東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis [2004/06/01] 建築・街の賦活シナリオの作成 B12 ―千代田区神田地区を対象として― The scenario of Town and Building Management - Case study in Kanda area 高見沢邦郎(教授),饗庭 伸 (助手),首藤 亮一(研究員) Kunio TAKAMIZAWA (Prof.), Shin AIBA (Res. Assoc.) And Ryouichi SYUTOH (Res. Assoc.) ABSTRACT The aim of this study is to establish the method of creating the scenario for to revive the building stock and town in the high densely area with residents. The result are 1)Clarify the aspects of physical and social condition in Kanda area, 2)Develop the method of managing information about buildings and town using the GIS system, 3)Research the conditions of community-based organization. キーワード:神田 GIS 建築・街賦活シナリオ Keywords : Kanda, GIS, Building and town management 1.本研究の目的 空間の実態について調査した。 本研究で対象とする神田エリアは、関東大震災後に震 ㈰図1に示す地区について外観目視による建物の全数踏 災復興土地区画整理事業が行われたため、碁盤の目状 査を行い、階数、構造種別、外壁素材、増築部分の有無 の基盤整備は出来ているが、それ以前に市場や町人地 、ファサードのデザイン(写真撮影)等を調査した。 であったため、整った道路基盤の上に小規模な敷地が密 ㈪図1に示す地区について都市計画基礎調査(96年、01 集して存在している。その立地から高度経済成長期以降 年)、建築確認データ(経年)、土地建物登記簿データを 、「ビル化」と「居住人口流出」のモーメントがこのエリアに 収拾し、構造、階数、用途、住戸数、空地用途、確認申請 一貫してはたらきつづけた。敷地単位の個別的「ビル化」 概要書、所有者、建築(および登記)時期、階数別面積の は、結果として築80年を超えるような木造建築から、新耐 データを入手した。 震基準制定以前に立てられた建築、最新の設備をもつ建 なお、B13〜15プロジェクトについては、本研究の進行 築など、規模、古さ、構造種別、空間利用等全てが異なる 過程の中で調査、作業、討議を共同で行い、次年度研究 建築群の密集エリアをもたらした。近年の都心回帰傾向 計画のテーマ設定に結びつけた。 の元で、地域には新しい開発とそれにともなう居住人口回 図1 調査の対象エリア 復の動きがあるが、新旧住民が協調的にまちをつくる状 ㈬以上得られたデータをもとに、神田エリアの空間の特性 況にはなっていない。また、地域住民が日々複雑化して いく建築や街の情報と明確な将来イメージを持つことが出 来ないため、自らの不動産の利活用と、街としての取り組 み(例えばワンルームマンションへの対応)において合理 的な判断が形成出来ていない。 本研究では、神田エリアを対象に、①建築や街に関す るハード、ソフトの正確な情報を詳細に明らかにすること、 ②情報共有の仕組みを構築して地域住民が中心となって 将来的な賦活のシナリオを描くための方法を開発すること 、③そのための体制を構築するための手法を開発するこ とを目的とする。 2.研究の方法 2.1 神田地域の実態調査 ①神田エリア全域を対象に、住民基本台帳を元に、人口 動態を調査するとともに典型町丁目・街区において居住 、課題などを分析した。 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis [2004/06/01] 2.2 GISによる建築・街の情報管理手法の導入 情報管理手法として、3DのGISを導入した。東京 都の都市計画基礎調査(01年)のデータを基本の地形 図とし、民間企業が販売している建物高さのデータ( レーザーによる測量データ)をかけ合わせた3Dデー タを作成した。 2.3地域社会主体のマネジメント体制に関する調査 神田地域の伝統的地域コミュニティ組織(町内会) および近年のネットワーク型コミュニティ組織の実態 調査、および新たなマネジメント主体と目される組織 図2 神田佐久間町3丁目における新旧家族系世帯の人 口構成の比較図 図3 岩本町1丁目における建物類型の分布と職住用途 断面図 の実態調査を行った 3.