徳島県勝浦町から発見された恐竜化石について ―国内最古級の竜脚類

(徳島県立博物館 提供資料)
平成28年8月9日
徳島県勝浦町から発見された恐竜化石について
―国内最古級の竜脚類の発見―
りゅうきゃく
徳島県勝浦町の前期白亜紀(約 1 億 3000 万年前)の地層から、国内最古級となる竜 脚 類(恐竜)の歯
化石が発見されました。竜脚類は、長い首と尾をもち、大きなもので 30 メートルを超える植物食の恐竜の
グループで、竜脚類の化石の発見は、四国で初めてとなります。
た が み ひろ ひ さ
りゅう き
発見者は、阿南市在住の化石愛好家の田上浩久さんと田上竜 熙さん(中学 2 年生 14 才)の親子です。
福井県立恐竜博物館と徳島県立博物館の標本鑑定の結果、国内最古級に相当する竜脚類ティタノサウ
けい る い
ルス形類であることが判明しました。今後、徳島県立博物館と福井県立恐竜博物館が、より詳しい調査研
究を合同で進める予定です。
<発見のポイント>
・竜脚類(植物食恐竜)の化石の発見は、四国で初めてです。
・竜脚類ティタノサウルス形類としては、国内最古級(約 1 億 3000 万年前)です。
<経緯について>
た が み ひろ ひ さ
りゅう き
7月3日(日) 田上浩久さんと中学校2年生の田上竜熙さんの親子(阿南市)
が勝浦町で化石を発見
7月4日(月) 発見者から徳島県立博物館に情報提供
7月9日(土) 午前、化石が博物館に到着
7月9日(土) トクシマ恐竜展のアドバイザーで来館していた
み や た かずのり
福井県立恐竜博物館の宮田和周主任研究員とともに化石を観察し、
竜脚類(恐竜)の歯化石と鑑定。
7月14日(木) トクシマ恐竜展のオープニングセレモニー出席のため、
あずま よ う い ち
来県していた福井県立恐竜博物館
東 洋一 特別館長も化石を観察。
国内最古級の竜脚類の歯化石に相当するとコメント。
つ じ の やすゆき
な か お けんいち
7月15日(金) 当館の辻野泰之および中尾賢一学芸員が発見者の田上さんに
博物館への寄贈の同意をいただく。
(※化石を研究・発表するためには、公的機関への寄贈が条件であるため)
7月16日(土) 化石を岩石から取り出す作業(クリーニング)を開始。以降、発表のための準備作業。
<発見場所と発見された地層>
徳島県勝浦町には、前期白亜紀(約1億 3000 万年~約 1 億年前)の地層が分布しています。この地層
の一部は、湖や河川または、汽水域(淡水と海水が混ざる干潟のような環境)でできた地層で、その周辺に
生きていた淡水生の貝やシダ・裸子植物などの化石が発見されており、1994 年には植物食恐竜のイグア
ノドン類の歯の化石も発見されました。今回の竜脚類ティタノサウルス形類の歯化石も、勝浦町に分布する
前期白亜紀の地層に含まれていました。
<竜脚類ティタノサウルス形類について>
竜脚類は、長い首と尾をもち、大きなもので 30 メートルを超える植物食の恐竜のグループです。アパトサ
ウルスやブラキオサウルスなどが有名です。巨大な竜脚類は、ジュラ紀に繁栄しましたが、ジュラ紀と白亜
紀の境界付近で数が減り、白亜紀の竜脚類はティタノサウルス形類と呼ばれるグループが主流となります。
福井県勝山市からは、全長約 10 メートルと推定される竜脚類ティタノサウルス形類のフクイティタンが発
見されています。今回勝浦町から発見されたティタノサウルス形類もフクイティタンの歯の形態とサイズが変
わらないことから、全長 10 メートル前後と推定されます。
<日本で発見されている白亜紀竜脚類>
○岩手県久慈市
ティタノサウルス類の歯(サントニアン期 約 8500 万年前)
○岩手県岩泉町
竜脚類の上腕骨(アプチアン期 約 1 億 1000 万年前)
○福島県いわき市
ティタノサウルス形類の歯(コニアシアン期 約 8700 万年前)
○群馬県神流町
ティタノサウルス形類の歯(バレミアン期 約 1 億 2700 万年前)
○石川県白山市
ティタノサウルス形類の歯(バレミアン期~アプチアン期 約 1 億 3000 万年~約 1 億 2000 万年前)
○福井県勝山市
