知っておきたい研究倫理 - パブリックヘルスリサーチセンター 臨床研究

がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
第20回CSPOR・CRCセミナー
本日のお話
臨床研究に関する倫理について
国立がんセンター中央病院
臨床試験・治療開発部
安藤正志
・人体実験の悲惨な歴史
・臨床研究の倫理原則確立
・臨床研究における8つの倫理的要件
・被験者保護のためのしくみ
・臨床研究における倫理的問題
利益相反について
不正について
1
研究すべきならば、どのように
研究すべきか?
ヘルシンキ宣言
ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則(2008
年10月
ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則(2008年
10月)
・医学の進歩は、最終的に人間を対象とする研究を要するものである。
医学研究に十分参加できていない人々には、研究参加への適切なアクセス
の機会が提供されるべきである。
・人間を対象とする医学研究においては、個々の研究被験者の福祉が他のす
べての利益よりも優先されなければならない。
・人間を対象とする医学研究の第一の目的は、疾病の原因、発症、および影
響を理解し、予防、診断ならびに治療行為(手法、手順、処置)を改善する
ことである。現在最善の治療行為であっても、安全性、有効性、効率、利用
しやすさ、および質に関する研究を通じて、継続的に評価されなければなら
ない。
・医学の実践および医学研究においては、ほとんどの治療行為にリスクと負担
が伴う。
日本医師会訳 (http://www.med.or.jp/wma/helsinki08_j.html#ja)
2
・正しい知識を得るために、正しい方法で
臨床研究が行われなければならない
→臨床研究の科学性
・少数の個人が他人あるいは社会の利益の
ために、研究の被験者として負担/リスク
を背負わされる(搾取の可能性)
→倫理的配慮が必要
3
人体実験の悲惨な歴史
4
ナチス・ドイツの人体実験に対する
ニュルンベルグ継続裁判
今までの歴史の中で
ヒトを対象とした非倫理的な臨床研究
(人体実験)
が数多く行われてきました・・・
それでは、海外、および日本における
人体実験の歴史を振り返ってみましょう。
第二次世界大戦中にナチス・ドイツが
各強制収容所の囚人を対象に行った
人体実験の罪を裁いた裁判
National Archives - Film
Copyright (C) United States
Holocaust Memorial Museum,
Washington, D.C.
5
・被告の23人中20人が医師
・米国が単独で裁いた。
・1947年 23名中16名が有罪、
うち7名が死刑(医師4名)の判決。
→人体実験の普遍的な倫理基準の明文化
(ニュルンベルグ綱領)
6
(医の倫理 クレール・アンブロセリ著 中川米造訳)
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
1
がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
米国における第二次世界大戦中から
1960年代の人体実験
1960年代の人体実験
旧日本軍731
部隊
旧日本軍731部隊
ウィローブルック肝炎研究(1950年代)
・旧日本軍は1933年頃より細菌兵器の開発
目的に中国で人体実験を実施。
・1938年ハルビン市街に本格的な実験施設
を建設(関東軍防疫給水部(731部隊))。
http://www.ehttp://www.e-huuhu.com/halpin/731.htm
・約6km四方の敷地に3,000名あまりが細菌兵器の研究、開発、
製造に従事。
・中国各地でスパイなどの疑いで捕まった中国人などが
「マルタ」と呼ばれる被験者に。
・3,000名以上が細菌兵器開発などの実験材料として殺害された
7
と言われている。
タスキギー梅毒研究
ユダヤ人慢性疾患病院研究(1960年代)
8
タスキギー梅毒研究
・1972年 New York Times 一面トップに
「連邦政府による研究の梅毒犠牲者、40年
間も治療されず」の記事が掲載。
・スタッフはアフリカ系米国人の看護師1名のみで医師は
常駐せず、書面の研究計画書はなし。
・継続的に脊髄穿刺を実施、梅毒の進行状態を調査。
・1930年代アラバマ州メイコン郡タスキギー
アフリカ系米国人の梅毒の感染頻度が36%と高い地域
・被験者は梅毒以外の医療費や葬儀費用の提供を受け、
死後病理解剖された。
・1931年公衆衛生局(PHS)はタスキギーのアフリカ系米国人
男性399人の梅毒の自然経過の観察実験を開始。
・患者には梅毒に罹患しているとの説明はされず、
「悪い血」を持っていると説明された。
・さらに梅毒に罹患していない同年代男性200人も対照群
として経過観察。
・1946年からは、梅毒の治療にペニシリンが臨床導入されたが、
この実験の患者や対照群には用いられず。
(医療倫理の夜明け ディヴィット・ロスマン著 酒井忠明訳
Emanuel EJ et al. Ethical and Regulatory Aspects of Clinical Research )
・ニューヨーク州 知的障害児施設ウィローブルック州立学校
・入居者に肝炎ウイルスを人為的に感染させる実験
・感染実験の繰り返しにて肝炎ウイルス(A型・B型)株の分離に成功
・γ-グロブリンの効果の検討目的で、投与群と非投与群の発症割