研究の成果と課題 ①神田地域の実態調査:人口については、近年の 集合住宅建設により、既存の住民構成(少子高齢化 )とは違う構成の住民(若年層、ファミリー世帯) が地域に多く流入していることが明らかとなった( 図2)。ただし空間的には新規居住者も含めた居住 空間は高層化した街の中で分断化されている(図3 )。今後は本年度得た建物に関するデータの分析を 以上の分析に加え、より総合的な空間的実態の分析 を行っていくことが課題である。 ②GISの導入:PASCAL-URBAN Viewerというアプリ ケーションをもちいて、図4に例示するデータベー スを作成した。作業を通じて、コンピューター上に 生成されたデータと現実との相違が多く明らかとな った。測量精度の問題、建物更新の速度の問題など が原因と推察され、今後現地踏査の結果をもとに、 コンピューター上のデータを修正、作成していく作 業が引き続き必要である。また、登記簿や建築確認 申請のデータと現実の違いも多く明らかとなった。 違法建築が多く存在すること、違法の増築が多いこ 図4 GISのインターフェイス 図5 神田地区の町会位置図 となどが原因と推察され、実態調査の結果に即した 今後の修正作業を要する。 ③地域社会主体のマネジメント体制:神田祭りをソ フトとした町会の社会的な結びつき(ソーシャルキャ ピタル)が大きいことが明らかとなった。町会は地域 の中の細かい単位毎に活動を行っており(図5)、き めの細かい「賦活・再生」の担い手として期待される 。一方で、街の賦活・再生を公益的なビジネスモデル を構築して展開していこうとするグループの活動も明 らかとなり、今後は町会とこれらのグループとの体制 を構築していくための具体的な検討を要する。 東 京都立大学 2 1 世紀 C O E プ ロ グ ラ ム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis B21 コンバージョン建築の総合的検討とケーススタディ Comprehensive Study on Architectural Conversion and Case Studies 小林 克弘(教授) 木下 央(助手) 三田村 哲哉(COE 研究員) 椎橋 武史、小川 仁(大学院生) 高橋 由希(研究生) Katsuhiro KOBAYASHI (Professor), Akira KINOSHITA (Research Associate), Tetsuya MITAMURA (COE Research Associate) Takeshi SHIBASHI, Hitoshi OGAWA (Graduate Student), Yuki TAKAHASHI (Research Student) ABSTRACT The aim of this research is to examine possibilities of conversion in architecture, through actual design process of converting the usage of existing buildings, and investigation of significant examples, both domestic and overseas. In the academic year of 2003, a case-study to redesign an office building in Kanda area was made, proposing three basic ideas of living and working: small office, SOHO, and house-sharing. Recent examples in Italy were investigated as well. キーワード:コンバージョン、ケーススタディ、事例調査 Keywords: Conversion, Case study, Survey 1)はじめに 本研究課題では、2003年度には都市施設のコンバー ジョン検討と国内外の事例調査研究を行った。前者 は具体的なオフィスビルを対象としたケーススタディ であり、初期段階の設計提案を複数案作成することに よって、様々なコンバージョンの可能性を探った。 また平行して行った国内外のコンバージョン建築事 例調査に関しては、ケーススタディと関連の深い国 内事例およびイタリアにおける事例を対象とする調 査を行った。国外調査の一部は建築学会大会発表梗 概4編にまとめた。 2)コンバージョンのケーススタディと関連国内事例 2003年度は、他の研究課題の対象でもある神田地区 に立地するオフィスビル「神田Yビル」 (S 造/地上 7 1) 階/地下 1 階) を主たる対象として、コンバージョ ンの多角的ケーススタディを行った 2) 。以下、検討お よび設計提案の概要を述べる。 □地域の特性から見たプログラムの検討 神田の地域特性を調査し、地域に相応しい建築プロ グラムを検討した結果、居住用途からオフィス用途ま での幅の間で幾つかの方向性が得られた。特に職住を 混在させ、その境界を曖昧にした使い方に、この地域 での需要という点での可能性があると判断した。 □基準階でのコンバージョン案検討 第一段階ではまず基準階を対象としてコンバージョ ンの可能性を探り、オフィスと住居の混合使用を念頭 に置きつつ、計6案を作成した。 A:複数の使用者が空間を共用するスモールオフィス・ タイプ 2案(図1、2) 個々のオフィススペースを小割化することにより若 年企業者の投資を軽減し、共有空間などのデザイン を通じて、フロア共有のメリットを最大限生かす。 B:住居としても使用可能な SOHO タイプ3案(図3) 多様化する仕事のスタイルを可能とする SOHO タイ プの提案。仮眠スペースやシャワーを個室内に設け、 仕事場と住居の境界が曖昧にすることによって、選択 的使用を可能にする。 C:ハウスシェアリングタイプ 1案(図4) 交通の利便性が高く、かつ大学が多く存在するとい う地域性と近年のシェアリングに対する関心の高さか ら、フロアをシェアして住まうことを積極的に取り入 れた計画である。 □全棟コンバージョンの提案および今後の課題 第二段階では、ビル全体を対象としたコンバージョ ン案の検討を行うことを通じて、法的・技術的 問題、 地域との関係やセキュリティの問題、また管理運営形 態などについて考察を深めた。今後、より詳細かつ多 面的に検討を進める予定であるが、今後の検討課題と しては建築空間的スタディに加えて、サブリースな 「神田Yビル」ケーススタディー例 (図1) (図2) (図3) (図4) 東 京都立大学 2 1 世紀 C O E プ ロ グ ラ ム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis どを含めたビル全体の管理運営形態に関する方法論 の検討が不可欠であり、地域特性と需要の関連およ びコンバージョンの地域への影響などに関する考察 も深める必要がある。 □国内の事例調査 コンバージョンの具体的検討に平行して、東京にお ける最新のコンバージョン建築事例である、アンテニ ア御茶ノ水、ラティス青山、神田レン・ベースなどを 実地調査することで、有用な知見を得ると共に、大阪 南船場・南堀江地区における街づくりに対するコン バージョンの貢献についても実地調査を行った。 3)イタリアにおけるコンバージョン建築事例 □研究の目的と方法 3) イタリアは、古い建築物の増改築を伴う有効利用で は長い歴史を持つ。また 1960 年代に歴史的中心部の保 存が決定し、近代的なスクラップ・アンド・ビルドの建 築計画が見直されるとともに、単なる修復ではなく、既 存建築に新しい機能やデザインを重層させ再生させる 手法が盛んに行われることになった 4)。以上のような背 景から、コンバージョンにおける多様なデザイン手法 に関する理解と考察を深めるため、イタリアにおける 近年の建築コンバージョン事例を幅広く把握した上で、 優れた事例については現地調査を行った。 事例の収集に際しては、イタリア国内で発行された建 築雑誌3誌 5) の 1990 年 1 月から 2004 年 2 月までの期間 の号を調査し、明らかに用途上の変更を含んでいる事例 97件を得た。その中からデザイン手法に関して特徴的な 内容を含んでいると判断される 27 事例を選び、現地調 査対象とした。また、可能な限り関係者からのヒアリン グを行うことで、文献や写真では把握しにくいコンバー ジョン事例の実態を明らかにする努力を払った。 □転用前用途 6) 分類と転用後用途との関係 対象とした 97 事例を転用前用途において、工場・倉 庫といった生産活動に使用された「産業系」、パラッ (表 1 )転用前/転用後用途分類に基づく事例数マトリクス 転用後 転用前 産 業 系 ( 42) スタ ジオ 系 商業 系 居住 系 公 共 系 ( 17) 展示 系 公共 系 計 2 工場 11 3 1 7 4 28 5 1 2 2 3 1 14 パラッツォ 2 3 1 1 8 1 16 2 2 2 2 1 城 1 集合住宅 4 農家 1 4 1 1 6 4 1 11 1 教会 3 2 病院 1 2 3 4 4 複合施設 2 映画館 その他 計 24 11 8 4 注釈 1) この事例は、大成建設株式会社とのコンバージョン共同研究において、研究・検討 対象として提供を受けたものである。 2 ) このスタディにおいては、苗村、比嘉、中西、篠田、許、坂本、青木、秋山、長谷 川、村山、千賀、佐々木他の協力を得た。 3 )本研究では、井上めぐみ、黒橋秀治、佐々木章行、千賀順の協力を得た。 4 )イタリアの歴史的中心部の保存・再生の経緯は以下の書籍に詳しい。