自治労寄付講座 「地方自治体の仕事と労働組合」 国家財政・地方財政 の課題と取り組み 自治労本部総合政治政策局 1 角本健吾 本日のテーマ Ⅰ 財政に何がおきているのか Ⅱ 財政悪化の理由 2 Ⅲ では、どうすればよいか 国家・地方 財政 公共サービ ス水準に影 響 サービス提 供のあり方 に影響 自治体職員 サービス提 供のあり方 に影響 賃金・労働 条件に影響 まちの財政 状況を点検 政府、自治 体首長、政 党に提言 の働き方 自治労 3 (はじめに) 自治労という労働組合が 国と地方の財政に注目する理由 テーマⅠ 4 財政に何がおき ているのか そもそも財政とは何か? • サービスを国 民に提供 国・地 方自治 体 国民 • 国民から財源 を調達 財政の3機能(マスグレイヴ) 資源配分機 能 経済安定機 能 • 公共サービ スの提供 • 不況時の道 路、ダム工事 所得再分配 機能 • 所得多い人 ⇒所得少な い人 5 財政の仕組み 同じ「財政」でも違いがあります 国・地方自治体 6 多くのひとびと 国と地方自治体のサービス =国民のニーズ 県・市町村道 公営住宅 公共事業 水道 国 社会保障 外交 防衛 通貨発行 河川管理 大学 年金 健康保険 高校 小中学校 教育 幼稚園 就学援助 生活保護 介護 社会保障 医療 消防 保育園 清掃 7 教育 港湾 地方自治体 公共事業 国道管理 国民のニーズ 国民の 税負担 国民の 借金 96.3 兆円 54.5 兆円 36.8兆 円 8 国の財政の姿(2015年) 財政をよくする方法と現実 国民 ニーズ 抑制 財政赤 字縮小 国民負 担を増 加 日本財政の現実 ニーズ 税負担 • 容易に 削減で きず • 国民の 抵抗 財政赤 字拡大 9 財政をよくする手段 先進国最大の日本の借金 政府の債務残高(対GDP比) 250 233.8 日本 150 アメリカ イギリス 100 ドイツ 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 0 財務省資料より作成 10 フランス 50 2000 (%) 200 高止まりする地方自治体の借金残高 地方自治体の借金残高の推移 199 200 100 66 50 0 総務省資料より作成 11 (兆円) 150 乏しい税収 先進国(OECD)34か国中 33番目(2011年) 2011年 政府の税収入(対GDP比) 政府の税収入(対GDP比) 34.4 31.6 31.5 31.3 29.2 27.5 27.4 27.4 27.3 26.7 26.5 25.3 24.4 24.1 22.7 21.5 21 20.5 20.1 19.7 17.5 ▲0.7% 0 10 20 30 (%) 40 50 46.7 デンマーク スウェーデン ノルウェー フィンランド ベルギー イタリア イギリス オーストリア フランス ルクセンブル イスラエル ハンガリー ポルトガル オランダ ドイツ アイルランド ギリシャ スペイン チェコ アメリカ 日本 スロバキア 47.7 デンマーク スウェーデン フィンランド イスラエル ノルウェー ベルギー アイルランド イタリア イギリス ルクセンブルク ハンガリー オーストリア スロバキア フランス オランダ ドイツ ポルトガル チェコ スペイン アメリカ ギリシャ 日本 60 34.3 33 31.1 29.9 29.5 28.7 27.8 27.4 26.6 26.6 24.3 23.7 23.7 22.7 22.7 21.6 20.1 19.5 18.5 16.8 16.5 0 10 20 30 40 小黒一正(2014)「財政危機の深層」(NHK出版)89頁より作成 50 12 1995年 急増する社会保障支出 先進国(OECD)34か国中 12番目(2011年) 2011年 政府の社会保障支出(対GDP比) 32.9 32.1 32.1 29.8 28.6 スウェーデン フィンランド デンマーク オーストリア フランス ドイツ ノルウェー ベルギー オランダ ハンガリー イタリア イギリス ルクセンブル スペイン アイルランド ギリシャ スロバキア チェコ ポルトガル イスラエル 日本 アメリカ 27 25.1 24.5 24.4 23.8 23.6 22.2 21.5 20.1 19.3 19.3 18.2 17.9 17.2 16.7 14.7 13.6 +10.7% 0 5 10 (%) 15 20 25 30 35 33.6 32 31.7 28.9 27.9 27.8 27.4 26.5 26.3 25.8 25.6 25.4 25.4 24.9 24.7 24.2 23.6 23.4 21.5 デンマーク フランス フィンランド オーストリア スウェーデン イタリア ベルギー ドイツ ギリシャ オランダ イギリス ハンガリー 日本 ポルトガル ノルウェー アイルランド スペイン ルクセンブル チェコ スロバキア イスラエル アメリカ 17.9 17 16.9 0 10 20 30 小黒一正(2014)「財政危機の深層」(NHK出版)90頁より作成 13 1995年 政府の社会保障支出(対GDP比) 40 0 出費 税収入 財務省資料より作成 14 69.3 60.1 2015 100 2013 2011 2009 2007 2005 2003 2001 1999 1997 1995 1993 兆 円 60 1991 1989 1987 1985 1983 1981 1979 1977 1975 日本の財政は「ワニの口」 国の出費と収入の推移 120 96.3 80 54.5 40 20 国民のニーズ=行政のムダ?(その1) 行政コスト削減は簡単ではない 誰かにとってムダであっても • (例1)医師・看護師(公務員)を削 減 • (例2)国・自治体が備品購入 サービスを受ける側はム ダでない • (例1)病院、保育所の閉鎖 • (例2)備品納入業者の利益 維 持 15 削 減 国民のニーズ=行政のムダ?