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●ダンサーと俳優の異種格闘技
エントランスで踊ってみる25「男と女」2007年7月28日
●宇宙の不思議、生命の神秘
日本の現代ダンス『カイル』
(2007年10月27日、
28日)
通常劇場でご覧いただいているダンス公演を、いつもお客様が通るエン
現代美術ギャラリーは『ひびのこづえ』展が終わり、次の『松井龍哉』展の準
トランスホールというパブリックな場所で行なうという、実験的かつ遊びの
備が始まっていました。10月の下旬、若生祥文さんによる新作『カイル』上演
精神に溢れた企画<エントランスで踊ってみる>。第25弾として登場した作
のため、劇場スタッフはギャラリーでの準備に取り掛かりました。
若生さんにとって、初めての振付となるこの作品で彼は、宇宙の不思議、
品は、
題して『男と女』
。
男と女…そこから人は何をイメージするでしょうか。ある年齢以上であ
生命の神秘を伝えたかったと言います。ソロで
れば、
あまりに有名なあのスキャットが聴こえてくるはず。何より、
まず
「恋愛」
やることで、何かを演じてみたかったとも言い
を想起させるタイトルと言えましょう。
ました。宇宙人<カイル>という架空のキャラ
振付を担当した 橋明子さんの想いを私なりに解釈すれば、
「男と女」
とは、 クターを演じることで、観客に想像の幅を大き
言い換えれば「人と人」を意味し、その間にある「距離」に着目していたよう
く広げてもらう。宇宙に散らばっている音や映
です。たとえば、すぐ隣にいたとしても、実際の気持ちの上ではその限りで
像を、カイルのダンスのなかにすべて昇華させ
はない、かもしれません。そんな簡単に測りえない人間同士の距離感をダン
てみる。抽象的なイメージの強いコンテンポラ
スで測ったらどうなるか?
リーの世界に、物語性のあるダンスを提示する。
今回の特色は、ダンス公演なれど、出演者に俳優がいること。ACMの遠島
立夫さん、そして「劇団鋼鉄村松」のメンバーとして東京を中心に活動する
山岸悟さんがダンス初挑戦。新しい血の導入に、ダンサーの
橋さん、小泉
文乃さんもかなりインスパイアされた様子でした。
「フランスで得たものと、今後の自分の方向性
を含む作品」
と語っていました。
公演当日、ACM劇場入口に集まった観客は、順に劇場の回廊からパイプオ
ルガンの脇を通り、ギャラリーの中へ吸い込まれていきます。宇宙を思わせ
とはいえ、じつを申せば、稽古はけっこう難航しました。稽古初日、山岸さ
る真っ黒な部屋までたどりついた観客は、やがて、人間としてではなく、異
んはギックリ腰治りかけの状態で登場、恐る恐るのスタート。そして、慣れな
形なイメージをまとい屹然と存在する若生
い動きをしたせいか、追って遠島さんも腰を痛め、一時はリタイアも懸念さ
さんと出会うことに…。
実にストイックなダンスであって、決して
れていたのでした。
そんなヒヤリとさせられる事態に見舞われながらも、作品は無事完成。異
安易には観ることができない。しかしどこ
種格闘技的で新鮮な科学反応が楽しめる作品になったと思います。シンプ
かやさしく観る者を受け入れてくれる。ど
ルな空間を動きのみで満たしていくダンサーと俳優、または男と女。観る者
までも広がっていく宇宙的な空間のなかで、
一人一人にとって、そこには近くて遠い 自分 と 誰か が投影されていた、
生命のしぶとさを、彼のダンスから感じる
ことができました。一言で言ってしまえば、<カイル>という宇宙人が、巣か
かもしれません。
(辻本力)
ら出てきて一日を過ごし、また巣に戻る。これだけの話。表現とは、この「こ
れだけの話」ってことがどれだけ大切なのか、観る人間にどれほどの想像力
を与えることができるのか、改めて
考えさせられる公演でした。
若生さんの、自身が振付する作品
だけでなく、公演の成立要素すべて
に対する真摯な姿勢にも感銘を受け
ました。公演の一週間後、再び水戸を
訪れ、
アドヴァンスとビギナーのクラス、
そして舞踊学校受講生のクラスを開
いてもらい、
たいへん好評でした。
<日本の現代ダンス>シリーズでは、
まだまだ紹介したい日本人のダンサ
ーがたくさんいます。
ご期待ください。
(櫻井琢郎)
成瀬巳喜男の世界
辻本 力(演劇部門学芸員)
「日本映画が好き2008」
成瀬の名前を知らない方でも、いつ
り着くあの有名な台詞は、絶望し過ぎて笑う
られる本作品は、名作の誉れ高くも極めて
しかないという諦念として残酷に響く。
奇異な小説である。ペナペナな人物造形、 冒頭、実話であることを匂わせる一文がある。
かどこかで、おそらく彼の作品に接
したことがあるのではないでしょう
か。
生涯に監督した作品の数、
そして
そのクオリティとも日本を代表する
青年カンディード(楽天家の意)の放浪が綴
『浮雲』
(1955年 東宝)
映画監督と言っても過言ではないでしょう。どの作品にも「日本のメロ
ドラマ」とだけでは言い切れない、強烈な何かを感じさせる雰囲気をも
っています。
例えば
『浮雲』
。
戦時中にベトナムで知り合った男女が、
戦後の東京で再会。
そして二人は伊香保温泉へ、
再び東京へ、
さらには屋久島へと向かう。
男
語られる物語は行き当たりばったりの事
これは風刺小説ゆえの弾圧を避けるための
象の羅列。ド派手になり得る冒険譚をまっ
嘘だったわけだが、ということは、実話と偽
たく盛り上げることなく淡々と綴っていく
り「未だ知られざる世界」を綴ったモンド・ド
キュメンタリー
(世界の奇習・
記述の運動は、小説にお
いて重視されるであろう
風習を紹介したヤラセ・ド
要素をことごとくに省き
キュメンタリー)の走りと
ながら、命の軽さを証明
