に従ってサブコンに雇用され、ノンユニオン(Open‐shop, Merit‐shop)の場合には職人個人
はサブコンの直接雇用となる。また公共工事の場合はユニオンか否かを問わず Davis‐Bacon 法に
よるユニオン並みの PW 賃金が適用される。戦後は9割近い組織率だった建設の Union も現在は
全米平均約14%程度(表参照)であって Open‐shop にシフトしているが、AFL‐CIO(アメリカ労働
総同盟-産別労働組合会議)傘下の主な14職別組合でも事情が異なり、州による差異も大きい。
このような日・米の違いを把握する必要がある。 図 米国の州別ユニオン組織率(2010 年平均)
出典:http://www.bls.gov/news.release/pdf/union2.pdf 表 ユニオン建設労働者の比率
Year 図 建設・職種別のユニオン組織率(2005 年)
出典: CPWR, The Construction Chart Book, 2007 の図 11c, “union membership, by selected construction occupation, 2005(Wage‐and salary workers)”を引用
- 16 -
1947
1953
1965
1973
1983
1995
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
(注) 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 全建設労働者 (千人) - - - - - - 6,944 7,263 7,080 7,126 7,550 8,053 8,444 8,561 7,652 6,613 6,103 うちユニオン (千人) - - - - - - 1,212 1,228 1,179 1,139 1,110 1,057 1,097 1,193 1,195 993 838 ユニオン比率 (%) 8 1 8 .8 41.4 40.1 22.9 17.7 17.5 16.9 16.7 16.0 14.7 13.1 3.0 1 .9 15.6 15.0 13.7 BLS 調べ。1995 年以前は田村他(2000)p.88。 (4)Means社の建設物価資料にある労務費の積算例
R.S. Means 社のコストブックにも積算上の労務費算定のための資料がある。職種別に示された
図3.6はその一部分である。英語のままであるが、各欄の説明が載っている。前出の Saylor 社のも
のよりも説明的になっている。 図 3.6 R.S. Means Building Construction Cost Data 2009 の後ろ扉頁にある労務単価算出例
以下、簡単にこの表の見方を簡単に書き記す。 A 欄はフリンジベネフィット付きの基本賃金(ベースレート)で、時間単価と日額単価が書かれて
いる。このレートは職種別にユニオンが決めたもので、ここでは、その全米30都市平均値が示され
ている。雇用者が支払うフリンジベネフィットの内容は、有給休暇手当、健康保険や年金の雇用者
負担分に加え、教育訓練費や建設産業への貢献するファンドのコスト等である。 B 欄は各職種別の労災補償費の全米各州平均のレート。A に対する比率で示されている。 C 欄は労務関係の経費で、全職種の全米平均値(16.3%)で出している。内容内訳は連邦と各
州の失業保険費(6.2%)、社会保険税(7.65%)、工事リスク保険費(0.44%)Public Liability 費
(2.02%)である。 D 欄と E 欄は各雇用会社の一般管理費と利益に当たるものである。各職種別の事情や地域な
どを反映して決定されるべきもので、年商400万ドル以上を目安に計算されたものだが、小規模な
ものは高くなる。 F 欄は B~E 欄の単純合計で、G 欄はその大きさ。そして、H 欄は A+G の合計値(時給単価)
で、I 欄はそれを日額単価になおしたものである。 最後の H・I 欄が労務費に相当する。これと A 欄の数値との比率は、35職種の平均(Skilled Workers Average)でみると、$63.25÷$40.85=1.548倍と算出される。 - 17 -
(参考資料 4)労災補償費の目安
米国では前ページ図3.6の B 欄の労災補償費は職種や地域によってかなりのバラツキがある。そ
のことを解説した資料 を示す(下図)。それによれば、全 米全 職種のウェイト付き総平 均値は
16.73%と計算している。その根拠は、労務コスト(labor cost)に対して、最も低いもので2.4%、最も
高いもので137.6%となっている。そこで、労災補償費が占める大きさを、建物のタイプ(オフィス、学校 図 労災補償費率の平均を計算するシート(R.S. Means 社資料)
(注)R.S. Means Building Construction Cost Data 2009, p.748 - 18 -
やアパート、工場)別の各職種の投入ウェイトを示して、それぞれを掛け合わせることで、それらの
労災補償費の比率を求めている。3タイプの単純平均値が16.73%となる。また、その下の表は全
米各州の平均値を求めたものである。 また、次の一覧表(下図)は各職種の全米各州における労災補償費率を示したものである。かな
りバラツキが大きいことが確認できる。 図 労災補償費率の全米全職種の計算値マトリックス
(注)R.S. Means Building Construction Cost Data 2009, p.749 - 19 -
(5)Collective Bargainingにおける項目とその関係(CLRC資料の検討)
Construction Labor Research Council(CLRC)は Union 関係の機関であり、定期的にさまざ
