密航者 - リスク減少の参考に

Gard News 198
2010 年 5 月/7 月号
密航者 - リスク減少の参考に
Stowaways – Help to reduce the risk
密航者防止に積極的な役割を果たすため、ガードはまもなくマニュアルを発行します。これは現場での参考
となり、密航者に関して船長が思わぬ見落としやトラブルを避ける手助けとなることを目指したものです。
このマニュアルは、既刊のガードニュースの記事を基にしており、Guidance to Masters (船長への指針)な
どのガードの他の出版物を補足するものとなります。
その理由は密航する人の数だけさまざまです。多
くは政治的あるいは宗教的迫害を逃れるためで
あり、環境災害や社会的問題からの逃避であった
りします。一方経済的理由だけで密航する人もい
ます。後者の理由の人は、故国を永遠に棄てる意
図は全くないことがあります。発見され送還され
ても密航に関する金銭的ボーナス、「お小遣い」
が狙いなのです。
密航者の多くは実際に船舶に乗船する前に他国
へ移動します。アフリカ及び中東全域における密
密航者は特に西アフリカ沿岸、中央アメリカ、コロ
航行為の一般的パターンは移動が長時間である
ンビア、ヴェネズエラ、ドミニカ共和国に運航して
ことが多いのです。難民キャンプの移設、ヨーロ
いる海運業者にとって、常に直面するトラブルのよ
ッパ大陸向けの薬物輸送ルートの変更、気象状況
うです。このトラブルは船舶の運航パターンに加え
によって周期的に移動する傾向もあるからです。
て、本船や/または貨物のタイプ、同様に乗組員の
ヨーロッパへの中継の有無、ゆるい国境チェック
防犯訓練や警戒意識にも密接に関わっています。密
のうわさなどが、密航者多発区域の背景にある重
航者のほとんどは撒ら積み船、コンテナ船と一般貨
要な要因になります。このような移動の良い例は、
物船で発見されます。車両運搬船も他の船舶に比べ
南アフリカへの人々の動きです。これは南アフリ
て群を抜いています。
カの港で乗船する密航者の顔立ちから察知でき
ます。人数も多く国籍も多様です。換言すれば、
窮乏の現れ、それとも単なる便宜主義?
乗船港のリストの上位10番のうち3港は南ア
定義では密航者とは航空機、バス、船舶、列車など
フリカの港(ダーバン、リチャーズベイ、ケープ
の乗り物にひそかにかつ違法に乗り込み、料金を支
タウン)なのです。しかし、南アフリカの国民が
払わず、発見されずに移動する人物です。言うまで
密航者の国籍のリストのうち上位10番に入る
もなく、これはきわどい行為です。密航者は何日も
わけではありません。
食料も飲料水もなく過ごすことになるばかりでな
機械の中の異物
く、密航のために選ぶ場所、チェーン・ロッカーの
内側、ラダー・トランクの中、ラダーの上にもとい
密航者は本船の船長、乗組員、船主/運航者にとっ
う場所の危険性もあります。ならば何故彼らはこの
て運航上相当なトラブルを引き起こします。密航
ような行為に及ぶのでしょうか。
窮乏のきわみのあ
者が乗船していることは実質的な脅威であり治
らわれなのか、冒険心か、むしろ単なる経済的便宜
安上のリスクです。さらに、時間を取るトラブル
主義の結果なのでしょうか。
であり、何よりも高くつくことが多いのです。当
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然、密航者の対応に手を取られるのは船長と乗組員
ばかりではありません。陸上の運航関連者も巻き込
さらに巧妙に進化した密航者の世代
まれますし、現地の当局、本船の代理店(指定代理
最近の傾向のひとつは、密航者が日に日に巧妙に
店が傭船者の代理業務のみを行っていれば、船主も
なってきていることです。用意周到でやってきま
自身の代理店を指定しなければなりません)も関わ
す。食料と水を携え、細心の注意をもって隠れ場
ることになります。P&I クラブのクレーム担当者も
所を選ぶのです。多くは、乗船港へ引き返すのが
連絡を受け、現地 P&I 担当者を任命しなければな
無理になるまでに十分な日数の間なんとしても
りません。密航者がいつ、どこで上陸許可を得られ
隠れていられるように準備万端整えているので
るか不明であれば、本船の寄航地すべてで P&I 担
しょう。
当者が必要になるでしょう。さらに、
医師、警備員、
通訳、
大使館職員などが旅行書類などの取得を手伝
「巧妙な進化」の問題ではないかも知れませんが、
うために必要になり、移動のための護衛も一人なら
密航者たちは「お小遣い」の存在にも一層関心を
ず必要でしょう。
強めているようです。船主たちが密航者に、乗船
港まで送還される途中の食事や飲み物に当てる
数字が真実を語るなら・・・
よういくらかの現金を与える人道的な行いは容
密航者の面倒を見て本国に送還するための費用は
易に理解できます。通常の相場は100から30
かなりの額になります。密航者の本国送還は、気の
0米ドルの範囲でした。しかしこれはもはや「お
進まない人物を何カ国間か移動させることになり
小遣い」が意味するものではなくなったようです。
ますから、トラブルが発生しやすいのは当然です。
近頃では「お小遣い」の問題が検討されるたびに、
そしてトラブルが無料で解消することは滅多にあ
