中村学園大学薬膳科学研究所 研究紀要 第5号 目 次

中村学園大学薬膳科学研究所
研究紀要
第5号
目
次
〈分子栄養学部門〉
・総説
食品の多成分系生体応答機構 ……………………………………………………
1
Multiple Chemical Constituents and One Oriented-Bioresponse Hypothesis
内山
文昭
・総説
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果 ………………
治京 玉記
5
〈生体応答部門〉
・総説
Antioxidative function of herbs and spices in a lipid oxidation …………… 21
―Antioxidative effect of rosemary on fish oil and fish meat, and the influence of rosemary on the rat liver administered with oxidative fish oil―
Keiko Yoshioka
脂質酸化における香草・香辛料の抗酸化機能
―ローズマリー抽出物添加の魚油および魚肉における抗酸化性と
酸化魚油投与ラット肝臓への影響 ―
吉岡
慶子
〈開発・教育部門〉
・総説
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine …………………… 29
Shanying CHEN, Azusa OHNITA, Noritaka TOKUI, Yoshimi MINARI
中医学における美容に寄与する薬膳食材の分類
陳
膳盈、大仁田
あずさ、徳井
教孝、三成
由美
・総説
便秘の定義と便秘体質 …………………………………………………………… 49
徳井 教孝、三成 由美
分子栄養学部門
総
説
食品の多成分系生体応答機構
Multiple Chemical Constituents and One Oriented-Bioresponse Hypothesis
内山
文昭
中村学園大学 薬膳科学研究所 分子栄養学部門
(2012年3月31日受理)
キーワード
視床下部、下垂体、ホルモン、食品、漢方薬、多成分系、ストレス
要
報に由来する情報を含んでいる。それらの情報が統合さ
旨
れて、視床下部は自律神経系と内分泌系を用いてほとん
どの内臓器官に指令を伝達している。内分泌系では、下
食品の摂取後の生体応答は、肥満などの疾患ではエネ
垂体前葉へ、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン,adrenocor-
ルギー摂取、エネルギー貯蔵、エネルギー消費における
ticotropic hormone)、GH( 成 長 ホ ル モ ン,growth hor­
量的なエネルギーバランスの制御と健康になるための食
mone)、PRL(プロラクチン,prolactin)、TSH(甲状腺刺
品成分による適切な生理機能の惹起に関与している。両
激ホルモン,thyroid stimulating hormone)、LH(黄体形
者は生体にとって独立した現象ではなく、食品を摂取し
成ホルモン,luteinizing hormone)、FSH(卵胞刺激ホル
たときの外部環境因子の1つとして末梢器官で感知され
モン,follicle-stimulating hormone)などのホルモン分泌
て、その信号が中枢に伝達され、他の様々な外部環境因
を指令し、下垂体中葉へ MSH(メラニン細胞刺激ホルモ
子の情報と個体の保有する記憶が統合されて、中枢神経
ン,melanocyte-stimulating hormone)の分泌を指令する。
系から末梢神経系、内分泌系を介して特定の方向性を有
下垂体後葉に対して、オキシトシンとバソプレッシンの
する生体応答を引き起こしている。視床下部は中枢神経
分泌を指令している。このように視床下部は生体の恒常
系での情報の統合と末梢神経系および内分泌による情報
性の維持の中心的役割を果たしている。言い換えると、
伝達の中継基地の役割を担っている。その結果、視床下
視床下部は生活習慣病をはじめとする多くの疾患(高血
部には体温の制御、下垂体ホルモンの分泌制御、浸透圧
圧、狭心症、炎症、糖尿病、不眠、神経症など)に影響
の制御、摂食行動、飲水行動、性行動、睡眠、情動行動
を及ぼすことになる。内臓器官、特に心臓と胃において
などの中枢となっており、それらが相互作用している。
神経系からの入力と出力の関係は高血圧、摂食・代謝疾
本総説では、食品の多成分化学物質が視床下部と末梢器
患につながり生活習慣病とのつながりが大きい。特定の
官の相互作用ループにおいて生理機能が惹起されること
臓器に異常が発生したとき、臓器間の相互作用や臓器の
について考察する。
迷走神経系から最終的には視床下部に神経入力が起こ
り、これに対処した視床下部から遠心性神経から出力さ
視床下部の生理機能
れることになる。このとき神経出力が適切な臓器に特異
的あるいは選択的に神経伝達しなければならないので入
力信号はどこかの段階で海馬を経由して記憶との照合を
視床下部に伝達される刺激は脳幹からの生体内の変動
行うことになる。
情報、大脳辺縁系からの感情情報と血液成分中のホルモ
ン由来の情報(コルチコイド、下垂体ホルモン、グレリ
ン、インスリン、レプチン、アンジオテンシン、グルコー
ス、インターロイキン-1、インターロイキン-6、TNF-α)
が入ってくる。ホルモン情報は各分泌器官が外部環境情
食品成分と視床下部と末梢器官の相互作用
食品に含まれる化学物質あるいは代謝産物に医薬品の
-1-
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
ように低容量で薬理作用を示すような生理活性物質は含
脳下垂体からの FSH, LH, PRL, GH, TSH の分泌を抑制し
まれていない。いわゆる生理活性物質は生体内ではさま
ている9 。更に絶食ラットにおいて、TRH は mRNA 発現
ざまな酵素や受容体などに結合して生体の特定の生理機
レベルで低下しており10、その1つの要因は視床下部で
能を調節する単一物質である。一方、複合成分で生理機
の neuropeptide Y(NPY)にある11。絶食ラットでの LH
能を調節する薬剤として漢方薬がある。食品に特定の生
の抑制は Gonadotropin-releasing hormone(GnRH)を誘
理機能を探索・同定するとき、漢方薬と同じ障壁が存在
発する Kisspeptin12の mRNA 発現を抑制している13、ま
している。単一成分にすると生理機能の低下あるいは消
た、単独の栄養素の欠乏においては、たとえばラットで
失が起こることもあり、漢方薬などの多成分系の作用メ
の亜鉛欠乏により GH, TSH の分泌が低下している14。こ
カニズムは不明のままである。1つの仮説として、生体
のように食品摂取において量的および質的な状態に視床
のほとんどの機能は視床下部の生理機能に由来するの
下部-脳下垂体-末梢器官の制御が働いている。
で、複合成分の生理機能の発現は視床下部から末梢器官
漢方薬の作用機構
の入力信号の過程(フィードバックループを含む)で起
こるという仮説が考えられる。そこで食品に含まれる化
学物質あるいは代謝産物と視床下部との相互作用の可能
甘草は医療用漢方製剤148品目のうち109品目に甘草が
性を考察してみた。
含まれており、中医学の古典である傷寒論では62.5%の
食品に含まれる化学物質あるいは代謝産物は口腔での
方剤で使われており、補気剤として用いられている。甘
味覚と鼻腔での嗅覚として(眼窩前頭皮質、orbitofrontal
草のラット投与実験では、血中のコルチゾール,ACTH,
1
cortex、OFC)で情報が統合されて認知されており 、食
アルドステロン、カリウムの低下が認められている 15。
品の記憶と学習に寄与すると考えられている。消化管に
また、厚生労働省やプレアボイド報告書(日本病院薬剤
おいては、詳細な機構は研究中であるが、消化管内分泌
師会)で甘草は低カリウム血症、偽アルドステロン症の
細胞が化学物質を認知して、神経系あるいは内分泌ホル
発症が報告されており、その作用機構として、甘草中の
モンにより消化管内分泌細胞とともに膵臓、胆嚢におい
glycyrrhetinate により11β- ヒドロキシステロイド脱水素
て EC 細 胞 が セ ロ ト ニ ン、D 細 胞 が ソ マ ト ス タ チ ン、
酵素の活性が抑制され、過剰となったコルチゾールがミ
ECL 細胞がヒスタミン、A 細胞がグルカゴン、PP 細胞
ネラルコルチコイド受容体を介して mineralocorticoid 作
が膵ポリペプチド、TG 細胞、G 細胞および IG 細胞がガ
用によることが考えられている16,17。このことは、甘草は
ストリン、M 細胞がコレシストキニン、S 細胞がセクレ
明らかに HPA 軸に作用している。甘草(平証補気剤)中
チ ン、N 細 胞 が ニ ュ ー ロ テ ン シ ン、L 細 胞 が GLP-1,
の glycyrrhetinate はトリテルペンサポニンであり、同じ
GLP-2, PYY のホルモンを分泌して消化機能、食事量の制
補気剤である人参(微温証補気剤)や黄耆(温証補気剤)
御、中枢神経系への伝達を行っている。消化管より吸収
の成分にトリテルペンサポニンが含まれている。食品で
された化学物質は肝臓の門脈に集まり、ここでグルコー
は大豆にトリテルペンサポニンが含まれており、ラット
スを感知して求心性迷走神経を介して最終的には視床下
での抗高脂血症作用18などが報告されている。薬用人参
部に伝達されている。このことは消化管内に存在する化
(Panax Ginseng root)の作用は、中枢神経系19,20、循環器
学物質による刺激のみならず化学物質が吸収された段階
系21,22、内分泌系23、炎症24など広範な組織に及び、薬理
で末梢から視床下部に認知信号が入力されていることを
作用のみならず細胞応答においても多様である25。この
示している。一方、非栄養素の化学物質が肝臓に達する
ような多様な作用メカニズムは漢方薬の素材では珍しい
と肝臓では P450代謝酵素が誘導される。3,3’,4,4’,5-pen-
ことではない。人参に含有されるトリテルペンサポニン
tachlorobiphenyl(PCB126)は経口摂取後、血中の TSH を
の ginsenoside の生物活性は数多く報告されており、その
上昇させて hypothalamic-pituitarythyroid(HPT)軸を作
生物活性の多様性は人参に含まれる ginsenoside 化学構
動させている2 。thyrotropin-releasing hormone(TRH)は
造の多様性とステロイド受容体の反応の多様性の組合せ
迷走神経系を介して肝血流増加、肝細胞増殖機能の刺
によると考えられ、その作用機構は “Multiple Con­stitu­
激、肝障害実験で corticotropin-releasing factor(CRH)に
ents and Multiple Actions”が提唱されている26。視床下部
よる交感神経系を介して肝血流低下を起こしている3 -5 。
-脳下垂体-末梢器官、たとえば HPA 軸から分泌される
免疫系においても、免疫細胞および炎症部位から CRH
ステロイドホルモンの作用は核内ステロイド受容体によ
6 ,7
8
の分泌 、免疫系と HPA 軸の相互作用がある 。このよ
る遺伝子発現(genomic response)と細胞表面の受容体
うに食品中の化学物質やバクテリアによって新たな生理
による cAMP, PKC, Ca2+ のセカンドメッセンジャーによ
活性を発揮することは大いに期待できる。一方、ラット
る作用(nongenomic response)およびそのクロストーク
で絶食によるストレスは視床下部-脳下垂体軸において
から細胞応答の多様性が発生している27。更に核内ステ
-2-
食品の多成分系生体応答機構
ロイド受容体に対するリガンドの濃度と結合性、リガン
hepatic function by neuropeptides. J Gastroenterol 36, 361-367
(2001).
4. Yokohama, S., Yoneda, M., Nakamura, K. & Makino, I. Effect of
ドの種類の豊富さと遺伝子発現における DNA シスエレ
メントの組合せを考慮するとステロイドが関わる生体応
central corticotropin-releasing factor on carbon tetrachloride-
答の多様性は膨大になる。化学物質が視床下部からステ
induced acute liver injury in rats. Am J Physiol 276, G622-628
ロイド分泌のループシステムに作用すれば生体応答の多
(1999).
5. Tache, Y., Stephens, R.L., Jr. & Ishikawa, T. Central nervous
system action of TRH to influence gastrointestinal function and
様性は理解できる。この生体応答の多様性の中から特定
の薬理作用を引き出すことは至難の業であるが、東洋医
ulceration. Ann N Y Acad Sci 553, 269-285(1989).
6. Karalis, K. et al. Autocrine or paracrine inflammatory actions of
corticotropin-releasing hormone in vivo. Science 254, 421-423
学における生薬あるいは中医学の中薬の方剤の手法は長
い年月をかけて実践的に行ってきたのかもしれない。
展
(1991).
7. Stephanou, A., Jessop, D.S., Knight, R.A. & Lightman, S.L.
Corticotrophin-releasing factor-like immunoreactivity and
望
このように植物成分での生体応答は視床下部-下垂体
mRNA in human leukocytes. Brain Behav Immun 4, 67-73
(1990).
8. Bateman, A., Singh, A., Kral, T. & Solomon, S. The immunehypothalamic-pituitary-adrenal axis. Endocr Rev 10, 92-112
-内臓器官に起因する生体機能の惹起について抜粋的に
述べてきた。この作用機構では化学物質は生体の認知ま
での過程で重要な働きをして、そのあとは視床下部への
(1989).
9. Campbell, G.A., Kurcz, M., Marshall, S. & Meites, J. Effects of
starvation in rats on serum levels of follicle stimulating
入力信号、それに続く視床下部からの出力信号により化
学物質の作用部位とまったく異なる器官で作用が発揮さ
れるものである。一方、食品成分を古典的な薬理作用の
hormone, luteinizing hormone, thyrotropin, growth hormone
発現と捉えると化学物質が体循環して作用部位で直接的
and prolactin; response to LH-releasing hormone and thyrotro-
に作用することが考えられ、多くの in vitro 実験が実施さ
pin-releasing hormone. Endocrinology 100, 580-587(1977)
.
10. Blake, N.G., Eckland, D.J., Foster, O.J. & Lightman, S.L.
Inhibition of hypothalamic thyrotropin-releasing hormone mes-
れてきた。この場合、化学物質の血中濃度の問題と組織
特異的なデリバリーシステムの問題を考慮すると in vivo
senger ribonucleic acid during food deprivation. Endocrinology
実験的な解析の糸口が見えてこない。視床下部-下垂体
-内臓器官に起因する生体機能は外部刺激(ストレス)
応答として捉えることができる。良好な機能ストレスと
して、東洋医学における鍼灸は物理的ストレス、免疫系
129, 2714-2718(1991).
11. Fekete, C. et al. Neuropeptide Y has a central inhibitory action
on the hypothalamic-pituitary-thyroid axis. Endocrinology 142,
2606-2613(2001).
12. Smith, J.T., Clifton, D.K. & Steiner, R.A. Regulation of the neuroendocrine reproductive axis by kisspeptin-GPR54 signaling.
の惹起は微生物学的ストレス、医薬品や植物成分は化学
的ストレス、愛情・教育による情動ストレスがある。良
Reproduction 131, 623-630(2006).
13. Matsuzaki, T. et al. Fasting reduces the kiss1 mRNA levels in
the caudal hypothalamus of gonadally intact adult female rats.
好な機能ストレスが視床下部-下垂体-内臓器官を介し
て1つの生体応答を決定し、その生体応答が個体の生体
恒常性を維持できる範囲内であれば安全な生理活性を生
Endocr J 58, 1003-1012.
14. Root, A.W., Duckett, G., Sweetland, M. & Reiter, E.O. Effects of
zinc deficiency upon pituitary function in sexually mature and
み出すことは可能である。生体恒常性の維持には多くの
生物学的システムが働き、その作用機構として“Multiple
immature male rats. J Nutr 109, 958-964(1979).
15. Al-Qarawi, A.A., Abdel-Rahman, H.A., Ali, B.H. & El Mougy,
S.A. Liquorice(Glycyrrhiza glabra)and the adrenal-kidney-
Chemical Constituents and One Programmed Bioresponse
through Hypothalamus”という仮説は食品の多成分によ
る生体応答の解明の羅針盤になると考えられる。
pituitary axis in rats. Food Chem Toxicol 40, 1525-1527(2002)
.
16. Stewart, P.M. et al. Mineralocorticoid activity of liquorice:
11-beta-hydroxysteroid dehydrogenase deficiency comes of
引用文献
age. Lancet 2, 821-824(1987).
17. Fund e r, J . W. , Pe a rc e , P. T. , S mi t h, R. & S m i t h , A . I .
Mineralocorticoid action: target tissue specificity is enzyme,
1. de Araujo, I.E., Rolls, E.T., Kringelbach, M.L., McGlone, F. &
Phillips, N. Taste-olfactory convergence, and the representation of the pleasantness of flavour, in the human brain. Eur J
not receptor, mediated. Science 242, 583-585(1988).
18. Murata, M., Houdai, T., Morooka, A., Matsumori, N., and Oishi,
T. Membrane interaction of soyasaponins in association with
Neurosci 18, 2059-2068(2003)
.
2. Fisher, J.W. et al. Effect of PCB 126 on hepatic metabolism of
thyroxine and perturbations in the hypothalamic-pituitary-thy-
their antioxidation effect. Soy Prot. Res. 8, 81-85(2005)
.
19. Saito, H., Tsuchiya, M., Naka, S. & Takagi, K. Effects of Panax
Ginseng root on conditioned avoidance response in rats. Jpn J
roid axis in the rat. Toxicol Sci 90, 87-95(2006)
.
3. Yoneda, M., Watanobe, H. & Terano, A. Central regulation of
-3-
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
Pharmacol 27, 509-516(1977)
.
20. Nitta, H., Matsumoto, K., Shimizu, M., Ni, X.H. & Watanabe, H.
Panax ginseng extract improves the performance of aged
rats. Chin J Physiol 46, 1- 7(2003).
24. Kim, H.A., Kim, S., Chang, S.H., Hwang, H.J. & Choi, Y.N.
Anti-arthritic effect of ginsenoside Rb1 on collagen induced
Fischer 344 rats in radial maze task but not in operant brightness discrimination task. Biol Pharm Bull 18, 1286-1288
arthritis in mice. Int Immunopharmacol 7, 1286-1291(2007).
25. Choi, K.T. Botanical characteristics, pharmacological effects
and medicinal components of Korean Panax ginseng C A Meyer.
.
(1995)
21. Xia, R. et al. Ginsenoside Rb1 preconditioning enhances eNOS
Acta Pharmacol Sin 29, 1109-1118(2008).
26. Attele, A.S., Wu, J.A. & Yuan, C.S. Ginseng pharmacology: multiple constituents and multiple actions. Biochem Pharmacol 58,
expression and attenuates myocardial ischemia/reperfusion
injury in diabetic rats. J Biomed Biotechnol 2011, 767930.
22. Yin, H. et al. Ginsenoside-Rg1 enhances angiogenesis and ameliorates ventricular remodeling in a rat model of myocardial
1685-1693(1999).
27. Falkenstein, E., Tillmann, H.C., Christ, M., Feuring, M. &
Wehling, M. Multiple actions of steroid hormones-a focus on
infarction. J Mol Med(Berl)89, 363-375.
23. Tsai, S.C., Chiao, Y.C., Lu, C.C. & Wang, P.S. Stimulation of the
secretion of luteinizing hormone by ginsenoside-Rb1 in male
rapid, nongenomic effects. Pharmacol Rev 52, 513-556(2000)
.