まな調査データや下記に示す労使間の Collective Bargaining(団体交渉)の決定額などを公表
している。2009年の数値を参考として示す。 表 3.5 団体交渉における Terms and Conditions Costs
60
(全米・全職種平均)(2009 年)
時間当
Controllable Items Overtime(残業) $1.29+ Shift Premium(シフト作業の割増) $0.29§ Semi‐or Non Controllable Items Show‐up pay(現場に出たが作業できなかった保証) $0.35* Time Paid, Not Worked(作業しなかったが支払われた時給) $0.34* Manning Restrictions(人員配置の支障) $0.26* Fringes Paid on Hours Paid(支払われた時給に対するフリンジ) $0.24* Holiday(休日手当) $0.12§ $0.09* Subsistence Pay(生活手当) Premium Pay(プレミアム手当) $0.06+ Travel Pay(出張手当) $0.02* 計 $3.06 (注)Construction Labor Research Council(CLRC), ʺCost of Terms and Conditions in Collective Bargaining Agreementsʺ, March 2009 による単価
データと筆宝・田村他(2000)p.89 による下記のコメント。計$3.06 は賃金(wage + fringe)の 6.4%に相当するとある。平均賃金を逆算すると表 3.7 の$47.72(b欄の
加重平均の値)とほぼ符合する。表 3.7 のi欄も参照。 *:Open‐shop Contractor の場合は普通支払わない。 § :Open‐shop Contractor の場合はほとんど常に 1.5 倍で支払われる。 +:Union Contractor の場合約 10%が 2 倍で支払われている。 50
40
30
20
10
0
Source: Construction Labor Research Council
(CLRC), "Cost of Terms and Conditions in
Collective Bargaining Agreements "
2003
2004
2005
2006
a Wage
b Wage & Fringe
c Wage, Fringe, Other
d Total Cost
2007
2008
2009
図 3.7 2003~2009 年の推移
(注) 2008年データは不明。表3.6の加
重平均値部分の経年変化をみた
もの。 表 3.6 一括交渉における職種別の賃金等の内訳(2009 年)
U.S. Average 全米平均
a Wage b c Wage & Wage, Fringe Fringe, Other
d Total Cost e f g h i Fringe Other Term & Condition
s Costs
d/b d/a b‐a c‐b d‐c 1 Asbestos Workers 31.29 49.05
49.56
54.45
1.11 1.74 17.76 0.51 4.89 2 Boiler Makers 33.07 51.64
52.12
55.79
1.08 1.69 18.57 0.48 3.67 3 Brick Layers 30.22 46.42
46.82
50.00
1.08 1.65 16.20 0.40 3.18 4 Carpenters 32.01 48.13
48.56
51.27
1.07 1.60 16.12 0.43 2.71 5 Cement Masons 29.07 44.05
44.51
47.27
1.07 1.63 14.98 0.46 2.76 6 Crane Operator 34.91 51.85
52.43
56.77
1.09 1.63 16.94 0.58 4.34 7 Electrician 34.43 53.46
53.91
57.75
1.08 1.68 19.03 0.45 3.84 8 Elev. Const 40.37 62.59
63.14
67.37
1.08 1.67 22.22 0.55 4.23 9 Iron Workers 28.88 46.08
46.62
50.15
1.09 1.74 17.20 0.54 3.53 10 Laborer 25.80 38.82
39.31
41.25
1.06 1.60 13.02 0.49 1.94 11 Mill Wrights 27.16 45.56
46.07
48.62
1.07 1.79 18.40 0.51 2.55 12 Painters 30.82 43.73
44.26
47.64
1.09 1.55 12.91 0.53 3.38 13 Plasterers 23.76 34.85
35.28
37.03
1.06 1.56 11.09 0.43 1.75 14 Pipe Fitters 34.77 53.28
54.19
57.42
1.08 1.65 18.51 0.91 3.23 15 Plumber 37.45 54.11
55.39
58.18
1.08 1.55 16.66 1.28 2.79 16 Sheet Metal 31.81 49.33
49.96
52.90
1.07 1.66 17.52 0.63 2.94 17 Team Sters 30.53 45.95
46.31
49.05
1.07 1.61 15.42 0.36 2.74 加重平均 31.47 47.72
48.26
51.32
