築 KIZUKU 2009.01VOL.32NO.2 日本大学生産工学部 建 築 工 学 科 教 室 巻頭言 住宅建設の戦後から現在まで 曽 根 陽 子 建築は新築からストックの時代になりつつあると云われて います。卒業設計でも 10 数年前までは新築設計がほとんどで あったのに、最近は既存建物や既存施設のコンバージョンや 活用をテーマにする学生が多くなってきました。若い学生た ちも建築ストックを活用する必要性が分かってきたのかと嬉 しく思います。しかし、我が国の建築ストックのほとんどは 第二次大戦後の経済と建設の流れの中で生まれたものです。 そうした時代背景について知らない学生がかなりいることに 驚かされます。 私のような高齢者にとっては、戦後の窮乏期、高度成長期 といった時代の流れは自分の成長や生活と密接に結びついて 記憶されていますから「ああ、あの時代の建物か」と建物歴史 をすぐに思い浮かべることができるのですが、平成生まれも 混じった若い学生たちにとっては、戦後史は文字通りの「歴 史」なのでしょう。そこで、この紙面を借りて、戦後の住宅 と生活の歴史を自分の経験も入れながら簡単に紹介すること にしました。先生方には読むのも退屈でしょうからどうぞパ スしてください。 1945 年の終戦から 1954 年までの 10 年間は戦後復興期と呼 ばれます。戦災で家を失った人が多く、海外からの引揚者も おり、大変な住宅難でした。私の家にも父の兄弟など 3 家族 が住んでいましたが、周りの家も同様な状況で、中には防空 壕や物置など住宅以外のものに住む人もいました。公営住宅、 公団住宅、金融公庫融資住宅、に関する法制度はできたもの の実際の建設戸数は微々たるものでした。 1955 年は戦後から 10 年が経過し、「もはや戦後ではない」 という「生活白書」の文章どおりに日本が経済的に立ち直り始 めた年です。この年から 1973 年のオイルショックまでの 18 年間がいわゆる我が国の「高度成長期」です。年間住宅建設戸 数も'55 年は 20 万戸でしたが、'73 年には約 10 倍の 200 万戸近 くになっていました。この間私たちの生活も「所得倍増」とい う言葉と共にレベルアップしてきました。私が小学 6 年の時、 遠足の時しか食べたことのないゆで卵が給食に出たので、大 変驚いたことを覚えています。 高度成長期の初期に建てられた戸建住宅は面積が小さく、 設備(浴室・便所・空調など)も貧弱で、仕上や構造も脆弱で あったため、現在ではほとんどが建て替えられてしまいまし た。又このころの集合住宅は公営・公団が中心で、膨大な住 宅需要に応えるため質より量を目標として、2DK、3K 中心の 「型設計」で、全国一律の中層住宅が建てられました。面積狭 小で老朽化も著しいのですが、立地条件の良い場所に建設さ れているので、建替え済み、あるいは現在建替え中の公団住 宅のほとんどはこの時期のものです。 高度成長期の終わり、1973 年のオイルショック直前になる と、衣・食・住の水準は現在とほぼ同レベルになってきまし た。私はこの頃公的ハウジング組織にいて、戸建てや集合住 宅の分譲団地の設計をしていましたので、当時の分譲住宅の 面積や設備、仕上げ等がレベルアップしてきたことをよく覚 えています。この頃建てられた住宅が、35 年経過した現在、 建替え需要の中心をなしています。住宅を新築・購入するの は 30 ∼ 40 代です。それに 35 年を加えれば、当時の住宅購入 者は全員 65 歳を越えており、2 世帯住宅や介護を考える年齢 になっています。高齢者世帯は家族数が減少していますので、 現在より多少狭いとは言え、暮らしてゆくのに不自由ない広 さと質をもっています。従って、きちんと手入れをすれば建 て替えずともまだまだ住み続けることができるのですが、ハ ウスメーカーの営業攻勢の結果(?)50 %近くが建て替えられ ています。 オイルショックは「作れば売れる」時代の終焉を意味し、質 の向上が求められる時代が来ました。建設の目標は「1 世帯 1 住居」から「一人 1 室」となったのです。この時期から 1992 年 のバブル崩壊までが質的充実期です。都市部の新築住宅では、 年々集合住宅(高層や超高層)の比率が増えてゆき、3 大都市 圏では 8 割以上が集合住宅となってきました。経済成長は毎 年 2.5 ∼ 6 %の堅実な伸びを示し、住宅、特に集合住宅ではデ ザインや供給方式、集合形態に様々な提案があり、大きな進 展がありました。 一方、高度成長期に建てられた大量の分譲集合住宅で、屋 上防水や外装吹き替えなどの大規模修繕が必要な時期に差し 掛かってきました。建設当時は修繕に多額な費用がかかると は考えられていなかったので、雨漏りやエレベーター故障を 直すお金がなく、社会問題となってきました。私は建築学会 の建築経済委員会に所属していましたので、分譲集合住宅の 長期修繕計画の必要性や考え方について、公民館などで講演 をしたものでした。また、オイルショック直前建設の自分の 団地でも、設計事務所をしている人と一緒に修善・改修委員 を引き受け、共益費に長期修繕積立金を付け加えるようにし ました。今では分譲住宅で長期修繕積立金を取るのは常識に なっていますから、私たちの委員会の仕事も無駄でなかった ようです。 1980 年代後半には土地価格上昇とバブル景気は車の両輪の ように集合住宅の建設を促進し、都心の遊休地や、再開発地、 沿岸埋立地などに超高層住宅が次々に建てられてゆきまし た。1990 年のバブル崩壊によって、土地価格は下落し、建設 費も下がりましたが、不況によるローン破壊や郊外の空洞化 など新たな問題が浮上してきました。私はちょうどこの頃当 学部にきたのですが、4 年生の卒研時には就職できたのに、2 年後の院卒業時には就職口がなくなるという事態となった卒 業生が気の毒でたまりませんでした。その後、「就職冬の時 代」と呼ばれる大変な時期がありましたが、近年就職事情が 良くなってきて嬉しく思っていました。ところが今回の突然 の世界不況です。一日も早く回復して、みんなが安心して勉 学できる状況になってほしいものです。 (教授 居住空間デザイン) 1 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 2009 年度 カリキュラム改訂に際して 1.はじめに 数に重点を置き、たとえ建築系学科を卒業したからと言っ 近年の社会情勢はめまぐるしく変動し、経済的に安定し て建築を修得したとは限らない対応を打ち出してきた。こ た時代はすでに終わり、アメリカのサブプライムローンに れらを踏まえて、建築工学科も 2009 年度から、建築士受 端を発した経済不況と共に、売り手市場であった大学生は 験資格条件およびこれまでのコース独自の特徴を生かした 今や逆転し、厳しい冬の時代を迎える状況下にある。また、 カリキュラムを編成することとなった。作業は主に、建築 少子化問題による受験生の獲得合戦やレベル低下の問題が 工学科のカリキュラム委員会(委員長:小松博准教授)に委 世間を騒がせている。こんなおり、大学教員はのんびりと ねることとした。委員会はこれからの建築工学科を担って 研究と教育にのみ力を注いでいれば由とした時代は終わっ もらうことを期待して准教授の若手教授陣を中心に編成さ たことを自覚しなければ、自らも窮地に立たされることを れている。 知らねばならない。大学もかなり変革をしない限り生き残 りに遅れを取る危険性を感じる。ここでは平成 21 年度か 4.学生がコース選択に際し考えるゆとりを持たせる コース分けの方法 ら建築工学科が生き残りをかけて取り組んでいるカリキュ ラム改訂について若干の補足説明をしてみたい。 平成 21 年度からコースの選択方法が変わる。居住空間デ 建築工学科 1年生 2年生 建築総 合コース 3年生 4年生 (120名)(120 名) (120名) (150名) 建築環境デザインコース (18 0名) 居住空間デザインコース (女子のみ) (30名) (30名) (3 0 名) コース 若干の 分けは コース 変更を 選抜 許可 若干の コース (30名) 変更を 適性検 許可 査によ り選抜 (30 名) 注意:居住空間デザインコースへの転コースは認められません。 図-1 各コースのコース分けの方法および時期 2.建築工学科内の動向 生産工学部では、平成 21 年度(2009 年度)にこれまでの 7 ザインコース(30 名)は女子学生を対象としているから、こ れまでの経験を踏まえて、従来通り 1 年次入学時にコース 学科に加えて環境安全工学科と創生デザイン学科の 2 学科 選択をするのが教育上最もふさわしいと考えて決定した。 が新しく開設される。それに伴って、建築工学科の入学定 また、これまでの建築工学コースおよび建築・環境デザイ 員が 230 名から 180 名になる。同時に、教員もこれまでの ンコースは建築士受験資格および新学科設立に伴う入学定 28 名体制から 23 名体制になる。創生デザイン学科には建 員の変更とそれに伴う学科教員数の変更などを鑑み 1 年次 築工学科から日高単也教授、宮崎隆昌教授、川岸梅和教授、 入学時はコース分けをしないで 150 名体制でクラス分け(2 田中遵助手(2009 年度から専任講師の予定)の 4 名が移籍す クラス程度)による授業をすることとし、2 年次進級時に る。 図-1 に示すような建築総合コース(120 名)と建築環境デザ インコース(30 名)のコース分けの方法を採用することとし 3.建築士受験資格の変更 た。これには、建築を多少なりとも学習した後に自分の進 国土交通省では 2008 年 11 月 28 日付けで、建築士受験資 む方向を選ばせることを重点においてコース分けの方法を 格に関する規定がこれまでの学科卒業および卒業後の実務 組み込んだものである。この他に、建築に全く興味をなく 経験に応じてなされていたものが、指定科目群の修得単位 した、あるいは自分の進む道を今から変更したいと考える 2 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 学生には、学部で転科試験制度が導入しているから、他学 科に進む手立てもある。ちなみに、平成 20 年度に建築工 6.建築士受験に必要な科目の設置 前項でも記述したように平成 20 年 11 月 28 日付けで建築 士受験資格が大幅に変わった。表-1 はその分類と科目の内 学科から他学科に移った学生が 2 名いる。 容および必要単位数である。この表は国土交通省告示 14-1 5.コースの特徴を持たせた科目の設置 号で建築士法第 14 条 1 号の第 1 の 1 をまとめたものであり、 更に、各コースにおける特徴はこれだと言った売りを考 第 1 の 2 は「必修科目のすべてを履修した総単位数が 60 単 える必要がある。これは、他学部(理工学部、工学部など) 位に満たない場合において、当該必修科目のすべてを履修 との違いをはっきりさせることが大事であるとの学部の方 した総単位数と必修科目以外の建築に関する 1 又は複数の 針でもある。 科目の総単位数の合計が 60 単位以上となるもの」と定めて 各コースの特徴は以下のようである。これはまた、コー いる。 建築工学科ではこの第 1 の 1 に従ってカリキュラムを編 スが目指す教育目標でもある。 建築総合コース:建築工学にかかわる基礎学力の充実 成した。従って、かなりの数の科目が必修となった。大学 と、設計から施工まで一貫して行う総合教育プログラムに 教育は建築士受験の予備校ではないのだから、研究・学問 より、建築技術者としての実践能力を育成する。同時に、 はもっと純粋なものであると認識すべきであるが、生き残 自分の頭で考え、自らの手足を使った学習を通じて、問題 りをかけた場合には、他の大学と肩を並べるしかない。 解決能力を有する創造性豊かな人材育成を目指す。魅力あ なお、大学院の修了者については、これまでは大学院時 るカリキュラムの中で個人個人の可能性を磨くよう教育指 代の 2 年間を実務経験として算入出来たが、今回の改訂で 導する。 はそれがなくなり、修了後 2 年間の実務経験を経て一級建 建築環境デザインコース:建築学を基礎として、建築・ 築士の受験資格が得られると変更されている。それに対し 都市・地域の空間創造、より良い環境の創出を目標とした て大学院で所要の単位を修得し、且つ、インターンシップ 実践的なデザインをしていくことが、主な教育・研究対象 を行うことで、大学院 2 年間を実務経験として認めてもら となる。同時に建築士をはじめとする、国際基準の建築家 うべく生産工学研究科建築工学専攻では努力している。 資格にも対応し得るカリキュラムを組んでいる。文化、芸 術、技術、制度にわたる広範で、かつ創造的な思考力・デ 7.まとめ 以上、現在の建築界を取り巻く情勢と建築工学科の動向 ザイン力を養う教育を展開する。 居住空間デザインコース: 1 学年約 30 人の女子学生のみ を見据えた 2009 年度からのカリキュラムについて述べた。 何とか学部・学科の生き残りをかけた仕組みを考えねばな を対象とした、少人数制のコースである。 住宅設計をはじめ、集合住宅、インテリアデザイン、エ らないと思いつつ、教員一丸となって改革に取り組んでは クステリアデザイン、家具デザイン、照明デザインなど、 いるものの思うようにならないのが現実であり、それをひ 人の「住まい」と「暮らし」に関わるデザインを学ぶことを目 しひしと感じながら本稿をまとめてみた。 建築工学科主任 教授 川村政史 標としている。 