目次 1. はじめに ................................................................ ................................................................................................ ...................................................................................... ...................................................... 1 2. 欧州のクラブチームの経営について ................................................................ .............................................................................. .............................................. 1 2-1. (1) ソシオ(会員)からの年会費 (会員)からの年会費................................................................................. 2 ソシオ (会員)からの年会費 (2) 入場料収入............................................................................................................. 2 入場料収入 (3) クラブチームの株式公開による資金調達 ............................................................... 2 (4) 富豪や実業家によるチーム所有 ............................................................................. 3 (5) スポンサー収入...................................................................................................... 4 スポンサー収入 (6) メディアからの莫大な額の放送権料................................................................. 4 TV メディアからの莫大な額の放送権料 2-2. 4. 5. 6. 欧州の経営諮問機関 .................................................................................................. 4 (1) ドイツブンデスリーガ ........................................................................................... 5 (2) イタリアセリエ A .................................................................................................. 5 (3) フランスリーグ...................................................................................................... 5 フランスリーグ 2-3. 3. クラブチームの収入源 ............................................................................................... 1 欧州以外の新市場の開拓 ........................................................................................... 6 放送権ビジネス ................................................................ ................................................................................................ ............................................................................ ............................................ 6 3-1. TV メディア参入による地域社会との関わりの変化 ................................................... 7 3-2. 欧州各国リーグにおける放送権料の契約 ................................................................... 7 3-3. 日本でのセリエ A 放送権獲得における巨額投資 ........................................................ 8 ボスマン裁定による移籍金の変化 ................................................................ ................................................................................. ................................................. 9 4-1. 9 年棒の高騰化とトレードの活発化.............................................................................. 年棒の高騰化とトレードの活発化 4-2. 選手育成システムおよび、下位チームの経営基盤崩壊 ............................................ 10 4-3. EU 内外国人枠撤廃による問題................................................................................ 10 内外国人枠撤廃による問題 J リーグの経営について ................................................................ .............................................................................................. ..............................................................11 ..............................11 5-1. 