高齢者歯科 学 - 北海道医療大学

平成16年5月18日1講目
歯学部 5年生用
高齢者歯科学
高齢者と全身疾患
内科学講座
中林 透
今日の主題
・高齢者に多くみられる慢性疾患
・嚥下障害/誤嚥
・高齢者の肺炎/誤嚥性肺炎/肺膿瘍
・胃・食道逆流症/歯の酸蝕症
・骨粗鬆症/骨折
・歯科治療における感染性心内膜炎の予防
・高齢者高血圧
高齢者の
疾病の特徴
高齢者/老年期の分類と高齢者の疾病の特徴
老年期の区分
(1) 65〜74歳:前期高齢者 young-old
(2) 75〜84歳:後期高齢者 old-old
(3) 85歳 以上:超高齢者 extremely old / super old
病態・症候・治療反応性
多臓器罹患
疾病構造・
疾患の病態が
異なる
予
個人差が大
高齢者
非定型的症状
治療・薬剤に
対する反応性
が異なる
後
不完全治癒
慢性化
寝たきり状態
予後が社会環境に
左右されやすい
慢性化・寝たきり状態となると?
慢性化・寝たきり状態と
なると?
関節の拘縮
尿便失禁
慢性化
寝たきり状態
痴
高齢者の薬物投与の原則
Small
Simple
3S
Short
呆
褥
瘡
高齢者では薬物の副作用発現
頻度が高い
small(少量)から開始する.
simple(単純)な処方とし, 多剤
併用を避ける.
無効な場合は, short(短期間)で
中止し, 他の薬剤に換える.
高齢者に特有な症候
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
意識障害・失神
不眠
手足のしびれ
尿失禁
転倒
めまい
腰背痛
嚥下障害/誤嚥
9. 便秘
10. 脱水
11. 譫妄(せん妄)
12. 褥創
アンダーラインについては、この講義でこれから触れる
高齢者の主要な慢性疾患
疾患部位
疾
患
神経精神疾患 脳血管障害, 痴呆, Parkinson 病,うつ病, 不眠
循環器疾患
高血圧, 虚血性心疾患, 動脈硬化症, 弁膜疾患
心不全, 不整脈
呼吸器疾患
慢性気管支炎, 肺気腫, 肺炎, 肺癌,
肺結核, 肺線維症
消化器疾患
胃食道逆流症, 胃癌,胃潰瘍, 大腸癌,
大腸憩室症, 胆石症, 肝硬変
泌尿器疾患
前立腺肥大症, 神経性膀胱, 尿路感染症,
前立腺癌
内分泌代謝
甲状腺機能低下症, 糖尿病,
疾患
高尿酸血症, 高脂血症
血液疾患
貧血, 骨髄異形成症候群, 悪性リンパ腫, 骨髄腫,
DIC
骨筋肉疾患
骨粗鬆症, 変形性関節症, 関節リウマチ
その他
白内障, 難聴, 歯の喪失, 老人性掻痒症
高齢者に好発する慢性疾患 まとめ
高齢者に多くみられる慢性疾患として誤っているのは
どれか.
好発年齢
1. 骨粗鬆症
2. Parkinson 病
3. 甲状腺機能亢進症
20 〜40歳の若年者(男<女)
4. 関節リウマチ
5. 胃食道逆流症
6. 全身性エリテマトーデス
20〜40歳代の若年者(男<女)
7. 脳血管障害
8. クローン病
10歳代〜20歳代の若年者
嚥下障害
誤嚥
摂食行為と嚥下運動
嚥下とは:食物が口腔から胃に入るまでの輸送運動
摂
食
行
為
嚥
下
運
動
認知期 (先行期)
食物が口に入る前の時期
これから摂食しようとする食物を認知し,
何をどのくらい食べるかを決定し,口元
まで運ぶ段階
咀嚼期 (準備期)
食物を口の中に入れて(捕食)から嚥下
運動が行われるまでの時期
口腔内で噛み砕き,飲み込みやすい食物
の塊(食塊)を形成する時期
口腔期
(嚥下第1期)
随意運動
食塊の保持と舌による送り込み,食塊を
口腔から咽頭へ送り込む段階
咽頭期
(嚥下第2期)
不随意運動,反射運動
食塊を咽頭から食道へ送り込む段階
食道期
(嚥下第3期)
不随意運動,蠕動運動
食塊を食道から胃へ送り込む段階
嚥下の各期
口腔期
鼻
交叉している.
(誤嚥の原因)
咽頭期
舌
食道期
嚥下時には喉頭蓋が
降りて,気管にフタを
する.
頸
甲状腺
気
管
食
道
椎
嚥下障害と誤嚥
嚥下障害と誤嚥は必ずしも同義ではない!!
● 嚥下障害
・うまく飲み込みができないこと
・口腔から胃までの食物の移送の障害
● 誤嚥
水分, 食物など外来性のものや,口腔〜咽頭分泌物,胃液
などの内因性のものが下気道に侵入すること.
● 誤嚥の分類
1) 急速かつ大量の胃内容物の誤嚥
①食事中の誤嚥
②嘔吐後の誤嚥
2) 不顕性誤嚥
誤嚥性肺炎の項で
再度触れる
嚥下障害の機序
高齢者の肺炎
誤嚥性肺炎
肺化膿症
高齢者の肺炎
● 高齢者では若年者に比べ呼吸器疾患の頻度が高く,死因と
して臨床的意義が高いのは肺炎である.
● 肺炎は日本における死亡原因の第4位で, 65歳以上の
高齢者が9割以上を占める.
● 肺炎とインフルエンザで死亡する割合は,一般人口10万人
あたり32人であるが,介護施設入居者では罹患者の30%
が死亡するとされる.