図-2 は各コースの区別とコース独自科目の特徴を示し た。 コ | 建築総合コース ス 独 自 科 目 建築全般を学ぶ | 居住空間デザイン コース 図-2 居住性を高める デザインを身に つける カリキュラムの編成と各コースの特徴 3 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 表- 1 国土 交通大 臣の指 定す る建築 に関す る科目 次のイ からリ までに 定める 科目( 以下「 必修科 目」と 言う) のすべ てを履 修した 総単位 数が6 0 単位以 上とな るもの 。 分類 標 準的な 授業内 容を示 した科 目 建築 物等 の建築 工事を 実施す るため に必要 となる 図面等 の作 成を 行うこ とがで きるよ うにす るため 建築物 等の形 態、 建築 材料及 び構造 等を決 め、そ れを図 面に表 示する こと を標 準的な 内容と する科 目 空間 にお ける建 築物等 の配置 に係わ る計画 を作成 する際 に考 慮す ること が必要 となる 人間の 行動及 び意識 並びに 建築 物等 及びそ の周辺 の空間 のあり 方が人 間の行 動及び 意識 に与 える作 用に関 するも のを標 準的な 内容と する科 目 必 要単位 数 イ 建 築設計 製図 ロ 建築計 画 ハ 建 築環境 工学 建築 物の 室内に おける 光、音 、空気 、温度 等の環 境が人 の健 康等 に与え る影響 に関す るもの を標準 的な内 容とす る科 目 2単 位以上 ニ 建築設 備 快適 な室 内環境 の形成 及び維 持のた めに必 要な換 気、暖 房、 冷房 等の設 備、建 築物の の安全 性を確 保する ために 必要 な、 消火、 排煙等 の設備 及びそ れらの 設備を 運転す るた めに 必要な 電気、 ガス等 の設備 その他 の設備 に関す るも のを 標準的 な内容 とする 科目 2単 位以上 ホ 構造力 学 建築 物等 の応力 又は変 形等を 求める 構造計 算の基 礎理論 に関 する ものを 標準的 な内容 とする 科目 4単 位以上 ヘ 建 築一般 構造 建築 物等 の一般 的な構 造に関 するも のを標 準的な 内容と する 科目 3単 位以上 ト 建築材 料 建築 物等 に使用 される 木材、 鋼材、 コンク リート 等の材 料に 関す るもの を標準 的な内 容とす る科目 2単 位以上 チ 建築生 産 建築 物等 の企画 、設計 、工事 施工等 の建築 物が生 産され る過 程に 関する ものを 標準的 な内容 とする 科目 2単 位以上 リ 建築法 規 建築 物等 に関す る基準 等を定 めた法 令及び 建築行 政等に 関す もの を標準 的な内 容とす る科目 1単 位以上 7単 位以上 7単 位以上 2009 年度 新カリキュラムの骨子と内容 川村政史建築工学科主任が「2009 年度 カリキュラム改訂 に際して」と題して、2009 年度からのカリキュラム改訂に 関する背景と概要を記述されているが、ここではもう少し 詳しくその内容について触れていきたいと思う。 まず新カリキュラムの骨子は、大きくは 2 本柱で成り立 っている。ひとつは「入学定員削減に対する授業体制につ いて」であり、もう一つはこれの対応を図ると共に建築士 受験資格の対応を含めたカリキュラムの見直しにある。 入学定員削減に対する授業体制については、230 名から 180 名に入学定員が減少し、将来的に教員数も 28 名から 23 体制となることを考慮して、q 科目の再編および統一化を 図る。w クラス編成の再構築により授業コマ数の削減を行 う。e 授業コマ数の削減により、使用教室数の削減を行う。 r 非常勤講師の採用人数の削減を順次行っていく。という ことである。 次にこの対応としてのカリキュラムの見直しは、q まず、 建築総合コースを基幹として、新カリキュラムを構築して から特化コースである建築環境デザインコースおよび居住 空間デザインコースのカリキュラムとの対応を考えてい く。w 建築総合コースと建築環境デザインコースおよび居 住空間デザインで相互乗り入れできる科目は出来るだけ共 通化を行う。e 新建築士法(平成 21 年 11 月 28 日施行)での 一級建築士の受験資格に必要となる必修科目については各 コース共通とする。r 設置科目は、コース共通必修科目 (一級建築士対応)+コース独自必修科目+コース独自選択 条件科目で構成し、コース独自の必修科目と選択科目でコ ースの特徴を出す。t 構造系、材料・施工系、環境・設備 系の科目は、建築総合コースに設置し、特化コースはこの 中から必要な科目を設置する。また各コースの建築計画・ 4 設計系の科目はコースの特徴付けのための科目と位置付け る。y 平成 21 年度からは 3 つのカリキュラム(平成 18 年以 前入学者用、平成 19 ・ 20 年入学者用、平成 21 年度入学者 用)が同時に動くこととなるため、新カリキュラムは現行 カリキュラムと連続性のあるものとし、原則として設置科 目の変更は行わない。ただし一級建築士対応あるいはコー スの特徴付けのための科目名称の変更は可能とする。u 科 目の再編および統一化による授業コマ数削減の観点から、 新規科目は設置しない。というものである。 以上の骨子により作成した新カリキュラムが次ページの 表に示すものである。表中の「※」は現在申請中の一級建築 士受験資格のための指定科目である。一級建築士受験資格 のための指定科目では必修となる 30 単位(本ページ 表-1 のイ∼リ)はすべて新カリキュラム上でも必修としてある。 これに 30 単位を加えて 60 単位となるわけで、残りの 30 単 位に関しても建築工学科の卒業要件を満たせば概ね満足す るようにカリキュラムが編成されている。 新カリキュラムでの各コースの特徴付けは建築計画・設 計系科目とし、構造系、材料・施工系、環境・設備系の科 目はそのほとんどがコース共通科目として設置しているこ とは次ページのカリキュラム表からも読み取れると思う。 なお「建築構造力学 3」および「鉄骨構造」は各コースに設置 してあるが、コースにより必修科目と選択条件科目が違う ためコース独自科目としてある。 最後に卒業条件は、総修得単位数 124 単位で、この内訳 は教養科目 20 単位以上、基礎科学科目 22 単位以上、生産 工学系科目 10 単位以上、専門教育科目 72 単位以上で、現 行カリキュラムと変わらない。 学務委員 准教授 小松 博 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 平成21年度 入学者用カリキュラム 1年 科目名 生 系 産 科 工 目 学 独 建 自 築 専 総 門 合 教 コ 育 ー 科 ス 目 建 築 独 環 自 境 専 デ 門 ザ 教 イ 育 ン 科 コ 目 ー ス 居 住 独 空 自 間 専 デ 門 ザ 教 イ 育 ン 科 コ 目 ー ス 前 後 通 期 期 年 科目名 3年 前 後 通 期 期 年 選択 条件 2 専 必 門 修 工 学 科 目 選 択 条 実 件 技 科 目 必 ベーシックデザインⅠ 2 修 ベーシックデザインⅡ 2 2 必 建築探訪※ 修 専 建築構法Ⅱ※ 2 門 工 学 選 科 択 目 条 件 2 2 実 技 科 目 必 修 2 必 住居学※ 修 2 住宅設計入門※ 専 門 工 学 科 選 目 択 条 件 住宅設計プレゼンテー 2 ション演習※ 実 技 科 目 必 修 2 2 2 4年 前 後 通 科目名 期 期 年 2 2 2 プロジェクトマネジメン 1 建築保守管理※ 2 前 後 通 期 期 年 2 2 1 2 2 2 2 1 2 2 2 鉄筋コンクリート構造 建築施工A※ 建築設備※ 建築構造力学Ⅲ演習 2 2 1 2 1 1 ゼミナールA 1 鉄筋コンクリート構造 1 ゼミナールB 1 鉄骨構造演習※ 1 1 建築英語プレゼンテー 建築実験Ⅰ※ 建築計画論※ 建築仕上材料※ 施設計画※ 防災工学※ 近代建築史※ 木質構造※ 建築環境工学B※ 建築コンピュータ演習 空間設計Ⅰ※ 空間設計Ⅱ※ 実 技 必 科 修 目 必 建築探訪※ 修 建築構法Ⅱ※ 専 門 工 学 科 選 目 択 条 件 キャリアデザイン 経営管理 人間工学概論 キャリアデザイン演習 建築史通論※ 建築法規※ 建築構造力学Ⅰ※ 建築環境工学A※ 建築構造力学Ⅱ※ 建築応用力学Ⅰ※ 建築構造材料※ 建築構造力学Ⅰ演習 建築構造力学Ⅱ演習 建築応用力学Ⅰ演習 科目名 生産実習Ⅰ 技術者倫理※ 生産実習Ⅱ プロジェクト演習 生産工学特別講義 必修 建築構法Ⅰ※ コ ー ス 共 通 専 門 教 育 科 目 2年 2 2 2 2 1 2 2 2 2 2 住居学演習※ 住居CAD演習Ⅰ※ 建築設計演習Ⅰ※ 建築設計演習Ⅱ※ 家具デザイン 建築構造力学Ⅲ※ 鉄骨構造※ 都市計画※ 設計情報※ 建築応用力学Ⅱ※ 地盤工学※ 建築材料科学※ 建築環境工学C※ 公共建築論※ 建築振動工学※ 建築施工B※ 2 2 4 2 2 2 2 2 2 建築材料設計演習※ 2 建築設計計画※ 福祉環境デザイン※ 2 都市・建築デザイン史 2 建築環境工学B※ 2 デザイン表現図法及び 演習※ ディジタルデザインⅡ 空間構成法及び演習 建築設計演習Ⅰ※ ディジタルデザインⅠ 建築設計演習Ⅱ※ 建築計画論※ 住居史※ 近代建築史※ 施設計画※ 卒業研究 2 2 2 2 2 1 風工学※ 地震工学※ 2 2 2 特別設計 総合設計Ⅰ※ 2 建築実験Ⅱ※ 2 総合設計Ⅱ※ 2 建築実験Ⅲ※ 2 都市・地域空間計画Ⅰ 2 総合設計Ⅲ※ 2 建築構造力学Ⅲ※ 環境情報デザイン※ ランドスケープデザイ 建築情報データ解析 建築環境工学C※ 鉄骨構造※ 建築情報システムデザ 建築設計特論※ 都市・地域空間計画Ⅱ ランドスケープデザイ ン演習※ 2 2 2 2 2 プロセスデザイン 2 都市設計※ 2 建築・環境デザイン特 2 企画設計演習Ⅰ※ 企画設計演習Ⅱ※ 3 2 2 2 2 2 1 2 2 1 2 2 2 集合住宅論※ 2 2 1 2 1 2 1 建築構造力学Ⅲ※ 2 住居設備デザイン※ 2 住居生産論※ 2 都市・地域空間計画Ⅰ 2 エクステリア計画論※ 2 鉄骨構造※ 近代住宅作品論※ 住居管理※ 照明デザイン※ 2 住居CAD演習Ⅱ※ インテリアデザイン演 2 集住デザイン演習※ エクステリアデザイン 演習※ 2 建築設計演習Ⅲ※ 3 特別設計Ⅰ※ 特別設計Ⅱ 3 都市設計※ 住宅地計画※ 2 2 3 2 2 2 2 2 特別設計Ⅱ 3 2 2 特別設計Ⅰ※ 5 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 海外派遣研究報告 教授 大内 宏友 1.はじめに 持ち都市開発を進めてきたといえる。これまで、公共交 私は中期海外派遣研究員として平成 20 年 3 月 21 日に 通は「ヒトやモノを大量かつ効率的に輸送する」ことを目 出発し、約 5 カ月間にわたり欧州諸国を歴訪し、8 月 22 的に導入されてきた。しかし、近年の地球環境保護、少 日に帰国した。研究テーマは「建築・都市・地域計画に 子高齢化社会時代のモビリティの確保という地球規模で おける環境共生理論を用いた計画設計手法の研究」とし の課題に対し「人と暮らし、そして環境にやさしい移動 て、欧州の 12 カ国 30 都市に滞在し研究テーマに関して 手段」という バリアフリーの発想にもとづく、新しい都 視察を行い、多くの成果を得ることができた。以下にテ 市型交通システムが欧州を中心に導入されている。その ーマに関する欧州都市の概略を報告する。 中心となっている交通システムが、低床式路面電車 エコロジカルな視点から地域環境をいかに形成すべき (LRV である。または、単に車両を導入するだけではな か、さらに、地域において環境と人間主体とが相互に秩 く LRV をまちの活性化やまちづくりに役立てようと、 序を保ちつつ、 「環境との共生」 をいかに構築していくか、 様々な都市施策の一部として構築されている。以下にヨ 都市・地域環境モデルの構築が社会的に要請されてい ーロッパの代表的な先進事例を紹介し整理する。 る。サスティナビリティ(持続可能性)の言葉は、1972 年 1)ビルバオ(Bilbao) ローマクラブの「成長の限界」のレポートにより提唱され、 ビルバオはビスケー湾に向かって開け、ネルビオン川 これらは世界に大きなインパクトを与えた。同年、国連 の沿岸に位置し、スペイン北部屈指の港湾都市である。 で「人間環境会議」がストックホルムにて開催され「人間 かつてオ 19 世紀後半から良質の鉄鉱石の産地としてヨ 宣言」にて、開発と環境を調和させる定義として使用さ ーロッパの産業革命を支えた。鉄鉱業は 20 世紀になり れた。欧州においては、1990 年 EC(European Community) 衰退するが、それと同時に造船や石油化学工業が加わり、 の「都市環境による録書」により、都市部における環境汚 ビルバオの重工業は 1950 ∼ 60 年代にかけ、絶頂期を迎 染の防止、「グリーンフィールド(田園部など未開発の土 える。しかし、1970 年代に入ると鉄鉱業で栄えた街は環 地)」での新規開発の抑制、都市のアイデンティティとな 境破壊と失業問題により急激に衰退した。そのため都市 る歴史的文化財の保全、公共交通の促進など、エネルギ 再生の手段として経済と環境を両立させるサスティナブ ー効率のよいサスティナブルな都市形態を推奨した。