合を比較
・児を預けた親には予防法を調べるとのみ説明
・実験結果は、NEJMなど著名な医学雑誌に発表
(医療倫理の夜明け ディヴィット・ロスマン著 酒井忠明訳)
(悪魔の飽食、続悪魔の飽食 森村誠一著)
Photo (http://www.npr.org/programs/morning/features/2002/jul/tuskegee/)
第20回CSPOR・CRCセミナー
9
・研究成果は1936~72年に17本の報告論文を公表、
特に批判は受けず。
・399名のうち、28名が梅毒で死亡、約100名が失明や精神
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障害を来した。
(医療倫理の夜明け ディヴィット・ロスマン著 酒井忠明訳
Emanuel EJ et al. Ethical and Regulatory Aspects of Clinical Research )
今までの歴史の中でヒトを対象とした
非倫理的な臨床研究が数多く行われてきました。
臨床研究の倫理原則確立
では、臨床研究を行うにあたり、
何を規準にして倫理的配慮
を行って行けば良いのでしょうか?
11
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
12
2
がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
1947年:ニュルンベルグ綱領
第20回CSPOR・CRCセミナー
National Research Actの成立
(米国)
Actの成立(
米国)
・ナチス・ドイツの人体実験に関する軍事裁判の判決文中の
医学実験に関する最初のガイドライン
1964年:ヘルシンキ宣言
・ニュルンベルグ綱領を受け、世界医師会が医学研究者自ら
を規制するために提案
1966年:“Ethics and Clinical Research”発表(米国)
・ハーバード大医学部教授ビーチャーがNEJM誌に発表
・同意を得ず行った被験者の生命や健康を危険にさらした22研究を
要約
1973年:ヘルスケアおよび人対象試験の質に関する公聴会(米国)
・タスキギー事件に対する米国民の批判を受け、
エドワード・ケネディー上院議員が公聴会を開催
・タスキギー事件、ウィローブロック肝炎研究などの事件を検討
・1974年 米厚生省(DHEW)が資金援助する臨床研究に対する
国家研究規制法 National Research Act成立
倫理審査委員会設置の義務化
→研究計画審査のシステム化
人体実験規則の公布の要求
→被験者保護の法制化 (1991年連邦規則45CFR46制定)
ヒト被験者保護局(OHRP)が ヒトを対象とする臨床研究の
倫理面を監督
・1978年 Belmont Report (生物医学および行動科学研究の
被験者保護のための国家委員会)
→臨床研究の3つの原則:人権の尊重、善行、公正・正義
13
14
(Emanuel EJ et al. Ethical and Regulatory Aspects of Clinical Research )
神の委員会1
生命倫理 (Bioethics)
・1943年にWillem Kolffにより腎不全患者に対する
人工透析機の臨床応用に成功。
・1950年末Scribnerが動脈と静脈をつなぐU字型
チューブのシャントを開発。
・このシャントにより腎透析の長期連用が可能。
・当時、米国では腎不全で毎年10万人の患者が死亡。
・当時透析には1人あたりのコストは$15,000/年、
Scribnerの勤務するワシントン州シアトル市Swedish
Hospitalでは5人の患者の透析に精一杯。
• 米国における1960年代の患者の権利擁護、先端
医療技術の発展(人工透析、臓器移植など)を背
景に70年代米国を中心に発展。
→生命科学技術の進歩、社会情勢の変化に伴い
生じる諸問題を学際的に考察し、これらの諸問題
を解決して行くための指標とする。
Belding Scribner
(1921-2003)
• 1988年、日本生命倫理学会発足
→どの患者が透析を受け、どの患者は受けるべきでないか
誰かが判断を下さなくてはならなくなった。
(http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/327/7407/167)
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16
(李 啓充:http://www.gengendo.jp/iryou-zyouhou/rinsyoukougaku/iryou-history.htm)
神の委員会2
・1961年Swedish Hospitalで「人工腎臓センター管理政策委員会」
の初会合が開かれた。
・7人の委員で構成。
(弁護士、主婦、牧師、州政府吏員、労働組合幹部、銀行家、外科医)
・2人の医師が専門医として委員会の審議にアドバイザーの
立場で加わったが、決定権を持つのは7人の委員だけ。
・委員会が規準としたのは個々の患者の「社会的価値」。
・Scribnerはシアトル市内に非営利の組織である「人工腎臓センター」
を設立。また、社会による資金援助が不可欠としてメディアの協力を
要請。
・委員会は、患者の生死を選別するため、「神の委員会」として
知られるようになった。
→「限られた医療資源」を個々の患者の社会的価値」により
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配分することは妥当か?