各クラブチームの放漫経営が招いた経営悪化 .......................................................... 11 5-2. 12 企業としての独立による自主運営への移行.............................................................. 企業としての独立による自主運営への移行 5-3. 12 企業による商業主義と地元住民による地域密着主義................................................ 企業による商業主義と地元住民による地域密着主義 5-4. 13 親企業からの赤字補填に代わる収入源..................................................................... 親企業からの赤字補填に代わる収入源 5-5. 14 サッカーくじの導入によるクラブチームの経営....................................................... サッカーくじの導入によるクラブチームの経営 5-6. 日本で初めての欧州型クラブチーム経営を目指す横浜 FC ...................................... 14 おわりに ................................................................ ................................................................................................ .................................................................................... .................................................... 15 1. はじめに 4 年に 1 度開催されるサッカーの世界一を決めるワールドカップ。98 年のフランス大会 では、世界中で約 370 億人が視聴者になった。そして 2002 年の日韓共催の大会では、約 420∼450 億人になると予想されている。これはスポーツの祭典であるオリンピックをは るかに上回る数字となる。しかし、サッカーも昔から絶大な人気があったというわけでは ない。それは、1930 年に開催された、第 1 回ワールドカップウルグアイ大会の、出場エン トリー数 13 国、出場国 13 国、試合数 18 試合、観客動員数 434,500 人という数字と、98 年に開催された第 16 回フランス大会の出場エントリー数 174 国、出場国 32 国、試合数 64 試合、観客動員数約 280 万人という数字を比べてみてもわかる。 ワールドカップを開催する世界サッカー連盟(FIFA)のもとには、世界各国のサッカー協 会が存在している。そこでは、4 年に 1 度開催されるワールドカップに向けて選手を強化 すべく、各国でリーグ戦が開催されている。日本にも日本サッカー協会が存在し、1993 年には J リーグというプロサッカーリーグが設立され、プロサッカー選手が所属するクラ ブチームが多くつくられた。しかし、世界では、その 100 年以上も前にプロサッカーリー グ、クラブチームが誕生していた国もあった。 プロサッカーのクラブチームともなればひとつの企業ということができ、そこには健全 な企業活動をするべく、さまざまな支出入が存在している。しかし、日本国内、海外とも 現在では、これまでの経営とは大きく変化しつつある。そこで卒業論文としてサッカーの クラブチームの企業活動としての経営、またその経営の変化について調べることとした。 論文の構成は以下の通りである。第 2 章では海外、おもに欧州のクラブチームの経営に ついて調べる。第 3 章では試合を放送する際の放送権ビジネスについて考える。第 4 章で は選手がチームを移籍するときに生じる移籍金と、それに関するボスマン裁定という新制 度についてまとめる。第 5 章では今年 99 年度で 7 年目を迎えた J リーグに所属するクラ ブチームの経営問題を調査する。6 章では本論文で得た結論をまとめるとともに、これか らのクラブチームはどのような経営をするべきかに言及する。 2. 欧州のクラブチームの経営について 海外のサッカークラブチームの歴史は深く、19 世紀に誕生し、今日まで約 100 年以上の 歴史があるチームもいくつか見受けることができる。つい最近までは、クラブチームの運 営は、地元の地域と住民に大きく依存されていた。しかし最近は、さまざまな資本の導入 により、その運営方式が大きく変わりつつある。もちろん今までにも少しづつ変化をとげ てきたが、ここ数年の間に株式を公開したり、デジタル放送の開始などによる莫大なテレ ビの放送権料の獲得などで多額の資金を集めたりと、これまでに比べて経営が大きく変化 している。そこで、この章では欧州のクラブチームの今までの運営方法と、現在起こって いる問題やこれからの運営方法について調べていく。 2-1. クラブチームの収入源 クラブチームを運営するということは、企業活動をすることであり、それに伴い資金の 流出入が存在する。ここ数年で収入源が多様化され、それにより収入も莫大なものとなっ 1 た。この 2 章 1 節では、これまでと、これからで収入源がどのように変化していくのかを 主な例を挙げながら調べることとする。 (1) ソシオ(会員)からの年会費 ソシオ(会員)からの年会費 これまで、ヨーロッパにおけるクラブチームの財政の中で大きな役割を果たしてきたも のの中のひとつに「ソシオ」というものがある。ソシオとは元来スペイン語で「会員」の意味 であり、今日ではクラブチームを支える会員として世界中で認知されている。 ソシオは年間シートの権利を得るために年会費を払い、それがクラブの財源となる。こ の収入は財源としても重要で、一般的にクラブの総収入の 3 割程度を占める。ソシオは、 クラブの会長選挙の投票など、クラブチームの運営にも参加し、収入面と経営面の 2 つの 面で大きな役割を果たしている。スペインリーグ優勝 16 回の強豪 FC バルセロナでは、こ のソシオによる年間シートだけで約 10 万人収容のスタジアムは常に 7 割以上埋まるほど である。昨シーズンはサッカーに関する年間収入 84 億ペセタ(1 円=約 1.3 ペセタ、約 64 億円)のうち、28 億ペセタ(約 21 億円)がソシオからの収入であった。この数字はJリー グの中堅クラブの年間総予算に匹敵する数字である。 現在、日本でもこの制度が注目され始めているが、実際には横浜フリューゲルスの吸収 合併により、フリューゲルスサポーターが旗揚げした横浜 FC が、このソシオ制度を経営 の基盤に据えている以外に導入しているクラブチームはない。また先日、ベルマーレ平塚 から親企業であるフジタの撤退が発表され、ベルマーレもまた市民クラブとして、再スタ ートする道を選ばざるを得なくなっている。 (2) 入場料収入 1990 年代前半まで強豪と呼ばれるようなクラブチームは、大都市をホームとするチーム がほとんどであった。なぜならば、プロサッカークラブにとって最大の収入源は入場料収 入であり、クラブの財政(=チームの戦力)が、スタジアムに足を運んでくれるサポーター の数に依存する割合は、現在とは比較にならないほど大きかったからである。そうである 以上、都市の規模つまりは人口の多さ、観客動員数の多さが、クラブの強さに反映するこ とも当然のことである。