さ ルな都市への再生手法として文化を核に行った成功例で らに 1992 年国連環境開発会議にて 21 世紀に向けた行動 ある。そのシンボルが 1997 年秋にオープンしたグッゲ 計画「アジェンダ 21」が提起され、1993 年には EC 委員会 ンハイム美術館である。グッゲンハイム美術館は、フラ の都市プロジェクトである「サスティナブルシティ・プ ンク・O・ゲーリーの設計によりネルビオン河岸のアバ ロジェクト」が始まり、続いて「ヨーロッパ 2000 +」では、 ンドイラ再開発地区に建てられた。(下記写真) 交通幹線による都市ネットワークの形成を目指した多核 的な都市システムを提唱している。1996 年「サスティナ ブルシティ・レポート」では、都市管理、包括的政策、 エコシステム、などの開発の原則を提示し、1997 年欧州 委員会は「EU における都市アジェンダに向けて」をまと め、さらに 1998 年に都市環境専門家グループはこれに 対する意見書で都市の再生、複合的な土地利用、公共交 通機関利用の促進といった環境問題からの都市政策の提 言を行った。以上のことから、欧州においては着実に、 持続可能な都市の推進がなされてきたといえる。本報告 は欧州の地域・都市環境における計画において次世代へ の継承システムを構築すべく、都市・地域計画の持続可 能な計画設計手法に関する先進事例の報告を行う。 2.欧州における都市再生 ヨーロッパは戦略的にサステイナブルシティの概念を 6 1997 Museo Guggenheim Bilbao (Guggenheim Museum Bilbao) しかし、グッゲンハイム美術館単体の波及効果で衰退し た工業都市から文化都市へと再生したのではなく、様々 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 な都市再生政策を行ってきた。かつて工業排水により汚 染されていたネルビオン川にサンティアゴ・カラトラバ の設計による歩道橋は、グッゲンハイム美術館などへ続 く市民の散策するプロムナードに繋がっている。さらに サスティナブルな都市へと変貌するため、交通インフラ を整備した。ビルバオの新空港をカラトラバが設計し、 ネルビオン川の両岸を結ぶ 2 本の地下鉄を計画し、アク セスの質を高めると同時に市民に開かれた空間を提供し ている。このようにグッゲンハイム美術館の誘致だけでは なく疲弊した工業中心地区から交通インフラ整備まで文 化・芸術を前面にした都市再生計画が試みられている。 2)カールスルーエ (Karlsruhe) 1998 Estação do Oriente(Oriente Station) 写真:設計サンティアゴ・カラトラバ、ポルトガル れた。しかし、市民により選ばれた施策は、歴史的に形 ドイツ連邦共和国の都市。バーデン=ヴュルテンベル 成されてきた中心市街地に大型店を誘致することであっ ク州に属する。人口は約 28 万人で、同州ではシュトゥ た。現在、鉄道の駅(ダルムシュタット中央駅)が町の中 ットガルト、マンハイムに続く第三の規模の都市である。 心部より北西にあり、市内は路面電車が縦横に走る。街 放射状に道路が広がっていく都市計画は、このカール・ の中心部のルイーゼン広場はトランジットモールであ ヴィルヘルムによって 1787 年にイタリア人建築家ペデ り、バスと路面電車の公共交通のみ導入されている。シ ィッティが招かれ、立案されたものである。 ョッピングセンターや大手スーパー及び地元商店街のモ q デュアルモード LRT ールでセンターは構成され、上階には市役所等の機能も 1992 年世界で初のドイツ国鉄(DB)と市内電車の直通 導入されている。中心の広場はそれまでの車道をすべて 運転が始まった。このデュアルモード LRT の導入で DB 地下に設置し地上部のトランジットモール化を成功させ の Karlsruhe − Britten 間の平日旅客数は 2000 人台から一 ている。 気に 7000 人台に増加、93 年半ばには 12000 人余りに達し 3.おわりに た。その後も毎年着実に直通路線を増やしている。 w トランジットモール 欧州の地域・都市環境においては、環境共生などの持 続可能な次世代への継承システムを構築しつつあり、日 歩行者も通行できるトランジットモールは、カールス 本の施策が商店街の活性化の方策に終始しがちなのに対 ルーエの都心の象徴のようにとらえられているものの、 し、地域文化や再生エネルギーの活用として地域経済シ このデュアルモード LRT の導入で、地方からの路線の大 ステムの構築を模索し施策を行っているといえる。安 半が集中し、状況が逼迫している。現在は.路面を走る 全・安心の生活環境の実現へ向けた車利用の抑制や路面 電車を地下に移し、トランジットモールを緑地化して歩 電車などの公共交通主導のまちづくりなどの妥当性を市 行者だけの空間とする計画が発表されている。街の中心 民とともに、透明性の高い事業管理の仕組みを構築して の東西を走る路面電車を地下化し、東西区間の地下化が いることからもわかる。 約 3.5 キロ、南北は約 1.2 キロで、これに自動車が走る道 我が国においてもシャッター街に象徴される地域間格 路の地下化も提案されている。しかし、この地下化に関 差の問題点が指摘され、地方中小都市のコンパクトシテ する数十年来の構想も現在は中断している。 ィの導入と平行して、地域の文化・自然環境とも連動し 3)ダルムシュタット(Darmstadt) た持続可能な都市への再生も今後さらなる検討が要請さ ドイツの中部南西寄りにある人口は 13 万 7 千で中都市 れている。 である。オルブリッヒ設計によるユーゲント・シュティ (詳しくは、本年学術講演会「欧州における都市地域計画 ール(アールヌーヴォー)の建築物群が並ぶマチルダの丘 の持続可能な環境共生理論を用いた計画手法に関する研 (ダルムシュタット芸術家村)など。近郊のクラーニッヒ 究」をご覧ください。) シュタインには鉄道博物館もある。我が国の中心市街地 最後に半年にもわたり授業・学校行事等の不在により にも見られる、商店街がさびれ、かつてにぎわいを持っ 多くのご迷惑をお掛けしたことと思います。建築教室を た商店街がシャッター街と化した状況は、世界的な多く はじめ多くの皆様に深く感謝いたします。有難うござい の都市に見られる現象でもある。このダルムシュタット ました。今後、さらに教育・研究に励んでまいりたいと では、郊外にショッピングセンターの出店計画が提示さ 思います。 7 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 2008 建築展の報告 教授 藤谷 陽悦 生産工学部建築工学科主催の「建築展」は 2008 年 10 月 中止する案も検討されたが、今年も恒例に従って実施す 27 日∼ 11 月 5 日にかけて実施された。今回の建築展は ることとした。ただ会場については外部に持ち出すのを 1993 年の第 1 回展から数えて 8 回目の開催となる。展覧 止めて、ホームグランドを大事にすることにした。つま 会の趣旨は第 1 回展で「開かれた大学を目指し、より社 り本学校舎で建築展を実施して、来館者に対して展示作 会との関わりを持つことはこれからの大学にとって存在 品のほか、大学キャンパスそのものを見てもらおうとい に関わる必要不可欠な条件となろう。特に大学と空間的 う作戦を取った。今回の狙いは以下の 4 点であった。 に地域社会との交流は重要である。」と報告されたように、 1)短期間の開催を止めて、せめて 2 週間近くは作品展 地域社会との交流を目指すことが目的であった。そのた め展覧会場についてはこれまで地元の津田沼や都内の某 所を選ぶなど、外部会場にこだわって開いてきた経緯が 示する。 2)学生の参加意欲を高めるためにポスターをコンペ募 集する。 ある。しかし、大学が置かれている最近の社会環境の変 3)集客が多く見込まれる学園祭期間に実施とする。 化はすざまじく、各大学でも頻繁に地域社会との交流や 4)建築家の記念講演会を実施する。 大学イベントを開催するようになった。ひとつは若年層 学生の応募のなかから、以下のポスターとテーマを選考 の少子化の問題があり、大学が企業化して人集めに奔走 した。 している現状がある。大学は昔のように「象牙の塔」とし 「環境−自然環境と共生し、コラボレーションにより てのんきとしている訳にも行かず、常に地域に対して情 新たな価値を生み出し、空間を創造してゆく私たちの試 報発信しながら、人員の獲得に乗り出す必要がある。昨 み−」 今では定期的にオープンキャンパスが開催され、各大学 会場は 4 号館地下展示室と 5 号館 1 階ホールの 2 ヶ所で実 でも高校への出向授業・大学博物館の展示、卒業設計展 施した。作品は以下の内容であった。 などに精を出しているのはそのためであり、授業を通じ 記念講演会は作品展示会との同時開催はならなかった た教育・研究の一方で、大学イベントが繰り返されてい が、伊丹十三記念館の館長兼女優である宮本信子さんを るのが各大学での現状である。そうしたことを考えるな お呼びして、同館設計者で本学研究所教授の中村好文氏 らば、当学科がこれまで実施してきた建築展は社会の将 とのギャラリー・トークを実施した。和やかな話が聞け 来を見据えた先駆的な試みとして評価できるであろう。 て良い企画であった。 ただ、最近の建築展はその将来について、反省の声が 展覧会はいつも通りの参加者で、新聞を賑わすほどの 聞かれるようになった。ひとつは、企画する側の苦労の 大盛況いう結果にはならなかったが、来館者には少なか 割に思ったほど集客数が伸びないこと、頻繁に開催され らず心温まる時間を提供できたのではないかと思う。展 る大学イベントに加えて外部で展覧会を企画する意味が 覧会の役割は、強いメッセージと熱いハートを後世に伝 あるのか、はたまた展覧会の期間が短期間すぎること、 えることである。その意味では展覧会の役目は果たせる などであった。そんななかで、今後の建築展については ことができたと思う。 8 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 テーマ:環境 趣 旨:自然環境と共生し、コラボレーションにより新たな価 値を生み出し、空間を創造してゆく私たちの試み 9 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 平成 21 年度建築工学コース卒業研究テーマ ■ 浅 野 平 八 教授 卒業研究では恊働学習と個人制作の 2 段階を設定してい ます。前期に論文を作成し、後期に設計作品を制作して卒 業研究とします。 論文のテーマは、以下のテーマから選択してください。 1) 一定地域住民を対象としたコミュニティ施設の設計に 関わる単位空間の調査研究 2)非定形空間のワンルーム空間におけるゾーニング手法 3)住民参加や共同設計などによる協議型コミュニティ施 設づくりにおける施設機能設定のための思考展開過程 分析 4)公園、集会所など界隈の公共空間整備手法 5)地域集会施設の防災避難に関わる建築計画 6)タウンアーキテクトの実態調査と職能分析 7)公民館 60 年の系譜から読み取るプロトタイプ 8)日本の住文化を伝える木造建築の専門用語 卒業設計のテーマは、以下のキーワードをふまえて各自 設定してください。 a 「公の施設」 b コミュニティ c 風土の意匠 なお 卒業研究を進める過程で月 1 回の研究室内 中間報告会を行います。 ■ 藤 谷 陽 悦 教授 1.イギリスの田園住宅地とコッテイジに関する研究 イギリスの田園住宅地(レッチワース・ハムステッド・ ボーンビルなど)の歴史的背景や成り立ち、そこに建設さ れた住宅について調べる。 2.慈善住宅事業に関する研究 慈善企業家が低所得者層を対象に建設した、福利厚生を 目的とした住宅について調べる。調査の対象は日本とイギ リスであり、主に文献調査を元に調べ、両者の関連性につ いて探る。 3.戦前・戦後期の市営住宅に関する研究 戦間および戦後復興期において建設された市営・県営な どの公営住宅について、主に六大都市(東京・横浜・名古 屋・京都・大阪・神戸)を中心に調べる。調査の方法は県 や市が使った行政資料を基に、その中から残された住宅に ついて遺構を調査し、当時の間取り・構造・設備などの実 態について調べる。 4.生活領域における日本の技術革新に関する研究 近代産業を支え、変革を遂げてきた日本の技術革新学 (イノベーション)について、「新製品の開発、新生産方式 の導入、新市場の開拓、新原料・新資源の開発、新組織の 10 形成」と言ったグローバルな視点から、その発展過程につ いて探る。研究の対象は主に生活領域に関わるものであり、 今年は台所・衛生機器・電化製品などを対象とする。 5.卒業設計 研究テーマを発展させ、それを最終的に作品としてまと める。 ※共同作業は認める。ただし、同一テーマであっても、個々人がそれ ぞれ自分で研究の目標を立て、指導を受けながら進めるものとする。 ■ 広 田 直 行 准教授 例年、卒業研究では、前半に論文を、後半に設計を、個 人で行うことを課題としていましたが、平成 21 年度は、 前半に国立西洋美術館の開館 50 周年を記念した展覧会へ の参加、およびル・コルビュジェ作品の世界遺産登録に向 けての研究活動を、後半に国立西洋美術館の実測調査を加 えたいと考えております。この他、研究室の継続する研究 テーマは以下の通りです。 