● 高齢者の肺炎は典型的な臨床像を示さないことが多く,
意識障害や転倒など非特異的な症状が前面に出ることが
多い.
● 不顕性誤嚥に基づく誤嚥性肺炎の発症率が高い.
高齢者の肺炎の臨床像
● 高齢者と若年者における肺炎の臨床像の違い
臨床像
意識障害
重症敗血症
転倒
頻呼吸, 頻脈
正常白血球数
失禁
発熱
咳, 咳嗽
典型的X線像
高齢者
若年者
3+
2+
3+
2+
+
2+
+
+
+
+/ ー
+
ー
ー
ー
ー
3+
3+
3+
誤嚥性肺炎 aspiration pneumonia
● 高齢者肺炎発症の最も重要な原因のひとつ.
● 不顕性誤嚥が発症に重要で, 口腔, 咽頭時に胃液内の菌が
関与し,口腔内の好気性菌や嫌気性菌が主たる原因菌で
ある.
● 誤嚥の定義(再掲)
水分, 食物など外来性のものや, 口腔〜咽頭分泌物,胃液
などの内因性のものが下気道に侵入すること.
● 不顕性誤嚥
・高齢者肺炎の最大のリスクファクター
・口腔〜咽頭分泌物, 胃液などを知らないうちに繰り返し
て気道内に吸引しているもの.夜間に多い.
・脳血管障害に関連する嚥下機能障害を基盤とする.
・基底核領域の脳梗塞患者では不顕性誤嚥を高率に
起こす(→次のスライド).
基底核脳梗塞と不顕性誤嚥
嚥下反射
咳反射
基底核
ドパミン
不顕性誤嚥
サブスタンスP
基底核の障害
(脳梗塞・Parkinson病)
ドパミン代謝障害
舌咽神経知覚枝
迷走神経知覚枝
サブスタンスP
産生量の減少
嚥下反射の障害
咳反射の障害
不
顕
性
誤
嚥
睡眠と不顕性誤嚥
基底核梗塞患者の睡眠と不顕性誤嚥との関係
1)夜間睡眠中の不顕性誤嚥
片側性基底核梗塞患者
両側性基底核梗塞患者
→70%
→95%
2)日中と夜間睡眠中の嚥下反射と咳反射
日中睡眠中の
嚥下反射
夜間睡眠中の
嚥下反射
夜間睡眠中の
咳反射
健常高齢者
正常
正常
正常
脳梗塞患者
障害
著明な障害
減弱
慢性期脳梗塞患者,特に基底核梗塞患者では夜間睡眠中に
不顕性誤嚥を生じやすい.
誤嚥性肺炎 aspiration pneumonia
● 誤嚥性肺炎は65歳以上の高齢者に生じる肺炎の約1/3
を占める.
● 市中肺炎を起こした老人のほとんどに不顕性誤嚥が認め
られる.
● 発症患者が老人施設や病院にいる 場合 には,グラム陰性
桿菌や,MRSAなど院内肺炎の原因菌が関与する.
黄色ブドウ球菌, 肺炎球菌, 緑膿菌, 腸内グラム陰性桿菌
● 歯の状態は飲み込みに重要で, 歯が悪い, 義歯が合わない
ことにより, 飲み込みが悪くなり, 誤嚥がおこる.
● 歯の治療中, 治療後に肺膿瘍の発生が多い
● 3日寝たきりになると口腔内にはグラム陰性桿菌が
有意に増加する. →口腔ケアが重要
誤嚥を起こしやすい病態
● 神経疾患
脳血管性障害(急性期,慢性期)
中枢性変性疾患,Parkinson 病
痴呆症(脳血管性, アルツハイマー型)
● 寝たきり状態(原因疾患を問わず)
● 口腔の異常
歯のかみ合わせ障害(義歯不適合を含む)
口内乾燥,口腔内悪性腫瘍
● 胃食道疾患
食道憩室,食道蠕動異常 (アカラシア,
強皮症),悪性腫瘍,
胃食道逆流症(食道裂孔ヘルニアなど
ー後述),胃切除(全摘,亜全摘)
● 医原性
鎮静薬・睡眠薬,抗コリン薬など口内
乾燥をきたす薬剤,経管栄養
肺膿瘍(肺化膿症)
概念:肺胞性肺炎の化膿性炎症部が膿瘍を形成し,壊死に
陥った状態のもの.
気管支と交通→空洞形成・空洞内に滲出部が貯留
黄色ブドウ球菌や嫌気性菌による肺炎にみられやすい
基礎疾患を有する患者に
脳血管障害,意識障害,
糖尿病,食道疾患,
アルコール中毒
齲歯や歯周病の部位に
存在する口腔内常在菌の
誤
嚥
により
肺膿瘍
を発症
口腔ケアが
発症予防に
重要
診断のポイント
・悪臭のある膿性痰
・胸部X線で浸潤影の中に
ニボー(鏡面形成)を伴っ
た空洞 (透亮像)
治療
早期に嫌気性菌に抗菌力
のある抗生剤の十分量を
2剤投与.
高齢者肺炎のまとめ
以下の記載について正誤を明らかにしなさい.
1. 嚥下反射や咳反射は加齢により低下する.
2. むせなければ誤嚥はないと考えて良い.
3. 高齢者肺炎の発症には,不顕性誤嚥が重要である.
4. 不顕性誤嚥には脳血管障害によるサブスタンスPの産生
低下が関与する.
5. 高齢者肺炎では意識障害や転倒が主症状であることが多い.
6. 高齢者肺炎では若年者と比べて高熱を呈することが多い.