1.08 1.63 16.25 0.54 3.06 (注 1) Construction Labor Research Council (CLRC), ʺCost of Terms and Conditions in Collective Bargaining Agreementsʺ, March 2009(Data as of 1/1/2009), p.6 より作成。 (注 2) a~d 欄は元資料で e 以降は筆者の計算。g 欄はフリンジにあたる。h 欄は c 欄にみえる Others だが詳細は不明。i 欄は
d 欄と c 欄の差を計算したものだが、これが表 3.5 の合計値と符合するので、Terms and conditions costs と表示した。
この表のそれぞれが意味する内容ははっきりと分からないが、このような関係にあることを付記する。また、賃金及びフリン
ジ付きの賃金に対する総トータル労務コストの比率を計算したのが e 欄及び f 欄である。なお、これらは図 2.1 で示した労
務費÷賃金に相当するものではない。 - 20 -
この資料で示されたトータルコスト(表3.7の d 欄)の数値はやはり compensation に該当する数
値と思われる。 (6)その他の情報
それ以外では、州政府のDept. of Industrial Relations等が公表するPrevailing Wage (PW)
情報がある。この情報はカウンティ毎を基本に主な職種別に示されるもので、Davis‐Bacon法によ
って2000ドル以上の公共事業に従事する技能労働者が受け取る賃金に対しては、その水準を下
回ることができない。それは、職種別のユニオンが示す賃金水準に近いものだとされている 9 。フリ
ンジに関する情報もあるようだが、基本的に賃金部分のみであり、労務費に相当する情報は示され
ていない。不思議なことに、賃金額については短い頻度で更新されているようで、検索したカリフォ
ルニア州の例では10日間の有効期限しかないことが書かれていた。なお、各職種に関しては、各
州公認の教育プログラム(state‐approved apprenticeship or training programs)が用意されて
おり、最低限の教育内容を決めている。これが建設技能労働者のそうした賃金水準に対する担保
となっている 10 。 ほかに、Open‐shop を推進する ABC (Associated Builders and Contractors)や調査会社
PAS (Personnel Administration Services, Inc.) 、 両 者 に 係 る AGC (Associated General Contractors of America)等が公表する労務費の情報がある。また本稿の冒頭に示した ENR の
Quarterly Cost Report や R.S. Mean や Saylor Inc.など出版物掲載のデータは積算実務で利用
される。このように米国ではこの分野に関する情報源は多様である。 Sidney M. Levy, Project Management in Construction, fifth edition, McGraw‐Hill, 2006, p.37 等。 本題から若干外れてしまうが、技能労働の定義を行い、それに見合った教育プログラムを用意し、公共事業では一定水準以
上の賃金額を保証するというように、かなり手の込んだ労働政策を連邦レベルでも、各州のレベルでも取り組んでいることがわか
る。一方これは、民民間の取引に関することだからととくに口を挟まない日本の労働行政のあり方とは大きな違いがあると言うべ
きであろう。この点に絡み、近年、千葉県野田市や川崎市等の地方議会でいわゆる「公契約法」に関する取り組みが盛り上がっ
ているのも、一つの新しい流れにはなっている。 9
10
- 21 -
3.3 英 国
(1)建設産業合同労使協議会(CIJC)の労働協約について
英国のSPONの物価版などに掲載されている情報に、Working Rule Agreement(作業規則協
約)と呼ばれる労働協約がある(図3.8、表3.7)。これは5000社を超える加盟で産業全体の75%を
代表しているとされる 11 建設連合(Construction Confederation—CC)を中心とする使用者側と、
建設関係の労働組合(Union)等が代表している労働者側によって成り立つ労使協議会で、ほぼ3
年ごとにその条件が見直されている。この協約そのものには法的拘束力はないようだが、Union所
属の組合員 12 はもとより、非組合員との雇用契約においても基準となるものであり、ひとたび雇用契
約すればそれが法的効力を持つことになる。 図 3.8 WRA のうち基本給・加給にかかる部分(WR.1)の合意内容
(注) CIJCのメンバーの一つであるNSCC(National Specialist Contractors Council:全国専門工事業者会議)のウェッブ
ページより ( http://www.nscc.org.uk/guidance/documents/CIJCWorkingRuleAgreement‐June2010.pdf ) 和田肇他(2003)p.265 同書 p.266 によれば、建設産業の組合組織率は民間部門 14%、公共部門 69%で全体では 19%だという。また、労働協約
の適用を受ける被用者の割合は、民間部門 17%、公共部門 85%、全体では 23%(被用者数 25 人未満で 12%、25 人以上で
33%)。 11
12
- 22 -
産業革命が最も早く起きた英国では労働法の基礎は既に第一次世界大戦前には固まっていた
とされている。1871年代の労働組合法、1906年の労働争議法を代表とする労働法の改革によって、
英国の労働法は2つの特徴を持つとされている 13 。 1.
