築 2008/04 Vol.32 No.1 - 日大生産工学部建築工学科

K I Z U K U
2008.03.04VOL.32NO.1
築
KIZUKU
2008.03.04VOL.32NO.1
日本大学生産工学部
建 築 工 学 科 教 室
巻頭言
キャリアデザイン
川 村 政 史
この号から「築」の発行が年 2 回になった。これまでは
は知らなかった。つい先だって、江戸東京博物館で夏目漱
年 3 回の発行で、おおよそ第 2 号が卒業生、第 3 号が新入
石展を見に行って初めて知った。勉強不足だと思われるか
生と新学年生を対象にしたものであった。したがって、こ
も知れないが、この年齢まで知らなかったのは事実である。
の号は卒業生号と新入生・新学年生号と一緒のものにな
もし、あの文豪が建築家になっていたらどんな建物を建て
り、巻頭言の原稿もおのずと変わらざるを得なく、そう言
ていただろうかと思い巡らすと何となく愉快な気持ちにな
った意味では原稿は書きづらい。今回は卒業生には申し訳
る。ただ、方向を定めてからの文学(英文学)に対する猛
ないが、在学生用として執筆することをお許し願いたい。
烈な勉強量は相当なものだったらしい。ちなみに、自分を
縁あって、平成 20 年度の「キャリアデザイン」科目の
モデルにしたような小説、「三四郎」「それから」「門」の
設置にたずさわった。どういう科目かと言うと、自分を知
中に自分の若い時代に進む道を考えて苦慮している様子が
り、世の中の流れを知り、自分にあっている職業は?
伺える。
き方は?
のか?
生
大学を卒業してから自分が進む道はどの方向な
「キャリアデザイン」と言う科目は漱石の学生時代も、
を学生時代にしっかり見つけ出す。そう言った方
我々の時代にも到底考えられなかった授業科目である。試
向性を見い出せるように自分自身に科す学問ととらえられ
行錯誤して自分の行き方を探すのが、当たり前の時代であ
る。生産工学部では 2 年生になった前期に座学が、後期に
った。それが結果として、時代と社会の大波にのまれ、流
演習が設置してある。
では、私自身の選択と方向性の結果はどうであったか?
結論から言うと、現在があるために努力したことだけは
確かであり、それに少しの運が味方してくれたとでも言っ
ておこう。
され、大人になって後悔や反省した後、行き着くところ、
「ま〜これで由とするか!」などと変に納得して、今を生き
ている人が多いのかもしれない。
今の社会は、大学を卒業しても職に就かず、やりたいこ
とがないからと言って、ぶらぶらしている所謂ニート・フ
私が大学に入学した昭和 36 年ごろの時代は、丁度東京
リーターと呼ばれる若者が非常に多い。平成 19 年度文科
オリンピックを 3 年後にひかえ、新幹線が東京と大阪間に
省白書によれば、卒業して就職していない若者は約 20 〜
開通すべく工事が始まり、高速道路工事が東京を中心に急
23 %にものぼる。この数字は大変なもので、18 年度大学
ピッチで始まり、超高層建築物の建設が計画され始め、
の卒業生が約 56 万人で、そのうち就職や進学など進路の
中・低層住宅をプレファブで建てようとしていた頃で、建
はっきりしている者は 44 万人だから 11 万人強もの新規卒
設ラッシュが始まる頃であったので、建設ブームに乗っか
業生が就職していないことになる。この下地になっている
って、そのブームに遅れをとるまいと、建築の道を選んだ
のはいろいろ考えられるが、何をやっても食っていける時
ような記憶がある。おそらく、建築を志す思想もセンスも
代だから、アルバイトなどで生活し、自分の本当にやりた
持たない、ただ、何でも良いから、技術者になろう、建築
いことを探し続ける。困窮したときには親が助けてくれる。
を選考したからには「初志貫徹」だと、自分を奮い立たせ
中にはそんなことを考えている人も少なくないのではない
て勉強したことは確かである。もし、当時キャリアデザイ
か。そう言った若者が増えているのかもしれない。それは
ンなる科目が時間割にあったとしたならば、おそらく、方
我々大人からみれば、喜ぶ気持にはなれない。
向転換していたのではないかとさえ思える選択だったよ
進級された皆さんに、また、今年新しく入学した皆さん
うな気がする。それが、運の良いことも手伝って、今の
に、大学で勉強するとはどう言うことなのかをしっかり考
この生き様が良かったかどうかは分からないにしても、
えて、将来自分の進んだ道に「ま〜良いか・・」などと言
少なくとも社会に貢献し、人並みに人生を送っていると
わないように真剣に考えてほしい。社会は自律した学生を
自負している。
常に求めているのだから・・・。
夏目漱石は学生時代に建築家を志望していたことを小生
(教授 地盤工学)
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新しい建築界
実業界の動き
私が北海道・泊原発を建設しています
泊発電所 3 号機増設工事・原子炉建屋他新築工事作業所長(大成建設)長谷川
裕
札幌から西へ約 130km。積丹半島の西側に位置す
る泊発電所は、北海道唯一の原子力発電所です。電
力需要の伸びに対応するため、1、2 号機建設以来 20
年ぶりとなる原子力発電所(3 号機)増設が計画され、
平成 16 年 4 月着工以来、4 度目の冬場を迎えており、
本年 12 月竣工予定です。
建設工事の安全最優先はどの工事でも同じです
が、2 機の原子力発電所が至近距離で稼動する状況
の下で、実施する工事には、いわゆる「原子力文化」
が根底にあり、一般の工事と一線を画す高い安全性
が要求されます。
原子力発電所の安全は人・設備・システムの 3 つ
の要素で構成されると言われ、その「設備」の部分で
の安全の一翼を担うのが建設工事です。
原子力発電所の一部である原子炉建屋や冷却用水
施設は、国の安全基準における耐震重要度分類にお
いて最重要度ランクである AS クラスにあたります。
また、近年原子力建築の品質管理は、より厳しい
ものになっており、各工程毎の発注者検査はもちろ
ん、国の審査機関が使用前検査を実施し、材料ひと
つについてもどこでどのように作られた製品かとい
うトレーサビリティーを求められます。
さらに、工事で使用するコンクリート総数量は
150,000m で、1 か月で 5,000m 打設しても 2 年半続
3
3
でコンクリート工事を継続する事になります。
T.P(海抜)10.0m からの高さが 73.1m と最も高く、い
わゆる原子力建築物の核となる部分です。
建築系学生の建設業界に対するアンケートによる
こうした特殊な環境にありながら、1 日も早い電力
と、q 昔 3K と言われ、魅力に欠けた時代から脱却
供給に貢献すべく大成建設は、最高レベルの工事を
していない。w 不動産関連会社に興味がある。e 建
目指し、挑戦し続けてきました。
設業界の中でも、設計部門に興味がある。という事
ここで、泊発電所の電気出力を紹介します。1、2
号機ともに 57.9 万 KW、3 号機 91.2 万 KW。合計 207
万 KW であり、これは北海道全体の電力需要の 4 割
です。
最前線で働く「現場マン」を希望する学生が特に少
ないそうです。
をカバーする量であります。大成建設は 1983 年着工
大成建設の現場マンは、「地図に残る仕事」をてが
の 1、2 号機建設工事も手がけており、今回は 3 号機
けています。毎日大勢の作業員と一緒に汗をかき、
の建設を行っています。
(汗といっても、実際に作業するわけでなく、工事
原子力発電所という、建物の性質上、既存建物や
の計画をし、設計図を実際の形にしていくために頭
建設現場へは厳しい入構手続きが課せられます。写
脳を使います。)また自分の父親くらいの年齢の作業
真は原子炉建屋(ドーム状屋根の建物)と呼ばれ、
員に指示し、工事をまとめ上げていく、いわばオー
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ケストラの指揮者のような職業です。
お客様の希望する建物を希望する工期に、安全に
作り上げ、無事引き渡せたときの、達成感は何物に
も代え難く、それまでの苦労も吹き飛んでしまいま
す。とりわけ、お客様が笑顔で誉めてくださったと
きは「現場マンでよかった」と思う瞬間です。
そんな「現場マン」という仕事に私は誇りを持って
いますし、少しでも興味のある学生さんは是非目指
してほしい職業であると思っています。
原子炉格納容器、建方状況(平成 17 年 8 月)
【長谷川
裕
プロフィール】
昭和 55 年日大生産工学部建築工学科宗研究室卒業
(経歴)
昭和 55 年 4 月、大成建設(株)が本社を銀座から西新宿
の新宿センタービルに移した後の 1 期生として入社。
横浜支店を皮きりに東京支店を経て現在札幌支店勤務。
建設工事に関与した代表的な建築物は、「東京ヒルトン
ホテル」
(東京都)、ロイトン札幌(札幌市)、北電苫東
火力発電所 4 号機(厚真町)等であり、平成 18 年 12 月よ
り現在の北電泊発電所 3 号機原子炉建屋他新築工事の
勤務となる。
(趣味)
旅行、鉄道、読書(時刻表)
原子炉建屋、コンクリート完了状況(平成 19 年 11 月)
平成 19 年 11 月湯浅准教授来現場にて
(左から 2 番目が長谷川、右から 2 番目が湯浅准教授、左 1 番目:池田副所長(日大理工卒)
、左 3 番目:長谷川
北大准教授、右 1 番目:山田琉大教授)
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修士論文
せん断変形を受けた乾式外壁材取り付けくぎの引き抜き抵抗に関する研究
斎 藤 賞
1.はじめに
近年、地震及び強風によって屋根、外壁(湿式・乾式)、
天井などの 2 次部材が脱落、飛散し、大きな被害を受ける
事例が急増している。本研究の対象である窯業系サイディ
ングにおいても人的被害の報告は少ないものの、脱落や割
れなどの被害が報告されている。窯業系サイディング施工
では、くぎによる取り付け方法が一般的でありその中で、
台風,地震による被害が見られるのもくぎの取り付け部で
あることが多い。サイディングの耐震性および耐風圧性を
考えるとき、取り付けくぎの挙動(変形)を注視すること
が大切である。
しかしながら、耐震性については層間変形角で評価され、
耐風圧性についてはくぎの引き抜き力でのみ評価してい
る。実際の建物は、地震を受けた後にくぎが変形したまま
使われていることが多い。このような外壁に強風が作用し
た場合、くぎの引き抜き力が低下するため、剥落事故へと
つながる可能性が高い。本研究では地震により変形したく
ぎの強風による引き抜き抵抗の変化について検討したもの
である。
本研究は、くぎの変形とくぎ穴の広がりおよび通気胴縁
の強度に着目し、模型実験および、簡易試験方法によりせ
ん断変形を受けたくぎの引き抜けに及ぼす影響について検
討した。本研究のせん断変形の作用方法は、静的に 1 方向
のみ 1 回作用させたものである。
2.新潟県中越沖地震における乾式外壁材の被害状況