(李 啓充:http://www.gengendo.jp/iryou-zyouhou/rinsyoukougaku/iryou-history.htm)
生物医学・医療倫理の4
生物医学・医療倫理の4原則
Belmont Report作成に関わった、ビーチャム・TL、チルドレス・JFが提唱
・自律尊重 (respect for autonomy)
自律的な患者の意思決定を尊重せよ
・無危害 (nonmalficience)
nonmalficience)
患者に危害を及ぼすのを避けよ
・善行 (beneficience)
beneficience)
患者に最大限の利益をもたらせ
・正義・公正 (justice)
利益とリスク・費用を公平に配分せよ
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
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3
がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
ユダヤ人慢性疾患病院研究(1960
年代)
)
ユダヤ人慢性疾患病院研究(1960年代
ユダヤ人慢性疾患病院研究はどのような
事項が問題なのでしょうか?
・米国Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerの医師が患者
22名に「生きた癌細胞」の皮下注射実験を実施
・免疫応答の低下した慢性疾患の末期患者を対象
・皮膚検査と説明され、診療録に実験の同意取得の記載なし
・内部告発により発覚。裁判により、両者敗訴
(http://www.stanford.edu/dept/DoR/hs/History/his06.html)
(李
第20回CSPOR・CRCセミナー
• 被験者に実験についての説明が行われず、同意取得がなされた
か不明 → 自律性尊重原則に反する
• 「生きた癌細胞」の皮下注射による安全性は不明
→ 無危害原則に反する
• 「生きた癌細胞」の皮下注射により患者が受ける利益は不明
→ 善行原則を遵守していない(何の利益ももたらさない)
• 癌以外の疾患による終末期の患者さんのみを対象とした。
→ 正義・公正原則に反する (社会的弱者にリスクを
背負わせた)
19
20
啓充:http://www.gengendo.jp/iryou-zyouhou/rinsyoukougaku/iryou-history.htm)
これまでの臨床研究ガイドラインは、
それぞれ個別の“スキャンダル”に対応
して作られてきた。
このため、必ずしも網羅的・系統的ではない
臨床研究に関する日本政府の指針
・薬事法に基づく医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令
薬事法に基づく医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令
(1997年告示、2002、08年改正)
1990年「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」通知
・ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針
→ 系統的かつ網羅的、わかりやすい
倫理ガイドラインが必要であると考えられた
(2001年告示、04、05、08年改訂)
・ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律
ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律 (2000年制定)
、及び特定胚の取扱いに関する指針
特定胚の取扱いに関する指針 (2001年告示)
・ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針 (2001年告示)
・疫学研究に関する倫理指針 (2002年告示、04、05、07年改訂)
・臨床研究に関する倫理指針 (2003年告示、04、08年改訂)
・遺伝子治療臨床研究に関する指針 (2002年告示、04、08年改訂)
「What Makes Clinical Research Ethical?」
Ethical?」
Emanuel EJ, et al.
