ソトコト(2007年9月号)

新エスケープ・ルート
日本版
海外・国内・インナーへの
エッジな旅情報
すっかり梅雨も明け(ているはず)、夏を満喫してますか?
9
打ち水、風鈴、団扇、すだれ、すいか、麦茶……。
“和”
で涼を感じてみてください。
今年は、そんな
This Month Escape Route
No.99
[ September 2007 ]
クラシーズ河口洞窟
Klasies River Mouth Caves
人類が、どのようにして裸という不自然な形質をもったかは謎であるが、裸の哺乳類があ
まりに珍しいのと、我々の住む文明空間が不自然であるため、それを謎として認識してい
る人が少ない。
なぜ裸になったのかが謎であるなら、
どこでなら裸で暮らせたかと考えてみ
よう。ジャングルでも、サバンナでもなく、洞窟こそが裸化して生きられる唯一の環境であ
る。世界が寒冷化した今から 7 万年前、アフリカ大陸南端のインド洋沿いの洞窟群で裸
の人類が誕生した可能性を検討する。
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Editorial Design:TSTJ Inc.
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AFRICA
ESCAPE TO SOUTH
これがクラシーズ河口洞窟第 3 号洞窟。ここには貝塚
がないためか、専門家による調査や発掘はまだ行われ
ていない。
正面奥の広間から北に延びるトンネルを見る。
人類が裸になった場所を探して
─ 最古の現生人類遺跡、南アフリカ・クラシーズ河口洞 窟─
へ
上野動物園にいるハダカデバネズミ。寝室でぎゅうぎゅ
う詰めになって寝ているところ。ほかのネズミを下敷
きにして一番上で腹を見せて寝ているのが女王。
Road to Cave
南アフリカ人類遺跡への道
人類が裸であること。それは、人を哺乳類の一種とし
て見た場合、とても不自然なことだという。身体の表
面が毛皮で覆われているということは、自然や外敵
から身を守るためには必要なことなのだ。それなの
に、なぜ人類は裸化してしまったのか?
その 謎 を
解くにはやはり裸化が起こった現場(?)に行かなく
ち寝ていられない。
こういうところでないと、おちお
ては!
そう決意した得丸公明さんは、南アフリカ
へ向った。
のか』と
『はだかの起原』によって、
島泰三先生は、『親指はなぜ太い
人類の特徴である直立二足歩行と 人間同様、皮膚も毛も薄い哺乳
度が保たれたトンネルの中に棲
類ハダカデバネズミは、温度や湿
み、裸の肌を寄せ合ってぎゅうぎ
裸化が、「まったく別の原理による
かの起原』)
ことを明らかにした。
かして人間も洞窟で裸化したので
ゅう詰めになって寝ている。もし
別の年代の出来事である」(
『はだ
直立二足歩行は、200万年前
はないだろうか。
に、サバンナの肉食獣が食べ残し
た骨を拾い集めて食べたことが起
裸になったのか。裸になった時期
国にいくつもある。なかでもクラ
住跡のある洞窟は南アフリカ共和
石器時代にあたる。この時代の居
原。では、ヒトは、いつ、なぜ、 今から7万年前というと中期旧
は、島説に従うとコロモジラミが
シーズ河口洞窟は今から 万年前
種分化した7万年前。これは遺伝
子学者たちが解明した、 万年前
から6万年前まで人類の居住が確
で誰もきちんと説明できていな
しかし、なぜが難しい。これま
博士に手紙を書いて、手引きをお
に携わったヒラリー・ディーコン
開されていないため、かつて発掘
中でもっとも古い。洞窟は一般公
認されており、現生人類の遺跡の
い。島先生も、当時裸化と発声機
願いした。
裸で生きるには洞窟の中が最適
くに代謝が落ち、警戒が手薄にな
裸で生きていくのは大変だ。と
題だ。雨や夜露にぬれず、寒風が
つて海面が高く波が荒かったとき
成されたもので、海面から8メー
に、砂岩層が海水に侵食されて形
万年前もほぼ
トルと メートルのところにある。
今と同じ姿だったと思われる。
砂岩は固いため、
洞窟内部は、広くて暖かい
る睡眠中をどこで過ごすかが大問 裸化したか。炉の灰汁でなめされ
外に出る必要のない支配層が先に
れ、摩擦で毛が薄くなったか。裸
た蔓状植物を利用して衣服が作ら
く
を向いており、東西方向に、高さ
メートルの広がりがあ
化の経緯は依然として謎である。
に落ちて石筍を形成している。そ
しみ込んだ石灰分が天井から床
スに後ろから乗り、外敵から目を
なった。洞窟の外では、オスがメ
人類は年がら年中性交するように
したためか、女が発情期を失い、
か、暗い洞窟の中で余暇をもて余
れぞれユニークな形状で、色も白
り対面性交するようになった。す
窟内では目と目を合わせてゆっく
離さない姿勢をとるが、安全な洞
が並べられているのは炉か。この
最奥部の緩やかな斜面に丸く石
う欲求が高まり、喉頭蓋が後退し
ると相手に気持ちを伝えたいとい
て、肺気流を口から出せるように