もちろん、オーナーがクラブにどれだけ資金を注ぎ込むかも当時 から大きな要因のひとつではあったが、それもやはり、都市の産業や経済と無縁ではない。 都市の大きさと、その都市を代表するクラブの大きさは、おおむね釣り合っていたのであ る。 この構図に変化が見え始めたのは、90 年代に入ってからである。人口 17 万人に過ぎな いエミーリア=ロマーニャ州の都市を本拠地とするパルマが、90 年に史上初めてのセリエ A 昇格を果たすと、一気に「中堅クラブ」の仲間入りを果たした。その背景には、プロサッ カークラブを企業の「宣伝媒体」として捉え、積極的な先行投資でチーム補強を図った親会 社、パルマラット社(国際的な乳業メーカー)の存在があった。カルチョ・ビジネス時代の 始まりである。 (3) クラブチームの株式公開による資金調達 クラブチームが企業活動する上で、クラブチームが大きく、有名になるにつれて多額の 資金が必要となることは必須である。かつてはソシオからや、それ以外の観客入場料など 2 で資金を得ていたが、活動の規模を大きくするにあたり、その額では資金不足となり、こ こ最近では欧州サッカーのクラブチームが株式公開する動きがでてきた。 英国で最も人気のあるマンチェスター・ユナイテッドでは、本拠地であるオールド・ト ラフォード競技場で現在大規模な改修工事が進んでいる。完成すれば観客収容人員は 5 万 5,000 人から 6 万 7,000 人に増える。この改修工事は、毎試合の入場者率が 100%に達し、 なお需要の伸びが見込めるとしたために、3,000 万ポンド (1 ポンド=199 円、約 60 億円) を投じたためである。この資金は、株式を公開して得ることができた。株式を公開すると、 資金力を付けてスター選手を獲得、さらに、このように競技場などに設備投資してファン 層を広げるといったようなメリットがある。 英サッカーのプレミア・リーグは、1990 年代に各クラブチームの株式上場によって大き く変わった。上記のマンチェスター・ユナイテッドはその成功例といえる。91 年の上場後、 国内リーグで優勝が 5 回、2 位が 3 回、欧州でも 99 年にはナンバー1に輝いた。90 年か ら 8 年間で売上高は 8 倍に増え、現在の株価(約 225 ペンス)は公募時の 12 倍である。 仏シンクタンクのユーロスタッフは、このマンチェスターユナイテッドの成功は、移籍 金の高い選手でなく、若手の育成、競技場への設備投資など長期的な経営戦略の成果であ ると評価した。マンチェスターユナイテッドでは、大物選手を獲得したいが、移籍金が高 く選手年俸の高騰を招くとして、国外のスター選手には手をださない姿勢を貫いている。 英コンサルティング会社によると、上場したチームが選手に支払う給与が収入の 46%を占 めるのに対して、非上場のチームは 60%に達している。これは、株主の圧力がチームの負 担となるスター選手の獲得、年俸の上昇に歯止めをかけているためと分析する。 多額の資金が得られることが、株式を公開することによってもたらされる大きな特長だ が、それ以外にも従来と異なる特徴がある。上場しているチームの一つの特徴は、その収 入構造である。通常では、入場料、TV 放映権、スポンサー・広告、チームグッズの販売 などが収入の大きな柱になるが、上場しているチームほどスポンサーやグッズ収入の割合 が高くなっている。上記で触れたマンチェスターユナイテッドも、チームが勝ち続け、入 場者と視聴者が増えた結果、グッズの売上高が伸びた。これは、チーム側が他チームに比 べてチケット価格を安く抑え、グッズを買いやすくしたためでもある。今日では、英国の クラブチームは市場原理を導入した経営方針をとり、経営面で欧州各国をリードしている。 ただ、投資妙味があるのは、数チームしかない。上場で得た資金をスター選手獲得に投 じたニューキャッスル・ユナイテッドは現在の株価が公募時の 7 割の水準にしかない。 株式を公開したために、クラブチームは市場も拡大しなければならない。マンチェスタ ーユナイテッドはこの夏に香港、シンガポール、オーストラリアに遠征した。日本、アジ ア、アフリカなど、世界各国から有力選手を安い値段で集めるとの観測もこの延長線上に ある。 また、世界各国でファン層が広がった分、クラブチームの本来の役割であった地域との 絆が薄れてきた。チームは株主のものか、ファンのものかという議論は、サッカー先進国 の英国でもまだ結論がでていない。 (4) 富豪や実業家によるチーム所有 先にも触れたように英プレミアリーグなど、北方のクラブチームが株式を上場して、収 3 益も勝利も追求するのに対して、イタリアとスペインなどの南方の名門チームは、あくま で勝利にこだわる。今年 6 月から 8 月までのシーズンオフは、大型移籍が相次いだ。6 月 にイタリアのインター・ミラノが過去最大の 60 億円の移籍金を払って、ラッツィオから イタリア代表のFWビエリ(26)を獲得した。8 月にはフランス代表のFWアネルカ(21)が 44 億円で英アーセナルからスペインのレアル・マドリードへ移籍した。過去の移籍金額ベ スト 10 をみると、ほとんどがイタリアとスペインのチームによるものである。 イタリアやスペインなど、南方に位置するチームに収益への意識が弱いのは、富豪や実 業家がチームを所有していて、クラブチームのパトロン的存在となっており、自分の地域 の強さを競い合うという点が大きく、企業として利益を追求するといった理念が薄いから である。 英コンサルティング会社のデロイト・トゥシュによると、1996-97 年のシーズン、イタ リアのセリエ A(一部リーグ)18 チーム中黒字は7チームだけだった。AC ミランは約 19 億 円の赤字を、30 億円を超す増資で何とかしのいだ。ミラノはトリノとローマ、マドリード はバルセロナと地域的に張り合っており、これが勝利への原動力となっている。赤字を解 消し、多額の資金を容易に獲得できるためか、イタリアなどでも株式の公開を検討してい るチームがあるようだ。しかし、ここ 1,2 年でテレビ放映権収入が増えているが、そこで 得た資金もすぐに選手の獲得など、チームを強化するための資金に当ててしまい、経営に よる赤字を解消しないため株主経営は難しいと考えられる。 (5) スポンサー収入 昔からスポンサー契約はクラブチームにとって大きな収入源のひとつであった。それは 現在も変わらない。しかし、現在はそのスポンサーからの契約金がこれまでとかわり多額 のものとなりつつある。なぜならば、スポンサーである企業側は、プロサッカークラブを 企業の「宣伝媒体」として捉え、受け手のクラブチーム側は積極的な先行投資で、チームの 補強を図ることができるからである。 ロンドンにある名門クラブチームのアーセナルは、1999-2000 年のシーズンからセガ・ エンタープライゼスの欧州法人、セガ・ヨーロッパと 3 年間のスポンサー契約を結んだ。 契約額は推定 1,000 万ポンド(約 20 億円)とされる。日本企業のシャープが英マンチェスタ ー・ユナイテッドと結んでいる年間 150 万ポンドを大幅に上回り、英サッカー史上最高の 契約額となった。 アーセナルのファン層の中心は 16 歳から 30 歳。セガが 9 月から欧州 で投入した新製品「ドリームキャスト」の消費層と一致する見通しからである。スポンサー 収入は有力選手を集める重要な資金源とされる。 (6) TV メディアからの莫大な額の放送権料 現在のクラブチーム経営におけるメディアからの収入は、収入源の中でも最も大きなも のといえる。その中でも、TV メディアとの関わり(放送権料)が、とても大きな存在となっ ている。TV メディアとの関わりである放送権料については、第 3 章で詳しく取り上げる。 