Ninf-Gを用いた ディーゼルエンジン燃料噴射スケジューリング問題の最適

Ninf-G を用いた
ディーゼルエンジン燃料噴射スケジューリング問題の最適化システム
千野 晋平
†
廣安 知之
††
三木 光範
††
† 同志社大学大学院 †† 同志社大学工学部 1
はじめに
近年、広域ネットワーク上において、複数の計算資
源および情報資源を仮想的に統合して利用するための
基盤技術である Grid が盛んに研究されている.また,
Grid 環境において並列分散計算を行うためのミド ル
ウェアである GridRPC が開発されている.GridRPC
を用いることによって,計算時間を多く必要とするよ
うな最適化問題であっても取り扱うことが 可能とな
る.本研究では,GridRPC ミド ルウェアの一つであ
る Ninf-G を用いてデ ィーゼルエンジン燃料噴射スケ
ジューリング問題の最適化システムを Grid 化する.
2
ディーゼルエンジン燃料噴射スケジューリング問題
3
Ninf-G を用いたディーゼルエンジン燃料噴射ス
ケジューリング問題の最適化システム
3.1
概要
ディーゼルエンジン燃料噴射スケジューリング問題
では,全体の計算量のうち,HIDECS による評価部分
が多くを占める.そこで,多目的 GA が多点探索であ
るという特徴を生かし,評価部分を探索点ごとに分散
させることで最適化に要する時間の短縮を図る.本シ
ステムでは,最適化の部分を Java で実装しているた
め, Ninf-G Java を利用する.Grid 上の Server で多
目的 GA の評価部分を実行し,Client で多目的 GA の
他の部分を実行する.Fig. 1 にシステムの模式図を示
す.Fig. 1 の探索点にはディーゼル燃焼をシミュレー
トする上で必要なパラメータが記述されている.
ディーゼルエンジンは,その燃費効率の良さや高ト
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HIDECS
ルクなど の理由より,特に商用分野で広く使われてい
る.しかし ながら,環境問題への関心に伴い,デ ィー
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ゼルエンジンの排出する NOx やすすの量が問題となっ
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HIDECS
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ている.
近年,燃料噴射スケジュールを制御することで,NOx
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やすすの量を制御する研究が進められている.しかし
HIDECS
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ながら,燃料消費量と NOx の値にはトレード オフの
関係があり,両者を同時に最適化することができない.
Fig. 1: 最適化システムの模式図
そのため,コンピュータシミュレーションによる多目
的最適化手法を用いて,設計を行うことが有効である.
HIDECS に適当なディーゼル燃焼パラメータを与え
多目的最適化手法は数多く存在するが,本研究では ,
ないと HIDECS が結果を返さない場合がある.本研
遺伝的アルゴ リズム (Genetic Algorithm:GA) を多目
究では HIDECS による計算時間が 1 分多っても結果
的最適化手法に適用した多目的遺伝的アルゴ リズムの
を返さないとき,評価結果に最悪値を与える.
一つである SPEA2[1] を用いる.また,デ ィーゼルエ
3.2
ンジンシミュレ ータとして HIDECS[2] を用いる.
実験環境
実装し たシ ステムの有 効性の検証を行 うために ,
評価を行うためには,1CPU では,1 週間の計算時間
Grid Challenge Federation[3] によって提供されてい
る Grid 環境上に存在するクラスタ (Table 1) を用い
て実験を行った.また,比較対象としてローカル環境
で構成されるクラスタ (Table 2) を用いた.
が必要となる.
3.3
HIDECS に よ る 一 回 の 計 算 時 間 は ,PentiumIII(1GHz) で HIDECS を 1 回実行するためには ,
約 14.86 秒かか る.使用し た GA で総計 40000 回の
数値実験
ローカル環境,Grid 環境,それぞれにおいて,探
同志社大学大学院 Graduated School of Knowledge Engineering
and Computer Science, Doshisha University (†)
同志社大学工学部 Department of Knowledge Engineering and
Computer Science, Doshisha University (††)
1-3 Miyakodani, Tatara, Kyotanabe, Kyoto 610-0321,
Japan
索点数,計算機の数が 10,20,30,40,50 の場合に
おける最適化に要する時間の計測結果の平均を Fig. 2
に示す.なお、Grid 上の計算機の利用方法としては,
それぞれのクラスタを均等に利用する.
考慮し ,ローカル環境 (20 台),Grid 環境 (100 台) に
Table 1: 利用した Grid 環境のクラスタ
CPU
Memory(MB)
Node おける最適化に要する時間を計測した.結果を Fig. 4
20 に示す.
A
Athlon XP 1900+
768
B
PentiumIII 1.2GHz
1024
20
C
Athlon XP 2000+
512
20
D
Xeon 2.8GHz
1024
20
E
Xeon 2.4GHz
2048
20
ታⴕᤨ㑆
⑽
クラスタ
おいて,探索点の数が 20,40,60,80,100 の場合に
GridⅣႺ
ࡠ࡯ࠞ࡞ⅣႺ
Table 2: ローカル環境のクラスタ
20
クラスタ
Xenia
CPU
Memory(MB)
Node
1024
50
Xeon 2400
40
60
ត⚝ὐ
80
100
Fig. 4: 探索点変化時の最適化に要する時間
ローカル環境では,計算機が有限であるため,探索
点が増加に伴い,計算資源が豊富な Grid 環境の方が
ታⴕᤨ㑆
⑽
有効であると考えられる.
GridⅣႺ
ࡠ࡯ࠞ࡞ⅣႺ
4
今回のシステムの問題点
本研究では,以下の 2 つの問題点が存在する.
• 適切な負荷分散がされていない
ត⚝ὐߩᢙ⸘▚⾗Ḯߩᢙ
Fig. 2: 最適化に要する時間
次に,Grid 環境において,探索点数が 10,20,30,
40,50 の場合のオーバーヘッド を Fig. 3 に示す.
• 100 台を超えると Handle の生成時にエラーが出
て利用できない場合がある
Grid 上の計算機の性能を考慮せず,均等に Job を
振り分けたため,全体の評価時間が性能の悪い計算機
の影響を強く受けてしまうという結果が得られた.性
能の悪い計算機には job の割り当てを減らし,性能の
よい計算機に多くの job を割り当てる等の対策が必要
である.
また,Grid 上の 100 台を超える計算機を利用する
ࠝ࡯ࡃ࡯ࡋ࠶࠼
⑽
と不安定になり,実行できないという現象が生じた.
これについては原因追求する必要がある.
参考文献
[1] E. Zitzler and M. Laumanns and L. Thiele
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Fig. 3: Grid 上でのオーバーヘッド
Fig. 3 より,通信時間は最適化に要する時間に影響
しないと考えられる.また,Fig. 2 におけるローカル
環境と Grid 環境の最適化に要する時間の差は Grid 上
の計算機の性能を考慮せず,均等に Job を振り分けた
ため,全体の評価時間が性能の悪い計算機の影響を強
く受けてし まったものと考えられる.
次にローカル環境では計算資源が有限であることを
Improving the Performance of the Strength
Pareto Evolutionary Algorithm ”Technical Report 103, Computer Engineering and Communication Networks Lab (TIK), Swiss Federal Institute of Technology (ETH) Zurich, 2001
[2] H. Hiroyasu and T. Kadota: Models for Combustion and Formation of Nitric Oxide and Soot
in Direct Injection Diesel Engines, SAE, Paper
760129, (1976).
[3] Grid Challenge in SACSIS 2005
http://www.hpcc.jp/sacsis/2005/gridchallenge/