ハートクリニック町田家族教室 うつ病関連疾患について

ハートクリニック町田家族教室
うつ病関連疾患について
2011年7月30日
ハートクリニック医師 田村紀郎
「うつ病関連疾患」とは?
→「うつ状態」になる病気と考えました。
ほとんどの心の病気は、「うつ状態」になります。
本日は、「不安障害」「統合失調症」に関して、
「ご家族の接し方」についてお話しをします。
「不安障害」とは、
・パニック障害
・社交不安障害(社会不安障害)
・全般性不安障害
・特定の恐怖症
・強迫性障害
・外傷後ストレス障害
など、不安をおもな症状とした障害をさします。
うつ病の約4割に不安障害が合併するという
報告があります。
一生のあいだに女性の約30%、男性の約
20%がなんらかの不安障害にかかるという報
告があります。
不安障害はまれな疾患ではありません。
不安は、身に迫った危機に対応するために必
要なシステムです。
・夜道で物音がしたときに身体が硬くなる
注意力を高め作業効率をあげる面もあります
・久しぶりに運転する際に、手に冷や汗をかく
・試験の前日の夜中に、赤点をとることを想
像してドキドキしながら勉強する。
不安が強くなると、日常生活や社会生活に支
障がでたり、苦痛を感じたりします。
心理面では強い不安や緊張を感じる、行動
面では不安を感じる場面を避けるなどの影響
がでます。
不安が病的か、病的でないかを線引きするの
は困難な場合があります。
→ただし本人が不安により苦痛を感じていれ
ば、医療の対象となる可能性があります。
→少しでも迷ったら、専門家へ受診をすること
をおすすめします。
「パニック障害」
はパニック発作を繰り返す病気です。
パニック発作は
不安、動悸、発汗、口渇、息苦しさ、めまい、
嘔気などが突発的におこる発作です。
とても、苦しいものです。
発作を繰り返すと
→またおこるのではないか、と悩まされます。
→特定の状況(電車や雑踏など、発作が起
こったら逃げられないと思う場所)を避けるよ
うになります。
「予期不安」と「回避行動」とよびます。発作がな
い場面でも苦しみがでます。
治療は
「薬剤」と「精神療法」によりおこないます。
薬剤は、
「抗うつ薬(SSRI・SNRI・三環系抗うつ薬)」
が中心になります。
「抗不安薬(安定剤)」や「睡眠剤」も適宜使用
します。
「抗うつ薬」は、パニック障害の治療の中心で
す。少量から開始し徐々に増量していきます。
効果がでるには、時間がかかります。
ある薬で効果がないかたで、別の薬で効果が
でるかたもいます。
服用は、症状が改善したあとも3年間服用す
ることをすすめます。
副作用には頻度の多いものに、だるさ、嘔気、
便秘、軟便などがあります。
頻度が少ないけれど注意したい副作用に、焦
燥感、高揚気分、ふるえ、発熱などがありま
す。
副作用は医師に伝えていきましょう。
なるたけ飲み忘れず、服用を継続するのが
重要です。
中止時は、必ず医師と相談しながら!
「抗不安薬(安定剤)」は日中の不安感を軽減
する、発作時に頓服として使用する、「睡眠
剤」は睡眠の改善や夜間のパニック発作を防
ぐために使用します。
「精神療法」は暴露療法をおこないます。
→簡単にいうと、「不安がおこってさけていた
状況に少しづつたちむかい、状況に少しづつ
なれて不安を少なくしていくこと」です。
具体例
Aさんは、パニック発作をくりかえしていたかた
です。はじめは発作は小田原線の快速の満
員電車でおこりました。発作がまたおこるので
はないかと不安になり電車に乗れなくなり通
勤できなくなりました。その後自宅でもたびた
び発作はおこりました。パニック障害と診断さ
れパキシル(抗うつ剤)を10mgから処方され、
40mgにしたところ自宅でのパニック発作はお
さまりました。
しかし、「また電車に乗ると発作がおこるので
はないか」という不安は続きました。電車でも
特にこんでいて、一駅の区間が長い電車に
乗るのが不安だとのことでした。そこで主治
医より、まずは一駅の区間が短い小田原線
の普通列車にラッシュの時間をさけて家族と
乗るよう指示をうけました。はじめは心配はあ
りましたが、なんとか無事乗車できました。
くりかえし乗車しても発作はおきず、Aさんに
家族がいなくても大丈夫かなという感覚がで
てきました。医師と相談したところ、一人でや
はりラッシュをさけた小田原線の普通列車に
乗ってみることを指示されました。はじめは不
安でしたが、一人で乗っても大丈夫でした。繰
り返しおこなっても発作はおきず、続いての指
示でラッシュの時間に小田原線の普通列車
に乗りましたが問題ありませんでした。
ここまでくると、小田原線の快速列車に乗って
も大丈夫かなという感覚がでてきました。実