JAMA 283:2701283:2701-11, 2000
JID 189: 930, 2004
21
臨床研究における8
臨床研究における8つの倫理的要件
22
臨床研究における8
臨床研究における8つの倫理的要件1
1)研究を実施する地域社会との連携
・Community の価値観、
・研究を実施する地域社会との連携 (Collaborative Partnership)
・社会的・科学的価値 (Social or Scientific Value)
・科学的妥当性 (Scientific Validity)
・適正な被験者選択 (Fair Subject Selection)
・適切なリスク・ベネフィットバランス
(Collaborative Partnership)
文化、伝統、実地医療の尊重
・被験者・community伴に
研究から利益を享受
(Favorable Risk-Benefit Ratio)
・知的所有権、経済的利益
・第三者による独立した審査 (Independent Review)
・インフォームド・コンセント (Informed Consent)
・候補者および被験者の尊重
など の公正な分配
→搾取を行わない!
(Respect for Potential and Enrolled Subjects)
23
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2575877/3859959
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
24#60
4
がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
第20回CSPOR・CRCセミナー
臨床研究における8
臨床研究における8つの倫理的要件2
臨床試験の登録制度
2)社会的・科学的価値
社会的・科学的価値 (Social or Scientific Value)
将来の診断法、治療法や公衆衛生の進歩・発展に貢献
する結果/結論を導くことができる。
・研究を実施しようとする分野について、網羅的
、公平な知識(標準治療は何か?)
→既知の事実しか導き出せない研究は X
・臨床試験が開始時に公的に登録されることにより、
研究を倫理的に実施して正直に報告する義務を促す。
・医学雑誌編集者国際委員会は、2005年7月以降に症例の登録を開
始する全ての臨床試験を公的な臨床試験登録システムに登録するこ
とを要求。
(第 I相試験などの薬物動態や毒性を調べる試験は適応されず)
(JAMA 292:1363, 2004)
ー エビデンスに基づく研究計画
ー 臨床試験の登録制度
ー 研究者の教育
・日本では、UMIN (大学病院医療情報ネットワーク)が2005年6月より
臨床試験登録システムを運用開始。
(http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm)
など
25
26
→Negativeな試験結果でも公開により研究者が責任を負う。
臨床研究における8
臨床研究における8つの倫理的要件3
3)科学的妥当性
科学的妥当性 (Scientific Validity)
一般的に正しいと認められた科学的原則に基づいて
研究を実施
・研究を行う当事者は臨床研究の方法論を十分に習得。
ー 論証研究の支援体制(生物統計家、データ管理など)
4)適正な被験者選択
適正な被験者選択 (Fair Subject Selection)
適切な適格規準・除外規準の設定
不適格例を登録しない仕組み・適格性の事後チェック
→社会的弱者の不当な勧誘 (囚人、学生など)
27
キセナラミン事件
28
臨床研究における8
臨床研究における8つの倫理的要件4
1963年ある製薬会社が未承認の抗ウイルス薬キセナラミンの人体実験
を実施。社員を対象とし、104名に実薬、103名にプラセボを服用させた。
5)適切なリスク・ベネフィットバランス
適切なリスク・ベネフィットバランス
(Favorable Risk-Benefit Ratio)
キセナラミン服用のうち76名(73%)が服用終了直後までに、何らかの症
状を訴え、服用終了後の約2週間後までに17名が入院、うち1名が死亡。
社員に投与する際に「これは風邪薬です。イタリアでは市販されていますけ
ど、効果を確かめたいので飲んで下さい。副作用はありません。」
と会社の業務の一部であるかのような説明が行われていた。
東京法務局人権擁護部へ人権侵害の申し立て。
(生命倫理学講座p154, 日本評論社, 2002年、
我が国の薬害と行政対応の歴史的経過:医薬品情報21 http://www.drugsinfo.jp/2007/08/15-232000)
被験者のリスクとベネフィットの明確化
被験者のリスクの最小化・被験者の利益の最大化
・適切な治療方法の規定
(治療変更規準・支持療法含む)
・適切な毒性評価・有効性評価
・試験のモニタリング(有害事象、プロトコール遵守)
29
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
30
5
がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
シスプラチンやシクロフォスファミドによる化学療法に伴う悪心に
対するセロトニン受容体拮抗薬とプラセポのランダム化比較試験
ランダム化
悪性腫瘍
シスプラチン≧80mg/m2
の化学療法
グラニセトロン
両群とも症状
出現時には
グラニセトロンを
追加投与
プラセボ
化学療法開始24時間後までの悪心・嘔吐の頻度を比較
第20回CSPOR・CRCセミナー
臨床研究における8
臨床研究における8つの倫理的要件5
6)第三者による独立した審査
第三者による独立した審査 (Independent Review)
研究と利害関係を持たない独立した第三者による研究
デザイン、対象、リスク・ベネフィットの評価
(Eur J Cancer 26:s23, 1990)
・これらの試験が実施された1980年後半には既に化学療法の悪心に対して
メトクロプラミドやステロイドなどの標準的治療が存在
→この時点でセロトニン拮抗薬とプラセボを比較し、優越性を検証する
社会的価値はない。
→悪心・嘔吐は不快な症状であり、既に他の代替療法が存在し、
