重症心身障害者の環境移行に関する研究(その1) 在宅生活の実態とケアホーム入居に対する親の意識 正会員 ○西村 顕 同 戸﨑友理 同 野口祐子 同 大原一興 同 藤岡泰寛 重症心身障害者 入浴 ケアホーム 親の意識 下、重症者)の平均寿命は大幅に延び、地域生活の場の 先行研究等により明らかになった介助負担の大きい入浴 介助の視点から在宅介助の実態を整理し、次に地域移行 の拠点でもあるケアホームに対して、重症者の親はどの ように考えているのか、その意識について把握した。そ れらの結果より、重症者の地域生活の場について新たな 知見を得ることを目的とする。 2.調査方法 n=13 0 週0回 8 持家共同 13 13 2 12 賃貸戸建 2 賃貸共同 10 8 2 8 n=40 n=3 図2 住宅形態と浴室の大きさ 8(6.7%) R2=0.68** 0.59** 訪問入浴 6(5.0%) 0.43** 施設入浴 座位の状況 0.36** 11(9.2%) 24(20.0%) 10 20 30 40(人) 【説明変数】年齢、性別、体重、身長、親の年 齢、座位の状況、親の腰痛、浴室の大きさ、緊 張、てんかん、人工呼吸器、気管切開、酸素、 吸引、経管栄養、住宅所有形態、ヘルパー、訪 問入浴、施設入浴、 リフトの20項目 図3 1週間の自宅入浴頻度 週7回 に影響を及ぼしている要因を探るため重回帰分析をおこ なった。「入浴頻度」を目的変数として、説明変数は 自力で座位がとれる 「年齢」「体重」「身長」など20項目を設定した。その 支持具等があればとれる p<0.01 ** 16(13.3%) 0 ︻目的変数︼ 週1回 3.1 入浴頻度とその要因 17 自宅入浴頻度 は約1坪以下が多いことがわかる(図2)。 19 n=28 n=1 9(7.5%) 週4回 週2回 5 n=49 18(15.0%) 週6回 模は、持家戸建住宅では約1坪以上が多く、共同住宅で 結果、「訪問入浴の利用有無」「施設入浴の利用有無」 50 持家戸建 28(23.3%) 週5回 無回答 n=26 40 週7回 週3回 浴していることがわかった(図3)。そこで、入浴頻度 30 10 図1 年齢別にみた体格 宅の所有形態は持家戸建住宅がもっとも多く、浴室の規 重症者の約半数は、ほぼ毎日(週5回以上)自宅で入 n=62 坪以上 1.25 長は149.7cmであった。年齢構成と体格を図1に示す。住 n=18 20 ︻住宅形態︼ 平均身長:149.7(±12.7)cm 10 歳代 0 平均体重:34.6(±11.5)kg 歳代 であり、平均年齢は27.6歳、平均体重は34.6kg、平均身 20 kg 145.0 140 歳代 80%)であった。対象者の年齢構成は18歳から52歳まで 150.2 約1坪 148.9 cm 150 148.2 歳代 アンケートの配布数は150部、回収数は120部(回収率 30 155.4 ことから、ケアホームに対する親の意識を分析した。 3.調査結果 40 35.2 160 歳代 地域生活の場としてケアホームの活用に力をいれている 33.1 31.4 【浴室の大きさ】 ︶ 入浴環境に対象を絞った。さらに横浜市では、重症者の 170 (人) 体重︵ 握するため、介助負担が大きく環境改善のニーズが高い 48.0 50 44.7 ︶ 療的ケアを必要としている。重症者の在宅生活実態を把 180 身長︵ 施した。対象者の9割以上が車椅子を使用、約7割は医 ***** 約 り、その通所施設の利用者に対してアンケート調査を実 **** 方 法 各通所施設を通して利用者の親にアンケート用紙を配布 および回収 項 目 基本属性:10 項目(性別、年齢、体重、身長、障害者手帳、 移動方法、座位の状況、医療的ケア等の有無等) 家屋状況:5項目(住宅所有形態、浴室の大きさ、福祉用具等) 入浴状況:5項目(1週間の入浴頻度、入浴サービス利用等) ケアホームに関する意識:5項目(入居希望、考え方等) 有効回収数 計 120 名(配布数 150 部、回収率 80.0%) 回答者内訳(母親 112 名、父親 7 名、その他1名) 調査時期 2012 年 9 月 坪以下 約 0.75 横浜市には、重症者の通所施設が3箇所整備されてお *** 目 的 入浴環境からみた在宅生活の実態とケアホームに対する 親の意識を把握 対 象 横浜市内の重症心身障害者通所施設3箇所の利用者 近年、医療技術の進歩等により重症心身障害児者(以 あり方が大きな課題となっている文1)。そこで本稿では、 ** 表1 アンケート調査の概要 0.39** 1.