精神作用物質による精神および行動の障害

精神経誌(2008)110 巻 3 号
250
第
回日本精神神経学会総会
専門医のための特別講座
精神作用物質による精神および行動の障害:
アルコール依存を中心に
齋 藤
利 和(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)
は じ め に
アルコール性障害概念の変遷
精神作用物質とは摂取すると酩酊などの快反応
長期の過剰飲酒による障害の記載は紀元前から
が得られるために連用・乱用され易く,ついには
ある .その障害は,現在の概念では異常酩酊,
依存状態を呈する薬物をいう.アルコール,アヘ
乱用,依存,後遺障害等であり,それらは近年に
ン類,大麻,鎮痛剤・睡眠剤,コカイン,覚醒ア
おいても「慢性アルコール中毒」の概念の中に包
ミン,揮発性溶剤,幻覚剤などがこの範ちゅうに
含され,一連の精神医学的問題として扱われてき
含まれる.精神作用物質による障害は急性中毒
た.慢性アルコール中毒を提唱したのはスウェー
(乱用や異常酩酊を含む)
,依存,後遺障害がある.
デン,ストックホルム大学の内科学教授 Huss,
乱用とは身体的,社会的障害や苦痛を引き起こす
M.である.彼は長年の過剰飲酒の結果としての
不適切な精神作用物質の使用様式である.依存は
情動障害や痴呆などの精神症状と末梢神経障害や
精神依存,身体依存,耐性の 3つの要素から成る
けいれんなどの神経症状がさらなる飲酒によって
が,精神依存の主徴候は精神作用物質摂取に対す
慢性進行性に増悪していく病態を慢性アルコール
る異常な欲求である.身体依存とは精神作用物質
中毒と呼んだ .しかしながら,慢性アルコール
が身体から抜けると,身体機能のバランスが失わ
中毒の用語は Huss が最初に提示した概念からし
れて病的症候である離脱症候群を呈するような身
だいに意味が拡散し飲酒に関するあらゆる障害を
体的状態をいう.耐性とは,精神作用物質の効果
包含するようになった.アルコール依存症が現在
が連用のために減弱する状態をいう.物質によっ
のように明確に定義されたのは 1975年 WHO が
ては身体依存性や耐性を示さないものもあるが精
慢性アルコール中毒という概念が拡大され曖昧に
神依存は依存の中核であり,これを欠く依存はな
なっているために,
「慢性アルコール中毒」に新
い.依存の基盤の上に比 的長期に神経・精神症
たな概念規定をしても意味がないとの判断からこ
状が持続することがある.これが残遺性障害およ
の用語を放棄し,その 2年後,広がりすぎた「慢
び遅発性精神病性障害である.本稿ではこうした
性アルコール中毒」から抽出した「アルコール依
障害についてアルコール性障害を中心に概説する
存症候群」という疾患概念を最終報告書 で提示
こととする.
して以来のことである.このエドワーズらの編集
による最終報告書では,
「アルコール依存症候群」
という疾患概念の他,アルコールに起因する身体
専門医のための特別講座
精神作用物質による精神および行動の障害:アルコール依存を中心に
療法人三幸会北山病院)
座長:谷 直介(医
専門医のための特別講座:精神作用物質による精神および行動の障害:アルコール依存を中心に
的・精神的・社会的障害に対しては,
「アルコー
ル関連障害」という用語を与えている .
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2)主観的状態の変化
アルコール依存症者の体験として語られるもの
であり,他覚的な飲酒行動の変化とは区別さる.
アルコール依存症候群(WHO,1977)
前項のアルコール依存症候群の疾患概念 は,
これに含まれるものとしては,まず,飲酒や酩酊
への耐えがたい願望の体験(渇望)が挙げられる.
