特 許 公 報 特許第5802045号

〔実 6 頁〕
特 許 公 報(B2)
(19)日本国特許庁(JP)
(12)
(11)特許番号
特許第5802045号
(45)発行日
(P5802045)
(24)登録日 平成27年9月4日(2015.9.4)
平成27年10月28日(2015.10.28)
(51)Int.Cl.
FI
A23D
7/00
(2006.01)
A23D
7/00
500 A23L
1/40
(2006.01)
A23L
1/40
A23L
1/48
(2006.01)
A23L
1/48
A23J
3/10
(2006.01)
A23J
3/10
請求項の数5
(全10頁)
(21)出願番号
特願2011-93697(P2011-93697)
(22)出願日
平成23年4月20日(2011.4.20)
月島食品工業株式会社
(65)公開番号
特開2012-223133(P2012-223133A)
東京都江戸川区東葛西3丁目17番9号
(43)公開日
平成24年11月15日(2012.11.15)
審査請求日
(73)特許権者 000165284
(74)代理人 100093816
平成26年4月10日(2014.4.10)
弁理士
(72)発明者 近藤
中川 邦雄
諒子
東京都江戸川区東葛西3−17−9
月島
食品工業株式会社内
(72)発明者 芹澤
伸幸
東京都江戸川区東葛西3−17−9
月島
食品工業株式会社内
(72)発明者 飯岡
宏之
東京都江戸川区東葛西3−17−9
月島
食品工業株式会社内
最終頁に続く
(54)【発明の名称】ルー用油脂組成物、ルー、ルー利用食品
1
2
(57)【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【請求項1】
【技術分野】
バター代替油脂であって、
【0001】
エンド型プロテアーゼで加水分解したカゼイン分解物を
本発明は、ホワイトソースなどのベースとなるルーを作
含むpH5.2∼6.2の範囲に調整された水溶液と、
るときのバター代替油脂であるルー用油脂組成物、ルー
油脂を、油中水型に乳化したことを特徴とするルー用油
用油脂組成物を使用したルー、さらにそのルーを利用し
脂組成物。
て作られるルー利用食品に関する。
【請求項2】
【背景技術】
前記水溶液に、液糖が含まれることを特徴とする請求項
【0002】
1に記載のルー用油脂組成物。
10
「ルー」は「ルウ」とも表記され、一般的に、鍋で加熱
【請求項3】
して溶かしたバターに小麦粉を投入して、小麦粉を均一
小麦粉と請求項1又は請求項2に記載のルー用油脂組成
に加熱し、さらに所望の色調になるまで加熱されたフレ
物を混合、加熱してなることを特徴とするルー。
ーク状、ペースト状のものである。ルーは各種ソースの
【請求項4】
ベースとなる。いずれのルーも利用される食品にとろみ
請求項3に記載のルーを利用したことを特徴とするルー
を付与するものである。
利用食品。
【0003】
【請求項5】
食品工業的には、水分を飛ばした固形のもの、粉末状の
請求項4に記載のルー利用食品が、クリームコロッケで
ルーものもある。これらには、糖、香辛料などの調味料
あることを特徴とするルー利用食品。
、その他添加物が含まれ、調理者が湯で溶かして使用す
( 2 )
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る。固形或いは粉末のカレー、クリームシチューのもと
【特許文献3】特開2008−289404号公報
と言われるものなどである。
【発明の概要】
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ルーを利用したソースとしては、ルーに牛乳を加えたホ
【0010】
ワイトソースがあり、ホワイトソースは各種ソースのベ
しかしながら、それらは、口溶けは改良されるものもあ
ースになる。ホワイトソースに各種食材、例えば、チー
るが、艶がなく、加熱したことによる収縮(衣剥離)が
ズ、トマトピューレなどを追加して、さらにソースの硬
あり、見た目において、消費者を十分満足させるもので
さを調節して各種ソース、クリームが作られる。具体的
はなかった。
には、グラタン、ドリア、ラザニア、クリームコロッケ
のクリームなどがある。
【0011】
10
そこで、本発明は、口溶けがよく、かつ艶があるルー、
【0005】
ソース、さらに加熱した場合でも収縮(衣剥離)を抑え
ルー利用食品としては、シチュー、グラタン、カレー、