-4-
総
説
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果
治京
玉記
中村学園大学 薬膳科学研究所 分子栄養学部門
(2012年4月1日受理)
キーワード
性腺刺激ホルモン放出ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、排卵障害、温経湯
要
用で発達し、性ホルモンを分泌する。このホルモンは視
旨
床下部の性腺刺激ホルモン放出ホルモンを分泌する神経
細胞に働いて、その生産分泌を抑制する。すなわち負の
近年、社会において女性に進出がめざましくなり、そ
フィードバック機構が働いている。ホルモンが過剰に分
れと同時に若年性更年期障害、月経異常や不妊症などが
泌されと、生体にとっては害となることが多い。そこで、
増加傾向にある。
負のフィードバックにより調節されているが、一方で、
漢方薬は、人類が長年にわたる使用経験によってその
正のフィードバック機構も働く。成体になろうとする若
効能・効果が認められ薬として評価されたものである。
幼な雌ラットに適量の発情ホルモンを投与すると、卵巣
漢方薬には、多種多様な成分が含まれ、薬理作用はこれ
の成熟が促進される。これは、発情ホルモンが視床下部
らの含有成分が複雑に作用し発現している。特定の薬理
の神経分泌細胞の分泌を促進し、下垂体から性腺刺激ホ
活性に焦点を絞った場合、化学的な医薬品とは異なり単
ルモンの分泌を促進させたためである。このよに、2つ
一成分でのその漢方薬のもつ薬理活性を説明することは
の性質の異なる情報伝達が、生体応答を調節する大きな
非常に難しい。しかし、漢方薬が広く普及するにつれて、
機構であると考えられる。
薬理活性の作用機序に関する科学的根拠となるデータが
女性の生殖内分泌系は、視床下部-下垂体前葉-性腺
集積され、徐々に有効成分の発見や作用機序の様態が見
軸のホルモン情報伝達系により調節されている。視床下
いたされるようになってきた。その代表例として、六君
部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン
子湯のグレリン分泌促進作用がある。これまで、数ある
(gonadotropin-releasing hormone; GnRH)や下垂体前葉か
漢方薬の効能・効果の研究において、細胞を用いた in
ら放出されるゴナドトロピンである卵胞刺激ホルモン
vitro レベルでの報告しかなされていなかったのに対し、
(follicle-stimulating hormone; FSH)および黄体形成ホル
六君子湯の研究では、初めてラットを用いた in vivo レベ
モン(luteinizing hormone; LH)が性周期の発現に主要な
ルでの報告がなされている。一方、排卵障害による月経
役割を果たしている1 。また、下垂体前葉における GnRH
異常・不妊症治療に用いられている温経湯の効能・効果
受容体や卵巣における FSH および LH 受容体が量的に変
については、疫学研究や in vitro レベルでの研究しかなさ
動することも性周期発現の一因として注目されている。
れていないため、その作用部位や作用機序は明らかにさ
すなわち、性周期の発現は、視床下部性の GnRH や下垂
れていない。本総説では、温経湯の効能・効果に対する
体性の FSH、LH の量的変化とともに、下垂体前葉にお
研究経緯と今後の漢方薬の発展について述べる。
ける GnRH 受容体や卵巣における FSH、LH 受容体の量
緒
的変化によっても調節されている2 。
論
近年、女性の社会進出に伴い月経周期の異常は、性成
熟女性の各年齢層でしばしば見られる内分泌異常であ
外部環境変化の情報伝達に関与しつつ進化してきた内
り、産婦人科臨床上頻度の高い疾患である。月経異常の
分泌腺は、進化の途上その数も増し、伝達様式も複雑に
発症原因やその病態については、治療薬や薬理作用など
なり、現存する脊椎動物では、内分泌線相互の間に直接
精力的に研究されているが、十分に治療が行われている
的あるいは間接的に情報を交換するようになっている。
とはいい難いのが現状である。最近、漢方薬の導入や応
たとえば、生殖腺は、脳下垂体の性腺刺激ホルモンの作
用が盛んに行われていることから、現在の西洋医学の治
-5-
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
療や医薬品では十分に対応できないことが伺える。ま
こ の 視 床 下 部 - 下 垂 体 系(hypothalamohypophyseal
た、ゴナドトロピン製剤の副作用や、理論的に西洋医薬
system)は、1)視床下部と下垂体前葉(腺性下垂体)
品を用いても対症療法であり根治治療ができないこと、
が機能的に結合して形成される系(hypothalamic adeno-
現代社会において月経異常をきたしてくる背景には多岐
hypophysial system)、および、2)視床下部-下垂体後
にわたる因子があることから漢方薬への期待へとつな
葉(神経性下垂体)が結合して形成される系(hypotha-
がっていると考えられる3 4 。さらに、女性の健康は性周
lamic neurohypophysial system)の2つの機能系からな
期に支配されている部分が多くあり、ホルモンの変動は
る。
,
月経に伴う種々の疾患や病態には漢方薬により改善した
視床下部は間脳の底部に相当し、第三脳室の壁を形成
り解消したりするもものが多く、今後、漢方薬が医療の
している。脳のこの部分には、神経核とよばれる神経細
現場で活躍できる領域になる可能性が高いといえる。
胞の集団が存在し、そのような神経細胞のあるものはホ
本稿では、視床下部-下垂体前葉-性腺軸の一般的所
ルモンを分泌している。このような神経分泌細胞の細胞
見から FSH、LH の生産と分泌調整、さらに漢方薬であ
体は血液-脳関門(blood-brain barrier)で保護されてい
る温経湯の GnRH、LH 分泌促進作用について概説する。
る中枢神経組織内に局在しているが、一方、これらの細
神経内分泌系
胞で合成されるホルモンは、血液-脳関門の外側に放出
される。
1 ,5
視床下部の神経分泌細胞は、放出ホルモン(因子)あ
るいは抑制ホルモン(因子)を分泌することによって、
内分泌系は、神経内分泌系と内分泌系の2つの器官か
らなっており、この2つの器官は負および正のフィード
腺性下垂体からホルモン分泌を促進したり、抑制したり
バック機構によって結びついており、共同して働いてい
する。あるいは、秒以下の非常に早い時間経過で上位
る。内分泌系では、分泌細胞の集団が腺組織を形成して、
ニューロンから放出された神経伝達物質に反応し、軸索
化学的な細胞間シグナル伝達にかかわる物質、すなわち
繊維を送っている神経性下垂体の神経週末からホルモン
ホルモンを血中に分泌している。放出されたホルモンは
を分泌する。
神経下垂体には神経分泌細胞の神経終末が存在し、そ
血流に乗って標的細胞まで輸送されそこで、何らかの反
のような神経終末にはペプチドホルモンとそのキャリア
応を引き起こす。(図1)
神経内分泌系は、視床下部(hypothalamus)と下垂体
(担体)タンパク質であるニューロフィジンを含んだ分
(hypophysis)という2つの組織が神経系と内分泌系を統
泌顆粒が豊富に含まれる。顆粒内のペプチドホルモンと
担体タンパク質は共に、神経刺激の制御を受けて神経終
合する機能系を形成している。
図1.視床下部-下垂体-標的細胞から分泌されるホルモン
-6-
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果
る免疫組織化学法が用いられている。
末に接している有窓型毛細血管へ開口放出される。
下垂体前葉には血管が蜜に分布している。視床下部の
酸好性細胞のうち、成長ホルモン分泌細胞(somato-
下部あるいは下垂体柄には、有窓型毛細血管からなる一
troph)は下垂体前葉の内分泌細胞に大部分を占める(40
次毛細血管網があり、この一次毛細血管網がいったん数
~50%)。一方、プロラクチン分泌細胞(lactotroph)は
条の静脈に集合した後下垂体前葉の二次毛細血管網に再
下垂体前葉の内分泌細胞の15~20%を占める。
成長ホルモンは191個のアミノ酸残基からなるペプチ
び分岐する。このように、下垂体では、一種の門脈循環
ド(22kDa)で次のような特徴を有している(図2)。
系(下垂体門脈系)が形成されている。
下垂体前葉のホルモンは上皮細胞で合成され、特定の
1)成長ホルモンは構造上、プロラクチンやヒト胎盤
担体タンパク質なしで分泌顆粒内に蓄積される。蓄積さ
性ラクトゲン(human placental lactogen;hPL)とホモロ
れたホルモンは、視床下部や標的臓器から血流に乗って
ジーがあり、これら3種類のホルモンは活性の上でも一
運ばれた刺激に応答して、周期的あるいは脈動的なパ
部共通性がある。2)24時間周期の睡眠覚醒リズムに間、
ターンで二次毛細血管網に放出される。下垂体前葉の上
パルス状の分泌パターンで体循環中に放出される。3)
皮細胞に由来する各ホルモンの影響は、一般に数分~数
成長ホルモンという名前であるにもかかわらず、成長ホ
時間の長い時間過程で現れ、その効果は1日~1ヶ月に
ルモンは直接的に成長を促進するわけではない。成長ホ
わたる長い期間、持続することもある。
ルモンは、肝細胞におけるインスリン様成長因子-1
下垂体前葉は3つの構成要素からなる:1)索状の上
(insulin-like growth factor-1;IGF-1)の生産を刺激するこ
皮細胞、2)上皮細胞を支える極微量の結合組織、3)
とによって作用を発揮する。IGF-1受容体は、インスリ
二次毛細血管網を構成する有窓型毛細血管。下垂体前葉
ン受容体と同様に、細胞質側にチロシンキナーゼドメイ
には血液-脳関門は存在しない。
ンを有する膜貫通型の糖タンパク質ダイマーである。
4)成長ホルモンの放出は、2つの神経ペプチドによっ
上皮細胞は、視床下部からの血管を運んでくる有窓型
て制御されている。
毛細血管を取り囲むように索状に配列している。これら
の上皮細胞から分泌されたホルモンは、毛細血管網の中
成長ホルモンの分泌は、44個のアミノ酸残基からなる
に拡散し、下垂体静脈を経て静脈洞の中に運び出されて
成長ホルモン放出ホルモン(growth hormone-releasing
いく。
hormone; GHRH)によって促進される(図3)。
下垂体前葉では、組織学的には、3種類の内分泌細胞
一方、14個のアミノ酸残基からなるソマトスタチンの
が区別できる:1)下垂体の辺縁に多く分布し、酸性色
作用や血中グルコース濃度の上昇によって、成長ホルモ
素に好染する酸好性細胞(acidophilic cell)、2)下垂体
ンの分泌は抑制される。この GHRH とソマトスタチン
の 中 央 部 に 多 く 分 布 し、 塩 基 性 色 素 に 好 染 し PAS
(Periodic acid-Schiff)反応陽性に塩基好性細胞(basophil
cell)、3)いずれの色素にも染まりにくい色素嫌性細胞
(chromophobic cell)。
酸好性細胞から分泌されるホルモン2 5 -7
,
酸好性細胞は、成長ホルモン(growth hormone)と
プロラクチン(prolactin)という、2つの主要なペプチ
ドホルモンを分泌する。一方、塩基性色素は、卵胞刺激
ホルモン(follicle-stimulating hormone; FSH)、黄体形成
ホルモン(luteinizing hormone; LH)、甲状腺刺激ホルモ
ン(thyroid stimulating hormone; TSH)、副腎刺激ホルモ
ン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)という糖タンパ
ク質ホルモンを分泌する。色素嫌性細胞には、蓄積して
いたホルモンを放出していまい典型的な酸好性細胞や塩
基好性細胞のような染色性を失ってしまった細胞が含ま
れる。
このような下垂体前葉の内分泌細胞をさらに正確に同
図2.成長ホルモンの構造
定するためには、各ホルモンに対する特異抗体を利用す
-7-
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
図3.成長ホルモン放出ホルモンの1次構造
図5.IGF-1の構造
図4.ソマトスタチンの構造
は、どちらも視床下部で産生・分泌される(図4)。
IGF-1(7.5kDa)は骨や軟骨組織の総合的な成長を促進
する(図5)。小児では、IGF-1は骨端軟骨での長管骨の
成長を促す。臨床医は成長ホルモンの分泌状態の指標と
して血中 IGF-1濃度を測定している。また、生理的な状
態では、血中 IGF-1濃度が低下すると成長ホルモンの分
泌は刺激される。IGF が作用を及ぼす標的細胞はまた、
IGF 結合タンパク質やプロテアーゼを分泌する。プロテ
アーゼは、有効な IGF 結合タンパク質を分解して減らす
ことによって、IGF の体内での輸送や作用の程度を制御
している。
図6.プロラクチンの構造
プロラクチンは、199個のアミノ酸残基からなる1本
鎖のタンパク質(22kDa)で上述した成長ホルモンやヒ
フィードバックをかけている(図1)。
ト胎盤ラクトゲンとホモロジーがあり、活性のうえでも
一方、プロラクチンの分泌はプロラクチン放出因子
一部、共通性がある。プロラクチンの主な作用は、出産
後の乳汁分泌の開始・維持に関するものである(図6)。
(prolactin releasing factor; PRF)や甲状腺刺激ホルモン放
分泌促進性の上位ホルモンによって制御されることの
出 ホ ル モ ン(thyrotropic hormone-releasing hormone;
多い下垂体前葉の他のホルモンとは異なり、プロラクチ
TRH)によって促進される。プロラクチンは、乳頭の吸
ン分泌は主に抑制性の調節を受けている。そのようなプ
入刺激に反応して、下垂体前葉の酸好性細胞からパルス
ロラクチン抑制因子の代表的なものはドーパミンで、プ
状の分泌パターンで放出される。この間欠的なプロラク
ロラクチンはドーパミンの分泌を刺激することによっ
チンの一過性放出によって、乳腺における乳汁の産生は
て、プロラクチン自身が過剰に分泌されないよう負の
促進される。
-8-
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果
塩基好性細胞から分泌されるホルモン
整している。
FSH と GnRH の分泌は、インヒビンとエストラジオー
2 ,5 -7
ルによって抑制される。インヒビンは、α 鎖と β 鎖から
性腺刺激ホルモン(FSH と LH)と TSH は次のような
なるヘテロダイマーを形成しており、FSH の標的細胞で
共通の性質を有している。1)これらのホルモンは糖タ
ある卵胞上皮細胞(卵巣)やセルトリ細胞(精巣)、およ
ンパク質である。このため、これらを蓄積している塩基
び GnRH の標的細胞である下垂体前葉から分泌される。
好性細胞は PAS 反応陽性を呈する。2)これらのホルモ
一方、FSH の分泌は男性でも女性でも下垂体から分泌
ンは2つのペプチド鎖からなる。このうち α 鎖はこれら
されるアクチビンというタンパク質によって促進され
3種類の糖タンパク質ホルモンに共通であるが、β 鎖は
る。アクチビンは、2つの β 鎖から構成されるホモダイ
それぞれのホルモンに固有である。したがって、それぞ
マーであるが、インヒビン(αβ)やアクチビン(ββ)の
れのホルモンの特異的な作用は、β 鎖によって決定づけ
二量体形成がどのような仕組みによって制御されている
られている(図7)。
のかという点に関しては、ほとんど解明されていない。
GnRH と LH の分泌は、男性ではテストステロン、女性
性腺刺激ホルモン分泌細胞(gonadotroph)は、FSH と
ではプロゲステロンによって制御される。
LH の両方を分泌する。この細胞は下垂体前葉の細胞の
約10%を占める。性腺刺激ホルモンの分泌は、視床下部
甲状腺刺激ホルモン分泌細胞は、下垂体前葉の細胞の
の弓状核(arcuate nucleus)および視索前野(preoptic
約5%を占める。TSH は甲状腺の機能と成長を調節する
area)で生産されるアミノ酸残基10個からなるペプチ
ホルモンである。甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thy-
ド、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releas-
rotropic hormone-releasing hormone; TRH)は、視床下部
ing hormone; GnRH)によって促進される。GnRH または
で産生されるアミノ酸3個からなるペプチドで、下垂体
黄体形成ホルモン放出ホルモン(luteinizing hormone-
前葉の塩基好性細胞における TSH の合成と分泌を促進
releasing hormone; LH-RH)ともよばれ、下垂体前葉の多
する。TRH は、プロラクチンの放出も促進する。一方、
くのホルモンと同様に、パルス状の分泌パターンで放出
血中のトリヨードサイロニン(T 3)とサイロキシン(T
される。2つの性腺刺激ホルモンは、1つの塩基好性細
4)の濃度が高くなると、TSH の分泌は抑制される。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH あるいはコルチコトピ
胞で合成・分泌される(図8)。
女性では、FSH は卵胞形成という過程で卵胞の発育を
ン ) は39個 の ア ミ ノ 酸 残 基 か ら な る 単 鎖 ペ プ チ ド
促進する。男性では、FSH は精巣のセルトリ細胞に作用
(4.5kDa)で、血中での寿命は7~12分と短い。このホル
し、アンドロゲンからエストロゲンへの芳香族化やテス
モンの最も根本的な作用は、副腎皮質の束状帯と網状帯
トステロンとの協同作用でアンドロゲン結合タンパク質
における細胞増殖とステロイド合成の促進である。一
の産生を促進する。
方、副腎皮質の球状帯はアンジオテンシンⅡの制御下に
これに対して、LH は、女性では卵胞や黄体において
ある。副腎皮質における ACTH の作用は、サイクリック
ステロイド産生を促進する。男性では、LH は精巣のラ
AMP(cAMP)を介する。ACTH は、副腎に対する作用
イディッヒ細胞に働き、テストステロンの産生速度を調
の他に、皮膚の色素沈着や脂質分解も促進する。
ACTH は、下垂体前葉で、プロオピオメラノコルチン
図7.糖タンパク質 α 鎖の構造
図8.GnRH の構造
-9-
薬膳科学研究所研究紀要
(proopiomelanocortin; POMC)(31kDa)という糖鎖が付
第5号
管および卵巣(ovary)で構成されている。
加された大きな前駆体タンパク質からプロテアーゼによ
卵巣は単層扁平~単層の低い立方上皮と、その下の結
る切断を受けて生成する。この POMC からは、次のよう
合組織層である白膜で覆われている。切片標本では境界
なペプチド断片が生成される。1)機能が明らかにされ
が明瞭ではないが、皮質と髄質がある。幅の広い皮質は、
ていないアミノ末端のペプチド、ACTH、そして β- リポ
結合組織と中に一次卵母細胞(第一減数分裂の終期)を
トロピン(β-lipotropic hormone;β-LPH)。POMC に由来
含む原始卵胞を含む。髄質は、結合組織、間質細胞、卵
するこれら3種類のペプチドは、いずれも下垂体前葉で
巣門を通って卵巣に入り込む神経、リンパ管および血管
分泌される。2)β-LPH はさらに切断されて、γ-LPH と
からなる。卵巣の機能は、1)女性配偶子の産生、2)
β- エンドルフィンが生成し体循環に放出される。β-LPH
エストロゲンとプロゲステロンの分泌、3)出世後の生
と γ-LPH には脂質分解作用があるが、ヒト個体において
殖器官の発達調整、4)第二次性徴の発達である。
脂肪が動員される際にこれらのペプチドが果たす正確な
卵 巣 周 期(ovarian cycle) に は、 卵 胞 期(follicular
役割については解明されていない。3)γ-LPH は、β-メ
phase)、排卵期(ovulatory phase)、黄体期(luteal phase)
ラ ニ ン 細 胞 刺 激 ホ ル モ ン(melanocyte-stimulating
の3期がある。
hrmone;α-MSH)のアミノ酸配列を含むが、ヒトではこ
卵胞期では、原始卵胞が成熟卵胞へと発達する。原始
の断片ペプチドは分泌されない。また、β- エンドルフィ
卵胞は、数が最も多く大きさが最小の卵胞(直径25μm)
ンはメチオニン-エンケファリン(met-enk)の配列を
であり、扁平な卵胞細胞あるいは顆粒層細胞に取り込ま
含 む が、 下 垂 体 で β- エ ン ド ル フ ィ ン が 切 断 さ れ て
れている。原始卵胞は胎児卵巣内で発達した後、休止期
met-enk が生成するという証拠はない。4)ACHT が切
のままで留まる。
断されると、α-MSH とコルチコトロピン様中葉ペプチ
休止期を過ぎた卵胞は一次卵胞と呼ばれ、2つのタイ
ド(corticotropin-like intermediate-lobe peptide;CLIP)が
プがある。1)1層の立方状顆粒層細胞で囲まれた、単
生成する。この α-MSH と CLIP の生成は下垂体中葉が良
層性一次卵胞。2)増殖中の数層の立方状顆粒細胞に囲
く発達した動物種で認められ、これらのホルモンはメラ
まれた多層性一次卵胞。顆粒層細胞は、卵巣間質から一
ニン顆粒を含む細胞に作用してメラニン顆粒の分散を誘
次卵胞を隔てている基底板に取り込まれている。
一次卵胞時期に、一次卵母細胞が糖タンパク質の透明
起し、多くの魚類、両生類、爬虫類の皮膚色を暗く変化
帯を形成し始める。透明帯によって次第に顆粒層細胞は
させる。
また、ACTH の分泌は、次のように制御されている。
卵母細胞から引き離される。顆粒層細胞の小さな細胞室
1)視床下部から放出される副腎皮質刺激ホルモン放出
突起は透明帯中に陥入し、卵母細胞の微絨毛と接触す
ホルモン(corticotropin-releasing hormone; CRH)による
る。この接触部にはギャップ結合が存在する。
次の二次卵胞期の特徴は、顆粒層細胞が増幅し続け、
分 泌 促 進。CRH は 抗 利 尿 ホ ル モ ン(anti-antidiuretic
hormone; ADH)とともに室傍核に局在している。この抗
透明帯が肥厚することである。卵胞を取り囲む間質細胞
利尿ホルモンとアンジオテンシンⅡは、共に、CRH の
は、卵胞膜を形成し始める。卵胞膜はすぐに、内卵胞膜
ACTH 分泌促進作用を高める働きを有する。2)血中コ
(theca interna)と外卵胞膜(theca externa)の2層に分
ルチゾール濃度の上昇による ACTH 分泌の抑制。この抑
かれる。1)内卵胞膜は、卵胞の基底板に接する血管が
制作用には、視床下部からの CRH 分泌の抑制を介した
豊富に分布する細胞層であり、アンドロステンジオンを
間接的な機序と、下垂体の塩基好性の副腎皮質刺激ホル
分泌する。アンドロステンジオンはアンドロゲンの前駆
モン産生細胞を直接的に抑制する機序の両方が関与して
体であり、顆粒層細胞に輸送させてからテストステロン
いる。ACTH は、日周リズムに従って分泌され、朝に分
になる。その後、テストステロンはアロマターゼによっ
泌ピークを有し、その後緩やかに分泌量が低下する。
てエストラジオールに変換される。顆粒層細胞はエスト
生殖器系
ロゲンを直接産生するのに必要な酵素を欠いているた
め、卵胞形成期にステロイド前駆体を産生できない。2)
1 ,2 ,5 -7
外卵胞細胞は、被膜状の結合組織層であり、卵巣間質に
女性生殖器官と男性生殖器官の発達の重要性は、初期
連続している。
の未分化段階にある。未分化段階から完全に成熟した段
顆粒層細胞間の小間隙、すなわちコール・エクスナー
階までの連続的な発達を理解すると、構造的な異常を理
体が細胞間にみえる。この間隙には卵胞液が入ってお
解しやすい。女性の生殖器は、大陰唇(labia majora)、小
り、後に合して1つの大きな液腔になり卵胞腔とよばれ
陰唇(labia minora)、陰核(clitoris)からなる外性器、卵
る。卵胞腔が形成されるとまもなく、多くの顆粒層細胞
管(oviduct)、子宮(uterus)、膣(vagina)からなる生殖
