米座(こめくら)と金座(かねくら) -来年の神宮式年遷宮は、金座へ遷御― はばたきシニア倶楽部(読奨 3 期) 東 村 篤 四日市大学経済学部経営学科教授 (写真・左「五十鈴川に架かる宇治橋」、右「冬至には内宮宇治橋の真ん中に朝日」東村) 2011 年 1 月末で米寿を迎えた実母介護のため 39 年勤務した証券会社を退職、生活拠点 を東京から 27 年ぶりにふるさと伊勢へ移しまして、同年 4 月、大学常勤教員に任用され新 天地の学校法人暁学園四日市大学で第二の人生を送っております。専門は、中小企業経営 論、ベンチャービジネス論、コーポレート・コミュニケーション論です。証券会社での実 務経験を教育・研究活動に生かすべくフィールドワークから経営を見る眼を養い2つのC IPO(新規上場支援、知的財産統括責任者)の視点から地域のイノベーター人材を輩出、 疲弊した地方経済を活性化に繋げようと中国、カンボジアからの留学生を交えたゼミ活動 を通じて積極的な展開を開始しております。 そこで、年頭でもありますので「遷宮と経済」について拙文を記させていただきます。 ご存知でしたか?神の国、心のふるさと伊勢の不思議な現象、夏至の季節になると夜明け には朝日が、二見浦夫婦岩の男岩(立岩)と女岩(根尻岩)の間、快晴等気象状態が良好 なときには遠景に富士山の向こうから昇ります。日没になると、月は、伊勢神宮内宮宇治 橋と鳥居の間に昇ります。冬至の季節になると夜明けには朝日が、伊勢神宮内宮宇治橋の 真ん中から昇ります(写真・上右) 。日没になると、月が二見浦夫婦岩の男岩(立岩)と女 岩(根尻岩)の間に昇ります。両スポットには夜明け前からカメラを持った老若男女で賑 わいます。パワースポットの一つとして若い女性、外国人観光客からも人気を集め 2011 年 には伊勢神宮への年間参拝客が過去最高記録を更新し 900 万人に達しようとしています。 2000 年も前に、丹後国の元伊勢(福知山市大江町)から内宮は転々し現在の地に鎮座した のも自然現象をも鑑み総合的に適地として選定したに違いない。その意識行動は“非日常 的な空間”神秘さにあるのではないでしょ うか?。 いにしえの時代から伊勢は斎宮制度をは じめ朝廷(皇室)との結びつきが深く今日 もなお京都の文化の影響を強く_受けてき ています。なかでも伊勢神宮の祭りごと(年 間)は、約 1,500 にのぼりモノづくりとと もにコトづくりを今もなお伝承しています。 1993 年(平成 5 年)の遷宮で伊勢神宮内宮 と外宮の御正宮御敷地(ごしょうぐうみし きち)は西から東へ遷御『米座(こめざ・ こめくら) 』されました。来年 2013 年(平 成 25 年)の第 62 回式年遷宮では、現在の 東から西へ遷御『金座(かねざ・かねくら)』 されます(厳密には、現在の御正宮御敷地 は参道から正宮に向かって内宮は右側・奥 側にあり、外宮は、参道から正面に向かっ て右側・手前側にある、内宮は、東西に位 置するが外宮は、北寄りに位置しており参 道から向かうと逆になるので注意が必要・ 写真上「伊勢神宮外宮御正宮」 、中「外宮新 御敷地図・正宮右隣り」 、下「外宮北御門広 場・ドンドコ火」撮影東村) 。 伊勢では、昔から東に神様がおられる時 代は平和で心豊かな「精神の時代」 、西に神 様がおられる時代は波乱、激動、物質欲が 強い「経済の時代」と「遷宮は時代の転換 点となることが多い」と言い伝えられてき ています。思想、考え方において、東洋と 西洋、とりわけ日本と米国とは対峙してお り世界の中でどちらの国に存在感があるか によっても価値観が異なっています。日本 人は、古来、 “火と水は対立しないもの”という考え方に基づいており“自然のなかの人間” の精神思想です。 幕末からの歴史(表「遷宮と経済」参照)を紐解くと、1849 年~1869 年(嘉永 2 年~ 明治 2 年)は「西」にあり黒船の来航や戌辰戦争がありました。1869 年(明治 2 年)の遷 遷宮と経済 西暦 元号 1809年~ 1829年 1829年~ 1849年 文化6年~ 遷座 伊勢の出来事 日本・世界の出来事 第52回式年遷宮(光格天皇) 月 20年代中南米のスペイン、ポルトガル植民地が相次いで 金座(西遷御) 僊没 独立 第53回式年遷宮(仁孝天皇) 古 29江戸大火、30おかげまいり流行、37大塩平八郎の乱 文政12年~ 米座(東遷御) 市では じめ て「 伊勢 音頭 恋寝 刃」 初演 第54回式年遷宮(孝明天皇) 1849年~ 1869年 嘉永2年~明治2年 1869年~ 1889年 明治2年~明治22年 1889年~ 明治22年~明治42年 1909年 1909年~ 1929年 