命を守る救命ボート

命を守る救命ボート
1 年生
亀井郁弥
はじめに
11 月 17 日ゼミ活動で大阪周遊パスを使い、フィールドワークに行きました。周遊パスは
2000 円で地下鉄や市バスに一日乗車することが可能で、様々な大阪の観光地に無料で入館
出来ます。大阪の観光施設は水に関係するものがいくつもありました。それはなぜでしょ
うか?それは大阪では昔から「水の都」と、言われているからです。
しかし、僕は水難事故というものにとても恐怖を覚えます。実際に事故に遭ったことは
ないですが、
「タイタニック」や「海猿」といった映画を見ていつも怖いと思います。その
他にもいろんな災害がありますが、海や川の事故は夏場よく起こるし死亡事故にもつなが
りやすいです。フィールドワークで行った「なにわの海の時空間」では誰でも乗れる帆船
『あこがれ』の救命ボートが展示されていました。そこで、本レポートでは救命ボートに
ついてとりあげて調べることにしました。
展示の説明文によると、
「大阪市が航海練習船として保有している。『あこがれ』は小学
校4年生以上から乗船できます。基本的には大阪南港を母港として運航を行いますが、日
本国外でのイベントにも参加することもあります。1994 年4月8日に処女航海を行い、上
海に向かいました。1995 年にはメルボルン大阪ダブルハンドヨットレースのスタート船と
して参加するために、 大阪→グアム→フィジー→オークランド→シドニー→メルボルンに
寄港しました。2000 年 12 月 25 日には日本の帆船として初めて世界一周航海を達成した」
と記されていました。
このように素晴らしい経歴をもっている帆船『あこがれ』を大阪市が保有しているとい
うことは、大阪市民として誇れることだと思うし、大阪が水の都といわれることにも納得
がいきます。子どもからお年寄りまで誰でも乗船でき、数々の航海をしてきた『あこがれ』
ではありますが、もちろん完全に安全は保障できません。そこで昭和三十八年に船舶安全
法で定員分の救命ボートの搭載が義務づけられました。
1. 救命ボート
展示の説明によると、
「近年の救命ボートは木製や金属製から着水時に膨らむゴム、ナイ
ロン製に変わってきました。場所もなるべく小さくなるようにカプセルにはいっていて、
遭難時発見しやすいようにボートは白色やオレンジ色で着色されています。動力はエンジ
ンのものもあるみたいですが『あこがれ』はオールを用いた人力です。そして遭難者を安
全に救助するまでに必要な数多くの備品が積み込まれています。
」と記されていました。
僕はその品々を大きく4つに分けました。1つ目は海面に浮かんでから漂流が始まるま
でに必要なもの。2つ目は漂流中に遭難者の気力と体力を守るための品、3つ目は救命ボ
ートの性能を守る品、最後に救助をする船にむけての信号です。
『あこがれ』の救命ボート
は 10 人用で食糧は1人あたり9食分・水は 1.5 リットルがつまれていて、
備品は救命胴衣、
浮輪、ナイフ、あかくみ、シーアンカー、櫂、修理用具、ふいご、コップ、応急医療具、
船酔い薬、船酔い袋、保温具、缶切り、はさみ、笛、釣り用具、行動指導書、生存指導書、
救命信号説明書、落下傘つき信号、信号紅炎、発煙浮信号、水密電気灯、日光信号鏡、海
面着色剤が水濡れを防ぐためにゴム製の袋に詰められていて、ボート本体に取り付けられ
ています。救命ボート本体の機能も様々なものがあります。僕が驚いたものをいくつか紹
介します。まずは「床気室」これは床が二重構造になっていて、ふいごで空気をいれたり、
栓をゆるめて空気をだしたりすることでボート内の温度を調整することができます。次は
「レーダー反射器」です。漂流しているとき、救助船のレーダー電波を受信して、ボート
の位置を的確に知らせます。最後に「修正装置」これはボートがひっくり返った時元に戻
してくれます。
「なにわの海の時空間」で展示されていた救命ボート(上)と備品(下)
2. 救命ボートの欠点
様々な機能がある救命ボートですが、欠点ももちろんあります。まず動力が自力のオー
ルなため風、波浪、海流、渦潮などでボートがあおられ時間が経てば経つほど捜索範囲は
広がり、発見も困難になります。すぐに見つからない場合は大変不安になるでしょう。食
糧も9食分、水は 1.5 リットルしか積んでいないため空腹で冷静な判断が出来なくなってし
まいます。10人乗りに10人乗ると横になることが出来ない、座っての乗船となるため
睡眠もとれずに疲労も溜まってしまいます。あくまで救命ボートは簡易なボートで、もし
もの時に脱出し、発見まで海で生き延びるものであるので、快適さを求めるものではあり