平成 20 年度の例を「 」内に示し ますので参考にしてください。 1.施設オープン化の方法論 「コミュニティ施設における屋外スペースのオープン化の ためのセキュリティ調整」 「コミュニティ施設のギャラリーがオープン化に寄与する要因」 2.コミュニティ施設の計画論 「コミュニティ施設の複合事例にみる指定管理者制度の効果」 「韓国自治センターにおける IT 学習環境の整備実態」 「コミュニティ施設における屋外スペースの構成と利用実態」 3.資源循環型社会に向けた公的施設の環境形成 「韓国自治センターの転用事例にみる公共ストック空間の 活用方法」 4.大規模災害に対する公共施設の役割 「習志野市における乳幼児を伴う被災者に対応する避難施 設の計画的問題点について」 「災害時を想定した避難施設の転用に関わる計画的要件」 5.建築の現代的クライテリア(評価軸・評価基準)と評価方法 「日本建築学会作品選集の審査講評にみる評価方法の課題 と変遷」 「公共建築賞受賞建築物にみる公共性について」 6.その他 「大学カリキュラムとしての復旧・復興活動実施における 可能性について」 「大学ボランティア支援組織における災害時の活動状況」 ■ 川 村 政 史 教授 地盤・基礎構造物に関する研究を行う。平成 21 年度の 研究テーマは以下の通りである。 1.セメント固化処理土に関する研究 2.スウェーデン式サウンディング試験に関する研究 3.木片の有効利用に関する研究 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 4.地盤振動 (免震、波動伝播) に関する研究 5.版築に関する研究 6.竹筋ソイルセメントコンクリートの築造に関する研究 以上のテーマは大きなテーマを羅列したものである。この 中から小テーマを各自で考えて研究を行う。小テーマを 1 人で行う。意欲的に研究に取り組む学生を望む。 ■ 桜 田 智 之 教授 今年度のテーマと概要は次のとおりである。 1.習志野市のごみ溶融スラグを用いた再生 RC 部材の構造 特性 近年、一般廃棄物である都市ごみや産業廃棄物の増大に より最終処分場の逼迫が問題となっている。その対策とし て都市ごみを高温溶融処理し、再資源化する技術が開発さ れている。これにより産出されたごみ溶融スラグを RC 構 造用のコンクリート骨材として利用できれば資源循環型社 会の形成に大きく貢献できる。本研究は習志野市のクリー ンセンターで製造されたごみ溶融スラグを利用して、地域 の行政機関と連携した再生 RC 部材の研究を行うものであ る。 2.ハーフプレキャスト再生コンクリート梁部材の構造特性 解体コンクリートを破砕して製造された再生骨材を利用 した再生コンクリートには、原骨材に付着する吸水率の高 いモルタル分の影響のため乾燥収縮ひび割れが生じやす い。この乾燥収縮ひび割れは部材表面が空中にさらされる ことによって発生するものと考えられる。本研究は、鉄筋 コンクリート梁部材の外殻部を高強度繊維補強コンクリー トで作製したハーフプレキャスト部材の後打ちコンクリー ト部分に再生コンクリートを使用し、再生コンクリートが 直接乾燥の影響を受けない梁部材の構造特性を検討するも のである。 3.地震の観測と建物の振動特性の把握 建物の耐震設計の妥当性を検証するための地震観測は全 国的に極めて限らている。そのため生産工学部構内におけ る構造様式の異なる建物での地震観測を実施し、それぞれ の建物の地震時振動性状を把握すると共に、差異を検討す る。また構造計算に基づく解析解と観測との比較を行う。 なお、このテーマは工藤一嘉研究所教授と共同で指導を行 う。 ■ 神 田 亮 准教授 当研究室では建築分野の構造に関する研究を幅広く行っ ています。中でも、近年注目されてきている制振・免震構 造物の地震時及び強風時の挙動に関して研究を行っていま す。コンピュータ解析と実験の両面から、それらを調べて います。 21 年度の研究テーマは以下のようになります。 ・風洞実験によって建物と空気流体の相互作用を調べる 研究 ・免震装置を有する構造物の耐震性・耐風性に関する研究 ・建物と地盤が連成する振動の機構解明 ・地震、台風、竜巻などによる自然災害が発生した際に は、実際に現地へ行き、大学で学んだことを活かして 専門家の立場から被害調査を行うといった災害復旧の 一助となるような活動をする(ex 2007 年新潟県中越沖 地震) ・実際の建物の地震時挙動観測 ・建築物に作用する風荷重について 卒業研究は、基本的に少人数で行います。研究に関し、 高いモチベーションをもって臨める学生を歓迎します。 主な就職先は、構造設計・技術研究・施工現場・公務員 です。また、当研究室では、自分の研究のみならず、実務 に役立つ限界耐力計算法などの勉強会を行っています。 ■ 小 松 博 准教授 当研究室では鋼構造についての研究を行っている。平成 21 年度の主な研究テーマおよび概要は以下の通りである。 q 山形鋼柱材の補強効果に関する研究 w 屋内運動場の耐震補強に関する研究 e 鋼管構造の接合部合理化に関する研究 r ボルト接合を用いた引張継手の耐力評価 q は山形鋼を対象として母材に孔空けや溶接による損傷 を与えることなく、補強を施した柱材の座屈耐力を実験お よび解析により検証する。 w は一般に体育館と呼ばれる屋内運動場を対象として、 各種の耐震補強方法を提案するとともに、その補強効果に ついて解析的に検証を行っていく。 e は鋼管トラス構造の弦材と斜材との節点に、偏心接合 を用いた場合の構造特性を、実験ならびに解析により検証 を行う。 r は鉄骨の接合にボルトを用いる引張継手において、 種々のボルト孔配列による断面欠損が引張耐力に及ぼす影 響を実験的に求める。 以上のテーマに関して実験および解析を行っていく。着 手条件は、鉄骨構造および鉄骨構造演習を受講し、かつグ ループ研究が主体となるため、卒業研究生間の「和」をモッ トーとして、意欲的に研究室の活動に取り組む学生とする。 ■ 松 井 勇 教授 1.地下コンクリート壁のひび割れからの漏水補修方法に 関する研究 地下壁のひび割れからの漏水補修は、地下水圧が作用し ているため、水圧を考慮した補修方法が求められている。 そこで、試作した高水圧下における水密性試験方法によっ て、現行の補修工法による補修後の水密性を評価する。 2.建築外装材料の雨筋よごれの評価方法に関する研究 建物外壁のよごれの原因は多岐にわたるが、このうち、 雨仕舞の不良により、水平面に溜まった降雨水が壁面に流 下し、その流下跡によるよごれ(雨筋よごれ)が多い。雨筋 よごれが付着しにくい、あるいは目立ちにくい材料表面に ついて検討するため、試作した促進試験方法によって、表 面状態を変えた各種外装材料について実験し、表面状態と 雨筋よごれの関係を検討する。 3.建築仕上げパターンの光と影による見え方に関する研究 建築仕上材料は、意匠性向上のために、色彩はもとより、 11 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 表面を凹凸に加工している材料が多い。例えば、左官材料、 石材、コンクリートなど。このように仕上げられた壁面材 料に、ダウンライトを照射し、その光と影により、美しく 見える仕上げ加工方法について検討する。 4.床材料の防滑性の評価方法に関する研究 床のすべりによる転倒事故は、浴室、降雨時の歩道など、 床面が水で濡れているとき多発している。床のすべりは、 床と足との摩擦力によって評価されているが、多量の水が 介在する浴室や降雨時などでは、摩擦力の低下に加え、床 と足・靴底との引っ掛かり程度が防滑性に大きく影響する と考えて、引っ掛かり程度と防滑性の関係を検討する。 w 再生骨材製造時に発生する微粉の有効利用 e フライアッシュを用いたコンクリートの養生と表層の品質 r 超臨界水を用いた建築仕上材料のリサイクル技術 ■ 湯 浅 昇 准教授 ■丸 田 栄 蔵 教授 1.RC 造の物性研究 構造物の高強度・高耐久化ならびに資源循環型社会の構 築を目指し、RC 造の強度及び中性化・塩害・凍害・アル カリ骨材反応等による劣化をセメント・コンクリートの水 和、養生、劣化環境から検証する。 q 超低水セメント比セメントペースト・コンクリートの品質 w フライアッシュを用いたコンクリートの養生と表層の品質 e 暴露試験・促進試験によるコンクリートの塩分浸透 r 凍結融解作用による劣化に及ぼす超低温度の影響 t 超臨界水によるアルカリ骨材反応試験方法の開発&実構 造物調査 2. RC 造の非・微(美) 破壊試験の開発 実 RC 造に適用可能な強度、劣化・耐久性等を評価する 試験方法を開発、検証する。 q 小径コアによるコンクリートの品質評価 w ドリル削孔によるコンクリートの品質評価 e 原子炉を用いた中性子によるコンクリート含水率測定 r 赤外線カメラによるコンクリートの含水率分布測定 t 超臨界水によるアルカリ骨材反応試験方法の開発 y 実構造物での非・微破壊試験方法の適用 3.コンクリートの仕上材の品質評価に関する研究 コンクリートに施す仕上材の RC 造保護効果の検証、塗 材、防水層のはがれ、ふくれ等の不具合についてのメカニ ズムの解明、対策技術を検討する。 q 塩ビ樹脂サイディングによるコンクリートの保護効果 w 塗床のふくれ現象の解明・対策 4.コンクリート構造物の緑化と ヒートアイランド現象抑 制に関する研究 ヒートアイランド現象の抑制を目的として、屋上及び壁 面緑化を含めた建築材料開発を行う。 q コンクリートの品質と藻・苔の付着 w 緑化ならびに外断熱によるヒートアイランド抑制効果 5.建築材料のリサイクルに関する研究 建築物の解体及び他産業から排出される廃棄物を超臨界 水など最新の技術を用いて、有効利用する方法を開発・検 討し、資源循環型社会の構築を目指す。 q 再生骨材使用コンクリートの耐久性 12 各研究とも実施する項目については、相談の受け決定する。 松井研究室ならびに湯浅研究室の研究成果は、日本の主要 学会や国際会議に発表し、学協会の仕様書・規格に反映さ れている等、国内外の大学、国、ゼネコン、住宅メーカー、 建材メーカーから極めて高い評価を受け、多くの相談を受 けている。 丸田研究室の 2009 年度の主な研究テーマ及び内容は以 下の通りです。 1.建築物の構造骨組及び外装材に作用する風圧性状に関 する研究 わが国において建築物は毎年のように台風の被害を受 けています。被害を最小限にするために作用する風圧 力の性質や大きさを把握し設計に反映させる必要があ ります。研究は、昨年に引き続き、各種建物形状の風 圧係数とその評価についてこれまでに蓄積した風洞実 験の結果をもとに検討します。 2.ネットシートの設計風力評価に関する研究 建築工事では仮設足場が設けられ、ほとんどは養生用 のネットシートが取りつけられる。最近これらの足場 が強風で倒壊する事故が多発し、安全に対する対応が 迫られている。研究は、平成14年度から実測により 足場に取り付けたネットシートの風力を計測を行って きた。今年度は昨年度に引き続き、ネットシートの作 用風圧特性を明らかにし、被害要因の究明を試みるも のです。 3.ビル風に関する評価法の開発研究 ビル風は都市問題として依然として関心が持たれ設計 の重要課題です。また、設計企画の早期に検討を必要 とされることから、評価のための予測研究が求められ ています。研究室では、昨年度から大学構内の5か所 に設置した超音波型風速計による風環境の実測を行い、 風洞実験との比較から瞬間風速に関する予測方法およ び評価方法について検討を試みます。 4.戸建住宅の風力係数に関する研究 住宅等の自然換気や通気に関する設計を行うためには、 任意の住戸に対する各面の風圧係数予測が必要です。 研究は、風速変化による換気・通気性状について、つ くば建築研究所内の2階建て試験住宅に対して、実測 と風洞実験との比較を行うことにより、時刻歴を考慮 した評価方法の提案を試みます。 〈条件〉特に条件はありませんが、テーマに対して強く興 味を抱いている人が望ましいと思います。 ■ 師 橋 憲 貴 専任講師 平成 21 年度は日本大学長期海外派遣研究員として出張 中のため開講しません。 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 平成 21 年度建築・環境デザインコース卒業研究テーマ ■ 大 内 宏 友 教授 以下における ABC の 3 分野の内容を基に各自でテーマを 設定します。 各自のテーマ設定のもと現状分析から企画までの内容を 〈条件〉卒業研究は論文と設計を行い、原則として論文 は共同研究とし、設計は各自が設定したテーマとし ます。尚、設計競技や高齢者・障害者に対するボラ ンティア活動等を積極的に行える人が望ましい。 まとめ卒業論文とします。さらに計画・設計へと至る一連 のプロセスから卒業制作としてまとめます。以上のことか ら、論文・設計を一体として、期間を設定して取り組み、 最終成果を卒業作品として制作します。 ■ 坪 井 善 道 教授 坪井研究室は、都市・地域空間の計画・デザインの方法 を総合的観点から研究しています。 ■ A 分野:エコロジカルデザイン Keyword :共生、フラクタル、環境教育、環境心理、集落 ウォーターフロント、 当研究室においては景観形成を前提にして、環境共生と いう観点で、持続可能な都市・地域空間像および住環境像 を実現していくための都市・地域空間の計画方法を、我が 国固有の地域資源である歴史的町並・建築・自然などを特 ■ B 分野:サスティナブルデザイン に考慮しながら、多元的な視点から研究を継続的に進めて Keyword :景観、集住体、保存・再生、歴史的環境、ICT、 います。