際に乗ってみても発作はおきず、繰り返し乗
車しても発作はおきませんでした。段々と電
車に乗ることへの不安も軽くなり、会社へも電
車で通勤できるようになりました。パキシル
40mgでの内服を3年間続けた後、徐々に減
量し薬剤はなくなりましたがその後発作はお
きずにすごせています。
心理士によるカウンセリングをおすすめする
こともあります。
大船では、「集団認知行動療法」と「リラク
セーション」もおこなっています。
「社交不安障害」は、「注目を浴びるのではな
いか」という場面で強い緊張がでて苦痛を感
じたり、そういった場面を避けるようになって
活動が障害された状態です。
会議で発表をする、権威ある人と話す、グ
ループ活動に参加する、人前で食事をするな
どの場面で症状が出現します。
不安とともに、赤面、動悸、発汗、口渇、息苦
しさ、めまいなどがおこります。
社交不安障害は、治療による改善が期待さ
れます。
→性格とみなすのではなく、疾患としてとらえる
ことが重要です。
治療は、抗うつ剤を中心とした薬剤の使用、
暴露療法など精神療法をおこなっていきます。
治療はパニック障害と共通するところが多い
です。
全般性不安障害は、「日常の出来事や問題
に関して、過剰な不安が持続する状態」です。
不安だけでなく、頭痛、耳鳴り、めまい、口渇、
肩こり、動悸、胸痛、息苦しさ、腹部不快感、
排尿困難感、頻尿など、さまざまな身体症状
を伴います。
治療は、「薬剤」と「精神療法」をおこなってい
きます。
薬剤は「抗不安薬(安定剤)」をまず使用し、
「抗うつ薬」や「抗精神病薬」も使用していきま
す。
「特定の恐怖症」は、特定の対象や状況で不
安症状が生じ、症状や回避のために苦痛を
感じている状態です。
昆虫や犬などの生物
嵐や地震など自然の脅威
エレベーターやトンネルなど閉所
ビルなどの高所
流血、注射、外傷
など、さまざまな対象や状況が対象になります。
恐怖の対象がなんであれ、苦痛を感じていれ
ば治療の対象になりえます。
治療はときに抗不安薬など薬剤を用います
が、暴露療法など精神療法が中心です。
例:犬への恐怖症をもつ患者さんへ、犬の写
真→犬の動画→犬のぬいぐるみ→実際の犬
と順々に犬と接するようにします。
「強迫性障害」は、本人の意思と無関係に頭
に思い浮かぶ一定の考え(強迫観念)や、そ
れをやわらげようとする行動(強迫行為)に
よって、苦痛を感じたり生活に支障がでたり
する障害です。
汚れていないか気になって何度も手を洗う、
鍵をかけたか気になって何度も確認する、他
人に危害を与えるのではないかと恐れる、特
定の数字を恐れて避ける、など様々なことへ
のこだわりが生じます。
不合理だと理解していても、どうしても強迫観
念や強迫行為が繰り返しおこります。
家族を確認に巻き込む場合もあります。
治療は、薬剤と精神療法によりおこないます。
薬剤は抗うつ薬が中心です。
精神療法は暴露反応妨害法などをおこない
ます。
「うつ状態」を呈する疾患として、統合失調症
もあります。
→見逃さないよう注意が必要です。
以下のような症状がある際は、早めに医師へ
伝えましょう。
・誰もいないところで声が聞こえているようだ。
・人の視線を気にする場面がふえてきた。
・根拠なく、噂をされていると話す。
・見張られている、狙われているなど被害的な
ことを話す。
・考えが他の人にもれる、他の人の考えが頭に
はいってくるなどと話す。
「何か奇妙だな」「今までにない症状だな」と
感じることは、医師に伝えてください。
統合失調症では、うつ病や不安障害とは異な
り、治療は抗精神病薬が中心となります。
ご家族の接し方について
→「言葉」 だけでなく、「態度」も重要です。
→「患者さん本人が楽になる言葉がけ」をめ
ざしましょう。
→「心の病気だから特別に難しい」と考えるよ
り、「自分が弱っていたらどうされたいか」考え
ることをすすめます。
良くない接し方の例
・「根性が足りない」×
・「薬を飲んでいるからなおらない」×
・「病気に逃げていればいいから楽だね」×
・「あなたのせいで人生がむちゃくちゃだ」×
・「こんな子に育てた覚えはない」×
・「生き方が悪いからこうなった」×
良い接し方として、
・受容的に接するようにする。
・患者さんが安心できる声がけと態度で接する
のがいいでしょう。
例:「大変だけど、だんだんよくなっていくよ」「必
ず、いまの不安はおさまるから大丈夫」「なん
か、できることないかな」「(黙って寄り添う)」
ご家族側が疲弊してしまっては、患者さんに
いい協力できません
→自分のための時間も、もっていきましょう。
→ゆとりがあるほうがいい協力ができます。
→持続できる範囲で、がんばっていきましょう。
ご清聴ありがとうございました。