7. 高齢者肺炎の予防に,口腔ケアは無効である.
8. 肺膿瘍の発症に口腔内の嫌気性菌が関与している.
9. 歯の治療中, 治療後に肺膿瘍の発生が多い
胃食道逆流症
歯の酸蝕症
胃食道逆流症(GERD)
Gastroesophageal reflux disease:GERD(ガード)
・胃酸を中心とする胃内容物の食道内逆流による症状ないし
下部食道粘膜障害を包括した疾患概念
・加齢に伴い,有病率が増加.40歳以降で顕著.
・発症機序
GERDの発症要因として最も重要なのは胃食道逆流 (GER)
胃食道接合部では下部食道括約筋圧 (LES) の低下や特に
一過性LES弛緩がGERが重要.
<一過性LES弛緩>
げっぷを出す機構として生理的に備わった現象.嚥下と
関係なく,胃の拡張に引き続きLESが30秒以上弛緩・解放と
なる一過性の現象.この一過性LES弛緩の間に,GERが起こり
食道粘膜への刺激や損傷を生じ,GERDが発症する.
GERDの臨床症状
分類 定型的症状(食道症状)と非定型的症状(食道外症状)
定型的症状
1.胸やけ(heart burn)GERDの約4割にみられる
2.呑酸(どんさん)(water brash)
胃内容物の逆流が上部食道から口腔まで及ぶことにより,
酸味ないし苦味を伴い唾液の分泌が刺激される症状。
3.吐逆(regurgitation)
吐逆は胃からの未消化の逆流物が吐き気を伴うことなく食
道,咽頭あるいは口腔に至り,ときには口からの排出を認め
ることで,げっぷ,前屈位など腹腔内圧の上昇をきたす操作
により無意識に生じる.食直後や胃食道逆流症においてみら
れる症状。
4.嚥下困難
5.嚥下痛
GERDの非定型的症状とGERDを起こしやすい病態
GERDの非定型的症状
1. 消化器症状
鼓腸,げっぷなど
2. 循環器症状
胸痛など
3. 耳鼻咽喉症状
咽喉頭異常感,
嗄声など
4. 呼吸器症状
喘鳴,慢性咳嗽など
5. 歯科・口腔症状
GERDを起こしやすい病態
1.食道裂孔ヘルニア
2. H.pyloriの非感染および除菌後
3. 萎縮の少ない粘膜
4. 加齢
5. 肥満
6. 呼吸器疾患
気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患
嚥下性肺炎
7. 胃排出能の低下・幽門狭窄
8. 噴門切除後
9. 薬剤投与
Ca拮抗薬、テオフィリン
非ステロイド系抗炎症薬
食道裂孔ヘルニア
・横隔膜の食道裂孔を通して胃の一部が胸腔内に入り込む
もので,下部食道括約筋圧が低下し,胃液の逆流が起こる.
・逆流性食道炎例における食道裂孔ヘルニアの合併率
49歳以下 14.3%
50〜69歳 38.5%
70歳以上 83.3%
・高齢になるほど食道裂孔ヘルニアの合併率が高い
食道
食道・胃粘膜
境界
ヘルニア嚢
胃
横隔膜
滑脱型
傍食道型
混合型
GERDの歯科・口腔症状
1.歯の酸蝕
2.歯の齲蝕
3.口臭
4.毛舌症
5.舌の過敏症状(酸味や灼熱感など)
<歯の酸蝕症>
口腔内に逆流した胃酸により,口腔内pHが慢性的に酸性
に傾くことにより生じる.胃内容物の逆流は反射的な唾液
分泌を促し(呑酸ーどんさん),食道や口腔内の胃酸の除
去に重要な役割を果たしているが,高齢者では唾液の分泌
量や重炭酸塩含量が低下してくるため,症状の進行は早く,
より重度になりがちである.
歯の酸蝕(Erosion)
唇頬側に発生:飲食物に由来
口蓋側に発生:胃液の嘔吐,逆流に由来
Active Erosion
: 滑らかで着色がない,冷水痛な
Inactive Erosion : 着色あり
31歳女性,
慢性的な逆流
5年間,3-4回/週の嘔吐
胃・食道逆流症のまとめ
胃・食道逆流症について正しいのはどれか.
1.胃食道逆流症は加齢に伴い,有病率が増加する.
2.胃食道逆流症の定型的症状として吐逆があり,約5割の
患者にみられる.
3.胃食道逆流症の非定型的症状として喘鳴や慢性咳嗽など
の呼吸器症状がみられる.
4.降圧薬のCa拮抗薬により胃食道逆流症を呈することが
ある.
5.胃食道逆流症は誤嚥を起こしやすい.
6.胃食道逆流症による歯の酸蝕は唇頬側に発生する.
7.口臭や舌の過敏症状が胃食道逆流症による場合がある.
骨粗鬆症
骨粗鬆症
骨粗鬆症とは?
骨粗鬆症とは,骨量(骨密度)が減少し,骨がスカスカに
なって弱くなる疾患で,容易に骨折を起こす.
背骨(椎体)の骨折は腰背痛や背骨の変形の原因に,さら
に大腿骨頚部骨折は寝たきりの原因となる.