パオラ・ファリーニ + 植田暁編、陣内秀信監修、 「イタリアの都市再生」 、 「造景」別冊 1、1998 年 5)アビターレ Abitare、カサベラ Casabella、ドムス Domus 6 )イタリアでは、数度に渡りコンバージョンが繰り返されている場合が少なくない。本稿に おいて「転用前用途」とは、文献調査・ヒアリングなどにより把握できる限りにおける建設最 初期の用途を指すこととする。 各分類の代表的事例 ホー ル系 倉庫 修道院 居 住 系 ( 38) 飲食 系 ツォ・修道院など生活空間が主用途であった「居住 系」、教会・病院など公的な活動を担っていた「公共 系」の3種に分類した。さらに転用後用途との関係を 示すマトリクスを作成した(表1)。 産業系からのコンバージョンが、特にミラノやトリ ノなどイタリア北部の都市において多く見られた。そ こには、歴史的中心地区の外縁に 19 世紀から 20 世紀に かけて建設され、その後使用されなくなった工場や倉 庫が、その立地などの有効性を見直され、現代的用途に 転用されているという背景がある。特に建築家や芸術 家のスタジオなど製作作業が主体となるアトリエに転 用されるものが多く、高い天井高の一室空間を効果的 に利用する傾向がある(図5) 。 居住系では、美術館・博物館など展示施設への用途転 用が多い。特にパラッツォ建築に顕著で、比較的小規模 な室が並び、ところどころにホールなどの大きな空間 も備えるという構成上の特性が、展示という機能に上 手く適合している(図6) 。 公共系は転用後も公共建築となるものがほとんどで ある。これらには都市における象徴性を有したものが 多く、私的所有になりにくいという背景がある。古くは 古代ローマ時代の遺構など、歴史的建造物の転用・再構 築もあり、それらの持つ歴史的意匠や風格を効果的に 利用したデザインが特徴的である(図7) 。 また3分類を通して、展示施設への転用が多い。イタ リアの膨大な美術・文化史料を収蔵するとともに、既存 建築物自体が歴史的資料としての展示物となる場合 も多い(図8)。 4 5 (図3)工場からスタジオへの転用 (Lissoni Associates, Milano) (図4)パラッツォから展示施設への転用 (International Museum of Modern Art, Venezia) (図6)病院から図書館への転用 (State Archive, Torino) (図8)倉庫から展示・複合施設への転用 (Tuscola Museum, Frascati, Roma) 2 1 2 3 27 19 97 * 網掛けは各分類において 1 0 %以上を占めるものを示す。 * 転用後用途の詳細は下記の通りである。 スタジオ系:事務所、スタジオ・アトリエ 商業系:ショップ、ショールーム、ブティッ ク 居住系:個人住宅、集合住宅、ホテル 飲食系:レストラン、ディスコ、食料品店 ホール系:コンサートホール、劇場 展示系:美術館、博物館、ギャラリー 公共系:学 校、図書館など 東京都立大学 21 世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis [2004/06/01] 制振手法による既存構造物の耐震性能向上 B22 −連結制振構造の基本特性− Improvement of Seismic Performance of Existing Structures Using Response Control Method – Response Reduction Characteristics of Coupled Vibration Control Structures – 山崎 真司(教授) 見波 進(助手) 田原 健一(大学院生) Shinji YAMAZAKI (Prof.), Susumu MINAMI (Res. Assoc.) and Kenichi TAHARA (Graduate Student) ABSTRACT The response control method is effective for the improving the seismic performance of existing structures. The response reduction characteristics of coupled vibration control structures were investigated with regard to their translational mode vibrations on the basis of theory and numerical analyses. As a result, the influences of the combination of the period, mass and stiffness of two structures coupled to each other upon the vibration control effects as well as the condition of optimum dampers were made clear. キーワード: 1 連結制振, 最適ダンパー keywords: coupled vibration control, optimim damper 2.2 解析条件 はじめに 制振手法は既存建築の耐震性能の向上に対して有効な 一自由度系建物 2 棟を並進振動のみが生じるように連 方法で、適切な利用により大幅な構造体の変更を伴う建 結したモデルを用いる。