ません。しかし、あの狭さの中でいつ発見してくれるのか不安な気持ちを持ちながら救助
を待つというのは相当心が折れてしまうでしょう。
2つ目の欠点は海水が低温の場合膨張に時間がかかってしまうことです。火災などで一
刻も早く船から離れないといけないときに時間がかかってしまうのは致命的です。さらに
ゴム、ナイロン製は火気に大変弱く、火がうつってしまった時点で使いものになりません。
この場合人数分しか救命ボートを積んでいない船ならば、乗員数=救命ボートの定員数と
はなりません。
ここでもう一つ欠点が出てきます。救命ボートは絶対に定員以上の人数が乗れません。
だから先ほど述べたように、火がうつってしまい使い物にならない状態のボートがあった
ら、もし100パーセントの乗船率の場合、救命ボートでの避難は全員できなくなってし
まいます。
3つ目は救命ボートへの乗り込みは天幕に設けられた出入り口から行われるため、乗り
込んだ後、雨風や荒波の侵入を防ぐため、ファスナーで開閉出来る構造になっています。
ファスナーの開閉装置はつくりが簡易な反面、一度故障すると全く機能しないことや、張
力が増すため、大きな出入り口には設置することが難しくなっています。よって避難時乗
り込みが容易にできません。またファスナーの開閉部は雨水の漏れによる浸水という欠点
も併せ持ちます。
欠点とは言えませんが、整備技術者の責任は多大なものです。命に関わるものなので何
度も何度も点検や試験が必要です。
展示の資料によると、
「ボートの整備技術者は、船舶検査官に代って、ボートの検査を一
任されているので、常にボートの持つ使命と使用される状況を想起して、細心の注意と旺
盛な責任感を持ち、慎重に整備を行わなければなりません。船舶検査官とは、専門知識と
経験を活かし、日本籍船の構造や設備等の検査をする仕事です。さらに整備技術者はボー
トの整備に加えて、積み付けに本船を訪れた場合は、乗組員にボートの正しい使用法及び
日常の保守点検について、適切な指導を行うことが重要です」と記されていました。
3. 救命ボートの欠点の改善方法
まず一つ目にあげた時間が経てば捜索範囲が広がってしまうという点は、沈没する本船
と救命ボートとを延長可能な連結索で連結します。本船が沈没し海底に到着したら本船は
救命ボートの錨の役割を果たすことになるので錨によって固定された救命ボートは特定の
範囲に浮遊し早期発見が可能になります。
2つ目の膨張の問題は今、様々な方法で検討されているのですが今はまだ実用的なもの
はありません。しかし近い将来十分な対策が立てられるでしょう。
3つ目のファスナーの出入り口の問題もまた、実用的な開発は出来ていません、しかし
技術は発展し続けているので、きっと良いものに替わるでしょう。
最後に
展示されていた資料には、
「海難に遭った時、膨張式救命ボートを使用した人は毎年 1300
人にものぼっており、そのうち生存者は90パーセント」と書かれていました。この数値
は救命ボートを使用すればほとんどの人が助かるということでもありますが、しかし、残
りの10パーセントは助かっていません。理由は発見が遅れてしまったという点もありま
すが、なかには救命ボートを正しい使用方法で使用できないという理由も挙げられます。
さらに装備したのにもかかわらず、日頃の保守、点検を疎かにしてしまい使うことさえ出
来ないなどの例もあります。大切なことは船員が膨張式ボートの使用方法をよく知り、日
常の点検を忘れずに行い緊急時にその機能を安全に発揮できるようにすることです。
一見、観光実習導入とは関係なさそうな救命ボートの話ですが、僕は強い結びつきがあ
ると思います。なぜなら観光は安全が保障されなければ顧客をよぶことが出来ません。観
光する側も安全で楽しい経験をしにやってくるからです。だから水が関係する観光資源で
働く人はもしものための確かな知識が絶対に必要だと強く思いました。100パーセント
の安全の保障は無理なのかもしれません。しかし技術が発展した現代では海難で人命が失
われるのは仕方がないという時代ではないので、より生存率が100パーセントに近づい
て欲しいと思います。
今回のフィールドワークでは様々な視点から一つのものを調べてみて、多くの発見があ
りました。周遊場所も「なにわの海の時空間」に行き、実際に本物の救命ボートを見るこ
とが出来たから、今回のレポートで救命ボートのことを取り上げるきっかけになりました。
当日はあいにくの雨で予定していたルートでまわることはできませんでした。しかし観光
するためには緊急時の確実な避難や、海難時の心のケアなど顧客の安全性が必要不可欠だ
という考えが深まりました。