膠原病リウマチ痛風センターニュース 第28号

平成 26 年 4 月
第 28 号
膠原病リウマチ痛風センター
NEWS
発行 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター
去る平成 25 年 11 月 9 日(土)に行われた第 36 回公開講座の講演内容をまとめました。公開講座では皆
様の役に立つ情報を提供できるよう心がけています。皆様のご参加をお待ちしております。
「関節リウマチ治療の現状と未来予想図」
東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター
所 長 山中 寿
◎関節リウマチは
・身近な難病であり、全身の関節に慢性的な炎症が生じ、年余に渡り続きます。
・関節が破壊されて身体機能障害をきたしたり、内臓病変で生命にかかわることもあります。
・罹患率は人口の 0.5 ∼ 1.0%、我が国の患者数は 60 万人と推定されます。
・東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターでは約 6000 名の患者さんが治療しています。
◎関節リウマチに関して患者さんに理解して欲しいこと
・患者さんにより差がありますが、進行すれば関節が破壊され、日常生活が不自由になります。
・真の原因はまだ不明。生活習慣病ではありません。
・本格的な薬物療法が必要ですが、今のところ根治療法はありません。
・ただし、関節リウマチの治療は確実に進歩しています。
◎東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターの IORRA 調査で様々なことがわかってきました。
・過去 13 年間で患者さんの疾患活動性は明らかに改善し、寛解状態の患者さんが約 50%に達しました。
・メトトレキサート製剤や生物学的製剤の使用が増えたことがその要因と考えられます。
・IORRA 調査に対する皆様のご協力に感謝します。
◎寛解とは・・・
・完治ではないが、症状がほぼ完全に抑制されている状態で、病気が進行しない状態と言われます。
・通常は薬剤治療の結果であって、治療を中断すると残念ながら症状がぶり返す場合が多い。
◎関節リウマチに投与する薬剤で最もよく処方されるメトトレキサート製剤は、
・商品名 リウマトレックス 2mg, メトレート 2mg、メソトレキセート 2mg など
・IORRA 調査では 80%近い患者さんが服用していますが、患者さんにより効果に差があり、必要量が違い
ます。
・妊娠、腎不全などでは服用できません。また副作用には注意が必要です。
◎生物学的製剤によるリウマチの治療
・生物学的製剤が登場してリウマチ診療は大きく変わりました。
・現在 7 種類の薬剤がありますが、すべて注射薬で、点滴製剤と皮下注射製剤があります。
・メトトレキサートを十分量使用しても炎症が抑えられない場合や、関節破壊の進行が速い場合に使います。
・有効率は高いのですが、30%の患者さんには効果不十分です。
・副作用としては感染症に注意が必要です。
・薬剤費が高価です(年間約 50 万円の自己負担)
・IORRA 調査では約 18%の患者さんが使っています。
・以下の患者さんでは、生物学的製剤を使うと副作用が心配です。
・高齢者、身体機能障害が強い、呼吸器疾患の既往がある、糖尿病の合併がある、ステロイド薬を服用
している、重症感染症の既往や結核の既往がある、B 型肝炎キャリア、最近がんで治療した
◎関節リウマチの「未来予想図」
・早期診断が容易になり、早期治療ができる
・進行例でも、日常生活に不自由のない程度まで改善できる
・寝たきりはなくなる
・早期治療により「治る」かもしれない
・関節リウマチの発症予防ができるかもしれない
「こどものリウマチ『若年性特発性関節炎』医療のあゆみとこれから」
東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター
小児科 宮前 多佳子
リウマチは大人だけの病気ではありません。若年性特発性関節炎と呼ばれ、本邦ではこども 1 万人に 1 人