時代の人々は火を自在に扱ってい
なった。真っ暗な洞窟内では、音
以外にコミュニケーション手段が
いたのかもしれない。日が落ちた
空が見える。洞窟内部の気温は
ろう。文化の誕生だ。
ないから音声言語が発達したのだ
確保のためか、裸の人類は6万年
人口が増えすぎたためか、食料
度。外よりも暖かで、Tシャツ1
なっても快適に生きていける。
石器人が暮らした環境に身をおい
皮膚では、あるがままの自然の中
前に突如として洞窟を出た。裸の
では生きていけない。しかし、人
る術を身につけていた。それが衣
類は洞窟のように裸の体を保護す
洞窟は崖の中腹にあり、目の前
った。
よ う に、 自 然 を 改 造 す る こ と だ
文明の本質は、人間が住みやすい
服と住居であり、文明の起原だ。
はインド洋の大海原。これ以上の
突 然変異的に毛皮の発生を抑 制
た。栄養不足や寒さのストレスが
冷化し、食べるものにもこと欠い
ネシアのトバ火山大噴火により寒
今から7万年前、世界はインド
いて文明環境を創り出した。
ぼして入れ替わり、自然を切り開
出して拡散し、世界中で原人を滅
が起き、裸の人類はアフリカを脱
だけだ。そしてさらなる人口過剰
生き延びたのは密林にすむ類人猿
いた毛皮のある原人を滅ぼした。
北上を続け、サバンナに生息して
し、ヒトは新生児の肌のまま成人
男は薪や食料を獲得するために
ら始まったと考えてもよいのかも
た人類が洞窟を一歩出たところか
題は、アフリカの洞窟で裸になっ
しれない。
外出したので、洞窟の中で生殖と
になったのか。階級に分かれて、
子育てに励んでいた女から先に裸
あうようになったのかもしれない。 つまるところ今日の地球環境問
になり、お互いに抱き合って温め
もしれない。
応するほかないと体が覚悟したか 文化と文明を携えた裸の人類は
南下は無理だから、ここで環境適
7万年前の人類を巡る
ひとつの私見
て、静かに想像をめぐらせてみた。
いにしえ
考古学とは、古を思うこと。旧
枚でも大丈夫だ。ここでなら裸に
24
後も、入り口を通してうっすらと
た。ここから外を眺めて団欒して
の彫刻展示のようだ。
や茶や緑が混じり、まるで美術館
洞窟とつながっている。
上続いている。南はすぐ隣の四号 裸で抱き合うようになったため
弱のトンネルが100メートル以
あ
3、
4メートル、幅約 メートル、
猛獣や毒蛇が襲ってこない場所。 第 三 号 洞 窟 の 入 り 口 付 近 は 西
吹かず、草の棘や刺す虫がおらず、
14
20
はどうだろう。
どこで裸化したのかと考えてみて イ ン ド 洋 に 面 し た 洞 窟 は、 か
構の二重の突然変異が起きた、と
0
13
言うのみだ。そこで発想を転換し、
0
年代に近い。
アフリカにいた人類共通の祖先の
14
る。最奥部から北に幅 メートル
奥行き約
10
10
20
洞窟は今から 4 億年前に隆起し
た砂岩層が荒波の力で穿たれた
もの。当時は今より温暖化して
おり海面は 20m ほど高かった。
ステレンボッシュ大学
名誉教授のディーコン
博士。帰国後も貴重な
助言をいただいている。
カンゴ洞窟にあったアウト・
オブ・アフリカ 1 と 2 の説明。
まず東アフリカの原人やネアン
デルタール人がユーラシア大陸
に渡り、その後、裸になった人
類が、南アフリカから北上して
世界を制覇した。
得丸公明(とくまる・きみあき)● 1959 年大分県生まれ。
東京大学法学部卒。日商岩井(現 : 双日)
・宇宙航空機部、
国連・教育科学文化機関地球科学部(在パリ)
、環日本海
環境協力センター(富山)などで人工衛星地球観測のシス
テムエンジニアとして勤務。地球環境問題と人類の文明・
文化のシステム解析をライフワークとする。
現在クラシーズ河口洞窟は一般公開されていないが、中
期旧石器時 代に人 類の居 住が 認められる洞窟としては、
ボーダー洞窟、フロリスバード、エクウス洞窟、ブロンボス、
ディーケルダーズ、ホディスプントなどが国内に点在する。
また後期旧石器洞窟となるともっとたくさんあり、西ケープ州
のネルソンベイ洞窟やモーセルベイ洞窟など自由に見学で
きるところもある。時代が遡って、200万〜 300万年前の化
石人類が発掘され、世界遺産にもなっている「人類のゆりか
ご:スタークフォンテン、スワルトクランス、クロムドライお
よび周辺洞窟」
は、
ヨハネスブルクのあるハウテン州にある。
photographs & text by Kimiaki Tokumaru
ヨハネスブルク市内のウィッツ大学オ
リジンセンターに展示してあった人骨
化石のレプリカ。自由に触ってよいの
で、笑いのポーズをお願いした。
人類は 14 万年以上前から火
を自由に使っていた。この環
状列石は炉の跡ではないか。
案内をしてくれた地主のコビュス・ブル
ガー氏 ( 右 ) と助手をつとめてくれたメ
ルトン君。
第 3 号洞窟の入り口。
Pick Up Travel
p.
p.
裸 の 起 源 を さぐる旅 。