第03号 平成16年01月

病院長ノート(No.03: 平成16年1月号)
杉原
國扶 プロフィール
杉原國扶
所属学会
昭和22年5月26日
日本臨床外科学会評議員
東京医科歯科大学医学部卒
日本消化器病学会関連地方評議員
医学博士(腫瘍外科専攻)
日本消化器外科学会認定医・指導医
日本消化器学会専門医・指導医
日本癌治療学会・日本乳癌学会など
明けましておめでとうございます。
旧年中は当白井聖仁会病院を支えていただきありがとう存じます。
年頭のご挨拶でも述べさせていただきましたが、病院スタッフ一丸となって、皆様の人生の支え
となるようやさしく、正確でかつ安全な医療、看護、介護を行っていきたいと決意を新たにして
おります。今年もどうかよろしくお願いいたします。
今年も定期的にこの病院長ノートを発信いたします。皆様の健康管理に少しでもお役に立てれば
幸いです。また、何か疑問な点があれば当院へのメール、トップページの「投書箱」からご意見
欄にお寄せいただくか、私の外来(月・火の午前、木の午後)にお越しいただければ幸いです。
夜間の胸やけ - 逆流性食道炎(GERD)
夜中に急に焼けるような胸やけがおこり、こみ上げ感と同時に目が覚めたという経験をお持ち
ではありませんか?これほどひどくはなくても明け方になると胃酸がこみ上げて口の中が酸っ
ぱくなるという方も比較的多数います。従来、胃潰瘍や十二指腸潰瘍がなくまた胃癌などによる
通過障害がない場合は、胃酸過多と片付けられていました。現在では他に器質的な原因を持たな
い逆流症状を『胃食道逆流症』(GERD)と総称するようになりました。
『逆流性食道炎』という言葉もほぼ同じ意味で使われています。症状が高度の場合は飲み込む
のも痛みが強くて出来ないこともあります。
原因:様々な要因が重なって発症しますが、要は食道と胃の間の逆流防止機構が有効に働かない
で胃酸が食道に逆流するためです。アルコールの多飲とタバコは大きな危険因子です。さらに精
神的肉体的ストレスも発症の引き金になることが多く見られます。患者さまは胸焼けや食べ物が
通りにくいなどの症状のため食道ガンを心配されて来院し、内視鏡検査ではじめてGERD診断
されることが多いようです。また欧米では肥満が大きな因子とされていますが、我が国ではむし
ろお年寄りで背中のまがったやせ型の方に多い傾向があります。
診断:先に述べた消化器症状の方にはまず胃の内視鏡検査を行います。食道胃接合部の食道粘膜
の色調変化やびらん、潰瘍などの存在で診断がつきます。正確には食道内のphを24時間モニタリ
ングして確定診断しますが苦痛が多く一般的には用いられていません。
治療:胃酸の分泌を抑えることで逆流を防止します。H2受容体拮抗剤(タガメットやガスター、
ザンタックなど)が用いられて比較的良い成績を上げましたが服薬を中止するとしばらくして再
燃することが繰り返されました。現在はPPI(オメプラール、タケプロン、パリエットなど)
が推奨され、さらに維持治療法として長期間にわたって投与が認められたので再燃することは少
なくなりました。しかしそれでも薬物治療に抵抗性を示す場合は逆流を防止する外科手術が選択
されます。
問題点:我が国におけるGERDの罹患率は明らかに増加しています。食生活の欧米化も一つの
要因です。さらに潰瘍に対してピロリ菌の除菌がすすむとGERDが増えるともいわれています
(これには異論もありますが)。また逆流性食道炎から食道癌が発生することも懸念されていま
す。欧米白人の食道癌は我が国の扁平上皮癌と異なり、腺癌が多く見られほとんどが逆流性食道
炎と関連しているとされています。今後慎重に検討する必要があり、逆流性食道炎の診断を受け
た方は少なくとも1年に一回の胃内視鏡検査が推奨されています。もう一つは逆流性食道炎の症
状と内視鏡所見が必ずしも一致しない例があることです。内視鏡所見のないGERDとしては典
型的な胸焼けを症状とするものの他に、隠れて存在する酸逆流症状として狭心症用の症状ではあ
るが心疾患を伴わない胸痛、
気管支喘息や慢性気管支炎などの呼吸器症状の原因となっているも
の、咽頭違和感やつかえ間、かすれ声などの症状を呈するものなどがあり、鑑別診断に苦慮する
ことがあります。
大切なこと:逆流性食道炎の診断と治療は各段に進歩しましたが、やはり大切なことは生活習
慣です。暴飲暴食を避けることはもちろんですが禁煙や脂っこいものを避けること、ゆったりと
ゆっくりと食事を取ること、ストレスを避けることも重要です。また症状が見られる方は早めに
消化器専門医を受診し、内視鏡検査を受けて早期に治療を開始することです。逆流性食道炎は夜
間に臥床しているときにおこりやすいものです。
その場合は少し頭側を高くして休むことも症状
の軽快につながります。試してみましょう。