制定法による労使関係への介入が極力回避され、労働条件は使用者と労働組合の自
由な団体交渉によって決定されることになった 2.
労働組合に対する制定法による干渉も保護も極力排除された つまり、「他の西欧諸国が団体交渉制度の普及につれて特別の協約立法や法理を用意したの
とは対照的に、労働協約は法的拘束力を持たないという独特の理解が定着した」 14 とされている。
しかし1999年雇用関係法によって、前述のように労働者の使用者が組合を承認した場合や、雇用
契約中に労働協約に定める条件が雇用契約の内容となる旨の約定がおかれた場合には、一般に
労働協約での規定が法的な拘束力を当然持つと解されているようだ。 なお、The CIJC(Construction Industry Joint Council)は下記により構成されている。 The union side: (ユニオン側) 1. Union of Construction, Allied Trades and Technicians (UCATT)建設関連職業・技師労働
組合 2. Transport and General Workersʹ Union (T&G/Unite) 運輸一般労働者組合 3. The GMB (BRITAINʹS GENERAL TRADE UNION) ジー・ビー・エム(GBM) The employer’s side comprises: (使用者側) 1. Construction Confederation 建設総連盟 2. Civil Engineering Contractors Association (CECA) 土木請負業協会 3. National Federation of Builders (NFB) 全国建築業者連盟・・・中小ゼネコン 4. Home Builders Federation (HBF) ホームビルダー連盟 5. UK Contractors Group (UKCG) 英国建設業者グループ・・・大手ゼネコン 6. Scottish Building (SB) スコットランド建築協会 7. National Specialist Contractors Council (NSCC) 全国専門工事業者会議 8. National Federation of Roofing Contractors (NFRC) 全国屋根葺き工事契約者連盟 9. National Association of Shopfitters (NAS) 全国店舗設営者組合 10. Painting and Decorating Association (PDA) 塗装修飾協会 11. National Association of Scaffolding Contractors (NASC) 全国仮設業者協会 (注)資料には The CIJC Working Rule Agreement covers around 600,000 construction workers(労働協約
は約 60 万人の建設労働者をカバーする)とある。上記の日本語は仮訳。 CIJC の労働協約は表3.7のような30項目にも亘る内容について定められている。表中で●や○
が打ってある項目は、直接・間接に賃金や労務費にからむと思われる事項である。これがベース賃
金の水準を決めていると同時に、付加給付(フリンジ)分に関わる部分の取りきめであり、建設技能
労働者の賃金はある程度これに沿った実態になっていると考えられる。 前ページの図3.8に示した WR(Working Rule)1.の賃金表は CIJC 協議会において、ほぼ1年に
一度改訂されているようである。一般的な建設作業に従事する労働者を対象とした職種について
規定されていて、特別な技能職については別途加算されるようになっている。WR.1の面白いところ
は、一般的な職種についても技能による差をあらかじめ設けていることである。 13
14
この辺りの記述は和田肇他(2006)の pp.245‐250 を簡単にまとめたものである。 同書 p.247 - 23 -
表 3.7 労働協約(CIJC-WRA)の項目一覧
燃料補給、点検、整備および修 WR.21● 給付制度 Benefit schemes 理 Refueling, servicing, maintenance, and repairs 用具の保管 WR.22 苦情処理手続 Grievance procedure Storage of tools 衣服の紛失 WR.23 懲戒手続 Disciplinary procedure Loss of clothing 配置転換 WR.24 雇用の終了 Termination of employment Transfer arrangements 支度金 WR.25 労働組合 Trade unions Subsistence allowance 定期休暇 WR.26 とび工 Scaffolders Periodic leave 週最低保障給 Guaranteed WR.27 健康安全および福利厚生 Health safety and welfare minimum weekly earnings 年次休暇 WR.28 参照期間および定義 Reference Annual holidays period and definitions 公的休暇 WR.29 補足協約 Supplementary agreements Public holidays 建設産業傷病手当額および支 WR.30 協定の有効期間 Duration of agreement 給期間 Amount and duration of payment of industry sick pay (注)和田肇他(2006)及び Laxton Building Price Book 2007, pp.689‐705 より作成。●印は直接に、また○印は間接的に金額に
