e-NEXI 2012 年 11 月号 特集記事 ベネズエラ駐在期間に於ける記録 ベネズエラ駐在期間における記録 在ベネズエラ日本大使館 前書記官 安齋 一貴 2009年5月から2012年8月まで3年3ヶ月、南米ベネズエラの日本国大使館に勤務しました。この間、 日本とベネズエラの関係は、エネルギー分野を中心に大きく発展しました。この3年3ヶ月間の主な出来事を簡 単にご紹介したいと思います。 1.ベネズエラの概況 ベネズエラは、南米大陸の北部、カリブ海に面し、地図で見ると、アメリカ市場、ヨーロッパ市場にもアクセスし やすい場所にあります。ベネズエラの人口は約3,000万人、国土は91.2万 k ㎡(日本の約2.4倍)で、首都 カラカスは、標高おおよそ850から1000Mの高地にあり、一年中春のようなとても過ごしやすい気候です。ベ ネズエラの一人当たり国民総所得(GNI)は1万ドルを超え、ベネズエラの自動車市場は2007年には49万 台を記録する程の市場規模があります(2009年から完成車輸入の実質禁止。2011年は約12万台。)。 ベネズエラは世界有数の石油等エネルギー資源国であり、その量はオリノコ川北岸に存在する超重質油を含 めると、埋蔵量は約3,000億バレルで、サウジアラビアを凌駕すると言われています。この他、天然ガス、鉄鉱 石、ボーキサイト、金等を豊富な資源を有しています。ベネズエラには、商社、自動車、プラント、石油開発等 分野の日系企業が事務所を構え、在留邦人は約500名おります。国有化、労働争議、為替管理等ビジネ ス環境は、大変厳しい状況ですが、ベネズエラは大変ポテンシャルの高い国だと思われます。 2.2009年度の動き 2009年度は、ラミレス石油鉱業大臣の訪日・エネルギー分野の協力関係構築覚書に署名、チャベス大 統領の訪日・首脳会談、エネルギー協力ワーキングチームの初会合の開催、オリノコベルトの共同調査開始、 ベネズエラの地上デジタルテレビ放送の日本方式の採用等、エネルギー分野を中心とした政府間ベースでの関 係が進展しました。一方で、輸入品の決済のための外貨発給遅延、公定為替レートの変更(2010年1月よ り1ドル2.6ボリバル(優先分野)、4.3ボリバル)、民間企業の国有化、労働争議等が発生し、ビジネス環境 は厳しいものとなりました。 【主な出来事】 2009年3月:ラミレス石油鉱業大臣が訪日し、日本とベネズエラ両国間のエネルギー分野の協力関係構築 にかかる覚書に署名(ラミレス大臣はその後も頻繁に訪日)。 2009年4月:チャベス大統領等が訪日し、首脳会談を行い、エネルギー分野における協力を一層強化、ワ ーキングチームの設置等について一致。 2009年4月:石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)等はベネズエラ石油公社(PDVSA)とのオ リノコ・フニン11ブロックでの共同調査契約を締結、開発可能性調査を実施。 2009年5月:チャベス大統領による日系企業が資本参加するコムシグア社を含む製鉄関連企業等7社を 1 e-NEXI 2012 年 11 月号 特集記事 ベネズエラ駐在期間に於ける記録 国有化宣言。 2009年7月:カラカスにて、エネルギー協力ワーキングチーム第1回会合開催。 2009年9月:日系企業によるタコア発電所に係る契約締結。 2009年10月:地上デジタルテレビ放送方式の規格に日本方式採用。 2010年3月(及び4月):東京にて、エネルギー協力ワーキングチーム第2回会合開催。 3.2010年度の動き 2010年度は、日系企業によるオリノコの有望鉱区の落札、日系石油化学企業の新プラントの竣工、日 本の要人によるベネズエラ訪問、災害に対し援助物質の供与が相互に行われるなど両国間関係は一層緊 密なものとしなりました。