現在多く使用されている米国精神医学会の物質依
酒量を減らしたり,断酒しようと決心してもでき
存の診断基準(DSM ‑IV) や世界保健機構の依
ない(飲酒抑制の障害ないし抑制)体験もみられ
存症候群に関する診断基準(ICD‑10) に大きな
る.すべての関心が飲酒に集中し,飲酒を他のど
影 響 を 与 え て お り,ア ル コ ー ル 依 存 症 候 群
んな行動よりも最優先させてしまう体験ないしは
(WHO,1977)の疾患概念が現在の主要な診断
一日のほとんどを酩酊からの回復に費やしてしま
基準の柱になっているといっても言い過ぎではな
う体験(飲酒中心性)も特徴的である.通常,疾
い.アルコール依存症候群は,依存症候を飲酒行
病概念の基準においては客観的な状態に重きが置
動の変化,主観的状態の変化,精神生物学的状態
かれる.この WHO の「アルコール依存症候群」
の変化にまとめている.飲酒行動の変化,主観的
の基準では主観的状態の変化が他覚的な飲酒行動
状態の変化は精神依存徴候であり,精神生物学的
の変化と同列に置かれている.このことは精神依
状態の変化は身体依存徴候(離脱症状の出現,離
存という現象は主観的状態の変化を疾病概念の基
脱症状軽減のための飲酒)と耐性より成っている.
準に挙げなくては捉えきれないということである.
エドワーズらによる最終報告書では,精神依存の
このこともまた精神依存重視の現われともいえる.
記載に多くを費やしており,依存概念における精
神依存の重視という DSM ‑IV ,ICD‑10 の診
3)精神生物学的状態の変化
断基準にもみられる考えが鮮明に示されている.
①耐性の変化
以下アルコール依存症候群(WHO,1977)につ
耐性の獲得とは「酒に強くなる」ことをいう.
いて簡単に述べる.
耐性には肝臓におけるアルコール代謝酵素が誘導
されるために,代謝が促進され血中アルコール濃
1)飲酒行動の変化
度が低下して生じる代謝耐性と機能耐性に分けら
アルコール依存症者は職場でこっそりと昼間か
れる.機能耐性には,脳のアルコールに対する反
ら飲酒していたり,泥酔に至るまで多量の飲酒を
応性の低下によって生じる組織耐性と行動遂行能
するなどの異常な飲酒行動が繰り返される(飲酒
力の回復による行動耐性とに分けられる.
量,飲酒時刻,飲酒機会に対する抑制の減弱).
②離脱症状の出現と離脱症状軽減のための飲酒
また,健常人にみられる多様な飲酒行動,高い血
身体依存は離脱症状の出現によって捉えられる.
中濃度を維持するような飲酒パターン,出勤前に
つまり,離脱症状が見られる者は身体依存が形成
コップ酒をあおって職場に行き,帰りには自動販
されているといってよい.アルコール離脱症候群
売機で酒を買って飲み,帰宅後コップ酒をあおる
はその出現の時間的経過から早期症状群(小離
といったように毎日同じパターンの飲酒を続ける
脱)と後期症候群(大離脱)とに分けられる .
ようになる(飲酒行動の多様性の減弱)
.さらに
前者はアルコール離脱後 7時間頃より始まり,20
は,飲酒による身体疾患,家族的・社会的問題が
時間頃にピークを持つもので,いらいら感,不安,
起きているにもかかわらず飲酒を続けるようにな
抑うつ気分などの不快感情や心悸亢進,発汗,体
る(有害な飲酒に対する抑制の喪失)
.
温変化などの自律神経症状.手指,眼瞼,軀幹の
振戦,一過性の幻覚(幻視,幻聴が多い),けい
れん発作などである.軽い見当識障害が出現する
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こともある.後者は離脱後 72時間から 96時間に
望)である.ICD‑10ではこの項目が診断基準の
多くみられるもので粗大な振戦,精神運動亢進,
最初にあげられている.ICD‑10の診断項目は病
幻覚,意識変容,自律神経機能亢進を主徴とする
的使用パターン 4項目の他,離脱症状(身体依
振戦せん妄である.前駆症状として不穏,過敏,
存)と耐性の変化とで構成されている.すなわち,
不眠,食欲低下,振戦などが出現し,ついで振戦
ICD‑10では,依存症候群と診断するには以下の
せん妄に移行することが多い.意識混濁はそれほ
6項目のうち,通常過去 1年間のある期間に以下
ど強くなく表面的には対応可能なことが多い.注
の 3項目を満たすことが必要である.(1)物質を
意散漫で落ち着きがなく,見当識障害を伴う.幻
摂取したいという強い欲望あるいは強迫感,(2)
覚は幻視が多い.小動物や虫が出現することがあ
物質摂取行動を統制することが困難(抑制喪失)
,
り,それらが体の上にはい上がってくる感覚(幻
(3)離脱症状,(4)耐性の増大,(5)物質使用以
触)を伴うことがある.また,壁のシミが人の顔
外の楽しみや興味を無視,物質を摂取せざるを得
にみえるなどの錯視が出現することもある.幻覚
ない時間や,その効果からの回復に要する時間が
の中で主なものは幻視であるが幻聴がみられるこ
延長する(物質中心の生活),(6)精神的身体的
とも少なくない.幻覚は,暗い部屋にいるときや
問題が悪化しているにもかかわらず,物質使用を
夜間に激しくなり,室内を明るくすると軽減する.
