地域医療支援センター発行広報誌「The Expert」第61号

平成26年11月10日発行
小児医療センター(小児外科) 黒岩 実
教授(昭和55年・東京医科大学卒)
子ども達へのより良い手術、治療を目指して
小児外科診療部長の黒岩と申します。私自身のプロフィ−ルや専門領域については、平成22年12月号で述べ
ましたので、今回は当院の小児外科において新たに開始した術式(外鼠径ヘルニア、胃食道逆流症)と治療方針
の変更(急性虫垂炎)について紹介させて頂きます。言うまでもなく外鼠径ヘルニアは小児外科疾患のうち最多
であり、急性虫垂炎は小児急性腹症の代表的疾患です。また、胃食道逆流症に対する噴門形成術は小児におけ
る内視鏡外科技術認定の術式に指定されており、その手技に習熟する必要に迫られております。
①腹腔鏡下外鼠径ヘルニア根治術(LPEC)
小児鼠径ヘルニアは成人の鼠径ヘルニア(腹壁構成組織の脆弱性が原因)と異なり、腹膜鞘状突起の開存が原
因なのでこれを閉鎖することが手術目的となります。従来は鼠径部切開により、腹膜突起を直視下に結紮・閉
鎖しておりましたが、本年8月よりLPECを導入しました。臍よりスコ−プと操作鉗子を腹腔内に導き、鼠径
部より糸を携えた針を刺入し、腹腔鏡観察下に腹膜前で鞘状突起全周に糸を回し結紮することで鞘状突起を閉
鎖する術式です。傷は臍内と鼠径部の穿刺跡のみで整容面で優れます。LPECのもう一つの大きな利点は、健常
側の腹膜鞘状突起の開存が観察可能で、必要に応じて閉鎖して術後の対側発症(反対のヘルニアが出ること、5
∼10%に発生)を劇的に減らせる事です。現時点でLPECの適応は1歳以上の女児に限定していますが、今後は
適応を拡大してゆく予定です。一方、LPEC適応外症例、従来法を希望されるご家族の場合はSSEM(選択的ヘ
ルニア囊処理法)を導入する予定です。これは従来法と同様に鼠径部に皮膚切開を置きますが、その切開長は約
6mmで、ここからヘルニア囊のみを選択的に引きだし、高位結紮する方法です。術後の創痕は極めて小さく殆
ど判別不能となりますが、熟練した小児外科医の手に委ねられる必要があります。
②胃食道逆流症(GERD)に対する腹腔鏡下噴門形成術(Nissen法)
二番目の新たな術式は、鏡視下のNissen法です。GERDはしばしば重症心身障害児におこりますが、躯幹変
形を有する児においても開腹術に比べて良好な視野が得られ、その低侵襲性および整容性の面から利点は明ら
かで、小児の内視鏡外科技術認定の際の指定術式である点からも今後積極的に行う必要があると考えています。
③小児の急性虫垂炎の治療方針変更について
従来、穿孔性、非穿孔性を問わず汎発性腹膜炎以外の虫垂炎を保存的治療の適応としておりましたが、虫垂
炎の再発、待機手術の必要性や治療期間などを考慮し緊急的に手術を行う方針としました。超音波検査にて進
行度を判定し、膿瘍形成例と壁菲薄化を伴う壊疽性炎を除く全ての虫垂炎を緊急手術の適応としました。夜間
の入院例では切迫穿孔例以外は翌日手術として、緊急手術症例を蓄積してゆきたいと考えております。
あらたに採用した術式のlearning curveの問題もありますが、患児に不利益を与えず、かつ医療従事者の
QOLを損なうことのないようこれら治療法をご家族に十分説明し、患児にとってより良い治療法を提供してゆ
きたいと考えております。
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発行元:地域医療支援センター