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第74回 弁護士法人(従業員に対するパワ ーハラスメント)事件

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第74回 弁護士法人(従業員に対するパワ
ーハラスメント)事件
弁護士法人(従業員に対するパワーハラスメント)事件
(東京地裁 平27.1.13判決)
弁護士法人の従業員が、違法無効な解雇を受け、かつ同法人の事務局長からパワーハ
ラスメントを受けていたとして、地位確認、慰謝料支払い等を請求した事案で、解雇
は無効であるとしつつ地位確認請求は棄却されたほか、当該従業員に対する事務局長
の「はぁ~??理解不能。今後は全件Bさんにチェックしてもらう様にして下さい」
などと大きく乱雑に記載した文書を机に置くなどした言動が不法行為に当たり、慰謝
料20万円が認められた例
掲載誌:判時2255号90ページ
※裁判例および掲載誌に関する略称については、こちらをご覧ください
1 事案の概要
原告(以下「X」)は、主に債務整理事件を扱う弁護士法人である被告(平成25年5月
当時、弁護士が4名、事務員が8名所属。以下「Y」)に勤務していた従業員であったが、
解雇された(以下「本件解雇」)。Xは、本件解雇が違法であると主張して、労働契約上
の地位の確認と未払賃金、違法解雇に基づく慰謝料等の支払いを求めるとともに、Yの事
務局長でありXの上司であるAからパワーハラスメント(以下「パワハラ」)を受けたと
して慰謝料等の支払いを求めた。
[1]本判決で認定された事実
年月日
事 実
H20.8
X、Yにアルバイトとして採用される。
H20.11
X、Yの正社員となり、電話での受付を担当。
H24.7、8~
X、任意整理事務を担当。
H24.7頃
Aは、Xに対し、Xの接客態度について、「気持ち悪い接客をしているからこうい
う気持ち悪いお客さんにつきまとわれるんだよ。Xさんはこういう気持ち悪い男
が好きなのか」と言った(事実①)。
H24.9頃
Aは、Xに対し、回収した過払金から弁護士費用の一部を清算していなかったこと
につき、他の職員の前で「これこそ横領だよ」と言った(事実②)。
H24.12.26
Aは、全件について和解前に弁護士が確認してほしいと申し入れたXに対し、「誰
かに入れ知恵されてんだろ。お前の彼氏は確か弁護士になりたかったって言って
たな。それともお前の親族がうちが非弁[編注]だって言ってんだろ。うちの事
務所にたかろうとしてるんだろ。そっちがその気なら徹底的にやるぞ」と言った
(事実③)。
編注:非弁(行為)…弁護士でない者が報酬を得る目的で業として法律事務等を
行うことをいう。弁護士法72条で禁止される。
H25.5.24
Aは、大きく乱雑な字で「X様へ はぁ~??時効の事ムで受任(@52500)じゃ
ないんでしょ?なぜ減額報酬を計上しないの??ボランティア??はぁ~??理
解不能。今後は全件Bさんにチェックしてもらう様にして下さい」と記載したA4
の用紙をXの机の上に置いた(事実④)。
H25.5.27
Yは、Xに対し、H25.6.30付で解雇する旨の意思表示(本件解雇)。
H26.9.25
Xが東京都新宿区内の法律事務所(編注:訴外事務所)に出勤している姿が確認
される。
[2]主な争点
本件の主な争点は、①本件解雇の有効性、②地位確認請求の可否、③Aによるパワハラ
の有無、違法性および慰謝料額である。
2 判断
[1]①本件解雇の有効性について
Yは、Xが依頼者からの質問を5日間放置した等の重大なミスを繰り返したことが、Y就
業規則48条2号の「従業員の就業状況または職務能力が著しく不良で、就業に適さないと
認められる場合」等の解雇事由に該当すると主張した。
しかし、裁判所は、Xに業務上のミスがあったことを一部認定しつつも、いずれもXの