背景と目的 * 図4 入浴頻度に及ぼす要因 週5-6回 週3-4回 週1-2回 50.0% 33.3% 週0回 8.3% 8.3% n=23 n=23 32.0% 座位はとれない 11.6% n=69 0 「座位の状況(座位可、支持等があれば座位可、座位不 20.0% 20.3% 11.6% 25 16.0% 20.0% 12.0% 27.5% 50 29.0% 75 100(%) 可)」の3つの項目で有意差が認められた(図4)。ま 図5 座位の状況と1週間の自宅入浴頻度 た、座位の状況と訪問入浴の利用には相関関係がみられ 座位の状況と入浴頻度については、座位がとれるほど た。さらに座位のとれない人69人中58人(84.1%)に医 入浴頻度は高く、座位がとれない重度な人ほど入浴頻度が 療的ケアが必要であることがわかった。 低いことが判明した(図5)。 Study on the environmental transition of the care home for the people with severe disabilities(1) -Survey of actual life situation for people with severe disabilities and awareness of their parents to the care home- NISHIMURA Akira,TOZAKI Yuri, NOGUCHI Yuko,Ohara Kazuoki, FUJIOKA Yasuhiro 3.2 ケアホームに対する親の意識 表2 ケアホーム(CH)への入居希望との関連要因 CH入居 希望あり 将来の住まいについて、ケアホームへの入居希望を聞 24( 45.3%) 29( 54.7%) 53 女性 28( 49.1%) 29( 50.9%) 57 5( 27.8%) 13( 72.2%) 18 20歳代 25( 43.1%) 33( 56.9%) 58 30歳代 13( 54.2%) 11( 45.8%) 24 40歳代 8( 88.9%) 1( 11.0%) 9 たのは、「本人の年齢」「親の年齢」「ケアホームへの 考え方」の3項目であった。子どもの年齢は30歳代以 50歳代 1(100.0%) 0.0%) 1 20kg台以下 21( 47.7%) 23( 52.3%) 44 30kg台 18( 45.0%) 22( 55.0%) 40 40kg台 6( 42.9%) 8( 57.1%) 14 7( 58.3%) 5( 41.7%) 12 本人の身長 ケアホームの入居希望の有無との間に有意差が認められ 10歳代 本人の体重 こない、カイ二乗検定を実施した(表2)。その結果、 本人の年齢 別」「本人の年齢」「本人の体重」等でクロス集計をお 120cm台以下 0( 0.0%) 4(100.0%) 4 130cm台 9( 52.9%) 8( 47.1%) 17 140cm台 15( 46.9%) 17( 53.1%) 32 150cm台 14( 46.7%) 16( 53.3%) 30 160cm台以上 12( 48.0%) 13( 52.0%) 25 可能 9( 45.0%) 11( 55.0%) 20 支持具等で可能 11( 45.8%) 13( 54.2%) 24 不可能 32( 50.0%) 32( 50.0%) 64 ある 36( 48.6%) 38( 51.4%) 74 ない 16( 44.4%) 20( 55.6%) 36 40歳代 5( 29.4%) 12( 70.6%) 17 50歳代 20( 39.2%) 31( 60.8%) 51 60歳代 20( 71.4%) 8( 28.6%) 28 50kg台以上 上、親の年齢は60歳代以上からケアホームの入居希望が 増えることが明らかになった。また、ケアホームの役割 を終の棲家やステップアップの場であると意識している 親ほど入居希望は高いことがわかり、ケアホームに対す 座位の 状況 る考え方について「よくわからない」と考える親は入居 の希望が低いことがわかった。 医療 ケア 一方、ケアホーム入居希望者に入居時の心配事を聞い たところ、「医療的ケアの管理」がもっとも多く、次い 親の年齢 で「ケアホーム職員との関係」「休日や余暇の過ごし 方」の順であった(図6)。 