続ける(有害な物質使用に対する抑制の喪失)で
振戦せん妄は通常 3から 4日持続する.心臓疾患
ある.離脱症状に関してはそれぞれの物質ごとに
などの重篤な合併症で死亡することも希にある.
診断基準を設けている.アルコール離脱症候群に
多くは強い不眠がみられるが終末には深い睡眠
ついては前項で述べた.
(終末睡眠)に入り,それから覚醒すると症状は
DSM ‑IV は過去 12か月間に病的使用パターン
ほぼ完全に消退する.コルサコフ精神病に移行す
5項目(抑制喪失 2項目,飲酒中心の生活 2項目,
ることもある.
有害な飲酒に対する抑制の喪失),身体依存(離
発汗,振戦,けいれん発作,幻覚などの症候は,
アルコール離脱症状に特異的なものではないこと
脱)
,耐性の計 7項目のうち,3項目を満足する
ことである.
に留意しなくてはならない.すなわち,こうした
DSM ‑IV は ICD‑10との共通点が多い.ICD‑
症状がみられたからといって直ちにアルコール依
10では前述したように飲酒への渇望が診断項目
存症を疑うのは早計である.これらの症状がみら
に挙げられているが DSM ‑IV にはこの診断項目
れる他の神経・精神疾患も多いからである.持続
がない.しかし,他の診断項目(抑制喪失,飲酒
的な大量の飲酒後,上述したような症候が同じよ
中心の生活,有害な飲酒に対する抑制の喪失,離
うにみられる場合,身体症状の獲得に至るまで依
脱,耐性)は共通である(DSM ‑IV では抑制喪
存が進んでいる事を疑う必要がある.離脱症状軽
失と飲酒中心の生活の診断項目が 2項目ずつあ
減のための飲酒は離脱症状のために意図した行為
る)
.
が遂行できない時に主にみられる.たとえば,職
診断項目からわかるように,DSM ‑IV も ICD‑
場で粗大な振戦のために字が書けなくなった時に
10も精神依存重視の立場に立つアルコール依存
隠し持っていたウィスキーを飲んで振戦を軽減し
症候群(WHO,1977)の疾患概念 に大きな影
その場を取り繕うなどの行為がこれにあたる.
響 を 受 け て い る.す な わ ち,DSM ‑IV に せ よ
ICD‑10の診断基準にせよ耐性と離脱は診断の必
アルコール依存症候群の診断
須項目ではないこと,換言すれば精神依存の存在
依存症候群の中心となる臨床的症候は,精神作
のみでアルコール依存の診断が下せることに留意
用物質(アルコールを含む)を使用したいという,
すべきである.こうした精神依存重視の立場は我
しばしば非常に強く,時に抵抗できない願望(渇
が国の厚生労働省班会議の診断ガイドライン に
専門医のための特別講座:精神作用物質による精神および行動の障害:アルコール依存を中心に
も引き継がれており,最近,我が国でも精神依存
重視の立場は定着しつつある.
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乱用は物質使用障害の歴史の中で大きな地位を
占めてきた.現に以前の米国精神医学会の診断基
準(DSM ‑III‑R)では有害な使用に対する抑制
後遺障害・遅発性精神病性障害
精神作用物質の離脱後かなり長期にわたって,
の 喪 失 1項 目,危 険 な 使 用 1項 目 で あ っ た が
DSM ‑IV では 4項目に拡大されている.