2007 年 7 月 16 日に発生した新潟県中越沖地震における脱
落した窯業系サイディングの取り付けくぎの状況を Fig.2.1
に例示する。くぎは通気胴縁から抜けており、サイディン
グにくぎが残っている。くぎの曲がり方は横張りは縦胴縁
のため、胴縁の背面には必ず柱・間柱がある。このためく
ぎは胴縁と柱によって保持されている。よってくぎはサイ
ディングと胴縁および胴縁と柱の 2 箇所で変形している。
縦張りは横胴縁のため、サイディング取り付けくぎが打ち
込まれる部分の胴縁の背面には何もなく、胴縁を貫通して
保持されている。くぎの曲がりはサイディングと胴縁の間
で曲がっている。
3.実物大模型によるパネル面内せん断試験について
脱落したパネルの取り付けくぎの曲がり方、くぎ穴の広
がりを確認するため実物大模型により面内せん断試験を行
った。
3.1 実物大模型の概要
実物大模型は Fig.3.1 に示すように 910 × 455mm の窯業系
サイディングを 2 枚施工できる木造骨組みを作製した。サ
イディングの施工方法は横張り・縦張りの両方作製できる
ものである。
3.2 試験方法
(1)使用材料
窯業系サイディングは JIS A 5422 に規定する公称厚さ
12mm を使用した。サイディング取り付けくぎは、JIS A
5508(くぎ)の鉄丸くぎ N45、通気胴縁取り付けくぎは、
JIS A 5508(くぎ)の鉄丸くぎ N65 を使用した。柱材は、
スギを使用し、通気胴縁は、スギを用いた。柱および胴縁
は気乾状態である。
(2)試験体
Fig.3.1 に示すように窯業系サイディング(910 × 455mm)
を 2 枚張り付けた。窯業系サイディングの取り付けは標準
施工 4)に準じて、サイディング横張りは、縦胴縁に、サ
イディング縦張りは、横胴縁に取り付けた。柱は、両端に
105mm 角のものを使用し、ピン支持部の引き抜けに耐えら
れるものとした。
(3)試験方法
載荷方法は試験装置上端にウィンチを取り付け、引っ張
りにより層間変形を生じさせた。また、引っ張り時にロー
ドセル(最大荷重 5kN)により荷重を計測した。変位は試
験装置下部の柱のピン部分から 1000mm の部分に変位計
(最大 200mm)を取り付け、計測した。
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松井研究室 直 井
横張り
豊
縦張り
Fig.2.1 Fallen dry extemal panel nail
Fig.3.1 Test situation(Example of sideways Panel)
変位は、1/400,1/200,1/150,1/120,1/100,1/60,1/30 の 7 段階
ごとに、除荷しては、次の変位段階へ進むような方法で変
形させた。各変位におけるパネルの損傷を目視により観察
した。また、1/200, 1/120, 1/60 の層間変形角の時、サイデ
ィング取り付けくぎ頭の移動距離を計測した。荷重の計測
は変位が 0.5mm 増加するごとに行った。
最終変位量(33.3mm)に達した時点で試験を終了し、サ
イディングを取り外し、胴縁外壁側のくぎ穴の広がりを計
測した。
3.3 結果および考察
(1)せん断荷重と変位の関係
両者の関係は、サイディング横張り・縦張り共にほぼ同
様の傾向を示している。どちらの場合も変位 33.3mm(層間
変形角 1/30)の時、サイディング合いじゃくり部分でせり
持つため、サイディングの取り付け角部で割れが生じた。
(2)くぎ穴の広がりとくぎの曲がり方の違い
くぎ穴の最大広がりは、横張りで 2.8mm、縦張りで 2.9mm
とほぼ同じであったが、くぎの曲がり方は Fig.2.1 で示す地
震被害と同様な曲がり方をしており、横張りは、サイディ
ングと胴縁間と胴縁内の計 2 箇所で曲がっていた。これは、
サイディング取り付けくぎが、柱まで打ち付けられている
ため、くぎにかかるせん断力が胴縁と柱の間で作用したた
めであると考えられる。縦張りは、サイディングと胴縁間
で曲がっていた。これは、縦張りの場合サイディング取り
付けくぎが柱に打ち付けられていないため、くぎにかかる
せん断力が胴縁を介して作用し、くぎが胴縁内で回転した
と考えられる。
4.せん断変形を受けた乾式外壁材取り付けくぎの引き抜
き抵抗に及ぼす影響
4.1 試験の概要
くぎのせん断変形を作用させる場合、面内せん断試験方
法では数多くの試験水準について実験することが困難なた
め簡易な方法として 2 面せん断試験方法によって実験し
た。せん断荷重を受け、変形したくぎが引き抜き抵抗に及
ぼす①くぎの打ち込み深さによる影響、②サイディングの
横張り(縦胴縁)・縦張り(横胴縁)および胴縁の樹種に
よる影響について検討した。
4.2 試験体の概要
実験項目および実験条件を Table.4.1 に示す。
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Table.4.1 Experimental item and conditin
Fig.4.2 Deformed nail(Displacement 6mm)
Fig.4.3 Residual ration of pull out Strength vs. deformation
Fig.4.4 Deformed nail(Displacement 8mm)
Fig.4.1 Double shear test method and test specimen
試験体の基本形状は Fig.4.1 に示すようにせん断荷重をかけ
た後に引き抜き試験のできる形状とした。横張り(a)を
胴縁とサイディングの間でせん断を作用させた場合、縦張
り(b)を柱とサイディング(胴縁を介して)の間でせん
断を作用させた場合とした。共通事項として通気胴縁取り
付けくぎは、JIS A 5508(くぎ)の鉄丸くぎ N65(長さ
65mm 直径 3.05mm)を使用した。柱材は、スギ(寸法 25 ×
100 × 300)を使用した。通気胴縁は、スギ(寸法 20 ×
45 × 300)を使用した。使用した木材は全て気乾状態のも
のとした。
4.3 試験方法
(1)せん断試験方法
試験体をアムスラー型圧縮試験機(最大荷重 20kN)に
設置し、柱の上端加圧面に荷重を均等に分散させるために
硬質ゴム(硬度 70)をはさんで載荷した。せん断変位量は、
ダイヤルゲージ(精度 1/100mm)を用いて計測した。層間
変形角に対するくぎ接合部の移動距離を考慮し、接合部の
移動距離を層間変形角 1/200 に対し 2mm,1/120 に対し 4mm,
1/80 に対し 6mm,1/60 に対し 8mm とし、これをせん断最終
変位量とした。
(2)くぎの引き抜き試験方法
せん断試験終了後サイディングごとくぎを引き抜いた。
また、引き抜き力は、オートグラフを用いてサイディング
を保持し垂直に引き抜き、最大荷重を計測した。その際の
引き抜き速度は 2.5 /min とした。引き抜き試験終了後、
胴縁外壁側のくぎ穴の最大広がりをノギスにより計測し、
くぎの曲がり方を目視により観察した。
4.4 結果および考察
(1)くぎの打ち込み深さに対する影響
せん断荷重と変位の関係は、N45,N50,N65 いずれも
くぎの打ち込み深さが増えるに従って、せん断荷重が大き
くなっている。くぎの曲がり箇所は Fig.4.2 に示すように
N45,N50 の様にくぎが短い場合、通気胴縁とサイディン
グ間で曲がっており、N65 の様にくぎが長い場合、柱まで
打ち込まれているため、サイディングと通気胴縁間および、
通気胴縁と柱間の計 2 箇所で曲がっている。
(2)サイディングの横張り・縦張りおよび胴縁の樹種によ
る影響
せん断荷重と変位の関係は、横張り、縦張りにかかわら
ず、ほぼ同じ傾向を示していた。試験体個々のバラツキは
小さい。樹種の絶乾密度と各変位におけるせん断荷重との
関係は、いずれの変位においても密度が高くなるに従い、
せん断荷重は増加している。
変位と引き抜き力の残存率(9 〜 12 本の平均値)の関係
を Fig.4.3 に示す。横張り,縦張りいずれも引き抜き力のバ
ラツキ(変動係数 10%〜 50%)と大きくなっており、樹種
による影響は明確でない。変位 0mm 時の引き抜き力を 1 と
したとき、横張り,縦張りいずれも変位 2mm で引き抜き力
は急激に低下している。
Fig.4.4 に横張り,縦張りの変位 8mm におけるくぎの曲が
り方を示す。横張りのくぎは、図中の点線で示すようにサ
イディングの通気胴縁側と、通気胴縁のほぼ中央で曲がり
が見られ Z 字に変形している。さらに、通気胴縁のくぎ穴
の広がり方は通気胴縁のサイディング側で広がっている。
これは、せん断力がサイディングと胴縁の間で作用し、通
気胴縁の方がサイディングより側圧強さが小さいため、通
気胴縁のくぎ穴が広がったものである。
縦張りは、サイディングの胴縁側から変形している。ま
た、くぎ穴の広がり方は通気胴縁のサイディング側と柱側
両方で広がっていると考えられる。これはせん断力が通気
胴縁を介して作用しているため、くぎが通気胴縁内で回転
したものと考えられる。
このようにくぎの変形から考えると、縦張りの残存率が
横張りに比し、小さいことがわかる。
5.まとめ
本研究の結果を以下に要約する。
(1)横張りと縦張りでは取り付けくぎの曲がり方に違いが
あることがわかった。横張りは Z 字に曲がり、縦張りは く
の字に曲がっている。
(2) せん断荷重と変位の関係は、縦張りと横張りの違い
は見られなかった。
(3)せん断最終変位時のせん断荷重は層間変形角が大きく
なるほど、通気胴縁の密度が大きくなるほど大きくなって
いる。
(4)せん断変形を加えた後のくぎの引き抜き力の残存率は、
変位 2mm(層間変形角 1/200)で 0.6 〜 0.2 となり非常に小
さくなっている。取り付けくぎを設計する際、くぎのせん
断変形後の引き抜き力を考慮する必要がある。
(5)地震によりせん断変形を受けたくぎの引き抜き力を試
験する場合、本研究で提案した 2 面せん断試験方法が適用
できる。
謝辞 本研究を行うにあたり、試料を提供していただいた、
旭トステム外装株式会社 金澤光明様、ならびに面内せん
断試験を行うにあたりご指導いただいた、日本大学 小松
博准教授に対し謝意を表します。
[参考文献]
1)直井豊,松井勇,湯浅昇;せん断変形を受けた乾式外壁材取り付け釘の保
持力について 日本建築学会大会学術講演概要集(九州)pp.1009-1010
(2007)2)直井豊,松井勇,湯浅昇:せん断変形を受けた乾式外壁材取り付
け釘の保持力について 日大生産工第 40 回学術講演会 pp.17-20 3) 直井
豊,松井勇,湯浅昇:乾式外壁材料取付釘の保持力について―せん断力を受
けた場合― 日大生産工第 39 回学術講演会 pp.13-16 4)川上修,橋本敏
男,梅森浩,宮澤健二;木質耐力壁の面内せん断耐力に及ぼす釘打ちめり込み