2-2. 欧州の経営諮問機関 2 章 1 節で述べたように、クラブチームの収入はここ数年で莫大なものとなった。それ 4 に伴いクラブチームの経営は多角化されるようになった。このように経営が多角化される と各国リーグに経営を監査するシステムが必要となってくる。欧州の各リーグが経営諮問 機関をつくった背景には、リーグ戦は大クラブだけでは成立せず、倒産するクラブがでて しまい対戦相手がなくなってしまっては、リーグ戦の開催はできないという考え方がある。 財政が弱いクラブの経営破綻を未然に防ぎ、全クラブの共存共栄を目指そうということだ。 (1) ドイツブンデスリーガ 経営監査のシステムにおいて最も充実しているのがドイツである。「経営監督局」がクラ ブの予算や決算を審査し、毎年リーグに所属するためのライセンスを交付している。J リ ーグでは加入時にスタジアムの規模などの条件を一度チェックされるだけだが、ドイツで は毎年審査されている。中期的にみて財政状態が健全ではないと判断されれば、成績にか かわらずライセンスを失いアマチュアリーグに降格することになる。ブンデスリーガでは 特別に条件付きでライセンスを交付するケースも多い。「シャルケ 04」が高年俸のドイツ 代表、トーンを獲得し、強化と観客増をめざすと報告した際には、「入場料収入が見込み通 り増えなかったら、選手を放出して支出を減らす。」という条件を付けた。経営監督局は、 経営コンサルタントとしての役割も果たしている。 もしも、ライセンス交付に関しクラブ が不服の場合は、監督局のメンバーを代えて 2 審を行う。なお不服なら民法で争うことに なる。 ドイツにはクラブの存続を助ける「リーグ積立金制度」もある。1部に昇格したクラブは 160 万マルク、翌年からは 40 万マルクずつ(2 部は半額)積み立てが義務付けられ、経営危 機に陥った際に取り崩すほか、破産したときは選手の未払い報酬にあてられることとなっ ている。 (2) イタリアセリエ A イタリアの場合は、機関設立の経緯が他の国々と比べてやや異っている。クラブチーム に公的資金であるトトカルチョ(サッカーくじ)の収益を分配されているために、使途を監 視する必要がある。またイタリア・スポーツ界の大きな財源を生むトトカルチョを運営す るためにはクラブのシーズン中の倒産は許されない。乱脈経営に歯止めをかけるため、 1987 年に「プロサッカークラブの経営に関する委員会」が発足された。収入が債務の 3 倍あ ることを健全経営の目安にし、セリエ B からセリエ A に昇格したクラブは 6 割増までの予 算が許され、B への降格クラブは 3 割減の予算設定を指導される。セリエ C から B への昇 格クラブは 10 億リラを拠出する。その拠出された支金はリーグを通じ、C への降格クラ ブに渡す。無理な選手補強で赤字を出して残留するより、健全経営を保ちながらの降格を 勧める。そのかわりに降格クラブを援助する制度を整えている。残留目的の無謀な補強合 戦は共倒れを呼ぶだけ、という経験が制度確立のもとになっている。 (3) フランスリーグ フランスでは 1990 年に1部の 18 クラブの負債総額が 8 億フランに達した。同年、「全 国経営監視部」を設立し、リーグをあげて経営の立て直しを図った。予算や決算などをもと にクラブを 4 つにランクづけし、「財政に大きな問題を抱えるクラブ」は降格処分、「懸念 5 されるが深刻ではないクラブ」には選手契約に制限をつけ、「問題が生じる可能性のあるク ラブ」は監視部の管理下に置かれる。その中で、1991 年に 1 億 2,000 万フランの負債を抱 えていたブレストなど、アマチュアリーグに落とされたクラブ数は 12 を数える。機関設 立の目的は、罰則を科すことではない。クラブが存続していくための経営ノウハウを共有 し、さまざまなクラブチームとリーグが栄えていくことが基本理念にある。 フランスは、98 年の W 杯の優勝で、経営面でもサッカー先進国の仲間入りをしようと している。これまでスポーツの公共性という観点から、各チームは自治体などが出資する 非営利の法人か第 3 セクターであった。そのもとでの高い社会保障費負担がクラブチーム の成長を遅らせた。近く法改正によってクラブは自由に資金を調達できるようになり、経 営面で一歩サッカー先進国レベルに近づくことになる。 2-3. 欧州以外の新市場の開拓 欧州では、資本力のあるクラブチームが勝利を手にし、人気と収益を独占しはじめた。 中田英寿に代表される有力選手の移籍騒ぎは、Jリーグも欧州発の市場開拓の動きに巻き 込まれ始めたことを物語っている。欧州のスポーツ事情に詳しいフランス国立運動体育研 究所(INSEP)の研究員は、「スポーツが地域に守られて市場原理の外にあった時代は終わろ うとしている」と指摘する。この変化がとらえたのは日本選手で、伊セリエAのボローニャ は日本の小野伸二と中田の獲得を狙い、ベネチアは名波浩を獲得した。日本の選手がクロ ーズアップされるのは、実力が認められたからだけではなく、所属クラブにとって日本市 場にアクセスする窓口となり、放映権や関連商品の収入増に大きく寄与するからである。 また、新市場は日本に限らず、イングランドプレミアリーグに所属するマンチェスター ユナイテッドは、今年の夏に香港、マレーシア、オーストラリアなどヨーロッパ以外の国々 に遠征し、他の大陸からワールドワイドな人気を獲得しようとした。 昨年、セリエAの放映権を獲得したフジテレビが支払った額は推定 2 億円弱。それでも 深夜に 5%近い視聴率を上げるペルージャの試合には投資価値がある。ただ、資金を調達 できる選手を獲得するための投資は、年俸や移籍料の高騰に拍車をかけることになる。具 体例を挙げるとイングランドプレミア・リーグに所属するトップ選手の 1997-98 シーズン の年俸は前年より 4 割上昇したとの報告が発表された。 3. 放送権ビジネス スポーツチームや放映権の買収で高視聴率を稼ぐことは、メディアの世界の常識である。 マードック氏の「ニューズ・グループ」も英サッカープレミアリーグの放映権を持ち、米大 リーグのロサンゼルス・ドジャースを買収するなど、スポーツを巧妙に利用することで傘 下の放送会社を成功に導いてきた。また、ここ数年の衛星デジタル放送の開始によって、 放送権獲得のための契約金が高騰し、その放送権料が、クラブチーム運営において大きな 変化をもたらしている。また、その放送権ビジネスの行き過ぎが、現在大きな問題となっ ている。 6 3-1. TV メディア参入による地域社会との関わりの変化 現在、欧州のプロサッカーをめぐる放映権争いが激化している。衛星デジタル放送を手 がけるテレビ局が、加入者増加の武器としてサッカーの試合の放送に目をつけて、放送権 の獲得に群がっているからである。高い放映権収入を手にしたクラブチームは選手の強化 に投資し、クラブとしてさらに強大になる手段を得ることになる。 主な例は次の 3 例である。1 つめは、本来、クラブチームは地域社会に根付き、競技場 に足を運ぶファンからの入場料収入の占めるウエートが高かったのだが、これからのクラ ブチーム運営は放映権収入だけで全収入の半分近くを占めるようになるとみられる。従来 に比べ、最近は資本の論理が強まりつつある。各国のリーグ戦や欧州カップ戦が有料放送 に欠かせないコンテンツ(情報内容)となり、放送会社以外にも、放映権で潤うクラブチー ムにとってもテレビ視聴者ファンの獲得の重要性が増している。 2 つめに、チーム側も 5,6 万人以上を収容する大規模な競技場に設備投資するよりも、 採算がとりやすいテレビ視聴者の獲得を優先するようになる。