の頻度で発生すると言われています。成人の関節リウマチに比べると数は少なく、リウマチ専門医が 4,000
人以上いるのに対して、小児リウマチ専門医は 2013 年現在 100 人弱です。それでも若年性特発性関節炎は
こどものリウマチ・膠原病のなかでは最も頻度の高い病気です。主に全身症状が顕著な「全身型」と、関節
症状が主体の「関節型」に2分されますが、前者は成人スティル病に、後者は関節リウマチに類似する病態
と考えられます。本稿では、若年性特発性関節炎について簡単に解説します。
小児リウマチの歴史
1897 年(明治 30 年)にイギリスのスティル博士(George F. Still)によって報告されたのが若年性特発
性関節炎の始まりです。このとき、22 例のこどもの関節炎の臨床像が紹介されましたが、“成人の関節リウ
マチとは異なる病態をもつものがある”と表現されました。これが後の「全身型」で、慢性進行性の関節炎
に加えて発熱や全身性のリンパ節腫大、脾臓の腫れ、しばしば貧血も伴うと記述されています。「全身型」
を含めて、「多関節型」
「少関節型」が存在すると提唱されました。現在では若年性特発性関節炎は、国際分
類で、「16 才の誕生日以前に発症し、少なくとも 6 週間以上持続する、原因不明の関節炎」と定義されます
(Petty ら、2004 年)
。
病態を見据えて新しい治療へ
慢性関節炎は、関節リウマチも同様ですが、関節の中の関節腔(くう)を構成する滑膜組織を炎症の場と
する「炎症性疾患」です。炎症がおこることで、滑膜は異常に増生し、滑膜が産生する滑液が貯留し、滑膜
を栄養とする血管が増生して血流も増えます。この様子は関節超音波(エコー)でも観察されます。この関
節炎を引き起こす直接の因子が TNF, IL−6, IL−1 といった炎症性サイトカインです。
わが国では若年性特発性関節炎に対する初期治療の基本手順が日本小児リウマチ学会から 2007 年に提唱
されています。初期治療は、全身型はステロイドで、関節型はメトトレキサートが中心となります。初期治
療に対する反応が不良であった場合に、炎症性サイトカインをターゲットとしてブロックする生物学的製剤
が適応となります。生物学的製剤により若年性特発性関節炎の予後は飛躍的に改善されるようになりました。
若年性特発性関節炎に適応がある生物学的製剤は、現時点ではエンブレル、アクテムラ、ヒュミラの 3 剤し
かありません。今後成人に既に承認されている他の生物学的製剤の適応拡大が待たれます。小児は風邪を含
めて感染症に罹患する機会が多く、生物学的製剤を使用する限りは、けっして安易な導入は行なってはなら
ず、薬剤について熟知した小児リウマチ専門医から十分な説明をうけて、管理していかなければなりません。
「キレイな手と指を取り戻す̶外科治療でできることー」
東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター
整形外科 越智 健介
はじめに
関節リウマチ患者さんの多くは、手や指の関節に障害を持っていらっしゃいます。その多くはお薬や安静、
テーピング、装具、注射などで改善されますが、改善されない場合は手術も選択肢の一つになります。
一昔前まで、関節リウマチの患者さんに手や指の手術をお勧めすることはあまりできませんでした。手術
によって不自由さや変形を一時的に改善させることができたとしても、関節リウマチの勢いを抑えられない
ために再発してしまう可能性が高かったからです。しかしながらメトトレキサートや生物学的製剤といった
強力なお薬によって関節リウマチの勢いが抑えられるようになったことで、手や指の手術が見直されつつあ
ります。以前と異なり、お薬によって手術の効果を維持することができるようになりつつあるからです。
ここでは最近行っている手や指の手術、キレイな手や指を取り戻すためにわれわれが心がけていることな
どを簡単にご紹介します。
手くびの手術
関節リウマチ患者さんの手くびでは、小指側の骨が出ていることがよくあります。これは尺骨(しゃっこ
つ)という骨が亜脱臼しているからで、これによって手くびの動きが悪くなったり指を伸ばすための腱がす