は一次卵母細胞から離れる。一群の顆粒層細胞は卵母細
- 10 -
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果
底板の崩壊。2)排卵以前は無血管野であった顆粒層細
胞と卵胞壁の間に卵丘を形成する。
成熟細胞(グラーフ卵胞、排卵前卵胞とも呼ばれる)
胞集団内へ血管の進入。血液が、以前は卵胞腔であった
は最も大きな卵胞であり、直径15~20mm に達する。排
腔隙に流れ込み、凝固し、一時的に血体が形成される。
卵直前には、一次卵母細胞は卵胞内で偏在し、透明帯に
フィブリン血塊は、新生血管が貫通し、線維芽細胞、コ
密着する1層の顆粒層細胞すなわち放線冠に囲まれる。
ラーゲン腺維に置き換わる。3)顆粒層細胞と内卵胞膜
成熟細胞は、次のような特徴をもつ。1)卵胞液を含む
細胞の形態変化。顆粒層細胞は顆粒層黄体細胞に変化し
1つの大きな卵胞腔をもつ。2)放線冠を形成する1層
て、ステロイド分泌細胞に典型的な特徴(細胞滴、よく
に顆粒層細胞に覆われた透明帯をもつ。3)卵胞細胞お
発達した滑面小胞体、管状のクリステをもつミトコンド
よびそれに密着する放線冠が共に卵丘から遊離する。そ
リア)を示し、FSH と LH 両方の刺激に反応してプロゲ
の結果、卵母細胞-透明帯-放線冠の複合体は卵胞液の
ステロンとエストロゲンを分泌するようになる。顆粒層
中を自由に漂う。4)排卵数時間前に第一減数分裂が完
細胞の LH 受容体の発現は、黄体化過程の重要なステッ
了する。その結果、二次卵母細胞と第一極体が形成され
プである。内卵胞膜細胞は卵胞膜黄体細胞に変化し、LH
る。第一極体は透明帯を卵母細胞の間にできる卵周囲腔
刺激に反応してアンドロステンジオンとプロゲステロン
に留まる。5)顆粒層細胞は、既存の FSH 受容体に加え
を産生する。
顆粒層黄体細胞は依然としてエストラジオール合成を
て、LH 受容体を獲得する。この現象は黄体形成すなわ
完成させるために必要なステロイド産生酵素をもたな
ち黄体の発達にとって必須である。
数個の一次卵胞が成熟過程に入るが、成熟できる卵胞
い。卵胞膜黄体細胞は顆粒層黄体細胞にアンドロステン
は1個だけであり、残りの卵胞は卵胞閉鎖と呼ばれる過
ジオンを供給し、アンドロステンジオンは顆粒層黄体細
程へて変性する。卵胞は発達のどの段階でも卵胞閉鎖に
胞内でエストラジオールに変換される。
なる。閉鎖卵胞の特徴は、厚いヒダ状の膜様物質である
黄体は肥大し続けるが、受精しなければ排卵後約14日
ガラス様膜、破損の少ない透明帯、変性した卵母細胞と
で退縮期に入る。受精すると、黄体は肥大し続け、着床
顆粒層細胞の遺残物をもつこと、およびマクロファージ
した胚子の栄養膜によって産生されるヒト絨毛性性腺刺
の侵入が認められる。
激ホルモン(human chorionic gonadtropin; hCG)の刺激を
排卵時には、成熟細胞は卵巣表面から突出して卵胞斑
受けて、プロゲステロンとエストロゲンを産生する。プ
を形成する。外卵胞膜と白膜内のタンパク質分解活性
ロゲステロンとエストロゲンは、子宮内膜を妊娠第9~
は、LH の急上昇(LH サージ)に誘発されて、成熟した
10週頃まで維持するために必要である。この時期には、
グラーフ卵胞の破裂を促進する。放出された卵子は卵巣
胎盤、胎児副腎皮質および肝臓がエストロゲンを産生す
に密接した卵管に入る。排卵の数時間前から、顆粒層細
る。
黄体退縮が起こると、白体が形成される。その結果、
胞層と内卵胞膜は黄体に変化し始める(図9)。
排卵に引き続き、卵胞壁に残存した顆粒層細胞層はヒ
変性した黄体細胞塊は、間質の結合組織に置き換わる。
ダ状に折りたたまれて主要なホルモン分泌腺である黄体
白体は卵巣中に残り、大きさが減少するが決して消失は
の一部になる。この形態は次の過程を含む。1)卵胞基
しない。黄体細胞は黄体退縮後も間質に残り、分泌能力
図9.FSH, LH, E2, T ホルモン周期と LH サージ
- 11 -
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
を維持し、いわゆる間質腺を形成する。このような腺性
減少して間欠的な虚血が起こる。その結果、低酸素に
の間質細胞はヒトの卵巣では多くない。
なって内膜の機能層が壊死に陥り、月経期に剥離する。
排卵のホルモン調節と黄体は、下垂体前葉の FSH と
妊娠が成立すると、内膜の粘膜固有層の間質細胞が肥
LH の2つホルモンが調節する。1)FSH は、エストロ
大し、プロゲステロン濃度の上昇に反応して脂肪とグリ
ゲン産生を刺激すると共に卵胞形成や排卵を刺激する。
コーゲンを蓄積する。内膜機能層は分娩の際に脱落膜と
2)LH は、黄体からプロゲステロン分泌を促す。LH
して剥がれ落ちるため、この子宮内膜の変化は、脱落膜
サージは排卵直前に起こる。LH 分泌が持続することに
反応として知られている。
以下、FSH、LH について詳細に記述する。
よって、排卵後に卵胞に残った顆粒層細胞の黄体形成が
起こる。プロゲステロンとエストロゲンのレベルが高く
卵胞刺激ホルモン(FSH)1 5 8 9
なると FSH と LH の産生が止まり、その後、黄体が退縮
, , ,
に向かう。エストロゲンとプロゲステロンのレベルは、
月経開始時に低く、排卵前期に次第に上昇する。エスト
FSH は、下垂体前葉の好塩基性性腺刺激ホルモン産生
ロゲンのレベルは、LH レベルが最高に達する直前に最
細胞(ゴナドドローフ)で LH と共に産生、貯蔵され、
高に達する。その直後に排卵が起こる。
視床下部ホルモン GnRH(LHRH ともいう)の刺激で分
FSH と LH の分泌パターンに応呼して、顆粒層細胞に
泌される。動物種における分布は魚類-哺乳類の全脊椎
よって FSH 依存性に合成されたエストロゲンは、子宮内
動物に及んでいる。ラット下垂体での FSH の含量は、雄
膜腺の増殖を刺激する。黄体によって LH 依存性に合成
では~5μg/gland、雌では~1μg/gland(NIDDK rat)と
されたプロゲステロンは、子宮内膜腺の分泌活動を開始
雄のほうが多く、雌では性周期に伴い変動する。魚類で
し維持する。
は FSH に相当する性腺刺激ホルモンは GTHI と呼ばれ、
卵管は受精の場であり、接合子(受精卵)の初期卵割
GTHII(LH に相当)とは異なる細胞で合成・分泌され
の場である。卵管は、1)近位部にある房状の漏斗、2)
る。またラット・マウスの卵巣および精巣で FSH が発現
長くて壁の薄い膨大部、3)短くて壁の厚い峡部、4)
していることが報告されている10-12。
子宮腔に開口する子宮部に分かれる。
FSH は上述したように、分子量約35,000の糖タンパク
子宮は、子宮体と頚部からなる。子宮体壁は、子宮内
質で、LH、TSH と共通の α サブユニットと FSH 特有の
膜、子宮筋層および外膜の3層からなる。子宮内膜は、
β サブユニットからなるヘテロダイマーである。FSH の
機能的に表層の機能層と基底層の2層からなり、機能層
両サブユニットの立体構造は3つの大きなヘアピン状
は月経中に剥離して消失するが、基底層は月経後の新し
ループと中央部に3つの S-S 結合から作られるシスチン
い機能層の再生源として月経中も残存する。
ノット構造と呼ばれる分子のコアを持っている(図10)。
機能層の組織学的な特徴は、28日間続く月経周期の間
LH、TSH、CG に関しても同様である13,14。このシスチ
に変化することである。月経周期は、連続して起こる3
ンノット構造は、血小板由来成長因子(platelet-derived
期からなる。1)月経周期の最初の時期である月経期。
growth factor; PDGF)、血管内皮増殖因子(vascular endo-
2)増殖期(卵胞期とも呼ばれる)は約9日間続く。増
thelial growth factor;VEGF)、形質転換成長因子(trans-
殖期の間、成熟中の卵胞が生産するエストロゲンの刺激
forming growth factor; TGF)
、神経成長因子(nerve growth
によって、内膜機能層の厚さが増す。粘膜固有層と上皮
factor;NGF)などに存在し、シスチンノット成長因子
の両方に有糸分裂がみられる。腺上皮細胞は上方に移動
(cystine knot growth factor; CKGF)スーパーファミリー
し、子宮腺はまっすぐとなって内腔が狭くなる。3)14
としてまとめられているが、下垂体糖タンパクホルモン
日後に排卵が起こると、子宮内膜は約13日間続く第3の
も CKGF スーパーファミリーに属すると考えられてい
時期、すなわち分泌期または黄体期に入る。この時期に
る。
子宮腺が分泌活動を開始する。子宮管状腺の外観は不整
FSH には α サブユニットに2箇所、β サブユニットに
になり、らせん状となる。表層の上皮にはグリコーゲン
は2箇所糖鎖がついており、何れもアスパラギンに結合
が蓄積し、腺腔内にはクリコーゲンと糖タンパク質に富
している。FSH には糖タンパク質ホルモンに特徴的な糖
む分泌物がみられる。子宮腺に平行して走る血管は長く
鎖に由来する微不均一性があり、糖鎖末端のシアル酸に
なり、粘膜固有層は過剰の液体を含むようになる。分泌
由来する電荷の違いから異なる等電点をもつ異性体また
期は黄体が産生するプロゲステロンとエストロゲンの両
は構成成分が見られる15。
方によって制御される。4)月経周期の終わりには、血
FSH の標的器官は雌で卵胞の顆粒膜細胞で、卵胞の発
中ステロイドホルモンのレベルが低下するために黄体退
育と熟成、エストロゲンの産生分泌促進、雄では精巣の
縮が起こり、虚血期に入る(約1日)。正常な血液供給が
精細管細胞で精細管の発育と精子形成促進を行っている
- 12 -
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果
図10.FSH と FSH 受容体の構造
図11.卵巣周期とホルモン
- 13 -
薬膳科学研究所研究紀要
(図11)。受容体は7回膜貫通- G タンパク共役型 PKA
第5号
制し、フォリスタチンはアクチビンに結合することに
よって間接的に FSH の合成を抑制する22,23。PACAP も
系である。
FSH が欠損すると、精子形成不良、性腺萎縮、卵子の
FSH の合成を抑制するが、これはフォリスタチンの産生
成熟停止、肥満、エストロゲン分泌低下、毛髪形成不良
を促進することによる間接的な作用である 25,26。ステロ
などが起こる。また過剰に分泌されると、二次性器肥大、
イドホルモンは抑制的に働くが、FSH 遺伝子に間接的に
多数の卵胞細胞成熟、およびエストロゲン分泌高進が起
働く可能性がある。また、ステロイドホルモンは、視床
こる。FSH 低値を示す疾患としては、低ゴナドトロピン
下部に働いて GnRH の放出を抑制することで間接的に
性類宦官症、原発中枢性無月経、Sheehan 症候群、Chiari-
FSH の合成と放出を抑制する。FSH を低下させる生理作
Frommel 症候群、神経性食欲不振、顆粒膜細胞腫、副腎
用として血中性ステロイドの増加、幼少期、妊娠期など
性器症候群、頭蓋咽頭腫など、FSH 高値を示す疾患とし
がある。
ては、無精子症、Kleinfelter 症候群、Turner 症候群、早
FSH の血中濃度は、WHO 2nd IRP-hPG として成人男
発思春期、早期更年期、卵巣発育不全、去勢、閉経など
性で~5mIU/mL、成人女性では、排卵期~9mIU/mL、
が知られている。
卵 胞 期 ~ 9mIU/mL、 黄 体 期 ~ 4mIU/mL、 閉 経 期 ~
FSH の測定方法には、次の4つの方法がある。1)マ
55mIU/mL である。
ウス子宮重量法。FSH の持つエストロゲン分泌作用は、
ラットでは発情前期の夕刻に LH サージがあるが、
その結果として子宮の重量を増加させることを利用した
FSH も同時に大量に放出がある 15。これは GnRH の直接
もので、21日齢の幼若マウスに1日2回4日間投与し、
的な作用と考えられるが、LH サージが終息しても真夜
さらに5日目の朝投与し夕方に屠刹して子宮の重量を測
中を過ぎた頃に再度 FSH の放出が見られる。下垂体中の
定する。2)マウスまたはラットの卵巣重量法16。FSH
FSH 含量は、サージと共に著しく減少するが、すぐに産
の卵巣重量増加作用は LH との協働効果がある。そのた
生が進行して含量は多量の放出が続くにもかかわらず増
め飼料に混在する LH の影響を受けてしまう。そこで LH
加して行き翌朝には放出レベルに戻ってしまう。LH で
作用を持つ hCG を充分量共存させて FSH の作用を最大
はこのような速やかな含量の回復は見られない。この第
限発揮させ、飼料に混在する LH の作用を受けないよう
2のピークは、FSH 合成の増加に関わっていると考えら
にする方法である。幼若雌マウス、およびラットが使用
れ、アクチビンの働きに関連しているものと考えられて
することができる。21-22日齢の雌ラットに hCG(total
いる27-29。
20IU)と混合した飼料を1日3回間投与し、最初の投与
血中 FSH 濃度は、ストレスと麻酔に影響される。成熟
から72時間後に屠刹して卵巣の重量を測定する。3)放
雌ラットを毎日8時間、10日間の緊縛ストレスを与えた
射受容体測定法(radio-receptor assay;RRA)17-20。RAA
ところ、血中 FSH はやや低下するが有意差はなく、下垂
はラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay;RIA)と原
体含量は増加した30。この状態で GnRH + TRH を投与す
理を同じくし、結合試薬としてホルモン受容体を用いる
ると FSH 放出の反応性が高くなる。絶食により FSH は
方法である。FSH については受容体が精巣、および卵巣
低下する31。エーテル麻酔では、卵巣摘出ラットにおい
に大量に存在するので、これらの組織を受容体として用
て、エーテル吸入2分以内に血漿 FSH が上昇している。
いる方法である。4)酵素結合免疫吸着測定法(enzyme-
プロラクチン、LH も上昇したがその程度は、プロラク
linked immunosorbent assay;ELISA)
チン> LH > FSH である32。また、エーテル容器に入れ、
FSH の直接的分泌促進因子としては、下垂体ゴナドト
ローフに直接作用する LHRH が最初に知られた調節因
意識不明になった後取り出し、部分的に意識を回復した
のち断頭した場合、FSH は有意に上昇している33。
子である。LHRH は LH のみならず FSH の分泌も刺激す
黄体形成ホルモン(LH)1 5 8 9
るので別名として GnRH とも呼ばれている。GnRH はゴ
, , ,
ナドトロピン顆粒の放出と共に FSHβ サブユニットの転
写を受容体以後の反応の結果として促進する21。もう一
LH は下垂体前葉の好塩基性性腺刺激ホルモン産生細
つの調節因子は、アクチビンである。アクチビンは、
胞で FSH と共に産生、貯蔵され、視床下部ホルモン
FSHβ サブユニット遺伝子の転写を促進することによ
GnRH 刺激で分泌される。動物種における分布は魚類-
り、産生を促進する22-24。FSH 分泌増加の生理状態とし
哺乳類の全脊椎動物に及んでいる。ラット下垂体での
ては、性周期に伴う変動(特に排卵前期、卵胞期)、更年
LH の含量は、雄では6~7μg/gland、雌では3~4μg/
期-閉経後の血中性ステロイドの低下などがある。
gland(National Institutes of Health;NIH-LH1 S1変換)と
直接的分泌抑制因子としては、インヒビンとフォリス
雄のほうが多く、雌では性周期に伴い変動する。
タチンがある。インヒビンは、FSH の合成を選択的に抑
- 14 -
LH は分子量約29,000の糖タンパク質で、TSH, FSH と
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果
共通の α サブユニットと、LH 特有の β サブユニットか
Turner 症候群、早発思春期、早期更年期、多嚢性卵巣症
らなるヘテロダイマーである。LH には α サブユニット
候群、卵巣発育不全、去勢、閉経などが知られている。
に2箇所、β サブユニットには1箇所糖鎖修飾されてお
LH の生物活性は、in vivo 測定方法としては、古くは
り、いずれもアスパラギンに結合している。また両サブ
排卵誘発と排卵数、その後雄ラット前立腺腹葉の重量増
ユニット共にサブユニット内部に S-S 結合があり、立体
加をマーカーする前立腺腹葉重量法 .(ventral prostate
構造を保持している。
weight assay;VPW)、更に PMS と hCG 処理による黄体
LH には、糖タンパク質ホルモンに特徴的な糖鎖に由
化卵巣を持つ未成熟ラットに投与し、黄体中アスコルビ
来する微不均一性があり、糖鎖末端のシアル酸に由来す
ン酸の減少をマーカーとした OAAD(Ovarian Ascorbic
る電荷の違いから7種類の異なる等電点を持つ異性体ま
Acid Depletion method)法、血中テストステロンの増加
34, 35
。これらの構成成分は糖鎖
をマーカーとする方法がある。In vitro 測定方法として
前駆体の結合からプロセッシングを経て末端にシアル酸
は、ラット精巣の Leidig 細胞でのテストステロン産生を
が結合するまでの各段階の分子構造の違いであると考え
マーカーする方法などがある。免疫学的測定法として
られている。それぞれの異性体は、受容体との親和性に
は、RIA 法と ELISA 法が利用されている。さらに、バイ
差があり、従って in vitro で精巣間質細胞におけるアンド
オアッセイと免疫学的測定法の中間的存在として、RRA
ロゲン産生効力も異なっており、等電点が最も塩基性の
法がある。これは、PMSG と hCG の投与で黄体化させた
ものが最も効果が強くシアル酸の多いものほど効果は弱
卵巣、あるいは精巣から単離した Leidig 細胞を受容体と
くなる。ラット下垂体中に見出されるそれぞれの構成成
して使用し、RIA と同じ競合的結合原理により、放射性
たは構成成分が見られる
分の等電点と RIA で測定された重量あたりの比活性が報
ヨウ素で標識した LH と標準品または検体中の LH とを
告されている36。
競合させて受容体と結合した放射能をマーカーとするも
なお、雌ラットでは、高塩基性の pI を持つ構成成分が
のである38。
全体の50%近く占めており(雄では20%)、in vitro での
LH の血中濃度は、WHO 1nd IRP-LH として、成人男性
生物活性は雄の約4倍を示した。一方、去勢した雄の下
で~3mIU/mL、成人女性では、排卵期~14mIU/mL、卵
垂体 LH の力価は雌の1/ 8に過ぎない。雌では、4日
胞 期 ~ 4mIU/mL、 黄 体 期 ~2.5mIU/mL、 閉 経 期 ~
毎に巡ってくる排卵に伴い LH サージが起きるため、下
18mIU/mL である27。
垂体中に存在する LH は常に新しく合成された、シアル
LH 分泌促進因子としは、GnRH がある。生理状態と
酸が付加していないか、あるいはシアル酸付加が少ない
して血中性コレステロールの低下、特に排卵前後での性
ことによると考えられている36。一方、シアル酸が付加
周期による変動、更年期-閉経後によって増加する。発
されるとによって、体内での半減期が長くなるため、in
情前期に大量に分泌されるエストロゲンは、正のフィー
vitro での1回の静脈内投与におけるアンドロゲン産生効
ドバックにより GnRH を介して LH の一過性大量分泌
力は各コンポーネントで殆ど変化しない事も報告されて
(LH サージ)を引き起こし、排卵を誘発する。一方、LH
いる37。
分泌抑制因子としては、生理状態として血中性ステロイ
LH の標的器官は、雌では卵胞の成熟顆粒膜細胞で、
FSH 協力して卵胞の成熟とエストロゲン産生、排卵を誘
ドの増加、オピオイドペプチド、特に β エンドルフィン、
幼少児期、妊娠期、産振期がある。
発し、排卵後黄体化した後はプロゲステロン産生分泌を
雌ラットでは発情前期の日の午後に LH が急激に放出
促進する(図10)。雄では精巣の間質細胞でアンドロゲン
されるいわゆる LH サージがある39。時間は、飼育条件に
産生分泌促進、アンドロゲンを介して2次的に精子形成
よって多少の変動があるが15時から18時がピークにな
促進を行う。受容体は、7回膜貫通- G タンパク共役型
る。その他の日には血中の LH レベルは低値に留まって
PKA 系である。
いる。発情前期の13時前後は臨海期と言われ、この時間
LH が不足すると性ストロイド分泌低下、間質細胞萎
帯にネンブタールのようなバビルツール系麻酔薬で1~
縮、排卵黄体化停止などが起こり、過剰状態では精巣間
2時間眠らせると、その日の LH サージは起こらず、LH
質細胞肥大化とそれに続く萎縮、エストロゲン、アンド
によって真夜中に引き起こされる排卵も起こらない。翌
ロゲンの分泌増大、早発過排、性成熟促進等が起こる。
日の夕方に LH サージが現れ、排卵も翌日になる。LH の
ヒトの疾患関連としては、低値を示す場合、低ゴナドト
みならず、発情前期の午後に LH よりも長い時間幅で
ロピン性類宦官症、原発性中枢性無月経、Sheehan 症候
サージを示すプロラクチンも LH 同様に1日ずれ込むこ
群、Chiari-Frommel 症候群、神経性食欲不振、顆粒膜細
とが知られている。
胞腫、副腎性器症候群、黄体機能不全、頭蓋咽頭腫など、
排卵を引き起こすために LH の放出が起こるが、どの
高 値 を 示 す 場 合 に は、 無 精 子 症、Kleinfelter 症 候 群、
くらいの LH が放出されているかは、次のような報告が
- 15 -
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
なされている40。発情前期の14時と20時に測定した下垂
ントロール群以下に下降している32。また、エーテル容
体中の LH 含量は2.1と0.7μg であり、発情前期の13時30
器に入れ、意識不明になった後取り出し、部分的に意識
分にネンブタール麻酔を施し、その日の排卵を抑制した
を回復したのち断頭した場合、LH は有意に上昇してい
ラットに、16時に LH の静脈投与を1回行い排卵惹起の
る31,33。発情前期ラットで3回短時間のエーテル処理を
様子を調べると、500ng までは排卵は起こらず、600ng
すると LH レベルは2倍となり、発情間期ラットでは同
では排卵惹起率は15%であり、1μg でも惹起率は67%、
じ処理で LH レベルに変化は無かった48。卵巣摘出ハムス
卵の数は2μg の際の半分であった。一方、300ng を2回、
ターにエーテル深麻酔を施すと30-60分後も血中 LH が
30-120分間隔で投与すると100%排卵を惹起する事が出
上昇した49。発情前期のハムスターに13時~15時に投与
来、卵の数も2μg 1回投与の場合と同じであることが報
しても排卵はブロックされず、血中 LH の排卵性サージ
告されている。短時間の高濃度 LH よりも比較的低濃度
の最初の上昇は1時間遅延し、分泌量は変わらず平行に
(5ng/mL 程度)の LH レベルが長く続く方が排卵惹起
ずれ込んだ50。ペントバルビタールでは、ラットの臨界
には効果的であると結論づけられている。500ng の単回
期に投与すると LH サージおよび排卵をブロックした48。
静脈投与では、投与直後には40ng/mL ほどの濃度になる
ハムスターに13時~15時に投与しても排卵はブロックさ
が、半減期は約13分なので急激に濃度は下がってしまう
れず、血中 LH の排卵性サージの最初の上昇は1時間遅
ため、LH サージ後も適当量を数時間放出しているので
延した50。ラットにおいて発情期の朝に投与後、子宮頚
はと考えられている。
部を刺激すると血中の LH、プロラクチンは上昇し、刺
血中 LH 濃度は、FSH 同様にストレスと麻酔に影響さ
激 無 し で は LH、 プ ロ ラ ク チ ン は 低 値 を 示 し た51。
れる。成熟雌ラットを毎日8時間、10日間の緊縛ストレ
L-DOPA をラットの発情前期の13時に動脈投与すると、
スを与えたところ、血中 LH レベルが低下する。この状
25mg/kg で急速に LH が上昇する52。麻酔処理を12時30
態で GnRH + TRH を投与すると LH 放出の反応性が高