関わる取りきめと思われるものである。(未確認) WR.1● 基本給および付加手当を受け WR.11○
取る権利 Entitlement to basic and additional rates to pay WR.12●
WR.2● ボーナス Bonus WR.3 労働時間 WR.13○
○ Working hours WR.14 WR.4● 時間外労働に対する割増率 Overtime Rates WR.5● 日毎の交通費および移動手当 WR.15●
Daily fare and travel allowance WR.16 WR.6 輪番交代制勤務 Rotary shift working WR.7 深夜労働 WR.17●
○ Night work WR.18○
WR.8 継続勤務 Continuous working WR.19○
WR.9 潮汐労働 Tide work WR.20●
WR.10 トンネルでの労働 Tunnel work それを具体的に見ておこう。図3.8のWR.1の表を改めて翻訳して示す(表3.8)。この表が示すの
は、各職種において基本的に6段階で技能のレベルを設定して差を付けていることである。一般作
業員を基準にすると一番高い特殊技能工は付加手当付きの基本賃金は1.33倍になっている。図
3.1に示した日本の軽作業員や普通作業員と特殊作業員との差に該当するのかどうかはよく判断
できないが 15 、その程度の差だと見られなくもない。しかし、たとえば日本の鉄筋工は各県での単価
は1本であるのとは大きな違いである。また、もう一つの特徴は、週39時間の週賃金での表示が基
本になっていることである。この点は日本の8時間当たり日額での計算とは違う。この点は英国の場
合、労働時間の規制を意識して決めているようだ。 この賃金表はほぼ1年毎に改訂されており、その推移をみると近年は上昇を続けていた。 表 3.8 WR.1 作業員の基本給と付加手当
区分 時給(ペンス)
一般作業員 General Operative 技能工 等級4 Skill Rate 3 2 1 特殊技能工 Craft Rate (775) (835) (885) (946) (982) (1030) 週 39 時間ベース の週賃金(£) 302.25 325.65 345.15 368.94 382.98 401.70 参考 (格差:倍) 1.00 1.08 1.14 1.22 1.27 1.33 (注)2010 年 6 月 28 日からの適用額。ボーナス・スキーム等で調整されることは無い合意レート。参考欄は筆者。 15 図 3.8 の次の表 WR.1.5.2 は訓練中の見習い(apprentice)の賃金を決めた表である。こちらが日本の軽作業員に該当すると
考えてみると、普通作業員と特殊作業員の差は英国での差(1.33 倍)よりも小さそうである。それにしても見習いにおいても少な
くとも 3 年間分の賃金差をみている英国は日本よりも細かな設定をしているといえる。NVQ は英国における国定の技能訓練制
度であり、数値はその資格等級をしめすものである。日本もこれくらいの賃金格差を設けるとずいぶんとよい能率刺激になるので
はないかと思われる。 - 24 -
(2)SPONの建設物価版にある労務費の算出例
英国については、賃金(Wage Rate)より施工単価に入れる労務費の算出について、SPON の
プライスブックに次のような例がある。比較のために現在と15年ほど前のものをその根拠と共に示す
(表3.9と3.10は日本語訳、次頁からの図3.9、3.10は原文)。それぞれ表3.8にある一番上と下の技
能職を採って計算してある。また、この積算資料からは wage の大きさと fringe の内容が分かる。2
時点で項目の名称は異なり、2008年版は若干項目数が減っているし、計算の方法にも変化がある。
時価単価で比較してもこの10年間で2倍弱の上昇があったようである。 表 3.9 単位労務費(昼間)の算出例(英国;2008 年)
Craft Operatives General Operative (職長級) (一般労働者) ・基本賃金: 46.2 週 363.48 ・追加支払分: 可能であれば - ・小計 ・国民保険: 12.80% above EP (46.2 週@£100.00pw) ・休暇給: 226 時間 9.32 ・保険: 52 stamps 10.90 ・訓練給: 0.5% of 18,899.10 ●年間総トータル: ●時間単価:1802 時間で割る £16,792.78 - £16,792.78 273.39 - £12,630.62 - £12,630.62 £1,558.12 £2,106.32 £566.80 £94.50 £21,118.52 £11.72 7.01 10.90 14,214.88 £1,025.36 £1,584.26 £566.80 £71.07 £15,878.11 £8.81 資料:Davis Langdon & Everest, ʺSPONʹs Architectsʹ and Buildersʹ Price Book 2008ʺ, p.841(次頁に原文) (注 1) National Insurance の算出は Craft Operatives の場合、(£16792.78-46.2 週×£100)×12.8%で計算。 (注 2) 標準年間労働時間の算出は、52 週×39 時間-163 時間(年間休暇)-63 時間(公休)=1802 時間。 表 3.10 単位労務費の算出例(英国;1999 年)