テレビで試合を観戦するフ ァンは地元意識よりも、応援するチームに有名選手が所属し、試合に勝つことがファンと なる判断基準になる。 3 つめに放送権料による収入増でクラブの財政が潤い、クラブが強化できるということ である。例えば、クラブチームはこの収入増を元手に、スター選手の獲得に走ることがで きる。インテル・ミラノ(イタリア)が 800 億リラ(1 円=約 15.4 リラ、約 52 億円)という史 上最高の移籍金を支払ってイタリア代表の FW ビエリを獲得したのも、この放映権料によ ってもたらされた収入によってである。 だが、メディアの存在は、クラブチームと地域社会との関係を崩すもろ刃の剣にもなり える。こうした事態は、サッカーのクラブ経営を揺るがしかねない。安定した収入が見込 める放映権に頼る余り、競技場を訪れる忠実なファンの心が離れかねないからだ。「クラブ 経営の基本価値は競技場と地域社会にある。これを抜きにしてクラブチームが世界市場で 成功することはありえない」と仏国立運動体育研究所(INSEP)の研究員は指摘する。 3-2. 欧州各国リーグにおける放送権料の契約 このように放送権料によってクラブの経営が大きく変わろうとしているが、はたして実 際に、放送権料はどのように変わっているのだろうか。 スペイン最大のクラブチーム、FC バルセロナが、同国第 2 衛星デジタル放送の「ヴィア・ デジタル」と単独放映権の契約を結んだ。2003 年からの 5 シーズンを総額 650 億ペセタ(約 490 億円)で、地元で行う試合すべてを「サッカー専門チャンネル」で生中継する権利を得た。 バルセロナは現在、地元のテレビ局 TV3 と放映権の契約をしている。ヴィア・デジタルと 組むことによって、放映権収入は一気に 2 倍余りに膨らむ計算である。 イタリアのセリエ A では 1999-2000 年のシーズンから、AC ミラン、ユベントスなど有 名チームが同じ衛星デジタル放送「テレピウ」との個別の契約を決めた。有名チームでは年 間 50 億円近い放映権収入を得る見通しとなっている。また、フランスでは、2001-04 年ま での国内リーグの放映権入札が始まった。当初は過去からの実績がある有料テレビの「カ ナル・プリュス」が優位とみられていたが、予想に反してライバルの有料テレビ「TPS」が リードしている。これまで放映権は年間 7 億 5000 万フラン(約 150 億円)だったが、 「TPS」 7 はその約 3 倍に当たる年 20 億フラン(約 400 億円)の額を提示したからである。 現在の欧州の 2 大衛星放送は、仏「カナル・プリュス」と豪メディア王マードック氏率 いる「B スカイ B」に代表されている。 「カナル・プリュス」は仏伊スペインなど欧州大陸 で 1100 万世帯、「B スカイ B」は英国だけで 700 万世帯の加入者を獲得した。「カナル・プ リュス」では、加入者の 4 割がサッカーの試合を目当てにしているように、サッカーの生 中継が加入者獲得で大きな武器になった。 だが、放映権の高騰で地上波はついていけなくなると日本の放送関係者は心配する。唯 一、有料テレビだけが放送権料を払い続けられるが、その有料テレビも加入料を取るだけ でなく、視聴した分を払うペイ・パー・ビュー方式でサッカーを放送しないと元を取れな い可能性がある。 3-3. 日本でのセリエ A 放送権獲得における巨額投資 放送権料の問題は欧州のみで起こっていることではない。実際にこの日本でもその問題 が起こっている。 サッカー日本代表の中田英寿選手らが活躍するイタリアプロサッカーリーグセリエ A の 日本での全放送権を、CS(通信衛星)放送の日本デジタル放送サービス(スカイパーフェクT V)が巨費を投じて BS(放送衛星)放送の日本衛星放送(WOWOW)から放送権を奪い獲得し た。 昨シーズンまでセリエ A の放送権は、地上波をフジテレビ、衛星波を WOWOW が押さ えていた。今シーズンからはスカイパーフェク TV がすべての放送権を獲得し、それを再 販売の形でフジテレビ、日本テレビ放送網、テレビ朝日に売っている。フジテレビはスカ イパーフェク TV の筆頭株主の 1 社だが、経営安定を優先するスカイパーフェク TV は民 放 3 社を同列に扱った。 スカイパーフェク TV が今年 7 月末に獲得したのは、今年度から 3 シーズン分のセリエ A の全テレビ放送権である。取得額は 1 シーズンで 1,900 万ドル(約 20 億円)とされ、3 年 で 60 億円規模に達する。中田選手の所属するペルージャに加え、今シーズンから名波浩 選手がベネチアに移籍した。目玉が増えたとはいえ、年間放送料は昨シーズンの約 4 倍に 高騰した。スカイパーフェク TV は今年 3 月末で 450 億円強の累積損失を抱えており、加 入者獲得のために社運を賭けて大きく動いた。 だが、実際にはセリエ A の効果は予想を上回った。放送権獲得が報じられた 8 月上旬か ら問い合わせが急増し、8 月の加入者増加数は 7 万 2,900 件と前年の 2 倍近くにのぼり、 単月で過去最高を記録した。9 月も半月で 4 万件のペースを持続した。週末は 1 日で 5,000 件を上回る登録もあり、ライバルであるディレク TV の 1 カ月分の加入者数にすら迫る勢 いである。 無謀と思われた巨額投資だが、収益面でもプラスが望めそうで、最近の新規加入者の 4-5 割がセリエ A 効果といい、月 3 万件として年 36 万件。視聴料が月 3,000 円として 130 億 円の増収効果が見込める。地上波や BS 各社へ番組を再販売すれば、副収入も膨らむ。地 上波向けの再販売だけで、金額は数億円と見られている。 8 4. ボスマン裁定による移籍金の変化 「移籍」の定義は「元の所属チームを脱退し、別のクラブに所属変更すること」となってい る。通常、選手はチームと契約を結んでおり、例外はあるが、契約が終了した時に自由に 他のチームに移籍をすることができる。「移籍金」は移籍時に発生するもので、元のチーム と移籍先のチームとの間でやり取りされ、移籍金は移籍する選手の年齢と年棒から算出さ れることが基本となっている。 現在ヨーロッパではボスマン裁定という制度が、移籍問題を始めとして、クラブチーム の経営までを従来のものから大きく変えつつある。 ボスマン裁定とは、ベルギーのプロサッカー選手であるジャンマルク・ボスマンが、当時 所属クラブであった RFC リエージュとの新契約を望むが決裂し、移籍を希望したボスマ ンが、クラブチームやベルギーサッカー協会の妨害工作を受けたため提訴し、ヨーロッパ 司法裁判所が 1995 年 12 月に判決を下した新制度の事である。「ボスマン裁定」による新制 度の概要は、 ・移籍金の廃止(契約期限切れでなおかつ EU 内の国外にかぎる。同国内の移籍に関しては 従来通り。 ) ・EU 内での EU 内外国人枠撤廃(二重国籍も含む) ・EU 内に一年以上在住した場合、EU外の外国人枠撤廃 というものである。この新制度は今後のクラブチーム経営にどのようなかかわりが出てく るのであろうか。 4-1. 年棒の高騰化とトレードの活発化 欧州のビッククラブともなると、ホームゲーム観戦数やクラブ会員などの数は、日本と は比べものにならないほど大きなものであり、それに伴いクラブチームには膨大な資金力 がある。その膨大な資金力によって、世界各国から選手を買い求める。 このボスマン裁定によって、一部条件付きではあるが移籍金(およそ年棒の 3 倍)がなく なった。このことにより一層選手が獲得しやすくなり、年棒は高騰しやすくなる。それに よって一流といわれる選手が、金(高い年棒)を目的に大きなクラブチームに集まってきて いる。