たクリームなどのル−利用食品が得られるルー用油脂組
クリームコロッケ、さらに各種ルー或いはソースから水
成物及びそれを用いた食品を提供することを目的とする
分を飛ばした固形、粉末ルーなどがある。
ものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
例えば、クリームコロッケは、一般に次のようにして作
【0012】
られる。30重量部のバターを鍋で弱火で加熱して溶か
上記の課題を解決するために、本発明は、
し、そこにバターと同重量の小麦粉を撹拌しながら少量
(1)
ずつ投入し、十分バターと小麦粉をなじませ、加熱する
バター代替油脂であって、
。混合物が、さらさらあるいはポロポロの状態になった 20
エンド型プロテアーゼで加水分解したカゼイン分解物を
ら、牛乳を少量ずつ撹拌しながら合計270重量部投入
含むpH5.2∼6.2の範囲に調整された水溶液と、
し、粘度がでたところで、塩、胡椒で味を調え、具材、
油脂を、油中水型に乳化したことを特徴とするルー用油
例えば、野菜、海鮮類を投入し混合する。その後、クリ
脂組成物の構成とした。
ーム状のソースをバットに取り出し粗熱を除き、冷蔵庫
(2)
でクリームを十分に冷却する。
前記水溶液に、液糖が含まれることを特徴とする請求項
冷却することで、硬さが増し保型性が得られ成形し易く
(1)に記載のルー用油脂組成物の構成とした。
なる。続いて、俵状などに成型し、表面に小麦粉を塗し
(3)
、液卵に付けた後にパン粉に付けて、170℃の油で約
小麦粉と請求項(1)又は請求項(2)に記載のルー用
2分程度揚げて完成する。そのまま食しても、一端冷凍
油脂組成物を混合、加熱してなることを特徴とするルー
して解凍加熱して食されることもある。
30
の構成とした。
【0007】
(4)
他方、ルーの食感を改良するために、ルーを作るときの
請求項(3)に記載のルーを利用したことを特徴とする
バターを代替油脂として、マーガリン、特許文献1∼3
ルー利用食品の構成とした。
等に開示されているルー用油脂組成物などが使用される
(5)
ことがある。
請求項(4)に記載のルー利用食品が、クリームコロッ
【0008】
ケであることを特徴とするルー利用食品の構成とした。
特許文献1の発明は、融点60℃以上の油脂1∼10重
【0013】
量%を含んでなる油脂組成物で、好ましくは乳化剤を0
カゼイン分解物は、カゼインを酵素で加水分解して得ら
.05∼2重量%含有してなり、冷蔵したり、或いはレ
れる。酵素による加水分解は、カゼインを含む液体、例
トルト処理を行った後においても、ソース、シチュー等 40
えば牛乳、或いはそこから抽出したカゼイン溶液に、酵
の加工食品の食感が硬くならずに良い口溶け感を保ち、
素を添加して分解反応を行う。酵素としては、エンド型
さらに良い口溶け感を保ちながらボディー感を付与する
プロテアーゼを含むものなどが例示できる。
ことが出来る、というものである。その他に、特許文献
【0014】
2、3などには、コクを付与する発明が公開されている
カゼイン分解物の反応後のpHとしては、望ましくはp
。
H5.2∼6.2、さらに好ましくは5.5∼6.0で
【先行技術文献】
ある。pH5.2より低pHであるとカゼイン分解物が
【特許文献】
酸変性によりざらつき、斑点が発生し、pH6.2より
【0009】
高pHであるとルー利用食品の口どけが不十分になり、
【特許文献1】特開2003−125702号公報
本願発明の目的を達し得ない。
【特許文献2】特開2006−325509号公報
50
【0015】
( 3 )
JP
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当該pHの範囲に調整されたカゼイン分解物は、その特
ムコロッケの電子顕微鏡写真(300倍)である。
定の分子量に起因して、ルーから作られるソース中の油
【図4】本発明であるクリームコロッケの口溶けを従来
脂の乳化径を小さくし、油脂粒が小麦粉澱粉表面に散在
品と比較したデータである。
し、澱粉−澱粉間のネットワークを分断する効果がある
【図5】本発明であるクリームコロッケ及び比較例の官
。また、衣の結着性を向上する効果を発揮すると思われ
能評価である。
る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
【0023】
pHの調整は、乳酸菌などを用いて発酵を行い調整する
以下、本発明について、図面を参照しながら詳細に説明
手法や、食酢などの酸の添加により調整する手法などが