プラセボ投与群に対するリスク・ベネフィットバランスは適切とは言えない。
*同時期に、メトクロプラミドとセロトニン拮抗薬との比較試験も実施されていた。
31
HighHigh-dose chemotherapy for highhigh-risk primary breast
cancer: an onon-site review of the Bezwoda study
HighHigh-dose chemotherapy for highhigh-risk primary breast
cancer: an onon-site review of the Bezwoda study
・当時、米国をはじめとして再発高リスクの乳癌術後において
通常化学療法と大量化学療法のランダム化比較試験がい
くつか実施されたが、Bezwodaらによる試験以外は大量化
学療法が優れていることを証明できなかった。
・国際的な大規模試験を検討するため、Bezwodaらによる臨
床試験について米国の研究者が実地調査を実施。
ランダム化
乳がん術後
腋窩リンパ節転移
10個以上
32
(JAMA 283:2701, 2000)
(
通常量化学療法 (CAF療法) N=79例
大量化学療法 (CPA/MIT/VP-16) N=75例
審査結果
- インフォームド・コンセントが文書で取得されていない、
- 施設の倫理審査委員会での承認記録が存在しない。
- コントロール群である通常化学療法群の記録が存在しな
い、大量化学療法群では58例の記録が存在 (公表データ
では75例)
などの不正が認められた。
→臨床試験における第三者による審査の重要性が改めて認
識された。
(Proc ASCO 18:abstr 4, 1999)
33
(Lancet 355:999, 2000)
34
(Lancet 355:999, 2000)
インフォームド・コンセントの法的根拠
臨床研究における8
臨床研究における8つの倫理的要件6
つの倫理的要件6
7)インフォームド・コンセント
インフォームド・コンセント (Informed Consent)
研究目的、方法、リスク・ベネフィット、代替治療の充
分な説明(information)、理解(comprehension)、自発
同意(voluntariness)
医師法23条 (昭和23年法律第201号 )
医師は、診療をしたときは、本人またはその保護者に
対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項
の指導をしなければならない。
医療法1条 4の2 (昭和23年法律第205号 )
医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担
い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行
い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければ
ならない。
→ICを取得しないで医療行為を行えば、その医療行為
に過誤がなくても、その医療従事者に損害賠償責任
が追及される。
35
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
36
6
がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
インフォームド・コンセント (IC)
第20回CSPOR・CRCセミナー
国立大学医学部「無断臨床試験」
• 「インフォームド・コンセント」とは、被験者の治験への参加の意思決定
と関連する、治験に関するあらゆる角度からの説明が十分なされた後
に、被験者がこれを理解し、自由な意思によって治験への参加に同意
し、文書によってそのことを確認することをいう。
• この際の説明に用いられる文書が「説明文書」である。治験への参加
に同意することを確認する文書が「同意文書」であり、被験者(若しく
は代諾者)と治験責任医師等の記名なつ印又は署名と日付が記入さ
れる。
・1997年に国立大学医学部付属病院で卵巣癌術後51歳
(女性)は、術後抗がん剤投与時の腎障害のため1コース
で中止、 転院し他の治療を受けたが翌年死亡。
・CP(CP/CDDP)とCAP(CPA/ADM/CDDP)のランダム化比較試験
に無断で登録され、CP療法を受けた。 しかも、CDDP
1回投与量は90 mg/m2と標準量(50)より高用量。
・遺族は、国を相手取り約1100万円の賠償を求めた訴訟
を起こした。
→地裁・高裁判決にてともに原告勝訴、説明義務違反
による精神的苦痛が認められた。
(医薬品の臨床試験の実施の基準の運用について:厚生労働省通知平成20年10月)
37
38
臨床研究の8
臨床研究の8つの倫理要件(まとめ)
臨床研究における8
臨床研究における8つの倫理的要件6
倫理要件
詳細要件
Collaborative partnership
8)候補者および被験者の尊重
候補者および被験者の尊重
共同パートナーシップ
(Respect for Potential and Enrolled Subjects)
社会的/科学的価値
順
Scientific validity
科学的妥当性
番
Fair subject selection
に
Favorable risk-benefit ratio
考
適切なリスク/ベネフィットバランス
Independent review
Informed consent
インフォームドコンセント
39
Respect for potential and
enrolled subjects
社会的弱者の保護・過大なリスクのある被験者の除外
利益を受ける集団とリスクを受ける集団が解離しない
リスクの最小化・ベネフィットの最大化
被験者のリスクに見合う被験者/社会のベネフィット
研究と利害関係を持たない独立した第三者による
デザイン・対象・リスク/ベネフィットの評価
研究目的・方法・リスク・ベネフィット・代替治療の
充分な説明(information)、理解(comprehension)、自発同意(voluntariness)
同意撤回の自由、プライバシー保護
開始後の新知見や研究結果の説明
継続的な被験者保護の監視
(候補者を含む)被験者の尊重
事務局
え
る
!