深さの影響 その 1 日本建築学会大会学術講演概要集(東海)pp.273-274
(2003)
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修士論文
建築材料の落書き・貼り紙の除去方法に関する研究
金 井 賞
松井研究室 小 田 浩 之
1.研究の背景
落書きおよび貼り紙については,景観法が平成 16 年 12
月に施行され,街の景観,建築物の美観性の維持がより求
められるようになってきた。法令や条例が整備されつつあ
るが,未だに落書き・貼り紙は,増々エスカレートしてい
るのが現状(Fig.1,Fig.2)である。このような背景のな
かで,落書きおよび貼り紙の除去に関する研究は,ほとん
タギング
絵
文字
塗りつぶし
ど行なわれていない。落書きや貼り紙は,建築物をはじめ
門扉・塀,高架橋の柱・壁,トンネルの内壁,電柱などに
されており,これらを除去するには,多大な労力と費用が
必要となる。現状の落書き・貼り紙除去としては,洗浄剤,
対策材料,高圧洗浄,ブラストが使用されている。そこで,
本研究は,これらの洗浄効果,作業性について比較検討し
たものである。
Fig.1 落書きの現状被害
2.落書き・貼り紙の実態調査
2.1 調査方法
実態調査は,JR 津田沼駅を中心とした 2km 四方の区域
(千葉県習志野市および船橋市)を対象とし,その区域を
Fig.3 のように 16 ブロックに区画分けして調査を行った。
2.2 結果および考察
落書き・貼り紙の実態調査結果を以下に示す。
電柱
標識・信号機の柱
塀・外壁
その他
(1)実態調査区域内の落書きは駅周辺 500m 以内に 66%,
また鉄道高架がある A1,B2,C3,D4 に多く見られ,両者
で全体の約 80%を占めている。
(2)落書きをされている対象物は塀および鉄道高架下の壁
面に多い。
(3)落書きに用いた筆記用具は,スプレーとマーキングペ
ンが占めている。
(4)ひとつの落書きに使用されている筆記用具の色は,黒
Fig.2 貼り紙の現状被害
色が多い。
(5)貼り紙をされる対象物は電柱が多く,接着剤は粘着テ
ープが多い。
3.落書き除去方法
3.1 実験方法
(1)落書き・貼り紙の除去原理
Table 1 に落書き・貼り紙の除去原理を示す。本研究で
は,Table 1 のうち洗浄剤,対策材料および重曹ブラスト
について研究した。
1)洗浄剤を用いる方法
使用した洗浄剤は,主成分の違いによる影響と液性状の
違いによる落書き除去性を比較するため,液体状・ゲル状
およびスプレー状の洗浄剤 8 種類を用いた。
2)対策材料を用いる方法
対策材料は,事前に壁等に塗布し,この上に書かれた落
6
上:落書き件数
Fig.3 実態調査結果
下:貼り紙件数
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書きや貼り紙を容易に落とすことができる材料のことで
Table 1 落書き・貼り紙の除去原理
ある。
3)重曹ブラストを用いる方法
重曹ブラストは,特殊な造粒加工された重炭酸ナトリウ
ムを低圧の圧送空気とともに対象物に吹き付け,研掃・研
磨の効果により,塗膜・汚れ・サビ・油分等を除去するも
のである。
(2)落書きの除去程度の評価方法
落書きの除去程度は目視および落書き前と落書き除去後
の色差で評価した。
3.2 結果および考察
Fig.4 に,洗浄剤,対策材料および重曹ブラストによる
落書き除去程度の比較結果を例示する。金属表面の落書き
は,洗浄剤が最もよく除去されている。コンクリートの落
書きは,洗浄剤および対策材料では,十分除去することが
できない。これに対し重曹ブラストは,コンクリートの落
書きには有効である。
4.貼り紙除去方法
4.1 実験方法
(1)貼り紙除去方法の種類
貼り紙の除去に用いた洗浄剤は,オレンジオイル系洗浄
剤の 2 種類を用いた。対策材料および重曹ブラストは,落
Fig.4 各種落書き除去程度の比較
書き除去と同様な方法を用いた。
(2)貼り紙の除去程度の評価方法
貼り紙の除去程度は,目視および貼り紙の表面をデジタ
Table 2 貼り紙の除去程度の比較
ル現場顕微鏡で観察とした。
4.2 結果および考察
Table 2 に貼り紙除去程度の比較(コンクリートおよび
水性塗装鋼板)を例示する。洗浄剤および対策材料では,
貼り紙が容易除去できることを確認した。しかし,重曹ブ
ラストでは,布ガムテープおよび両面テープを除去するこ
とができなかった。これは,粘着剤に含まれる合成ゴムに
弾力性があるので,重曹ブラストの衝撃エネルギーを吸収
すると考えられる。一方,スプレーのりは,塗料と同様に
塗布後,のりが硬化し,衝撃エネルギーを吸収しないため,
容易にのりが除去できることを目視によって確認した。
5.まとめ
本論文によって得られた知見を以下にまとめる。
(1)多孔質材料の落書き除去においては,洗浄剤,対策材
料は不適切であり,重曹ブラストが洗浄効果,作業性とも
に優れている。
(2)貼り紙除去には,いずれの材料も洗浄剤または,対策
材料が有効である。重曹ブラストの場合あらかじめ貼り
紙・テープを取り除いておくと,接着剤のみは除去できる。
(3)重曹は,安価で,人体や環境に悪影響をおよぼさず,
後処理が容易である。また,ブラスト装置は最大 0.2MPa
程度のものは,安価で市販されており,操作が容易である。
【参考文献】
(1)小田 浩之,松井 勇,湯浅 昇,落書き・貼り紙の対策材料の除去性能
評価,日本大学生産工学部第 39 回学術講演会,pp21-24,2006.12.
(2)小田 浩之,松井 勇,湯浅 昇,建築地上げ材料の落書き・貼り紙の除
去性に関する研究-落書き・貼り紙実態調査結果について-,日本大学生産
工学部第 40 回学術講演会,pp21-24,2007.12.
(3)小田 浩之,松井 勇,湯浅 昇,落書き洗浄剤の落書き除去性に関する
研究,日本建築仕上学会 2006 年大会学術講演会,pp63-66,2006.10.
(4)松井
勇,湯浅
昇,米久田啓貴,建築仕上材料の対落書き性の評
価項目及び評価方法に関する研究
その 1
落書きの実態調査,日本建築
仕上学会大会学術講演会論文集,pp.37-40,1998.10.12
(5)松井
勇,湯浅
昇,米久田啓貴,建築仕上材料の対落書き性の評
価項目及び評価方法に関する研究
その 2
落書き対策の現状,日本大学
生産工学部第 31 回学術講演会建築部会講演概要,pp.41-44,1998.12
7
K I Z U K U
2008.03.04VOL.32NO.1
平成1 9 年度修士論文題目
日本大学大学院生産工学研究科建築工学専攻
名
真
之
学位論文題目
氏
学位論文題目
名
誠
街頭犯罪発生空間と土地利用の関係
についての調査・分析(船橋市を例
として)
貴
美
婦人の学習活動にかかわる地域施設
に関する研究
雅
裕
和
超高層住宅の集住体における配置計
画と居住者の近隣領域との関係性に
関する研究
口
槙
子
グループ活動の実態とキーパーソン
の役割(1960 年代初頭のミニ開発住
宅地S地区に関する研究)
誠
救急医療システムにおけるGIS・
GPSを用いたドクターカーステー
ションの適正配置と圏域的計画手法
に関する研究
一
住民参加型施設づくりにおける合意
形成プロセスに関する研究
豊
せん断変形を受けた乾式外壁材取り
付けくぎの引き抜き抵抗に関する研
究
介
沿岸域集落における住居内部空間の
空間構成に関する研究
斉
藤
秋 山 槙 之 介
バンコクの街路構造の特性に関する
研究(スクンビットエリアにおける
ソイとパクソイの関係)
外
輪
浅
野
剛
史
利用者・職員の記憶からみた公民館
の機能に関する研究
賞
岡
本
泰
郎
来訪者からみた現代住宅の領域区分
分析
田
田
島
縣
8
氏
荻
野
将
志
沿岸域集落における住空間の生成過
程に関する研究
小
田
浩
之
建築材料の落書き・貼り紙の除去方法
に関する研究
千
田
香
山
愛
理
高齢者を含む地域住民に対する近隣
商店の実証的役割(1960 年代初頭の
ミニ開発住宅地S地区に関する研究)
直
井
岸
野
直
樹
兵庫県における建設副産物を扱う処
理施設の立地特性と静脈物流に関す
る研究
本
多
俊
哉
高齢化都市におけるまちづくり活動
の実態に関する調査・分析(長崎県
平戸市を例として)
熊
谷
平
助
福岡市・北九州市臨海部と漁業地区
周辺域の環境形成計画に関する研究
松
村
雄
介
区画整理事業によるまちづくりにつ
いての調査・分析(首都圏近郊都
市・松戸市を例として)
小
谷
雅
紀
コーポラティブ・ハウジングに関す
る研究(アメリカにおけるエコビレ
ッジ型コウハウジングについて)
渡
辺
真
悟
中品質再生粗骨材を混合使用した再
生コンクリート梁部材の付着割裂強
度に関する研究
小
林
秀
将
ソウル特別市における住民自治セン
ターの設置機能
聖
K I Z U K U
2008.03.04VOL.32NO.1
平成1 9 年度卒業論文・卒業設計審査会
4 年クラス担任
卒業論文・卒業設計審査会について
平成 19 年度の卒業設計・卒業論文の審査会が 2 月 8 日
(金)から 22 日(金)の日程で開催された。この審査会は学
生の卒業に関する判定と、卒業制作に携った学生作品(論
文・設計)の中から優秀案を選ぶことを目的として、毎年
実施しているものである。本年度は 4 年のクラス担任(丸
田教授、花井教授、神田准教授、岩田専任講師)が中心と
なり、昨年までの審査会の問題点を整理し、さらなる教育
効果と学生の意欲を高めることを目的に運営方法の改善が
試みられた。改善のポイントとして、「学生が多大な時間
と労力を注いで制作した作品や論文に対し、充分な時間を
掛けた評価を行う」・「審査の結果はそのプロセスを含めて
公開し、できるだけ多角的な視点から作品・論文を評価し
公平性を高める」
・
「学外に対して積極的に情報発信を行う」
の 3 点を掲げ、審査会のスケジュールや発表・投票方法な
どを抜本的に見直した。
これに伴い、津田沼キャンパス体育館と 5 号館ワークス
テーションを会場に 2 月 10 日(日)・ 11 日(月)の 2 日間の
日程で卒業設計展が一般公開され、御父兄や高校生を含む
多数の来場があった。
卒業論文審査会の報告
本年度の卒業論文審査会は、基本的には昨年と同様に行
われたが、よりよい審査会とするため学生の希望も取り入
れつつ、次のような点で異なる審査会とした。
q 一次審査会と二次審査会は、別の日に実施した。
w 審査結果は、すべて公開とした。
e 二次審査は、論文別に三項目に対し 5 段階評価を各審査
二次審査投票結果(各項目 5 段階評価/ A :論文の内容
番
号
3
4
10
13
15
25
35
36
40
44
45
51
62
64
72
員が行い全審査員の結果を平均した。
一次審査会は、2 月 15 日に津田沼校舎体育館で行われた。
応募論文数は、81 編と昨年の応募数 46 編に比べ、倍とは
