日消外会誌 27(4):932∼ 936,1994年 直腸, S 字 状結腸子宮内膜症 の 2 例 千早病院外科1 ち九州大学第 1 外 科り )松 永 浩 明1ル )梶 原 正 章1ル ) 泉 泰 治1ン 明石 良 夫 1)三 好 晃 1) ま った く異 な った臨床経 過 を とった直腸, S 字 状結腸子宮 内膜症 の 2 例 を経験 した ので 病型 と治 療 の違 い を中心 に報告 した。症例 1 は 血 便 を主訴 とし S 字 状結腸 に粘膜下腫瘍様 の隆起 を認 め生検 にて 子宮内膜症 と確診 しホル モ ン療 法 のみで軽快 した。症4 / 1 2 は便秘 を主訴 とし各種 検査 では直腸癌 を疑 わせ る所見であ ったが生検 では確診 つ かず直腸低位前方切除 をお こな い切除標本 にて子宮 内膜症 と診 断 され た. 症 例 1 は 粘 膜 面 の 子 宮 内膜 腺 に よ る腫 瘤 とそ こか らの 出血 が 主体 で あ りいわ ゆ る e n ‐ d o m e t r i o m a で あ り, 治療 に あた って保存的 か手術的 かの選択 が問類 にな る と考 えた. 症例 2 は 線維化 に よる狭窄性変化 が主 体 の d i f u s e e n d o m e t r i o s i s考 とえ られ術前確 診 が困難 なた め癌 との鑑別 と過 大侵襲 の防止 が 問題 にな る と考 えた。 Key words: endometrioma, diffuse endometriosis は じ8めに 子宮 内膜症 は子宮 内膜組織 が果所性 に増殖す る疾 患 め なか った 。 検査所見 : 血 液生化学, 尿 所 見 に異常 な く, C E A も で あ り,婦 人科領域 で は不 妊症や習慣性流産,月 経 困 0 . 5 n g / m l と正常範 囲内, C A ‐ 1 2 5 3 0 U / m l と 正常範 囲 難症 な どの原 因 として問題 とな る。 この子官 内膜症 が で あ った。 注腸 X 線 検 査 : S 字 状結 腸 に表 面 不 整 の 陰 影 欠 損 腸管 に及 んだ ものを腸管子宮 内膜症 とよび子宮 内膜症 の10%前 後 に認 め られ る とされ てい る11腸 管 子宮 内 を認めた ( F i g . l a ) . 膜症 は婦人科手術 の術 中 に偶然発見 されて外科 医 が相 談 を受 けた り,肛 門 出血や イ レウスの症状で は じめ か を認 め そ のか らの生検 にて子宮 内膜腺 が認 め られ子宮 ら外科 を受診す る場合 な どが あ り外科医 に も本症 に対 内膜症 と診 断 された ( F i g . l b , c ) . す る十分 な認 識 が必要 で あ る. 腸管子宮 内膜症 の病型 分類 は現在 で も一 般的 な もの は な いが 今回著者 らは頻度 が高 く治療 の上 で も問題 の 多 い直腸,S字 状結腸部 の子宮 内膜症 の 2症 4/1を 提示 し症例 ご との診 断 。治療 につ いて考察 を加 えた。 症 例 症例 1 患者 :45歳,既 婚女性 主訴 t月 経時下 血 家族歴 :既 往歴 !特 記事項 な し. 現病歴 :2年 前 か ら dysmenorrhea,hypermenorr‐ 大腸 内視鏡検査 : S 字 状結腸 に粘膜下腫瘍様 の腫層 以上 か ら S 字 状 結 腸 の e n d o m e t r i o m a と診 断 され 導 体 製 剤 で あ る酢 酸 ブセ レ リン ( S u ‐ た 。G n R H 誘 ヘ キス トジ ャパ ン) の点鼻療法 を行 った と こ p r e c u r ,① ろ, 1 か 月後 よ り症状 の消失 をみた。 症例 2 患者 i 4 2 歳, 既 婚 女性 主訴 : 便 秘 家族歴 i 特 記事項 な し, 既往歴 t 婦 人科 にて子宮筋腫 といわれた こ とあ り, 正産 2 回 . 現病歴 t 来 院 の半年程前 か ら便秘 を感 じるよ うにな heaが あ った。最近 にな って月経 時下 血 を認 め るた め り次第 に増悪 して きた. 下 血 はな く。便秘 の症状 は 月 当科受診. 経 とは無関係 で あ った。他院 にて注腸検査 を受 け直腸 入院時現症 :身 長 158cm,体 重 44kg.特 に異常 を認 <1993年 12月8日 受理>別 刷請求先 :泉 泰 治 〒812 福 岡市東 区馬 出 3-1-1 九 州大学 医学部 第 1外 科 癌 の診断で当科 を紹介 された。 入院時現症 : 身 長 1 5 8 c m , 体 重6 0 k g 。下 腹部 に弾性 硬 で圧痛 のない小児頭大 の腫瘤 を触知. 直 腸診 にては 異常 を認 め なか った 。 9e(e33) 1994年 4月 Fig. la Bariu■ l enema study of Cas3 1.:An irreg、 ular t11ling defect M′ as sho、 vn at the sigmOid colon (arrow heads). Fig. lc Colonofiberscopic biopsy specimen revenaled scattered endometrial glandis in colonic tissue. の不 整 が 少 な く大 腸 癌 の 典 型 像 とは 異 な って い た (Fig. 2a). 大腸 内視鏡検 査 !