> 農家民宿 五感お目覚め 朝日新聞 2014 年5 月1 日 手ほどき受け

<三十路がトライ GW 3>
農家民宿 五感お目覚め
朝日新聞 2014 年 5 月 1 日
手ほどき受け 土いじり
街中で育った記者(30)にとって、農家は縁遠い存在だった。でも、自然に囲まれた暮らしには憧れがある。
「農家民宿」
が全国に広がっていると知り、泊まってみた。
4月中旬、福島県塙町にある「四季彩菜(しきさいさい)工房」に向かった。吉田広明さん(58)
、優子さん(59)夫
妻が自宅を開放して営む農家民宿だ。
同町は茨城県境に接し、人口約1万人。東京から約2時間半、新幹線と路線バスを使ってJR磐城棚倉駅前へ。そこに車
で迎えにきてもらい、昼前に到着した。
2階建ての一軒家には民宿の看板もない。里山の斜面に田んぼが広がり、菜の花や芝桜が咲く。
「ここは人も車もほとんど
通らない。ゆっくりしていってください」
。納屋で農機をいじっていた広明さんに声をかけられた。
広明さんは農家を継いで12年目。衣料品などの貿易の仕事をしていたが、人に貸していた親の水田を返され、
「自分でや
るしかない」と決意して転身した。1・5ヘクタールの水田と0・2ヘクタールの畑で米と野菜をつくり、無農薬・無化学
肥料にこだわる。
水田に除草剤をまく代わりに、
黒い紙を敷いて雑草を抑える農法を採用した。
カルシウム分が豊富なカキ殻を肥料に使う。
田んぼには夏はホタルが舞い、絶滅危惧種のタガメも泳ぐ。
午後はさっそく農業体験。軽トラックで畑へ向かった。優子さんに手ほどきを受けながら、くわで畝(うね)を立て、レ
タスの苗を植え、ニンジンの種をまいた。満員電車に揺られた前日と打って変わって、のんびり土いじり。
「ここに来ると五
感が研ぎ澄まされる。都会の人が土に触れたくなるのは本能だね」と広明さん。澄んだ空気、川のせせらぎが心地良い。
「何
もせずに一日中、本を読んで過ごす人もいる。それも魅力です」
食事は三食すべて野菜中心の田舎料理。昼はこんがり焼いた発芽玄米餅を砂糖じょうゆで味わった。夕食は畑の周りで自
分で採ったセリやノビルを天ぷらにしてもらった。翌朝は青空の下で釜に火をおこして白米を炊き、鶏小屋から採った生卵
をのせて食べた。塩でもんだ野草のカラシナに自然な苦みを感じた。食事は夫妻と一緒にいただき、会話を楽しんだ。
広明さんは「東京電力福島第一原発事故の後は、福島というだけでお客さんが減ってしまった。それでも理解して来てく
れる人には、一度来たら忘れられない風景や食事など、プチ感動をたくさん味わってもらいたい」と話す。
1泊2日8500円、農業体験は別料金で1500円から。問い合わせは電話0247・43・3757へ。
■体験型あり、ゆったり型あり/希望はっきり伝えて
農林水産省によると、農家民宿は2003年から開業の規制緩和が進み、全国に広がった。10年時点の集計で全国に2
006軒あるという。
全国約2000軒 おもてなし多彩
記者が泊まり先を選ぶ際に参考にしたのは、都市農山漁村交流活性化機構が開設する「農林漁家民宿おかあさん100選」
のホームページ。おもてなしが評判の女性経営者を紹介する。同機構の鳴島礼子さんによると、農家民宿はインターネット
で探して電話で申し込むのがよい。各都道府県のグリーンツーリズム関連団体やNPO法人にも紹介サイトを運営する所が
あり、電話相談窓口を設けている所もある。
一口に農家民宿と言ってもかやぶき屋根の古民家から比較的新しい造りの家までさまざまだ。
農業体験や食事内容も違う。
洗面具や寝間着は用意されておらず交通の便も悪い場合が多い。
鳴島さんは「電話をして必要なことを聞き、自分のイメージに合うかを確かめることが大事。農業体験をしたいのか、何
もせずゆっくり過ごしたいのかなどの希望を伝えると、多くの場合、合わせてくれます」と話す。
(毛利光輝)
【農家民宿を紹介する主な団体のサイト】
●全国 都市農山漁村交流活性化機構・農林漁家民宿おかあさん100選(http://www.kouryu.or.jp/okasan100/)おかあさ
ん一人ひとりの顔写真を掲載
●秋田県 NPO法人秋田花まるっグリーン・ツーリズム推進協議会(http://www.akita-gt.org/ 電話018・829・5
895)稲刈りやきりたんぽ作りを体験できる所も
●福島県 NPO法人喜多方市グリーン・ツーリズムサポートセンター(http://www.kitakata-gt.jp/ 電話0241・24・
4488)地域ぐるみで農家民宿を広めて約40軒を紹介
●長野県 県農業政策課農産物マーケティング室(http://www.oishii-shinshu.net/)農家民宿は全国最多。学校旅行の受け
入れも盛ん
●大分県 NPO法人安心院(あじむ)町グリーンツーリズム研究会(http://www.ajimu-gt.jp/ 電話0978・44・1
158)全国に先駆けて取り組んだ地域といわれる