ならないものの、大幅な応募数の伸びとなった。これは、
ポスターとして掲示するものを論文概要の拡大コピーした
ものとし、論文のポスター作成を任意としため学生の負担
が減ったためであると推察される。発表形式は、ポスター
セッション形式と昨年とかわらないが、事前に審査員全員
に各論文の概要を配布したこともあって、会場では活発な
議論が応募者と審査員の間で行われた。この中から、15 編
が選出され二次審査でプレゼンテーションを行うこととな
った。
二次審査は、一次審査から 5 日後の 2 月 20 日に津田沼校
舎 37 号館 803 教室行われた。各論文の発表時間は 7 分、質
疑応答を 3 分、全体で 1 題、10 分である。一次審査から二
次審査まで、5 日間あったため、十分な準備ができたと思
われ、プレゼンテーションの中には、かなり洗礼されたも
のもみられた。卒業後は、様々な機会にプレゼンテーショ
ンを行うことが必要となる学生にとってはいい機会となっ
たであろう。一次審査とは異なり、しっかりしたプレゼン
テーションを聞き論文を再考すると卒業論文としては十分
であるが、やや論旨のあやふやなものデータの吟味が不十
分なものもみられた。これらは、論文の著者自身が認識さ
れていると思われ、今後の社会や大学院での研究活動で活
かしていただきたい。採点については、得点は僅差であり
各論文の甲乙つけがたい内容であったことがわかる。昨年
の審査を参考に再考した審査法には、いくつかのよい点が
あったように思われる。以下に、二次審査の結果を示す。
B :プレゼンテーション
タイトル
日本大学生産工学部における強度観測と記録の解析
植物が付着・生育可能なコンクリートの品質に関する研究
ごみ溶解スラグと再生粗骨材を併用した鉄筋コンクリート梁部分の付着性状
産業廃棄物及び建築副産物を用いた地盤免震材料の開発に関する実験研究
屋上緑化による植生及び建物内の環境温度変化に関する実験研究
地域施設における住民参加型施設づくりに関する基礎的研究
寺院建築にみる地域施設としての歴史的機能と可能性に関する研究
重曹ブラストによる落書き・貼り紙の除去方法に関する研究
せん断変形を受けた乾式外壁材取り付けくぎの保持力に関する研究
柏市の街づくりとストリートパフォーマンスに関する研究
車椅子利用者の公共施設における利用阻害要因とその対策
災害時の避難場所の設計ガイドラインに関する研究
骨組構造力学における光弾性実験の活用に関する研究
E.G.アスプルンド「森の墓地」に関する研究
人間の身体・建築について
卒業論文二次審査会の様子
内容
53.81
56.45
55.76
51.53
47.95
49.63
55.18
51.25
46.43
40.04
48.82
55.44
36.55
45.19
55.99
C :本人の理解度)
採点
プレゼン
51.61
57.85
59.11
54.55
51.47
41.54
44.12
66.82
54.62
38.08
40.99
52.9
47.76
44.44
44.2
理解度
51.06
53.89
49.74
48.72
47.11
51.66
54.41
56.68
54.36
41.69
47.38
50.86
47.06
47.81
47.28
最終平均
52.16
56.06
54.87
51.6
48.84
47.61
51.24
58.25
51.8
39.94
45.73
53.07
43.79
45.81
49.16
各賞決定
建築工学科論文賞
桜建賞
桜建賞
桜建賞
建築工学科論文賞
卒業設計全体審査会の様子
9
K I Z U K U
2008.03.04VOL.32NO.1
卒業設計全体審査会の報告
2 月 22 日(金)に、19 年度の卒業設計全体審査会が津田沼
キャンパス体育館を会場に開催された。従来、各研究室か
らの推薦形式で作品数を絞り込んで行われていた審査会
は、一昨年度より全作品の展示と審査を原則とする形式に
変更され、審査対象作品数の増加に対してコース審査会
(予選)と全体審査会(本選)の 2 段階審査方式が採用されて
いる。本年度の全体審査会では、一昨年度よりご参加いた
だいている桜門建築会からの招待審査委員(神田孜氏)に加
え、より幅広い観点から教育成果を評価していただくこと
を目的に新たにゲスト審査委員枠を設け、建築界の第一線
で活躍されている 4 名のゲスト審査委員(前田啓介氏・中
山英之氏・武井誠氏・鍋島千恵氏)にお越しいただいた。
非常勤講師の先生方にも多数ご参加いただき、専任教員を
含む総勢 36 名の審査委員によって各賞の選考が行われた。
本年度の提出作品数は 116 作品(建築・環境デザインコ
ース 76 作品・建築工学コース 22 作品・居住空間デザイン
コース 18 作品)で、その中からコース審査会(開催: 2 月 8
日・ 12 日)を通過した 37 作品が全体審査会に進出した。午
前中の展示審査)によって 9 作品に絞り込まれ、午後から
は公開のプレゼンテーション(持ち時間 5 分)と質疑応答が
行われた。本年度の新たな取り組みとして、質疑応答後に
中間投票を行い、その結果に基づいて審査委員同士が意見
を交換する時間を設けた。審査委員らによる議論は、それ
ぞれの価値観に基づく個別の作品に対する評価にはじま
り、「学生が卒業設計に何を求め、それを教育の場として
大学側がどのように受け止め、学生の努力に対して何をど
のように評価すべきか」といった教育の本質に関わる内容
にまで展開され、活発な意見交換がなされた。長時間に亘
る審査会であったが、聴衆した大勢の学生たちは、審査委
員らの熱の籠もったやり取りに最後まで真剣に聞き入って
いた。
選考会上位における各賞の受賞作品は下記表のとおりで
ある。尚、本年度から校友会建築部会のご協力により新た
に校友会奨励賞が設けられ、最優秀作品に桜建賞と重複し
て与えられた。
最終投票結果(各審査委員が持ち点 6 点を 3 作品に配点して投票)
番
号
氏 名
1
阿部宏之
2
中村恭平
3
作 品 名
票 数
順 位
小さな「せかい」の大きな「かぞく」
21
5
建築工学科デザイン賞
伸びたり縮んだりすること
30
3
UIA記念賞
小倉奈央子
陸 海
44
1
桜建賞・校友会奨励賞
9
上杉麻里子
かぜのみち
16
6
建築工学科デザイン賞
16
山下登教
connect
27
4
建築工学科デザイン賞
17
小倉大助
シモキタの指紋
34
2
桜建賞
25
石田憲
量が転じて質となる
7
9
建築工学科デザイン賞
27
小暮光裕
表×裏
11
8
建築工学科デザイン賞
37
江崎航
都市空間の再編のためのアーバンコミュニティコンプレックス
14
7
建築工学科デザイン賞
卒業設計全体審査会ギャラリーの様子
10
各賞決定
卒業論文全体審査会ギャラリーの様子
K I Z U K U
おどろいたこと
・最終選考の 9 作品中 4 案も住宅作品であったこと。
・プレゼンのうまさ・・・作品構成能力、プロセス
の重視、CG の多様さ、模型作成能力の高さには、
目を見張るものがありました。
・
「人間」
を表す表現方法が、皆さん同様であること。
気になったこと
・都市的スケールを感じる感受性の貧弱さ。
・設計アプローチが構築的でないこと。
・都市のインフラへの興味が薄いこと。
・その中での具体的シーンの想像力が乏しいこと。
略 歴
1965 年 群馬県生まれ
1987 年 日本大学生産工学部建築工学科卒業
1989 年 日本大学生産工学研究科建築工学専攻修了
1990 年 AXS 佐藤総合計画入社
1997 年 日本 IBM 株式会社入社
受賞 2007 年日本建築学会作品選奨,2006 年度 JIA 環境建築
賞,2005 年度ニューオフィス賞など
当日は、それぞれが見つけてきたテーマと、その解
答として選らんだ方法をゆっくり時間をかけて見
て、僕の決めた順位は以下でした。
1 位 「伸びたり縮んだりすること-ある街の新たな
都市居住のかたち-」
2 位 「陸 海 -石垣から成る風の集落-」
3 位 「パッチワーク ―カヌマ木工団地活性化プロジェ
クト―」
案を見ているうちに、ここで考えられていることが、
他の誰かが何か別のことを考える時にも関係あるか
もしれないと思わせるような、そういうひろがりを
感じさせる提案にだんだん興味が絞られていきまし
た。他に、「バードウォッチングハウジング 〜谷
津干潟のくらし〜」や「The Tokyo Heritage 〜風景
となる家〜」、「connect」や「シモキタの指紋 ―下
北沢再開発における街のありかたに関する提案―」
など。
略 歴
1972 年 福岡県生まれ
1988 年 東京芸術大学建築科卒業
2000 年 東京芸術大学建築科大学院修了
伊東豊雄建築設計事務所入所
2007 年 中山英之建築設計事務所
受賞 SD Review2004 鹿島賞,第 23 回吉岡賞など
私の選んだ作品は偶然にも上位 3 作品に選ばれたの
ですが、その中でも 1 位に選ばれた小倉奈央子さん
の作品「陸 海」は、単なる防風の役目であった石
垣が、目隠し塀・ベンチ・外壁・風車小屋・車庫な
どに形を変えながらダイナミックに展開してゆく風
景が、圧倒的な模型で表現されており、その醸し出
す雰囲気は、他の作品に比べ群を抜いていました。
惜しくも 2 位になった小倉大助さんの「シモキタの
指紋」は、下北沢再開発のありかたについて、否定
的な意見の多い現状の計画を敢えて引き受け、その
環境で新たな街づくりを展開してゆきたいという建
設的な姿勢と、用途が曖昧ではあるものの非日常の
スケールが連続した空間に、今までの下北沢を変容
させる可能性を感じました。3 位の中村恭平さんの
「伸びたり縮んだりすること」は、月島の路地空間
を勾配屋根の連続する家並みで再定義しようとす
る、面白い提案でした。勾配によって出来た屋根裏
の空間をつくるというより、その薄暗いイメージの
屋根の底からピロティ状に広がる路地に滲み出てゆ
く暮らしの様が魅力的に感じました。卒業設計に求
められることは、新しい提案だと思います。新しい
形式を見つけるだけでなく、誤解を恐れずに言えば、
やはり建物は「チャーミング」であって欲しいと思
います。講評会では伝えきれませんでしたが、「チ
ャーム」ということは、「美しい」とか「綺麗」と
いう純粋な形容からズレた部分にあって、かたちを
生み出す過程において、もっと奥深い理由を含んだ
状態だと思っています。
略 歴
1974 年 東京都生まれ
1997 年 東海大学工学部建築学科卒業
東京工業大学大学院塚本由晴研究室研究生+アトリ
エ・ワン
1999 年 手塚建築研究所入社
2004 年 TNA を鍋島千恵と設立
2005 年 TNA 一級建築士事務所設立
現在、東海大学非常勤講師
受賞 Wallpaper Design Awards 2008,平成 19 年度建築士会
住宅建築賞など
1 番に選ばれた、石垣を使った明快なコンセプトの
「陸 海」は、その情景や平面計画にはとても魅力
がありました。壁の位置や場の配置方法や設定、隣