分に行うと L-DOPA の LH 急速放出作用をブロックする。
くなる30。また、卵巣摘出ラットと卵巣摘出 / 副腎摘出
卵巣摘出ハムスターで深麻酔を行うと LH レベルを一時
ラットに1時間緊縛ストレスを与えたところ卵巣摘出
的に低下させている。チオペンタールナトリウムでは、
ラットは緊縛開放後速やかに血清中 LH(ng/mL)量が
発情前期の臨界期に20mg/kg を3回動脈投与すると排卵
回復したのに対し、卵巣摘出 / 副腎摘出ラットでは、回
前期、LH、プロラクチンサージをブロックし、排卵もブ
復せずその後4時間継続した41。緊縛時にコルチコステ
ロックした50。フェノバルビタールでは、卵巣摘出ハム
ロンを25mg/kg 皮下投与した場合、2時間後に回復し
スターの LH を低下させたが、麻酔は起こさなかったの
た42。感染ストレスとして、リポ多糖を0.5mg/kg を静脈
で、LH 低下と麻酔作用は関係がないと報告されてい
投与したところ、卵巣摘出ラットでは変化が無かった
る49。
43
が、卵巣摘出 / 副腎摘出ラットでは、低値を示した 。さ
温経湯の黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用3 4
らに、卵巣摘出ラットに1.5nmol の CRF を静脈投与した
,
ところ5ng/mL から2.5ng/mL、インスリンの静脈投与
では16ng/mL から4ng/mL、2-deoxyglucose(2-DG)投
産婦人科における漢方処方は、1)妊娠悪阻、2)妊
与 で は1.8ng/mL か ら0.5ng/mL、 エ ス ト ラ ジ オ ー ル
娠中毒症、3)流早産、4)妊娠感冒、妊娠咳、5)骨
(OE2)投与後にインスリンの静脈投与では4.5ng/mL か
盤位矯正、6)月経異常、7)月経困難症、8)子宮筋
ら1.8ng/mL と LH の分泌が抑制されている44。最後野障
腫、9)子宮内膜症、10)冷え性、11)血の道症、12)
害ラットでは、インスリンの静脈投与では6ng/mL から
不妊症、13)機能性子宮出血、14)帯下などの様々な治
2ng/mL に LH レベルが低下している45。絶食ストレス
療法として用いられている。本稿では、特に排卵障害に
により LH は低下する。卵巣摘出ラットと卵巣摘出 / 副
よる月経異常・不妊症について記述する。
健康な夫婦が避妊をしないで2年間通常の夫婦生活を
腎摘出ラットに2-DG を100mg/kg 静脈投与したところ、
卵巣摘出ラットでは4ng/mL から4ng/mL と変化が無
営むと、そのうち90%が妊娠するといわれている。した
かったが、卵巣摘出 / 副腎摘出ラットでは、4ng/mL か
がって、希望するにも関わらず妊娠できない不妊症の夫
46, 47
。また、採血時のス
婦は約10%となる。不妊の原因としては女性側の排卵障
トレスによっても血中 LH レベルの低下が報告されてい
害、卵管の卵輸送障害、受精卵の着床障害、男性側の造
る。採血時ストレスでは、プロラクチンの上昇が確認さ
精障害、精子輸送、性交障害、精子、頸管粘液の不適合
れている。
などがあげられる。この様に、不妊症は多くの原因が単
ら0ng/mL と分泌が抑制された
エーテル麻酔では、卵巣摘出ラットにおいて、エーテ
独あるいは複数に関連した結果生じる疾患である。
ル吸入2分以内に LH が上昇している。1時間後にはコ
- 16 -
近年、ゴナドトロピンや卵巣ステロイドホルモンの定
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果
量に伴い、無月経や排卵障害はその障害部位が明らかに
は鎮痙作用があることが知られている3 。
温経湯の投与成績として、五十嵐ら59は、エストロゲ
されてきており、診断・治療が飛躍的に進歩している。
治療としては、エストロゲン受容体調節薬であるクロミ
ンの分泌が認められない第二度無月経に対する単独投与
フェン、ヒト閉経期ゴナドトロピンーヒト絨毛性性腺刺
の有効性は低いと報告しているが、板垣ら60の報告では、
激ホルモン(human menopausal gonadotropin- human cho-
第二度無月経でも排卵、妊娠に至ったと報告されてい
rionic gonadotropin;HMG-HCG)、性ステロイドホルモ
る。また、楠原の報告3 では、無排卵周期症は5例中、有
ン 等 の 排 卵 誘 発 剤 が 用 い ら れ て い る。 一 方、漢方薬
効3例、無効2例、エストロゲンのプライミングが存在
(herbal medicone)を用いた不妊症治療は古くから用い
する第一度無月経は16例中、有効5例、改善3例、無効
られており、当帰芍薬散、温経湯、桂枝茯苓丸、芍薬甘
8例、第二度無月経7例中、有効例は無かった。宇津木
草湯、四物湯、桃核承気湯、六君子湯、四物湯、当帰散、
ら 3 は、持続性無排卵周期症でも温経湯投与開始後79日
折衝飲、女神散、呉茱萸湯などが使用されている。漢方
目の3回目の排卵で妊娠に成功したと報告している。鈴
治療が有効なのは、卵管閉塞のような器質的な障害のな
木ら61は、クロミフェン投与により卵巣過剰刺激症候群
い機能性不妊であり、黄体機能不全や無排卵による不妊
を発症した不妊女性に対して温経湯を投与したところ妊
にも有効なことが知られている。しかしながら、多くの
娠に至ったと報告されている。
温経湯の作用として、武谷62は、下垂体前葉細胞の培
漢方薬が、クロミフェンや HMG-HCG のように作用部位
や作用機序が明確にされていなのが現状である。
養系において温経湯が GnRH 存在下で LH および FSH の
不妊・月経異常の改善に関する漢方薬の作用機序にお
産生を促進したと報告している。また、久具ら63は、ラッ
ける内分泌学的な検討は数10年前からさまざまな基礎
トの下垂体前葉細胞培養系において、GnRH 存在下に培
的・臨床的研究が始まられており、幾つかのエビデンス
養液中及び細胞内の LH、FSH の濃度を増加させ、プロ
が集積されてきた。科学的手法を用いた作用機序の解明
ラクチン分泌を抑制したと報告している。さらに、田坂
により、当帰芍薬散、温経湯、桂枝茯苓丸、芍薬甘草湯
ら64は、ラットの視床下部-下垂体連続還流システムを
の4種類の漢方薬の作用点の一部が明らかになってき
用いて、温経湯の作用について報告している。その結果、
た。中でも温経湯は下垂体性ゴナドトロピンの律動性分
1)視床下部-下垂体を連続還流した時に LH 分泌を亢
泌パターンを改善することにより卵胞成熟、排卵が回復
進させるが、下垂体を単独還流した時には LH 分泌作用
し、さらに黄体機能の向上が明らかにされている。
はない。2)温経湯は視床下部から GnRH 分泌を促進す
以下、温経湯の排卵障害に対する投与成績および作用
機序の基礎的研究53-58について紹介する。
る。3)温経湯の成分のうち、牡丹皮が LH 分泌亢進作
用を示し、甘草、人参、芍薬、川きゅう、当帰には LH
温経湯の成分は、麦門冬、半夏、当帰、甘草、桂皮、
分泌亢進作用は示されなかった。牡丹皮は、従来から血
芍薬、川きゅう、人参、牡丹皮、呉茱萸、生姜、阿膠で
液凝固抑制作用と鎮痛・鎮静作用があるといわれてお
あり、その主薬は、当帰、呉茱萸、桂皮である。温経湯
り、その主成分はペオニフロリンやオキシペオニフロリ
は、漢時代の「金匱要略」で紹介されている処方で、当
ンなどのモノテルペン配糖体とペオノール、ペオノサイ
帰、川きゅう、牡丹皮は子宮を充血させ筋収縮を調整す
ドなどのフェノール性化合物である(図12)。
る作用を有するという。その結果、主に骨盤内の循環が
モノテルペン配糖体は LH 分泌亢進効果がないことが
障害され、卵巣、子宮などの機能失調を生じた例を改善
判明しているので、フェノール性化合物が GnRH や LH
するとされている。さらに、甘草、桂皮、芍薬、人参に
の分泌を促進している可能性が高いと結論付けている。
図12.ペオニフロリン、ペオノールの構造
- 17 -
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
また、後山ら65-68の報告では、中枢の性機能を評価するた
と LH に関する報告は、7件のみであった。この結果は、
めに、温経湯の投与による FSH、LH の律動性分泌パ
漢方薬について科学的認識がなされていないことを示唆
ターンを検討すると、排卵障害患者において温経湯は、
している。これは、1)漢方薬が長年にわたる使用経験
パルスの頻度、振動ともに明らかに改善したと報告がな
によって効能・効果を得てきたため、西洋医薬品のよう
されている。
に科学的実験によって有効性と安全性の評価が難しいこ
一方、排卵障害や一部の無月経症患者にはゴナドトロ
とと、2)漢方薬は天然物由来であるため、一つの薬用
ピンの分泌過剰状帯が観測される。その中でも LH 分泌
植物中に多種多様な生理活性物質が含まれ、薬効の幅も
過剰は多嚢胞卵巣(polycystic ovary; PCO)症候群に代表
広域であること、3)原植物、原産地、調整などの違い
されるホルモン分泌異常で、治療には従来よりクロフェ
により品質を一定に保つことが難しいことなどが原因と
ミンやプレドニゾロン、あるいは LH 比の低いゴナドト
して挙げられる。この問題解決には、今後、漢方薬の体
ロピン製剤が用いられているが、その臨床成績はかなら
系のみならず単一の薬用植物に対して、科学的手法を用
ずしも良好ではない。PCO 症候群を含む高 LH 血症性排
いる解析方法の確立が必要であると考える。
卵障害に対し温経湯を投与すると、血中 LH 濃度は、投
以上、視床下部-下垂体前葉-性腺軸の一般的所見か
与8週間で18%の減少傾向が認められ、エストラジオー
ら FSH、LH の生産と分泌調整、さらに、排卵障害にお
ル濃度の増加が観測されている69。PCO 症候群を除く高
ける温経湯の効果について述べてきた。今回紹介した温
LH 血症性排卵障害では、血中 LH 濃度は、投与8週間で
経湯のように、漢方薬としての実績は認められているも
51%の低下が認められ、血中エストラジオール濃度は
のの、in vitro レベルでの研究しかなされていないため、
69
44%上昇している 。また、温経湯には、高プロラクチ
作用部位や作用機序を明らかにすることが出来ていない
ン血症患者の血中プロラクチン濃度を低下させる作用が
のが現状である。今後、漢方薬の発展には、六君子湯の
66
あることも明らかにされている 。以上、これらの内分
グレリン分泌促進作用のように in vivo レベルでの研究ア
泌学的データから、温経湯は、すくなくとも排卵障害に
プローチを行うことで、内分泌学的および科学的データ
おいて、視床下部-下垂体-性腺軸に及ぼす作用点があ
に基づいた臨床応用への発展に期待したい。
ることが示唆される。
参考文献
将来への展望
近年、排卵障害による月経異常・不妊症の治療におい
て、エストロゲン受容体調節薬クロミフェン、HMG-
HCG、性ステロイドホルモン等の排卵誘発剤が欠かせな
い治療方法となっている。しかしながら、副作用として、
クロミフェンには抗エストロゲン作用による頸管粘液減
少が、HMG-HCG には多胎や卵巣の多嚢胞性腫大や下腹
部 痛、 腹 水 の 貯 留 な ど 卵 巣 過 剰 刺 激 症 候 群(Ovarian
hyperstimulation syndrome;OHSS) が し ば しば 発症す
る。さらに、合併症として肝障害、血液凝固能亢進と血
栓塞栓症、腎不全、呼吸不全が発症し、多臓器不全によ
り死に至ることもある。一般的には、HMG-HCG 投与に
よるものであるが、クロミフェン投与でも OHSS 発症の
3
報告がある 。OHSS を発症した場合、不妊治療に困難
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が生じる。また、治療対象者が、若年未婚婦人の場合、
type mice and those transgenic for the FSH beta-subunit/
排卵誘発剤の使用は容易ではない。そこで、漢方薬の導
入や臨床応用に期待が高まっている。
漢方薬について、米国化学会の情報部門である CAS
(Chemical Abstracts Service)が提供する情報検索サービ
herpes simplex vir us thymidine kinase fusion gene.
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スと MEDLIN を情報源として検索を行った。その結果、
漢方薬では18,480件もの論文が検索され、そのうち不妊
症(infertility)を対象とした論文は67件、さらに、FSH
- 18 -
stimulating hormone(FSH)subunit genes and an FSH betasubunit promoter-driven herpes simplex virus thymidine
kinase gene in transgenic mice; specific partial ablation of
黄体形成ホルモン(LH)分泌促進作用に対する温経湯の効果
FSH-producing cells by antiherpes treatment. J Endocrinol
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生体応答部門
総
説
Antioxidative function of herbs and spices in a lipid oxidation
― Antioxidative effect of rosemary on fish oil and fish meat,
and the influence of rosemary on the rat liver administered with oxidative fish oil ―
Keiko Yoshioka
Department of Biological Sciences, Institute of Preventive and Medicinal Dietetics, Nakamura-Gakuen University
(Received April 27, 2012)
Abstract
Herbs and spices have special characteristics as to the addition of flavor, taste and color to food and as well palatability and
preservation. In addition, some of them have been used for traditional drugs in Chinese medicine and herbal medicine because
of their potential for physiological and pharmacological functions. One of food deterioration is lipid oxidation and unsaturated fatty
acid is easily oxidized to peroxide lipids, so that rosemary is often in use for the cooking and processing of fish meat and meat. I
here considered the antioxidative effect of rosemary extract in fish oil and fish meat, and the influence of the rat liver administered with oxidized oil on a lipid oxidation. The oxidation of fish oil with rosemary at the level of 0.02% or 1.0% of rosemary
extract was suppressed about 50% of full oxidation in comparison to the original fish oil. Furthermore, peroxide value(PV)of
the liver lipid in rats administered with rosemary extract was declined. These results show that rosemary can prevent the lipid
oxidation in the liver. It is expected that rosemary would be useful for the Chinese medicinal diet and in the combination of foodstuff with antioxidative effect.
脂質酸化における香草・香辛料の抗酸化機能
― ローズマリー抽出物添加の魚油および魚肉における抗酸化性と
酸化魚油投与ラット肝臓への影響 ―
吉岡
慶子
中村学園大学 薬膳科学研究所 生体応答部門
(2012年4月27日受理)
キーワード
香草・香辛料、ローズマリー(迷迭香)、酸化安定性、抗酸化性、食肉、魚油、不飽和脂肪酸
要
与ラットの肝脂質への影響を脂質酸化の観点から考察す
旨
る。ローズマリー抽出物添加魚油の酸化安定性は無添加
に対し、0.02%、1.0%添加で酸化が抑えられた。また、
香草・香辛料は特有の風味を有し、食品に香り、味、
魚 肉 の 加 熱 調 理 で は 脂 質 の 酸 化 が1/2量 に 抑 え ら れ、
色を付与して、嗜好性、食品の保存機能を高め、一方、
ローズマリーの抗酸化効果が認められた。さらに、ロー
生理的・薬理的機能から、生薬、中薬、漢方薬や茶飲料
ズマリー抽出物をラットに投与すると、肝脂質の過酸化
として利用されてきたものが多い。食品の品質劣化の一
物価(PV)は低下し、脂肪酸組成の変化は群間では大差
つに脂質酸化があり、不飽和脂肪酸は容易に酸化されて
はなかったが、不飽和脂肪酸代謝に影響を及ぼしたこと
過酸化脂質となり易い。魚肉および畜肉の調理・加工に
が示唆された。ローズマリーの使用は、その抽出物およ
よく用いられるローズマリー(迷迭香)の抗酸化性につ
び新鮮ローズマリーともに、魚油や魚肉への添加により
いて、魚油および魚肉における酸化安定性と酸化魚油投
脂質酸化が抑制されたことから、薬膳食においても、食
- 21 -
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
材の組み合わせによって、抗酸化効果を付加できること
給されている7。Nakatani らはフェノールグループと共に
が期待される。
6種のジテルペン複合体を抽出し、それらの構造を確定
し、ローズマリーがその濃度が増加するに応じて増加す
香草・香辛料と抗酸化機能
る高い抗酸化活性を持っていることを報告している2,8,9。
一方、魚油(カツオやマグロの眼窩油)に多く含まれ
人類は古来より、香草・香辛料(スパイスおよびハー
ているイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン
ブ)を使用し、肉や魚介類を香草で包むと風味の劣化や
酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸は、今日、それらの
腐敗を抑えられることが知られ、一方では、香草・香辛
有利な生理学的機能のために様々な食品に添加されてい
料は五感を刺激して食欲を増進させ、また、生体の代謝
る。また、多くの研究者たちは EPA や DHA を豊富に含
調節の機能も有している。香辛料の植物学的分類によれ
む魚油を摂取することは中性脂肪の血清脂質レベルを低
ば、その種類は500種を超えるといわれ、国や地域の違
下させることを示している10-13。しかしながら、これらの
い、民族、風習、宗教にかかわる固有のものを含めると
脂肪酸は酸化されやすく、多くの二重鎖のために不安定
その数倍にもなり、香辛料は主として香辛系香辛料(ス
であることも知られている14,15。加えて、脂質酸化第一生
パイス)と香草系香辛料(ハーブ)からなる1。エジプト
成物であるヒドロペルオキシドもまた、毒性であること
では紀元前2800年ごろハッカなど多くのハーブが医療に
が認識されている16,17。魚油の酸化安定性や EPA や DHA
使われたと記されている。西洋ではヒポクラテスがハー
に関する脂肪酸組成に関した報告はあるが18,19、酸化魚
ブ医学を体系化、東洋では中国の漢方医学、インドの
油のラット生体内の影響についての研究はほとんどみら
アーユルヴェーダ医学などで多くの香辛料が薬として利
れない14,20-22。
用され、数千年を経た今日まで受け継がれている。
そこで、食品の品質劣化の原因の一つに脂質の酸化が
ローズマリー(Rosmarinus officinalis L.)は、シソ科に
あり、とくに、不飽和脂肪酸は容易に酸化されて過酸化
属し、日本では、和名:まんねんろうとも言われ、香草・
脂質を生じるとされている。香草・香辛料の食品保存機
香辛料と分類され、ハーブとして一般に用いられてい
能の中で、抗酸化機能を有し、その生体調節機能に着目
る。中国では、薬用植物として、生薬名:迷迭香(めい
した。魚肉および畜肉の調理・加工によく用いられる
てつこう)と呼ばれ、お茶として飲用されることも多い。
ローズマリー(迷迭香)の抗酸化性について、魚油およ
主な含有成分は、カルノシン酸、カルノソール、ロスマ
び魚肉における酸化安定性と酸化魚油投与ラットの肝脂
ノール、エピロスマノール、イソロスマノールなどが単
質への影響を考察する。
離、構造解析され、高い抗酸化活性を発現すると報告さ
2
魚油の脂質過酸化物について、魚油の酸化の第一生成
れている 。また、これらの有効成分の生体調節機能によ
物であるヒドロペルオキシド量を定量した。これは酸化
る効果的な知見が多くみられる3 -6 。ローズマリーの有効
度のインデックスとして有用であった。空気中の自然酸
成分であるロスマリン酸は、抗酸化性を有し、このため、
化や空気と共に加熱することにより引き起こされるマグ
記憶力の向上や老化を防止するハーブとして利用されて
ロ眼窩油(魚油)のヒドロペルオキシド量における変化
きた経緯がある。また、血液循環を促す作用があるとさ
を調べた。特有な抗酸化効果を持つジテルペン複合体の
れ、メディカルハーブとしても知られている。イギリス
一つであるカルノソールを含むローズマリー抽出物を魚
薬局方、また、ドイツでは、保健省が定めた薬用植物の
油に添加し、混合脂質が酸化された時のローズマリーの
規格であるコミュッション E モノグラフ収載の薬用ハー
抗酸化効果および酸化魚油をラットに投与し、ラットの
ブとされている。消化機能促進作用、抗酸化作用、血行
肝脂質に対する食餌中のローズマリーの抗酸化効果につ
促進作用などを有し、それらの改善に利用されている。
いて14。また、香草・香辛料、ローズマリーの魚肉およ
これらの抗酸化作用は、社会的には生活習慣病や老化
び魚肉の加熱調理における抗酸化性について23、さらに、
予防のキーワードでもあり、活性酸素はいくつかの生体
豚肉の冷蔵、冷凍貯蔵肉および牛肉とその製品における
物質と反応しやすく、特に脂質やタンパク質、遺伝子な
抗酸化効果について述べる。
どと反応すると生活習慣病に結びつくことになる。なか
でも、脂質との反応で生じる過酸化脂質は、動脈硬化を
ローズマリー抽出物添加魚油の酸化安定性
魚油の酸化安定性について
促進し、生活習慣病の一原因ともなっている。また、食
品の脂肪や脂質の酸化を抑制するために、BHA, BHT, α-
魚油が過酸化脂質を生じやすい点に着目し、油脂の酸
トコフェロールといった抗酸化剤が広く使われている。
化で生じる第一次生成物であるヒドロペルオキシド量を
ローズマリーやセージなどのシソ科植物、タデ科、キク
測定し、それを酸化度の指標とした。魚油(マグロ眼窩
科は強い抗酸化性があることが知られ、ハーブとして供
油)の酸化安定性について、その自動酸化および熱酸化
- 22 -
Antioxidative function of herbs and spices in a lipid oxidation
Table 1.Changes in Peroxide Values and the Composition of Main Fatty Acids of the Fish Oil Heated at 100℃ .