建物ばねは弾性とし、連結する 物更新も可能となる。 二棟のうち長周期側を棟 1、短周期側を棟 2 と呼ぶ。 制振手法には幾つかの方法があり、それらは単独ある いは組み合わせて利用される。実プロジェクトに対する 事例検討を通して架構特性に適した制振手法の選択や 組合せの方法と性能評価法について研究する予定である が、現在はその一環として,制振手法のひとつである連 結制振構造について、その基本性能を明らかにするため の研究を進めている.本稿では、2棟連結制振構造の並 二棟の建物の振動特性の関係を、次式による質量比 m、剛性比 k 、および周期比 t で表す。 m = M2 /M1 k = K2 /K1 t = T2 /T1 Mn : 棟 n の質量 ここで、 Kn : 棟 n の剛性 Tn : 棟 n の周期 進振動に関する基本特性を、理論および数値解析に基づ T1 + T2 = 2.0[s] とし T1 と T2 の値を定める。 き考察した結果について報告する。 建物組合せは、質量比が 0.1 ≤ M2 /M1 ≤ 10、剛性比 2 連結制振構造の並進振動特性 2.1 制振効果指標 11 等分した点について解析を行う。 次式による応答変位比 d を制振効果の指標とする。 Dnmax dn = Dnmax0 ここで、 Dnmax Dnmax0 が 0.1 ≤ K2 /K1 ≤ 10 の範囲とし、この間を等比的に : 棟 n の連結時最大応答変位 : 棟 n の非連結時最大応答変位 図 1 は各パラメータの関係を表したものであり、図中 の • 印で示す 66 通りの建物組合せについて解析を行う。 また図中の幾つかの建物組合せについて、各建物の周期 を図中に示している。 連結制振構造においては片方、または双方の棟を制振 連結部には履歴ダンパーおよび粘弾性ダンパーを用い 対象とする場合が考えられる。片方を制振対象とする場 る。それぞれの建物組合せについてダンパー特性を変化 合はその棟の応答変位比、双方を制振対象とする場合は させて解析を行い (履歴ダンパーのとき 121 通り、粘弾 二棟の応答変位比の平均 d12 (次式) を基に制振効果を考 性ダンパーのとき 242 通り)、最適なダンパー条件時の 察する。 応答を求める。 d12 = (d1 + d2 )/2 入力地動には El Centro 1940 NS 波を用いる。 東京都立大学 21 世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis 2.3 解析結果と考察 2.3.1 履歴ダンパーで連結した場合 T1 [2004/06/01] 10 T2 [s] 図 2(a) は、剛性比、質量比と d1 の関係を等高線図と 1.5 0.5 して表したものである。個々の建物組合せについて、最 1.0 1.0 1.8 0.18 1.5 0.5 1.0 1.0 M2/M1 1.0 T2 1.0 1 1 1 図 2(b) は d2 についてのそれである。図 2(c) は d12 につ 1 /T 適なダンパーで連結した場合の制振効果を表している。 0. いてであり、両棟を制振対象とした場合の制振効果を表 0.1 している。このパラメータの範囲内においては、周期比 が 1.0 以外のいずれの建物組合せにおいても応答変位比 1 0.1 K2/K1 10 図 1: 建物組合せ が 1 以下となっており、周期が同じでないあらゆる二棟 10 1 1 M2/M1 1 1 /T /T 7 0. 7 0. T2 T2 棟 1 を制振対象としたときの d1 は周期比が小さくな M2/M1 低減できることが分かる。 10 0.6 の建物を組合せた場合においても連結することで応答を るに従い低下する。また、等高線が周期比一定の線に対 1 0.6 1 して剛性比軸方向に傾いており、周期比だけでなく剛性 1 0.1 0.1 1 0. 0.9 0.6 0.6 7 0. 5 0.1 0.1 (b) 棟 2 制振時の d2 1 1 0.6 0.6 1 0. 10 K2/K1 0. 7 0. 0. 0.5 1 0.1 ほど低い傾向は履歴ダンパーを用いた場合と同じである 10 K2/K1 0.1 (b) 棟 2 制振時の d2 10 10 1. 0 が、剛性比依存性は履歴ダンパーで連結した場合に比較 1 1 0.8 1 M2/M1 /T /T 1) 連結する二棟のうち長周期側の建物を制振対象と する場合、二棟の周期が離れているほど制振効果が T2 0.9 T2 二棟の周期比と制振効果 M2/M1 して低い。 