同士の関係、近景・遠景の関係で石垣を上手に据え
置き、場に合わせた高さを設定している計画に魅力
があったのだと思います。更に緩やかに傾斜した海
辺を選んでいる点など、石垣という高さのある壁を
緻密に計画し、出来上がった模型は美しい風景を作
っていました。
また、3 番に選ばれた「伸びたり縮んだりすること」
は、1 階では現存する月島の路地の雰囲気を作り出
し、路地に風と光を取り入れるための屋根の計画が
そのまま 2 ・ 3 階の屋根と壁を曖昧にしている、と
てもユニークな提案でした。その意味ある屋根があ
ってこその魅力的な作品であると思います。それは
屋根裏から見える(白い?)屋根の海のようでした。
場を作る時に、建築が何をしなければならないのか、
設計において一本の図面の線に意味があって魅力的
な設計になるのだと思います。場を作り、その枠組
みを設定し、その枠に意味を持たなければなりませ
ん。2 つの作品はその点に優れていると私は思いま
す。
略 歴
1975 年 神奈川県生まれ
1998 年 日本大学生産工学部建築工学科居住空間デザイン
コース卒業
1998 年 手塚建築研究所入社
2005 年 TNA 一級建築士事務所 共同主宰
受賞 Wallpaper Design Awards 2008,平成 19 年度建築士会
住宅建築賞など
K I Z U K U
卒業論文
桜 建 賞
植物が付着・生育可能なコンクリートの品質に関する研究
− 水セメント比の違いが植物の付着に及ぼす影響 −
1.はじめに
本研究は藻類等の植物について、コンクリートに自然に
付着・生育するかを調査し、植物が付着・生育可能なコン
クリートの品質を検討することを目的としている。本報告
は、水セメント比の異なるコンクリートを作製し、一年間、
藻類等が繁殖している場所に暴露した結果についてまとめ
たものである。
2.実験概要
2.1 試験体概要
φ 100 × 200mm の型枠に水セメント比(以下 W/C)80 %、
60 %、40 %のコンクリートを打設した。打設後、20 ℃、
相対湿度 60 %の恒温恒湿室において材齢 3 日まで封緘養生
し、その後、試験体全面を開放面として同恒温恒湿室にて
気中養生した。
暴露開始後、2007 年 12 月時点における引っかき傷幅を
表 1 に、細孔径分布を図 1 に、表面形状(凹凸度)を図 2
に、中性化深さを表 2 示す。水セメント比が大きい程、圧
縮強度、表面硬度が小さく、組織が粗く、暴露後の表面凹
凸度が大きく、中性化が進んでいたことがわかる。
2.2 暴露方法
W/C80%、60 %、40 %のコンクリート試験体をそれぞれ
1 体ずつ、①東京都八王子市、②埼玉県上尾市、③本学構
内の異なる 2 箇所、④本学軽井沢日大セミナーハウスの 4
地点、計 5 箇所に設置した。場所の選定は、実際の植物の
生育状況を見て、藻類等の自然発生が期待できる場所とし
た。暴露期間は 2006 年秋より 1 年間とした。
2.3 付着植物の同定
暴露後のコンクリート試験体から採取した藻類をスライ
ドガラスとカバーガラスの間に水で封入し、それを実体顕
微鏡(MODEL CHS)を用いて観察した。
3.結果及び考察
全ての地域において、W/C80 %、60 %、40 %の順に藻
類等の緑色植物が多く付着していた。これは、水セメント
比の大きいコンクリートほど、コンクリートの細孔量が多
く、表面強度が低く、表面粗さが大きく、中性化している
ためと考えられる。写真 1 に本学構内食堂裏の暴露状況と
一年後の試験体を示す。
本学構内の試験体により、実体顕微鏡観察を行った結果、
コンクリートに最も多く生えてきた藻類は、緑藻の緑色植
物門 アオサ藻綱 ヒビミドロ目 クレブソルミディウム属の
クレブソルミディウム(ホルミディウム)であると考えら
れる(写真 2)。また、クロレラ、クロオコックスといった
緑藻類も観測された(写真 3)
。
4.まとめ
(1)水セメント比が大きいコンクリートほど、藻類の付着
が見られた。
(2)本学構内の試験体については、藻類のクレブソルミデ
ィウムが最も多く付着していた。その他にもクロレラ、
クロオコックスといった藻類が生育していた。
宮 下 幸 子
表 1 引っかき試験結果
図 1 細孔径分布測定結果(八王子)
図 2 表面形状(凹凸度)の測定結果(上尾)
表 2 中性化深さ測定結果(上尾)
写真 1 暴露現場と植物の付着状況(本学構内食堂裏)
写真 2 クレブソルミディウム
写真 3 クロオコックス
K I Z U K U
卒業論文
ごみ溶融スラグと再生粗骨材を併用した鉄筋コンクリート梁部材の付着性状
桜 建 賞
大井 悠太郎
久保 雄一
1.はじめに 日本のごみ処理量は年々増加しており、一
般廃棄物の最終処分場の不足が問題となっている。この問
題を改善するために、ごみ溶融スラグ(一般廃棄物を高温
で溶融、冷却し、固化させたもの)を産出する技術が開発
された。2006 年にごみ溶融スラグの有効利用を図るため
JIS A 5031 (一般廃棄物、下水汚泥又はそれらの焼却灰を
溶融固化したコンクリート用溶融スラグ骨材)1)が制定さ
れたが、現状では大半が最終処分されている。このごみ溶
融スラグを有効利用し、さらに産業廃棄物であるコンクリ
ート塊から製造される再生粗骨材を併用できれば、資源の
再利用としての循環型社会の構築に貢献できるのではない
かと考えられる。そこで本研究はごみ溶融スラグと中品質
再生粗骨材を併用した RC 梁部材の付着性状を検討したも
のである。本研究では付着性状に及ぼすごみ溶融スラグの
影響の有無を検討するため、既往の中品質再生骨材のみを
使用した RM シリーズと RMM シリーズの結果との比較検
討を行った 2)。
2.実験概要 本実験で使用したコンクリートは、習志野
市芝園清掃工場で製造されたごみ溶融スラグ(吸水
率:0.49%)を天然砂(吸水率:2.41%)に対して置換する割合
(以下、置換率と称す)を 50%(RMNS シリーズ)と 100%
(RMS シリーズ)の 2 シリーズとした。ごみ溶融スラグの
吸水率は天然砂の吸水率と比較して、極めて低い値であっ
た。試験体は単純梁形式とし、付着性状を検討するため純
曲げ区間の下端に重ね継手を設けた。
3.実験結果
3.1 変位性状 図-1 に各試験体の荷重-変位曲線の包絡線を
示す。ごみ溶融スラグを使用した場合(RMNS、RMS)と
再生砂を使用した場合(RMM)を比較すると、初期剛性
に差は見られなかった。また、ごみ溶融スラグの置換率の
違いによる初期剛性の差も見られなかった。
3.2 付着割裂強度 図-2 に付着割裂強度を示す。RMNS の
付着割裂強度は、RM、RMM と比較して概ね同等であった。
しかし、RMS の付着割裂強度は他の試験体と比較して低
い値となった。このことは、ごみ溶融スラグの置換率を
100%にすると、ごみ溶融スラグの粒子表面がガラス状で滑
らかであるのでセメントペーストとの付着が小さくなり 3)、
付着割裂強度が低下したものと考える。
坂本 大輔
早川 知宏
日向野 勉
4.長期経過の性状
4.1 乾燥収縮率 長さ変化試験体は JIS A 1129 コンクリー
トの長さ変化試験方法 4) に準じて梁部材と同時に作製し、
恒温恒湿室に保存した。測定箇所は打設面に対して長辺方
向の両側面の中央とし、値は平均値を用いた。材齢 24 週
時の乾燥収縮率は LRMNS に比べ LRMS が低い値となった。
また、LRMNS と LRMS は既往の LRM より低い値を示した。
ごみ溶融スラグの吸水率(0.49%)は天然砂(2.44%)と比
較して 2%程低いため、乾燥収縮率が低下したものと考える。
4.2 乾燥収縮ひび割れ性状 図-3 に材齢 20 週の RC 梁部材
の乾燥収縮ひび割れの発生状況を示す。ごみ溶融スラグを
使用した RMNS1K の乾燥収縮ひび割れは、既往の RMM1K
と比較すると乾燥収縮ひび割れが際立って減少する傾向が
見られた。このことから、細骨材にごみ溶融スラグを使用
した場合は吸水率が低いため乾燥収縮ひび割れの発生が減
少したと考える。
a)RMNS1K(20 週)
b)RMM1K2)(20 週)
図-3 乾燥収縮ひび割れ(観測面)
5.まとめ 本実験の範囲内で以下のことが認められた。
1)ごみ溶融スラグを天然砂に対して 100%置換すると骨
材の粒子表面の平滑さによるセメントペーストとの
付着低減により、付着割裂強度の低下が見られた。
2)ごみ溶融スラグの吸水率は天然砂に比べて極めて低
く、ごみ溶融スラグの置換率の増大に伴い乾燥収縮
率は低くなり、乾燥収縮ひび割れの発生が減少する
傾向を示した。
今後、打設後 1 年経過時の長期経過の性状として、ごみ
溶融スラグの利用による乾燥収縮ひび割れや付着割裂強度
への影響について検討する予定である。
参考文献
1)日本工業規格:JIS A 5031(一般廃棄物、下水汚泥又はそれらの焼却灰
を溶融固化したコンクリート用溶融スラグ骨材),2006 年 7 月
2)渡辺真悟、師橋憲貴、桜田智之:普通骨材と中品質再生骨材を混合使用
した鉄筋コンクリート梁,日本大学生産工学部第 39 回学術講演会,2006
年 12 月,pp.117-120
3)斉藤丈士,菅田雅裕,谷山教幸,池永博威:ごみ溶融スラグの細骨材として
の利用がコンクリートの調合および品質に及ぼす影響:コンクリート工
学年次論文集,Vol.26,No.1,pp.81-86,2004
4)日本工業規格:JIS A 1129(モルタル及びコンクリート長さ変化試験方
図-1 荷重-変位曲線
(包絡線)
図-2 付着割裂強度
法-第 2 部:コンタクトゲージ方法)
、2001 年 6 月
K I Z U K U
卒業論文
重曹ブラストによる落書き・貼り紙の除去方法に関する研究
桜 建 賞
野毛 隼人・渡邉 剛士
1.研究の背景及び目的
公園内の公衆便所等の諸施設、道路、鉄道橋などの壁面
が落書きや貼り紙によって、その景観が損なわれている。
本研究は、各種建築仕上げ材料に落書き・貼り紙を施工し、
重曹ブラストを用いて除去する場合の除去条件を検討した
ものである。
2.重曹ブラストの選定理由
コンクリート等に描かれた大面積の落書きや大量に貼ら
れた貼り紙は、溶剤では落としにくく、重曹ブラスト工法
のように吹き付けて、削り取る方法が有効だと考えた。ま
た重曹は人体や環境に悪影響を及ぼさず、安価なものであ
ることから選定した。
3.実験方法
試験材料をコンクリート平板、コンクリートブロック、
レンガ、焼付け塗装鋼板、アルミニウム板、アクリル樹脂
板の 6 種類とし、落書き試験体には黒色の水性及び油性ア
クリル樹脂塗料を用い、貼り紙試験体には布ガムテープ、
両面テープ、スプレーのりを用いて施工した。施工した落
書き・貼り紙試験体を 1,3,6 ヶ月間屋外暴露を行い、暴露
終了後、重曹ブラストを用いて除去実験を行った。
4.結果および考察
(1)貼り紙除去結果
貼り紙試験体のブラスト除去後の写真を表 1 に例示す
る。ガムテープはいずれの材料でも除去できていない。両