によるヒドロペルオキシド量と脂肪酸組成の変化を調べ
た。また、特有の抗酸化に対して有効成分を持つジテル
ペン化合物の一つであるカルノソールを含むローズマ
リー抽出物を魚油に添加し、混合脂質におけるローズマ
リー抗酸化性14について述べている。
魚油(マグロ眼窩油)の酸化試験について、マグロ眼
窩油(以下、魚油とする)は、
(株)共和テクノスにて抗
酸化剤を除き、PV1以下に調整したものを使用した。酸
化度は Tripheny1 phosphine 還元法(TP 法)24におけるヒ
ドロペルオキシド量は、操作中生成される TPO と消費さ
れる TPO の量を HPLC で測定して算出した。魚油は、40
種類近くの脂肪酸で構成されているが、脂肪酸組成の変
化については、各脂肪酸を CG-MS で分析同定し、その
主な脂肪酸は Myristic acid、Palmitic、Linoleic acid、Oleic
acid、Stearic acid、EPA、DHA であった。各貯蔵温度と
貯蔵期間における魚油の酸化度の変化について、各温度
における PV は、-30℃ではほとんど変化せず、4℃で
は、28日目、20℃では14日目、40℃では5日目に最大値
Fig. 1.Autoxidation of the Fish Oil without or with Addition of
Rosemary Extract. Values are means ±SD of triplicate determinations.Significantly different from fish oil with nonaddition of
rosemary; **:p<0.01.
を示した。各温度における最大 PV 値の脂肪酸組成を示
ル、ロスマリキノン)を単離し、ラードに0.02%濃度添
している。DHA 量は他の脂肪酸に比べほとんど減少し
加した場合、その PV は同濃度の BHT を添加した値にほ
なかった。加熱試験では、酸化度は100℃で時間経過とと
ぼ近かったと報告している。さらに、魚油や魚肉、牛肉
もに増加した。脂肪酸組成は顕著に変化しなかったけれ
の加熱肉において、Wada ら27は a Model Fish Oil and Meat
ども DHA で60分、120分でそれぞれ12%、15%の減少が
System 、また、Wong ら28は、a Model Meat System におけ
見られた。その結果、魚油のおける変化は貯蔵温度と加
るローズマリーの抗酸化効果を指摘している。
熱によって増加し、魚油の酸化安定性は温度に依存し、
ローズマリー添加による酸化魚油に対する抗酸化性つ
低いと緩慢に、高いと急速に進行し、加熱によって加速
いて、ローズマリーを魚油に0.02および1.0%添加し、無
した(Table 1.)14。
添加の魚油と比較し、その酸化度をした(Fig.1)14。150
魚油へのローズマリー添加の影響
8,9
時間(6日間)経過では無添加の PV147.0に対し、0.02%
25,26
はローズマリーのメタノー
添加では PV52.0、1.0%添加では PV9.0と変化した。さら
ル抽出区分からジペンテル化合物(ロスマリジフェノー
に200時間(8日間)では無添加が PV1064.0と急速に変
Nakatani ら Houlihan ら
- 23 -
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
化したのに対し、0.02%添加では PV73.0、1.0%添加では
した14。18匹の Wistar 系雄ラット(4週齢)を3群に分
PV11.0と緩やかに酸化した。8日間酸化させた魚油の酸
け、AIN-93G diet を基本飼料とし、大豆油量7.0%を5.0%
化度を無添加のものと比べると、0.02%の添加で酸化は
に 調 整 し て 与 え て 飼 育 し た。Group Ⅰ: 魚 油 PV1、
約1/15に抑えられ、1.0%添加においては約1/100と酸化
Group Ⅱ: 酸 化 油 PV460、Group Ⅲ: 酸 化 油 PV460+
の阻止が顕著にみられた。このことはローズマリーの抗
ローズマリー(抽出物を飼料の1%(W/W)添加)
。各
酸化性によると考えられた。また、脂肪酸組成の変化は、
魚油を1ml/day で経口投与し、28日間飼育して解剖し
EPA は0.02 % ロ ー ズ マ リ ー 添 加 の7.4 %、1.0 % 添 加 の
た。肝臓は直ちに摘出し、脂質含量、酸化度、脂肪酸組
8.1%に比べ、無添加では3.7%と EPA の若干の減少がみ
成を測定した。ラット肝臓中の脂質は Bligh and Dyer の
ら れ た。DHA で は0.02 % 添 加 の24.1 %、1.0 % 添 加 の
方法によりの抽出し、脂質含量を測定した。さらにラッ
25.4%に比べ、無添加では7.3%と顕著な減少がみられ
ト肝臓の脂質クラスの分析および肝臓中のトコフェノー
た。このことから、ローズマリー添加により酸化度だけ
ル量について定量した。統計処理は、各測定値は分散分
でなく、不飽和脂肪酸のうち特に DHA における酸化が
析後、LSD 法(least-significant difference method)で有
抑制されたことが示唆された。
意差検定(p <0.01、p <0.05)を行った。
ラット肝臓の魚油投与における影響
以上のことから、魚油の酸化度は温度が低いと緩慢
に、高いと急速に進行し、加熱によって加速された。ま
魚油と酸化魚油のラットへの投与において、ラットの
た、酸化魚油のローズマリー添加試験から、0.02%添加
体重変化は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ群の体重変化は3群間に大きな
でもかなり酸化が抑制され、さらに1.0%添加では、酸化
差 は み ら れ ず、 い ず れ も 順 調 に 成 長 し た。PV1.0の
が顕著に阻止されてローズマリーの抗酸化性が認められ
Sample No.1魚油と PV460.0の Sample No.2魚油の脂肪酸
た。すなわち、ローズマリーは、ごく少量で、食品に添
組成を示している。EPA は PV1.0に対し、8.3%であった
加すると不快な臭いを消し、風味や香りをつけるので、
が、PV460に対しては7.2%で、PV1.0 Sample に比べれ
日常の調理に利用することは、脂質酸化が抑えられ、多
ば、13%の減少であった。Sample No.1では DHA は25.0
くの利点があると考えられた。
で、一方、Sample No.2では21.1で、15%の減少であった。
EPA, DHA 含量は自動酸化により変化したけれども、そ
酸化油投与ラットの肝臓におけるローズマリー添加の効果
の他の脂肪酸では顕著な変化は見られなかった。
ラットの酸化魚油投与試験
ラット肝脂質の酸化度と脂肪酸組成の変化について、
調整した酸化油をラットに経口投与し、ラット肝脂質
Table 2. に示している14。酸化度は、Ⅰ群とⅡ群を比較す
への影響およびローズマリーの抗酸化効果について検討
ると、PV460を投与のⅡ群では10.1と高値を示し、Ⅱ群
Table 2.The Degree of Oxidation and Fatty Acid Composition of Rat Liver Lipids after Administration of the Fish Oil
Group I
Group II
Values are means ±SD of six rats in each group.
Significantly different in comparison with Group I ; * : p < 0.05, * * : p < 0.01.
- 24 -
Group III
Antioxidative function of herbs and spices in a lipid oxidation
とⅢ群を比較すると飼料にローズマリーを加えたⅢ群で
たことも考えられる。酸化の一次生成物であるヒドロペ
は低下がみられた。脂肪酸組成においては、ガスクロマ
ルオキシドの生体内での吸収および解毒機構の解明、ま
トグラムによると各群の EPA のピークは低いレベルで
たローズマリーの抗酸化機構に関する今後の研究の進展
検出された。Ⅰ群とⅡ群を比較すると、DHA は PV1の魚
が待たれる。
油を投与したⅠ群の11.4%に比べ、PV460を投与した Ⅱ
以上のことから、酸化魚油投与ラットの肝脂質におけ
群では10.1%と低い値を示した。同様にアラキドン酸は
る酸化度と脂肪酸組成について、ローズマリー添加によ
Ⅰ群の18.2%に比べ、Ⅱ群では13.9%と低い値を示した。
る大きな影響はなかったが、ローズマリー添加群の方が
これは酸化油を投与したことによると考えられる 29,30。
良好な成績を示したことは、不飽和脂肪酸の代謝系の亢
また、Ⅱ群とⅢ群を比較すると DHA はⅡ群に比べ、飼
進が示唆された。ローズマリーは、抗酸化剤として食肉
料にローズマリーを加えたⅢ群では13.51と高い値を示
加工品や揚げ油に多く利用され、現在、多くの食品に添
した。アラキドン酸についてもⅡ群に比べ、Ⅲ群では
加されている魚油の酸化防止にも効果があると考えられ
19.0%と高い値を示した。このことは動物体内における
た。
ローズマリーの抗酸化作用によるものと示唆された。
ラット肝臓中のトコフェロール量について、Fig. 2に
食肉の加熱調理におけるローズマリーの抗酸化効果
示している14。ラット肝臓100g あたりの α-トコフェノー
魚肉や畜肉に含まれる多価不飽和脂肪酸は、非常に酸
ルと γ-トコフェロール量の総量は、Ⅰ群62.0mg、Ⅱ群
化されやすく、加熱調理すると、さらに酸化が進むので、
54.0mg、Ⅲ群53.0mg で、Ⅰ群と酸化油を投与したⅡ群、
これに香草・香辛料を使って抑えることを検討した。一
Ⅲ群との間に相違が見られ、Ⅱ群とⅢ群ではトコフェ
般に、酸化を防ぐ働きには、天然由来のビタミンEおよ
ロールが酸化油に対して抗酸化的に作用したと考えられ
び合成の抗酸化剤があり、合成のものは安全性の面から
る。
の問題が指摘され、天然の香草・香辛料に期待がかけら
ラット肝脂質クラスについて、分析データを Fig. 3に
14
れている。香草・香辛料の抗酸化性が高くても、調理に
示している 。ラットの肝脂質の主なものは PL(phos-
よってその機能性が失われるとしたら、実用性がないこ
pholipid)
、ST(sterol)
、FFA(free fatty acid)
、TG(triglyc-
とになる。そこで、効果的な実用的な事例について述べ
eride)であるが、Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ群のうちで1とⅢ群は大きな
る。
魚油の酸化安定性について、香草・香辛料の中でも、
差は認められなかったが、Ⅱ群の PL と TG 量にはかな
りの差が認められた。TG 量について、Ⅱ群は酸化油投
高い抗酸化能を示すローズマリー生葉と、その抽出物モ
与により、増加したと考えられる。他方、Ⅰ群は PV 1の
ルッカ10Pについて、DPPH ラジカル消去能を調べた。
魚油であり、Ⅲ群は酸化油投与であったが、食餌と魚油
DPPH ラジカル消去能は、新鮮ローズマリー生葉より抽
がラット肝臓脂質中の TG の蓄積に影響したと考えられ
出10%溶液および0.1%モルッカ10P 溶液を DPPH(1,1-
る。
diphenyl-2-picrylhydrazyl)分光測定法31で測定し、いずれ
ラットの肝臓の脂質酸化について、投与魚油の PV460
も添加量の増加に伴い DPPH 溶液の退色が顕著に見ら
は酸化度と脂肪酸組成の変化では大きな影響はみられな
れ、ローズマリーの抗酸化効果が証明された。新鮮ロー
かった。これは、ラット投与魚油の酸化方法として自動
ズマリー生葉は Torolox 換算で16.6nmol 相当量 /100㎕分
酸化によるもので、また、同時に肝臓の解毒作用が働い
析液、モルッカ10P は12.4nmol 相当量 /100㎕分析液のラ
Fig. 2.The Tocopherol Content of Rat Livers after
Administration of Fish Oils.
Fig. 3.The Lipid Class of Rat Liver Lipid after
Administration of Fish Oil.
- 25 -
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
Fig.5 23)。また、Tironi は冷蔵サーモンの脂質とタンパク
ジカル消去能が認められた。
常温での約8日間の自動的酸化における PV は、ロー
質の変化について、ローズマリー抽出物添加は肉色と脂
ズマリー抽出物(モルッカ10P)0.02%添加では無添加の
質酸化に有効であった32。Afoso はテイラピアのフィレの
ものと比較すると約1/15、1.0%添加では約1/100に抑え
前処理にローズマリー抽出物を添加することによって、
られていた。また、100℃加熱における魚油の PV は経時
脂質酸化が防止できたと報告している33。
末野ら34は豚ひき肉に香辛料を添加して脂質酸化に対
的に上昇したが、ローズマリー抽出物(モルッカ10P)
0.02%添加では、無添加に比べ約1/2、1.0%添加では約
する実験を行った。7日間冷蔵した豚ひき肉の酸化度を
1/3に上昇が抑えられていた。無添加では加熱後にエイ
測定し、ジンジャー、セージ、ローズマリー、クローブ
コサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸の減少がみられ
を用いると、よく酸化を抑制した。また、豚ひき肉を6
たが、ローズマリー添加魚油の脂肪酸はほとんど変化が
か月間冷凍貯蔵した時、対照は脂肪の酸化曲線がかなり
なく、酸化は抑制された。脂肪酸組成では、ローズマ
上昇したが、ローズマリー、セージ、ナツメグ、パプリ
リー抽出物添加により、不飽和脂肪酸のうち特に DHA
カはよく酸化を抑えた。Lindsey 35は豚肉パテの生および
で減少が抑えられていた。
凍結肉、加熱肉についてもローズマリー抽出物添加は酸
魚肉および畜肉の調理における酸化度については、 サ
化安定性があった。また、Lowder は混合脂質配合の牛肉
バの生肉、素焼き、ローズマリー添加焼きの試料から各
パテ製品の不飽和脂肪酸にもローズマリー抽出物は効果
5.0g採取し、Folch らの方法により Chloroform:Meth­a­
的に使用されていた36。
nol 混液で抽出し、脂質含量を測定した。抽出した脂質の
以上のことから、ローズマリーは、その抽出物および
PV を、TP 還元法で算出した。生肉の PV が2.8(meq/kg)
新鮮ローズマリー生葉ともに、魚油や魚肉への添加によ
であるのに対し、 素焼きでは21.8(meq/kg)、ローズマ
り脂質酸化が抑制され、魚肉の加熱調理におけるローズ
リー焼きでは12.5(meq/kg)であった。焼き操作を行う
マリーの抗酸化効果が示唆された。
と魚肉の脂質酸化は進行するが、ローズマリーを添加す
展
ることによって、脂質酸化が約1/2に抑えられた(Fig.4,
望
食品の製造、加工および貯蔵過程における食品の品質
劣化の一つに脂質酸化があり、脂質酸化反応が起こりや
すく、酸敗臭や毒性を生成して食品の劣化を生じ、不飽
和脂肪酸が容易に酸化されて過酸化脂質となり易い。一
方、生体内においては、酸化反応によって過剰に発生し、
残存したフリーラジカルが、老化や生活習慣病の発症に
関わるとされている。そこで、過酸化脂質の生成を阻止
し、ラジカルを捕捉して生体の機能を調節する働きを持
つ、香草・香辛料の使用に対して、魚肉および畜肉の調
理・加工によく用いられるローズマリー(迷迭香)の抗
酸化性について、魚油および魚肉における酸化安定性と
Fig. 4.Oxidation of fish oil without or with addition
of rosemary extract by heating
酸化魚油投与ラットの肝脂質への影響について脂質酸化
の観点から検討した。
日常よく使用される香草・香辛料のうち、特に、シソ
科のローズマリーとセージ、また、ミント、バジル、タ
イム、シソなども高い抗酸化作用を持っている。また、
今後、抗酸化成分を含む食材を日常的に摂取することに
より、生体内における酸化ストレスによる疾病の予防に
期待している。このように、香草・香辛料の使用は風味
を上させるだけでなく、薬膳食においても、食材の組み
合わせによって、抗酸化効果が期待できるので、その抗
酸化力を多いに利用したいものである。
Fig. 5.Lipid oxidation of pacific mackerel meat by roasting
- 26 -
Antioxidative function of herbs and spices in a lipid oxidation
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第5号
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- 28 -
of Food Science,(2010)
開発・教育部門
総
説
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with
beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
Shanying CHEN1 , Azusa OHNITA2 , Noritaka TOKUI3 ,4 , Yoshimi MINARI1 ,5
1. Graduate School of Health and Nutritional Sciences, Nakamura Gakuen University
2. Graduate School of Human Development, Nakamura Gakuen University
3. Department of Nutritional Epidemiology, Institute of Preventive and Medicinal Dietetics, Nakamura Gakuen University
4. Department of Preventive medicine and dietetics, Institute of industrial Ecological Science,University of Occupational and Environmental Health, Japan
5. Department of Human Nutritional and Food Science, Institute of Preventive and Medicinal Dietetics, Nakamura Gakuen University
(Received 31 March, 2012)
Abstract
To facilitate serving of Chinese medical diet with potential beauty effect in the Japanese style, the foodstuff of Chinese medical
diet with beauty effect or Run Chang Tong Bian, or constipation-improving, effect was identified based on the basic principle of
traditional Chinese medicine. After establishment of the inclusion criteria based on the basic principle of traditional Chinese
medicine, the foodstuff of Chinese medical diet was classified according to “Zhongyao Dacidian(dictionary of Chinese medicine)”
(Shanghai Scientific & Technical Publishers)by the following: five natures indicating clinical responses(cold, cool, hot,
warm and neutral);five tastes(pungent, sweet, sour, bitter and salty);and channel tropism indicating which zang fu(organ)the
foodstuff is effective for(liver, heart, lung, spleen, kidney, small intestine, gall, stomach, large intestine, urinary bladder and
triple warmer).
Of the foodstuff of Chinese medical diet studied, 245 items were shown to have beauty effect. By five natures, 29.0%, 32.2%
and 38.8% of them were “neutral,” “hot/warm(body-warming),” and “cold/cool(body-cooling)”, respectively. By five tastes,
the percentage of “sweet” was the highest, accounting for 56.7% of them. Their breakdown by channel tropism was 20.4% liver,
19.2% spleen and 18.6% lung. Next, 116 items were identified as having Run Chang Tong Bian(constipation-improving)effect.
By five natures, “cold/cool(body-cooling)” accounted for the largest percentage of 42.4%. The most common taste among the
five was “sweet,” accounting for 56.6%. By channel tropism, spleen and stomach, and lung and large intestine, which are both in
front-back relationship, accounted for large percentages of 41.9% and 29.8%, respectively.
By five natures, “body-warming,” “body-cooling” and “neutral” each accounted for approximately 30% of the food stuff of
Chinese medical diet with beauty effect, emphasizing the importance of adjusting to seasonal changes. The liver, accounting for
the highest percentage among the channel tropism, controls blood flow, and the lung, also accounting for a high percentage, is
maintained through the constipation-improving effect in the large intestine. Thus, these zang fu may be associated with the condition of skin and hair: if they are normal, skin is kept shiny. Among the foodstuff of Chinese medical diet with Run Chang Tong
Bian effect, the “cold/cool” items were the most common, suggesting the close relationship of the effect with dryness-induced
changzao(dry intestine). It is considered that sustained daily consumption of such foodstuff of Chinese medical diet contributes
to making the skin beautiful.
- 29 -
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
中医学における美容に寄与する薬膳食材の分類
1
2
陳膳盈 ・大仁田あずさ ・徳井教孝
3 ,4
1. 中村学園大学大学院
栄養科学研究科
2. 中村学園大学大学院
人間発達学研究科
3. 中村学園大学
薬膳科学研究科
4. 産業医科大学
産業生態科学研究所
5. 中村学園大学
薬膳科学研究科
・三成由美
1 ,5
栄養疫学部門
健康予防食科学研究室
開発・教育部門
(2012年3月31日受理)
キーワード
中医学、美容、薬膳、排便、体質
要
て摂取することで肌を美しくする効果が期待できると考
旨
えられる。
緒
美容に寄与する日本型薬膳を簡便に提供するために、
中医学の基礎理論を基本として、美容・美肌と関わりの
言
ある薬膳食材と潤腸通便作用のある食材つまり便秘改善
現在、ライフスタイルや家族のあり方の多様化にとも
に寄与す薬膳食材について整理したので報告する。薬膳
ない、食生活を取り巻く社会環境は変化し、内食、中食、
食材の分類は、中医学の基礎理論を基本にして、上海科
外食、加工食品、栄養機能食品、特定保健用食品、サプ
学技術出版社、「中薬大辞典」使用し、帰経で肝・心・
リメントなどを利用し、個々人の食行動も多様化してい
脾・肺・腎より皮膚、毛髪、月経、便秘と関わりのある
る1 2 )。
.