り切れてしまうことがあります。手くびの動きが悪い患者さんや指を伸ばす腱が切れてしまった患者さんで
は、亜脱臼した尺骨を取り除く手術を考えます。また亜脱臼している場合には、その整復も考えます。手術
には幾つかの方法がありますが、力が入って使いやすいと同時に、少しでもキレイな手くびになって頂ける
ような手術方法を心がけています。
指の腱断裂
関節リウマチ患者さんでは、手くびの変形や滑膜炎によって指を伸ばす腱が切れてしまうことがあります。
その場合は手くびの手術に加えて、指を伸ばす腱の再建術を行います。手術の方法は幾つもありますが、で
きるだけ指の曲がりや握りが悪くなることのない手術方法を選ぶようにしています。ある程度指が伸ばすこ
とができ、同時にしっかりと握れる指を目指すことで、キレイであると同時に使いやすい手を取り戻して頂
けるように心がけています。
MP 関節(指のつけ根の関節)の亜脱臼や尺側偏位(しゃくそくへんい)(図 1)
MP 関節(指のつけ根の関節)の滑膜炎によって指を伸ばす腱が脱臼したり、関節が亜脱臼したりするた
めに生じます。軽度の段階では尺側(小指側)に指が曲がりますが、進行すると指を伸ばすことも難しくな
ります。軽度の場合には脱臼した腱を元にもどす手術を行いますが、進行した場合は人工関節が必要になる
こともあります。外見や痛みの改善が大きいために患者さんの満足度が高い手術の一つですが、MP 関節の
曲がりが少し悪くなりますので、強く握る動作が必要な患者さんの場合には慎重な判断が必要です。キレイ
であると同時に、しっかりと力が入って使いやすい指を取り戻して頂けるように心がけています。
図 1:尺側偏位 左:手術前 右:手術後
ボタン穴変形(図 2)
指の PIP 関節(第 2 関節)の滑膜炎によって、PIP 関節を伸ばす腱が緩むためにおきる変形です。手術で
は緩んだ腱を再建しますが、関節の変形が強い場合には人工関節が必要になる場合もあります。手術により
指の曲がりが悪くなると、かえって使いにくくなることがあるため、軽度の変形の場合には手術はお勧めし
ていません。キレイな指を取り戻すのは大切ですが、使いやすい指でいていただくことも重要と考えていま
す。
図2:ボタン穴変形 左:手術前 右:手術後
スワンネック変形(図 3)
MP 関節あるいは DIP 関節(第 1 関節)の滑膜炎により生じます。MP 関節の滑膜炎や亜脱臼、指を伸ばす
腱の脱臼によって MP 関節が伸ばせなくなることにより、二次的に PIP 関節が反るためだといわれています。
軽度の場合は装具などで治療しますが、モノがつかめなくなった場合は手術も考えます。軽度の場合には腱
やじん帯の再建手術、高度の変形の場合には人工関節や関節固定術によってキレイで使いやすい指を目指し
ます。
図3:スワンネック変形 左:手術前 右:手術後
おわりに
ここでは代表的な手術をお示ししましたが、変形は一人一人の患者さんで異なります。また生活スタイル
はもちろん、日常生活で何がお困りか、手術に何を求めていらっしゃるかも一人一人の患者さんで異なりま
す。残念ながら手術は万能ではありませんので、なにができるか、なにができないかをご説明した上で、一
人一人の患者さんに最適の治療法や手術法を一緒に探したいと考えています。手や指の変形、使いにくさで
お困りの方はぜひお気軽に当センターの「リウマチ手の外科」外来(月曜午後、火曜午前)までご相談くだ
さい。
また当センターのホームページでは動画もご紹介しておりますので、こちらも一度ご覧ください。
http://www.twmu.ac.jp/IOR/
IORRA 調査について
・当センターでは毎年4月と10月に関節リウマチで通院されている患者の皆様に、IORRA 調査を
お願いしております。個々の患者さんの正確な情報を知ることによって、患者の皆様により良質
な医療を提供する上で貴重なデータとなります。詳しくは、主治医にお尋ね下さい。
リウマチ友の会のご案内
・当センターを受診されている方の中には、ご病気のこと、生活のことなど不安に思われている方々
もいらっしゃることと思います。そのような患者さん方が手をつなぎ、様々な情報を共有するこ