ボスマン裁定により、移籍金がなくなることは、クラブ側が年棒を上げやすく、そ の結果、選手の年棒の高騰化をより助長している。 ボスマン裁定による移籍金の廃止、外国人枠撤廃、年棒の高騰化により、欧州のビック リーグ(イタリア=セリエ A、ドイツ=ブンデスリーガ、スペイン=スペインリーグ、イン グランド=プレミアリーグ)などに一流と呼ばれる外国人が大挙してやってきている。多く のクラブチームがヨーロッパ中にスカウト網を張り巡らせ、チームの「目玉商品」となるト ップクラスの選手の獲得はもちろん、まだブレイクしていない若い、そして年俸の安い才 能ある選手の発掘にも積極的に乗り出している。自国の有望若手選手の移籍金が高いこと もあり、最近は、海外から 20 歳前の若手を「青田買い」してくることがよくある。これに より、それ以外の国のサッカーリーグからはスター選手がいなくなり、リーグの人気の低 迷化を招く。 そこで、イタリアを除くヨーロッパ各国では、ボスマン裁定以降、プロ契約が結ばれて いないユース選手(18 歳以下)が、移籍金ゼロで海外流出するのを規制する制度が整備され 9 た。しかしイタリアだけは、プロ契約(満 14 歳から契約できる)を結んでいない 14-18 歳の 支配下選手に対するクラブの保有権は、国内での移籍についてだけしか認められていない。 この制度を逆に利用すれば、海外のクラブは移籍金ゼロでイタリア人の将来有望なユース 選手を獲得し、プロ契約を結ぶことも可能となる。 4-2. 選手育成システムおよび、下位チームの経営基盤崩壊 これまでにヨーロッパでは、下位のチームが若い国内選手を育てては強豪チームに売る、 という選手育成と経営基盤が存在した。現に欧州では移籍金によって若手を育て、クラブ を経営しているクラブチームも実在している。しかし、ボスマン裁定によって、そのシステ ム自体が崩壊してしまいそれによって上記のような経営をしているクラブチームも危機に 追い込まれてしまう恐れがある。 低価の外国籍選手をチーム側が大量に獲得すれば、ユース、ジュニア部門の存在価値が 減少し、ユース、ジュニア育成の予算は削減される。なぜなら、選手育成には多額のコス トが懸り、しかも、リスクが大きいからである。よって補強という面では、外国人を獲得 することが今後チーム側にとって最優先事項になると考えられる。 移籍金がなくなることは、選手個人の人権尊重の立場から考えられてのことで、クラブチ ーム側の経営や権利は関係ない。なぜなら、移籍金というのはクラブ間でやり取りされる 金銭であり、選手にはまったく関係ないからである。それまで移籍にかかっていた費用が 少なくてすむため、選手を取る側にとってみればこれほど好都合なことはないが、取られ る側からすれば、手塩にかけて育てた若い才能ある選手に移籍金ゼロで他のクラブに獲得 されては大問題である。ユース、ジュニア育成により、育てあげた選手に無益で移籍され るとしたら、クラブがユース・セクションに投資する価値は大幅に減少し、結果として育 成システム全体が弱体化する可能性も考えられる。 4-3. EU 内外国人枠撤廃による問題 ボスマン裁定により、EU 内で外国人枠を撤廃することになり、外国人を何人でも雇え るとなれば豊富な資金力に物をいわせて 11 人雇うということも可能となる。すると自国 選手の出場枠は限られてしまい、リーグ全体が「外国人リーグ」ともなりかねない。その結 果、自国選手が育つ機会が失われ、結果的にクラブチームの低迷化、自国リーグの低迷化 を招くと考えられる。実際にボスマン裁定以降の外国人選手のインフレ状態により、セリ エ A,B のクラブチームでは、イタリア人の若手選手が活躍する場が、年々狭まってきてい る。 また、ボスマン裁定にかからない地域、アフリカや南米、もちろんこの日本も含めたア ジア地域などでは、かつてヨーロッパの選手を獲得するよりも、安い契約金で将来が有望 な選手を獲得し、育て上げた方が安価であるという理由のために、多数の選手がヨーロッ パのクラブチームに獲得されていった。そして、獲得されていった国のサッカーリーグで は、その獲得された選手の穴を埋めるべく新たな若手選手が試合に出る機会を多く与えら れて、実力を付けていき、その国のサッカーを強くするというよい循環があった。 しかし、現在では移籍金を払ってそのような地域の選手を獲得しなくとも、すでに実力 のあるヨーロッパの国の選手を獲得したほうが安価となるため、そのような機会も失われ 10 つつある。その問題を解決するために、現在日本サッカー協会ではヨーロッパのクラブチ ームに移籍するときの移籍金に対して問題提起されている。 5. J リーグの経営について 日本の J リーグは 1993 年に開始され、今年 1999 年に 7 年目を迎えたばかりである。そ の経営状況は、昨年 98 年度に所属した 18 チームすべてが赤字に苦しんでいる状況である。 開幕当初は何もしなくても、観客動員数は増え、関連商品も売れるといったような状態に あぐらを掻き、たいした経営努力もせずにいた。今では一部の試合を除いて、観客動員数 は 1 万人を割り込み、過去に多数存在した関連商品の数も売上も減少し、クラブチームの 経営を困難にしている。 現在の J リーグのクラブチームは、一見独立した企業とみられているが、実際には、大 企業である親会社の出先機関的な色合いが強い。その証拠として横浜フリューゲルスは、 親会社である全日空の J リーグからの撤退によってチームそのものが消滅してしまった。 親会社に大きく経営を依存してしまうために、親企業の経営状態によって、クラブチーム の経営が大きく揺らいでしまう。このままでは J リーグの存在自体の消滅が危惧されるた め、今日では、親企業からの脱却を図るべく、欧州のクラブチームや、サッカー協会を参 考にした新しいクラブチームの経営へと乗り出している。 5-1. 各クラブチームの放漫経営が招いた経営悪化 J リーグの経営を苦しめた最大の要因は、人件費、つまり選手の年俸の急騰である。J リーグ開幕当初、日本人の年棒は同じプロスポーツ選手であるプロ野球選手に比べてとて つもなく低いものであった。1 億円プレーヤーはプロ野球選手の中では珍しくもないが、 日本人 J リーガーの中での 1 億円プレーヤーとなると日本代表の中でもスタープレーヤー といわれる数人だけであった。 しかしそのかわりに、世界的に有名な外国人選手(ジーコ、カレカ、マッサーロ、リトバ ルスキーなど)を高額な年俸で獲得していった。その後、それらのプレーヤーにつられ、バ ブル経済にも似た人気も手伝い、経営も好調で、日本人選手の年棒も高騰していった。こ うした経営が現在の経営難を招いた。 ヴェルディ川崎を例に挙げると年間 57 億円もの予算を組み、そのうち 30 億円が人件費 で年間 27 億円もの赤字を出していた。そのような経営を当時はどこのクラブチームでも やっていた。海外を見てみると 1 億円プレーヤーと呼ばれる選手は、世界的にも名を知ら れる一部の選手であって、その他の選手を見てみると地域格差もあり一概にはいえないが、 2,3 千万円以上稼ぐ選手はそう多くない。 しかし、選手の年俸以外にも J リーグに所属するクラブチームの経営が放漫なため、財 政を苦しめていった要因がある。1998 年度の J1 リーグに所属したクラブチームの事務局 員の平均人数は 37 名となっている。世界においても有名なビッグクラブならまだしも、 日本のクラブチームには、この人数は多すぎる。ヨーロッパで 1 部リーグに所属している 中堅とされているクラブチームの平均人数は 10 人ほどである。