第 6 回 NEC インドで拓く 新しい BOP ビジネスの形

第 6 回 NEC インドで拓く 新しい BOP ビジネスの形
2014/04/22
竹内純子のすごいぞ!日本企業の環境力
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
世界の人口の約 7 割、40 億人は年間所得 3,000 ドル(約 30 万円)以下で生活しています。この低所得者層を
「Base of the Pyramid」
、BOP と略称します。従来の BOP ビジネスは、例えば、商品一つ当たりのポーション
を小さくして購入しやすい価格設定とし、低所得者層にも購入可能な商品を提供するビジネスモデルでした。
しかし、NEC がインドで展開する BOP ビジネスは全く逆転の発想。BOP を消費者としてではなく、彼らが生
産者となって安定的な収入を確保するサポートをする仕組みです。デジタル社会の恩恵を世界のすべての人たち
が享受できる社会の実現を目指し、インドでイチゴ栽培事業に乗り出したそうです。
NEC とイチゴ。全くつながりの無さそうな 2 つが、どうやって結びついたのか。NEC の CSR・環境推進本部
でお話を伺ってきました。
お話を伺った NEC の CSR・環境推進本部の右から
堀ノ内本部長・除村さん・小林シニアエキスパート
インドの貧困層の課題解決に貢献したい
新興国として発展著しいインドは、莫大な富を手にした富裕層も存在する一方、国民の 95%が年間所得 3,000
ドル未満であると言われています。仕事を求めて農村から都市部への人口流出も止まらず、女性の就業機会も限
られています。就労の場を確保して根本的な解決を図らねば、貧困層はいつまでも貧困から抜け出すことができ
ません。NEC のデジタル技術を活かして、就労機会の拡大を図ることができないか。NEC の CSR・環境推進本
部に所属する、村上シニアエキスパートは強い問題意識を感じていたそうです。
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NEC が沖縄県の宮古島で培ってきた、廃校や空港跡地を利用した施設農業のノウハウを活用した支援にヒント
を感じていたものの具体案が出ず悩んでいた時に、東日本大震災が発生、社員参加型の復興ボランティア活動に
取り組むようになったと言います。
特に被害の大きかった宮城県南三陸町にはグループ会社も含めて延べ 1,000 人以上の社員ボランティアが参加
し、その活動によって町から表彰も受けたそうです。そんな中、南三陸町の人に「面白い人がいるから」と紹介
されたのが、宮城県山元町の農業生産法人 GRA 代表の岩佐さんでした。
震災ボランティアでの出会い
宮城県山元町は高品質のイチゴの産地として有名で、震災前は 129 軒のイチゴ農家があったそうです。しかし
一帯を襲った津波で、そのうち 125 軒の農家が流されるという壊滅的な被害を受けました。
この山元町出身で、東京で IT ベンチャー企業を経営していた岩佐さんは、故郷の町の復興に貢献したいと、山
元町に戻って GRA を立ち上げました。それまで農家の勘や経験頼みであったイチゴ生産に、ICT(情報通信技術)
が取り込まれ、それによって均質で安定的なイチゴの供給が可能となったのです。
その GRA と NEC が出会い、日本のイチゴ生産技術をさらに海外で展開するアイディアが生まれました。
糖度が高く、ジューシーな高品質の日本種イチゴは、固くて酸味の強いイチゴに慣れたインドの人たちには必
ず歓迎されるはず。
水や温度の管理を ICT 技術によってコントロールすることで、経験のない方でも高品質なイチゴを安定的に生
産することができ、安定収入を得ることができる。
東日本大震災からの復興を支えたイチゴ生産への ICT 利用が、インドの貧困問題解決に資するのではないか。
NEC は、インド農村の低所得者層を共にビジネスに取り組むパートナーと捉え、根本的な課題解決に資する、
究極の BOP ビジネスに乗り出すこととなりました。
とはいえ、インドでこのビジネスを展開するには様々な苦労があったといいます。日本のイチゴの苗をインド
に持っていくところからすべて初めての経験。また、日本では想像できないほどの悪路や通信事情。インドので
こぼこ道を数時間トラックで走れば、日本の柔らかなイチゴは傷だらけになり、潰れてしまうのではなかろうか。
その懸念を払しょくするため、イチゴを守る梱包についても研究、耐衝撃性実験を重ねたと言います。
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自分たちが育てた日本種イチゴの初収穫に喜ぶインドの女性たち
JICA(国際協力機構)の FS 事業に採択され、その支援も受けて 2013 年 3 月には初収穫。ホテルのケーキシ
ョップでこのイチゴを使ったショートケーキを売り出したところ、1,000 ルピーという高価格にも関わらず、い
つも予約で完売だそうです。日本の高品質で安全な食品が「ジャパン・ブランド」として憧れの対象になるのも
当然といえば当然でしょう。
それにしても NEC とインドとイチゴ。その出会いが東日本大震災の復興支援にあったとは。
「最初から答えが
あったわけではありません。
『何とかしたい』
『何かしたい』の思いを持って動きまわる内に、自然と導かれたの
だと思います。思いのある人間が動き回る。これが企業の社会貢献活動の肝かも知れません」と語ってくれまし
た。
まだまだ試験的な段階で、ビジネスの芽が出たばかりではありますが、これから NEC の ICT 技術を活用した
イチゴ栽培で、東北に、インドに、たくさんの笑顔が咲くことでしょう。
インド史上初のイチゴのショートケーキ
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