正常の椎体
背
骨
︵
椎
体
︶
の
比
較
年齢による骨量の変化
最大骨量
骨
骨粗鬆症の椎体
男性
量
女性
閉
経
10
20
30
40 50
年 齢
60
70
80
骨粗鬆症の定義と分類
● 定義 (原発性骨粗鬆症診断基準, 1996 日本骨代謝学会)
「骨量が減少し, かつ骨組織の微細構造が変化し, そのため骨が脆く
なり骨折しやすくなった病態」
破骨細胞
● 分類
① 原発性(退行期)骨粗鬆症
② 続発性(二次性)骨粗鬆症
● 骨の再構築
(リモデリング)
骨吸収と骨形成
骨吸収←破骨細胞
骨形成←骨芽細胞
骨芽細胞
骨
骨吸収
骨吸収
骨形成
骨形成
骨吸収
骨形成
=
>
正常
骨量が減少し,骨粗鬆症に
なりやすい状態
骨粗鬆症の危険因子 ー ライフスタイルなど
遺伝的・身体的因子
ライフスタイル・環境因子
◎女 性
◎加 齢
◎や せ
○ 家族歴
◎ 両側卵巣摘出
◎ 閉経年齢早
○ 初経年齢遅
△ 多産,授乳期間
○ 食事からの低カルシウム摂取状態
△ 食事からのビタミンD,K
◎ 寝たきり,長期臥床
○ 日常生活活動少
○ 喫煙(多)
○ 多量飲酒
○ 多量カフェイン摂取
◎ 強い関係が認められている,あるいはほとんどの調査で認め
られている
○ 中等度の関係がある,あるいは多くの調査で認められている
△ 弱い関係がある,あるいは必ずしも一致した結果が得られて
いない
骨粗鬆症の危険因子 ー 既往疾患・薬剤など
既往疾患
糖尿病
関節リウマチ
Cushing 症候群
(内因性副腎皮質ステロイドホルモンの過剰)
参考:Addison 病
副腎皮質より分泌されるステロイドホルモンの
全般的減少による欠乏症
薬剤
副腎皮質ステロイド剤(コルチコステロイド)
抗てんかん剤など
骨粗鬆症の主な症状
椎体圧迫骨折
腰痛,背痛
背骨の変形
(腰や背中が曲がる)
身長の短縮
大腿骨頸部骨折
橈骨遠位端骨折
骨粗鬆症の臨床症状と診断
● 臨床症状
腰背部痛が最も多い
脊椎圧迫骨折による急性症状
陳旧性の脊椎圧迫骨折や, 脊椎変形による慢性症状
<骨折しやすいのが特徴> 誘因としては転倒が多い.
① 腰椎圧迫骨折(第12胸椎,第1腰椎,第2腰椎に多い)
② 橈骨遠位端骨折
③ 大腿骨頸部骨折
骨盤骨折:交通外傷
④ 上腕骨頸部骨折
鎖骨骨折:スポーツ外傷
● 診断
・血清Ca, P, ALPは正常
・脊椎X線像での骨粗鬆症化の評価
・骨量の測定
・骨代謝マーカー
・骨量検診・骨ドックなどが現在行われている
高齢者に起こりやすい骨折
脊椎圧迫骨折
上腕骨頸部骨折
橈骨遠位端骨折
大腿骨頸部骨折
高齢者骨折の原因
転
倒
と
関
連
の
深
い
疾
患
・
薬
剤
1)骨粗鬆症(骨がもろい)
2)転倒しやすいこと
疾 患
神経疾患
パーキンソン病
小脳疾患
麻痺をきたす疾患 (脳血管障害など)
筋力低下をきたす疾患
視力障害
内耳障害
起立性低血圧
貧血
不整脈
変形性関節症などの骨/運動器疾患
廃用症候群
アルコール中毒 (急性・慢性)
薬 剤
向精神剤
抗不安薬
睡眠剤
降圧剤
血糖降下剤
筋弛緩剤
ほか
骨粗鬆症の診断法と骨代謝マーカー
DXA法
2種類のX線で身体
様々な部位の骨量を
正確に測定できる.
MD法
手の骨のレントゲ
ン写真の濃度から
骨量を測定する.
QUS法
超音波を用いた測定法
で,スクリーニング法
に使われる.
<骨代謝マーカー>
● 骨のリモデリングの際に,破骨細胞が壊した骨から出てくる物質
(骨吸収マーカー)や骨芽細胞が骨を作る際に 産生する物質
(骨形成マーカー)がある.
● 骨代謝マーカーを調べることで病型の分類,治療効果の判定などが
可能.
骨粗鬆症の診断基準 (2000年度改訂版)
日本骨代謝学会
低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず,骨評価の結果が
下記の条件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診断する.
I. 脆弱性骨折注1
II. 脆弱性骨折なし
骨密度値注2
正 常
YAMの80%以上
骨量減少 YAMの70%以上〜80%未満
骨粗鬆症 YAMの70%未満
脊椎X線像での骨粗鬆症化注3
な し
疑いあり
あ り
YAM: 若年成人平均値(20〜44歳)
注1: 脆弱性骨折: 低骨量(骨密度がYAMの80%未満,あるいは脊椎X線像で骨粗鬆症化があ
る場合)が原因で,軽微な外力によって発生した非外傷性骨折,骨折部位は脊椎,大腿
骨頸部,橈骨遠位端,その他.
注2: 骨密度は原則として腰椎骨密度とする.ただし,高齢者において,脊椎変形などのため
に腰椎骨密度の測定が適当でないと判断される場合には大腿骨頸部骨密度とする.これ
らの測定が困難な場合は橈骨,第二中手骨,踵骨の骨密度を用いる.
注3: 脊椎X線像での骨粗鬆症化の評価は,従来の骨萎縮度判定基準を参考にして行う.