ティタノサウルス形類フクイティタン 大腿骨や歯など(アプチアン期 約 1 億 1500 万年前)
○三重県鳥羽市
ティタノサウルス形類の大腿骨や歯など(バランギニアン期~バレミアン期 約 1 億 3000 万年前)
○兵庫県丹波市
ティタノサウルス形類タンバティタニス 尾椎骨や歯など(アプチアン期 約 1 億 1000 万年~約 1 億前)
○徳島県勝浦町
ティタノサウルス形類の歯 (オーテリビアン期~バレミアン期 約 1 億 3000 万年前)
○熊本県天草市
竜脚類の歯 (カンパニアン期 約 8500 万年前)
○鹿児島県薩摩川内市
竜脚類の歯(カンパニアン期 約 8000 万年前)
(※恐竜の分類を行う上で、歯の特徴が重要になります。)
<発見の意義>
ちゅうおう こ う ぞ う せん
日本の恐竜化石の産出地の多くは、中央構造線の北側に集中しています。中央構造線は、西南日本
ないたい
がいたい
の地質を南北に分断する断層帯です。地質的に中央構造線より北側を内帯と呼び、南側を外帯と呼びま
す
恐竜が生きていた中生代は、日本海は存在せず、日本列島はアジア大陸の東縁にありました。中央構
り く せいそう
造線より北側の内帯は、アジア大陸に近いため、陸地で堆積した地層(陸成層)が多く分布しています。陸
域で生息していた恐竜は、陸成層で見つかるのが一般的です。内帯に含まれる福井県をはじめとする北
陸地域から恐竜化石が多く発見されるのは、そのためです。
かい せ い そ う
一方、中央構造線より南側(太平洋側)にある外帯は、海で堆積した地層(海成層)が多く、陸成層が少
ないのが特徴です。そのため、外帯からの恐竜化石の産出は稀です。西南日本外帯から知られている恐
竜化石は、群馬県、三重県、和歌山県、徳島県の 4 県のみです。そのうち、竜脚類の化石は、群馬県、三
重県、徳島県で発見されています。今回、勝浦町で発見された竜脚類の化石は、三重県で発見されてい
る恐竜とほぼ同時代の国内最古級のものと言えます。
また、中央構造線は、白亜紀当時から活発に断層運動をしており、外帯は、現在の位置よりも数百キロ
以上、南方にあったと推定されています。徳島県勝浦町産の恐竜化石は、国内で見つかる恐竜の中でも
南方に生息していた恐竜の生物相を知る上で重要と言えます。
<今後の研究について>
今回、記者会見した竜脚類の歯の化石は、今後、当館と福井県立恐竜博物館が、合同で調査研究を進
める予定です。調査研究の結果は、学会発表または、報告書・論文として今後発表する予定です。
<展示について>
日時 8 月 10 日(水)から 9 月 25 日(日)まで、徳島県立博物館 2 階 常設展示室内(ティラノサウルス
などの恐竜骨格標本の展示している部屋)にて展示する予定です。
(※8 月 31 日まで「家族でおでかけ・節電キャンペーン」で常設展示室を無料でご覧になれます。)
<報道関係者向け提供画像資料について>
画像を使用する際は、それぞれの図の提供機関、提供者を記述すること。
<報道関係者向け提供画像資料>
徳島県勝浦町から発見された竜脚類ティタノサウルス形類の歯化石
(最大の歯冠高:2.3cm)(スケールの白黒の間隔:1cm)
(画像提供:徳島県立博物館)
福井県勝山市産のフクイティタンの標本
福井県勝山市で発見された竜脚類ティタノサウルス形類のフクイティタンの歯化石
(画像提供:福井県立恐竜博物館)
発見された竜脚類ティタノサウルス形類の生体復元図
(画像提供:山本 匠)
アルゼンチン産のティタノサウルス類の一種の全身骨格標本(複製)
全長約 7~8 メートル
(標本は、徳島県立博物館の常設展示室で展示)
(画像提供:徳島県立博物館)
竜脚類の歯化石が発見された勝浦町の位置と白亜紀の地層の分布
(画像提供:徳島県立博物館)
竜脚類の歯化石が発見された場所の様子
発見地点を示しているのは、発見者の一人の田上竜熙さん(中学 2 年生)
(画像提供:徳島県立博物館)
国内での竜脚類(恐竜)化石の産出地点(画像提供:福井県立恐竜博物館)
約 1 億 3000 万年前の日本列島
※図は平 朝彦(1990)岩波新書「日本列島の誕生」の掲載図に加筆
(画像提供:徳島県立博物館)