アオコ発生のメカニズムとリプルによる池環境の改善案 ㈱アクアテックジャパン 主任研究員 高梨 アオコ発生のメカニズム アオコの発生には、いくつかの条件があります。その条件とは、①気温の上昇,②水温変化による、成層の形成,③栄養塩 類の増加,④生態系バランスの崩壊 などが挙げられます。これら全ては自然のサイクルの一部です。そのサイクルを十分に 理解する事で、池の環境を改善する事に繋がると思います。 アオコが水温の上昇により発生しやすくなる事はよく知られています。一般に、平均気温が 25℃前後の時期からアオコの原 因植物である藍藻類の発生が顕著になり、9 月頃にピークを向かえます。この時、池では水面の水温上昇が起こります。詳し くは、水面に暖められた水が停滞し、水面の水温より冷たい水が水底付近に停滞する現象が水中で起こります。これを温度成 層と呼びます。かき混ぜる前の湯船の水に似ています。 形成された成層は、温度変化によって循環します。特に、昼夜の寒暖の差が大きい地域では顕著に起こります。夜間に、水 面の水温が冷やされ、水底水温より冷たくなると、水面と水底の水は入れ換わります。逆に、寒暖の差が少ない場合、昼夜を 問わず水面の水温が暖かいため、水底との温度変化が起こり難く、結果として循環も起こり難くなります。この場合、物理的 な力が加わらない限り、早急な解決はありません。 また常時、水面付近が暖かいため、アオコが増殖しやすい環境にあります。また、水面のアオコの増殖は、水底への日射量 を減少させます。日射量の減少した水底では、植物が酸素を作り出す要因がなくなります。尚、温度成層が形成せれている状 態では、水面付近で十分な酸素が生産されたとしても、水の混合が起こらない為、水底には酸素が送り込まれない状態にあり ます。水底に堆積した有機物をバクテリアが分解を行う際にも酸素は消費されます。酸素の供給が止まると、有機物の分解速 度も鈍化し、水底が貧酸素状態の環境に陥ります。貧酸素環境の悪影響は、水生生物に対するものだけではありません。溶存 酸素濃度が 2mg/L を下回ると、水底の堆積物からリンが流出します。リンは植物の生育に欠かせない成分の一つです。水中に リンが多量に溶出する事は、アオコの増殖に繋がります。結果として、池の景観を損ねる事に繋がる可能性が出てきます。 (※ 最後のページに参考資料があります。) 梅雨の時期から夏場に掛けて、池水への栄養塩の増加と栄養塩の濃縮が発生しやすくなります。梅雨の時期には降水量が増 える為、池に多くの水が流れ込みます。この時、余剰肥料や腐葉土に触れた栄養化の高い水が頻繁に流れ込みます。また、気 温上昇に伴う蒸発により、池の水位が下がります。栄養塩類は蒸発しないため、水の蒸発分だけ栄養塩類は水量に対して濃く なります。また、夏場は芝への散水量が増えます。つまり、水が余剰肥料と腐葉土に触れる頻度が増す事になります。最終的 には低地にある池に栄養塩類が集まるサイクルが生まれます。池内の栄養塩類の濃度の上昇に伴い、アオコの増殖を引き起こ す事に繋がります。 アオコの発生は、池内の生態系バランスが崩れている証拠でもあります。アオコが多い環境では、アオコを餌とする動物プ ランクトンが少ない、または動物プランクトンが餌とする以上のアオコが発生してしまっている可能性があります。動物プラ ンクトンは食物連鎖の過程でアオコより上位に位置しています。この量が十分に保たれている池では、アオコの発生は起こり にくいと言えます。しかし、動物プランクトンが消費できる量以上の藍藻が発生してしまうと、徐々に量が増し、アオコとし て水面を覆ってしまうと考えられます。 この図は、生態系を表したピラミッドです。左が整った生態系バランスを示しています。逆に、右は有機物や栄養塩類など の増加に伴い、それを利用して増える植物プランクトンが爆発的に増加してしまった生態系を表しています。 1 リプル設置による効用 取り上げた問題の中で、リプル設置により次の改善が行われます。①水温の均一化、②水底への酸素供給、③生態系バラン スの修復です。 リプルの循環は、池全体の水を対流させます。その循環方法は噴水や水車とは異なり、水を大きく対流させる循環です。こ の循環により、先に述べた温度成層を破壊し、水面と水底の水が常に動いている状態を作り出します。リプルは、水面の溶存 酸素の豊富な水を水底へ送り込む事を可能とし、水底での貧酸素状態を防ぐ事ができます。実際に設置を行っている池では、 夏場の池で水面と水底の水温差が小さくなり、水底環境の改善が表れています。また、リプルの循環は、自然の自浄作用を回 復させます。水底に酸素が供給される事で好気性分解が活発になり、堆積物の分解が加速化されます。これは、嫌気性菌より 好気性菌の方が約 20 倍の速度で分解を行う為です。更に、溶存酸素の供給により水底で原生動物や動物プランクトンなどの 発生を促します。この様に、水の対流によってアオコの発生を抑制し、水底の自浄作用の活性化を補う役割を持っているのが リプルです。 【微生物資材】 微生物やバクテリアを用いた水の浄化は、様々な分野で用いられています。