ミスにより実害が生じてはおらず、事務処理体制を整えていなかったYがXを責めること
はできないとして、Y主張の解雇事由は、「ミスといえないものか、重大とはいえないミ
ス」であり、いずれも就業規則の解雇理由に当たらないと判断し、本件解雇を無効とし
た。
[2]②地位確認請求について
Xは、平成26年9月25日に東京都新宿区内の法律事務所に出勤している姿が確認されて
いたが、裁判所が同事務所での勤務開始時期や給与額について釈明を求めても回答しなか
った。そのため、裁判所は、「このようなXの態度からすれば、Xは(同事務所で)正社
員として勤務しているとみられてもやむを得ないものであり、本件訴訟提起前から、Yへ
の職場復帰には消極的な姿勢を見せていたことも併せ考えると、(出勤している姿が確認
された)前日の同月24日には確定的にYで勤務する意思を喪失していたと認める」(※か
っこ内は筆者注)と判断して、地位確認請求については棄却した。
[3]③Aによるパワハラの有無、違法性および慰謝料額について
Xは、合計13個のAのパワハラ行為を主張したが、裁判所は、下記(a)~(d)の行為
についてのみ不法行為の成立を認め、その他の行為は的確な裏付けを欠くものとして排斥
した。慰謝料額については、各不法行為の態様から、20万円が相当であるとした。
(a) AがXに対し「気持ち悪い接客をしているからこういう気持ち悪いお客さんにつき
まとわれるんだよ。Xさんはこういう気持ち悪い男が好きなのか」などと述べた行為
(事実①)は、Xに対する侮辱であり、不法行為に該当するとした。
(b) AがXに対し、他の職員の前で「これこそ横領だよ」などと述べた行為(事実②)
は、Xを犯罪者呼ばわりしたものであり、不法行為に該当するとした。
(c) AがXに対し、「徹底的にやるぞ」等と述べた行為(事実③)は、業務体制の改善
の提案をしたXに対して逆に不利益を課すことをほのめかすものであり、不法行為に該
当するとした。
(d) Aが、大きく乱雑な字で「はぁ~??理解不能。」等と記載した文書をXの机の上
に置いた行為(事実④)は、その文面自体から業務指導の範囲を超えたXへの嫌がらせ
とみるほかなく、不法行為に該当するとした。
3 実務上のポイント
[1]従業員に対するパワハラを理由とした弁護士法人の不法行為責任
従前の裁判例を見ると、公認会計士、税理士および弁理士といった弁護士以外の士業に
おいては、士業に従事する者自身によるパワハラ・セクハラに関する裁判例(下記①)が
あるほか、士業を行う事務所の従業員によるパワハラ・セクハラに関する裁判例(下記
②)も散見される。
①会計事務所において、男性税理士が女性事務所職員に対し、胸などをつつく、触るとい
う行為を日常的に繰り返していた事案で、50万円の慰謝料請求が認められた事案(東
京地裁 平23.10.3判決 公刊物未登載)
②特許事務所に派遣された労働者が、当該事務所の上司等からパワハラを受けたと主張し
て損害賠償を請求した事案で、労働者主張の事情は違法性を有しない等の理由で請求を
棄却した事案(東京地裁 平25.6.28判決 公刊物未登載)
また、弁護士法上の懲戒処分の事案や労働審判の事案においては、以下のように、弁護
士自身によるパワハラ・セクハラに関する事例が散見される。
③弁護士が、その雇用する事務員に長時間労働をさせたほか、同事務員に対し、熱いコー
ヒーや食べかけのカップラーメン、はさみ等を投げつけたり、大腿(だいたい)部を蹴
るなどの暴行を加えた事案で、業務停止2カ月に処せられた事案(日弁連懲戒委員会 平21.5.11議決 日本弁護士連合会編『弁護士懲戒事件議決例集(第12集)』(日本
弁護士連合会、平23)46ページ)
④弁護士が、その雇用する事務職員のスカートの内部を無断で撮影したことで、業務停止
6カ月に処せられた事案(大阪弁護士会 平26.10.20懲戒処分 自由と正義66巻1号
116ページ)
⑤法律事務所を主宰する弁護士が、その雇用する懐妊した女性事務員に対し、不利益取り
