第1問解説

ICO<無断複写・複製を禁じます>
受験番号
1
2
局
名
番
号
平成 23 年度論文式本試験解答・監査論・第1問
第 1 問 答案用紙<1>
(監 査 論)
評
点
問題 1
懐疑心とは健全な意味での疑いの精神であり、経営者の誠実性について予断をもたないという監査
人の姿勢を基礎としている。懐疑心は、平均的監査人が払うべき注意である正当な注意に含まれる関
係にあるが、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在するおそれに常に注意を払うことを強調するため、
敢えて、正当な注意とは別に明示されている。
問題 2
財務諸表利用者は、経済的意思決定を行う際に財務諸表をどの程度まで信頼してよいのかという保
証を、財務諸表監査に対して期待する。
監査人が正当な注意を行使し、監査計画の策定・その実施・監査証拠の評価・意見の形成に至るま
で、平均的監査人に期待される注意を払うことで、一定水準以上の質の監査が可能となる。これによ
り、監査人は、財務諸表の適正性について適切な意見を表明し、財務諸表に社会的信頼性を付与する
ことができる。財務諸表利用者は、監査人の付与した信頼性に応じて財務諸表を利用することができ、
重要な虚偽の表示の含まれた財務諸表を適正と判断してしまうことによる不測の損害を回避できるよ
うになるため、財務諸表監査に対する期待が満たされる。
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受験番号
2
2
局
名
番
号
平成 23 年度論文式本試験解答・監査論・第1問
第 1 問 答案用紙<2>
(監 査 論)
問題 3
方 策 : 専門能力の向上と、実務経験等から得られる知識の蓄積に努める。
近年の資本市場の国際化、企業の大規模化や取引の複雑化等に対応するためには、自己研鑽に努め
るとともに、監査事務所における教育・訓練や日本公認会計士協会の継続的専門研修制度(CPE)
を積極的に活用することが求められる。
方 策 : 監査の品質管理に努める。
特に、監査調書の作成することで、補助者に指示監督を行い、監査業務の質を自らあるいは組織的
に管理できるようになる他に、第三者による監査業務の検証も可能となる。また、意見表明に関する
審査により、当該監査への客観性を有する審査担当者が、監査意見が適切に形成されていることを確
かめる。
問題 4
正当な注意とは平均的監査人が払うべき注意であり、実施基準や報告基準などによりその内容は示
されているが、実際の監査業務においては、明文で具体的に規制されていない事例・判断の難しい事
例に直面することも考えられる。このような場合に公正かつ誠実に業務を行うためには、自らを律し
財務諸表利用者の期待に応えようとする職業倫理が不可欠であり、この観点からは、正当な注意と職
業倫理との間に密接不可分な関連性がある。
ただし、正当な注意は善良なる管理者の注意に相当するとされ、監査人の法的責任の有無を判断す
る基準になるものであり、最低限達成すべき他律規範としての性格を有する。これに対し、職業倫理
は自らより高い水準を達成しようとする自律規範としての性格を有することから、両者には必ずしも
関連性はない。
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平成 23 年度論文式本試験解答・監査論・第1問
第 1 問
全体講評
第1問は、正当な注意を中心に、監査論の全体構造について幅広い理解を問う問題です。問題1は記述
すべき内容がほぼ決まっている「典型論点」といえるかもしれませんが、問題2∼問題4は、何をどのよ
うに記述すべきか、選択(もしくは迷い)の幅が広いと思われます。特に問題2と問題4は解答欄も大き
いことから、唯一絶対の正解が無いと考えられる論文式試験において、迷いが更に深まるかもしれません。
しかし、解答欄の大きさに応じた「基本的知識&理解の応用的活用」ができれば、難解な事項までも威風
堂々と語りまくらなくと、十分な得点を挙げることができるでしょう。
以下の解答は、平易な記述のなかに監査論の基本的なロジックを組み込むことで、採点者に知識と理解
を確実に示すことを目標としています。
合格ライン
合格ラインについては、通常の答練の採点における 60%∼62%以上を目安にできると考えます。
なお、第1問の問題1は応用答練2で出題しています。第2問の問題1は直前答練1、直前答練7、山
あて答練1で出題しており、問題2は直前答練2と山あて答練2で出題しています。そのため、受講生の
皆さんには高得点を期待している今日この頃です…。
問題1
懐疑心(職業的懐疑心)は正当な注意に「含まれる」が、懐疑心を保持すべきことを強調するために「敢
えて別記された」旨を示せればよいだろう。
(監査基準・平成 14 年前文・三・2(3)
)
問題2
何をどのように記述すべきか、選択(もしくは迷い)の幅が広い問題である。問題文「財務諸表利用者
の期待に応えるに当たって」を意識し、経済的意思決定・不測の損害の回避に役立つことを目標として挙
げつつ、正当な注意の行使により一定水準以上の質の監査が可能となる点を中心に財務諸表監査の全体的
な知識と理解を示すことができればよいと考える。
問題3
これもまた、何をどのように記述すべきか、選択(もしくは迷い)の幅が広い問題である。まずは具体
的な方策として「監査調書」や「審査」が思い浮かび、これらを含む「品質管理」を方策の1つとする。
「品質管理」と並ぶような大枠での方策を考えると、「専門的能力の向上と知識の蓄積」が妥当であると
思われる。
問題4
正当な注意とは「平均的監査人が払うべき注意」
「平均的監査人に当然に期待される注意」といった「抽
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平成 23 年度論文式本試験解答・監査論・第1問
象的」な概念であるから、実際の監査業務における様々な「具体的」事例に直面する場合に言及し、抽象
と具体との組合せをスジに職業倫理の関連を説明してみる。
これに対し、正当な注意は「善管注意義務に相当すると解される」「法的責任の有無の判断基準となる」
といった概念である点からは、いわゆる「適法性と適正性との比較」といったスジを用いて、他律規範と
自律規範との相違が説明できる。
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