1 0.9 8 0. 1 1 1 (c) 双方制振時の d12 図 2: 履歴ダンパーで 0.1 0. 0. 10 K2/K1 連結した場合 7 0. 0.6 7 0. 0.9 0.1 6 0. 0.5 0. 7 1 高い。 3 0.3 1 7 1 0. 0.6 0.6 が、全体的に応答変位比は履歴ダンパーを用いた場合に 1:0.2 から 1:0.4 程度のとき最も制振効果が高い。 0.5 0.4 0.9 1 1 /T 履歴ダンパーで連結した場合と同様の傾向が見られる 3) 双方の建物を制振対象とする場合は、周期の比が 0.8 0.7 M2/M1 8 0. 1 ものである。 0.1 10 T2 1 /T 比、質量比と応答変位比の関係を等高線図として表した が 1:0.3 程度のとき最も制振効果が高い。 10 K2/K1 (a) 棟 1 制振時の d1 M2/M1 0.8 T2 図 3(a)∼(c) は、履歴ダンパーの場合と同様に、剛性 2) 短周期側の建物を制振対象とする場合は、周期の比 1 10 2.3.2 粘弾性ダンパーで連結した場合 2.4 0.8 0 .9 0.7 0. 7 1 0. 10 K2/K1 (a) 棟 1 制振時の d1 から 0.4 程度が最も制振効果が高い。 比べて小さい。棟 1 制振対象時の d1 が周期比が小さい 0.3 0.4 0.6 0.1 1 が分かる。双方を制振対象とした場合も、周期比が 0.2 0.9 したときは、周期比が 0.3 程度のとき極小値をとること 0.5 0.8 比の影響を受けていることが分かる。棟 2 を制振対象と 0.1 1 K2/K1 10 (c) 双方制振時の d12 図 3: 粘弾性ダンパーで 連結した場合 おわりに 連結制振構造の並進振動特性について示した。 連結された二つの建物の重心を結ぶ軸に直交する方向 の地動に対しては捩れ振動が励起される。現在、振動台 実験および解析により、捩れ振動特性についての検討を 進めている。振動台実験の概況を図 4 に示す。 図 4: 振動台実験 0.1 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis B23 [2004/06/01] 既存の基礎の再利用化に関する研究 Study on Reuse of Existing Foundation 岸田 慎司(助手) Shinji KISHIDA (Res. Assoc.) ABSTRACT This project collected and investigated properties of reuse example. This paper describes the reuse promotion about reinforced concrete foundations and piles in existing buildings and describes the outlines about the reuse example, the reuse design methods. The current experiment on seismic performance of exterior column-pile foundation beam assemblage was introduced. And then the point at issue was proposed. キーワード:既存鉄筋コンクリート杭,再利用 Keywords: existing reinforced concrete pile, reuse 表-1 1.はじめに 既存杭を再使用するための検討項目 内 地球環境保全の見地から,循環型社会システムの 構築が叫ばれる中、建物の建設に際して,既存の建物 1)諸元,仕様等 必要書類 容 建 築 物 の 設 計 図 書 等に よ ◆確認済証,確認申請副本(構 り,既存杭の諸元,仕様, 造図・計算書) 特記事項 建 設 地 の 地 盤 状 況 及び 基 礎や地下躯体の配置,断面 等が明らかであること. を積極的に利用する例や解体材を再利用する工事が増 既 存 杭 や 基礎が 建 設当時 2)品 質 えてきた.既存杭の利用は現在のところ一般的ではな く,参考となる既存杭利用の実施例や,既往の調査・ 果を蓄積,公表し,工学的,技術的な不明点を明らか にしていくことが一般的に既存杭の再利用を普及させ るものにつながっていくものと考える. 2.既存杭の再利用の実態 建て替えが発生した場合,多くの場合,既存杭は 残したままか,新設杭の施工上において問題となる ◆検査済証 確 認 申 請 時 に調 査 で き ない 場 合 ◆検査済証が無い場合 は,着工後,上部躯体工事の施工 → が確保されていること. 