脊椎X線像での骨粗鬆症化
な し
疑いあり
あ り
従来の骨萎縮度判定基準
骨萎縮なし
骨萎縮度 I 度
骨萎縮度 II 度以上
脊椎X線像での骨粗鬆症化の評価
脊椎X線像での骨粗鬆化(2000年度改訂版)
な
し
骨萎縮なし
疑いあり
縦の骨梁が
目立つ
骨萎縮度 I 度
あ
縦の骨梁が
粗となる
骨萎縮度 II 度
り
縦の骨梁が
不明瞭となる
骨萎縮度 III 度
従来の骨萎縮度判定基準(1996年度改訂版)
骨粗鬆症の治療
1. カルシウム剤
2. ビタミンD
3. カルシトニン
骨折時の鎮痛作用も有する
4. 女性ホルモン補充療法
閉経後骨粗鬆症では原因療法
子宮を有する婦人に対してはエストロゲンと
プロゲステロンを併用
(エストロゲン単独で子宮体癌発生リスク↑)
5. イプリフラボン(エストロゲン類似物質)
6. ビタミンK Gla化骨基質蛋白のGla化に必要→骨密度増加
7. ビスフォスフォネート
骨のハイドロキシアパタイトに親和性を持つ
破骨細胞の骨吸収を強く抑制→骨量の増加
骨粗鬆症と歯周病
稲垣幸司 他:骨粗鬆症患者の歯周病罹患状況.日歯周雑誌 39:220225, 1996.
骨粗鬆症患者は対照群に比べ,歯肉出血率が高く,
歯周病が進行傾向にある.
藤城治義 他:歯周病を主訴とした閉経後成人女性の骨粗鬆症所見と
歯周病の関係.日歯周雑誌 39:226-233, 1997.
閉経後女性歯周病患者の骨粗鬆症所見を比較し,腰椎
骨萎縮が進行しているほど歯槽骨吸収が高度で,歯肉
出血率が高く,歯周病活動度が高い.
佐藤連造 他:閉経後女性の歯周病所見と骨密度.Osteoporosis Jpn 11:
333-338, 2003.
閉経後女性で腰椎骨密度の低下者では,歯周病が進行し,
将来歯を喪失する可能性が高い.
全身性骨粗鬆症と顎骨骨粗鬆症
新田 浩 他:閉経後女性の有歯顎者と無歯顎者における腰椎骨密度と下
顎骨骨密度について.Clinical Calcium 13(5) :594-598, 2003.
閉経後女性の有歯顎者と無歯顎者を対象とした検討
1.腰椎骨密度は無歯顎者群に比べて有歯顎者群が有意に
高い.→歯の存在が全身骨の骨密度の維持に貢献.
2.下顎骨皮質骨領域の骨密度は,有歯顎者群で有意に
高い.有歯顎者の咬合力は無歯顎者の約6倍.
3.腰椎骨密度と下顎骨皮質骨領域の骨密度との相関は,
無歯顎者群のみに認められ,有歯顎者群では相関は
なかった.
広島大学歯学部歯科放射線学教室
田口
明ら
歯科用パノラマX線写真撮影による下顎骨皮質骨の厚径は
腰椎骨密度との相関性も高く、骨粗鬆症のスクリーニン
グとして有用である.
歯周病と骨粗鬆症の相互関係
歯周病
顎骨骨粗鬆症
歯の喪失
咀嚼筋力の低下
全身骨粗鬆症
歯周病は歯槽骨骨粗鬆症の原因となり,歯槽骨骨粗鬆症は
咀嚼筋力の低下をきたす.これが顎骨の骨粗鬆症を促進さ
せる.咀嚼力の低下によって,カルシウムの豊富な食品の
消化・吸収に影響を生じ,骨粗鬆症が促進される.
骨粗鬆症患者の歯科治療
●歯科処置時の一般的な注意
(1) 軽微な外力で骨折を起こすので,骨粗鬆症患者を
診療チェアへ誘導する際には注意深く介助し,
転倒,周囲の医療機器にぶつからないようにする.
(2) 胸椎,腰椎が骨折により変形している患者には,
枕,毛布などで処置に耐え得る体位を工夫する
必要がある.
(3) 長時間の処置を避ける.
骨粗鬆症患者の歯科治療
●抜歯などの外科的処置時の注意
一般的な注意に加えて,
(1)できるだけ楽に受け入れられる体位とする.
(2)術前にX線写真を十分に観察し,歯根の弯曲,肥大,
高齢者によく見られる骨性癒着の有無を確認する.
難抜歯が予測される場合には,大学病院などへ紹介
した方がよい.
(3)ドライソケットになり易いので,血管収縮剤は避け
た方がよいが,使用する場合には可及的少量とする.
(4)甲状腺機能亢進症,糖尿病を原因疾患にもつ骨粗鬆症
患者には,エピネフリン添加の局所麻酔剤を避け,
フェリプレシン添加のものを使用する.
(5)骨除去が必要な場合には,可及的骨ノミを使用せず,
エアータービンを用いて必要最小限にする.
骨粗鬆症患者の歯科治療
(6)骨ノミをやむを得ず使用する際には,方向に注意し,
楔を打ち込むような使用を避け,下顎骨の場合には
健側にバイトブロックを挿入するか,介助者が顎骨を
しっかりと支える.
(7)粘膜上皮も薄くなり,結合織はコラーゲン変性し,
バリアが薄くなっているので,術後感染,創傷治癒
遅延に十分配慮し,抜歯窩を縫合することが望ましい.
(8)抜歯後には,歯槽骨骨折の骨片を見逃ないように,
十分に掻爬,洗浄し,骨片を除去する.
(9)抗菌薬は可及的投与することが望ましいが,高齢者で
は必要最小限にし,骨移行に優れるマクロライド系を
用いる.
(10)鎮痛剤は,腰背痛のため投与されていることがある
ので重複投与を避ける.