密航者が要求する法外な額にただただ驚くばか
りません。2002年にはガード扱いの密航者事案
りです。相場は劇的に上昇していまや1,000
は一件につき7,000米ドルを超えました。20
米ドル近くになっているのです。何故これほど値
08年までにはこの数字は相当増加し18,000
上がりしてしまったのでしょうか。食料や飲み物
米ドル以上になりました(これらの数字は組合員が
の値段が爆発的に高騰したからでは勿論ありま
支払う該当控除額を含んでいないので、
費用総額は
せん。その理由は主として密航者たちが送還され
さらに大きくなります)。
る空港などで大きな騒ぎを起こすと脅迫するか
らです。大声を上げる、喧嘩を始める、衣服を脱
2009年にアムステルダムで行われた P&I 連絡
ぐなどするので航空会社が搭乗を拒否すること
会(P&I Correspondents)の会議で提示された(国
になります。かくして送還の手順が遅れ、拘留期
際グループ加盟の全 P&I クラブが回答し、グルー
間が延びることになり、更なる費用が発生します。
プ事務局に返信したアンケートに基づく)非公式の
採算を勘案すれば、多くの場合当事者が圧力に屈
数字は、国際グループ所属の P&I クラブにおいて
するのも無理はありません。密航者一人に支払わ
も同様の傾向を示しています。2007保険年度で
れる平均500米ドルの「追加」小遣い(すなわ
は、全 P&I クラブの密航者費用は、控除額を差し
ち状況によって妥当と思われる額に加えて)は
引いた額で1,430万米ドル前後にもなります。
(IG クラブが1,950人の密航者を発見した)
密航者関連の平均控除額を基に見積もると、その年
2007年だけでもほぼ百万米ドルの超過小遣
度の合計費用は2千万米ドル前後だった可能性も
いの支払いとなります。長期的には業界にとって
あります。
この慣例は高くつくことになってしまいました。
2004年以前にも報告された密航者の事案は着
密航者探知犬(Search and bark)会社に需要がふ
実に増加していました。それでも2004年の
えるでしょうか
ISPS 規約の履行とともに、密航者数は減少し、さ
密航者問題を減らすにはまずは乗船を防止する
らに減少し続けると期待されていました。事実しば
ことなのは明白です。密航者問題は実は至極単純
らくはこの傾向が続いたのです。
しかし数字は頻度
な防犯問題 - 乗船管理の一環です。
も費用もともに再び上昇を続けています。
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重要な防犯対策は出航前に徹底的な船上探索を行
ど、ほかのガードの出版物にある情報を捕捉する
うことです。方法はいろいろありますが、興味深く
ものです。密航者の質問事項は英語、スペイン語、
また今までにない方法のひとつは、訓練された犬を
フランス語、スワヒリ語で取得できます。
使って隠れている密航者を探索する”seek and bark”
www.gard.no にアクセスしてください。
(ご注意:
サービスを提供する会社を使うことです。そのやり
ウエブサイトではこの書面に接続できません。
)
方は二組が一緒に探索するのです。一組は船底ビル
ジ部から探索をはじめ、煙突と本船の後部まで、あ
との一組は船首楼から始め、ポンプ室と他の貯蔵品
室を探索します。船倉は大概両方の組が一緒に探索
します。クレーン、マスト、甲板、救命ボートはダ
ブルチェックします。居住区域も調べた後、扉を施
錠/封印します。探索後船長は詳細なチェックリス
トを受け取りますが、作業は保証つきのこともあり
ます。
この保証は船主には探索にも関わらず密航者
が発見された場合の費用の保険となります。
この方法はかなり有効に見えますが – 主として
このサービスの提供者が少ないため利用はまだ限
定的です。ガードは南アフリカでのみそのようなサ
ービスの提供があることを承知しています。これは
密航者が船主にとって多大なトラブルとなる港湾
や国々ではビジネスチャンスではあるでしょう。
ガードのマニュアル
密航者問題が一夜にして解決する夢はありえませ
んが、乗組員に絶えず防犯訓練を施し、寄港中は警
備に精を出し、出航前に効率的な探索を行うことで、
船主は密航者に乗り込まれるリスクをかなり軽減
することができます。
船長がこの関連で思わぬ見落としをしたりトラブ
ルに会ったりするのを防止するため、ガードは以前
ガード・ニュースで発表した記事を基に新しいマニ
ュアルを近く発行します。
取り上げるトピックスは
危険査定、予防対策、密航者が発見された場合取る
べき手順、送還、P&I 填補、密航者に関する IMO
規則、ISPS 協定などを含みます。このマニュアル
は2010 年春に発行予定です。
新しいマニュアルに盛られる情報は、本船上で密航
者が発見された場合に取るべき行動、収集すべき情
報をリストにしている Gard Guidance to Masters1な
1 www.gard.no.でご覧になれます。
*Gard Guidance on stowaways がウェブサイトで利用可能となり
ました。 www.gard.no. > News からご覧になれます。
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