(金額単位:£)
職長級(Craft Operatives) 基本レート ・生産時間 44.30 週 159.71 7,074.93 144.37 ・許容遊び時間 0.90 週 159.71 7,219.30 ・National Working Rule(WR.3,17,18)による付加給与 46.80 週 2.05 95.94 ・病気休暇 1 週 - - ・訓練給* 1 年 19.83 ・公休暇 1.60 週 159.71 255.53 ・雇用者賦課金** 47 週 18.85 885.95 651.04 ・国民保険 47.8 週 13.62 9,126.69 136.90 ・退職手当 プラス 1.5% 9,263.59 ・雇用者保険 プラス 2.0% 185.27 ●年間総トータル 9,448.86 ●時間単価 5.47 労働者(Labourers) 136.11 136.11 6,029.67 123.04 6,152.72 4.11 - 136.11 18.85 11.81 1.5% 2.0% 192.35 - 16.41 217.78 885.95 564.52 8,029.72 120.45 8,150.17 206.43 8,313.17 4.81 資料:Davis Langdon & Everest, ʺSPONʹs Architectsʹ and Buildersʹ Price Book 1993ʺ, p.164‐165(次次頁に原文) 注)*:Construction Industry Training Board (CITB) の取り立て分。支払給与総額の 0.25%である。 **:年間休暇、事故による怪我、退職、死亡に対する準備金 - 25 -
図 3.9 2008 年版における労務費の算出例
(注)Davis Langdon & Everest, ʺSPONʹs Architectsʹ and Buildersʹ Price Book 2008ʺ, p.841 - 26 -
図 3.10 1993 年版における労務費の算出例
(注)Davis Langdon & Everest, ʺSPONʹs Architectsʹ and Buildersʹ Price Book 1993ʺ, pp.164‐165. - 27 -
(3)CIOBの積算マニュアルにおけるフリンジの記述
CIOB(The Chartered Institute of Building;建築協会)の
積算マニュアル(Code of Estimating Practice 2009年版;右の図
3.11に表紙の写真)に労務単価算出方法に関する記述 16 があ
る。具体的には、Estimating all‐in rates for labourの項(同書
p.51‐55) で 、 下 記 の よ う に ① 労 務 単 価 に 含 ま れ るも の( (a) ~
(m))と②共通費に含まれるもの((n)~(q))に分けて書かれてい
る。第6版の同様の解説記事内容と若干異なっていることに留
意しつつ、項目名と読み取れる簡単な解説を記す 17 。また、図
3.12に①部分の計算例を示す。 この計算例で賃金(wage with fringe)にあたるのが(a)~(e)
だと考えると、労務費(labour cost)は n. Annual cost per craft operative 欄の数字であるから、Craft operative の場合で労務
図 3.11 CIOB 積算マニュアル
(第 7 版 ;2009 年)
費/賃金=13,061/(8569 + 954 + 298 + 60)=1.322倍となる。 ①Labour costs normally contained in the all‐in rate(労務単価の構成) (a) Guaranteed minimum wages・・・WRA で決まる基本賃金 (b) Contractor’s bonus allowance・・・ボーナス手当(なお、allowance の意味は不明) (c) Inclement weather allowance・・・天候不順によ
る仕事がないときの手当(週
給単位で(a)に含める) (d) Non‐productive overtime cost・・・標準労働時間
(normal working hours: 1871 時間/年)を超える残業
時間の労働コストに加えられる
一般管理費的なもの。
NWR7。 (e) Sick pay・・・NWR16。8 日間
のうち最初の 3 日は支払われ
ない。4 日目からの 5 日間分
(@£12.10 60£) (f) Trade supervision・・・非生
産時間の部分にあたる監督費
で、通常はプロジェクトのオー
図 3.12 Craft operative の全て込みの労務費単価の計算例
バーヘッドに含まれる。 (注) 同書の p.85 の付録部分に掲載されたもの。数値は 1996‐97 年の情報
(g) Working Rule Agreement に基づくもので、若干古い(1996.7.27 時点での計算)。 allowances・・・NWR3, NWR4 で決まる付加給付分 CIOB, Code of Estimating Practice, Seventh edition, 2009 の pp.51‐55 の§6.3 Estimating all‐in rates for 16
