建築学部開設記念 レクチャーシリーズ 第 3 回 金田充弘 「柔らかい構造」 2011 年 6 月 22 日(水)18:00 ~ 場所:工学院大学新宿キャンパス 3F アーバンテックホール ナビゲーター:山下哲郎 構造へのソフトイントロダクション 建築の骨格=構造? れたら、と思う。大学の 2 年生くらいまで、構造についてほ 以前は、変温動物的(壁や窓によって内部空間をコントロール) とんど知らなかった。構造の授業で、好きな並木道の木の実 だったが、近代になって恒温動物的(機能分化され進化)に変 測を行なった。この授業のおかげで難しいイメージを抱かず 化した。両者は、20 世紀の終わり頃に統合し始めてきたので、 に、構造の道に入ることができた。 必ずしも機能分化したものばかりではない。 この仕事で一番重要なのは、ヴィジョンを共有してチーム ・メゾンエルメス銀座:内骨格 で仕事をすること。最も効率いいものが一番正しいとは思わ ・表参道 TOD'S:外骨格/表層が構造 ない。構造だけで最適な解を出しても、それは単なる自己満 「やわらかい」構造について 今回の講演で、構造に対する「かたい」イメージを変えら 建築には様々な骨格があり、いろんな荷重の支え方がある。 メゾンエルメス銀座(設計:レンゾ・ピアノ)は、すべて 足で、バランスを考えてものがつくれないと意味がない。 構造設計におけるヴィジョンの共有 基礎に固定されているわけではなく、一部浮き上がっていい 砥用町林業センター(設計:西沢大良建築設計事務所)は、 ようになっている。細長い建物にかかる曲げの力に抗わない、 木がランダムに配された印象の建築物。木は屋根面も壁面も 地球と戦わない構造。浮き上がる側の足元に、揺れを吸収す 45 度振っているが、全部直交しているためつくりやすい。4 る水飴のような粘弾性ダンパーがある。見えないところだが、 本に 1 本は、トラスラインと呼ばれる木造の格子梁。4つの 建築はすべて基礎についていないといけないという考え方を トラスラインが交差するところに 12 個のコントロールポイ 変えると、新しい可能性がでてくる。 ントがあり、この高さを変えるだけで、かたちを提示するルー MACHI-YATAI PROJECT のチャックパークはいわゆる ルをつくった。全員でヴィジョンを共有することが大事。一 ファスナー、チャックを使った架構。真ん丸のわっかの両端 緒に考えるのが非常に楽しく、チームワークで設計している にファスナーがついている。ファスナーを閉めることによっ と感じられた。大事なのは、設計者だけがつくっているので て、場所によっては、トラス的になる。また、別の白いグレー はない、ということ。 の膜生地による架構。白い部分はフラットで、三角がつくら 建築、構造、音響、それぞれのいろんな意見を、曲面のま れている。端についているファスナーを閉めていくと、螺旋 まで進めるのは難しい。かたちを共有して、一緒に議論する 状にねじれた立体ができていく。 言葉、ルールが必要となる。台中オペラハウス(設計:伊東 MACHI-YATAI PROJECT の「浮々庵」はヘリウムで浮 豊雄建築設計事務所)では、まず多角形で議論し、それをス かせた四角い風船の屋根。白いひもで屋根をつなぎとめ、 カー ムージングによって曲面をつくるという方法を採用した。調 ボンファイバーのロットで水平力を支える。子どもが思いも 整するときは、コントロールポイントを移動させ、多角形を しない使い方で遊んでくれる。ハプニングにより、天井高を 形成し、曲面にする。共有できる言語をもって、かたちを収 低くしたら使われ方が変わった。 斂させていった。 こどもの隠れ家は、福島の子どもたちのための遊び場をつ #3-p1 くるプロジェクト。Creative for Humanity という団体との 共同。完全に仕切ってしまうのではなく、やわらかく仕切っ て、子どもが遊ぶテリトリーをつくる。家型を V 字に開いた 枠の間に、伸びる膜が張ってあり、座るベンチ部分に枠を差 し構造的に安定させる。膜は仕上げ材としてだけではなく、 構造的に効いている。子どもたちは遊びを考えて、いろんな ことをやり始める。想像していた以上に、 「もの」が「こと」 を誘発する。 素材について 新しい素材ではなく、素材のつくられ方が変わる時に建築が 変わると思っている。坂茂さんと参加した、サウジアラビアの 砂漠に建つ美術館のコンペでは、砂を躯体に使おうと考えた。 ■金田充弘(かなだ・みつひろ) 1970 年 東京生まれ。 