面テープは,コンクリートブロック,レンガは落ちていな
いが,アルミニウム,焼付け塗装鋼板,アクリルは貼り紙
だけ除去できている。スプレーのりは,コンクリートブロ
ック,レンガでは除去できているが,アルミニウム,焼付
け塗装鋼板,アクリルは,貼り紙や接着剤の一部が残って
いる。これらの結果はブラストの噴射圧力にほとんど影響
しないが,圧力が高いほど除去時間が短縮されている。6 ヶ
月暴露したものは,1 ヶ月暴露に比べ,貼り紙や接着剤の
劣化により,若干除去しやすくなっている。
(2)落書き除去結果
落書き試験体のブラスト除去後の写真を表 1 に例示す
る。暴露 6 ヶ月における噴射圧力と色差の関係を図 1 に示
す。色差は圧力 0.1 〜 0.2MPa を超えるとほとんど変化しな
い。圧力 0.4MPa において、コンクリートブロック、コン
クリート平板、レンガの色差はアルミニウム、アクリル、
焼付け塗装鋼板より大きくなっている。これは、光学電子
顕微鏡で観察したところ、材料表面の空隙に入り込んでし
まった塗料が残っているため、色差が大きくなったもので
ある。
(3)塗膜の上に塗装した場合
コンクリート平板に、水性塗料を青、赤、緑の順に塗布
した試験体を用いて、圧力を変えて 1 分間噴射した結果を、
写真 1 に示す。噴射圧力 0.1MPa では緑色のみ削られ、赤
色が見えている。噴射圧力 0.2MPa では、赤が削られ、青
色が見えている。噴射圧力 0.4MPa では、青も消えて下地
のコンクリートが現れている。このように塗膜の上から落
書きされた場合、噴射圧力 0.1MPa で下地を傷めることな
く落書きのみを除去できる。
5.まとめ
(1)スプレーのりで貼られた貼り紙は、いずれの材料でも
0.1MPa で除去できるが、ガムテープや両面テープで貼ら
れた貼り紙は 0.4MPa でも除去することが困難である。
(2)暴露期間 1,3,6 ヶ月までは、落書きの除去のしやすさ
は変わらない。
(3)重曹ブラストでは、多孔材料の表面の空隙に入った塗
料まで落とすことは難しい。
(4)塗膜の上の落書きは、噴射圧力 0.1MPa で、落書きの
みを落とすことができる。
参考文献
(1)色彩管理は「感覚」から「知覚」へ-: MINOLTA
(2)色材の分析・試験方法ハンドブック,1986.丸善
表 1 重曹ブラスト除去結果
図 1 噴射圧力と色差の関係(水性塗料 暴露 6 ヶ月)
写真 1 噴射圧力と除去程度
K I Z U K U
卒業設計
桜 建 賞
小 倉 奈 央 子
□沖縄の集落には、厳しい自然環境に対応するための知恵
と技術がつまっている。
しかし、最近の沖縄は、自然の美しさや海への憧れ、
ゆったりした時間を求めて移住して
くる人が増えてきているため、無神
経な開発が進み、コンクリートの四
角い建物で島が埋め尽くされてきて
いる。
そのため、美しい自然がなくなり、
風景がどんどん壊れていく。
それならば、沖縄の集落の長所を取り入れ、風景に馴染
んだまちづくりをしようと考えた。
沖縄の集落・民家の特徴
①沖縄はとても暑く日差しが強い。そのため、住戸は軒下
空間を大きくつくり、風
が通り抜ける造りになっ
ている。
沖縄では涼しくするため
には風がなくてはならな
いものなのである。
②集落全体は石垣によって形成され、統一された景観をつ
くっている。石垣は路を通る人からの視線は遮るが、外
と中をやわらかく繋ぎ、隣ご近所さんとの程よい距離を
つくる。
この特徴として取り上げた風と石垣を利用して、移住者
のための集落をつくり、沖縄の新しい風景を提案する。
敷地:沖縄本島から約 40km 離れた座間味島の観光地【古
座間味ビーチ】と海岸続きになっている。
□風と石垣による集落の形成
集落の全体図
敷地の形状から
決まる海風・陸風
の向きを基準にし
てランダムにライ
ンを引 く。この
ラインが石垣で形
作られ、集落の基
本となる。
石垣は高さの違
いで住宅の壁や視
界を遮る塀などに
使い分けられる。
その違いがやわら
かく境界をつくり、
プライバシーを保
つことができる。
また、沖縄は大きな川がなく水不足になりがちなので、
雨水の利用がされている。この集落では、住戸のある石垣
を伝って集めた雨水を風車のエネルギーによって引き上
げ、ろ過し、生活用水の一部として利用する。
住戸の中にも風を取り込む。
1 軒 1 軒に「風の路」をつくり、
そこには風も、住んでいる人も、
集まってくる気持ちのよい空間
になる。
細長い「風の路」には、「カ
ゼ窓」があり、天井からも風を
取り込むことができる。石垣の
壁にも小窓が開いており、住戸
の中はいろいろな向きに風が抜
ける。
沖縄の気候・風土を生かし、共に生活していく風の集落
が、沖縄の新しい風景になるとうれしい。
K I Z U K U
卒業設計
桜 建 賞
シモキタの指紋
−下北沢再開発における街のありかたに関する提案−
小 倉 大 助
計画
シモキタを大きな家と捉えると豊かな既存街区(へや)
で満ち溢れている。計画道路によって隔てられている既存
街区と家を構成するその他の要素で補完しつなぎ合わせて
いく。
次第に街は輝きを取り戻していく。
それらはまるでシモキタの指紋というアイデンティティ
を取り戻すかのような風景を描く。
提案
現在、下北沢には鉄道の地下化に伴い都市道路を計画す
ることでインフラを整備し街の防災機能を高めようとする
計画がある。しかし、この計画はまちの基本構造を破壊し
のシモキタのアイデンティティを失わせてしまうものであ
る。 私はあえてこれらの計画を受け入れた上でまちの繋
ぎ目に移動を豊かにする建築を提案する。
シモキタの現状と問題点
①街に界隈性があり、様々なサブカルチャーを軸とする文
化が成熟している。
②建物が密集しているにもかかわらず、道は狭く防災機能
は脆弱である。
③都市計画案によって示されている計画は防災機能などは
高まるが、まちの連続性、路地性、界隈性が失われる。
First step(駅前広場・ Book tower)
小田急線の地下化により地上部分に大きな空地が表出す
る。そこに電車の空間とまちでの行為を豊かにするような
シモキタの本棚を計画する。
Second step(カベ・マド・玄関・廊下・収納)
計画道路(補助 54 号線)の縁に既存街区の面影を点々
と残す表皮のような建築を作る。それはまちの玄関であり
廊下であり街の窓や収納となる。
Third step(デッキ・ハコニワ)
幅員 26m の計画である道にシモキタのスケールをとり戻
す。そこにハコ庭が連続するシモキタのキッチンを作る。
シモキタのコンテクストである移動や歩く行為に注目
し、それらを補完し街を豊かに繋ぐ建築を時系列に沿って
作る事で、シモキタらしさを保ちながら街を再生させてい
くことを考えた。
Project Site
以上のことを踏まえ計画地は駅前の中心一帯に選定し
た。この場所は都市計画道路の補助 54 号線と駅前ロータ
リーなどの計画敷地となっており、現状の計画が行われれ
ば、シモキタの中でも最も街が破壊される場所である。
Section ・ Elevation
K I Z U K U
平成 19 年度
《斎
藤
賞》 直井 豊
《金
井
賞》 小田 浩之
建築工学科各賞受賞者
《日本建築仕上学会 優秀修士論文奨励賞》 直井 豊
《日 本 大 学 優 等 賞》 上杉 麻里子・椿 絵里子・久保 雄一・高田 奨・小倉 大助
《建 築 工 学 科 賞》
《桜
建
上杉 麻里子
賞》 野毛 隼人・渡邉 剛士・宮下 幸子・大井 悠太郎・久保 雄一
坂本 大輔・早川 知宏・日向野 勉・小倉 奈央子・小倉 大助
《建築工学科論文賞》
細尾 敦・塩田 直樹・仲原 隼
《UIA 記 念 賞》
中村 恭平
《建築工学科デザイン賞》
山下 登教・阿部 宏之・上杉 麻里子・江崎 航
木暮 光裕・石田 憲
《日本建築仕上学会 学生研究奨励賞》 津久茂 尚子・藤野 友梨
《校
友
会
賞》 葛西 祐一・椿 絵里子
《校友会建築部会奨励賞(卒業論文奨励賞)》
野毛 隼人・渡邉 剛士
《校友会建築部会奨励賞(卒業設計奨励賞)》 小倉 奈央子
《校友会建築部会賞》
南 英希
K I Z U K U
平成 20 年度建築工学コースゼミナール
建築工学コースでは、ゼミナール A ・ B として前
期・後期に選択科目として 1 単位ずつ設置しています。
建築工学コースの教員は、歴史・設計計画・構造設
建築史家
ケネス・フランプトンの著作(2002 年
計・材料施工・防災など多義に渡る専門家集団です。
TOTO 出版)を輪読します。19,20 世紀の建築から「建
ゼミナールは 3 年次に履修しますが、これは 1 ・ 2 年次
築なるもの」を学びます。項目は以下のようです。毎
の基礎科目を踏み台にして高度な専門的学問や技能を
週一章分を読破していきます。
身に付ける上での登竜門と位置づけられています。
結構的なるものについての考察/グレゴ・ゴシック
そこで、テーマとしても、各教員の専門性を反映さ
とネオ・ゴシック/結構の登場/フランク
せたバラエティーのあるものを掲げています。傾向と
ライト/オーギュスト
しては、ゼミナール A よりもゼミナール B の方が各教
ローエ/ルイ
員の専門性により直結した内容となっています。学生
スカルパ/結構の軌跡
ペレ/ミース
カーン/ヨーン
ロイド
ファン
デル
ウツソン/カルロ
諸君は、このテーマの中から興味あるものを一つだけ
選んで履修します。選び方は、それぞれに違うでしょ
うが、q 現時点で興味あるもの、w 将来の仕事として
村野藤吾『建築をつくる者の心』(なにわ塾叢書)
興味あるものなどありますが、とにかく動機は何でも
をテキストにしてディスカッションしたのち、建築物
OK です。本コースのゼミナールは、とくに少人数に
をつくる営為に関わる人たちの感性や心根について考
よる多面的教育を目指しています。是非、全員がゼミ
えます。
ナールを履修することを進めます。
次にグループごとに研究対象としたい現代の建築家
ゼミナールを履修するには、70 単位以上の単位取得
を取り上げ研究します。まとめとして、研究対象とし
が条件となります。また、人によってはゼミナール A
た建築家の「つくるもののこころ」を探求し、集約し
もゼミナール B も同じ教員のテーマを選ぶこともでき
たものをパワーポイントに仕上げます。
ますが、やりたいことがまだ確定していない人などは、
作成したパワーポイントをもとに、ケネス・フラン
いろんな経験をしてもよいのではないでしょうか。た
プトンの提起する「場所性、形態、持続性、素材観、
だ、一つのテーマに集中するのは少人数という趣旨か
居住性、普遍性」という現代建築の 6 つのカテゴリー
らしても困るので、ある程度人数に制約があることを
で、研究対象とした建築作品の比較をしてみます。
理解してください。
さー、3 年生諸君、ゼミナール履修のために、未来
の明りを求めて、いざ研究室の門を叩きたまえ!
熱
い情熱を待っています。
建築工学コースのゼミナールテーマは、以下の通り
です。とくとご覧あれ!