labour と pp.75‐77 の§6.9 PC and provisional sums における Labour の計算部分、pp.81‐86 の Appendix に
おける計算例。図 3.12 は最後の資料にある説明のまとめである。なお、第 6 版の該当箇所は pp.81‐90 の§7.3 Estimating all‐in rates for labour, §7.4 Calculating an all‐in hourly rate for labour) 17 NWR は National Working Rule の略であるが、この番号が前出の表 3.7(WRA)と整合的でない理由は不
明。 - 28 -
(h) CITB training contributions:・・・教育訓練費として CITB(Construction Industry Training Board)のスキームに従い、年間支払給与総額 payroll の 0.25%、self‐employed 及び労務の
みのサブコンの 2%分にあたる Levy(徴税)を支払う。 (i) National Insurance Contributions・・・国民年金、週給をもとに計算され 6 段階になっている。 (j) Holiday Credits・・・年休・公休。1 週間で 19.60£(死亡給付金 2.05£を含む) (k) Tool allowances・・・工具費のこと。NWR18 で決まる。(大工の場合では週 1.96£) (l) Severance payments・・・退職金:法定スキーム。その他のコストで、労務費の 2%程度を見込
む。内訳としては、Severance pay(退職金), Loss of production during notice(待機時間), Absenteeism(計画的欠勤、無断欠勤分), Abortive insurances(損害保険分)。 (m) Employer’s liability insurance・・・通常プロジェクトのオーバーヘッドに含まれる。 ② Labour costs normally contained in project overhead(共通費に含まれる労務費の内容) (n) Daily travel allowance・・・移動(片道分)にかかる経費。交通費実費も含まれることがある。こ
れも NWR14 で決められる。 (o) Periodic leave and lodging allowance・・・移動費・宿泊費。NWR15 で決められる。 (p) Supervision・・・監督費。 (q) Attraction money・・・募集費(建設現場の地域的な特性を考慮したもの)。 図 3.13 年間標準労働時間(1871 時間)の算定部分
(注) CIOB, Code of Estimating Practice, Seventh edition, p.81, 2009 より。夏期間(30 週)は月~木曜日が朝 8 時から夕方 5
時半までで金曜日が 1 時間早く終わる計算で 44 時間、冬期間(22 週)はそれぞれ 1 時間短い 39 時間で計算している。 - 29 -
なお、下記に②の部分の計算例が載っている箇所を示した。Incidental(付加的な)コストは51%
という記述がみえる。すなわち、このマニュアルでは図3.12で計算した Craft Operative における1
時間当たりの労務単価£7.12(図3.14では£7.14となっている)に対して、サイト・スタッフ・コスト(現
場管理費)7%、本社経費5%、利潤5%を加えた時間単価£8.42が全て込みの労務費単価(図
2.1の A+B に相当)であり、これは、フリンジ込みの賃金に該当すると思われる下図(a)の合計単価
£5.56(図2.1の C に該当)に対して151%の大きさに当たることになる。 図 3.14 英国建築協会マニュアルにおける労務単価(daywork labour rates)の算出例
(注)CIOB, Code of Estimating Practice, Seventh edition, p.76, 2009 - 30 -
第4章 まとめと考察
4.1 日本の労務費の内容構成等を示すデータ
これまで米国と英国についての賃金だけではない労働コストについてのコストブックや実務マニ
ュアルの内容や公的な統計資料のいくつかを例示的に示した。それでは日本はどうかというと、3.1
節でも述べたことであるが、賃金部分についての情報はいくつかあげられるものの、労働コストに該
当する情報はその手がかりが非常に少ない。残念ながら、公刊されている日本のコストブックや公
的な統計にはその片鱗さえない。この種の情報は未だに研究段階の資料に散見される程度である。
以下ではそれらの幾つかを取り上げてみる。 (1)日本の法定福利費の内容と積算上の取扱い
賃 金の他に労 働関 係 費 (法定 福 利
費)として表4.1のような本人負担、事業
主負担の費用が別途発生するはずで
ある。この限りであれば、別に上記のよ
うな統計や調査の必要性は薄いが、こ
の通りに支払われる労働者は限られて
いる実態がある。図4.1は平成23年3月
末に公表された国土交通省調べのデ
ータである。公共事業労務費調査のデ
表 4.1 建設業の社会保険料と労使の負担
負担率 被保険者負担 事業主負担
健康保険料 半分 半分 82/1000
介護保険料 半分 半分 12.3/1000
厚生年金保険料
半分 半分 153.50/1000
児童手当拠出金
なし 全部 1.3/1000