薬膳食材を選択した。分類は、臨床症状反応による五性
この背景として、生活習慣病の増加、超高齢社会の突
の温・熱・涼・寒・平と五味の甘・酸・苦・辛・咸と人
入、医療の自己負担増に伴い予防意識が高くなったこと
体のどこの臓腑に薬効があるのかを示す帰経の肝・心・
が考えられる3 )。健康食品の市場は、2004年に1兆2300
脾・肺・腎・胆・小腸・大腸・胃・膀胱を行った。
億円となり、食品の全般において伸び悩みが報告されて
その結果、美容に関わりのある薬膳食材は245品で
いる中で、健康食品は前年比12% と伸長率が維持されて
あ っ た。 五 性 で は 平 が29.0 %、 体 を 温 め る 温・ 熱 が
いる4 )。このように健康食品、機能性食品の市場は、食
32.2%、冷やす寒・涼が38.8%であった。五味では甘味が
品業界のみでなく、製薬、化粧品、その他の産業界から
56.7%と高い数値を示し、帰経では高い数値を示した肝
の参入も続き、健康ニーズが高まっている。
が20.4%、脾が19.2%、肺が18.6%であった。次に潤腸通
健康食品の定義については、法的に定めてられてはお
便作用のある薬膳食材は116品であった。五性では体を
らず、厚生労働省では保健機能食品制度で「栄養機能食
冷やす寒・涼が42.4%と高い数値を占め、五味のトップ
品」、「特定保健用食品」そして「その他の健康食品」と
では甘味が56.6%を占め、帰経では表裏関係の脾と胃が
分類されている5 )。しかし、この制度では市場の構成要
41.9%、肺と大腸が29.8%と高い数値であった。中医学の
素から見て無理があり、厚生労働省は健康食品の法制化
美容薬膳食材は五臓の肝、心、脾、肺、腎に入る食材を
について検討がなされ、新たなステージを迎えようとし
バランスよく摂取することで肌を美しく保つことでき
ている。特に、市場で流通される食品を用途別、組成別
る。
に分類をすると、栄養補助食品、生活習慣病対策食品、
以上の結果より、美容薬膳食材は五性で体を温める、
ダイエット・美容食品の3つに大別される。その中で、
冷やす、平が各約30%を占め、季節の変化に順応するこ
ダイエット・美容食品は健康というより美容・痩身など
とが重要だと考えられた。帰経で高い数値を占めた肝は
の目的が重要な位置を占めている。龍らの報告 6 )による
血流量を調整し、肺は大腸の通暢作用によって維持さ
と、青年期と中高年期の女性で外食産業において関心の
れ、肌・毛髪に関わりがあり、正常であれば、皮膚は光
あるメニューのベスト3は肥満予防、栄養のバランス、
沢を保つと考えられている。潤腸通便薬膳食材は五性で
美容・美肌などであった。
寒・涼性の食材が多く、乾燥しておこる腸燥と関わりが
美肌、皮膚のトラブルは、女性のみでなく男性におい
深いと考えられる。これらの薬膳食材を毎日継続持続し
ても、食や生活のリズムの乱れ、運動不足、ストレスの
- 30 -
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
増加などが原因で増加している7 )。現在、各化粧品メー
2. 中医学における美容について
カーの研究開発部門においては、潤い肌を保つための化
(1)美容薬膳食材の分類基準
粧品の開発がなされ、外側的美容法で肌を美しくメーク
美容薬膳食材分類基準は中医学の基礎理論を基本に作
する情報のみでなく、体の中から肌の改善を目指してい
成した。使用した文献は1)上海科学技術出版社「中医基
る。肌の改善には、機能性食品であるコラーゲン、セラ
礎理論」1990年、2)東洋学術出版社「中医学の基礎」
ミド、アミノ酸、イソフラボン、アスタキサンチン8 -12)
1995年、3)建帛社「薬膳と中医学」2003年である。
(2)美容薬膳食材の分類
などが肌状態の改善効果が期待できると報告されてい
中医学における美容薬膳食材を抜粋して整理した。美
る。
一方、中国には、
「薬食同源」の思想を活用した中医学
容薬膳食材の分類については「中薬大辞典」21.22)を使用
を基本とした薬膳の考えがあり、食の分野でも個人の体
した。分類方法は中医学の基礎理論を基本として、帰経
質を重視したテーラーメード栄養学が期待されている。
で肝・心・脾・肺・腎より皮膚、毛髪、月経、便秘と関
しかしながら、中医学を基本とした美容薬膳に関する報
わりのある薬膳食材を選択した。
告は数少ない。
薬膳食材については臨床症状反応による五性の温・
中医学では「皮膚は他の臓器と密接な関連がある」と
熱・涼・寒・平、五味の甘・酸・苦・辛・咸、そして人
考えられ13)、『黄帝内経』にも「凡治病必察其下、適其
体のどこの臓腑に薬効があるのかを示した帰経の肝・
脈、観其志意与其病也」と記載され、人体の排便、排尿
心・脾・肺・腎・胆・小腸・大腸・胃・膀胱で整理し
の障害は病気の1つの原因であり14)、美容・美肌ともに
た。
(3)中医学における美容薬膳食材の各栄養素
関連があると考えられている。伊澤らは、ヨーグルトや
美容薬膳食材について美容・美肌を関わりがあると報
乳酸菌飲料などのプロバイオティクスが排便状態を改善
して、腸内フローラを整え、肌状態の改善に影響を及ぼ
告されている必須アミノ酸、ビタミン B2、B6、C、E に
す可能性があると報告されている15)。
ついて「五訂増補食品成分表2010」23)100g に含有されて
本研究は、美容に寄与する日本型薬膳を簡便に作れて
いる量を算出した。
提供することを目的に、中医学の基礎理論を基本とした
薬膳の考えより、美容・美肌と関わりのある薬膳食材や
3. 中医学における潤腸通便について
(1)潤腸通便の薬膳食材の分類基準
潤腸通便作用つまり便秘改善に寄与す薬膳食材について
整理したので報告する。
潤腸通便薬膳食材分類基準は中医学の基礎理論を基本
本研究で整理された美容・美肌に寄与する薬膳食材と
に作成した。文献は1)上海科学技術出版社「中医基礎理
潤腸通便作用のある薬膳食材は簡便に日常の調理品に添
論」1990年、2)東洋学術出版社「中医学の基礎」1995
加することができ、これらの薬膳食材を毎日継続持続し
年、3)建帛社「薬膳と中医学」2003年を使用した。
(2)潤腸通便の薬膳食材の分類
て摂取することで肌を美しくする効果が期待できると考
えられる。
潤腸通便の薬膳食材の分類については「中薬大辞
21. 22)
典」
研究方法
を使用した。分類方法は中医学の基礎理論を基
本として便秘の便閉、大便秘結、腸燥便秘、大便燥結、
関格、大小不通、大小便不利に効果の期待できる薬膳食
1. 中医学と薬膳について
材を選んだ。また薬膳食材については臨床症状反応によ
中国において長期間積み重ねられてまた実践経験を基
る五性の温・熱・涼・寒・平、五味の甘・酸・苦・辛・
にした中医学の基本理論より薬膳について整理するため
咸、そして人体のどこの臓腑に薬効があるのかを示す帰
に以下の文献を使用した。1)東洋学術出版社「中医学の
経の肝・心・脾・肺・腎・胆・小腸・大腸・胃・膀胱で
基礎」1995年13)、2)上海科学技術出版社「中医基礎理
整理した。
16)
(3)中医学における美容薬膳食材の食物繊維
17)
論」1990年 、3)建帛社、「薬膳と中医学」、2003年 、
4)南江堂出版社、「中医学
潤腸通便について含有する栄養素として食物繊維であ
医・薬学で漢方を学ぶ人の
18)
ために」、2005年 、5)人民衛生出版社、
「中国薬膳学」、
ると報告されている。そこで潤腸通便のある食材につい
1985年19)、6)四川科学技術出版社、「中国薬膳大全」、
て「五訂増補食品成分表2010」100g に含有されている量
1986年
20)
を使用した。
を算出した。
- 31 -
薬膳科学研究所研究紀要
結
第5号
応用し、一定の臓腑に作用し、気血を調和し、陰陽を平
果
衡し、疾病の予防や健康延年を目的とする」と記載され
ている。
1. 中医学の特徴
(2)薬膳の歴史
(1)中医学における陰陽五行学説
陰陽学説とは古代中国人が、長時間にわたって自然現
ご かん じょ
れつ じょ でん
しん ちょう やく
ぜん
三成らは二千年前の『後漢書、列女傳』に「親 調 薬
膳」と薬膳が記載されていることを見出したが17)、訳は
象を観察し、陰陽という概念を考え出した。陰陽学説は、
「薬」と「膳」が独立したもので、子供が病気になった時
自然界の物質は陰陽両気で構成され、自然界そのもの
に、母親が自ら薬を煎じて、膳つまり料理を作ったとい
が、この二つの気の対立や統一の結果であり、陰陽は動
う内容であった。1980年代に、
「薬膳」という言葉が成都
きによって発生、発展、変化していくと考えられている。
同仁堂に使われ、その後薬膳については、『中国薬膳
「陽」の基本的性質は、活動的、上昇、温熱、明るい、機
能的、機能亢進などで表される。「陰」の基本的性質は、
学』19)、
『中国薬膳大全』20)、
『中国民族薬膳食大全』24)が出
版されて現在に至っている。
消極的、下降、寒冷、暗い、物質的、機能減退などで挙
げられる。
上古時代の人類は生きるために自然産物の中から食物
を求め、その中から薬効のあるもの、中毒を起こすもの、
五行学説とは
古代の人々が自然界におこる現象よ
死亡に至るものと食材を弁別できる能力を備えていた。
り、人類の生存に欠かせない五つの物質を認識した。全
最初は口伝えで、紀元前千余年前より、文字として記録
部の物質は木、火、土、金、水、この五つの循環を五行
されるようになった。薬膳つまり飲食療法の歴史につい
というシンボルの方法で分類した。五行という木、火、
ては徳井らの『薬膳と中医学』17)を参考にして簡単に整
土、金、水には「相生」と「相克」の関係があり、自然
理した。
しゅう らい
てん かん
西周時代 『周礼・天官』19)という宮廷の医療制度に、
界のすべての事物における運動と変化の法則である。五
行により、自然界の生態バランスと人体の生理的バラン
食医(栄養医)、疾医(内科)、痬医(外科、獣医の四科
スが維持することができる。中医学では人体の生理、病
があり、特に皇帝の飲食を調理する食医が重要視されて
理または環境との相互関係についての理論についても論
いた。
理的根拠になっている。つまり、五行の木は「肝」、火は
「心」、脾は「土」、肺は「金」、腎は「水」となっている。
(2)中医学における人体観
春秋戦国
そ もん
こうていだいけい
食療理論に関する医書『黄帝内経』が完成
れいすう
した。「素問」と「霊枢」の二冊から構成され最古の医書
である14)。穀、畜、菜、果をバランスよく摂取すること
中医学における体の構成物質は人体の正常な生理機能
が健康保持、増進に役立つとある。
を保ち、生命活動を維持するための基本的な物質とし
後漢時代
じんのうほんぞうきょう
最古の薬学の専門著書は、
『神農本草経』で
て、気、血、津液がある。これらが正常な状態にある時、
ある26)。上薬、中薬、下薬を合わせると365種類の薬物が
臓腑や経路は正常に発揮することができる。その機能の
記載され、上薬は120種類で、無毒で長期間食べても副作
バランスを調整する手段の一つに薬膳がある。
用はなく、生命を養い、不老長寿に寄与するものである。
臓腑とは
中医学における人体の内臓を臓と腑に分け
中薬は120種類あり、用い方によって有害になるものも
ている。五臓は肝・心・脾・肺・腎を総称する。六腑は、
含まれている。下薬は120種類あり、毒性を有するものが
胆・胃・大腸・小腸・膀胱・三焦である。また、人体に
多く、日常の食事に用いられないものである。
は精神感情の喜・怒・憂・思・悲・恐・驚、これらの七
情があり、疾病と関わりが深いとされている。
唐代
ほう
そん し ばく
び きょうせんきんよう
孫思邈は百歳まで生きた名医で、『備 急 千金要
方』を著した。序論の中で、
「食事療法の良否を知らなく
経絡とは、気血と津液の主な通路である。臓腑、器官、
ては、生命の長きことを願う資格がない」と説いてい
孔竅、皮毛、筋肉、骨格などは経絡の連結によって統合
る27)。また五味と体との関係、五味と五臓との関係につ
され、また体のバランスをとって機能している。
いては記している。その後、弟子孟詵は栄養的な価値と
もんせん
ほ ようほう
治療作用のある食物を214種収集し、
『補養方』を編集し、
ちょうていじん
2. 中医学を基本した薬膳
しょくりょうほんぞう
張 鼎人が増補、改訂、整理して『食 療 本草』を完成し
(1)薬膳学とは
た。
薬膳学とは、中国薬膳大辞典25)によると、「中医学の
南唐時代
ちん し ろん
しょくせいほんぞう
陳士良の『食性本草』は食物の性味、効能、
基礎理論の指導下で、中薬と食物を配合し、伝統的飲食
使い方、用量などを整理して、食療・食療中薬の治療方
調理技術と現代的加工方法を用い、色・香・味・形の全
法を発展させた28)。
てによく、保健と治療に効果のある食療食品、料理の総
称と記載されている。その目的は、食物の性質と成分を
宋朝時代
おうかいいん
たいへいせいけいほう
王懐隱の書いた『太平聖恵方』は食療方法
ちんちょく
ようろうほうしんしょ
であり、粥料理が記載されている。陳直の『養老奉親書』
- 32 -
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
は最古の高齢者の治療専門書である28)。
こつ し けい
宋元時代
果がある。例えば:生姜、葱、唐辛子。そして、比較的
いんぜんせいよう
怱思慧の『飲膳正要』は日常の食物の中に、
穏やかなもの「平」性という。
疾病治療の方法を追究し、食物の合理的な配合も紹介し
②食材五味:五味とは、酸味(すっぱい)、苦味(にが
た書物である29)。
い)、甘味(あまい)、辛味(からい)、咸(鹹)味(しお
り
じ ちん
ほんぞうこうもく
李時珍の著した『本草綱目』は明以前の薬食
からい)の5種類のことで、その他淡味と澀(渋)味が
経験を総括した書物である。病気の予防や治療効果があ
ある。味覚のみでなく、臨床の症状反応によって分類さ
る薬用食物1892種が記載され、薬粥や薬酒も紹介されて
れている17)。
明時代
いる30)。
しょくもつほんぞうかいさん
しん り りゅう
酸:収斂、固渋と生津の作用がある。体を引き締め、
ずいそくきょいんしょく ぶ
清代 『食物本草会纂』は沈李龍、
『随息居飲 食 譜』は
おう もん えい
ずい えん しょく たん
えん まい
王 孟 英、『随 園 食 単 』は袁 枚 により書かれた書物であ
出すぎるものを収め、渋らせてくれる。例えば:烏梅、
山楂(サンザシ)、五味子などがある。
る28)。現在、読まれている調理書はこの時代に書かれた
苦:泄(清泄・降泄・通泄)や燥湿作用。また、瀉火
と瀉下の作用。人体が「実」の状態のとき、余分なもの
ものである。
(3)中医学と薬膳
を取り除く作用。例えば:杏仁(アーモンド)、苦瓜、何
中医学における人体とは、臓腑・経絡・気・血・津液
首烏などがある。
などの構成要素がお互いに生理的に連絡をとり、病理的
甘:補益和中、緩和作用、滋養、強壮がある。薬性を
に影響し合う有機的な統一体だといわれている。薬膳
中和したり、調和したりする作用をする。例えば:蜂蜜、
は、中医学の理論に基づいて生まれた食文化であり、バ
大棗(ナツメ)、黒脂麻(黒ゴマ)などがある。
ランスを整えるために、個人の体質や体調、季節などを
辛:発散、行気、活血作用。発汗、一般的には外感表
考慮し、食物の特性を生かし組み合わせを考慮して調整
証(感冒など)、血行促進、体内のものを発散させ、気や
された伝統的な食事である17.19.20)。
血のめぐりをよくする。例えば:生姜、葱、紫蘇葉など
ち
み
薬膳には、日常の食事で疾病を予防する食事「治 未
びょう
べんしょう せ
ち
がある。
病」、弁証して疾病の治療のための食事「弁 証 施治」、本
咸:軟堅、散結、瀉下などの作用。固くなっているも
草学の発展とともに民間に取り入れられ、養生のために
のをやわらかくして下す作用がある。例えば:昆布、蛤、
各家庭に普及した食事「補益腎精」の3種類がある。薬
海参(ナマコ)などがある。
ほ えきじんせい
膳は摂取する人の体の状態をよく知り、効果的な食材の
その他:淡味と澀味がある。淡味は利尿の作用であ
組み合わせを理解することが重要であり、食材と人の関
り、澀(渋)味は酸味と同じ作用がある。これらの食材
係は中医学の真髄である。
は性質が弱く、食材も少ないので、一般にこれらを除い
1)薬膳の食材
た5種類を五味と称している。
薬膳に使われる食材は2種類がある。一般の食材で、
③帰経:中医学では、人体の幹線を直行する脈を経絡と
日常的な食生活に取り入れて、健康増進の効果が期待で
呼び、経脈と絡脈の二つがある。食材や薬物は、体内に
きるもの。また、中国衛生部が食療中薬と認めている食
取り入れた後、これらの経絡に入って運ばれ、五臓六腑
材、中薬として中医学で用いられる薬物の総称に比べ著
の各部分で効果を発揮すると考えられている17)。薬膳の
しく薬性はなく、色、味、香りがあり、調理によってお
食材が、人体のどこに薬効があるのかを示した帰経であ
いしく食べることができ、充餓の時に、正しい方法で食
る。なお、人体の内と外、表と裏は、経絡で通じている
べれば治療効果が望め、副作用も少ないといわれる食材
ため、内臓に何か疾患があると体表に反応が現れる。
である
17. 19. 20)
。
3. 中医学の基礎理論における美容薬膳
2)薬膳の性能
(1)中医学における美容薬膳とは
①食材五性:五性とは、中医学で食べ物の作用を表す。
五性は、薬膳の食材を体に取り入れることで現れる反応
劉らによると、中医美容学とは、中医の伝統的な美学
や症状によって「涼、寒、温、熱」と、それに比較的な
および中医学基礎理論に基づいて、現在の美学を取り入
穏やかな「平」に分類される7 )。
れ、自然療法を中心にし、健康的な美肌、スタイルのコ
涼・寒性の食材には、清熱、解毒、瀉火つまり人体の
ントロール、美容に影響する病気の予防と治療、また美
あり余ったものを取り除く作用がある。例えば:西瓜、
容に影響する生理上の欠点の整形を研究し、疾病予防、
梨、苦瓜である。
健康維持、老化防止、美容、スタイルのコントロール、
温・熱性の食材には、温中、補陽つまり人体の生理機
能や不足を補うなど、散寒の作用がある。食物は体を温
心理的な健康を目的とする科学であると定義されてい
る31)。
め、精力をつけ、脾臓と胃丈夫にし、滋養分を補う等効
- 33 -
薬膳科学研究所研究紀要
表1
第5号
中医学における美容と五行学説
五腑
顔・
五竅 五華 五味
(表裏関係)
肌色
肌・毛髪
正常状態
肌・毛髪
異常状態
五臓
生理機能
肝
疏泄をを司る.血を蔵
し.筋を司る
胆
目
爪
酸
青 紅潤でつやがある
心
心は血脈を司る.神志
を司る
小腸
舌
顔面
苦
赤
顔面の血色がよい.
顔面の色沢がよい.
血虚の場合は顔面
が青白く艶がなくな
る.血瘀は青紫色に
なることが多い.
運化を司る.血を制御
し.筋肉と四肢を司る.
脾
消化・吸収と水の代
謝を調節
胃
口
唇
甘
口唇の色沢が赤く
黄 潤っていると血色が
よい
顔面が萎黄.蒼白で
つやがない.
気、呼吸を司る.宣発
肺 粛降を司る.全身、皮
毛が潤う
大腸
鼻
皮毛
辛
皮膚はしっかり
白 して光沢をもってお
る
肌、毛髪が荒れてカ
サカサになる.乾燥.
精を蔵し.発育と生殖
腎 を司る.水の代謝が順
調
膀胱
耳
髪
咸
毛髪に艶がある.
黒 黒髪.皮膚は弾力が
ある.
白髪や抜け毛.
シミ.シワ.
(2)中医学における美容と五行学説
表2
中医学における美容と五行学説では、五臓、生理機能、
美容薬膳食材の分類基準
中医学で、「皮膚は内臓の状態を映す鏡」といわれ、五臓の肝、
心、脾、肺、腎を健やかにし、それぞれの生理機能をバランスよく
保つこととある。
表裏関係、五竅、五華、五味、顔・肌色、肌・毛髪正常
状態、肌・毛髪異常状態について表1に示した13.17)。
①「肝と木行」
:肝は人体の機能の調節を行い、疏泄を
行い、滯りなく物
目の周囲が黒い.
乾燥.