一方で、国有化が進み、ベネズエラ中央銀行(BCV)管轄の下での外貨債券市場( SITME)の導入、公定為替レートの変更(2011年1月より1ドル4.3ボリバル)、労働争議等が発生し、引 き続きビジネス環境は厳しい状況となりました。 【主な出来事】 2010年4月:武正外務副大臣(当時)がベネズエラ訪問。 2010年5月:日系企業が米国シェブロン社等と共にオリノコ・カラボボ鉱区を落札。 2010年5月:麻生前総理ベネズエラ訪問。 2010年8月:日系企業が資本参入しているメトール社(メタノール製造)新プラント竣工。小島日本ベネズエ ラ経済委員会会長がベネズエラ訪問。 2010年9月:ベネズエラ国会議員選挙。与党ベネズエラ統一社会党(PSUV)は98議席(改選前139議 席)獲得。 2010年12月:11月半ばより降り続いた激しい長雨による被害に対し、日本国政府は被災民援助物資を 供与。 2011年2月:カラカスにて、エネルギー協力ワーキングチーム第3回会合開催。 2011年2月:松下経済産業副大臣(当時)がベネズエラ訪問。 2011年2月:ダム安全性診断専門家チーム派遣。 2011年3月:3月11日の東日本大震災への被害に対し、ベネズエラ政府は緊急援助物資を日本に供与 。 4.2011年度の動き 2011年度は、2009年5月に国有化宣言されたコムシグア社の株式売買交渉が終結。ベネズエラ石油 公社(PDVSA)への15億ドルの融資の実施、プエルト・ラ・クルス精油所等、ベネズエラ産原油の輸入等の 関連ビジネスが動き出しました。他方、チャベス大統領がガンを告白、入退院を繰り返す一方、ベネズエラは中 南米諸国と共にラ米カリブ諸国共同体(CELAC)創設しました。 【主な出来事】 2011年5月:国有化宣言されたコムシグア社の株式売買契約が締結。 2011年6月:チャベス大統領がガンを告白。 2 e-NEXI 2012 年 11 月号 特集記事 ベネズエラ駐在期間に於ける記録 2011年6月:国際協力銀行(JBIC)等によるベネズエラ産原油・石油製品前払い融資(15億ドル)の署 名式を開催。(NEXI 付保による日系民間銀行及び国際協力銀行(JBIC)) 2011年11月:二階衆議院議員・林衆議院議員がベネズエラを訪問。 2011年11月:日系企業によるカラカス近郊鉄道車両売買契約の締結。 2011年11月:日系企業によるプエルト・ラ・クルス製油所建設契約の締結。 2011年12月:ラ米カリブ諸国共同体(CELAC)の創設。 2012年1月:ベネズエラ産原油・石油製品前払い融資に基づき、ベネズエラ産原油100万バレルが日本到 着(6月にも100万バレル)。 5.2012年度の動き 2012年度は、東京にてエネルギー協力ワーキングチーム会合が開催され、JOGMECと石油・天然ガスの 開発協力に向けた覚書が延長されるなど新たな関係構築が進展しました。他方、外貨発給遅延問題が深 刻化するなどビジネス環境は厳しさを増しています。 【主な出来事】 2012年4月:東京にて、エネルギー協力ワーキングチーム第4回会合を開催。 2012年4月:ラミレス石油鉱業大臣が訪日し、JOGMECとオリノコ重質油改質の共同研究等の覚書に調 印。 2012年7月:日本企業によるエル・パート製油所拡張建設契約の締結。 2012年7月:南米南部共同市場(MERCOSUR)へのベネズエラの正式加盟。 (2012年8月に帰任) 6.おわりに ベネズエラ赴任中、関係者の皆様には大変お世話になりました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。ベネ ズエラは、日本にとっては地球の反対側のとても遠い国ではありますが、エネルギー分野を中心に大変重要な 国のひとつです。関係者の皆様のご支援と赴任者の皆様の更なるご活躍をお祈り申し上げます。 3
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