70歳代以上 4( 80.0%) 1( 20.0%) 5 ある 44( 49.4%) 45( 50.6%) 89 ない 6( 33.3%) 12( 66.7%) 18 持家 41( 49.4%) 42( 50.6%) 83 賃貸 11( 40.7%) 16( 59.3%) 27 浴室の 大きさ 0.75坪以下 16( 57.1%) 12( 42.9%) 28 1坪 12( 31.6%) 26( 68.4%) 38 1.25坪以上 11( 55.0%) 9( 45.0%) 20 親の 腰痛 4.1 在宅での入浴頻度について 多くの親は、ほぼ毎日自宅の浴室で入浴介助をおこ なっている現状が判明した。しかし、障害が特に重度 (座位がとれない等)な人ほど、1週間の入浴頻度は少 なくなり、訪問入浴や施設入浴を利用している人が多い への CH 考え方 ことがわかった。今後は、入浴サービス回数の拡大や各 入浴サービスの並行利用を含めた入浴介助のあり方を検 討する必要がある。 4.2 ケアホームに対する親の意識について 0( 住宅 形態 4.考察 総数 男性 り、希望しない58人(48.3%)よりも若干少なかった。 この入居希望の有無に関連する要因を探るため、「性 終の棲家 26( 63.4%) 15( 36.6%) 41 ステップアップの場 9( 52.9%) 8( 47.1%) 17 よくわからない 13( 34.2%) 25( 65.8%) 38 休日や余暇の過ごし方 食事などの栄養管理 ホームやショートステイ施設が増える計画があることか 整容など身の回りのこと − − p<0.05 10(19.2%) 6(11.5%) 3(5.8%) 特になし 3(5.8%) 0 ないのも実情である。そのため、在宅の浴室拡大や福祉 − 7(13.5%) その他 いと思われるが、重症者の場合、受け入れ先が極めて少 p<0.01 15(28.8%) 親がさみしくなる 脱施設化が挙げられ、地域のケアホームの活用が望まし − 11(21.2%) 入浴に関すること 重症者の地域生活の場を考える際、昨今の傾向として − 18(34.6%) 他の入居所との関係 5.まとめ − 16(30.8%) 子どもがさみしがる ら、親や地域のニーズは変わってくると期待したい。 − 18(34.6%) 排泄に関すること ることが想像できる。今後は、医療的ケア対応のケア p<0.05 23(44.2%) 家賃などの費用面 宅介助が体力的にも精神的にも限界まで追い込まれてい − 24(46.2%) CH職員との関係 ら急にケアホームへの入居を希望する結果をみると、在 χ2検定 有意差 33(63.5%) 医療的ケアの管理 親の年齢が60歳代以上、子どもの年齢が30歳代以上か (人) 性別 いたところ、入居希望者は120人中52人(43.3%)であ CH入居 希望なし 10 20 30 40(人) 図6 ケアホーム(CH)入居時の心配事(n=52 複数回答) 用具の導入、ヘルパー等の活用など在宅生活の強化と複 参考文献 文1)重症心身障害療育マニュアル 第2版、医歯薬出版、2011.10 文2)障害のある子どもの成育・子育てモデルの検討と住環境整備 の介入のあり方に関する研究(21500749)、平成21-23年度科学研究 費補助金(基盤研究(C))、(研究代表者:阪東美智子)、2012.3 数の地域資源の利用が肝要となる。重症者やその家族が ライフスタイルに合わせて自由に生活拠点を選べるシス テムづくりも求められ、今後もさらなる議論を深めてい く必要がある。 横浜市総合リハビリテーションセンター研究開発課・博(工) 株式会社大林組・工修 *** 聖学院大学人間福祉学部 教授・博(工) **** 横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 教授・工博 ***** 横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 准教授・博(工) * ** Yokohama Rehabilitation Center.R&D.,Dr.Eng. Obayashi Corporation.,M.Eng. *** Prof.,Faculty of Human Welfare,Seigakuin Univ.,Dr.Eng. **** Prof.,Institute of Urban Innovation,Yokohama National Univ.,Dr.Eng. ***** Assoc.Prof.,Institute of Urban Innovation,Yokohama National Univ.,Dr.Eng. * **
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