肝:血の運行と関係があり、手足や皮膚の栄養に関わる。
質(気、血、津液)流通させる
ので、のびやかな特性を有する木に属す。肌・毛髪
心:全身の血脈の機能を帰属し、顔の色彩や光沢に関わる。
正常状態により紅潤でつやがある。肌・毛髪異常状
脾:気血生化の源であり、全身の肌肉の壮健に関わる。
により目の周囲が黒く乾燥している。
肺:衛気を皮毛に輸送する機能があり、皮膚の光沢に関わる。
②「心と火行」
:心は温煦作用があり、火と同様の陽特
腎:女性ホルモン、白髪や抜け毛のつやの消失に関わる。
性があるため、火に属している。肌・毛髪正常状態
により顔面の血色と顔面の色沢がよい。肌・毛髪異
(3)美容薬膳食材の分類基準
常状により血虚の顔面が青白く艶がない、血瘀は青
美容薬膳食材の分類基準について表2に示した。
紫色になることが多い。
中医学では、「皮膚は内臓の状態を映す鏡」といわれ、
③「脾と土行」
:脾は食物から気や血を化生(変化させ
て生み出す)する源であり、土も万物を生化すると
五臓の肝・心・脾・肺・腎・を健やかにし、それぞれの
いう特性があるので、土に属している。肌・毛髪正
整理機能をバランスよく保つこととある17)。
常状態により口唇の色沢が赤く潤っていると血色が
①帰経で肝に入る食材:「肝」は血の運行と関係があ
よい。肌・毛髪異常状により顔面が萎黄・蒼白でつ
る。血行障害が起きると瘀血を生じ、手足や皮膚ま
やがない。
で栄養が行き渡らない。とくに女性では、生理不順
④「肺と金行」
:肺の働きは、津液を全身に行き渡らせ
や月経痛、閉経が現れやすくなる。
て降す作用がある。土の中における金の静肅・清
②帰経で心に入る食材:「心」は全身の血脈の機能が
潔・下降る・収斂作用と同一であるため、金に属し
帰属している。その状態は、色彩や光沢となって顔
ている。肌・毛髪正常状態により皮膚はしっかりし
て光沢をもっている。肌・毛髪異常状により肌と毛
髪が荒れてカサカサになり、乾燥している。
に表れるといわれる。
③帰経で脾に入る食材:「脾胃」は「気血生けの源であ
る」といわれる。全身の肌肉が壮健であるためには、
⑤「腎と水行」
:腎は水を司り、精を蔵するという機能
があり、低いところに流れる水の特性であるため、
水に属している。肌・毛髪正常状態では毛髪に艶が
脾胃の機能が正常に働き体に充分な栄養が行き渡っ
ていなければならない。
④帰経で肺に入る食材:「肺」は気を司り、衛気を皮毛
あり、皮膚は弾力がある。一方、肌・毛髪異常では、
に輸送する働きをする。正常であれば、皮膚はしっ
白髪、抜け毛、シミやシワなどの症状がある。
かりとして光沢を保つ。
- 34 -
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
1)美容に関する薬膳食材の五性の分類
美容に関する薬膳食材の五性で分類した結果を図1に
示した。
薬膳食材の五性では平性が29.0%を占め、次に涼性が
19.2%、同様な性質の少し強い寒性が19.6%を合計する
と38.8%であった。一方、温性が31.0%、同様な性質の少
し強い熱性が1.2%、合計すると32.2%であった。
五性別に分類した薬膳食材について表3に示した。
食材で平性は71品を占め、木耳、蓮子、枸杞子、黒脂
図1
麻(黒ゴマ)、蜂蜜などである。涼性は47品で大麦、冬
五性別の美容薬膳食材の分類
瓜、檸檬(レモン)、蕎麦、麻油(ゴマ油)などである。
寒性は48品で甘蔗(サトウキビ)、香蕉(バナナ)、海藻
⑤帰経で腎に入る食材:「腎」は精気を貯蔵している。
(海草)、蛤蜊(ハマグリ)、苦丁茶などである。温性は76
精気と血は互いに養い合う関係にあるため、精気が
品で大棗(ナツメ)、大蒜、生姜、葱白、酒醸(アマザ
多ければ血も多いということになる。また、腎の働
ケ)などである。熱性は3品で乾姜、山羊血、豆油であ
きが弱くなると、老化が進み、女性ホルモンが減少
る。
2)美容に関する薬膳食材の五味の分類
するため、白髪や抜け毛、つやの消失など、髪の毛
美容に関する薬膳食材の五味で分類した結果を図2に
にトラブルが表れる。
(4)美容薬膳の食材分類
示した。
美容薬膳の食材分類に使用した『中薬大辞典』21.22)に
は、中薬が5767品収録され、植物薬が4773品、動物薬が
甘 味 が56.7 % を 占 め、 次 に 苦 味 が18.0 %、 辛 味 が
15.1%、咸味が7.8%、そして酸味が2.4%であった。
740品、鉱物薬が82品、そして残りの172品は加工製造品
五味別に分類した薬膳食材について表4に示した。
であった。
薬膳食材で甘味は139品で烏骨鶏、菠菜(ほうれん草)、
番薯(サツマイモ)、蜂蜜、酒醸などである。辛味は37品
表3-1
五性別の美容薬膳食材の分類
- 35 -
薬膳科学研究所研究紀要
表3-2
第5号
五性別の美容薬膳食材の分類
であり、脾の表裏関係にある胃は16.6%と高い数値を示
した。次に肺が18.6%であり、肺の表裏関係にある大腸
が6.5%を占めていた。次に腎が8.5%であり、腎と表裏関
係にある膀胱1.6%と示していた。心が7.4%であり、心の
表裏関係にある小腸1.3%と示していた。
帰経別に分類した薬膳食材について表5に示した。
全体的な食材で肝は91品で酒、糸瓜(ヘチマ)、苦丁
茶、荔枝(ライシ)、菊花(キク)などである。胆は0品
である。心は33品で牛乳、百合、赤小豆(アズキ)、蓮
子、緑豆などである。小腸は6品で白鵝膏、莧、赤小豆、
図2
萵苣、菠菜などである。脾は86品で大棗、香蕉、姜黄、
五味別の美容薬膳食材の分類
黒大豆(クロマメ)、蜂蜜などである。胃は74品で乾姜、
で生姜、花椒、韭菜(ニラ)、紫蘇葉(シソ)、茼蒿(シュ
木耳、大蒜、蚕豆(ソラマメ)、甘蔗などである。肺は86
ンギク)などである。苦味は44品で杏仁(アーモンド)、
品で牛乳、酒醸、菊花、梨、蜂蜜などである。大腸は29
蘆薈(アロエ)、萵苣(レタス)、普洱茶(プーアル茶)、
品で田螺(タニシ)、芋頭(サトイモ)、冬瓜(トウガン)、
蘆筍(アスパラ)などである。酸味は6品で木瓜(パパ
米皮糠(ヌカ)、黄大豆(ダイズ)などである。腎は38品
イア)、烏梅(ウメ)、檸檬、山楂(サンザシ)、醋などで
で決明子、何首烏、胡桃仁(クルミ)、黒大豆、黒脂麻な
ある。咸味は19品で烏賊魚肉(イカ)、海参(ナマコ)、
どである。膀胱は7品で田螺、茯苓皮、桂枝、鴨頭、薏
海帯(コンブ)、海蜇(クラゲ)、蛤蜊(ハマグリ)など
苡根などである。
4)中医学における美容薬膳食材の各栄養素
である。
3)美容に関する薬膳食材の帰経の分類
薬膳を簡便に作るために、中医学の権威がある「中医
美容に関する薬膳食材の帰経で分類した結果を図3に
示した。
学大辞典」21.22)により、基準を作成して美容薬膳食材を
整理した。美容薬膳食材は245品であった。特に、美容・
肝が20.4%と高い数値を占めていた。次に脾が19.2%
美肌に必須アミノ酸を含む蛋白質はコラーゲン合成にお
- 36 -
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
表4-1
五味別の美容薬膳食材の分類
表4-2
五味別の美容薬膳食材の分類
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薬膳科学研究所研究紀要
第5号
多く含有されていた。亜鉛は皮膚の再生に重要であ
り32)、鉄は抗酸化システムに大事な役割を指し、紫外線
による障害を防御すると報告されている32)。美容薬膳食
材のミネラルの含有量を表7-2に示した。亜鉛の含有量
の高いベスト3は牡蠣肉(13.2mg/100g)、猪肝(6.9mg/
100g)、牛肉(5.8mg/100g)に含有されていた。鉄の含
有 量 の 高 い ベ ス ト 3 は 紫 菜(78.8mg/100g)、 黒 脂 麻
(9.6mg/100g)、黄大豆(8.9mg/100g)であった。美容薬
膳食材には、アミン酸、ビタミン類、ミネラルなどを含
図3
帰経別の美容薬膳食材の分類
有されていることが示唆された。
中医学における五臓と美容に寄与する食材を以下に示
10)
いて必要不可欠である 。薬膳食材のアミノ酸組成につ
した。美しい肌を保つためには、高価な栄養クリームを
いて表6に示した。含有量の高いベスト5は黄大豆、落
外側からたくさん塗っても効き目はない。まずは五臓の
花生、紫菜、緑豆、鶏肉である。美容薬膳食材ではアミ
肝、心、脾、肺、腎を健やかにして、それぞれの生理機
ノ酸含有量が高いことが示唆された。
能をバランスよく保つこと。体の内側から健康になるこ
ビタミン類は皮膚の栄養素に重要であり、皮膚の陳新
とが大切である。
代謝の亢進にはビタミン B2、B6、C、A、E は必要であ
る。美容薬膳食材の含有ビタミン類などを表7-1に示し
①‌肝経に入る食材は
血液の循環を改善し、機能を高
める食材が適している。木耳(黒キクラゲ)、銀耳
(白キクラゲ)、枸杞子(クコの実)、大棗(ナツメ)
た。
ビタミン C は含有量が高いベスト3は紫菜(40mg/
100g)、菠菜(35mg/100g)、葱菜(40mg/100g)であっ
た。美容薬膳食材はその他、ビタミン B2、B6、A、E も
表5-1
など。また、ニカウ質の多い阿膠(あきゅう)は肌
荒れに効果的である。
②‌心経に入る食材は
帰経別の美容薬膳食材の分類
- 38 -
精神を休めて血を補い、体の活
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
表5-2
帰経別の美容薬膳食材の分類
表5-3
帰経別の美容薬膳食材の分類
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薬膳科学研究所研究紀要
表6
第5号
美容薬膳食材のアミノ酸組成(食品可食部 mg/100g当たり)
表7-1
美容薬膳食材のビタミン含有量
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Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
力を高める食材が効果的である。龍眼肉(りゅうが
りやすい大棗(ナツメ)、龍眼肉(りゅうがん)が効
ん)や茘枝(ライチ)、また前回ご紹介した菊花茶も
果的であり、特に生でも消化吸収がよく、滋養強壮
にも効き目がある山薬(サンヤク)はお薦めである。
効き目がある。
③‌胃経に入る食材は脾胃の働きが弱い人は、食物を摂
④‌肺経に入る食材は皮膚のかさつきや毛髪のぱさつき
取しても、栄養素の吸収がよくない。脾・胃経に入
が生じやすくなる。肺経に入る胡桃(クルミ)や田
鰻(ウナギ)、とくに秋の果物である梨やブドウ、ミ
表7-2
美容薬膳食材のミネラル含有量
カン、柿は、水分が多く、ビタミン C も多く含まれ
ている。またハチミツを加えると、肺に潤い増す。
⑤‌腎経に入る食材は腎の活性化には、老化を予防する
食品がそのまま当たてはまります。胡桃仁(クル
ミ)、黒胡麻、燕窩(ツバメの巣)、海参(ナマコ)、
枸杞子(クコの実)、山薬(サンヤク)など。このほ
図4
表8
五性別の潤腸通便薬膳食材の分類
五性別の潤腸通便薬膳食材の分類
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薬膳科学研究所研究紀要
第5号
かに、中国では、美容に効果があるものとして、さ
の通暢作用によって維持されている。したがって、肺の
るのこしかけや珍珠(真珠粉)が挙げられる。また、
粛降作用が失調し、水液が下焦(糟粕と尿の排出の機能
これまで紹介してきた便秘改善や水分代謝、脂肪代
を有している)まで到達しなくなると、大腸は潤いを
謝に効果的な食材も、そのまま当てはまる。
失って排便困難となる13.16.17)。
(4)潤腸通便作用のある薬膳食材の分類
4. 中医学における美容薬膳と潤腸通便
潤腸通便作用のある薬膳食材の分類に使用した『中薬
(1)中医学で潤腸通便とは
大辞典』21.22)には潤腸通便作用と関わりのある薬膳食材
中医学で潤腸通便とは、中医学の古典に“後不利”
、
が116品記載されていた。
1)潤腸通便作用に関する薬膳食材の五性の分類
“大便難”
、
“陰結”
、
“陽結”などの病名記載があり、その
他:大便秘、大便燥結、腸結でもある。便秘は中医臨床
潤腸通便作用に関する薬膳食材の五性で分類した結果
で一つの病名でもある。大腸機能の失調により、①大便
を図4に示した。平性は33.9%、温性が22.0%、同様な性
不通、排便間隔時間延長である。②便間隔時間正常で、
質の少し強い熱性が1.7%、合計すると23.7%であった。
大便乾結、排出困難がある。③排便意があり、軟便で、
一方、寒性は26.3%、同様な性質の弱い涼性の16.1%を合
排出困難である。
計すると42.4%であった。
(2)中医学における潤腸通便の分類
五性別に分類した薬膳食材について表8に示した。全
21. 22)
中医学における潤腸通便の分類は「中薬大辞典」
体的な食材で平性は40品で黄大豆、猪肉(ブタニク)、豆
を使用した。分類方法は中医学の基礎理論を基にして、
腐、蜂蜜、落花生などである。涼性は19品で小麦、菠菜、
潤腸通便5つ分類した。
麻油、薏苡仁、梨などである。寒性は31品で甘蔗、藕、
1)‌便秘:①便閉:便が詰まり排泄されない。②大便秘
香蕉、乳腐、無花果などである。温性は26品で海参、韭
結:津液(水液)を損傷し大腸の潤いが不足したた
菜、赤沙糖、大蒜、桃子(モモ)などである。熱性は2
めに起こる。③大腸閉結:大便が出ないこと。
品で豆油、辣椒(トウカラシ)である。
2)潤腸通便作用に関する薬膳食材の五味の分類
:主に脱水にともなう便秘であ
2)‌腸燥便秘(大便燥結)
潤腸通便作用に関する薬膳食材の五味で分類した結果
る。病邪が熱と化した後、邪熱が胃腸に溜まり、胃
を図5に示した。五味では甘味が56.6%を占め、有意に
腸の津液が破られる。
3)‌風秘:風邪により大便の秘結するものをいう。風邪
が肺臓を犯し、表裏関係にある大腸に伝わり、津液
高 い 割 合 を 占 め て い た。 次 に 苦 味 が17.1 %、 辛 味 が
15.8%、酸味が5.9%、そして咸味が4.6%であった。
が乾燥することによりおこる。その症状は大便が乾
五味別に分類した薬膳食材について表9に示した。全
燥して、排便するのが困難である。多くは老人や虚
体的な食材で甘味は86品で黄大豆、牛乳、黒脂麻、黒大
弱なもの、あるいはもとから風病を患っているもの
豆、蜂蜜などである。辛味は24品で韭菜、紫蘇葉、大蒜、
にみられる。
茼蒿、辣椒などである。苦味は26品で何首烏、杏仁、決
4)‌大腸虚秘:病後、または産後に気血が回復しないと
明子、茶葉、薏苡根などである。酸味は9品で烏梅、山
気虚のために伝導無力となり、また血虚のために腸
楂、赤小豆、桃子、酪(ヨーグルト)などである。咸味
が潤いを失い便秘が起こる。
は7品で海参、海蜇、食塩、大麦、猪肉などである。
5)‌関格:①大小便不通:排便・排尿が排泄されない。
②大小便不利:排便・排尿の排泄はあるが順調では
3)潤腸通便作用に関する薬膳食材の帰経の分類
潤腸通便作用に関する薬膳食材の帰経で分類した結果
33)
ない 。
(3)中医学で潤腸通便と美容
中医学の基礎理論では、肺は気を司り、呼吸を司る。
肺は水道を通調し、皮毛をつかさどる。具体的にいえば、
「宣発」(水液を全身に散布させ、体表から汗として排泄
することである)と「粛降」
(水液を膀胱の気化作用によ
り尿として体外に排出することである)の両面がある。
または、中医学で臓と腑の関係は、表裏関係ととらえら
れる。五臓の肺と六腑の大腸は、経脈を通じて互いに連
絡しあい表裏関係を構成している。肺気の粛降作用の助
けにより大腸の腑気は正常に通暢(通りがよいこと)し、
すらすらと排便を行っている。また肺気の粛降は、大腸
- 42 -
図5
五味別の潤腸通便薬膳食材の分類
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
表9-1
五味別の潤腸通便薬膳食材の分類
表9-2
五味別の潤腸通便薬膳食材の分類
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薬膳科学研究所研究紀要
第5号
を図6に示した。脾が21.9%と高い数値を占め、脾の表
は43品で甘蔗、大蒜、大麦、猪肉、豆腐などである。肺
裏関係にある胃は20.0%を占めていた。次に肺が19.6%
は42品で牛乳、香蕉、白脂麻、蜂蜜、梨などである。大
であり、肺の表裏関係にある大腸が10.2%であった。次
腸は22品で芋頭、黄大豆、赤小豆、菠菜、麻油などであ
に肝が11.6%であり、肝と表裏関係にある胆は0.9%で
る。腎は12品で海参、海哲、決明子、黒脂麻、黒大豆な
あった。心は7.4%であり、心の表裏関係にある小腸は
どである。膀胱は3品で莧実、商陸、薏苡根などである。
4)中医学における美容薬膳食材の食物繊維
1.4%を示していた。腎が5.6%であり、腎と表裏関係にあ
薬膳を簡便に作るために、中医学の権威がある「中医
る膀胱は1.4%と示していた。
帰経別に分類した薬膳食材について表10に示した。全
学大辞典」21.22)により、基準を作成して潤腸通便作用の
体的な食材で肝は25品で海蜇、韭菜、黒脂麻、赤沙糖、
ある食材を整理した。潤腸通便膳食材は116品であった。
酥などである。胆は2品で牛胆、羊胆である。心は16品
潤腸通便の薬膳食材に含まれる食物繊維含有量について
で牛乳、藕、小麦、赤小豆、辣椒などである。小腸は3
は表11に示した。含有量の高いベスト3は木耳(68.7g/
品で莧、赤小豆、菠菜である。脾は47品で黄大豆、黒大
100g)、黒木耳(57.4g/100g)、小豆(17.8g/100g)であ
豆、赤沙糖、豆腐漿(トウニュウ)、蜂蜜などである。胃
る。これらの中医学と基本とした潤腸通便作用のある薬
膳(40mg/100g)食材は食物繊維含有量が高いことが示
唆された。
考
察
現代社会においては冷暖房完備の環境に生きている人
が多く、また疲労、睡眠不足等のストレスの要因などか
ら肌のダメージの回復が遅延させることがあると報告さ
れている34)、肌の状態は生活環境や精神状態と密接に関
係があることが考えられる。また、若年女性においては、
国民健康・栄養調査35)の結果において、痩身願望は強
図6
帰経別の潤腸通便薬膳食材の分類
表10-1
く、食事を欠食している人も少なくない。しかし、自分
帰経別の潤腸通便薬膳食材の分類
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Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
表10-2
表11
帰経別の潤腸通便薬膳食材の分類
潤腸通便の薬膳食材に含まれる食物繊維含有量
において個々人に対応したテーラーメード栄養学が実施
されている。本研究において肌状態の改善に影響を及ぼ
す可能性のある薬膳食材を活用して、調理品や加工食品
を簡便に作れることを目的に研究を薦めた。
1.美容に関わりのある薬膳食材の分類
中医学を基本にした薬膳は、個々人に適した食事を基
本として実践されている。美容・美肌の薬膳食材は、美
容に関わりのある薬膳食材が245品であった。分類した
五性では、平性が29.0%、次に涼性が19.2%、少し強い寒
性が19.6% で合計すると38.8% であり、一方、温性では
31.0%、少し強い熱性が1.2% で合計すると32.2% であっ
た。この結果より、日常の肌の管理は夏に体を冷やす作
用のある食材を、冬には体を温める作用のある食材を使
用すると季節の変化に順応することが重要であると考え
の肌には敏感に反応し、肌のトラブルを抱えていると自
られた。
覚している人も増加している36)。皮膚には表皮層、真皮
次に五味では、甘味の薬膳食品は139品あり、全体の
層、皮下組織が積み重なった構造であり、真皮層には約
56.7% と高い数値を占め、茘枝、菠菜、冬瓜、蜂蜜、酒
70%のコラーゲンが含まれており37)、アミノ酸は皮膚に
糟などが代表的な薬膳食材である。甘味は中医学で、
38)
とって重要な役割を担っている 。アミノ酸
10)
やコラー
ゲン39)の摂取が肌の改善に効果的であることが明らか
脾・胃を調整すると考えられ、美肌には消化吸収機能の
食材が重要であることが考えられる。
次に帰経では、高い数値を示した肝20.4%、脾19.2%、
となり、市場で流通される食品の中で、ダイエット、美
容、美肌の健康食品のニーズは高いと報告されてい
肺18.6% であった。その表裏関係にある大腸6.5%、胃
る40)。
16.6% を占めていた。肝経に寄与する薬膳食材は91品で、
一方、中国には「薬食同源」の哲学があり、食の分野
酒、黒脂麻、菊花が代表的なものである。脾経に入る薬
- 45 -
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
膳食材は86品で、大棗、蜂蜜、香蕉などである。胃経に
する41)ため、本研究では中医学の基礎理論に基づいて美
入る薬膳食材は乾姜、木耳、大蒜などであった。
容に寄与する薬膳食材を分類した。こられの結果によ
中医学では、肝は血流量を調整し、中医学基礎理論に
り、美容に寄与する薬膳食材は毎日継続持続して摂取す
おいて「皮膚は内臓の状態を映す鏡」といわれている、
ることで、美容・美肌の改善に効果が期待できると考え
肺は大腸の通暢作用によって維持され、肌・毛髪に関わ
られる。
りがあると考えられ、正常であれば皮膚は光沢を保つと
総
考えられ、中医学の『素問』14)の六節臓象論と五臓生成
において、人間の身体の内側に隠れている臓腑の健康状
態は、外側に現れると認識されている。特に皮膚は外側
括
美容に寄与する日本型薬膳を簡便に提供するために、
で一番最も大きな臓器であり、「皮膚は他の臓器と密接
中医学の基礎理論を基本として、美容・美肌と関わりの
な関連がある」と記載されている。顔と全身の肌は症状
ある薬膳食材と潤腸通便作用のある食材つまり便秘改善
に現れ、内臓と肌は独立ではなく、気・血・津液と経路
に寄与す薬膳食材について整理したので報告する。薬膳
も深い関連があると考えられている。西洋医学では、皮
食材の分類は、中医学の基礎理論を基本にし、選択基準
膚の栄養に重要なビタミン類として、VB₂、VB₆、VC、
を作成後、上海科学技術出版社、「中薬大辞典」を使用
VA、VE など、またアミノ酸、ビタミン C はコラーゲン
し、帰経で肝・心・脾・肺・腎より皮膚、毛髪、月経、
の合成や維持、皮膚の老化防止にも寄与することがある
便秘と関わりのある薬膳食材を選択した。分類は、臨床
と報告されている。美容薬膳食材のビタミン C 含有量高
症状反応による五性の温・熱・涼・寒・平と五味の甘・
い食材は、紫菜、菠菜、葱葉、牛肝100g 中30mg ~40mg
酸・苦・辛・咸と人体のどこの臓腑に薬効があるのかを
含有されていることが明らかとなった。
示す帰経の肝・心・脾・肺・腎・胆・小腸・大腸・胃・
2.潤腸通便作用のある薬膳食材の分類
膀胱である。
潤腸通便作用のある薬膳食材を五性で分類すると、寒
1.美容に関わりのある薬膳食材は245品であった。五性
性と涼性の体を冷やす食材では、合計すると42.2% を占
では平が29.0%、体を温める温・熱が32.2%、冷やす
めていた。潤腸通便作用のある薬膳食材は、乾燥して起
寒・涼が38.8%であった。五味では甘味が56.7%と高
こる腸燥便秘や熱結便秘の症状があり、これらの薬膳食
い数値を示し、帰経では高い数値を示した肝が20.4%、
材を食事に取り入れることで効果が得られると考えられ
脾が19.2%、肺が18.6%であった。
る。涼性の代表的な薬膳食材は、蕎麦、香蕉、梨などで
2.潤腸通便作用のある薬膳食材は116品であった。五性
ある。寒性は藕、無果花、甘蔗は代表的な薬膳食材など
では体を冷やす寒・涼が42.4%と高い数値を占め、五
である。
味のトップでは甘味が56.6%を占め、帰経では表裏関
薬膳食材を分類すると、潤腸通便作用のある薬膳食材
係の脾と胃が41.9%、肺と大腸が29.8%と高い数値で