(その2) ニーズを調整する際の3つの選択肢 ①みんなで一緒にガマン・節約する • 財政状態は改善に近づくが、全体のサービス受益感は低下 ②特定の人がガマン・節約する • 自分だけ節約するのは納得いかない ③結局、誰もガマン・節約に協力しない そもそも公共サービスはガマンするものなのか? 16 • 何らかのサービスは受けられても、財政改善は遠のく 現実 ・民間事業者は電話督促を重視 したため、コスト低減は達成 ・しかし、徴収率は低下。行政コ ストの低減とサービスの質を両 立できず ・しかも、民間事業者を監督す るための、新たな行政コストが かかる 17 現実 民間委託前の保険料徴収の水 準を維持するためには、人間に よる訪問徴収が最も効果的 ・しかし、民間事業者は人件費 がかかるため、電話督促を選択 ・結局、民間委託前に比べ、徴 収率(サービスの質)は低下 理想 行政コストの低減 理想 サービス水準の向上 財政赤字の解消⇒民間委託は有効か? サービスの質とコスト削減の両立は容易ではない 国民年金保険料の徴収業務の事例 (まとめ) 財政悪化の真の要因=増税ができない 増税のみ 増減税一体 法人税増税(1981年) 2兆円減税と法人増税(1974年) 消費税8%引き上げ(2014年) 所得税減税と法人税増税(1984年) 消費税導入と所得税、法人税減税(198 9年) 消費税5%引き上げ(94年の所得税減 税のための増税) 出所 慶応義塾大学 経済学部 井出英策教授 「反再分配」の財政社会学資料より作成 18 所得税減税(1994年~) テーマⅡ 19 なぜ増税できな いのか? 増税できないメカニズム それなら税金 を負担したく ない 自分の納めた 税金が他人の ために使われ ることが多い 20 税金納めているのに サービスを受けた実 感がない 諸外国に比べ重い「痛税感」 =税金を負担したくない国民 税の負担感の国際比較(中所得者) 43.77 デンマーク イギリス ドイツ フィンランド スイス オランダ ノルウエー スウェーデン アメリカ アイルランド 日本 オーストラリ スペイン カナダ フランス 2.51 5.14 61.68 20% 重い 適切 軽い 33.18 40% 60% 80% 100% (出所)佐藤滋・古市将人(2014)「租税抵抗の財政学」(岩波書店)6ページ 21 0% 53.72 乏しいサービスの受益感 分野別のサービス規模(対GDP) 5.1 0.8 6.5 デンマーク 7.8 1.8 スウェーデン 5.7 6.7 1.4 ノルウェー 5.7 6.7 1.4 6.8 イギリス 5.1 7.8 ドイツ 4.5 7.2 アメリカ 5.3 6.3 日本 0 2 医療等 3.4 4 1.1 6 教育等 8 子育て等 0.7 0.6 0.4 10 12 14 % 介護・年金等 16 18 20 その他 出所 OECD(2011),Divied We Stand:Why Ine quality Keeps Rising,OECD Publishing,Paris 22 5.8 OECD平均 限りある財源の中でサービスを提供 ⇒特定の人を対象としたサービスとせざるを得ない • 国民が普遍的に受ける サービス • 道路、公園 • 教育・文化 • 年金・医療・介護 選別的公共サー ビス • 生活困難者などに限 定したサービス • 生活保護 • 就学援助等 • 所得制限有 児童 手当 • 所得制限有 高等 教育 • 所得制限有 公共 事業 • 主に地方中心 中小 企業 • 主に小規模企業 経営安 定化策 • 主に零細農家 医療・ 介護 • 社会保険料納入者 出所 慶応義塾大学 経済学部 井出英策教授 「反再分配」の財政社会学資料より作成 23 普遍的公共サービス 生活 保護 行政への不信⇒増税への合意が困難 自分の意見は政策に反映されているか 0% 27.6 66.4 69.7 81.9 78.7 73.1 80.7 75.2 75.3 71.2 30.7 26.6 15.5 18.6 22.8 16.8 21.8 20.9 24.1 20% 40% 反映されていない 60% 80% 反映されている 100% 出所 各年度 内閣府「社会意識に関する調査」より作成 24 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 69.4 (まとめ) 「財政の危機=社会の危機」の悪循環 • 税金を払っているのにサービスを受けていない 不公平感 • 税金を払っていない人がサービスを受けている • 行政は弱者ばかり面倒をみている • それなら私は、税金を負担したくない 不信感 • 増税する前に、削減すべきムダがあるはず 25 • 国民から税金を集められない • サービスは容易に削減できない 社会危機 • 公共サービスを充実できない、財政も悪化 テーマⅢ 26 では、どうすれ ばよいか みんなで負担し、みんなでサービスを受ける みんなで負 担を分かち 合う 能力に応じ た負担 • 所得税、資産 税、相続税 普遍的サー ビスの充実 財政の改 善 27 • 消費税 みんなの負担(消費税)と 能力に応じた負担(所得税)を組み合わせる 所得税と消費税の国際比較(2008年 対GDP比) 16.27 12.76 10.74 5.3 9.23 日本 12.15 31.16 10.14 4.6 消費税収 所得税収 19.12 13.62 9.87 アメリカ イギリス ドイツ スウェーデ デンマーク ン (出所)佐藤滋・古市将人(2014)「租税抵抗の財政学」(岩波書店)177頁 28 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 選別的なサービス⇒普遍的なサービス みんなが政治に関心を持つことが重要 衆議院選挙 年代別投票率の推移 90 70 77.08 68.28 66.69 60 50 59.46 56.83 40 32.58 30 20歳代 60歳代 70歳代 出所 「明るい選挙推進委員会」ホームページより作成 29 (%) 80
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