3)維持管理状況 報告を行うこと ◆コンクリートの耐用年数 確 認 申 請 時 に調 査 で き ない 場 合 状 況 が適 切で 劣 化が進ん (JASS5等の文献参照)の考察 は,着工後,上部躯体工事の施工 でなく,部材耐力等が設計 前 に 必 ず 調 査を 行 い 調 査結 果 の 報告を行うこと いること. 4)耐久性について の検討 既存杭や基礎が,新設建物 ◆劣 化状 況 の調 査 およ び報 告 鋼管杭の場合は腐食の程度の の 想 定 使 用年 限ま で健全 書 確認すること ◆杭 の鉛 直 支持 力 及び 構造 細 比較的古い建物(昭和60年以前) 則等 や 小 規 模 の 建築 物 に 関 して は 水 ◆杭の水平抵抗力の検討書 平 抵 抗 力 を 検討 さ れ て いな い こ ◆フーチング,地中梁,地下壁 とが多い であること. 構造計算の検討において, 5)現在の設計基準 現 在 の 設 計手 法に 照らし への適合 て 検 討 さ れ適 合し ている こと. の断面算定書 地 業:場所打ちコンクリート杭 (既存杭5本) 構 造:鉄筋コンクリート造 竣工年月日:2003年 表-2(a) 事例①の検討項目 ①敷地・既存建物からの与条件. ・既存の杭および基礎,地下躯体を再使用する 少ないのが現状である.再利用するには支持力だけ ・地上新築部の柱位置と既存杭位置との対応 その品質が確保されていること等の確認が必要であ る. 2.1 前 に 必 ず 調 査を 行 い 調 査結 果 の 現 在 ま で の既 存 杭の保存 既存杭のみを撤去している.再利用している物件は でなく,既存杭の耐久性や建設当時適切に施工され, 現場での現況調査 時 の 要 求 品質を 維 持して 研究によって明確になっている点に関する情報は少な い.したがって,既存杭利用の実施例や調査・研究結 適切に施工され,その品質 ②地上新築部の計画に,大きな制約条件とならないか. →既存杭を全て含む計画となっている. ③再利用する杭体の強度・耐久性に問題はないか. ・千代田区の「既存杭や基礎を再使用する建築物の扱い」に対応 →検討書で対応する. □ 施工・検査記録が保存されていない為,コンクリート(杭・基礎梁・地下壁)の強度試験, 既存杭や基礎を再利用する場合の諸条件(千 代田区の場合,表-1) 既存の杭・柱・壁の位置の確認を行い,耐久性に対して検討した. □ 杭・基礎梁・地下壁の検討を現在の設計手法に基づいて行った. ④環境への貢献が期待できるか. ・既存杭の再利用. 2.2 事例紹介 文献[2]に準じて,2事例を紹介する.既存建物に ついての情報は得られなかった. (a)事例① 用 途:一戸建ての住宅 場 所:東京都 千代田区 建 物 規 模:地上4階,地下1階 建 築 面 積:52.9m2 →建設廃材の排出量削減.再利用による騒音,振動の抑制.省資源,省エネ. (b)事例② 用 途:共同住宅 場 所:東京都 千代田区 建 物 規 模:地上12階,地下1階 建 築 面 積:221.29m2 地 業:場所打ちコンクリート杭 (既存杭11本,新設杭11本,無効杭1本) 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis 構 造:鉄骨鉄筋コンクリート造 竣工年月日:2002年 表-2(b) 事例②の検討項目 ①敷地・既存建物からの与条件. 資料なし ②地上新築部の計画に,大きな制約条件とならないか. ・地上新築部の柱位置と既存杭位置との対応 →既存杭を含む計画となっている.ただし,既存杭1本は使用せず,11本を新設する. ③再利用する杭体の強度・耐久性に問題はないか. ・既存杭の耐力における取り扱い,場所打ちコンクリート杭の支持力・引抜抵抗力,水圧の考 慮. →基礎,地業計画は妥当なもとと考える.(杭の偏心による基礎梁の応力算定及び断面算定) ④環境への貢献が期待できるか. ・既存杭の再利用. →建設廃材の排出量削減.再利用による騒音,振動の抑制.省資源,省エネ. 2.3 既存杭を撤去するデメリット 既存杭を抜いた箇所の地盤条件は地山よりゆるい [2004/06/01] 試験体ともにアンカー筋の抜け出しによって最大耐 力に至ったと考える.正と負で最大層せん断力が異 なり,フーチングが引張側となる場合にはフーチン グせいが大きい方が最大耐力は大きくなるが,圧縮 側となる場合には逆に小さくなる. 3.2 実験結果の考察 現在の設計において,フーチングせいと杭頭部の アンカー筋の定着長の関係に対しては何の規定も無 いのが現状である.今回の実験結果より杭が健全で あっても杭頭結合部の設計が不十分な場合には十分 な耐震性能を発揮しない場合があることがわかり, 今後さらなる検討を進める必要があると考える. 150 する場合には,孔曲がりや孔壁の崩壊,セメントミル 100 クやコンクリートの食い込み量が増えるなどの現象が 50 層せん断力(kN) 状態となっている.このような場所に新たな杭を施工 生じる.