肛 門縁 か ら10cmの 部位 に全 周 性 の狭窄 が あ リファイバ ーはや っ と通 過 した,明 らかな 潰瘍 や び らんは認 め なか った (Fig.2b)。日 時 を変 え て 3回 生検 を行 ったが慢性炎症細胞 の浸潤 と線維化 し Fig. 1b Colonofiberscopy of case 1.: A submucosal tumor with central minute ulceration was shown. か認 め られ なか った。 CT:小 児頭大 の子宮筋 腫 の 背側 に直 腸 内腔 を認 め るが狭窄 の周囲 に腫瘤 を認 め なか った。 以上 の諸検査 か ら狭窄 に関 して子宮 内膜症 と直腸 癌 の鑑別診 断 はで きなか った。し か し強 い狭窄症状 が あ る ことと癌 を否定 で きな い こ とか ら手術 を行 った 。手 術 は子宮全摘,両 付属器切除 に引 き続 いて直腸低位前 て行 った。切 方切除術 を double stapling techniqueに 除標本 では粘膜面 にはひ きつ れだ けで上皮性 の変化 を 認 めず (Fig。2c),組織学的 に粘膜下層 か ら固有筋層 に か けて著 明な線維化 を認 めそのなかに散在す る子宮 内 膜腺 を認め直腸子宮 内膜症 と診 断 された (Fig.2d)。 考 察 1989年の松限 らの報 告 りでは腸 管 子宮 内膜症 の 本邦 の うち の84%が 直腸,S字 状結 腸 に病 変 が 報告fp178例 ∼ あ るものであ った。そ の後 の報告 ゆ 5)でも多 くが直腸, S字 状結腸子官 内膜症 で あ った 。 今回 の我 々の 2症 例 は直腸,S字 状結腸子宮 内膜症 の 典 型 的 形 態 で あ る腫 瘤 形 成 主 体 の endometrioma 検査所 見 : 血 液生化学, 尿 所見 に異常 な く, C E A も 0 . 5 n g / m l , C A ‐1 2 5 1 8 U / m l と 正常範 囲であ った。 と腸 X 線 検査 : R a 部 に全周性 の狭 窄 を認め た。狭 窄 は腸管 の長軸方 向には極 めて短 く狭窄 に くらべ て壁 を代 表 型 と狭 窄症 状 主体 の dituse endometriosis型 す るものであ る と考 え以下 の考察 を加 えた。 Endonetriomaと は 症 例 1の よ うに腸 管 壁 一 部 に 粘膜下腫瘤様 の結節 を作 り結節内の子宮 内膜腺 が性周 100(934) 直腸,S字 状結腸子官内膜症 の 2例 Fig. 2a Barium enema study of case 2.: Rectal stenosisresembling of apple-coresign was noted. 日消外会誌 27巻 4号 Fig. 2c Machoscopic appearance of the resected resctum (case 2). : Minute mucosal irregurality (arrow) and prominent fibrotic change of the wall (arrowhead) were noted. Fig. 2d Histological examination of the stenotic rectum of case 2 showed many heterotopic endometrial glands and fibrotic changedof the wall. Fig. 2b Colonofiberscopy of case 2.: Sudden stenosis of the rectum with mucosal irregularity suggestingof the rectal carcinoma. み, 腸 管壁 の進展 性 が な くな り狭窄 を きた した 状態 で あ る。 この 2 つ の タイプの腸管子宮 内膜症 の発生 と進 展 を考 える と, 腸 管壁 に着床 した 異所性 の子官 内膜腺 が増殖す るさい早期 に粘膜下 に達 し, そ こで増殖 し, さらに月経時 に粘膜 をや ぶ って腸管腔 内 に出血 す るの が e n d O m e t r i o m a であ り, 比 較 的腸管壁 のの衆膜倶J で 増殖 し, 壁 内 に出血 ・消退 を繰 り返 し, 壁 の線維化 を ひ きお こす のが d t t u s e e n d o m e t r i o s i sあ でる とい え るだ ろ う。 この よ うな病 因 か ら考 え る と症 状 の上 か ら は e n ‐ d o m m e t r i o m a で は 月経同期 と関連 す る下血 が特 異的 な もので あ り, d i f f u s e e n d o m e t r i o s iは sで 狭窄 に よる 便通異常 が主体 とな る. 検 査所 見 で は形 態 的 には大 き さを含 め て 多彩 で あ 期 に 同期 して月経 とともに下血 を起 こす型 であ る。 一‐ こ子 列 2の よ う″ 方, diffuse endometriosisと は症イ 官 内膜 腺 が 壁 内 出血 を繰 り返 した た め に 線 維 化 が 進 り, これ が診断を困難 に してい る大 きな要 因 で あ る. 過 去 の報 告 の大 腸 X 線 検査 を検 討す る と, M c S w a i n は 限局 性 の粘 膜 下 腫場 の X 線 像 を呈 す らωや D a v i s の 101(935) 1994年4月 る 症 例 が 有 る こ と を 指 摘 し て お り, こ れ が e n ‐ d o m e t r i o m a に 合致す るもの と思われ る。