さらに、具体的デザイン手法を、まちづくり設計 伝統技法や素材、コンパクトシティ、古代都市 競技などを通し提案することを行っています。 一方、少子高齢社会、犯罪などの都市問題、あるいは地 ■ C 分野:ユニバーサルデザイン 方都市の衰退のような都市・地域計画に関わる問題の解決 Keyword:福祉、教育、医療、インテリア、GIS ・ GPS、 の方法と具体的施策のあり方など、わが国の直面している 超高層、安心・安全、色彩と心理 深刻な都市・地域空間計画に関わる社会的課題についても 調査・分析を進めています。 卒業研究テーマ: ■ 川 岸 梅 和 教授 北 野 幸 樹 専任講師 q 地域資源(歴史資源、自然資源、観光資源など)の保存・ 1.コーポラティブ・ハウジングに関する研究 w 環境共生型建築・都市デザインの事例的研究 2.余暇活動と建築・都市空間との相関に関する研究 e アジアの現代都市空間構造の固有性に関する調査・分析 3.生活空間計画・デザインに関する研究 r 高齢化社会における居住環境の計画方法に関する研究 4.福祉環境デザインに関する研究 t 犯罪と都市空間特性に関する研究 「コーポラティブ・ハウジングに関する研究」では、アメ 再生に関する研究 y 卒業設計 リカのエコビレッジ型コウ・ハウジング等、居住者参加型 条件:テーマ q から t までは、当研究室の研究計画に従 の集合住宅と良好なコミュニティづくりについて調査分析 い、調査およびデータ整理・分析を主な作業内容とする。 し、人と人の関係性や合意形成や経年的な変容に着目し研 y 卒業設計は基本テーマに沿って各自が具体的テーマを設 究を進めます。 定する。自主性・積極性、計画性、創造性、協調性を重視 「余暇活動と建築・都市空間との相関に関する研究」 では、 する。 市民・居住者の余暇活動と空間の関係性について調査・分析 し、時代背景と共に経年的な変容に着目し研究を進めます。 「生活空間計画・デザインに関する研究」では、市民参 加・居住者参加等、居住者がつくり出す空間デザインやコ ミュニティデザインに着目し調査を行うと共に、街区・集 合住宅のファサード構成や施設分布の状況との関係性を導 く研究を進めます。 「福祉環境デザインに関する研究」では、ノーマライゼー ■ 花 井 重 孝 教授 川 島 晃 准教授 当研究室では、空間構造の形態と応力特性との関わりを 分析するための解析法の開発を行っています。 本年度の卒業研究は以下の主要テーマについて、各副題 ごとに 3 名程度で行います。 ションの理念の基、知的障害者や高齢者のグループホーム 1.構造力学への光弾性実験の活用に関する研究 やグループリビング等、居住空間を含めた生活空間の実態 副題: a)曲げ構造 b)面構造 を捉えた上で、今後のあり方について、人と活動と空間の 光弾性実験は、構造体内部に生じる応力の流れ(応力集 関係性に着目し研究を進めます。 中)を縞模様として視覚的に捉えることができるので、構 ■上記以外に個人的なテーマを希望する場合は、相談の上 造形態と応力特性の関わりを分析する最も実践的な方法で 決定します。 ある。本テーマは曲げ構造、面構造の力学と形態との関わ 13 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 りを修得することを目的として、光弾性実験の活用方法を みを検証する。 研究する。 3.ウォーターフロント整備計画に関する研究 2.形態解析への応力法の活用に関する研究 副題: a)ケーブルネット構造 b)テンセグリテイ構造 ケーブルネット構造(ケーブル材へ張力を導入すること により面外方向の抵抗力を付与した構造)とテンセグリテ 大都市でかつ有力漁港を有する福岡市・北九州市を対象 にして、海域の環境資源までを視野に入れつつ、アメニテ ィー・工業生産・漁業生産・親水性・都市居住に配慮した 新たなウォーターフロント整備計画について検討する。 イ構造(引張部材と圧縮部材による自己釣合系を適用した 構造)の形態生成問題は、応力状態と幾何学的形態を分離 4.建設副産物処理の最適化に関する研究 して考えることができないため設計初期段階における重要 建設過程において発生する建設副産物の発生抑制、及び な問題の一つであり、典型的な形態解析問題となる。本研 発生現場−中間処理施設−最終処分至る静脈物流システム 究では構造体の安定性を分析するための構造解析法として の最適化に関する検討 (シミュレーション) を行う。 開発した応力法について、形態解析への活用を図る。 なお、希望するテーマがある場合は、申し込み時に研究 の概要を説明できるようにしておくこと。卒業研究(制作) と研究室の活動に積極的に取り込む学生を望む。 5.市街地における緑被の連担性に関する研究 市街地における有機的な緑被の連担性(つながり)に配慮 し、21 世紀における居住空間の向上を目指した新しい緑地 環境の提案を行う。 ■ 日 高 單 也 教授 1.スペースデザインに関する研究:明日の建築空間への 6.歴史的街区の地域集団形成に関する研究 コミュニティー空間の核となるモニュメント、イベント、 提案や実験を、空間作品の製作を通して考察する。複雑な セレモニー空間の抽出とその機能、形態について調査・研 形態の製作法、新しい建築造形材料の開発、分割と集合、 究を行う。特に京都の歴史街区における町屋とその元学区 ユニット化など。 の関連性について現地調査を行う。 2.デザインシステムに関する研究:デザイン活動におけ る基本的なシステムの考察と、思考から製作、そして存在 7.自然的資源を活用した沿岸地域の再構成に関する研究 に至るまでを秩序だてるモデュールの考察。 自然的資源(水産資源、風力エネルギー、海洋資源、建設 3.自然形態のパターン認識:自然界にみられるパターン 副産物)を活用し、沿岸地域の地域振興に資する方法論を (型) とフォルム (形) の考察と、その人為形態への応用。 総合的に検討する。 4.都市空間と芸術文化(パブリック・アート)に関する研 究:よりよい環境づくりをめざして、公共空間に美術が協 調し、一体化の方向をめざしている作品の調査・分析と芸 術的環境の創出の手法について。1)年中行事と都市景観 事例(国内外の事例調査研究)、2)パブリックアート事例 (国内外の事例調査研究) 8.東京下町におけるコミュニティー形成とサスティナビ リティーの検討 WHO が住環境の理念として提唱する「安全性」 「保険性」 「利便性」 「快適性」の 4 理念と、地域に生活するものが将来 の地域社会に対してどのような貢献が可能かという「持続 5.環境デザインに関する研究:建築の外部空間及び内部 可能性」を加えた 5 理念によって東京下町の住環境を分析、 空間のデザイン、ランドスケープデザイン、街並とファサ 評価する。 ードデザイン、広場、ポケットパーク、遊歩道、ストリー トファニチャー等のデザイン。 (国内外の事例調査研究) ○上記テーマで卒業研究をグループで進め、(調査・分析) 6.公共空間の景観形成手法に関する研究: 1)公共空間の と (企画・設計) で成果をまとめます。 サイン計画。(標識、広告等の調査研究)2)公共空間に位 ○研究室における研究活動・作業・自主勉強会(GIS、確率 置づける造形物、構築物、標識、看板等のモデュール計画。 統計等)を主として、野外でのサーベイや学外での現地見 3)景観法に関する内容分析と方向性について。 学会・シンポジウムを行います。 条件:空間構成法及び演習またはランドスケープデザイン ○意欲的で協調性を有する学生を希望いたします。 演習を受講した者。 ■ 塩 川 博 義 准教授 ■ 宮 崎 隆 昌 教授 1.集落空間の構成上の特性に関する研究 高密集住している集落の空間論アプローチによる観察を 通して調査分析を行い、集住を支える仕組みを検証する。 1.商店街のサウンドスケープに関する研究 商店街の音環境を物理的に測定するだけでなく、商店街 を利用する人々の意識調査も行い、商店街におけるサウン ドスケープについて検討する。 2.公共空間の音環境デザインに関する研究 2.大都市沿岸域の特性と空間構成 日本における環境音楽のパイオニア的存在であった作曲 都市解析的な視点から、100 %人工的な土地・水縁空間 家故吉村弘氏の残した作品や資料を中心に公共空間の音環 である大都市埋立地における自律的な土地利用転換の仕組 境デザインについて検討する。また、全国にある音環境デ 14 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 ザインもいくつか調査する。 ために、具体的な設計に役立つ情報として活用されていま 3.ダクト開口端減衰に関する研究 せん。これらの知識に対し、新しい建築を生み出す知識ベ ダクト開口端における音響減衰を数値シミュレーション ースとしての価値を与えるために、建物を構成するエレメ と実験によって解析する。 ントの関係性やその意味を体系化して活用する方法を探究 4. 室内空間の音響シミュレーションに関する研究 しています。 コンピュータ・シミュレーションを用いて、コンサート ホールの音響パラメータを計算し、建築音響設計を行う。 2.空間や景観の評価手法に関する研究 建築空間や都市景観を評価する上で、変化し続ける時代 の価値観を的確にとらえて順応していくことが必要です。 新しい情報技術やツールを積極的に取り入れた新しい切り ■ 岩 田 伸一郎 専任講師 口による評価手法を探究するとともに、これに基づいてこ 1 本研究室では、個々の独自な価値観を養い、 「問題発見力」 れからの建築や都市のビジョンを模索しています。 や「論理的思考力」を身に付けることに重きを置いて、卒業 3.市街地環境の更新に関する研究 設計および卒業研究の指導を行っています。研究のテーマ 高度成長期に骨格が形成された市街地は機能を持続して は、各自の問題意識に基づいて自由に設定してもらいます。 いく上で様々な問題を抱えています。これから物理的ある 現在進行している研究テーマは以下とおりです。 いは社会的な寿命を迎える建物や街をどのように更新して 1.知識ベースに基づく設計プロセスの研究 いくべきかという課題に対して、合理的で効果的な計画手 長い歴史の中で、建築デザインに関する多くの有用な知 識が蓄積されてきましたが、断片的あるいは個別的である 法の提案や変容過程のシミュレーションに取り組んでいま す。 平成 21 年度居住空間デザインコース卒業研究テーマ 居住空間デザインコースでは、前半は卒業論文を中心と 境と生活の変容過程」、「公的地域集会施設における日常的 し、後半は卒業設計を中心としている。卒業論文は 2 ∼ 3 飲食交流」、「建物や公共用地の汚れ」他の研究テーマを予 人のグループで行う場合が多く、曽根教授、亀井専任講師 定している。 が指導する。卒業設計(特別設計)は一人で行い、中村研究 所教授が主として指導する。また、当コースの研究室を希 望する学生は 3 年後期の集住デザイン演習を履修している ことが望ましい。 ■ 亀 井 靖 子 専任講師 当研究室では「建売住宅」をキーワードに様々な角度から 研究を行う。今年度の研究テーマおよび概要は以下の通り である。尚、取り組み始めは曽根研究室と合同でゼミを行 ■ 曽 根 陽 子 教授 良い建築空間を実現するためには、企画、計画、設計、 う。 1.東京郊外の建売団地の持続と変容に関する研究 施工から維持管理にいたる建物のライフサイクル全体に関 1970 年代に一斉に分譲された建売団地を対象に、分譲当 心を持つことが大切である。そうした視点から当研究室で 時の住戸平面と現在の住戸改変状況を比較し調査・分析を は、新築から 20 ∼ 30 年経過した集合住宅や戸建住宅・団 行う。 地、公共建築などにおける建物の使われ方や住まい方、建 2.ロサンゼルスの建売住宅の持続と変容に関する研究 替え、増改築など建物変容の状況、街並みの変化などを研 究している。 今年度は「高度成長期に開発された高密度住宅地の住環 ロサンゼルスの一般的な建売住宅について、英文資料 (パンフレット等)や住戸平面の資料をもとに、その変容を 調査・分析する。 15 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 国内研修旅行に参加して 建築工学コース 2 年 松 本 卓 期間:2008年3月27日∼29日 今回の研修旅行は 1 日目に、伊勢神宮、ミホ・ミュー ジアム、平等院鳳凰堂、平等院ミュージアム鳳翔館 2 日目に龍安寺、国立京都国際会館、京都国立近代美術館、 京都会館、国立国会図書館関西館 3 日目に山邑邸、積 層の家、国立国際美術館、大阪府狭山池博物館を見学し た。 内容は、ボリュームがあってどれも見応えがあり、古 建築から現代建築まで、多種の建築を見学することがで きた。そのなかでも、私が印象に残った建築はミホ・ミ ュージアム、国立京都国際会館、積層の家である。 1 日目に訪れたミホ・ミュージアムは I.M.ペイの設計 ミホ・ミュージアム で山に囲まれた建物で建築容積の 8 割は地下埋まってい る建築。私たちは長いトンネルと橋を通ると建物本館に 入ることができる。一歩建物のなかに足を踏み入れると 正面がガラス張りになっていてそこからの景色が 1 枚の 絵のように切り取られているかんじでとても感動した。 和をとりいれたとても心休まる空間であった。