臨床心理学から見た 中高年女性の危機と発達

JOIN広島 講演会
臨床心理学から見た
中高年女性の危機と発達
広島大学大学院教育学研究科
岡本祐子
成人女性のライフサイクルの複雑さ
1.ライフコースの多様性
2.アイデンティティ(=キャリア)に関わる意思決定
の複雑さ
3.ケア役割への関与
「危機」という言葉の意味
Æ
発達的な分かれ目・岐路
・さらなる成長・発達, または
・「退行」・破局
・自分の心と体の変化をどう受け止め、
・どのように取り組み、問題を解決していくか。
・専門家はどのように援助したらよいのか。
心理的変化
生物学
(身体)
的変化
家族における
変化
職業における
変化
自己の有限性の自覚
体力の衰え・老化・
寿命の限界の自覚
ホルモン活動の低下
閉経
家族構造の変化
・親役割の減少と終結
・子どもの自立(への試み)
夫婦関係の見直し
老親の介護・看取り
職業的達成・昇進/挫折
仕事の上での限界感の認識
生活習慣病の
増加
更年期障害
空の巣症候群
台所(主婦)症候群
アルコール依存症
キッチンドリンカー
離婚・家庭内離婚
職場適応障害
上昇停止症候群
うつ
アルコール依存症
図2 中年期危機の構造
(岡本, 2002a)
中年期女性の体験する心身の変化
1.身体的レベル
・閉経による女性美の喪失と老化の現実----喪失感
・癌や成人病への直面---不安
2.家族レベル
・子どもの成長による母親としての役割の終結---喪失
感・荷下し感
・親や友人との死別・分離体験 ---孤独感
・夫や自分の定年退職・現役引退後の生活の心配—不
安・葛藤
3.社会的レベル
・有職女性の場合、職場での責任の増加 --心理的、
肉体的負担・葛藤
中年期危機の中核的問題と次元
1.自己の有限性の自覚と受容
・もう若くはないという実感
・残された時間には限りがあるという意識
2.人生前半期に積み残してきた葛藤・問題の顕在化
・育ちの中での未解決の葛藤・課題
・家族(特に子ども)に対する親としての責任やあり方
・青年期の「人生の夢」の実現
Æ 「アイデンティティの再体制化」の必要性
表1 中年期のアイデンティティ再体制化のプロセス
(岡本,1985)
段階
内
容
Ⅰ
身体感覚の変化の認識にともなう危機期
・体力の衰え,体調の変化への気づき
・バイタリティの衰えの認識
Ⅱ
自分の再吟味と再方向づけへの模索期
・自分の半生への問い直し
・将来への再方向づけの試み
Ⅲ
軌道修正・軌道転換期
・将来にむけての生活,価値観などの修正
・自分と対象との関係の変化
アイデンティティ再確立期
Ⅳ
・自己安定感・肯定感の増大
中年期の心理療法における
ライフレヴュウ(人生の回想)の重要性
„
„
自己の有限性の自覚
「これまでのアイデンティティでは自分をささえきれない」
という意識
Æ 抑鬱感
心理療法において
・喪失感・抑鬱感、そこに至るプロセスの吟味
・これまでの人生の欠落した部分、影の見直し
・現実の自分のあり方・生き方の中に統合する
将来の自分
老年期
個としての自分の
あり方
関わりのある人と
自分のあり方
●
現在の自分
自己
身体
中年期
(更年期)
●
●
●
家族
●
「垂直軸」(時間軸)
での自己の見直し
青年期
職業
●
●
社会
●
■
過去の自分
成人初期
●
●
●
■
■
■
●
■
■
●
■
■
「水平軸」での自己の見直し
図3 人生の転換期における「自己の見直し」の視点
■未解決の課題・葛藤
●重要な他者
アイデンティティ再体制化
の契機となる事象
●
Ⅰ.危機の体験
自己と生活構造の変化
問題の顕在化
症状 / 不適応状態
自己の有限性の自覚
(身体・寿命/ 家族 / 職業)
Ⅱ.ライフレヴュウ(これまでの自分の生き方の見直し)
成長期・青年期の未解決の発達的課題
若き日の「夢」
生きられなかった自分
現在の自分
Ⅲ.軌道修正(アイデンティティの組み換え)
幼児期・青年期の葛藤の再吟味
自己と他者の関係の再吟味
自己内界での変容
行動レベルでの適応的変容
Ⅳ.新しい適応的な自分の獲得
図4 中年期の心理療法におけるアイデンティティの再体制化
(岡本,1985)
中年期の自己内外の
変化
・更年期障害
・体力の衰え / 老化 /
病気
・残された時間の限界感
・家族構造の変化
①中核的アイデンティティ
(自分が関与・達成したもの /
個としてのアイデンティティ)
の問い直し
OK : アイデンティティの深化
個と関係性の統合 / 社会化 / 精神化
Not OK : アイデンティティの模索・
組み換え
・純化 / 社会化 / 精神化
・自分らしい生き方への希求
・アイデンティティ拡散
②トータルなアイデンティ
ティの見直し
OK : 個と関係性の統合
(ライフスタイルの主体的な納得・肯定)
Not OK : アイデンティティの模索・
組み換え
・「本当の自分」/ 重要な他者への希求
・バランスの崩れによるアイデンティティ
拡散
・欠落感によるアイデンティティ拡散
図5 中年期女性のアイデンティティ危機と
新しい自己の発見 (岡本,2002b)
中年期危機の心理的「意味」
Bio-Psycho-Social のすべての次元で根本的な
変化
„ Negativeな感覚・感情・意識として体験されやす
い
<背景>
アイデンティティ(自分自身の生き方・あり方)の見
直しと再構築への欲求・願望
„
個としてのアイデンティティ(達成)
家 一人の人間・生活者として
庭
の自立 / 自律性
生
活
を
中
心
と
家族に対するケア
す
・親役割 / 妻(夫)役割
る
(育児・介護・家事, etc.)
私
的
領
域
職業人としての
アイデンティティの達成
・職業人としての有能性
職場・組織に対するケア
・後進の指導・育成
・組織の人間関係へ
の主体的な関与
職
業
を
中
心
と
す
る
公
的
領
域
関係性にもとづくアイデンティティ(ケア)
図6 成人期の発達を規定する2つの軸と2つの領域
(岡本,2001)
積極的傾聴(Active Listening)
共感と受容
„ Cl.にPositiveな関心をもっていることを態度と言葉で
伝える。
„
Cl.が「語る」, Cl.に「語らせる」ことの意義
・語ることによる心の活力の増大
・自分の人生や生き方を主体的に組み立てる。