アオコが発生する池では、栄養塩類の過剰な蓄 積が起こっていると考えられます。特に、梅雨や夏場の栄養塩が蓄積しやすい時期に早期解決を行うには、微生物やバクテリ アを添加する事で有機物の分解を促進させ、水の浄化を行う事は効果的です。しかし、微生物やバクテリアも生物であるため、 池に入れても必ず効果を発揮するとは限りません。かならず微生物やバクテリアが着定できる住処が必要となります。微生物 やバクテリアはその住処で増殖を行い、効果を引き出します。着定できる場所のない環境では、増殖は阻害されてしまい、結 果として池の浄化は良い結果に進みません。 この様な生物資材を用いる場合には、微生物やバクテリアが働ける環境を整えてから導入する事で効果的に作用します。早 期改善を望まれるお客様へ、弊社ではリプルと微生物資材の併用により双方の利点を生かし、自然の自浄作用を補う方法で早 期改善のご提案を行っております。 2 《参考資料》 広島県立総合技術研究所保険環境センター研究報告 No.19,p27-36, 2011 よりグラフを抜粋。 ①水深による水温と溶存酸素の値 ※参考池データ概要 面積 3,384 ㎡・水深 1.8m・コンクリート製の貯水池。 果樹園に囲まれており、潅水に利用されている。降雨と園からの流入のみの池。 オーバーフローによる流出あり。 浅い貯水池における貧酸素状態を示したグラフです。左側の縦軸が水深(m)を表し、横軸が溶存酸素濃度(左グラフ)と 水温(右グラフ)を表しています。水面付近は、水温が高く、溶存酸素も多い値となっていますが、水深 1.2m以深の観測点 では、水面付近より水温が低く、溶存酸素も0に近い値を示している事が分かります。 ②溶存酸素の変動による、底質からの窒素とリンの流出 上の 2 つのグラフは、池の底質からの窒素及びリンの溶出を試験した結果を表しています。上が窒素、下がリンのグラフ です。左軸が物質の溶出量、右軸が溶存酸素量を表し、時間経過に伴う変化を表しています。十分に酸素量がある状態から、 右肩下がりに酸素が消費されています。 上段の窒素のグラフでは、溶存酸素の増減に関わらずアンモニア態窒素(NH4-N)の溶出が起こっています。 下段のリンのグラフでは、溶存酸素が 2mg/L を下回った時点から溶出している事が分かります。 この事から、植物の成長に欠かせない窒素やリンですが、リンに関しては溶存酸素量が 2mg/L を下回らなければ溶出しない 事が分かります。水底の溶存酸素をコントロールする事で、底質からの水中へのリン溶出をコントロールできる可能性が考え られます。 3 アオコが発生しやすい貯水施設の特性 アオコが増殖しやすい環境条件を踏まえると、下記のような特性をもつ貯水施設の場合、 アオコが比較的発生しやすい環境にあるといえます。 アオコが発生しやすい貯水施設の特性 条件 水理 栄養塩 (窒素・ リン 濃度、N/P 比) 貯水施設の特性 アオコの現象 ・滞留時間が長い (ダム貯水施設で 5 日間 程度以上(1)) ・出水の流入頻度が少ない ・閉鎖性水域または、水の動き(対流)が少ない ・滞留時間が長いと、アオコが増殖しや すい ・流域からの栄養塩の流入量が多い(特にリンの濃度) ・代かき、田植え時期の水田からの排水の流入が多い ・生活排水、畜産排水の流入が多い。 ・NP/比が※7~10 程度になっている。 ※湖沼・貯水池の水中における全窒素(T-N)と 全リン(T-P)の濃度の比率 ・場内からの排水の流入、芝への散布肥料・薬品が 雨水等により、栄養塩と共に流入する。 ・アオコの栄養となる窒素、リ リンが豊富にあるとアオコ が増殖しやすい。 ・藻類は、一般に N/P 比 7~10 程度のとき増殖しやすい(2) ・貯水施設に日陰がなく、表層水温が温まりやすい。 ・初夏から初秋にかけて、貯水施設内の表層と下層 水温 底質 ・アオコの原因藻類は、高水温 の間に水温(密度)差による層(水温躍層)が生じ やすい(これにより上下層の水交換が進まないため高水温にな りやすい) ・底質がヘドロ化等により 悪化している ・建設年度が古い(堆積している有機物が多い)また は長期間浚渫を実施していない。 ・底層の溶存酸素(DO)濃度が低い(リンの溶出を 促進する) ・水深が浅い池は、清掃を行うことが出来るが、水深 の深い池は、落ち葉や刈り芝と共に、ヘドロの堆積 が多い。水底が嫌気の状態になると異臭を伴う 出展(1)ダム貯水池における淡水赤潮とアオコの発生機構および対策について ・湖底からの栄養塩の供給が 多いとアオコが増殖しやすい ・アオコの原因藻類は、水温が 低下すると湖底に沈降し、越 冬するため、これが底質に多 く蓄積されていると、アオコ が発生しやすい。 井芹 寧 九州技法第 23 号(1998.7) (2)湖沼工学 岩佐義朗 山海堂 P275 平成 24 年 3 月 農林水産省 農業用貯水施設における アオコ対応参考図書より 表中の下線部分の文章はゴルフ場で、考えられる特性・現象になります。 4 (25℃程度)を好む種が多く アオコが増殖しやすい
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