明治42年~昭和4年 1929年~ 1953年 昭和4年~昭和28年 1953年~ 昭和28年~昭和48年 1973年 1973年~ 1993年 昭和48年~平成5年 1993年~ 2013年 平成5年~平成25年 53黒船来航、55江戸地震、58安政の大獄、60桜田門外の 変、62生麦事件、67大政奉還、68鳥羽・伏見の戦い、戊 辰戦争 第55 回式 年遷 宮明 治天 皇神 宮に 73 皇 紀 ・ 太陽 暦 東 京遷 都 版 籍奉 環 戊 辰戦 争終 わる 米座(東遷御) 参 拝 廃 仏運 動推 進 度 会県 と改 文明開化 近代化 称 宮川橋できる 第56 回式 年遷 宮( 明治 天皇 )合 大日本帝国憲法発布,日清戦争、日露戦争、日韓併合 併 し て 宇 治 山 田 町 ( 人 口 27,234 金座(西遷御) 人) 古市長盛座新築 油屋旅館に 転業 第57回式年遷宮(明治天皇) 外 大正ロマンを謳歌、14宝塚歌劇開業、14~18第一次世界 宮 前に 山田 郵便 局新 築 /10 市電 大戦、25ラジオ放送開始 米座(東遷御) 本町古市口間開通 神宮徴古館開 設 第58回式年遷宮(昭和天皇) 奉 29二.二六事件、NY株式市場大暴落、浜口内閣発足、 39 ~ 45 第 二 次 世 界 大 戦 、 49 戦 後 の混 乱で 遷宮 を4 年延 金座(西遷御) 幣祭 30伊勢電鉄開業 期、53衆議院バカヤロー解散、53NHKテレビ放送開始 第59回式年遷宮(昭和天皇)戦 日本高度経済成長、三種の神器(テレビ、冷蔵庫、洗濯 機)、59伊勢湾台風、64東京オリンピック、東海道新幹 米座(東遷御) 後初、白石持ち55伊勢市 線開業、70大阪万国博覧会 第60回式年遷宮(昭和天皇)、 73第一次、第二次石油ショック 85プラザ合意、87NT T上場、中東湾岸戦争 89天皇崩御、バブル景気、 金座(西遷御) 白石持ち75三重国体 9、1ソ連崩壊 第61回式年遷宮(今上天皇)、 93能登半島沖地震 Jリーグ開幕 90バブル経済崩壊、デ 白石持ち、おかげ横丁 12せん フレ不況 新興国台頭、95阪神・淡路大震災、オウム事 ぐう館開設、伊勢赤十字病院移 件、08中国四川省大地震、リーマン・ショック、09ドバ 米座(東遷御) 転開院 イショック、10上海万博、11東日本大震災、東電福島第 一原発放射能漏れ事故、新興国民主化運動、タイ洪水、 EU圏信用不安 白石曳き 第62回式年遷宮 金座(西遷御) 2013年~ 平成25年~平成45年 金座(西遷御) 2033年 各種資料により東村作成 ※出来事は、期間の主な出来事、遷宮遷御は、10月に行われる。 宮で「東」に遷ると、文明開化で近代化への発展期となりました。1889 年~1909 年(明治 22 年~明治 42 年)は「西」に遷り、この間、日清・日露の戦争の時代でした。1909 年~ 1929 年(明治 42 年~昭和 4 年)は、 「東」に遷御、大正ロマンを謳歌する時代となりまし たが 1929 年(昭和4年)の遷宮で、 「西」に遷り、激動の第一次世界大戦に突入しました。 敗戦後の混乱で 1949 年(昭和 24 年)が4年延期され 1953 年(昭和 28 年)に遷宮、1953 年~1973 年(昭和 28 年~昭和 48 年)までは「東」に遷座されて目覚ましい日本の高度経 済成長期を齎しました。1973 年(昭和 48 年)の遷宮では「西」へ遷り、1983 年(昭和 58 年)までの前半は石油ショック、1993 年(平成 5 年)までの後半には、中東湾岸戦争やソ 連崩壊、ベルリンの壁崩壊で東西の冷戦構造は崩れ去りました。この間、日本は、異常な バブル景気を謳歌しましたがその反動へと突入しました。1993 年(平成 5 年)の遷宮では 「東」に遷御、その後はデフレ不況が長引き“失われた 10 年”も未だ出口なき時代にあり ます。グローバル化の波で中国、インド、ブラジルをはじめとした新興国が台頭し、これ ら新興国の高度経済成長に先進国をはじめ世界の国々が支えられる構図となっています。 しかし、2011 年は、東日本大震災、新興国の民主化、EU圏の信用不安で先行きに不確実 性さが増してきました。 さて、2013 年(平成 25 年)の「西」への遷御では、どうなるのでしょうか?過去の例 から見れば、 「西」つまり「金座」は経済の時代ということになります。私見ですが「金座・ 経済の時代」 (2013 年~2033 年)は 21 世紀の新しい秩序の下で、新たな価値観に基づい た世直しの時代に入ることでしょう。
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