例示できるが、その手法は問わない。
する。
10
【実施例1】
【0017】
【0024】
油脂としては、特に限定されず食用として供される各種
[ルー用油脂組成物の配合]
植物油脂、動物油脂及び乳脂と、これらの分別、硬化あ
図1(A)に、ルー用油脂組成物の配合例を示した。本
るいはエステル交換した油脂も使用できる。油中水型に
発明であるルー用油脂組成物の必須成分は、カゼイン分
乳化する手段としては、従来からのマーガリンの製造方
解物、水、油であり、それらを油中水型に乳化した。カ
法を採用できる。
ゼイン分解物は、カゼインナトリウム5%液を用い、エ
【0018】
ンド型プロテアーゼを含む酵素製剤(スミチームFP(
本発明であるルー用油脂組成物は、必須成分として、特
新日本化学工業株式会社製))を添加し酵素反応(タン
定の分子量のカゼイン分解物と水と油脂を含む油中水型
パク加水分解反応)を行い、その後クエン酸を用いてp
乳化物であるが、必須成分と別に、その他具材、呈味成 20
H6.0となるようにして調整して得た。液糖としてニ
分、色素、保存料、増粘剤、ゲル化剤を含んでもよい。
ューフラクトR−30(昭和産業株式会社製)を、乳化
【0019】
剤として大豆レシチンを用いた。
前記具材としては、野菜、エビ、カニ等の海産物などが
【0025】
あり、呈味成分としては、糖類、酸味料、香辛料、その
[ルー用油脂組成物の作成]
他の調味料などがある。ルー用油脂組成物に、糖類、特
ルー用油脂組成物(実施例1)は、図1(A)の配合で
に液糖、例えばソルビトール、異性化糖を添加すること
、油系部(油脂、乳化剤)を加熱溶解し、水系部(水、
で、ルー利用食品の艶が一層向上する。
液糖、カゼイン分解物)を投入し、乳化させ、殺菌、急
【0020】
冷混和して作成した。
ルー用油脂組成物と小麦粉から、ル−を作成する方法は
【0026】
、バターを用いたルーと同様で、バターを同配合量の本 30
具体的には、次のようにして作製した。油相(油脂、乳
発明のルー用油脂組成物に置換し、従来同様の手法でル
化剤)を60℃に加熱溶解し、水相(水、液糖、カゼイ
ーを作成すればよい。従って、本発明であるルー用油脂
ン分解物)を投入し10分間撹拌、乳化させて乳化物を
組成物を用いたルーからルー利用食品を製造する場合も
作製した。
、バターを用いた従来のルーと同様の手順でよい。
その後、前記乳化物を90℃の殺菌機に通し、続いてパ
【発明の効果】
ーフェクターを用いて、急冷・練りを加え、可塑化させ
【0021】
てマーガリンとした。
本発明であるカゼイン分解物は、それを含むルーによっ
【実施例2】
て作られるルー利用食品の口溶け、艶を向上させ、加熱
【0027】
収縮を抑える効果を有する。また、本発明であるルー利
[ルー配合]
用食品は、上記構成であるので、口溶けがよく、艶もあ 40
図1(B)に、実施例1のルー用油脂組成物を用いたル
り、加熱による収縮、即ち衣の剥離も少ない。特に、保
ーの配合例(実施例2)、さらに比較としてバター、マ
型性があるルー利用食品に有効である。
ーガリンを用いたルーの配合例を示した。比較例1、2
【図面の簡単な説明】
は、クリームコロッケ用のルーとして一般的な配合であ
【0022】
る。
【図1】本発明であるルー用油脂組成物、ルー、クリー
【0028】
ムコロッケ用のクリームの配合例及び従来のルー及びそ
[ルーの作成]
れを用いたクリームの配合例である。
実施例2のルーは、図1(B)の配合で、油脂組成物を
【図2】本発明であるルー用油脂組成物を用いたクリー
90℃で溶解し、小麦粉を加えその後、混合しながら1
ムコロッケの光学顕微鏡写真(150倍)である。
20℃で20分加熱し作成した。比較例1、2は、油脂
【図3】本発明であるルー用油脂組成物を用いたクリー 50
分がそれぞれ異なるのみで、作成方法は実施例2と同じ
( 4 )
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である。
不定形の黒色の部分である。
【実施例3】
【0035】
【0029】
図3(A)の写真から明らかなように、実施例3中の油
[クリーム配合]
脂の粒径が比較例に比べ極めて微小であることがわかる
図1(C)に、実施例2のルーを用いたクリームコロッ
。そして、微細油脂粒が、澱粉のネットワークを局所的
ケ用のクリームの配合例、さらに比較として比較例1、
に遮断して、口溶けを良くしていることが推測できる。
2を用いたクリームの配合例を示した。比較例3、4は