骨粗鬆症のまとめ(1)
骨粗鬆症について誤っているのはどれか.
a 骨粗鬆症は男性に多い.
b 骨粗鬆症の症状として腰背部痛が最も多い.
c 大腿骨頚部骨折は寝たきりの原因となる.
d 副腎皮質ステロイド薬を服用している患者は
骨粗鬆症になりやすい.
e 骨粗鬆症に伴う腰椎圧迫骨折は第4腰椎に多い.
f 閉経年齢が早いのは骨粗鬆症のリスクファクター
である.
g Addison 病の症状として骨粗鬆症がみられる.
h 骨粗鬆症患者は対照群に比べ,歯肉出血率が高く,
歯周病が進行傾向にある.
i 有歯顎者では腰椎骨密度と下顎骨皮質骨領域の骨密度
が相関する.
骨粗鬆症のまとめ(2)
高齢者に起こりやすい骨折として正しいのはどれか.
a 脊椎圧迫骨折
b 大腿骨頸部骨折
c 橈骨遠位端骨折
d 鎖骨骨折
e 上腕骨頸部骨折
f 骨盤骨折
感染性
心内膜炎
感染性心内膜炎 Infective endocarditis: IE
・微生物 (多くは細菌)が心臓の心内膜 (一層の内皮細胞より
なる) に感染し病巣を作った状態.
・健全な心内膜への微生物の侵入は理論的には起こらない.
・IEの55〜75%に弁膜症や先天性心疾患などの明らかな
基礎心疾患が存在.
・臨床症状
● 感染症状:持続性の発熱,全身倦怠感,食欲不振,
体重減少,悪寒戦慄,肝脾腫など.
● 心症状:心悸亢進,心雑音,不整脈,心拡大.
● 心合併症
● 心臓外合併症
・自然治癒がほとんど期待できない.
・死亡率が高く, 治療が適切でなければ致死的.
感染性心内膜炎の心合併症
予後に最も影響を与える因子
死亡率
心不全
心
合
併
症
心不全合併なし
6〜11
%
心不全合併あり 17〜34 %
内科的治療のみでは予後不良で
外科手術を要す
弁輪膿瘍
・心不全をきたしやすい.
・死亡率が高く, 外科手術が
必要となることが多い.
心筋梗塞
・大動脈弁に付着した疣贅が,
冠動脈に塞栓を生じ心筋梗塞
を起こすことがある.
感染性心内膜炎の臨床経過による分類
感染性心内膜炎
急性心内膜炎
亜急性心内膜炎
・主起因菌:
・主起因菌:
黄色ブドウ球菌 (毒性が強い)
緑色連鎖球菌(viridans
・傷害のない弁に炎症 (弁膜炎)
group), 腸球菌,
を引き起こす.
コアグラーゼ陰性ブドウ
・発熱など症状が明らかで,
球菌など弱毒菌
通常発症1週間以内に診断が
・あらかじめ障害された弁
可能.
または心内膜が侵される
・日単位で進行し, 早期死亡率が
ことが多い.
高い.
・2〜3か月という慢性経過
をとる.
・歯科処置との関連が深い.
亜急性心内膜炎
基礎病態:以前はリウマチ性弁膜疾患(減少)
先天性心疾患, 硬化性大動脈弁狭窄症等
経過・予後:
・処置後約2週間〜1カ月後に発熱, 全身倦怠, 食欲不振,
体重減少などが出現する.
・時間が経っていて歯科処置との関連に気付かない.
・緑色連鎖球菌性心内膜炎では, 治癒しなければ通常
6カ月以内に死亡する.
Viridans group (口腔連鎖球菌) の特性
1. デキストランを産生し, 血小板・フィブリン塊への
付着能が高い.
2. 血小板凝集関連蛋白を産生する.
感染性心内膜炎の発症率
危険因子
感染性心内膜炎の既往
人工弁
HIV感染者
血液透析
経静脈薬物乱用
85歳以上
75歳以上
全年齢
頻度 (10万人・年)
4,000
400
200
150
100
35
24
6
心疾患以外に心内膜炎を惹起しやすいと,
考えられている疾患・病態
・ 経静脈薬物乱用
・ 糖尿病
・ 肝硬変
・ 腎疾患
・ 悪性腫瘍合併例
・ ステロイド投与例
感染性心内膜炎(IE)予防に対する
AHAガイドライン
Dajani AS, et al.: Prevention of bacterial endocarditis.
Recommendations by the American Heart Disease Association.
JAMA 277: 1794-1801, 1997.
1. IEの症例の多くでは, 発症と侵襲的検査・治療手技との
関連が必ずしも明らかではないことを強調.
(医療訴訟に対抗するための具体的指針)
2. 一過性菌血症を起こしうる検査・治療手技とそれらに
対する予防法を具体的に示した.
3. 僧帽弁逸脱に対して, 予防投与の必要なものと必要でない
ものを区別する手順を具体的に示した.
4. 歯科処置に対する予防では, 処置前60分前
アモキシシリン2g一回投与で十分とした(体重70kg).
感染性心内膜炎の予防
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン
Guidelines for the Prevention an Treatment of Infective
endocarditis(JCS 2003)
Circulation Journal Vol 67 Supple IV, 1039-1082, 2003.
歯科治療が感染性心内膜炎の原因となる
わが国における感染性心内膜炎の予防と治療に
関するガイドライン(JCS 2003)
日本循環器学会が作成.そのポイントは
1)ハイリスク例に対する適切な予防措置
2)的確な診断
3)有効な抗菌薬の選択
4)合併症の早期発見,
5)時宜を得た外科的治療
の5点について示したこと.