一 方, 1 9 4 3 年 の 」e n k i n o n ら助の報告 の4 7 例の直腸 ・S 状 結腸子宮 内 膜 の うち, 2 1 例 が我 々のい うd i f u s e e n d o m e t r i o s i s に 治療 に あ た って は 良性疾患 で あ るか ら過大 な侵襲 を 加 えな い ことが基本 で あ る. 子 宮 内膜症全般 に対す る 手術や適切 な ホル モ ン療法 を考慮 しなが ら, 婦 人科医 と相 談 し治 療 に当 るべ きで あろ う。症状 が子宮 内膜腺 相 当 し, そ れ らの注腸検査 の特徴 を, ( 1 ) 陰 影欠損 が の存在 そ の ものに よって起 こった もので, 生 倹 に よっ 広範 囲 で あ る こと, ( 2 ) 境 界 が鋭利 で あ る こと, ( 3 ) 粘 て確診 がつ くものな らまず保存 的 な子宮 内膜症 の治療 膜 は正 常 で, ( 4 ) 病 変部 は可動性 に乏 し く, ( 5 ) 大 腸 が すす め られ る。腸 閉塞 を きた す よ うな d i t t u s e e n ‐ の他 の部分 には異常 が な い とし, 総 合的 に粘膜 そ の も のがおか され る ことは少 な く, 繰 り返す炎症 のため に は線維 化 な どの器 質的変化, 疲 痕 狭 窄 dometriosisで た してい るので をき , す で にホル モ ン療法 のみでは効 生 じた 線維 化 が X 線 像 の な りた ちの基 本 で あ る と述 べ て い る。 果 な く, また術前 に癌 との鑑別診 断 がつ かない ことが 多 い こ とか らも外科的 に腸切除 が最適 で あ る。好発部 は症例 1 は 典型的 な粘膜下腫瘍様 の形 態 を 自験p l l で 示 し, 症 例 2 は 全 周 性 狭 窄 を 示 し て お り, e n _ 位 が直腸 で あ るので形 態 のみか ら直腸癌 と誤診 して, 直腸切 断 ・人工肛 門造設術 とった過大術式 を とる こと dometriomaが 粘膜 周辺 の変化 が主体 で あ り,difuse が な い よ うに特 に心 が けなけれ ばな らな い。確診 が得 endometriosisが腸管壁 の線維 化 が主 体 で あ る こ とを られ ない まま手術 に至 った場合 において も, 迅 速標本 反映す る もので あ ることがわ か る。 に よる検索 を行 い, 過 大手術侵襲 を避 け る ことが肝要 大腸 内祝鏡所見 で も注腸造影 の所 見 を反 映 して しま ざまな所 見を里す るが,基 本的 には endometriomaで は粘膜下腫瘍型 の形態 を と り,月 経月期 に あわ せ てそ の 中央部 にび らん,潰 場 をつ くるもの と考 え られ る。 で あ る。 腸管子宮 内膜症 のほ とん どが直腸 , S 字 状結腸子宮 内膜症 で あ る ことを考 える と, そ れ らは今回呈示 した 2 病 型 のいずれ か あ るいは中間的 な病型 を取 る と考 え び らん,潰 瘍 の大 きさ深 さは腸管壁 にお け る子宮 内膜 とに病型 を は っ き り認識 した治療 の選択 られ, 症 4 / 1 ご は 腺 の存在様式 に依 存す る。Difuse endometriosisで が必要 で あ る。 壁 の伸展不 良 と表 面 の凹凸不整を示す例,ひ きつ れ の 著 明 な例 な ど多様 で あ る。 確定診断を得 るには生検 に よ り子宮 内膜腺 を見 いだ す必要 が あ り,endometriomaで はそ の方法 として,症 例 1の よ うに月経直前 あ るいは月経 中に発赤,び らんj 充 血 ,潰 瘍部 か ら標本 を採取す る と確 診 を得 られ る可 は粘膜 そ 能性 が高 い。 一 方,diruse endometriosisで の ものに病変 が及 ぶ ことは まれ なので,症 例 2の よ う に内視鏡的生検 では確診 で きな い ことが多 い。術後 の 検索 で も症例 2は 粘膜 内 には子宮 内膜腺 類似 の腺管 を 認 めてお らず ,通 常 の生検 では術前 に確診 を得 る こ と は 困難 で あ った と思わ れ る。松 限 ら2)の報 告 で も疑 診 例 も含 め,腸 管 子 官 内膜 症 と術 前 診 断 され た も の が 42%あ った が生 検 に よ る確 診 例 は 9%に しかす ぎな か った 。誤診例 では 良性腫瘍 を合 め,腸 管腫瘍 と診 断 された ものが29%あ り,癌 と診断 された ものが15%に 認 め られた。 最近 ,卵 巣癌 な どの腫 瘍 マ ー カ ーで あ る CA125が 子 宮 内膜症 にお いて も上 昇す る と報 告 され て い る。。今 回の症例 で は 2例 とも正常 で あ ったが,腸 管子宮 内膜 どとともに CA125を 測 定 症 が 疑 わ れ る場 合,CEAな す る必要 が あ る と思われ る。 文 献 1)Bum FJ: Endometriosis of the intestines.Dis Colon Rectum 10 ! 344--346, 1967 2)松 限則人,松尾義人,鶴田 修 ほか !