はと時計

はと時計
[ウィリアム・メレル・ヴォーリズ]
William.Merrell.Vories(1880∼1964)
『すばらしいクリステャンたち Ⅱ』大槻道子著(聖イエス会)によると日本を愛した宣教師・
設計建築家。結核療養所や「近江兄弟社」(メンソレータムでも有名)設立など、神中心の愛
と奉仕による事業をとおして日本の文化とキリスト教の求霊貢献とあります。
11月号
2012年11月19日
松蔭中高図書館
担当;北尾
library@shoin-jhs .ac.jp
[ウィリアム・モリス]
William.Morris(1834∼1896)
ウィリアム・モリスは「装飾家・詩人・作家・デザイナー・出版社創立・・・と、多彩
で途方もない活力と強靭な精神を持った人だったようです。『図説ウィリアム・モ
リス』(ダーリング・ブルース他著 河出書房新社)の冒頭にあるモリスの言葉。
「人間は真剣に考えたり、想像したりする時間をいや、そればかりか夢を見る時間
さえ持たねばならない。そうしないと人類は必ずや悪い方向に進むだろう。」
考えたり、夢見たりすることは必要ですね。
美術評論家のジョン・ラスキンの影響で40代から政治運動にかかわって社会主義
へと傾いていったモリスは北欧文学と出会い、アイランド・サガの翻訳やファンタ
ジー作品を次々出版していきました。独自の美学を持って印刷工房ケルムスコット
プレス社を設立。手造りの装丁の本はすばらしい芸術作品です。晩年に創作した
『ユートピアだより』『世界のかなたの森』や歴史ロマンス『不思議なみずうみの
島々』は120年たった今も読みつがれています。著作集を大学の荒井章三先生が
寄贈してくださいました。美しい本を見ると“読書の秋”がしたくなります!!
・『ケルムスコット・プレス』ウィリアム・S・ピータースン著 湊典子訳(平凡社)
ウィリアム・モリスと ウィリアム・メレル・ヴォーリズ
ウィリアム・モリスはヴィクトリア朝時代、イギリスはウォルサムストウに9人兄
弟の長男として生まれ、大事業を営む父が建てたウッドウォールホールのレンガ造
りの屋敷と広い庭園、森に囲まれて育ちました。今はギャラリーになっています。
オックスフォード大学で中世の歴史、美術に夢中になり親友のエドワード・バーン=
ジョーンズ(物語世界を描く絵画の巨匠「バーン=ジョーンズ展」も6/23∼8/19に
東京丸の内、三菱一号館美術館で開催していました)と当時の折衷主義的精神に対
抗した兄弟団モリス商会(1861)を創設しました。『モリス以後の工芸美術アーツア
ンドクラフト』(S・アダムス著 野中邦子訳 美術出版社)に詳しく書かれています。
ステンドグラス、壁紙、家具、装飾品から教会全体の内装まで草花や鳥など自然のも
のをモチーフに美しいデザインで創りあげていきます。手仕事を存分に生かしたす
ばらしい装飾がほどこされた夢の館レッドハウスやロンドン校外の別荘ケルムスコッ
トマナー『芸術家の家』(G・ルメール著 矢野陽子訳西村書店)に一度行ってみたいです。
ふたりのウィリアムさん
秋も深まり、運動で汗を流しても、じっくり本を読んでも、一人旅しても、
絵を描いても、何をするにもいい季節になりました。「青いターバンの少女に
会いに行きましたか?展覧会や音楽、劇などの鑑賞もいいですね。
職員室の横の掲示板に貼ってあったすてきなポスターに気づきました?
「ウィリアム・モリス展」が開催されていました。(明石市立文化博物館11/11まで)
今月は、ふたりの“ウィリアム”さんを紹介しましょう。
ウィリアム・メレル・ヴォーリズは1880年10月アメリカ・カンザス州レブンワーズの由緒あ
る家に生まれ、キリスト教信仰のあつい両親に育てられました。神を礼拝する教会生活の中
で4歳のとき聴いたパイプオルガンと聖歌隊の合唱に感動し、音楽も生涯切り離せない神聖な
ものとなりました。コロラド大学中、外国伝道の義勇団代表で派遣されるという人生の転機
をむかえます。1905年2月、24歳で神の召命によりアメリカから日本の琵琶湖のほとり、近江
八幡の県立商業高校の教師として英語を教えにやってきました。
もともと建築家をめざしていたヴォーリズは京都学生YMCA会館を建て「ヴォーリズ建築事務所」
を設立します。近江八幡、京都、大阪をはじめ各地に学校、教会、病院、個人の住居など設計して
いきました。『ヴォーリズ建築の100年』山形政昭監修(創元社)を見てください。もちろん、
地元神戸にも、山と海そして坂にすっきりマッチする、居心地が良くて使い勝手のいい設計の
洋館が数多くあります。六甲山の神戸ゴルフ倶楽部、また旧外国人別荘地にある六甲山荘は昭
和初期のモダン建築として有名です。今は西宮の上ヶ原にある関西学院は開学当時、原田の森
(王子動物園のあたり)にあったのを移転しました。また、周りの風景との調和を考えて設計
されたすてきなキャンパスの神戸女学院(後にヴォーリズと結婚した一柳満喜子の母校)もそ
うですね。その数1000を超える建物を設計したヴォーリズ。アーチ型の柱、中庭を見渡せる
渡り廊下、滑り降りたくなる幅広の手すりのついた階段やバルコニー。そのすべてがすばら
しいのです。大阪の大丸心斎橋店を設計した際、壁に色鮮やかな孔雀の模様を装飾し大丸の
シンボルマークとなりました。ピーコックストアはそこからきているのですね。
39歳で播磨小野藩の大名の娘、一柳満喜子と結婚して近江兄弟社の始まりとなる清友園幼稚園
を設立しました。ドラマチックなヴォーリズとの出会い、学校教育にたずさわるようになった
いきさつ、海外留学や津田梅子との交流など一柳満喜子の生涯を描いた『負けんとき ヴォー
リズ満喜子の種まく日々』玉岡かおる(新潮社)も一読の価値がありますよ。
建築だけでなく詩人であり、音楽家でもあったヴォーリズは、信仰あつい伝道者であり日本の
国を愛して一柳米来留(ヒトツヤナギ メレル)と改名して生涯、近江の地で暮らしました。
『ヴォーリズさんのウサギとカメ』山崎富美子文 山崎さやか絵 (上ヶ原文庫)
『滋賀県の歴史散歩 下 彦根・湖東・湖北・湖西』(山川出版社)
『近代建築さんぽ』藤村郁雄文 松尾稔写真 (神戸新聞総合出版センター)
他『歴史遺産 日本の洋館』(講談社)などを参考にしました
洋風建築の町並みが残る近江八幡にはヴォーリズが住んだ家が「記念館」として保存され当
時のおもかげがしのばれます(見学は予約が必要)。サンセットになると閉店するという大き
な窓ガラスから湖岸の夕日を眺められるロマンチックな喫茶店もあります。すこし足をのば
して彦根に行くとゆるキャラで有名なあの“ひこにゃん”(彦根城)に会えますよ。
・『デザイナーとしてのウィリアム・モリス』
レイ・ワトキンソン著 羽生正気・羽生清訳(岩崎美術社)他
参考文献
さわやかな秋の空の下、日本一大きな湖のほとりをのんびり散策するのはいかがでしょう?