で五味では甘味の占める割合が高く、中医学で甘味は
あった。潤腸通便の薬膳食材に含まれる食物繊維含有
脾・胃の働きを調節すると言われ、消化機能と関係が深
量は木耳が高い数値を示した。
いと考えられている。
中医学の美容薬膳食材は五臓の肝、心、脾、肺、腎に
帰経で中医学基礎理論における脾・胃は「後天の本」
入る食材をバランスよく摂取することで肌を美しく保つ
であり、
「気血生化の源である」といわれ、人間の健康を
ことできる。美容薬膳食材の中で五性の体を温める、冷
維持する栄養は脾胃と関係が深いと考えられている。表
やす、平が各約30%を占め、季節の変化に順応すること
裏関係の脾と胃が41.9%、肺と大腸が29.8% と高い数値
が重要であると考えられた。帰経で高い数値を示した肝
を示した。また、潤腸通便作用のある薬膳食材では、体
は血流量を調整し、肺は大腸の通暢作用によって維持さ
内の水液を全身に行き渡らせ、排泄を正常に行う働きが
れ、肌・毛髪に関わりがあり、正常であれば、皮膚は光
ある肺の占める割合が高く、便通改善を期待するには肺
沢を保つと考えられ、これらの薬膳食材は、皮膚の栄養
と裏表関係である大腸を潤すことが重要であることが考
に重要であると報告されている。これらの食材には、ア
えられている。肺には蜂蜜、牛乳、香蕉、白脂麻などの
ミノ酸含有量の高い黄大豆、落花生、紫菜など、またビ
代表的な薬膳食材がある。
タミンC含有量の高い紫菜、菠菜、葱葉などの食材も多
分類した美容・美肌薬膳食材に、脾経に入り消化吸収
く含まれている。潤腸通便薬膳食材は五性で寒・涼性の
関わりのある食材である黄大豆、黒大豆が分類された。
食材が多く、乾燥しておこる腸燥と関わりが深いと考え
西洋医学において、大豆イソフラボンは更年期障害の女
られる。また、潤腸通便作用ある薬膳食材には、食物繊
性ホルモン補助療法に用いられ、特に加齢に伴い、肌の
維の含有量の高い木耳、黒木耳、小豆などがある。以上
老化や卵巣ホルモンが減少して、肌のコラーゲンの減少
の結果より、薬膳食材を毎日継続持続して摂取すること
- 46 -
Classification of the foodstuff of Chinese medical diet with beauty effect based on Traditional Chinese Medicine
で肌を美しくする効果が期待できるのではないかと考え
られる。
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便秘の定義と便秘体質
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1)産業医科大学健康予防食科学研究室
2)中村学園大学栄養科学部
(2012年3月31日受理)
キーワード
便秘、中医学、体質、評価尺度
要
のに比べ、女性では若年者、中年者ですでに便秘を訴え
旨
ている者が多いことが男性と異なる特徴である。
このように多くの日本人は便秘の症状を有している
多くの日本人は便秘の症状を有しているが、便秘を定
が、それを定義することは難しいとされている。今回、
義することはむずかしいとされている。これまで内科学
便秘の病態をどのように考え、便秘と体質との関連につ
では便秘は週に3回未満の排便と定義されることが多
いて述べてみたい。
かったが、臨床上、多くの便秘患者は排便頻度が正常で
便秘の定義
あるにもかかわらず、排便時のいきみ、便の硬さ、下腹
部膨満感、排便後の残便感などを訴えるため、排便回数
だけで便秘を評価するのは不十分であるとされ、2000年
1. 現代医学での定義
に米国消化器学会のコンセンサス会議が開かれ便秘の診
ハリソン内科学には、「便秘は臨床上非常によくみら
断基準が作成された。一方、中医学における便秘の概念
れる疾患で、通常は持続性であり、排便に困難を感じ、
は毎日便通がないこと、毎日便通はあるが排便の時間が
その頻度が少なく、排便しきっていないと感じられる状
長い、便の質が硬いなどで、毎日便通があることが基本
態」と述べられている1 )。
的に重要であると考えられている。病態的には水分(津
そして、正常の排便とされているものの範囲が広いた
液)不足と腸管の蠕動運動減退が関与していると考え、
め、便秘を正確に定義することは難しいとしている。こ
6つの便秘の体質が分類されている。1989年、癌患者の
れまで便秘は週に3回未満の排便と定義されることが多
ケアーのために便秘の評価尺度が開発された。この尺度
かった。しかし臨床上、多くの便秘患者は排便頻度が正
は開発後、健常人を対象にした調査でも使用されている
常であるにもかかわらず、①排便時の過度のいきみが必
が、今後は健常人の便秘の病態を評価できる尺度の開発
要、②硬い便、③下腹部膨満感、④排便後の残便感など
が望まれる。
便秘の疫学
平成22年の国民生活基礎調査によると、便秘の有訴者
率(人口1000対)は、男性が24.7、女性は50.6となってお
り、男女合計で400万人以上の人が便秘を訴え、かつ女性
は男性の2倍近くの有訴者率を示している。年齢別にみ
ると男性は50歳代までは10前後(人口1000対)であるが、
60歳以上になると急激に増加している(図1)。一方、女
性では20歳代で増加し以後50歳代まで約40(人口1000
対)で推移するが、60歳以上になると男性と同様に急激
に増加している。9歳以下では男女とも差が見られない
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図1.便秘の有訴者率(平成22年国民生活基礎調査)
薬膳科学研究所研究紀要
第5号
の症状を訴える。そのため、排便の頻度だけで便秘を診
力む、②排便の25%超が便が塊で硬い、③排便時の25%
断するのは不十分だと指摘されている。
超で残便感がある、④排便の25%超で肛門直腸閉塞感が
一般の便秘の有病率は2~28%とかなりの幅がある。
ある、⑤排便を促すために、25%超で用手法を使う、⑥
この理由は対象者の年齢、性別の構成の違いとともに、
排便が週3回未満、ただし軟便ではないこと。ハリソン
便秘の定義が異なることがあげられる。Sandler らは
内科学の考えや便秘患者の主観的な症状を取り入れたよ
1128名の健常な若年成人を対象に排便習慣の調査を行っ
うな内容の定義となっている。
2)
ている 。どのような状態が便秘と考えているかをみる
成人の便秘の原因について、表2に急性、慢性別の原
と、上位3つの定義は①排便時に力むことが52%、次は
因1 )、図2は発生機序からみた便秘の原因5 )、図3は大
②硬い便で44%、③排便したいが出ないが34%であっ
腸疾患からみた便秘の原因を示した6 )。臨床的に重要な
た。そして排便頻度が少ないと考えている人は32%で4
ことは便秘症状からそれを引き起こしている原疾患を診
番目であった。以下、腹部の違和感が20%、残便感が
断することである。現代医学においては機能性便秘で痙
19%、排便に時間がかかるが11%を示した。対象者が米
攣性、弛緩性、直腸性などに分類されており、服薬によ
国人なので、便秘の主観的な症状のとらえ方は日本人と
りそれぞれに応じた対応が取られている。
異なることが予想されるが、少なくとも便秘を排便回数
が少ないとだけは考えていないと思われる。
一方、多くの慢性便秘症は一般に①食物繊維摂取の不
足、②水分摂取の不足、③運動不足の要因で起こるとさ
2000年に米国消化器学会のコンセンサス会議が開かれ
れている。慢性便秘を有するものはそうでない者に比
便秘の診断基準が討論された。このときに決定された診
べ、死亡率が高いという報告があり7 )、便秘が日常の食
断基準は、以下のような内容である(表1)3 )4 )。過去
習慣や運動習慣でどのように改善されるのかを検討する
12ヶ月以内に12週間以上(必ずしも連続でなくてもい
ことは予防医学上重要であると考えられる。
い)次の2項目以上を満たすこと:①排便時の25%超が
2. 中医学での定義8 )~11)
表1.便秘の定義(診断)3 )4 )
中医学では「一日一便す、乃ち常度なり」といわれて
いるように,便秘の定義は毎日便通がないこと、毎日便
通はあるが排便の時間が長い、便の質が硬いなどであ
る。毎日便通があることが基本的に重要であると考えら
れている。便の排泄には基本的に水分(津液)と腸管の
蠕動運動が関与している(図4)12)。腸管内の水分が不足
すると便が硬く乾燥してくる。また、生体内の水分が不
足しても便が硬くなる。前者を熱秘型便秘、後者を血虚
型便秘、陰虚型便秘という。蠕動運動に関しては、蠕動
運動が弱くなると便通が障害される。また蠕動運動が失
調、つまり蠕動がスムーズに行われないと排泄がうまく
表2.成人の便秘の原因1 )
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便秘の定義と便秘体質
図2.発生機序からみた便秘の原因5 )
図3.大腸疾患からみた便秘の原因6 )
できなくなる。このような場合、前者を気虚型便秘、陽
がなくなり、伝導機能が障害されて大便が乾燥し硬く
虚型便秘、後者を気滞型便秘という。以上、中医学にお
なって排便が困難となる便秘である。そのため、出現す
ける水分や蠕動運動の観点から便秘を検討すると、6つ
る症状として大便乾結、小便は黄色を呈する。熱をもつ
の基本的な便秘の体質に分類されている。この6型につ
ため、顔面は紅潮になることが多く、腹痛、悪心、嘔吐
いて述べる。
などの消化器症状がみられる。水分不足で口渇を感じ、
1)胃腸熱結型便秘(表3)
熱感もある。診断に関しては舌診において舌質は紅、舌
この便秘は陽盛体質、つまり体内に熱をもちやすい人
苔は黄色で乾燥している。胃腸熱秘型便秘の対処の基本
や感染症などの熱性疾患に罹った人にみられる。また、
は、寒涼性の食物や生薬によって熱を除くことである。
日常の食生活で脂肪の多い肉の過食や飲酒を大量に飲む
実熱には苦寒の性質があるもの、虚熱には甘寒の性質が
人や、生姜、大蒜、唐辛子など温熱性の食物を食べ過ぎ
あるものを使う。また腸管内を潤すために滋陰作用のあ
る食習慣のある人にもみられる。病機としては、上述の
るもの、通便を潤滑にするために油脂を豊富に含む潤腸
人では腸管内の水分が熱により少なくなって腸管の潤い
通便作用のあるものを使う。
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薬膳科学研究所研究紀要
第5号
図4.中医学における便秘の病態分類12)
表3.胃腸熱結型便秘
表5.陰虚型便秘
表4.血虚型便秘
は滋潤作用のある血が不足して腸管内の潤いがなくな
り、大便が硬くなり排便困難となる便秘である。症状と
して、排便しにくい硬い便、血虚のために顔色蒼白、動
悸、不眠、眩暈、爪甲の色が淡白、少ない月経量などが
みられる。舌質は淡である。血虚型便秘の対処は養血潤
燥通便が基本である。
3)陰虚型便秘(表5)
この便秘は陰虚体質、すなわち痩身でのぼせなどのあ
る人にみられる。また、熱性疾患によって陰の不足を招
いたり、大量の発汗や下痢などで起こる便秘である。病
機はこのようにさまざまな原因で陰虚となり、陰液が不
足し腸管内の潤いがなくなり乾燥して便が硬くなり排便
困難を招くものである。症状は痩身、口渇、ほてり、微
2)血虚型便秘(表4)
熱、いらいらなどを現す。舌質は熱があるため紅を呈し、
栄養摂取不足で水穀精微が欠乏して血液の生成が低下
舌苔は少苔、または無苔である。陰虚型便秘の対処は
したり、脾胃が虚弱で水穀精微を消化吸収できず気血を
失った陰液を補う滋陰、乾燥した腸管を潤す潤操、糞便
生化する能力が減退したりする血虚の人にみられる。ま
を潤滑に排泄する通便である。
た、出血がある時や月経時にも起こりうる。病機として
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便秘の定義と便秘体質
表6.気虚型便秘
表8.気滞型便秘
表7.陽虚型便秘
と頻尿を招き、腸の水分が不足をきたすことなる。症状
は排便困難、夜間頻尿、手足の冷え、腰のだるさ、寒が
りで温暖を好む。舌質は淡で胖大、舌苔は白である。陽
虚型便秘の対処は、陽を補い、潤操、通便を行う。
6)気滞型便秘(表8)
精神的ストレスでみられる便秘である。旅行にでるな
ど生活環境が変化すると便秘を招くことがあるがこのよ
うな便秘は気滞型が多い。運動不足でも腸の蠕動運動が
滑らかにいかず気滞型便秘になることがある。また腹部
の術後にみられることもある。病機は、肝気が鬱結して
肝の疏泄機能が失調し脾胃の運化が低下し胃気が下降せ
ず腸の蠕動運動が円滑にいかず排便がうまくできない。
症状は便が細い、すっきり出ない、少ししかでないなど
排便に関して不快感を伴う。また、腹部膨満、おくび、
4)気虚型便秘(表6)
イライラ、ゆううつ症状などがみられる。舌質は薄。気
気虚型便秘は脾気虚、肺気虚の人にみられやすい。ま
滞型便秘の対処は、疏肝行気、すなわち全身に気をめぐ
た、慢性疾患に長期間罹病し気虚になった人や老化など
らし、情緒を安定させ、臓腑の機能を円滑に行うように
でみられる。産後に回復が遅いときにも起こりやすい。
する。また通便も行う。
病機は、まず脾気不足で気の推動機能が失われ腸管の蠕
基本的な6つの便秘の体質を述べたが、これらがいつ
動運動が低下するため、便が腸管内に長く停滞する。肺
も単独で存在するとは限らない。たとえば気虚型と血虚
気不足で肺の宣散、粛降作用が機能せず、水分が全身に
型が同居している気血虚型、陰虚と血虚による陰血虚型
流布しないため腸を潤すことができず便秘となる。排便
もみられる。便秘に関わる臓腑は大腸であるが、中医学
が困難で長い時間かかり排便後は疲労を感じる。便の硬
では他の臓腑との関わりを重視している。脾、胃、肺、
さは最初は硬いがあとは柔らかい先硬後軟がみられる。
肝、腎である。飲食物が胃に入ると胃はこれを消化し、
気虚の典型的な症状である疲労倦怠感、息切れ、自汗や
水穀の精微を脾に渡すとともに、残った部分、すなわち
たちくらみがある。舌質は淡である。気虚型便秘の対処
濁を下部の小腸・大腸へと下降させる。脾は水穀の精微
は、気を補い脾の運化作用を健全にする。
を吸収、配布するとともに水分の代謝に関与する。脾胃
5)陽虚型便秘(表7)
は気、血、津液(水分)を生成するのに重要な役割を果
寒がりなどの陽虚体質にみられる。また冷たい飲み物
たしているため、脾胃の機能が不全に陥ると、気虚、血
や食事を過剰に取ったりしても起こる。加齢により腎の
虚、陰虚を招く。肝気はこのような脾胃の機能に影響す
機能が低下しても起こりやすい。病機は陽虚によって温
るため、肝気鬱結になれば、脾胃の機能不全を起こし便
める作用が低下し虚寒を呈し、蠕動運動が低下したり、
秘が生じる。肺は宣散、粛降の機能により、気、津液を
寒の凝滞作用で便が固まり硬くなる。腎陽虚が存在する
全身に散布するため、肺気虚になると腸燥を招いたり、
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薬膳科学研究所研究紀要
第5号
表9.日本語版便秘評価尺度14)
腸の蠕動運動が弱くなる。腎陽虚になると腎の温煦機能
参考文献
が減退し気や水分を巡らすことができなくなるので、虚
寒となり寒邪の停滞で便が固まったり、腸管の蠕動運動
が弱くなる。
便秘への対処は、これらの体質を考慮することでその
効果が高まるかどうか、それを今後検討していくことが
便通改善の薬膳研究の鍵になると考えられる。
便秘の評価尺度の開発
1.ハリソン内科学 第3版(原著第17版)福井次矢(著,監修),
, Vol1, 260-262, 2009
黒川清(監修)
2.Robert S. Sandler and Douglas A. Drossman, Bowel habits in
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3.Thompson WG, Longstreth GF, Drossman DA, Heaton KW,
IrvineEJ, Mu¨ller-Lissner SA. Functional bowel disorders and
functional abdominal pain. Gut 1999; 45(suppl 2)
: II43–II47.
1989年、McMillan Williams は、モルヒネの副作用とし
て出現する便秘に苦しむ癌患者のケアーのために便秘の
評価尺度を開発した13)。それを基に深井らは日本語版の
開発を行い日本語版便秘評価尺度を完成させた(表
9)14)。その項目をみると「直腸に内容が充満している感
じ」、「下痢様または水様便」が設定されている。モルヒ
4.G.R. Locke, J.H. Pemberton, S.F. Phillips, AGA technical re­view
on constipation, Gastroenterology. 2000; 119: 1766-1778
5. 江 川 知 之,藤 山 佳 秀: 腸 の 機 能 と そ の 異 常( 下 痢・ 便
. 図解消化器内科学テキスト,44-48, 中外医学社,2006
秘)
6.松下光伸,岡崎和一,便秘,医学と薬学,61(6), 831-837,
2009
7.Chang JY, Locke GR 3rd, McNally MA, Halder SL, Schleck CD,
Zinsmeister AR, Talley NJ. Impact of functional gastrointestinal
disorders on survival in the community. Am J Gastroenterol.
ネは経口投与では腸管の輪状筋を収縮させて腸運動を低
下させる作用とともに、肛門括約筋の収縮力を増強する
作用がある15)。肛門括約筋が緊張するため、直腸に便が
たまっても排便反射による肛門括約筋の弛緩が不十分で
あり、強い腹圧を必要とする。本来、モルヒネ投与の癌
患者を対象としているため、モルヒネの副作用で起こる
便秘についての質問項目となっていると考えられる。こ
の尺度は開発後、健常人を対象にした調査でも使用され
ているが、モルヒネ服用の癌患者と一般の慢性便秘症の
病態は同一ではないため、この尺度を健常人に使用する
場合は注意する必要があると考えられる。しかし、便秘
の定義としての項目は当然含まれているため、より健常
人の便秘の病態を評価できる新しい尺度の開発が望まれ
る。
2010 Apr; 105(4):822-32. Epub 2010 Feb 16.
8.管沼栄,便秘の弁証論治,中医臨床,14(3), 244-253,1993
9.何金森,習慣性便秘の針灸弁証論治,中医臨床,14(3), 254257,1993
, 兵頭 明(翻訳),中医弁証学,東洋学術出版
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, 柴崎 瑛子(翻訳),中医病因病機学,東洋学
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13.McMillan SC, Williams FA.Validity and reliability of the
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14.深井喜代子,松田明子,田中美穂:日本語版便秘評価尺度
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15.伊東俊雅,オピオイドの副作用 ―発現メカニズムと対策・
対応―,薬局 61(10):3095-3102, 2010
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中村学園大学薬膳科学研究所紀要刊行規程
第1条
中村学園大学薬膳科学研究所(以下「本研究所」という)は,研究成果を発表するため,研究紀要を刊行する。
第2条
研究紀要は中村学園大学薬膳科学研究所紀要と称し,英文名は Proceedings of PAMD Institute of Nakamura Gakuen
University とする。
第3条
研究論文の研究紀要への投稿者は,本研究所の運営委員,研究所員および編集委員会が認めた者とする。
第4条
研究紀要刊行のため,本研究所に分子栄養学部門,栄養疫学部門,生体応答部門,開発・教育部門の各部門長より構
成する編集委員会を置く。
第5条
編集委員会の委員長は研究所長とする。
第6条
投稿する論文の査読は各部門で行い,査読責任者は部門長とする。
第7条
論文の採択は編集委員会が承認する。
附則
この規程は,平成 20 年3月1日より施行する。
中村学園大学薬膳科学(PAMD)研究所
1.雑誌名:中村学園大学
研究紀要投稿規程
薬膳科学研究所紀要
語名:Proceedings of PAMD Institute of Nakamura Gakuen University
2.投稿は査読制とし,各部門長に直接提出する。
3.原稿はA4サイズ(297mm
210mm)に,パソコンのワープロソフトで作成する。
4.原稿の上下に 20mm,左右に 25mm の余白をとり,英文原稿の設定は1行約 70 文字,縦 40 行,和文原稿の設定は1行約
37 文字,縦 40 行を基本とする。文字サイズは英文・和文ともに 12 ポイントを基準とする。
5.図表・グラフ等は MicrosoftR PowerPointR にレイアウトする。
6.原稿は,注・参考文献・グラフ・図表・数表等を含めてページの限度はありません。
7.研究紀要は次の種類によって構成する。
①
オリジナル論文:要旨,目的,実験方法,結果及び考察,引用文献で構成する。
②
レビュー論文:要旨,本文で構成する。但し,引用文献は 50 報程度とする。
8.論文の構成は,①論文題目・②氏名・③所属機関・④要約・⑤キーワード・⑤本文[
(a)
目的(b)
方法(c)
結果及び考察]
・
⑥参考文献の順序とする。
①
論文題目:原稿の1ページ目の最初に,論文題目を書くこと。和文原稿の場合は,英語と日本語の論文題目及び要約の
順にそれぞれ記入すること。
②
氏
名:和文原稿の場合は,英語表記の下にローマ字表記も添えること。執筆者が2名までの場合は,10 行目まで
に入るようにフォントサイズを調整すること。タイトルが長い場合や執筆者が2名を越える場合は,これに準じる。
③
所属機関:研究所の所属機関は「中村学園大学 薬膳科学研究所 ~部門,英文名:Department of ~ , Institute of
Preventive and Medicinal Dietetics, Nakamura Gakuen University」とする。和文原稿の場合は英語を添え,所属機関名
はイタリック体で記入すること。
④
要
⑤
キーワード:要約の次の行にキーワードを3つから5つ程度,論文の使用言語で入れる。
⑥
本
約:所属機関から行送りして見出しを付ける。要約は,英文とする。
文:キーワードから行送りして本文を書き始めること。和文原稿の場合,句読点・カギ括弧(
「」
)などは1文字
に数える。 各セクションのタイトルはゴシック体を用い,センタリングするとともに,前後に1行の空白を設けること。
⑦
参考文献の書式:例
Corma, A. Inorganic solid acids and their use in acid-catalyzed hydrocarbon reactions. Chem. Rev. 95,
559-614(1995).
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中村学園大学薬膳科学研究所
研究紀要 第5号
平成24年8月28日
平成24年9月1日
発行所
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中村学園大学薬膳科学研究所
〒814-0198 福岡市城南区別府5丁目7番1号
TEL(092)851-2531番
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