腸管子宮内膜 症 の 2例 一本邦報告例78例の検 討を含 めて一. Castroenterol Endosc 31 i 1577-1584, 1989 3)木 村 淳 ,飛島雅弘,長谷川岳尚ほか 1月経 ととも に粘血便を繰 り返 した直腸子官内膜症 の 1例 .消 化器科 13:597-601,1990 4)塩 谷雅英,野田洋一,成本勝彦ほか !消化器症状を 主訴 として大腸癌が疑われた広範な腸管子官内膜 症 の 3例 .産 婦 の進歩 43:153-160,1991 5)佐 々木悦子,山言武男,多田和弘ほか i腸管子官内 膜症の 2例 .産 婦 の実際 41:105-111,1992 6)巾IcSwain B,Robert J,Halё y RL Jr et al: Intestinal Endometriosis.」 ObStet Gyneco1 67: 539--555, 1960 7)Davis Ct Surgery of endOmetriOma of the ileum and colo■ .Am J Surg 105 1 250-266,1963 8)JenkinsOn EL,BrOwnヽ VH: EndometriOsis.A study of l17 cases vith 、 special reference to l and sigmoid constricting lesions Of rectu■ colon`JAMA 122!349-354, 1943 9)早 田 隆 ,三 宅若葉,嵯 峨 こずえ ほか :子 宮内膜 症 とCA‐125.産 と婦 54:1449-1454, 1987 直腸, S 字 状結腸子宮内膜症 の 2 例 102(936) Report of Two Cases of Colo‐ 日消外会誌 27巻 4号 rectal Endometriosis Yasuharu Izumir)2),Hiroaki Matsunagar)2),Masaaki Kijiwar2i)zl, Yoshio Akashir)and Akira Miyoshi: r)Departmentof Surgery, Chihaya Mutual Aid Hospital 2)First Department of Surgery, Kyushu University Two casesof colo-rectal endometriosis, which showed different clinical courses, are described.In case 1, the patient complained of melena during her menstrual period. A submucosaltumor was found in the sigmoid colon by fiberscopy and was diagnosedas colonic endometrioma from a biopsy specimen.Hormonal therapy well controlled her symptom. In case 2, the patient complained of severeconstipation. A barium enema and fiberscopy revealed marked rectal stenosis which resembled the stenosis of rectal cancer. Though repetitive biopsy did not yield a definitive diagnosis, low anterior resection of the rectum was performed. The resected specimen showed endometrial glands and fibrosis in the entire rectal wall except for the mucosa. In case 1, the symptom was caused by rupture of a submucosal endometrioma into the colon. Therapeutic problem in this type is choice of a better modality whether conservative (hormonal) therapy or the surgical one. In case 2, the symptom was caused by a fibrotic changein the colonic wall which was due to repetitive intramural hemorrhagefrom the endometrial glands. Therefore, this case was subtyped as diffiese endometriosis. The problem concerned with this type is the differential diagnosis from colo-rectalcancer and the prevention of the over surgery. Reprint requests: Yasuharu Izumi First Department of Surgery, Kyushu University 3-1-1Maidashi,Higashiku, Fukuoka,812JAPAN
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