ミホ・ミ ュージアムはバックヤードまで見学でき美術館建築の奥 深さにとても興味を持った。 2 日目の国立京都国際会館は大谷幸夫の設計で柱はま っすぐという概念を破った建築で、すべての柱を傾斜さ せてあり、台形を組み合わせることによって空間が構成 されている。外観はとても大きい建物で一目では全景が 見えないほどである。中に入ると傾斜の柱が存在感を表 し、かつ邪魔にならず空間をうまくまとめている。個人 国立京都国際会館 的にはとても好きな建築でホールに入るたび声を上げて しまうような力強い建築であった。 3 日目の積層の家は設計が大谷弘明、構造は陶器浩一 で 2005 年の日本建築学会賞を受賞した建築である。積 層の家は狭小住宅で敷地いっぱいに建てるという目的か ら PC コンクリートを積み上げて圧着し、できた隙間を 利用して空間が設けられている。外から見ると狭いイメ ージだが中に入ると狭さを感じず扉がないため建物がひ とつの部屋のようになっていてとても居心地のよい空間 である。扉を設けるスペースがないためトイレや風呂は 仕切られていなく、設計者の自邸だからこそできる建築 なのだと感じた。 国内研修旅行を通じて、古建築から学んだ技術や現代 建築で体験した空間を、これからの自分に活かしたいと 思った。 16 積層の家 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 居住空間デザインコース 夏季研修旅行 2008 年度(奈良・京都) 2 年 岩名・角井・吉田 8月3日 (日) 奈良県高の原駅に現地集合 日も沈んだ午後 7 時、私たちは高の原駅に集合した。 8月5日 (火) 今井町の見学 電車に乗り、今井町に向かう。相変わらず暑い・・・。 高の原は多くの緑に囲まれたよく言えば自然豊かな、正直に 資料館に着くと、ボランティアのガイドさんから今井町の 言えばド田舎であった。タクシーに乗り、積水ハウスの研修 説明を受けた。今井町は古くは興福寺の荘園で、中世の環濠 施設である 「ドミトリー相楽台」 に向かった。研修所は新しく、 集落を母体として発展した町だそうだ文)。現在も、町の大半 とても綺麗だった。後期に寮の設計課題があるので参考にな が江戸時代の姿を残しており、大部分は実際に住居としても った。明日からの研修が楽しみになった。 使用されていた。 豊田家は吹き抜けのように屋根が高く、太い柱や梁が立派 8月4日 (月) 積水ハウスで研修 まだ眠気の覚めないまま、坂道を歩き離れた場所にある研 だった。当時使用人は子供だったので、逃げられないように 部屋を二階に設け、階段が取り外せるようになっていたこと 修施設に向かった。・・・暑い!!蒸し蒸しイライラ、奈良 は驚きだった。猿落としは江戸時代のオートロックのようで、 県がこんなに暑いことを知らなかった。盆地め!! 昔の人の知恵を垣間見た気がした。どの家の外にも馬や牛な 施設に到着し中にある「あわさい」で朝食をとった。素朴で優 どをつなぐ「駒つなぎ」というものがあり、その大きさでその しい味がした。朝食後、私たちは 3 グループに分けられ、そ 家の力がわかるのは面白かった。 れぞれ施設を廻った。見学は丸一日かかる長丁場であったが、 白河院に移動し、三分一博志さんの講演を聞いた。犬島プ 内容が充実していたため非常に楽しめた。キッチンやカウン ロジェクトは島規模の計画である。工場跡地のリノベーショ ターの高さや、収納棚の高さを調節でき、使いやすい位置関 ンや自然を多く取り入れた建築は私達にとって勉強になっ 係を体感できた。 た。特に石に埋まった家には、他にはない自然を愛する三分 照明コーナーでは光の色によって部屋の印象が変わり、 「模様替えをするときは照明を変えるのが一番早い。 ©中山 繁信先生」ということを実感できた。 一さんらしさを感じた。夜、先生方と談話をする機会があっ た。普段お会いしない先生とも交流でき、この先の授業に期 待ができる時間だった。 階段コーナーでは、踏み面、蹴上げの違いによる変化を知 った。踏み面が狭い階段は降りるとき物凄い恐怖感を感じた。 音についてのコーナーでは、自分ではわからない生活音が、 他者には騒音に感じられることもあるのだと分かった。 温度についてのコーナーでは、断熱材の必要性を痛感でき た。これは暖房のエネルギーを軽減でき、エコロジーにつな 8月6日 (水) 最終日 3 日間の研修を終え、学んだことはとても多かった。研修 前と後では、街や住宅の見方が変わったと思う。 普段できない貴重な体験がたくさんでき、これを今後の建 築に活かせたらと思う。 がると思った。 防犯コーナーでは知っておくと便利な対策を学んだ。垣根 参考文献 Wikipedia −今井町− には柊などのとげのある植物を植える。玄関前には砂利を撒 き、足音が聞こえるようにする。表札には家族全員の名前を 書かない。自転車に住所は書かない。郵便受けの中には釘を 設置し、手を奥まで入れ、物を取ろうとすると刺さる罠を仕 掛ける。一般的に知られる番犬は効果が無いこともわかった。 特に印象に残っているのは器具を装着して障害者や妊婦の 体験をしたことだ。私たちが普段何気なく行っている作業や 行動が大変困難なことがわかり、この先設計をするにあたり バリアフリーの大切さを身をもって知った。 30 万円のウォーターベットの気持ち良さも知った。 施設で身体を使い体験したことを、今後の設計に生かして いきたいと思う。 積水ハウス研修所にて 17 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 生産実習成果報告 3 年 64071 番 影浦 由佳 実習先名称 岩瀬建築有限会社 実習期間 平成 20 年 7 月 29 日(火) ∼ 8 月 16 日(月) [10 日間] 1.実習の目的及びテーマ 文化財指定建造物の解体修理工事を実際に体験することに より、歴史的建造物の良さを学ぶ。 2.実習内容 2 − 1.現場でやったこと (1)東漸寺山門解体修理工事 ・茅を屋根から外した。 ・軒回材の墨書を見つけるために、部材のホコリを刷毛 で清掃した。 ・掃除をし、整理整頓を心がけた。 (2)千葉教会教会堂保存修理工事現場 ・漆喰壁を剥がした際、柱に漆喰のあとが残る。新規に 漆喰を塗った際に壁ちりに漆喰が残っていると、新規 の漆喰がつきにくくなるので、清掃を行なった。 ・玄関の建物の作業を手伝い、作業手順を学んだ。 (3)千葉教会、土台の調査 ・当初の土台を実測しその後清書した。 2 − 2.学んだこと 2 − 2 − 1.東漸寺山門について 三間一戸八脚門である。その形式の意味は正面の柱間が三 間でそのうち中央一間が通り抜けでき、かつ柱は正背面の柱 の本数で数えることからきている。基礎は基壇上に自然玉石 を置く。軸部は礎石上に柱を建て地覆、腰貫、飛貫、頭貫で かためている。組物は出組である。 2 − 2 − 2.茅葺屋根の工程 1 下地拵え 屋中竹から茅持竹までの茅を葺くための工程のこと。 2 軒付け 軒先端の水切茅まで茅を葺くこと。 3 平葺き 軒先から棟際まで茅を葺くこと。 4 棟積(グシ) 棟の部分をきれいに覆い形を整えること 5 刈り込み 棟際から下方へ形を整えながら茅を刈る。 写真1 教会堂揚げ屋の様子 18 2 − 2 − 3.千葉教会について プロテスタントの教会。1895 年 10 月教会堂を建設。ドイ ツの建築家リヒャルトゼール氏の設計によるもので、ゴシッ ク風アーチ型の窓、高い屋根を支える柱を取り除いたハンマ ービーム工法を用いるなど、当時としては新しく珍しい建築 だった。1975 年に千葉県有形文化財に指定された。土台と柱 が腐食していたことから、修復工事が計画された。 2 − 2 − 4.千葉教会教会堂、土台の調査 調査は二種類の方法がある。1 つ目は仕事のための調査、2 つ目は建物の価値を知るための調査である。両方とも平面図、 立面図、断面図、伏図を取り、仕事のための調査ではさらに 不陸図、継ぎ手の形状と位置等を取る。目的に合わせて短い 時間で、正確にやることを心がける。 3.実習の成果 東漸寺山門解体修理工事では、茅葺屋根の工法、解体修理 工事の概要について学べた。いろいろな人が作業をしていた ので、職人さんや大学の先生の話が聞けた。千葉教会では建 て方を見学させていただいた。土台調査では野帳書き方、墨 書の見方、考察の仕方など学んだ。 4.感想 東漸寺山門解体修理工事では実際に屋根に上って作業し た。昔の建物を自分が実際に作業していることに興奮すると 同時に、職人さんたちの作業の早さに驚いた。 千葉教会の調査では、古い建物、部材の残っている墨書、 仕口からどのように建てていたのか考察する仕方を学べた。 膨大な知識と経験がないと調査できない仕事だと思った。 自分の出来なさに失望した。建築用語を覚えることが大変 だった。建築は男社会なので今までの甘ったれた生き方だと 通用しないなと思った。 謝辞 10 日間という短い期間でしたが、たくさんのことを教えて いただきありがとうございました。 写真2 東禅寺集合写真 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 生産実習成果報告 4 年 54104 番 佐藤 真耶 実習先名称 鉄建建設株式会社 実習期間 平成 20 年 7 月 28 日(月) ∼ 8 月 8 日(金)[10 日間] ・実習の目的及びテーマ 建築音響について、建設会社の技術研究所でどのような研 r 成田空港に着陸する航空機の騒音測定 実習先の研究所は成田空港に近く、空港に離着陸する直前 の航空機を見ることが出来たので、施設内の屋外ヤードにて、 成田空港に着陸する航空機について 10 本の騒音データ測定を 行いグラフ化し、研究所における航空機騒音について評価し 究及び開発が行われているのかを理解し、また騒音計の使用 た。 方法や音響に関する法律文献について学ぶことで、建築音響 t 安全研修部の鉄道施設の見学 についての総合的な理解を深める。 安全研修部の鉄道施設にて、鉄道建設時及び鉄道使用時の ・実習内容 安全についての説明やホームで事故が起きた時の対処方法の q 音響に関する文献や JIS などの規格、法律文献の閲覧 指導を受け、また過去の鉄道工事の事故事例を閲覧した。 建築における音響特に騒音について、「建築技術」などの文 献を読み、実際の騒音問題やその原因についての知識を深め た。また JIS 規格を読み、床衝撃音などの騒音測定の方法や その評価方法の法的基準を学んだ。 w 某架道橋桁架替工事に伴う振動及び騒音のコンピュータ解析 事前に調査済みの鉄道振動及び騒音について、有効なデー タを抽出し、それについてコンピュータによるオクターブバ ンド解析を行ってグラフ化し、その振動及び騒音について性 質や特徴を分析した。 e 集合住宅における床衝撃音の測定及びその性能評価 研究所の施設内にある実験施設において、その施設の床衝撃 音の測定を行い、その測定データをもとに床の遮音性能の評 価をした。また、その施設の素面時の床衝撃音のデータの性 能評価も行い、性能の違いを比較した。 写真:安全研修部の鉄道施設 y 無響室にて、実際のホールや教会の音反射 (残響)の体感 無響室にて、鉄建建設さんが実際に設計施工したコンサー トホールや多目的ホール、教会における、音響シミュレーシ ョンによる音の反射(残響)について、実際に音楽を流して聴 くことで、ホールの響きとはどのようなものか体感した。ま た、この体感により、残響時間やホールの規模(席数)によっ て、音楽の響き方又聞こえ方が異なることを実感した。 u 日本大学法学部 11 号館建設現場の見学 本学法学部の建設中現場に見学に行き、建物の建設段階に おける音についての工夫や使用している素材等の説明を受け た。特に、地下駐車場の浮き床や機械室のグラスウールの壁 材など防音の対策は初めて目にしたものであったので、良い 経験となった。 ・感想 今回の生産実習を通して、建設会社における技術研究所の 実態を知ることが出来、また建築における音響というのは、 ほとんどが「悪い音」つまり騒音に対してのもので、ホール音 響などの「良い音」はごく僅かなものであるということを知っ た。これは建築という人間が生活している空間では、「騒音」 というものが常に付きまとい、設計においてデザインや機能 性だけで考えるのではなく、しっかりとした防音など目では 見えない「音」というものへの配慮が重要であると痛感した。 今回の実習を通して、 「建築音響」 に関する考え方が変わり、 図:床衝撃音性能評価グラフ 多くのことを学ぶことが出来た。 19 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 生産実習成果報告 3 年 64157 番 照井 愛子 実習先名称 株式会社 佐藤総合計画 実習期間 平成 20 年 7 月 29 日 (火) ∼ 8 月 29 日 (金) [20 日間] 1.実習の目的及びテーマ 建築という分野の仕事のあり方を、実習を通して経験しそ の業務を知る。設計の面白さや、大変さ、現実の厳しさを 学び、将来へ役立てる。 2.実習内容 生産実習 1 …基本的に資料や図面を読み取り、コンセプ トを理解した後、1/100 模型の作成。 生産実習 2 …イラストレータによるプロポ−ザルの資料 作成。 2 − 1.実習 1 について 実習 1 で担当になったのは、京都にある、某大学であ った。主な仕事は、1/100 模型だった。スケールが大きく、 それも大学ということで苦戦した。 