とによって、より良い療養生活を送る目的で組織されている団体【公益社団法人 日本リウマチ
友の会】があります。ご希望の方は、当センター受付にパンフレットを用意してありますので、
お申し出下さい。
公益社団法人 日本リウマチ友の会 〒101−0035 東京都千代田区神田紺屋町6番地 大矢ビル2階
電話番号 03−3258−6565
ホームページアドレス http://www.nrat.or.jp/
センターへのお問い合わせ
東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター
本部:〒162−0054 東京都新宿区河田町 10−22
代表電話 03−5269−1711 予約電話 03−5269−1721
分室:〒163−0804 東京都新宿区西新宿 2−4−1 新宿 NS ビル 4 階
代表電話 03−3348−0988 予約電話 03−3346−2434
ホームページアドレス http://www.twmu.ac.jp/IOR/
公開講座のご案内
膠原病リウマチ痛風センター主催
第 37 回 公 開 講 座
─自分の病気を知ろう─
日 時
場 所
平成 26 年 5 月 31 日(土)13:00∼16:00(12:30∼ 受付開始)
東京女子医科大学 弥生記念講堂(本院 糖尿病センター隣り)
東京都新宿区河田町 8−1
* NS ビル・当センター本部ではありません。
内 容
《第 1 部》13:00∼14:40
『関節リウマチに対する生物学的製剤の治療について』・・・・田中 栄一 医師
近年、関節リウマチの治療は大きく進歩しました。痛みを生じる関節炎をかなりの程度まで抑え、
関節変形の進行も防止できるようになりました。そこに生物学的製剤は大きく貢献してきました。
現在、日本では 7 種類の生物学的製剤が使用可能です。
今回の講演では、生物学的製剤とはどういった薬なの ? どのような患者さんに使用されるの ?
有効性や安全性については ? 生物学的製剤の問題点にはどういったものがあるの ? など IORRA の
データーもお示ししながら出来るだけ分かりやすくお話ししたいと思います。
多数のご参加をお待ちしています。
『関節リウマチ患者さんの妊娠・出産』・・・・佐藤 恵里 医師
関節リウマチは女性に多く、妊娠出産をこれから考える若い女性の方にもみられる病気です。リウ
マチという病気を持ちながら、無事に妊娠出産ができるのだろうかと不安を抱えている方もいらっ
しゃると思います。妊娠出産を考えた時に一部の抗リウマチ薬においては、お薬の変更をする必要
が出てくることがあります。しかし、近年はリウマチ医療の進歩により妊娠希望の患者さんに対し
て使用可能な薬剤が増えており、リウマチの治療を継続しながら妊娠出産をすることが可能です。
また、妊娠出産に伴いリウマチの活動性が変化してくることも知られています。今回はリウマチ患
者さんが妊娠出産を考えた時から妊娠∼出産までの治療、リウマチの活動性の変化などについてお
話しさせていただきます。
『人工膝関節置換術の最新情報』・・・・吉田 進二 医師
関節リウマチの薬物療法の発達は目を見張るものがあります。それにより関節リウマチに対する手
術件数は年々減少しているという報告もあります。しかし現実にはまだまだ手術を必要とする患者
さんが大勢いらっしゃいます。運動療法や装具療法などでは対応しきれない関節破壊に対しては、
以前より人工関節による手術が行われていましたが、その中でも人工膝関節置換術は最も成績が安
定しており、治療法として推奨されているものです。今回の講演では当センターにおける人工膝関
節置換術の最新情報をご紹介するとともに、入院スケジュールや術後のリハビリテーションなどに
ついても併せてご説明いたします。
《第 2 部》15:00∼16:00
『療養相談』
内科(治験・生物学的製剤・くすり他)・整形外科(手術)
リハビリ・食事指導
大変ご好評いただいている、治験・生物学的製剤・手術など経験した患者さんに協力していただき、
患者さんが患者さんに相談するコーナーを設けます。
その他に、薬や病状についての質問など、内科・整形医師に直接相談出来る場も設けますので、ふ
るってご参加ください。