物質の使用が見られないにもかかわらず神経精神
しかしながら,ICD‑10では乱用という用語は
症状が持続することがある.離脱症状とは明らか
使用されておらず「有害な使用」という用語が使
に異なる病態である.従って,これらは長期にわ
われている .この理由は,乱用という用語が社
たる飲酒による後遺障害と考えられる.こうした
会的な価値基準において用いられることが多く,
現象は精神病,特に統合失調症との鑑別,区別と
したがって医学用語として用いるには不適切であ
いった点で長年の論議が行われてきた.ICD‑10
ると判断された為である.ICD‑10の有害な使用
でも「認知,感情,人格,あるいは行動などの面
の診断はかなり限定的なものである.即ち,現時
で,アルコールあるいは精神作用物質による変化
点では有害な結末は生じておらず,将来害が予測
が,その精神作用物質が直接影響していると合理
されるような使用はこれに含まれない.さらに,
的に想定される期間をこえて持続している障害」
依存症候群の診断基準の中にも「有害な使用に対
を「残遺性障害および遅発性精神病性障害」とし
する抑制の喪失」の項目がある.したがって依存
てまとめられている .
症候群が存在する場合には「有害な使用」という
たとえばアルコール幻覚症はアルコール依存症
を基盤とすることでは振戦せん妄と類似している.
診断は用いられない.
実際の臨床では非合法薬物や向精神薬の非合法
振戦せん妄では幻視が多く意識障害が存在するの
な使用に対処しなければならないことも少なくな
に比しアルコール幻覚症では幻聴を主とすること,
く,社会・教育的な対策が実施されるときも医療
意識混濁のないことが異なる.症状は一過性で短
的な援助が求められる事は多い.ここに,現実的
ければ数日から数週で消退するのが普通であるが,
には WHO のように乱用概念を簡単に捨てられ
数か月にわたって持続することもある.
ない悩みと混乱がある.
乱
用
治
療
乱用とは身体的,社会的障害や苦痛を引き起こ
物質依存症の回復の目標は「生活体験を通して
す不適切なアルコール・薬物の使用様式を指す用
の社会性の再獲得」である.したがって,このよ
語である.DSM ‑IV では,乱用の診断基準とし
うな病気の治療には医療機関単独の力には限界が
て以下の 4つの物質使用様式をあげている .
ある.つまり,通院治療が可能となるためには断
(1)物質の反復使用の結果,仕事,学校,または
酒会や AA などの自助集団が必要である.さら
家庭の重要な役割義務を果たすことができなくな
に保健所,福祉事務所の物質依存症治療への参加
る.(2)身体的危険のある状況で物質を反復使用
が必要である.たとえば保健所における家族教室
する.(3)反復的に引き起こされる物質関連の法
や患者に対する訪問業務を通して患者の回復に対
律問題.(4)持続的,反復的な社会的または対人
する重要な役割を負っている.こうした物質依存
関係の問題が物質の影響により引き起こされたり,
症者やその家族に関わる団体,行政機関,医療機
悪化するにもかかわらず,物質使用を続ける.す
関がその連携を通して系統的な援助網(地域ネッ
なわち(1),(3)は社会的職業的機能障害,(2)
トワーク)を作りあげていくことが重要な課題で
は危険な使用,(4)は有害な使用に対する抑制の
あり,今後は,むしろそうした地域ネットワーク
喪失を表している.
の中で医療は何をしなければならないかを模索す
精神経誌(2008)110 巻 3 号
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る段階にきている
.