労災保険料 なし 全部 14~118/1000
雇用保険料 18/1000
7/1000 11/1000
計(建築事業) 282.1/1000
130.9/1000 151.2/1000
給与
30 万の時
84,630 円
39,270 円 45,360 円
(注) 値。健康保険は政府管掌健康保険の場合(近年地域別の料
ータで社 会 保 険 加 入 状 況 を調 べたも
率設定となった)で土建 国保は若 干異なる。計は労災保 険を
のだが、その加 入 率 は土 木 工 事 では
71%、建築工事では64%となっている。
負 担 率 は 被 保 険 者 の給 与 に 対 する 比 率 。H21.3 時 点 の 数
建築事業(15/1000)で算出。 そして下請次数が下がるほどその値はもっと小さくなっている。これに対しての対策が現在各方面
でいろいろと議論されているところである 18 が、このことは適正な労働条件の確保についての制度
が整い運用されている米国や英国では全く考えられないことであろう。少なくとも米国や英国では、
労務単価を算出する積算用のマニュアルでは必ず計算される項目である。 一方、日本の公共建築工事の積算上の労務費の扱いでは、そのような計算方法に拠らず、「そ
の他経費率」を設定して賃金分に加える部分の経費の計算値を出しているに過ぎない。それは、
工種により異なるが、上述の設計労務単価に対し12~20%を下請経費分として計上するルールに
なっている。このような「下請経費率」が想定された経緯については、筆者は詳しく知らない。また、
英・米や次に見る日本の研究事例では労務費の大きさは全体として賃金の1.5倍程度になってい
る例が多かったことから、12~20%という大きさが充分なものかどうかについてはいろいろと議論の
あるところであろう。 18 例えば、国土交通省の「建設産業戦略会議」(座長:大森文彦(弁護士・東洋大学法学部教授))や「建設技能労働者の人
材確保のあり方に係る検討会」(座長:蟹澤宏剛(芝浦工業大学工学部教授))等での議論がそれに該当する。これらにおいて、
社会保険未加入業者の排除がうたわれており、目下の政策的課題となっている。 - 31 -
図 4.1 2011 年 3 月末の国土交通省の公共事業労務費調査で参考公表された社会保険加入状況調べ
(2)労務費と賃金の関係に関する研究例
以上述べてきたように、日本では賃金に関する統計や積算根拠はあるものの、労務費に相当す
る費用の計算についてはほとんど根拠となるものがないという実態がある。この点については、日本
建築学会等での研究者による調査事例が何件かある程度である。以下、その事例について簡単
に取り上げ紹介しておこう。 労務費と賃金との関係については、工学院大学の遠藤研究室調査によるものがある(小野・遠
藤(1998))。この研究では、英米のコストブックなどから労務費と賃金の情報を得て、それらの比率
を計算している(図4.2の表1)。また、技能労働者を雇用する建築系の1次サブコン調査での基準
日額換算による算出値として、労務費÷基準賃金=1.53倍と報告している(図4.2の表2)。 また、日本建築学会建築経済委員会(1999)の労働関係の小委員会では、ある専門工事業者
の経費シミュレーションを当該社の経営資料を元に行った(図4.3)。本人への支払賃金を1とすると、
必要な労務単価は1.505倍(厚生年金、年次有給休暇分を除く)~1.639倍(厚生年金、年次有給
休暇分を含む)になると報告している(図4.3は前者のみで、後者の報告は割愛)。 しかし、いずれも事例調査の域を出ず、それ以上の大サンプルによる本格調査や統計はなく、
日本の実態はよく分からないのが現状である。 - 32 -
図 4.2 賃金と労務費の関係に関する研究例 1
(注) 小野・遠藤(1999)による。表 1 では世界各国の労務費÷賃金の算出例を示している。また、表 2 は 1 次サブコンである O
社の内部資料によって、その値を 1.53 倍であると計算している。その内訳も大きく 3 区分して報告されている。 図 4.3 賃金と労務費の関係に関する研究例 2
(専門工事業モデル X 社の事例による労務費を中心とする原価の検討例)
(注) 日本建築学会建築経済委員会「労務コストから展望する 21 世紀の建設産業」, 1999.9.18, pp.26‐27 より。専門工事業
のモデルとして、X 社の事例を調べた結果、労務費÷賃金の値が 1.505 倍となっているという報告である。その内訳も
報告されている。 - 33 -
4.2 まとめと考察
以上、雑駁な資料の羅列にしか見えないことを畏れるのであるが、米国や英国の積算を中心と
する資料や統計によって、賃金と労務費は厳密に区別されていることと、それぞれの大きさについ
ての何らかの根拠データが存在することを示した。一方、日本は幾つかの研究事例を除くと、賃金
についての情報はいくつかあるものの、労務費に該当する情報を引き出せるような直接的な情報
が皆無であることを指摘した。予定価格算定上は、公共工事設計労務単価で示された51職種別
都道府県別の各年度単価を標準歩掛りを元に工種別単価に変換して適用しているのみである。
その際に、公共建築積算では「下請経費率」と称して、労務費と賃金の差に阿ある部分を工種に
応じて12~20%の一定率で計上している。その一定率の根拠は残念ながらよくわかっていない。そ
れが多いのか少ないのかについては何らかの統計的根拠が求められるところである。 <参考文献>
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