第三者審査
一般的に認められた科学的方法論
適切な統計手法・正しいデータ
市民委員
適正な被験者選択
診断・予防・治療の向上に貢献、疾患・健康に有用な知識を得る、
既にある知識や無駄な重複ではない
専門 家
こ
の
Social or scientific value
・同意撤回の自由
・プライバシーの保護
・試験中に得られた新たな知見や試験結果の情報提供
・被験者に対する福利厚生の保証(有害事象の対応)
研究成果はコミュニティで共有
成果のみの搾取は防止
関係者は協調して研究を行う
40
米国の被験者保護体制(1)
米国の被験者保護体制(1)
• 体制
被験者保護のためのしくみ
– 連邦規則
• Common Rule
各管理監督機関共通のルール
– NIHの45CFR46 subpart A
– 新薬開発を所管する食品医薬品局(FDA)は21CFR50, 56
– “治験”、臨床試験、臨床研究は基本的に同じルールに基づく
– 管理監督機関
• 被験者保護局(OHRP:Office for Human Research Protection)
– IRB登録、施設の米国連邦保証制度(FWA)承認、監査、教育
– スポンサー(研究費配分機関)
• 研究費の配分条件は施設のFWA承認。
– FWA 取り消し
→
施設への研究費差し止め
• FWA承認→各施設でHRPPが必要
-教育、方針の策定、プロトコール審査、試験モニタリングなど
41
(HRPP:Human Research Protection Program 被験者保護プログラム)
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
42
7
がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
米国の被験者保護体制(2)
米国の被験者保護体制(2)
日本の被験者保護体制(1)
日本の被験者保護体制(1)
• 米国における「被験者保護」
• 体制
– 定義:Human Subjects Protection is a Shared Responsibility
– 規制
• 治験に関しては、薬事法による「医薬品の臨床試験の実施
の基準に関する省令」(GCP)あり
• その他の医学研究は、通知の位置づけの各種倫理指針あり
• 被験者はみんなで責任をもって守るもの
– みんなとは(HRPPにおけるkey player)
•
•
•
•
•
•
•
施設長
IRB委員/委員長
IRB管理者
研究者
研究スタッフ
他の内部スタッフ (試験薬係、放射線管理士、他)
外部(スポンサー、被験者、規制当局)
第20回CSPOR・CRCセミナー
– 管理所管機関(GCP/倫理指針ごとに異なる)
• 厚生労働省、文部科学省、経済産業省??