事務局員の人数を減らし、 経営をスリム化することによって、支出を大きく減らすことができる。 11 また、選手が移動する際には、新幹線のグリーン車で移動するということが当たり前で あった。今年ジェフユナイテッド市原などでは、移動をするときグリーン車から指定席と なっている。プロ野球界では、以前広島カープや西鉄ライオンズなどでは経営が厳しくな ったとき選手は普通列車で移動したこともあった。 J リーグではクラブの経営の健全化を図るための「経営諮問委員会(仮称)」を、今年設立 した。手本にしたのは J リーグ企画部が 2 度にわたって視察した、2 章 2 節で述べたよう な欧州主要国の同様の機関である。 5-2. 企業としての独立による自主運営への移行 前述のような経営がクラブチームの財政を苦しめた。経営難になったクラブチームでは、 今期、大幅なリストラを表明するチームが続出した。 これまで、ほとんどのクラブでは、恒常的に続く赤字を親会社が補填する形で、経営を 成り立たせてきた。だが、今日では不況で親会社の経営が苦しいために、経営から撤退す るか、出資額を減らすかを強いられている。例えば、ベルマーレ平塚ではフジタの出資額 減により、今期の選手総年俸は、昨期の半分である 4 億 4,000 万円となった。そのために 日本代表 FW 呂比須ワグナーなどの主力選手が退団し、他のチームに移籍した。 一方で、こうしたクラブ側の努力はこの不況をきっかけに各クラブが収入に合わせた支 出を心掛けるようになる一面もあり、将来の J リーグの体質健全化につながるとの見方が ある。入場料が大半を占める収入に応じた支出が可能なら、J リーグが提唱してきたクラ ブの自主運営が実現する。当面は選手に払える金額に偏りが出て、クラブ間の格差が広が る可能性がある。消滅した横浜フリューゲルスの山田恒彦社長は、「年間約 30 億円の活動 費のうちオーナー側から 15 億円の援助を受けていたが、収入が伸びなかったため、経費 の削減がうまくいかなかった」と述べているが、なぜ最初から 15 億円前後の身の丈に合っ た経営をしなかったのか疑問が残る。だがそれは、J リーグが提唱し続けてきた自主運営 への移行を怠ってきたツケともいえる。 5-3. 企業による商業主義と地元住民による地域密着主義 この不況のおり、横浜フリューゲルスは横浜マリノスに吸収合併されてしまった。業績 不振に苦しむ親会社は、企業としての側面を隠さなくなった。吸収合併を発案したとされ る横浜フリューゲルスの親会社である全日空は、この決定を「われわれは出資会社であり、 しかるべき選択」と説明した。J リーグの理念では、パートナーとされるサポーターに対し、 「あくまでお客さまとして誠意をもって対応する」との見解を示した。 地域に根を下ろすクラブづくり。そんな理想を支援する意図は、最初からなかったかの ように、企業論理が優先された結果となってしまった。佐藤工業の撤退を受けて、全日空 の責任者が横浜マリノスの親会社である日産自動車に相談し、話がまとまったのは昨年 7 月末。ようやく 10 月上旬になり両クラブ社長が初めて J リーグの川渕三郎チェアマンに 報告した。 そのようないきさつに関連し、J リーグの在り方を疑問視する声もある。読売新聞社の 渡辺恒夫社長は、「地域密着主義という理念ばかりを先行させ、企業が本気で支援できるよ うな環境づくりを一切怠ってきた。そして、各クラブを支える親会社の苦しい状況を見て 12 見ぬふりをして極めて独裁的なリーグ運営を続けてきた結果、チーム数だけは増え観客動 員数は激減してしまった現状を招いたものは、川渕チェアマンの誤ったリーグ運営の結果 である」という。また、渡辺社長は、J リーグはプロスポーツにもかかわらず商業主義を否 定しているともいう。 しかし、社会人野球やバレーボール V リーグや陸上、アイスホッケーなどかつての企業 スポーツの花形がリストラなどにより次々と解散、休部させられている現状を踏まえれば、 J リーグが理念にあげる自治体、住民、企業が三位一体となった民主的な運営こそが今後 何十年と生き残る方法であると考えられる。実際、ヨーロッパや南米ではどんなに経済が 混乱しようと 100 年以上プロサッカーリーグが開催され続けている国々が存在する。 5-4. 親企業からの赤字補填に代わる収入源 サッカークラブを運営していくためには、入場料収入、スポンサー料、テレビ放映料など いくつかの収入源を確保しなくれはならない。これまでの J リーグに所属するクラブチー ムのメインの収入源としては、母体企業による赤字補填がメインとなる、いびつな収益構造 となっていた。しかし、もはやこの収入源に頼ることは難しくなった。まず、親企業に頼らな い 2 章で述べたような収入源を確保し、自立したクラブチーム経営を目指すことが重要で ある。 現在の J リーグの観客動員では、入場料収入とある程度のスポンサー料だけで得られる 年間の運営予算は 10 億円程度である。そうなると、当然抱えられる選手の年俸も限られて、 華のあるスター選手の保持も難しい。もちろん、それでも若い選手を鍛え育てて、上手な戦 い方ができる監督がいるならば、ある程度のチームはつくることができる。しかし、優勝争 いをするレベルまで持ち上げていくことは困難であり、固定客以外の新しい観客が競技場 に足を運ぶ魅力的なチームにすることは難しい。 また、FC バルセロナのソシオにみるような市民株主的システムは、企業の赤字補填にか わる収入源の一つである。完全にホームタウンに在住する市民の出資によるクラブ運営、こ の運営方法は理想だが、現実の日本ではまだまだその土壌は育っていない。 この不景気によって、従来と異なり、企業が福利厚生や広告宣伝といった形でクラブを 保有することが難しくなった。企業が積極的にサッカークラブの運営などのスポーツ活動 に出資させるには、どうしたら良いか。この問題に対し、川淵三郎 J リーグチェアマンは国 や県、 市町村がスポーツ振興の為にも、サッカークラブなどの運営に出資している企業に対 して、税制の面で優遇措置を打ち出すべきで、企業の広告宣伝活動ではなく、地域のスポー ツ振興に貢献するための出資に関しては免税措置をとると考える。国だけでなく地方自治 体も免税措置をとるとなればなお効果的となる。スポーツ振興は節税になり、広告宣伝より 志の高い企業アピールになる。また、川淵三郎チェアマンはこうも言う。「例えばジュビロ ほど磐田の町を PR しているものはない。にもかかわらず、クラブを一企業と同じように みなし、同じ税金を取るのは間違いだろう。」(Do or DIE 二宮清純著 KSS 出版)ス ポーツ運営に出資している企業だけではなくクラブチーム自体も非課税扱いにすべきだと いうことだ。 13 5-5. サッカーくじの導入によるクラブチームの経営 親企業からの赤字補填に変わる収入源として、現在注目されているものは、近い将来に 開始されるサッカーくじからの収益配分である。 スポーツ振興の財源確保を目的に、J リーグの試合結果を賭けるサッカーくじは、昨年 5 月に国会で成立後、文相諮問機関の保健体育審議会が実施方法を検討された。早くても 2000 年秋から見込まれる発売開始に向け、発売を委託する金融機関の選定、スポーツ振興 の計画、収益配分の検討が進められる。だが、くじの対象になることで、サッカー自体へ の関心が高まることは予想されるものの、J リーグの人気上昇に直結すると楽観視する関 係者は少ない。イタリア、ブラジル、英国などサッカーが盛んな外国の例でも、サッカー くじの導入とプロリーグ人気の関係を探るのは難しい。サッカーくじの収益金の中で割り 当てられたスポーツ振興助成金で、座席、屋根、サービスといった快適な空間を提供し、 くじとは別に面白いゲームをファンに提供するのが先決であり、スタジアムを満員にする のが第一である。 