主な構造設計プロジェクト 砂や土を研究しているフランスの研究者と、風化や凝結などの 1994 年 カルフォルニア大学バークレー校環 ・メゾンエルメス(レンゾ・ピアノ・ビルディ 自然のプロセスを加速する実験を行なった。小さい石みたいな 1996 年 同大学大学院土木環境工学科構造工 ものができるが、実際の建築に使えるレベルではない。砂のよ うに、そこにあるものを使ってつくり、使い終わったらもどす ことができないかということを日々考えている。 境デザイン学部建築学科卒業。 学科修士課程修了。 1996 年 Arup 入社。 1997~1999 年 2005~2010 年 ロ ン ド ン 事 務所勤務。 2007 年〜東京藝術大学美術学部建築科準教授 ア ン ド レ ア・ モ ル ガ ン テ / SHIRO STUDIO の ング・ワークショップ) ・冨弘美術館(aat+ ヨコミゾマコト建築設計 事務所) ・砥用町林業センター(西沢大良建築設計事務 所) ・サラゴサ万博ブリッジパビリオン(ザハ・ハ ディッド・アーキテクツ) 2002 年第 12 回松井源吾賞受賞。 RADIOLARIA(卵形に穴があいたような、5m 角シェルター) は、3D プリンターでフルスケールで出力。デジタルなものを そのままデジタルな手法でできてしまうところが面白い。 ネル割、形態を一緒に考えた。外形に対して、7個のパラメー 新しい建築へのアプローチ ターによる形態操作モデルを作成し、それを使いながら決め 建築は長い間、テクノロジーの最先端だったが、今ではロー ていった。遊びという意味ではなく、設計のためのルールを テク。建築で使っている解析ツールで、建築以外のものが解 一緒につくって、ものをつくっていくという意味のゲーム化。 析されている。 Mind Body Column は、アントニー・ゴームリーによる 「つくる」システムの再構築 凄まじい量の模型を製作する日本特有のやり方がある。そ 身体が 10 体、縦に積み上がっている彫刻。アーティストと こに現れる手垢のようなものが大事だ、という人がいるが、 とのコラボは、どこまでやるかという線引きがないので好き。 同じようにデジタルのものづくりにも手垢が現れると思って 足のところにあるテーパーを首に差し込み 10 体を積み重ね いる。構造解析プログラムやシュミレーションも、ルールを る。地震大国日本だと、差し込むだけでは無理。接合部の溝 つくっているのは人なので、必然的にその人ならではの個性 から水が流れてきてできるサビも表現の一部となるので、接 がでる。デザインツールとしてのブレークスルーが、そこに 合部を溶接するのもダメ、ピン接合もダメといわれ、結局焼 起きる。 き嵌め・冷し嵌めで接合した。 設計する人が施工しないのはおかしい。デジタル、設計、 今の建築は、他の分野で進んでいるテクノロジーを借りて つくることがつながれば、設計者側も、ものをつくる領域へ くるところに可能性がある。エルメスの場合は、歴史の中か のステップが踏みやすくなる。つくるシステムを一緒に考え らレファレンスをみつけてきた。環境設備のスーパースター られるし、システムの再構築が起きるのではないか。今日の が出てくると建築の有り様はかわるのではないか。日本から、 講演で、 「構造」に対する意識の中で変わったらよい。構造 日本のテクノロジーで、なにかやりたいと思っている。 とは、共有したヴィジョンを一緒にかたちにする仕事である。 デジタルエンジニアリング 座談会 金田充弘/山下哲郎/西森 陸雄 デジタルデザインとはどうあるべきなのか。10 ~ 15 年前 構造を学ぶときに、工学部の建築学科でなかったことがよ は形態の模索を、5 ~ 6 年前はかたちと同時に作り方・組み かった。エンジニアになるなら絶対ハードコアなエンジニア 立て方を考えていた。今後は、3D プリンターが技術的に成 リングをしっかり学ばないと楽しいことはできない。 熟して、設計したとおりにできるようになる。そのようにし デジタルツールは、それ自体が新しいものを生み出すので てつくられるものは、いかなるものなのか。 はなく、ツールという認識があればよい。それによって、手 Serpentine gallery(設計:SANAA)では、建築家、エ でしかできない部分が洗練される。 ンジニア、施工会社が、プロジェクトの最初からコスト、パ 構造系に行ってモテることはまずない! #3-p2
© Copyright 2024 Paperzz