実施例3油脂の粒径を小さく保つことができるのは、酵
、クリームコロッケ用のクリームとして一般的な配合で
素的に加水分解して所定のpH範囲に調整された特定の
ある。
【0030】
分子量のカゼイン分解物の効果である。さらに、比較例
10
3、4においては、澱粉のダメージ(いびつに変形)が
[クリームの作成]
見られる。
図1(C)のクリームは、図1(C)の配合で、ルーを
【0036】
90℃で溶解し、牛乳を加えその後、混合しながら11
図4に、クリームの口溶けを再現した試験結果を示した
0℃で5分加熱し作成した。比較例3、4は、ルーがそ
。試験は、粘弾性測定装置(AntonPaar社製)
れぞれ異なるのみで、作成方法は実施例3と同じである
により36℃で粘弾性測定を行った。図4の横軸はせん
。
断応力(Pa)であり、縦軸は貯蔵弾性率(Pa)であ
【0031】
る。
図2に、実施例3のクリームコロッケ(A)、比較例3
【0037】
(B)、比較例4(C)のクリームコロッケのクリーム
図4から明らかなように、本発明であるルー用油脂組成
部の光学顕微鏡写真を載せた。写真右上にあるバーの長 20
物を用いたクリームであるルー利用食品(クリームコロ
さが70μmである。
ッケ)は、貯蔵弾性率の値が従来のバター、マーガリン
【0032】
を用いたルーからなる比較例3、4より低く、それらよ
図2の写真の中の澱粉は、円形で直径20、30∼10
り極めて口溶けが良いことが分かる。
0μm程度の黒色が強い部分である。図2に明らかなよ
【0038】
うに、本発明のルーで作られたクリーム中の澱粉は、比
さらに、図5に本発明、比較例のクリームコロッケの官
較例2、3と比べて澱粉粒が小さいことから加熱による
能評価を示した。官能評価は、熟練したパネラー9人で
膨潤が抑えられていることがわかる。さらに、実施例1
、「良好」、「不可」の2択で行った。評価項目「衣結
では、澱粉のダメージ(変形・崩壊)が少ない。これら
着性」、「クリームの艶」は、クリームコロッケ10個
現象が、本発明において、クリームに保型性を保ちつつ
を加熱調理後、粗熱を取ったものについて、カットして
ベタつきを抑え、口溶けが良い原因の1つであると考え 30
切断面を目視して評価した。「クリームの口溶け」、「
られる。
クリームの滑らかさ」は、試食によるパネラーの評価で
【0033】
ある。
図3に、実施例3のクリームコロッケ(A)、比較例3
【0039】
(B)、比較例4(C)のクリームコロッケのクリーム
評価は、7人以上のパネラーが「良好」と判断した場合
部の電子顕微鏡写真を載せた。図3(A)中央下部にあ
には「○」、「良好」と評価したパネラーが6人以下の
る白色のバーの長さが50μmである。
場合には「×」とした。
【0034】
【0040】
図3(A)中の澱粉は三日月型に輪郭が白く縁どられた
評価の結果、実施例1は、全ての評価項目で○であり、
部分であり、油脂は他より黒色が強い球形の部分で、油
一方比較例は全ての項目で×であった。このことから実
脂粒は澱粉粒よりかなり小さい。一方、図3(B)、( 40
施例3のクリームコロッケは、従来にない優れた機能(
C)中の澱粉は三日月型に輪郭が黒く縁どられその外周
衣結着性)、食感を発揮していることがわかる。
が黒色に見える部分であり、油脂は澱粉より概ね大きく
( 5 )
【図1】
JP
【図5】
【図4】
【図2】
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B2
2015.10.28
( 6 )
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5802045
B2
2015.10.28
【図3】
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フロントページの続き
審査官
(56)参考文献
福間
信子
特開平02−124073(JP,A)
特開平10−262560(JP,A)
特開2005−333968(JP,A)
特開昭62−285758(JP,A)
特開2002−223731(JP,A)
特開2001−245588(JP,A)
特開2007−185177(JP,A)
特開2006−246885(JP,A)
特開昭54−086659(JP,A)
特開平07−115900(JP,A)
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
A23J
1/00−7/00