している場合は離脱症状が発現し易い.したがっ
地域ネットワークと共に依存症者の回復にとっ
て,肝障害があり,離脱症状の既往がある患者に
て重要なものは自助グループである.アルコール
はアミノ酸食を摂取させる必要がある .振戦せ
依存(他の精神作用物質も)の治療成績は自助グ
ん妄出現時には全身の管理として,栄養,水分補
ループの誕生までは惨憺たるものであったことを
給および多種のビタミン剤投与を行う.すなわち,
我々精神科医は率直に認める必要がある.自助グ
ウェルニッケ・コルサコフ症状群やペラグラ脳症
ループや自助グループと医療との連携の発展と共
や葉酸欠乏性脳症などへの移行を予防するためで
に回復者も増え「治療効果」も上がるようになっ
あるが,振戦せん妄が長期化したり,定型的な経
たのである.アルコール依存の外来の治療におい
過をたどらないときはビタミン B 群の投与を忘
ては個人精神療法や薬物療法を行うだけでなく,
れてはならない.補液にグルコースを用いる場合
断酒会や AA,NA の例会への参加を促し,診察
は注意を要する.すなわち,グルコースは,代謝
の際には集団療法や自助集団に参加した感想を聞
過程でビタミン B を消費しウェルニッケ・コル
くことが推奨される .この点に関して最近,米
サコフ症状群の発症の増悪因子になる可能性があ
国精神医学会が医療としての治療活動と自助ルー
る.このため,離脱時の補液には果糖を用いるほ
プの活動との統合を奨めていることも注目に値す
うが望ましい
る .すなわち,我が国にも紹介されている米国
病薬の使用については論議があるが,抗不安薬は
精神医学会治療ガイドラインシリーズの中の一冊,
無効なことが多いのも事実である.ブチルフェノ
.振戦せん妄の出現後の抗精神
「物質使用障害」には「(外来)治療は,患者が自
ン系薬剤(ハロペリドール)の投与が行われるこ
助プログラムに参加することを促し,自助プログ
とが多い .アルコール依存の中心的な症状であ
ラムと統合されるべきである」という記載がみら
る病的飲酒欲求に対して有効な薬物療法は本邦で
れる.
はまだ存在しない.抗酒薬であるジスルフィラム,
薬物療法であるが,アルコール依存症者には気
シアナマイドがその助けとはなるが,飲酒欲求そ
分障害,不安障害,恐慌性障害が多く見られる.
のものをターゲットとしたものではく,薬剤その
依存症者の場合つねに過剰服用の危険性を考慮す
ものの効果よりは併用される精神療法がむしろ問
べきであるが,抗うつ薬としては過剰服用の場合
題になり,成績も施設や研究者によって差異が大
でもより危険性の少ない SSRI の投与が,ベンゾ
きい.それに対して,病的飲酒欲求を標的症状と
ジアセピン系薬物を使用する場合は活性代謝物を
する薬剤,アカンプロセートとナルトレキソンが
生じない短時間作用型のものが推奨される
欧米を中心に使用されている .本邦でも使用可
.
離脱症状の出現を抑制するためには,交差耐性を
能となることが望まれる.
有するベンゾジアゼピン系薬剤が用いられる.振
戦せん妄などの離脱症状の発症を予防するために
文
献
はブロマゼパムなどの比 的強い薬効をもつ薬剤
1)American Psychiatric Association : Diagnostic
の大量使用が必要であるが,短期間に減量し,中
and Statistical M anual of M ental Disorders, 4th ed.
止する必要がある
APA, Washington D.C., 1992
.肝障害が重篤な患者,高
齢者,認知障害がある患者には短時間作用型のベ
ンゾジアゼピン系薬物が推奨される.離脱時の栄
養障害も離脱症状出現に影響を与える.栄養状態
が悪い場合は,病態に即した補液を行う.肝障害
によってアミノ酸代謝障害が生じフィシャー比
(分子鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸モル比)が低下
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eds: Alcohol‑Related Disabilities.WHO Offset Publication No.32, 1977
3)橋本恵理,齋藤利和:アルコール依存症の診断と
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Powered by TCPDF (www.tcpdf.org)
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9)Victor, M .: Alcoholism. Clinical Neurology,
5)齋藤利和:アルコール性障害.新興医学出版,東
京,2006
vol.2 (ed.by Baker,A.B.,Baker,L.H.).Herper & Row
Publishers, New York, 1971
6)齋藤利和,小畠恵一,小片
基:アルコール症者
10)和田
清責任訳,日本精神神経学会監訳:米国精
の血漿アミノ酸値.アルコールと医生物,14;169‑174,
神医学会治療ガイドライン⎜⎜物質使用障害;アルコール,
1994
コカインとオピオイド.医学書院,東京,2000
7)佐藤建次:酒の博物誌.東京書房社,東京,p.
51,1971
8)白倉克之,樋口
進,和田
清編:アルコール・
薬物関連障害の診断・治療ガイドライン.じほう,東京,
2003
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Classification of M ental and Behavioral Disorders,
Clinical Description and Diagnostic Guidelines. WHO,
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