見ることもできなくはない。
するかのごとく累々と死
その筋の巨匠、ヤコペッテ
体の山を積み上げていく。
ィが映画化したのも納得。
女が関係を切り結びながら、そして別れてはまた再会する。ロードムー
さながらジェット・コース
ビーとも言える物語がものすごい展開をみせます。一方、演出の焦点の
ター式地獄旅行を経て辿
あて方は実に冴えていて、
きめ細かく役者の演技をかゆい所まで追っか
『カンディード』
けていきます。主演の高峰秀子が高い評価を得て、恋愛映画の最高傑作
と呼ばれています。
さらに、
成瀬の演出意図を巧みに汲み取り、
悪意のな
い女たらし役を、独自の色気でもって繊細に演じた森雅之の存在も、ヒ
ロインの高峰以上に印象に残ります。
戦後の日本社会で浮遊する人間たちを、ある意味、豪快に描いたこの名
作を、
どうぞお見逃しなく。
櫻井琢郎(演劇部門学芸員)
作=ヴォルテール 訳=吉村正一郎
岩波文庫
仏文学から程遠い人生を
よって教育されていく経過
送っていたある日、フローベールという人が
が物語の中心をなす。ここに様々な青年が登
書いた『感情教育』という名の本を読んだ。感
場し、作家は実にアイロニカルに彼らを描いて
情の教育。とてもいいタイトルだと思った。 いくが、しかしその視線はどこか温かい。小説
2/9
(土) 10:30〜
『浮雲』
1955年/東宝/123分
(出演:高峰秀子,森雅之ほか)
13:15〜
『おかあさん』
1952年/新東宝/98分
(出演:田中絹代,香川京子ほか)
2/10
(日)10:30〜
『乱れ雲』
1967年/東宝/108分
(出演:加山雄三,司葉子、
森光子ほか)
13:00〜
『めし』
1951年/東宝/97分
(出演:上原謙,原節子,島崎雪子ほか)
エントランスで踊ってみる25
『男と女』
を振付・
出演した 橋明子が外部出演!
読んでみてとても読みやすい本で、
あっとい
に書かれた女性像の一級品と評判のアルヌー
う間に2冊本で数百ページを読んでしまった。 夫人は、あくまでも肖像として、青年たちの対
「ある青年の物語」と副題にあるように、主人
話をやさしく見守っている。
公フレデリックの伝記と言える作品である、 時代は二月革命の騒擾の場面も描くが、どこ
と同時に、作家フローベールの自伝的色彩の
までいってもフレデリックの個人的な観点で
つよい作品でもあるらしい。夢想家フレデリ
あらゆる事象は流動し、心地よい緩慢な時間
ックと現実主義的な友人デローリエ。対照的
が流れていく。ぜひヴォルテールにも読んで欲
な気質の二人の青年がする人生修業、それに
しいなと思いました。
STスポット自主事業 the Ground-breaking 2008
神村恵カンパニー 新作『どん底』
号 好評発売中!
構成・振付:神村恵 出演:磯島未来,遠藤綾野, 橋明子,山縣美礼,神村恵
日時:2008年2/15(金)〜17(日) (金)=19:30開演/(土)(日)=18:00開演
会場:BankART 1929 Yokohama 1929ホール
(横浜市中区本町6-50-1)
料金:前売2,500円 当日2,800円 学生2,000円
予約&お問い合わせ:STスポットTEL:045-325-0411 http://stspot.jp
ACM俳優・塩谷亮、
blogはじめました!
「水戸から世界へGo!」http://shio-ryo.cocolog-nifty.com/
稽古の様子や役者の本音を赤裸々に語ってます。アクセスしてみてね。
水戸芸術館ACM劇場発行の雑誌
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1月18日(金)〜2月3日(日)
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(土)=午後7時開演、
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【料金】全席指定 一般3,000円 団体2,700円(10名様以上)学生2,000円
★エントランスで踊ってみる26『アリスと迷宮―PREVIEW―』
1/12(土)13:00/15:00
水戸芸術館エントランスホール【入場無料】
★「第22回水戸映画祭」
「日本映画が好き2008」
2/9(土)、10(日)、11(月・祝)
★水戸市民舞踊学校修了公演『アリスと迷宮』
3/15(土)19:00、16(日)14:00
★水戸子供演劇アカデミー卒業公演『星の下、
青い夜の王国』
3/29(土)14:00/19:00、30(日)14:00
◎水戸芸術館チケット予約センター 029‐225‐3555 営業時間9:30〜18:00(月曜休館)
◎お問合せ:水戸芸術館ACM劇場 029‐227‐8123
〒310-0063 水戸市五軒町1-6-8 http://www.arttowermito.or.jp/
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対象=高校生以上/開催日時=1/16, 23, 30, 2/20, 27
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松本小四郎
http://www.arttowermito.or.jp/blog/matsumoto/
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長谷川裕久 http://www.arttowermito.or.jp/blog/hasegawa/
辻本 力 http://www.arttowermito.or.jp/blog/tsujimoto/