歯科医師
の果たす
役割が
大きい
日本における感染性心内膜炎の現状
Nakatani S, et al.; Committee on Guideline for Prevention and Management
of Infective Endocarditis, Japanese Circulation Society. Current
characteristics of infective endocarditis in Japan: an analysis of 848 cases
in 2000 and 2001. Circ J. 67: 585-91, 2003.
日本循環器学会が,日本における感染性心内膜炎の予防,
診断と治療のガイドラインを作成するために,2000年およ
び2001年に全国の817施設に質問票を配布し,アンケート
調査を行った.
277施設より848症例についての回答が寄せられた.
罹患年齢
平均年齢55歳 ±18歳.50歳代あるいは60歳代に多く発症
原因
原因不明が約54%と最多,次いで歯科処置が18%と多い.
感染性心内膜炎の原因菌と処置との関連
150
緑色連鎖球菌
黄色ブドウ球菌
100
患者数
50
0
処置・誘因
歯
科
処
置
後
テ血
ル管
処カ
置テ
後ー
処泌
置尿
後器
科
的
処婦
置人
後科
的
処消
置化
後器
科
的
薬
物
誘
因
不
明
そ
の
他
・緑色連鎖球菌が原因菌として最も多いのは誘因不明で,次に
歯科処置後が35.7%と多かった.
・黄色ブドウ球菌が原因菌として最も多いのは誘因不明で,
次に血管カテーテル処置後が17.9%と多かった.
わが国における感染性心内膜炎の予防と治療
に関するガイドライン(JCS 2003) ー予防
どのような患者が感染性心内膜炎のリスクとなるか
(ハイリスク群の認識)
1.と2.は確率の高さで分けているのではなく,
合併症が生じやすいか否かで分類している
AHAのガイドライン(1997)を基礎に,わが国独自の考え
も加えている.
1.特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高い
心疾患で,予防が必要と考えられる患者
● 生体弁,同種弁を含む人工弁置換患者
● 感染性心内膜炎の既往を有する患者
● 複雑性チアノーゼ性先天性心疾患
(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴)
● 体循環系と肺循環系の短絡増設術を実施した患者
2.と3.→次のスライド
感染性心内膜炎の予防と治療に関する
ガイドライン(JCS 2003) ー予防
2.感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く予防が必要
であると考えられる患者
● ほとんどの先天性心疾患
● 後天性弁膜症
(大動脈弁膜症,僧帽弁弁膜症)
● 閉塞性肥大型心筋症
● 弁逆流を伴う僧帽弁逸脱
3.感染性心内膜炎を引き起こす可能性が必ずしも高い
ことは証明されていないが,予防を行うほうがよいと
思われる患者
● 人工ペースメーカあるいはICD植え込み患者
● 長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者
ICD:植え込み型除細動器
JCS 2003で提示された,ハイリスク患者に
おける歯科における予防法
口腔内洗浄の推奨
定期的な歯科受診
電動歯ブラシを含めた正しい口腔ケアの指導
ハイリスク群において抗菌薬の予防投与を必要とする手技
歯口科
出血を伴ったり,根尖を超えるような大きな
侵襲を伴う歯科手技(抜歯,歯周手術,
スケーリング,インプラントの植え込み,
歯根管に対するピンなどの植え込みなど)
抗菌薬の予防投与の実際
・AHAのガイドラインに準じる
・歯科処置前60分前のアモキシシリン2.0g1回
経口投与が第一選択.
AHAガイドラインで提示された抗生物質予防
投与が必要な歯科処置
・抜歯
・歯周外科手術, スケーリング, プロービング,
ルートプレーニング, リコールメンテナンス
・インプラント植え込み, 歯牙の再植
・歯内療法(根尖を器具が越える場合)
・ストリップスの歯肉縁下挿入
・矯正バンドの装着(ブラケットを除く)
・歯根膜注射
・出血を伴う予防処置(ブラッシング)
AHAガイドラインで提示された抗生物質予防
投与の必要がない歯科処置
・充填処置・補綴処置・矯正装置の調整
・浸潤麻酔(口腔粘膜の局所麻酔注射)
・根管治療
根管内に器具がとどまる場合
・ラバーダム装着・縫合糸の抜糸・印象採得・
フッ素塗布
・口内法によるX線撮影
・乳歯の自然脱落
予防投与のレジメン (経口投与)
標準的予防法
アモキシシリン
( ペニシリン系抗菌薬)
成人2.0 g; 小児50 mg/kgを処置
60分前に経口投与.
ペニシリンアレルギー例
クリンダマイシン
成人600 mg ; 小児20 mg/ kgを
処置60分前に経口投与.
セファレキシンまたは
セファドロキシル
成人2.0 g; 小児50 mg/kgを処置
60分前に経口投与.
成人500 mg ; 小児 50 mg/ kgを
処置60分前に経口投与.
アジスロマイシンまたは
クラリスロマイシン
小児へは成人用量を越えない範囲で投与する.
予防投与のレジメン (非経口投与)
経口投与不可能の場合
アンピシリン
成人2.0 g; 小児50 mg/kg (2g
を越えない)を30分前に静注
または筋注.
ペニシリンアレルギーがあり
かつ経口投与不能な場合
クリンダマイシン
成人600 mg; 小児20 mg /kg
を処置30分前に静注
セファゾリン
成人1.0 g; 小児25mg/kgを
処置30分前に静注または筋注
非経口投与が必要な症例では, 循環器内科・小児科と連携の
とれる病院歯科・口腔外科へ紹介が無難
HEART NEWS 2004, No.1
企画:日本循環器学会/教育研修委員会
監修:中村憲司
東京女子医科大学循環器内科助教授
発行:日本心臓財団
感染性心内膜炎とは
患者さん向け啓発資料として
発行されている.歯科治療と
の関連が強調されている.