スタディー模型という事もあり、途中の話し合いや会議 においてプランの変更が発生してくる。その時、説明を受 け対応し違ったパターンの模型を作成するという臨機応変 に対応することの重要さを学んだ。 次に担当者がクライアントの所へ打合わせに行くため、 資料作りを手伝わせて頂いた。その資料は膨大な量であり、 条例や質問などがびっしりと書かれていた。私は担当者に 言われた文章をエクセルに入力し、表などを作成するとい う単純な作業を行った。設計とはただ図面を引くだけでは なく、地道な作業が重要だと実感する事が出来た。 [写真 q 模型作成中] [表 q ※実際の資料を載せ る事ができないため例とし て作成した質問対応の表] 2 − 2.実習 2 について 実習 2 に入り担当が浦安の某庁舎に変わった。そこで まずプロポーザルについて教えて頂いた。今回の庁舎はま だコンペの段階であったため、リアルタイムで製作の過程 を学ぶことが出来た。 《プロポーザルとは何か?》 q きちんとした図面は資料の中に載せてはいけない。 w スケッチ程度の説明文は加えても良い。 e あくまで提案の段階であるため、具体的な案はまだ載せ てはいけない。 r 曖昧な表現にしておくが、きちんとした内容も詰めてお く。 主にイラストレータを中心に資料作成を進めていった。 某庁舎の敷地などに色付けを行ったり、自分でも表や敷地 の絵、矩計の絵などのスケッチを見ながら作成した。 3.実習の成果 3 − 1.実習 1 設計の仕事を細かに知ることが出来た。設計は人と人と 20 [図 q ※実際の資料は載せられないの で例として作成した敷地図] [図 w ※実際の資料は載せられな いので例として作成した矩計図] のつながりを大事にする仕事だと言える。コンペを通過す る時点では意見を一致させて提出をするだけだが、実際に その建築物を建てるとなると話は別で、一方通行ではなく、 コミュニケーションが大切になってくる。実習 1 で、設 計の仕事に関してはこのような事を学んだ。 3 − 2.実習 2 プロポーザルについて学ぶ事が出来た。 実習を通して自分の考えや意見の述べ方などを学んだ。相 手に納得してもらえるまで話すことの重要性や、逆に相手 の意見の重要性を理解する姿勢の大切さに刺激を受けた。 4.感想 1 …実際に会議に参加したり、業務をこなすことはなかっ たが、模型作成や、図面の読み取り、会議資料の作成 などといった形で業務に携わることはできた。そのお かげで学校とは違った見方で、設計とはどのようなも のなのか学ぶ事ができたし、現実と普段の課題との違 いを垣間見ることができた。就職活動を控えるこの時 期にインターンという形で実際の現場に足を運び時間 を過ごせたことは自分にとってとても貴重なものとな り、経験にもなった。 2 …担当者の方の丁寧な指示や指導により、イラストレー タの技術を向上させることが出来、とても感謝してい る。またプロポーザルの資料作成により、実際の仕事 の空気に触れることが出来、貴重な経験をさせて頂き 充実しているものとなった。また、今回は指示通りに イラストレータを使い図の作成や絵を描いていただけ だが、提出される紙面に自分の作成した図や絵が載っ ているのを見てチームの一員になれた気がして、物凄 く嬉しかった。 謝辞 貴重な経験をさせて頂きとても感謝しています。学校で はなかなか学べない細かな部分まで丁寧に教えて頂いたた め、初めて伺った時よりは成長出来たのではないかと思い ます。特に、イラストレータの使い方やプロポーザルにつ いて分かるまで説明して頂きありがとうございました。そ して、たくさんの仕事を抱えるなか、何一つろくに出来な い私に対し、丁寧に模型作成に対する指示やアドバイスを くださった皆さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。学び、 身に着けた事は貴重なものばかりでした。今回経験した喜 びや感動を忘れずに、就職活動に役立てて行きたいと思っ ています。 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 生産実習成果報告 3 年 64002 番 相原 麻未 実習先名称 有限会社 アイシオール コンフォルト編集部 実習期間 平成 20 年 8 月 1 日 (金) ∼ 8 月 14 日 (木)[10 日間] 1.実習の目的及びテーマ 建築雑誌の編集の仕事を実際に自分の眼で見て、体験する。そ が主催するアクサーチッテリオ M の秋の新コレクション披露会で ある。場所は青山で行われ、ハンス・グローエ社のプレゼンを聞 き、実際に新商品を拝見し、自ら手触りを確かめ詳しいお話を聞 いた。取材時はメモ帳と鉛筆持参が必須である。大事だなと思っ たことは即メモを取り、頭の中で文章の構成を考えながら取材を する。ハンス・グローエ社の新商品はとてもスリムに改良され美 して、1 冊の雑誌ができるまでを把握する。 しく魅力的であった。 2. 実習内容 2-3.その他 実習に行ったアイシオールは、主に建築雑誌の編集を行う会社 編集部は取材や打ち合わせなどお客さんの出入りが激しい。実 で、インテリア、デザイン、建築を結ぶというのが大きなコンセ 習時は土と左官の本でお世話になっている左官職人の原田進さん、 プトである「コンフォルト」という雑誌を 2 ヵ月に 1 回のペースで発 木村謙一さんらとのパーティーが行われた。実習中で私はベスト 売している。コンフォルト以外に「土と左官の本」の編集も手がけ オブ左官の方々とお会いすることができ、貴重な体験となった。 ている。今回私がお手伝いさせて頂いたのは、コンフォルト 104 号、 3.実習の成果 105 号、土と左官の本 4 である。 編集という仕事は幅広く、たくさんの方々の協力を経て、1 冊の 雑誌ができるまでのおおまかな流れは、まず編集部でレイアウ 雑誌が出来上がる。読者に楽しんでもらうためには、取材したも ト、文など考え、デザインを手がけるマツダオフィスに送る。そ のに対してぴったりのテーマや題名、文章を考えなければいけな して、文章、写真などを打ち込む翔美アートに送り、最後に凸版 い。 という印刷会社で実際の紙を使い印刷をしてもらった後、初めて そして編集以外にも、身に付いたことがたくさんある。それは ページが完成する。 社会ということ。私は、2 週間という短い期間だったけれども初め 2-1.編集における基本的雑務について てアイシオールで社会というものを経験させて頂き、授業では学 q スキャン べない大切なことをたくさん学ぶことができた。 編集担当の方が実際にページに掲載したい写真などを、フォト ショップを使ってスキャンする。ポジフィルムはカメラマンさん 4.感想 私は以前から建築雑誌の編集に興味があった。実習に行き仕事 から借りているので、大事に扱わなくてはならない。 を手伝って、自分がスキャンした写真、作成したデータなどが実 w データの作成 際のページに掲載されると、凄く嬉しかった。そして、私のよう 実習中行ったデータの作成内容は、104 号の p040 ∼ 041 に掲載さ な何もわからない学生が 1/2 ページを担当させて頂いて、夢のよう れている、松下電工のグラフなどの資料である。編集担当の方が だった。アイシオールの方々は毎日とても忙しそうであったが、 松下電工のプレゼンの資料を掲載したいデザインを考え、私がイ 大変やりがいのある仕事をしていて、私は皆さんがとても輝いて ラストレーターを使い、色を変えていく作業である。他にも、 見えた。そして、将来自分も編集という仕事に就きたいと確信に p066 のカウンター断面詳細図を元の図面をスキャンし、それをイ 変わった。実習後もアルバイトを続けさせて頂いている。毎日が ラストレーターで上からトレースをし、図面を作成した。 勉強になることばかりで、発売日が近づくにつれて出来ていくペ ージを見ることがとても楽しみになっている。 資料 2 担当した 1/2 ページ 資料 1 作成したデータが掲載されたページ 謝辞 e 住所、連絡先の入力 雑誌を制作する上で携わった方々の名刺を集め、氏名、会社名、 自分が社会人になるにはまだ勉強不足であるということがよく わかった。常識も身についてなく、アイシオールの方々に大変迷 連絡先などをパソコンに入力する作業である。入力時には何号の 惑をかけてしまった。これからはもっと臨機応変に対応できるよ 雑誌に携わった方なのかを必ず明記する。たくさんの名刺を入力 うになり、社会に出ても恥ずかしくない責任感のある人間になり したので、建築業界の幅広さを知ることができた。 たいと思う。 2-2. 取材、編集(1/2 ページ) 参考文献 私が担当した取材は、水洗金具メーカーのハンス・グローエ社 コンフォルト 104 号、105 号、土と左官の本 4 21 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 アーキニアリング・デザイン展に参加して 大学院 2 年 松本 豊 アーキニアリング・デザイン展とは、日本建築学会主催の とも AND 展に参加した私たちは、それを理解することがで もと今年の 10 月 17 日∼ 10 月 28 日に建築会館にて行われた展 き、技術、エンジニアの必要性を深く感じました。今回の展 覧会です。展覧会の名前にもなっているアーキニアリング・ 覧会で学んだことを忘れずに、社会で、エンジニアの一端を デザインとは、建築(アーキテクチャー)の設計・生産を支え 担い、技術の発展に貢献していきたいと思いました。 るエンジニアリング・デザインをアーキニアリング・デザイ ン(Archi-Neering Design : AND)と呼んだもので、本展覧会 は、エンジニアリングによる技術の質が、空間の質や環境の 質につながっていくことを広く知ってもらうために企画され ました。展覧会は計 130 点に及ぶ建物が紹介され、そのメイ ンは、大学の研究室と有志の学生が制作した模型で、建物に 用いられている技術がわかりやすく表現されています。その なかで、私が所属する広田研究室と有志の学生で、以下の 9 つの模型を製作しました。 ・落水荘 ・ポンピドゥーセンター ・東京国際フォーラム ・ミュンヘンオリンピック競技場 ・関西国際空港 展示会場風景 ・プラダブティック青山展 ・北京オリンピックスタジアム 鳥の巣 ・神奈川工科大学 KAIT 工房 ・ヴェネチアビエンナーレ 日本館 私のチームは 4 年生 1 人、3 年生 2 人、2 年生 2 人の計 6 人の チームで「プラダブティック青山店」を担当しました。最初は 資料をかき集め、メンバーで勉強会を行いながら建物への理 解を深めていき、模型の表現を検討しました。このプラダブ ティックは、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計し、竹中工 務店が構造・施工を担当して実現したものです。AND 展は、 大手ゼネコン・設計事務所、著名な建築家など、プロフェッ ショナルの参加も多く、プロと学生のコラボも可能で、私た ちもスタディ模型を片手に竹中工務店の実際の構造設計の方 を訪ねて行きました。そこでは、持参したスタディ模型を見 プラダブティック青山店(S = 1/100) ながら、免震装置の仕組みや架構技術などを教えて頂きまし た。建物への理解が深まるのと同時に、話の中からは「デザ インを実現させるためには妥協はしない」というようなエン ジニアの魂のようなものを感じました。プロのアドバイスや 2 度行われたスタディ模型発表会での意見を参考にしながら、 メンバーで話し合い、技術と空間の表現方法を決定しました。 模型は 1/100 と 1/50 のスケールをつくり、1/100 では、外 壁・垂直コア・水平チューブ・スラブによって建物が成立 し、構造と空間、ファサードが一体になっていることを表現 しました。1/50 は部分模型として、フロアの半分をスケルト ンで表現し、空間を成立させている外壁やコア、スラブがど のような骨組になっているかをわかりやすくしました。この 模型を通して、どのくらいの人に建物の合理性や仕組み、技 術の大切さが伝わったか、知ることはできませんが、少なく 22 プラダブティック青山店(S = 1/50) K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 PACON − Energy and Climate Change 宮崎研究室 堤 和樹 (M2) 私は 2008 年 6 月 1 ∼ 5 日にハワイで行われた「PACONEnergy and Climate Change」に自身の論文を発表いたしまし た(口頭)。 会場はホノルルにあるアラモアナホテル内で行われ、1 日 目はレセプションパーティー、2 ∼ 4 日目に発表が行われ、5 日目に閉会式のパーティーが行われました。会場内は気軽に 発表を聴講できる形式になっていて、発表は口頭とポスター セッションに分かれていました。 自身初の国際学会ということもあり、出発前から戸惑いや 緊張を感じていましたが、ハワイの綺麗な海とどこまでも続 く青空、これまでに味わったことのない開放感が私の緊張を ほぐしてくれました。会場には、我々のほかにアメリカ、中 国、韓国、台湾、タイなど多くの国の学生・研究者が参加し ており、様々な言語が飛び交っていました。その中で発表し た自分を振り返ると、出発前に想像していた国際学会そのも 発表後のパーティーの様子 ので、改めて人種の違いによる言葉の壁、価値観や文化の違 いによる相手とのコミュニケーションの難しさを感じまし た。