扱いを行い、退職を求めるなどした揚げ句、協調性の不足等を理由に解雇した事案で、
弁護士が解雇を撤回し、解決金として賃金1年分に相当する金銭を支払う調停が成立し
た労働審判の事案(労働審判事件 横浜地裁 平23.12.26調停 労判1057号168ペー
ジ)
本件は、弁護士法人の従業員(事務員)間におけるパワハラ事案である点に特徴があ
る。弁護士事務所におけるハラスメントといえば、他士業と同様、上司と部下の関係にあ
る弁護士と事務員との関係に目が行きがちであるが、事務員間においてもハラスメントの
発生の危険性があることに十分に留意し、事務員に対してもハラスメント研修を実施する
等して、その防止に努める必要があろう。
[2]地位確認請求と就労の意思
解雇が無効とされながらも、労働者が就労の意思を確定的に喪失したことを理由とし
て、地位確認請求が棄却ないし却下される裁判例が、従前から存在した(ニュース証券事
件 東京地裁 平21.1.30判決 労判980号18ページ、株式会社朋栄事件 東京地裁 平
9.2.4判決 労判713号62ページ)。本件もこれらの裁判例と同様に、Xが就労の意思を
確定的に喪失していたと認められることを理由に、地位確認請求を棄却したものである
が、Xが、他の法律事務所での勤務開始時期および給与額についての裁判所の求釈明に回
答しなかったことが就労意思喪失を認定する一要素とした点は、実務上参考となる。
[3]解雇の有効性と「適切な事務処理体制」の整備
本件では、解雇の有効性に関し、Xにも業務上のミスがあったことが一部認定されてお
り、Yも当該ミスに関しXに始末書を書かせるなどの対応を取っていることが窺われる。
しかし、本判決は、債務整理事件を主たる業務とするYにおいて適切な事務処理体制が整
備されていなかった旨を随所で指摘して、解雇事由の該当性を否定した。
解雇を有効とするためには、単に労働者による業務上のミスの立証を行うだけでは不十
分であり、その前提として、使用者において適切な事務処理体制の整備が必要であること
を明示したものであり、実務上参考となる。
【著者紹介】
宇賀神 崇 うがじん たかし 森・濱田松本法律事務所 弁護士
2010年東京大学法学部卒業、2012年東京大学法科大学院修了、2013年弁護士登
録。 ◆森・濱田松本法律事務所 http://www.mhmjapan.com/
■裁判例と掲載誌
①本文中で引用した裁判例の表記方法は、次のとおり
事件名(1)係属裁判所(2)法廷もしくは支部名(3)判決・決定言渡日(4)判決・決定の別
(5)掲載誌名および通巻番号(6)
(例)小倉電話局事件(1)最高裁(2)三小(3)昭43.3.12(4)判決(5)民集22巻3号(6)
②裁判所名は、次のとおり略称した
最高裁 → 最高裁判所(後ろに続く「一小」「二小」「三小」および「大」とは、
それぞれ第一・第二・第三の各小法廷、および大法廷における言い渡しであること
を示す)
高裁 → 高等裁判所
地裁 → 地方裁判所(支部については、「○○地裁△△支部」のように続けて記
載)
③掲載誌の略称は次のとおり(五十音順)
刑集:『最高裁判所刑事判例集』(最高裁判所)
判時:『判例時報』(判例時報社)
判タ:『判例タイムズ』(判例タイムズ社)
民集:『最高裁判所民事判例集』(最高裁判所)
労経速:『労働経済判例速報』(経団連)
労旬:『労働法律旬報』(労働旬報社)
労判:『労働判例』(産労総合研究所)
労民集:『労働関係民事裁判例集』(最高裁判所)
★実務家向けの年間判例集として最適です! 平成27年版 年間労働判例命令要旨集
労務行政研究所 編
B5判・408頁・5,760円
●賃金・退職金、雇止め、解雇、就業規則の不利益変更、使用者
の損害賠償責任等、平成26年に出された223件の労働事件を
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