(注)
ICD:体内植込み型除細動器
感染性心内膜炎のまとめ(1)
抜歯を行うにあたり,感染性心内膜炎の予防のため
抗生物質の処置前投与が必要な病態はどれか.
a 心房中隔欠損症
b ファロー四徴
c 人工弁弁置換後
d 感染性心内膜炎の既往
e 冠動脈バイパス術後
f 逆流を伴う僧帽弁逸脱症候群
感染性心内膜炎のまとめ(2)
感染性心内膜炎について誤っているのはどれか.
a 75歳以上の後期高齢者では感染性心内膜炎の発症率が高い.
b 齲歯や歯周病などの歯科疾患や歯科処置に伴うものが多い.
c 亜急性心内膜炎の原因菌としては,黄色ブドウ球菌が
最も多い.
d 心不全を合併する症例では予後が悪い.
e Fallot四徴などチアノーゼを伴う先天性心奇形では感染性
心内膜炎を発症するリスクが高い.
f 糖尿病患者では,歯科処置に伴う感染性心内膜炎の発症の
リスクは健常人と変わらない
g 感染性心内膜炎予防のために歯科処置1時間前の
アモキシシリンの経口投与が推奨されている.
高血圧症
高血圧症とは?
● 血行動態調節機構の異常や破綻により, 血圧調節のレベル
が高値に設定され, 高血圧の状態が持続するようになった
病態を高血圧症と呼ぶ.
●診断(成人の場合)
収縮期血圧140 mmHg以上かつ
拡張期血圧90 mmHg以上.
● 脳・心・腎臓・動脈などの標的臓器に障害を引き
起こしたり, 糖尿病・高脂血症・肥満などの合併症が加わ
ると, 動脈硬化病変を促進する
JNC -VI:第六次米国高血圧合同委員会報告, 1997.
2000年版日本高血圧学会ガイドライン,2000.
JNC -VII:第七次米国高血圧合同委員会報告, 2003.
高齢者高血圧
わが国の高齢者高血圧の特徴
・寝たきりの最大の原因は脳卒中
・脳卒中の最大の危険因子は高血圧
・65歳以上の高齢者では約60%が高血圧
高血圧の治療目的:脳・心臓・腎臓などの臓器障害の予防
わが国では欧米と異なり,脳血管障害の発症率が
心筋梗塞の3〜4倍と推定されている.
高齢者では降圧の第一目標は脳血管障害の予防
高齢者高血圧の病態の特徴
収縮期血圧:上昇
加齢による変化
動脈硬化の進展
脈圧:増大
拡張期血圧:低下
脈圧=収縮期血圧ー拡張期血圧
血圧の日内変動
夜間血圧の低下
血圧の
動揺性増大
起立性低血圧
食後性血圧低下
白衣高血圧
家庭高血圧
(逆白衣現象)
逆白衣現象
診察室では血圧は
高くないが,家庭
血圧や24時間血圧
では高血圧を呈する
こと
高齢者高血圧の病態の特徴
動脈硬化性合併症の多発
虚血性心疾患
脳血管障害
閉塞性動脈硬化症
腎血管性高血圧
腎細動脈硬化
家庭高血圧(逆白衣現象を呈する高血圧)のうち,
収縮期高血圧の上昇は心血管イベントのリスクである.
夜間血圧が日中血圧より上昇する群は夜間血圧が日中血圧
より低下する群と比較し心血管イベントの発症率が高い.
高齢者高血圧の治療目標
(mmHg)
160
収
縮 150
期 140
血
圧 130
(mmHg)
110
拡 100
張
期 90
血
圧 80
60歳代 70歳代 ≧80歳
160
150
140
90
90
90
荻原俊男 他:
老年者高血圧治療ガイド
ライン2002年改訂版.
日老医誌 39:322-141,
2002
降圧薬の種類
降圧薬による治療目的
心血管系合併症の予防・進展阻止が主目的
最適な降圧薬(JNC-VI )
1日1回の投与で24時間効果が持続し, 24時間後少なくとも
ピーク時の50%以上の効果が維持されているもの.
即ち長時間作用型の薬剤を用いるのが原則.
繁用降圧薬
1. 利 尿 薬
2. β 遮 断 薬
3. ACE 阻害薬
4. Ca 拮 抗 薬
5. α 遮 断 薬
6. アンジオテンシンII
受容体拮抗薬
高齢者高血圧での第1選択薬
利尿薬
長時間作用型Ca拮抗薬
実状は
血行動態や臓器障害・
合併症を考慮して
Ca拮抗薬
ACE阻害薬
高齢者高血圧のまとめ
高齢者高血圧について正しいのはどれか.
a 収縮期高血圧が多い.
b わが国では降圧の第一目標は脳血管障害の予防にある.
c 75歳以上でも,収縮期高血圧の治療は脳血管障害の
発症を減少させる.
d 利尿薬は高齢者高血圧の適応とはならない.
e 脈圧の減少した高血圧が多い.
f 高齢者高血圧では白衣高血圧や逆白衣現象が多い.
g 家庭血圧で収縮期高血圧の上昇は心血管イベントの
リスクである.
今日の主題と試験のヤマ
・高齢者に多くみられる慢性疾患
・嚥下障害/誤嚥
・高齢者の肺炎/誤嚥性肺炎/肺膿瘍
・胃・食道逆流症/歯の酸蝕症
・骨粗鬆症/骨折/顎骨骨粗鬆症と歯周病
・歯科治療における感染性心内膜炎の予防