建物を安全に建造するための基礎知識として、地盤
と基礎構造物の関わりについて考える。一冊の教科書
を用意しそれに基づいて講義する。同時に 4 年生の卒
研の手伝いをする。
建築構造物の基礎の設計に必要な地盤調査および土
K I Z U K U
質調査を学習する。講義は一冊の教科書を準備し輪講
れる力を、骨組の模型実験により視覚的にとらえると
方式により行う。同時に 4 年生の卒研の手伝いをする。
ともに、建築力学・建築応用力学で学んだ数値解法に
より実験との対応を図っていきましょう。
私が、建築力学を担当して、10 年が経ちましたが、
大なり小なりかなりみなさん、力学には苦しんでいる
わが国でも、ヘビィティンバー・コンストラクショ
ようです。これは、多分、あまり数学が得意でない皆
ン、つまり大断面集成材を用いた大規模木造技術の導
さんが、数学的なバックグラウンドを持つ構造力学に
入の兆しがみえはじめている。本ゼミでは欧米の木造
悩まされているのでしょう。本来、構造力学は、直感
先進国の動向、エンジニアード・ウッドと呼ばれる新
と数学的思考両方をおりまぜて行うのがよいのです
しい木質構造材料および各種の構法について学習する。
が、直観力だけでもかなりの知見が得られます。神田
研究室のゼミ A では、数学が苦手で力学に苦しんでい
る人のために、ほとんど数学を使わずに直感的に理解
建築物の解体に伴い今後大量に発生するコンクリート
できる構造力学を勉強いたします。将来、意匠設計を
塊のリサイクルの推進が資源の有効利用の点から課題と
目指す人で、構造の重要性を感じるがどうも構造力学
なっている。現在コンクリート塊の多くは道路等の路盤
は苦手だと言う人は受講してみてください。きっとた
材として再利用しているが今後の発生量を考えると限界
めになると思います。
がある。本ゼミでは再生骨材を用いた再生コンクリート
の鉄筋コンクリート部材への適用方法について、材料的
性質から構造的性能まで総合的に学習する。
後期のゼミ B では、構造の分野が中心になると思い
ますが、受講希望者と教員とが話し合いテーマを個々
にあるいはグループ別に決めて半期ゼミを行いたいと
思います。テーマに関するキーワードは、 構造 、
振動 です。
。
『エンジニアリングは科学より芸術に近いと言える
かもしれません。芸術と同様,エンジニアリングの問
題は漠然としていて,その解決方法は無限にありま
す。』(Ove Arup)という言葉が有ります。エンジニア
リングがアートであるかどうかの議論はさておき,建
今まで建築力学を学んできて,骨組の形態と作用荷
重から直感的に曲げモーメント図が頭の中に浮かぶとす
ればどうでしょう。このような構造的感覚を養うための
築にはいつの時代も
合理性
れてきました。現代建築は
環境にやさしく
と
美しさ
より軽く
が求めら
より透明に
をキーワードに,コンピュータに
トレーニングを簡単な骨組から複雑なものまで段階的に
よる解析の進歩によって,不定形の曲面で構成された
行うことで,力の流れの理解を深めていきましょう。
建築や、環境性を前面に押し出した建築も出現してい
ます。これらの建築デザインはエンジニアリングによ
って支えられている部分が大きく, 技術の質
構造的感覚を養う手法として,視覚的,すなわち実
空間の質
・
環境の質
は
にもつながる重要な課題
際の現象を目で見ることにより理解することは重要で
となっています。戦後優秀なアーキテクトが優秀なエ
す。そこで建築構造物に作用する外力により骨組に流
ンジニアのもとへコラボレイションのために集まった
K I Z U K U
ように,建築デザインにおいて構造・環境・計画分野
である。そして、それへの理解がそのまま日本の現代
のエンジニアリングが果たす役割は年々重要となって
建築を理解するにつながる。本ゼミでは、そうした戦
います。建築(アーキテクチャー)の設計・生産を支
後の建築家の歩みを輪講形式で学習していくものとす
えるエンジニアリング・デザインをアーキニアリン
る。ただし受講生には自分で好みと思われる建築家を
グ・デザイン(Archi-Neering Design :AND)と呼
取り上げてパワーポイントで説明してもらう。そうし
称し,Architecture と Engineering Design の関係を見
た参加型の教員と学生との真摯なディスカッションこ
据え,その歴史的発展過程から,未来の建築へ向けて
そが、より深い学習理解につながると信じる。
の示唆と提案を意図して開催される展覧会への参加を
テキスト:各自で用意した建築家の調査レポート
通して,技術がつくりだすことに成功した環境の質と
技術的創意について考えて行きます。
シドニーのオペラハウスは建築家・ウッツォンの構
想を構造家・アラップが現実のものとしました。代々
木のアリーナは建築家・丹下健三と構造家・坪井善勝
建築物の美観性は、景観を損なうばかりではなく、建
の共同制作と言えるでしょう。今後の建築家と構造家
築物の劣化の兆候として捉えることができる。美観性を
の関係はいかに...。
長期間確保するには、定期的な維持・保全をする必要が
ある。本研究は、実際に街の建築物に描かれた落書き部
分を重曹ブラストで除去する方法について検討する。
我々の生活の基本になっているのは住宅である。そ
建築仕上材料に求められる性能のひとつに視覚、聴
の住宅も見方を変えれば、海外からさまざまな影響を
覚、皮膚感覚、嗅覚などの感覚によって評価される性
受けながら現代まで変化してきている。明治期での最
能がある。これらの性能の評価方法は、官能検査によ
初の大きな変革は長崎などで建設されたベランダ住宅で
る感覚に対する心理量と、この感覚を引き起こす物理
あり、同じ頃、北海道ではツー・バイ・フォーが住宅に
量との関係を明らかにするもので、本ゼミナールでは
導入された。大正期には住宅改善運動の影響で中産階級
2 〜 3 の感覚的性質を評価する方法を学ぶ。
によるバンガロー住宅が理想とされ、それは田園都市運
動などの影響を受けて郊外住宅地で普及した。そして昭
和期・戦後には大量生産を背景とした庶民のプレファブ
住宅が小住宅の文化になり、現代の住宅の基礎を作って
いる。本ゼミでは日本の近代住宅史をたどり、生活の基
バランスのある物体は美しいといわれます。建築も
礎となっているルーツを考えることとしたい。
その仲間に入るかと思います。アンバランスでアクロ
テキスト:『(新版)図説・近代日本住宅史』内田青
バット的に見える建築も実際には安定的な構造を持っ
蔵+大川三雄+藤谷陽悦=編著(鹿島出版会)
ていないと実在しません。台地に力強く建っている様
子は、安定感もさることながら美しい理由です。
本ゼミでは、実際の建設されているサッカースタジ
日本の現代建築を理解するには、建築家の作品とそ
の作家の主要な論説を取り上げて、大まかな歴史と枠
アムの模型作製を通して、力の流れを構造的に安定感
を解き明かしてみたいと考えています。
組みを考えてみるのが一番よい。なぜなら、彼らの作
品群のなかには時代的背景や技術的な特色、そして時
代に対する彼らの自己主張がはっきり表れているから
わが日本では、秋の台風やら春先の季節風やら冬の
K I Z U K U
木枯らしやら真夏の涼風やら、恐怖の風から風流な風
緑化が注目されている。本ゼミでは、建物の屋上緑化、
まで実に多くの風と付き合っています。これらの風に
かび・藻類・苔のコンクリートへの付着について解説
対して建築は安全でかつ快適な住まいを演出しなけれ
するとともに、苔の付着した RC 造茶室の建設を試み、
ばなりません。
コンクリートの芸術性、とりわけ苔を用いた「わび」
本ゼミでは、建築にかかわる風のトラブルについて
「さび」を演出する技術を検討する。
書籍、文献、インターネットなどをサーベイし、学生
による1冊の手引書をまとめ、設計上の問題について
理解を深める。
当研究室は、先代以来、日本の建築解体・リサイク
ル技術を先導してきた。本ゼミでは、建築解体の歴史
をまとめるとともに、解体材のリサイクルのあり方を
模索する。
本ゼミを通じて、実験・調査計画立案能力及び実
験・調査実施能力を養う。
建築物に作用する力の構造模型を自分たちの手でつ
くることで,力の性質を親しみながらまた体験しなが
ら学習する参加型のゼミナールです。建築物に作用す
スクラップ&ビルトからの脱却を図るためには、コ
る力は固定荷重,積載荷重,地震荷重,風荷重を想定
ンクリート構造物の高耐久化が重要である。本ゼミでは、
しています。構造模型は,軸組み模型やウレタン樹脂
既往のコンクリート構造物の長期耐久性に関する研究を
を用いた部材のモデルを手作りし,構造設計の理解を
解説するとともに、コンクリートの品質、とりわけ表層
深めていきます。
コンクリートの品質と劣化抵抗性の関係をそのメカニズ
ムとともに実験や暴露試験により明らかにする。
本ゼミを通じて、研究の発想および展開法に触れると
鉄筋コンクリート構造物の力学的性状を実験的に検
討する場合,実大試験体では実験装置や運搬などの制
約を受けるので,通常は縮小された模型試験体で実験
を行います。この場合,模型試験体が破壊する際のみ
かけの強度が実大試験体より高くなるなど「寸法効果」
が存在します。本ゼミでは鉄筋コンクリート梁部材の
模型試験体の物づくりを通して実践的に付着強度の
「寸法効果」を学習します。
鉄筋コンクリート構造物の健全度の診断は、必要な
補強、補修を判断する上で重要である。本ゼミでは、
強度や耐久性に関する健全度診断方法を解説するとと
もに、実構造物に適用可能な耐久性評価方法の開発研
究を行う。
ヒートアイランド現象の抑制対策として、RC 造の
ともに、結果をとりまとめる能力、プレゼンテーション
能力を養う。
K I Z U K U
平成 20 年度建築・環境デザインコースゼミナール
ゼミナールは、以下に提示する研究室ごとのテーマ
のもと、学生が自ら研究し、発表・討論などを行う授
業として学科目を設定しています。このことから、授
業の特徴として q 学生参加型授業を中心に据え、w
没個性(anonymous)ではいられない、e 常に君はどう
伝統的に形成されてきた日本と西欧における景観と
思うかといった応答(response)を求め、r 結果として
歴史・文化の空間構造を把握し、街づくりや都市・建
責任感(responsibility)を育むことを目指し、研究テー
築設計の手法として構築するための基礎的な計画的方
マごとに授業内容を進める予定です。学生個人にあっ
法論を、歴史風土と景観・色彩と景観・環境心理と景
てはゼミナール A では興味の範疇として総括的な内容
観等々の様々な視点により検討し、討論しあう場とし
を履修し、ゼミナール B にて自らの将来に連動するテ
たいと思います。
ーマを選ばれると効果的であると思われます。専門性
また、他大学との設計課題の共有化による合同の発表
を高める一歩として、ゼミナールへの積極的な参加を
会や国内外のコンペ等にも積極的に参加する予定です。
望みます。
教材:日本の景観(樋口忠彦著)、新・建築入門
(隈研吾著)
、都市デザイン(黒川紀章著)他
コーポラティブ・ハウジング等居住者参加型の住まい
づくりや街づくりの理念、歴史、計画・デザイン手法と
居住者の余暇活動及びその受け皿となる施設・空間から
紡ぎ出される合意形成やコミュニティ形成の手法(ワー
クショップ)について学習すると共に、日本人の意識構
造と住宅・都市との関係性について学習する。
都市・建築・生活空間を市民・居住者の意識と種々
の活動の視座から捉え、「人と人」「人と活動」「人と
空間」「活動と空間」の相互浸透性・相互関係性に注
目しながら時間の流れの中から生み出されるコミュニ
ティを含み込んだ種々のデザインの特性と手法につい
K I Z U K U
て学習すると共に、資源循環型社会と環境共生手法・
活動について学習する。
問題提起から調査分析・モデリング・測定・製図・
検証とデザイン活動の一連の過程を配分的にとらえ、
デザイン行為の意味と位置を概説する。同時に、一つの
テーマに基づいて、一連の過程を体得的に経験させる。
建築とまち空間の望ましい関係は、魅力ある都市空
間を創るために重要である。どのように建築のデザイ
ンに反映させるか、国内外の優れた事例を参考にしな
がら解説する。また、建築の設計、まちづくりに必要
1.モデュール群によるデザイニングプログラムの
な専門的知識、および関連制度のあり方について理解
解説とその利用による空間作品の制作。2.具体的な
するために、具体的な事例を通し平易に解説する。
空間のもつプロポーションを調べ、それを処理し数値
化する。生まれた数値を利用して空間設計を行う。
※ランドスケープデザイン及びランドスケープデザイ
ようやく「景観法」も平成 15 年 12 月施行され、わが
ン演習を履修することが望ましい。
国の都市景観の没個性、かつ魅力の欠如に対する一般
の関心も高まってきた。そこで、ゼミ B では優れた都
市景観とはどのようなものか、優れた都市景観を有す
る諸外国の事例を日本の都市と比較しながら解説・紹
介する。さらに、我が国固有の都市景観をどのような