– スポンサー(研究費配分機関)
• 厚労科研費研究では「臨床試験登録」や「利益相反開示」
を義務化
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日本の被験者保護体制(2)
日本の被験者保護体制(2)
44
日本の被験者保護体制(3)
日本の被験者保護体制(3)
各種研究倫理指針ー医学研究にのみ適用ー
• 臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)
• 日本における「被験者保護」
– 主に医療行為の介入研究を対象 (H20年7月31日全部改正、翌年4月1日施行)
– 定義
• 倫理審査委員会の監視機能強化
– 有害事象報告、年次審査、終了報告
• 「臨床研究に関する倫理指針」の前文より
• 国としての管理体制
(H20年7月31日改正)
– ・・・臨床研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的
及び社会的利益よりも優先されなければならない。・・・被験者
の人間の尊厳及び人権を守る・・・
– 臨床試験登録、年次報告、重篤な有害事象報告
• 研究者の教育義務化 臨床研究倫理と研究に必要な知識
• 倫理審査委員会委員の教育推奨(内容の特定なし)
– 研究機関の長の責務として盛り込まれた
– GCP(薬事法)/各種指針
• 研究機関の長、研究者/研究代表者、倫理審査委員会
、スポンサー(GCPのみ)の責務を規定
• 疫学研究に関する倫理指針(厚生労働書・文部科学省)
– 主に観察研究と医療行為以外の介入研究 (H19年8月16日全部改正)
• ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針 (厚労省・文科省・経産省)
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– 生殖細胞遺伝子を含む研究に適用 (H20年12月1日一部改正)
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利益相反 (Conflict of Interest)
患者の福祉や研究の妥当性などの一次的な利益(Primary
Interest)が資金獲得などの二次的な利益(Secondary
Interest)によって不当に影響を及ぼされる恐れがある状況。
臨床研究における倫理的問題
・利益相反(Conflict
・利益相反(Conflict of Interest)
・不正行為(Misconduct)
・不正行為(Misconduct)
一次的な利益
医師、学者、教師などの専門職の義務により決定。(医師な
ら、患者の健康、研究の誠実性など)
二次的な利益
金銭、名声、権力欲、娯楽など、一次的な利益より派生する
もので、通常、それ自身に違法性はない。専門職として実務
上、必要となることもある。
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(Thompson DF, N Engl J Med 329: 573, 1993)
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
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がん臨床試験 –知っておきたい研究倫理- (安藤正志)
第20回CSPOR・CRCセミナー
利益相反の開示
ゲルジンガー事件
臨床研究に関する倫理指針:厚生労働省
・1999年9月 ペンシルバニア大学にて遺伝子治療中の
ゲルジンガー(18歳)が死亡
・オルニチン・トランス・カルバモイラーゼ欠損症で、
ウイルスによる欠損酵素の遺伝子注入の臨床試験に参加。
・ウイルス感染による多臓器不全で死亡。
・ゲルジンガーの死亡後、米国食品医薬局(FDA)が調査。
-肝機能は試験参加への適格規準を満たさず。
-以前に認められた重篤な副作用をFDAに報告されず。
-被験者に対してリスクの説明が十分に実施されず。
→FDAは、当該機関での全ての遺伝子研究中止を命じた。
・2000年9月 遺族は、担当医らを相手に民事訴訟を提起。
-試験責任医師は、当該研究のスポンサー企業の株式を保有。
-ペンシルバニア大も株式を保有。
-被験者に利益相反は開示されず。
(三瀬朋子著 医学と利益相反 弘文堂)
第2 研究者等の責務等
(2) 研究責任者は、・・に必要な事項を臨床研究計画に記載
しなければならない。
ト 当該臨床研究に係る資金源、起こりえる利害の衝突
及び研究者等の関連組織の関わり
第4 インフォームド・コンセント
1 (1) 研究者等は、臨床研究を実施する場合には、被験者に
対し、・・・方法及び資金源、起こりえる利害の対立、
・・について十分な説明を行わなければならない。
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Take Home Messages
不正行為 (Misconduct)
• 人体実験の悲惨な歴史から、研究倫理や医療倫理は確立
• 医学の発展には人を対象とした研究は必要不可欠
– 人を対象として研究をするからには、被験者を保護し、倫理
的に行わなければならない
• 倫理的か否かは、倫理原則や指針等の判断規準を参照
ヘルシンキ宣言
ベルモントレポート
医療倫理の4原則
臨床研究の8つの倫理要件
• 被験者保護の実践には、研究倫理の概念の理解が必要
・不正行為研究とは、研究の提示、実施、検討または
、結果の報告に際しての
捏造(fabrication)、
改ざん(falsification)、
盗用(plagiarism)
を指す。
・悪意のない誤りまたは見解の相違は不正行為研究には
含まれない。
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被験者保護は、IC、倫理審査委員会、
個人情報保護だけではない
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Federal policy on research misconduct 2000 (www.ostp.gov/ html/001207.html)
html/001207.html)
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
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