また、私は口頭発表だったのですが、ポスターセッショ ンを見ていると、聴き手側との距離も近く英語での説明が重 要になり、口頭発表より難しいという印象を持ちました。 発表後のパーティーでは、発表時の緊張感のある空気とは 違い、終始穏やかな雰囲気のなか、他国の人々と食事を楽し みました。 今回の国際学会は私にとってとても良い経験となりました が、言葉の壁に直面し、結果として悔いの残る論文発表とな りました。私は語学と建築を学ぶため、来年からアメリカに 留学します。今回のこの様な経験を踏まえ、アメリカでは人 種を越えてのコミュニケーションをとる能力を養ってきたい と思います。また修士論文では、自身の研究おいて日本とア メリカとの違いを分析し、報告したいと考えています。 論文発表にあたりご協力いただいた宮崎隆昌教授、中沢公伯 発表した学生での写真撮影の様子 (PD)さんにこの場を借りて深く感謝の意を表します。 発表の様子 23 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 「2008 年度日本建築学会設計競技受賞報告」 板谷 慎 (4 年・岩田研究室) 、永田 貴祐 (4 年・岩田研究室) 2008 年度支部共通事業日本建築学会設計競技において、 であった出来事を、博物館や記念館のように写真や文字に 私たちの作品 『時間遊歩道』 が優秀賞を受賞しました。また、 よる資料として残していく方法ではなく、建築による空間 学部生による優秀案 10 作品に贈られるタジマ奨励賞も合 体験として記憶に残していくことができると考えました。 わせて受賞しました。今年度、同設計競技には昨年を上回 この村が水底に沈んでしまう前に流れていた川の形状をト る 343 作品の応募がありました。私たちの作品は、まず支 レースして一本の道をつくり、村が体験してきた歴史を覆 部入選 77 作品に選ばれ、その後 8 月 7 日に行われた公開審 い隠すものを削り取るように、水中や汚染された土壌の層 査において最終審査に進む 12 作品に選出されました。最 の中を勾配を変化させながら突き抜ける遊歩道として設計 終審査は 9 月 18 日に建築学会広島大会の会場で開催され、 しました。提案したのはそのたった一本の道のみですが、 公開プレゼンテーションを経て最優秀賞 2 作品、優秀賞 5 単純であるからこそ記憶に強く呼びかける象徴的な空間体 作品、佳作 5 作品が決定されました。 験が生まれると考えました。最終審査では、ストーリー性 今年度のテーマであった「記憶の器」は、非常に解釈の難 しい課題でした。出題主旨として提示された要項には『具 のあるプログラムの組み立てやデザインを導くプロセスを 高く評価して頂きました。 体的な建物が人の心の中に過去の記憶を生起させる』とい 私たち学生が取り組んでいる設計競技や大学の設計演習 った内容や、『建物が直接的に扱うのは外観の印象や内包 では、審査委員や先生方の価値観によって作品に対する評 される空間だが、結果としてそれらは人の心の中で時間の 価が大きく異なります。そのため、要求に応じて多様なア 媒介物となり、この時間の媒介物として見た建物を「記憶 イディアを引き出すことのできる幅広い価値観を身に付け の器」と呼びたい』といった記載があり、要項に書かれた文 ることが大切であると考えています。また、アイディアを 章を何度も読み返しながら出題者の意図を探り、自分たち 形にすることと同じくらいに重要であるのが、アイディア 独自の解釈へと展開することを試みました。私たちは度重 を明確に伝えるため表現力であり、これは日常生活の中の なる議論を経て、 ‘建物における体験を人々の記憶に残すこ 会話や物事の見方によって養われると考えています。その と’と同時に、 ‘建物を体験することによって人々の中にあ ため、普段から、多くの人たちと積極的にコミュニケーシ る何らかの記憶が呼び起こされること’が「記憶の器」とし ョンをとり、自分たちを取り巻く環境を意識的に観察する ての建築に求められる役割であるという考えに辿り着きま ことを心掛けてきました。このような日ごろからの意識が した。 今回の受賞につながったのではと感じており、この意識を 具体的な提案の敷地として、足尾鉱毒事件の舞台となっ た場所を選定しました。現在、事件によって汚染されたか 持ち続けていくことは将来実務に携わった時にも必要とさ れるのだと思います。 つての村の土壌は厚いコンクリートで覆われ、ダムによっ 最後に、本設計競技をご指導下さった先生、助言を下さ て水の底に姿を消しており、誰もが知っていたこの事実は った研究室の先輩方、同じ課題に共に取り組み多くの議論 時とともに忘れ去られつつあります。私たちは、この場所 を交わした友人達に心から感謝を致します。 24 K I Z U K U 2009.01VOL.32NO.2 教 室 ニ ュ ー ス 【講演会】 ■坪井善道教授は、平成 20 年 9 月 25 日開催された「第 20 文集、第 73 巻 第 634 号、2008 年 12 月、pp.2175-2183 に 掲載された。 回 関東地方都市美協議会研修会」において、『景観から のまちづくりを考える』というテーマで公開講演を行っ ■ 北野幸樹 助手・川岸梅和 教授・杉本弘文(D3):異な た (会場:木更津市市民会館中ホール)。 る地域居住者の余暇活動の変化並びに活動実態からみた 近隣空間における余暇活動の時間的・空間的活動特性に ■ 桜田智之教授は、2008 年 10 月 4 日に千葉工業大学に ついて 近隣余暇関連施設に関する研究 その 3、日本 おいて、2008 習志野市市民環境大学∼ 3 大学連携講座∼ 建築学会計画系論文集 第 73 巻 第 628 号、pp.1221 ∼ の講師を務め、「地球温暖化対策に係る資源循環・廃棄物 1229、2008 年 6 月 減量」と題する講義をされた。また、2008 年 10 月 11 日に 千倉保健センターにおいて、南房総市民環境大学の講師 ■ 杉本弘文(D3)・川岸梅和 教授・北野幸樹 助手・広田 を務め、「地域における資源の循環と廃棄物の減量」と題 直行 准教授:遊牧民と集合住宅居住者の比較からみた する講義をされた。 生活環境に関する生活・コミュニティ意識の傾向的特性 について −モンゴル・ウランバートル近郊に暮らす遊 【国際会議】 ■ 師橋憲貴専任講師、桜田智之教授は「Bond Splitting 牧民の生活環境に関する研究−、日本建築学会技術報告 集 第 14 巻 第 27 号、pp.213 ∼ 218、2008 年 6 月 Strength of High-fluidity Recycled Aggregate Concrete Beams」と題して、8th International Symposium on ■ 大村敏(D3)・川岸梅和 教授:居住者の意識特性から Utilization of High-Strength and High-Performance みた木造密集市街地における住居の建替えの可能性に関 Concrete、2008 年 10 月 27 ∼ 29 日、都市センターホテル する研究、都市住宅学 第 63 号、第 16 回学術講演会 研 において論文発表を行った。 究発表論文集、pp.69 ∼ 74、2008 年 10 月 ■ 大内節子(M2)、大内宏友教授:「Study on urban ■ 田島誠(教育施設研究所)、菊地秀和(日比生寛史建築計 space composition as an educational environment and 画研究所)、大内宏友教授:「救急医療システムにおける image structure of children-Relation between actual space 地域空間情報を用いた施設の適正配置について− GIS ・ and child image-」は XXIII UIA World Congress Torino GPS を用いた人口分布にもとづく圏域的指標の構築−」 2008 において研究報告を行った。 は、日本建築学会計画系論文集、73 巻 631 号,pp19291937,2008 年 9 月に掲載された。 ■ 山田悟史(D3)、大内宏友教授:「STUDY ON FORMULATION OF ENVIRONMENTAL RECOGNITION OF ■ 山田悟史(D3)、大内宏友教授:「超高層住宅の集住体 SUPER HIGH-RISE HOUSING RESIDENTS」 は XXIII UIA における居住者の環境認知に関する研究」は日本建築学 World Congress Torino 2008 において研究報告を行った。 会計画系論文集、73 巻 630 号,pp1749-1757,2008 年 8 月に 掲載された。 【学術論文】 ■ 師橋憲貴専任講師、桜田智之教授「再生骨材と普通骨 【受賞】 材の混合骨材を用いた鉄筋コンクリート梁部材の付着割 ■ 第 10 回 2007 年 まちの活性化・都市デザイン競技「街 裂強度に関する実験的研究」は、日本建築学会構造系論 なかに春日部市民や来街者の多彩な交流を演出する「劇 25 場都市かすかべ」を創る」〔主催:まちづくり月間実行委 の作品「京島の家」が一次予選を通過し上位 11 選に選出 員会(国土交通省)、(財)都市づくりパブリックデザイン された。 センター〕において、川岸梅和 教授、北野幸樹 助手、 杉本弘文(D3)、小谷雅紀(高松建設(株)・平成 20 年 3 月 ■ 第 4 回ダイワハウス住宅設計コンペ「住宅のリストラ 博士前期課程修了)のグループ作品「共に生きる・活きる クチャリング 2」 (主催:大和ハウス工業株式会社)にお 暮らし −まちなかに賑わいを創出するコミュニティス いて大塚隆光(坪井研 M2)、加藤尚裕(広田研 M1)の作品 クールと回遊空間−」がまちづくり月間実行委員会会長 「イエの、ヌケガラ」が優秀賞を受賞した。 賞(2 位)を受賞した。(平成 20 年 7 月) (平成 20 年 12 月) 応募作品総数は 467 点であり、一次審査において 9 作品 ■ 2008 年度日本建築学会技術部門設計競技「公共建築の が選出され、二次審査のプレゼンテーションを経て、各 再構成と更新のための計画技術」〔主催:日本建築学会〕 賞が決定された。 において、川岸梅和 教授、北野幸樹 助手、杉本弘文 (D3)、広田直行 准教授のグループ作品「共に生きる・ 【学協会作品発表】 活きる暮らし −青少年館から地域ふれあい館+αへ−」 ■ 第 72 回新制作展(於国立新美術館、平成 20 年 9 月 17 が一次審査通過作品に選ばれた。(平成 20 年 9 月) 日∼ 9 月 29 日)スペースデザイン部に日高單也教授はス ペースデザイン作品「ランドスケーププロジェクト'08-水 ■「石山空き店舗活用設計コンペティション」 (主催:石 辺の空間」を、田中遵助手はスペースデザイン作品「five 山商店街振興組合) において、伊藤顕 (大内研・学部 4 年) years」を会員として出展発表した。また、スペースデザ の作品「hikutasu ∼石山商店街における空間の作り方 イン部に応募した大学院 2 年生の高橋佳祐の作品「居室 ∼」が最優秀賞を受賞し実施設計の基本計画として採用 のランドスケープ」、ならびに大学院 1 年生の強矢大輔 された。 の作品「片全全変」は入選をはたし発表展示された。 ■「こんな家に住みたい!埼玉の木の家・設計コンペ ■ 2008 年新制作京都展(於京都市美術館、平成 20 年 10 2008」 (主催:木づかい夢住宅デザイン事業実行委員(埼 月 21 日∼ 10 月 31 日)スペースデザイン部に日高單也教 玉県 農林部 木材利用推進室))において、宇野彰(大 授はスペースデザイン作品「ランドスケーププロジェク 内研・学部 4 年)の作品「自然と繋がる家 ∼わたる庭・ ト'08-水辺の空間」を、田中遵助手はスペースデザイン作 とまる庭∼」が優秀賞を受賞した。 品「five years」を会員として出展発表した。 ■「第 2 回全日本学生環境共生住宅デザインコンペ」 (主 催:東新住建株式会社)において、鈴木紀之(大内研 M2) 目 次 1.巻頭言 ‥‥‥ 1 2.2009 年度 カリキュラム改訂に際して ‥‥‥ 2 10.国内研修旅行(居住空間デザインコース) 3.2009 年度 新カリキュラムの骨子と内容 ‥‥‥ 4 11.生産実習成果報告 ‥‥‥ 18 4.海外派遣研修報告 ‥‥‥ 6 12.アーキニアリング・デザイン展に参加して ‥‥‥ 22 5.2008 建築展を終えて ‥‥‥ 8 13.国際シンポジウムに参加して ‥‥‥ 23 6.建築工学コース 卒業研究テーマ ‥‥‥ 10 14.2008 年度日本建築学会設計競技受賞報告 ‥‥‥ 24 7.建築・環境デザインコース 卒業研究テーマ ‥‥‥ 13 15.教室ニュース ‥‥‥ 25 8.居住空間デザインコース 卒業研究テーマ ‥‥‥ 15 26 ‥‥‥ 16 ‥‥‥ 17 発 行 者 川村 政史 習志野市泉町1−2−1 日 本 大 学 生 産 工 学 部 建 築 工 学 科 教 室 築 KIZUKU 9.国内研修旅行(建築工学コース) 第 87 号 編 集 日本大学生産工学部建築工学科 藤谷・川島 印刷 美津濃印刷株式会社 TEL 03-3835-0870 FAX 03-3835-0925
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