最近の円通貨の動向について 一橋大学 齊藤 誠 (最近の動向) 本メモでは、昨日、公表された昨年末までの BIS の実効為替レート指数で円通貨の動向 を見てみる。なお、BIS 指数は、高い値ほど円高を示す。また、参照点として、1980 年か ら 2012 年の実質実効為替レートの平均水準も黒の点線で二つのグラフに加えている。 2012 年夏以降の円安傾向は、欧州金融危機で資金退避先として選ばれていた円通貨が危 機 懸 念 の 後 退 で 資 金 が ド ル や ユ ー ロ に 再 び シ フ ト し た 結 果 と 考 え て よ い 。2010 年 か ら 2012 年半ばにかけての欧州金融危機では、円通貨の名目レートも実質レートも 1 割程度 増価したが、それが昨年夏以降に解消されたというのが自然な解釈であろう。 (長期的な傾向に照らして) 長期的に平均回帰傾向を示す実質レートでみると、2008 年 9 月のリーマンショック直 後の急激な円高は、それまで 2 割以上長期平均から減価していた分が修正されたと考えら れる。欧州金融危機の進行で 2010 年から 2012 年半ばにかけて 1 割以上長期平均から増価 した分が、2012 年夏以降解消した。昨年 12 月の実質為替レートは、ほぼ長期平均水準に 等しいか、それを若干下回る水準と判断される。 このように見てくると、最近の円安傾向は、政権交代の効果というよりも、昨年夏以降 から生じた長期平均への回帰傾向を反映したものであり、それゆえに比較的急テンポの円 安傾向に対しても、国際的な摩擦がそれほど大きくなかったのであろう。欧米サイドから すれば、減価しすぎた自国通貨が適正水準に修正されたという解釈が支配的だったと思わ れる。 逆にいうと、実質為替レートが長期平均から 2 割以上減価して輸出主導の景気回復が実 現した 2002 年から 2007 年の再来を期待することは、現時点の実質為替レートでは困難で あろう。2006 年、2007 年の実質為替レートの水準は、1985 年 9 月のプラザ合意以前の水 準まで減価していた。 かといって、長期平均水準を著しく下回るような水準に実質為替レートを誘導するよう な政策アクション、あるいは、そのように誤解を受ける政策アクションをとれば、今度は、 不適切な為替操作として、欧米やアジアの諸国から激しい非難を受けることになるであろ う。 (今後の政策スタンスについて) 日本政府が今後取るべき態度としては、これまでの円安傾向について政策効果として過 度に自慢するのではなく(そっと自慢するのはかまわないかもしれないが…)、自然体で受 け止めていくのが一番よいのでないだろうか。これまで程度の円安は、欧米やアジアの通 貨当局も、為替レート水準の適正化として解釈するであろう。一方、これ以上の円安を希 求する政策スタンスは、国際協調の面でも著しい支障が生じるし、交易条件の顕著な悪化 で深刻なエネルギー事情を抱えた日本経済の成長の妨げにもなるであろう。 日本政府には、為替動向について冷静に国際協調的な政策対応を求めたいところである。 (2013 年 1 月 16 日記)
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