都市や集落には、それぞれの固有の形と意味がある。
手法で魅力あるものにしていくか、『環境のデザイン』
姿・形は、そこでの生活の実体化である生活の歴史や、
という観点から平易に解説する。
風土が創りあげた骨格に機能的要素が集積し、デザイ
ンされた空間が生成されてきた。これらのコンテクス
ト(文脈)を読み取り、シーズを発見することは重要な
イメージ形成につながる。
フィールドサーベイを中心とした「観察する」・「記
1.建築構造力学で学んだ骨組構造の応力解法につい
録する」・「再現する」プロセスの中で計画と設計の意
て復習する。2.構造システムの基本である、「力の自
味を吟味し、発見から創造へ結びつく方法を習得する
然な流れを形として表すフォルム構造(引張力と圧縮力
実践的ゼミナールを行う。
の単独システム)」と「ベクトル構造(引張力と圧縮力の
複合システム)」について学習する。
環境をモニタリングする手法として GIS データを用い
て地域空間の構成やアクティビティを解析・評価する。
建築学で必要とされる線形代数ならびに調査データ
デザインのモチーフを「場」からとらまえること、そ
分析の基礎となる確率・統計解析の成立ちとその計算
れぞれ「場」は生育の力と働きがあると考える。その生
方法を学習する。
成のシステムを発見し・現実化するイメージが建築す
K I Z U K U
る事であり、空間創造・環境創成であろう。
エコロジカルプランニング(生態学的デザイン)はそ
測定だけでなく、建築および公共空間におけるサウン
ドスケープの考え方を学び、心理学的に音をとらえる
の方法論であり、具体化のプロセスであると考えてい
など、いろいろな角度から音そのものを見つめなおし、
る。その意味で Landscape Architecture は建築の基
日本における音環境のあり方を考える。
礎的な・理論的で・本質的なアプローチであろう。エ
コロジカルデザインの基本に関するゼミナールを開講
する。街や集落空間を観察する事によって、「場所」
「空間」を読み解く手法(デザインサーヴェイ)を身に
つけて欲しい。
自分の卒業した小学校の設計課題を通して、問題の
発見から解決案の提案に至る思考力と表現力を養う。
他大学と連携しながら課題を進める予定です。
1.建築構造力学で学んだ骨組構造の応力解法につい
建築や都市のデザイン理論に関する代表的な書籍や
て復習する。2.構造システムの基本である、「力の自
論文を教材に、ディスカッションを通じて建築の諸問
然な流れを形として表すフォルム構造(引張力と圧縮力
題を論理的かつ科学的に分析する力を養う。
の単独システム)」と「ベクトル構造(引張力と圧縮力の
複合システム)」について学習する。
フォルム構造とベクトル構造を対象として、マトリッ
クス代数に基づく構造解析の力学的内容とプログラム
および解析結果の分析方法について解説する。また、
構造デザインへの活用として、データ生成と解析およ
び図形ソフト(VBA → AutoCAD → VIZ)による可視化ま
での手法を学習する。
2 年次後期の建築環境工学 B で学んだ音響工学を復
習しながら、建築にかかわる音響技術に必要な基礎的
知識を学ぶ。
3 年次前期の建築実験 1 ・音環境実験で学んだ騒音
K I Z U K U
平成 20 年度居住空間デザインコースゼミナール
ゼミナールは教師の決めたテーマを中心に少人数で
学ぶ機会です。座学の授業のように教師が一方的に知
識を与えるのではなく、学生もテーマに沿って調査し
人間の行動や動作、利用圏などに関する基礎的な論
たり、発表したりします。居住コースの学生には設計
文を読む。2 〜 3 人のグループでそれぞれそれらの論
演習のようなスタイルで行う学科目の授業と説明する
文に習って、学内や自分の周辺環境の中から人間工学
とイメージしやすいかもしれません。
的な仮説を立て、その仮説を証明する調査計画を立て
居住コースの学生は曽根研究室のゼミだけでなく、
る。今年度は特に公共建物や公共スペースのゴミや汚
他コース全ての研究室のゼミも、1研究室あたり3名
れの問題に焦点をしぼる予定である。実態調査し、仮
まで受講できます。「築」の別欄に書かれている各先
設の検証をする。一連の演習により実証研究の方法を
生のゼミのテーマをよく読んで、興味のあるゼミを選
学ぶ。
んで下さい。
授業を受けていないので専門分野が良く分からない
という場合は、曽根または亀井に聞いてくれれば、分
住居は過去の住宅の形を継承しつつ、時代の社会的
かる範囲で教えます。もちろん、直接その研究室に行
条件と人々の生活要求と意識の変化に応じて変容す
って、その研究室の先輩などに尋ねるのもよいでしょ
る。これまでの住宅史は第二次大戦までを扱ってきた
うし、その先生の担当授業のシラバスや研究室の論文
が、現在我々が住んでいる住居は生活近代化、住宅の
も参考になります。
産業化、家族形態の変化など戦後の動向と深く結びつ
貴方たちはこれまで2年間、専門の授業は、基礎知
いている。私が著者の一人である「住まいを読む
現
識の習得と総合科目として住宅設計を中心に進められ
代日本住居論」(鈴木成文
てきました。またそれらは居住コースの同じメンバー
を語る
と一緒に授業を受けてきました。3年次はそれらを基
現代思潮社)を教材として、現代住居を考えてみる。
にして、将来の進路を探る時期でもあります。女性の
職業分野は住宅設計だけではありません。材料などの
実験や構造計算、構造計画、設備設計などに適性のあ
る人もいるでしょう。また、同じ設計・計画でも、都
市計画や地域計画、公共建築など、スケールの違う設
計・計画やコンピュータを駆使した技術に興味のある
人もいるでしょう。こうした時期に、他コースの学生
と一緒に、これまでと違った分野のことを学ぶ機会を
持つことは大変有意義なチャンスです。
当学科のメリットは幅広い分野に渡る数多くの先生
方がおいでになることです。自分の可能性を探る意味
でも、全員の学生が他コースの先生方のゼミを取るよ
うに強く勧めます。
現代思潮社)と「住まい
体験記述による日本住宅現代史」(鈴木成文
K I Z U K U
各先生が推薦する読んでおきたい一冊の本
『建築計画を学ぶ」
建築計画教材研究会編、2005 年、理工図書
『あなたの「話し方」がダメな理由 1
分間で,人を「とりこ」にする方法』
福田健著 発行 経済界 2006 年 9 月発行
税込み 840 円
広い建築計画分野を網羅的に概観した本である
が、内容は比較的高度である。全 35 章を、建築する
背景、計画する手がかり、計画から設計へ、という
3部構成にしてある。
この本は,私自身が苦手を克服したいと思い購入
した本です。「はじめに」には,「いくら,パワーポイ
浅野 平八
ントなどのビジュアルツールを駆使しても,肝心の
話す力がともなわないと,プレゼンテーションは失
敗する。」とインパクトのある書き出しです。人前
で話すことの秘訣を参考にしてください。
師橋 憲貴
『歴史的風土の保存」
太田博太郎、1981 年4月、彰国社
最近、景観とか風土とか、歴史的環境への関心が
高まっているが、私にその目を開かせてくれた1冊
がこの本である。この本は日本の建築史界の重鎮で
『都市の計画と設計』
ある故太田博太郎先生が書かれた自叙伝に近い内容
小嶋勝衛監修, 宇於崎勝也, 桜井慎一, 坪井善道,
だが、そこには歴史的風土を保護することの意味、
根上彰生, 三浦金作, 横内憲久
当時の人々の保存に対する熱い戦い、著者の建築史
共立出版 2002 年初版発行
著
に対する優しいまなざしが込められている。戦後一
貫して環境への破壊と消費を繰り返してきた戦後史
を問い直すための一冊でもある。
この本は,生産工学部を含め三学部の都市計画関
連科目の講義に使用されています。
藤谷 陽悦
日大には,三学部共都市計画関連研究室がありなが
ら,共同して都市計画の本を作ってきませんでした。
そこで,日大所属の都市計画を研究している専任教
員が目次の内容を分担して執筆し,1 つの本にまとめ
たものがこの本です。特に,建築系の学生諸君にとっ
「エコマテリアルとしての木材」
有馬孝禮著 発行 全日本建築士会
て都市計画・設計に必要な専門的基礎知識を得るの
に相応しく,開発・保存再生プロジェクトの具体的事
税込み 1,300 円
例を多く紹介していることも特徴といえます。これ
から建築,都市計画あるいは町づくりの方法を学ぶ
建築における木材利用の考え方と環境保全として
の森林の役割について述べている。建築にかかわる
我々が理解しておくべき内容である。「もっと森林
を,もっと樹木を,もっと木造建築物を,そして適
切な使い方を」の言葉でしめくくっている。
桜田 智之
学生諸君にお勧めの一冊です。
坪井 善道
K I Z U K U
教 室 ニ ュ ー ス
【退職者】
【論文】
□川岸梅和 教授・北野幸樹 助手・杉本弘文(D2)・澤
下記の先生方は平成 20 年 3 月 31 日をもって退職さ
田勇太(飛島建設)・小谷雅紀(M2)・広田直行 准教
れます。
授: STUDY ON THE LIVING SPACE PLANNING
長い間、ご苦労様でした。
VIEWING FROM COMMUNITY ACTIVITIES BY
落部
鮎美(副手)
虻川
矩史(副手)
花田
勝敬(非常勤講師)
COLLECTIVE LIVING AND LEISURE ACTIVITY
PART 7
- Living and Residential Environments and
Coexistence at Cobb Hill Cohousing -、日本建築学会
技術報告集 第 13 巻 第 26 号、pp.815-820、2007 年 12 月
□北野幸樹 助手・川岸梅和 教授・杉本弘文(D2):
【人 事】
地域居住者の活動実態からみた近隣空間における余
暇活動の傾向的特性について−時間的・空間的側面
からみた近隣余暇関連施設に関する研究−、日本建築
学会技術報告集 第 13 巻 第 26 号、pp.685-690、2007 年
12 月
□加賀屋志保(東京都住宅供給公社)・広田直行 准教
授・川岸梅和 教授・北野幸樹 助手:公的ストック
・川村政史教授は 4 月 1 日付けで学科主任に任命された。
・櫻田智之教授は 4 月 1 日付けで専攻主任に任命された。
・佐々木隆助手は 4 月 1 日付けで新規採用となった。
(所属:松井研究室)
・小倉大助助手は 4 月 1 日付けで新規採用となった。
(所属:藤谷研究室)
空間の活用実態にみる空間資源の循環要件、日本建
築学会技術報告集 第 13 巻 第 26 号、pp.725-729、
2007 年 12 月
【新規任用】
・泉幸甫研究所教授は 4 月 1 日付けで新規任用された。
【国際シンポジウム発表】
■松本泰輔研究員, 松井勇教授:「Measures and concepts for creation of sustainable housing」International
Symposium on Sustainable Habitat Systems, pp.11-18,
2007.12, Kyushu University, Fukuoka, において研究報
告。
【海外調査】
■湯浅昇准教授は、平成 19 年9月7日〜 22 日、イ
タリア国宝 RC 飛行船格納庫(第 1 次世界大戦中で供
・澤田勝非常勤講師は 4 月 1 日付けで新規任用された。
(担当科目:総合設計Ⅰ・Ⅱ)
・篠崎健一非常勤講師は 4 月 1 日付けで新規任用された。
(担当科目:住居CAD演習。)
・浅井亮子非常勤講師は 4 月 1 日付けで新規任用された。
(担当科目:キャリアデザイン)
【訃 報】
謹んでお悔やみ申し上げます。
用)、同国宝サン・ミケーレ教会堂、同国宝 Vicofrte
横山聡殿(建築設計演習)は 11 月 28 日ご逝去され
教会堂にて、日伊共同調査(科研基盤研究 A)に参加
ました。(51 歳)
した。
K I Z U K U
目
次
1.巻頭言
‥‥‥
1
8.卒業設計 桜建賞
‥‥‥ 15
2.新しい建築界 実業界の動き
‥‥‥
2
9.平成 19 年度 各賞受賞者
‥‥‥ 17
3.修士論文 斎藤賞
‥‥‥
4
10.平成 20 年度建築工学コースゼミナール
‥‥‥ 18
4.修士論文 金井賞
‥‥‥
6
11.平成 20 年度建築・環境デザインコースゼミナール
‥‥‥ 22
5.平成 19 年度修士論文題目
‥‥‥
8
12.平成 20 年度居住空間デザインコースゼミナール
‥‥‥ 25
6.平成 19 年度卒業論文・卒業設計審査会
‥‥‥
9
13.各先生が推薦する読んでおきたい一冊の本
‥‥‥ 26
7.卒業論文 桜建賞
‥‥‥ 12
14.教室ニュース
‥‥‥ 27
発 行 者 櫻田 智之 習志野市泉町1−2−1 日 本 大 学 生 産 工 学 部 建 築 工 学 科 教 室
築
KIZUKU
第 86 号
編
集 日本大学生産工学部建築工学科 藤谷・広田
印刷 美津濃印刷株式会社
TEL 03-3835-0870
FAX 03-3835-0925