またくじ自体にも疑問が多く、スポーツ議員連盟の試算によると、サッカーくじ発売初 年度の売上は約 1,800 億円。法案の配分比率によると、当選払い戻し金が 50%以内の約 900 億円、経費が 15%以内の約 370 億円、国庫納付金とスポーツ振興助成金がそれぞれ 17.5%以上で約 315 億円ずつがみこまれるという。なぜ、スポーツ振興投票という名前の サッカーくじでありながら、国庫納付金とスポーツ振興助成金が同じ比率になるのだろう か。 315 億円程度と見こむスポーツ振興助成金の分配だが、JOC では、ナショナルスポーツ センターの早期設置、選手強化対策の抜本的拡充という 2 つの目標がうたわれているが、 スポーツ振興というものは、はたしてそのようなものなのか。この資金は、われわれ国民 一人一人がスポーツを楽しむために使われるべきであり、一部のスポーツエリートのため だけに使われるべきではない。それよりも、現在土のグランドで活動している多くの学校 のサッカー部が、芝のグランドで活動できるようにするべきだと考える。 5-6. 日本で初めての欧州型クラブチーム経営を目指す横浜 FC 上記で述べたような親企業からの脱却を図り、欧州のクラブチームを参考にしたチーム 運営をしている、日本で唯一のクラブチームがある。そのチームとは横浜 FC である。横 浜 FC は、地域と住民、サポーターが経営に大きく関係するという、従来の欧州スタイル のクラブチーム運営をしている。 1998 年、親会社の撤退で「横浜フリューゲルス」の存続が難しくなり、結局「横浜マリノ ス」と合併した。この対応にフリューゲルスのサポーターらが反発し、横浜フリューゲルス 再建協議会が中心になり、新会社を設立して横浜 FC という新たなチームを立ち上げた。J リーグの基本理念である、地域に密着した市民スポーツクラブの実現を目指している。横 浜 FC は日本サッカー協会からの特別なはからいもあり、参加 1 年目の今年から、J1 リー グの 2 つ下のリーグである JFL に参加している。 横浜 FC では、2 章 1 項でもふれたように、「ソシオ」と呼ばれる会員からの会費を支え に、日本で初めての市民参加型サッカークラブを運営している。今年横浜 FC では年会費 3 万円の個人会員が 2,800 人も集まった。今年度はメディアが大きく取り上げたこともあ 14 り、ご祝儀で会員になってくれた人が多く、来年度は減るかもしれないと思われていたソ シオだが、ホームページを通じて 2000 年の新規会員の募集を 10 月 3 日に始めたところ、 10 日間で 60 人もの応募があった。 横浜 FC では、観戦前売り券の販売経路拡大に乗り出し、他のチームがチケットを販売 する手段の他、10 月から地元の消費生活協同組合(生協)の通信販売を通じ、前売り券の販 売を始めた。地域に密着した生協の通販を通じて入場料収入を増やすと同時に、コストを かけずに知名度を高めるのが狙いであり、横浜 FC の経営では企業スポンサーに頼らず、 地域に密着した市民スポーツクラブの実現を目指している。そのため、横浜市を中心に約 5 万 7,000 人の会員を持つ「けんぽく生活協同組合」の通販ルートの活用が得策と判断した。 これまで横浜 FC は、ソシオ会員の年間シートや競技場での当日販売が、入場者数の大半 を閉めていたため、前売りぶんの入場者数の増加に期待している。 今年のチームの収支状況は年間経費約 3 億円で、会費、スポンサー収入、入場料収入と グッズ販売のそれぞれが 3 分の 1 ずつを占めている。残りのホームゲーム 3 試合で観客の 入りがよければ目標をクリアできるというところまでこぎ着けている。今期はリーグへの 参加が急に決定したため、ホームグラウンド予定であった三ツ沢公園球技場にはすでに別 の予約が入っていた。そのため、ホームゲームでも試合ごとに会場が異なっていた。それ でも平均 4,000 人の観客動因を果たしている。この数字は JFL でも群を抜いており、ひと つ上のリーグである J2 リーグと比較してもこの観客動員数は上位に位置付けされる。来 期からスタジアムを三ツ沢公園球技場に固定するため、看板のスポンサーを期待できる。 看板で 30 枚、合計 1 億円の収入を見込んでいる。 本来は、資金をもっと投下しなければいけない分野であるチームの活動内容の告知だが、 現在は実質的に広告費はゼロ。上記の観戦前売り券を地元の生活協同組合を通じて販売す ることは、ただ単にチケット販売数を増やすというだけではなく、比較的費用が少なくて 済む地域のメディアを活用していくという面も持ち合わせている。 6. おわりに 企業活動をする上での目的は収益をあげることである。その目的は、クラブチームの経 営も例外ではない。そのために、今日のクラブチームでは、従来の経営方法以外にさまざ まな方法をとっている。その経営の多角化の結果、クラブチームはこれまででは考えられ ないほどの多額の資金を得ることができた。多額の資金を得られたことは、われわれ消費 者が、以前よりも多くお金をクラブチームに支払ったと考えられる。昔も今も形は違えど 結局は、クラブチームを支えているのは消費者、つまりはサポーターである。 しかし、あまりにクラブチームが大きくなったために、競技場を訪れる忠実なファンの 心が離れてしまうという現象が起こっている。クラブチームを大きくすることは、クラブ チームと地域社会との関係を崩すもろ刃の剣にもなりうることである。こうした事態は、 サッカーのクラブ経営を揺るがしかねない。「クラブ経営の基本価値は競技場と地域社会に あり、 これを抜きにしてクラブチームが世界市場で成功することはありえない」と仏国立運 動体育研究所(INSEP)の研究員は指摘している。 だが、クラブチームを大きくする事は決して悪いことではない。もしも、自分が応援し 15 ているチームがトヨタカップ(クラブ世界一決定戦)のような大きな栄誉を手にしたならば、 ファンも喜び、クラブチーム側としても新たなファンの獲得ができるため、どちらにとっ ても喜ばしいことである。ここで気をつけねばならないのは、手段と目的を間違えてはな らないことである。上記のようなファンの心が離れてしまうということは、ファンを喜ば せるために、資金を獲得してチームを強化するという従来の形が、チームを強化すること は、多額の資金を獲得する目的のためだけになってしまったからだと考える。 どんなにクラブを強く、大きくしようとも、ファンが一人もいなければ意味がなく、企 業としての経営も成り立たない。J リーグも基本理念に掲げている「地元と地域住民の密 着」が、やはりクラブチーム経営の根元にある。企業も、需要のない製品は供給しないのだ から、優良なクラブチームの運営をするためには消費者であるファンが喜ぶチームづくり を進めていくべきといえよう。 参考文献 二宮清純(1998)、 『Do or DIE』 、KSS 出版。 『週間サッカーマガジン』 、ベースボールマガジン社。 平成 10 年 10 月 7 日号。 平成 11 年 7 月 14 日号。 平成 11 年 10 月 20 日号。 平成 11 年 11 月 24 日号。 中日新聞。 平成 11 年 6 月 2 日朝刊。 平成 11 年 6 月 3 日朝刊。 平成 11 年 6 月 4 日朝刊。 参考資料 『セルジオ越後が行く“オランダ編”』 、 平成 11 年 11 月放送 制作 テレビ静岡。 16
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