既存杭を抜いた箇所が地山より硬くなってい る場合でも,施工時に杭芯ズレや孔曲がりなどのトラ ブルが生じる場合もある. -50 ① ⑥ ④ -150 -4 撤去した杭孔の影響により山留め壁の受働側の抵抗が θ -2 △:梁曲げひび割れ発生時 ×:接合部せん断ひび割れ発生時 ② □:杭頭部圧壊 0 層間変形角(%) 2 4 フーチングせいが普通の場合 や建物にも影響を及ぼすことが考えられる. 150 ② ○最大層せん断力: 107.2(正) ① -117.3(負) 100 層せん断力(kN) 3.今後考えられる問題点 既存杭に関する竣工時の設計図書や検査済証さら には施工時の工事記録が保存されていない場合には, 3.1 柱・基礎梁・杭からなるト型部分架構実験 -50 ⑥ ④ -4 -2 フーチングせいが高い場合 図-1 最終破壊状況 されていない実施設計例が多々見られる.そこで, る.詳細は文献[3]を参照のこと. ⑥ ② -150 合部の詳細が最も重要な項目の一つである.しかし, 以下に杭頭結合部の性能実験を行った結果を紹介す ④ 0 -100 なっている.杭基礎の耐震設計においては,杭頭結 討した設計例が明記されておらず,そのような検討が 50 (b)Sp3 ① 表-1にあるように現場での現況調査を行うことに アンカー筋の付着強度や定着長,フーチングせいを検 (a)Sp2 0 -100 また,山留め壁を設けて掘削工事を行う場合には, 低下し,山留め壁の変形が大きくなるなど,周辺地盤 θ ○最大層せん断力: ② 93.4(正) -133.6(負) ① ④ ⑥ 0 層間変形角(%) 2 図-2 層せん断力-層 間変形角関係 4.まとめ 今後,再利用の実績を上げるためには,実例を公 表および蓄積することが必要であると考える.また, ここではフーチングせいの違いの比較をする.実 今後施工する杭に関しては設計資料および施工記録 験終了時のひび割れ状況を図-1に示す.なお,正 を保存することが必要不可欠ではないかと考える. 加力時には基礎梁の下端が引張となる.両試験体と さらには再利用に必要な設計手法(杭頭結合部を含 も,加力方向によってひび割れ状況が異なっている めた)も確立していくことが望まれる. のがわかる.最大耐力時以降,両試験体ともに杭頭 部のフーチングの圧壊によって杭の回転変形が大き くなり,最終的な破壊形式は杭頭部のアンカー筋の 抜け出し破壊である.これはアンカー筋の定着長さ (15.6d)が適切でなかったものと思われる. 層せん断力-層間変形角関係を図-2に示す.両 4 □参考文献 1)犬飼瑞郎:建築物の既存鉄筋コンクリート造基礎杭の再 利用について,コンクリート工学,Vol.41, No.11, pp.3~8, 2003.11 2)建築業協会:既存杭利用の手引き,平成15年2月. 3)岸田慎司,他2名:柱・基礎梁・杭からなるト型部分架構 の耐震性能に関する実験的研究,日本建築学会大会学術講 演梗概集,投稿中,2004.8. 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis [2004/06/01] 資産価値評価手法 B24 Assets Value Assessment Tool of Building Stocks 角田 誠(助教授) 門脇 耕三(助手) 田村 誠邦(協力者,(株)アークブレイン) Makoto TSUNODA (Assoc. Prof.) Kozo KADOWAKI(Res. Assoc.) And Masakuni TAMURA (COE Collaborator, ARC Brain) ABSTRACT Conversion of building stocks is effective technique to not only lead the preservation and the improvement of building facilities but also activate city areas. The purpose of this project is to systematize the assets value assessment tool of office building stocks for conversion to other functions. In this year, the investment value for conversion, - the vacancy of office, the rent fee between office and dwellings in the downtown of Tokyo - was grasped. キーワード:資産価値、コンバージョン、レントギャップ 1.はじめに Keywords: assets value, conversion, rent gap 2.調査概要 持続形社会の構築が叫ばれるなか、2003年問題や都 本年度は、都市としてのコンバージョンポテンシ 心居住志向などの社会状況は、都心部におけるコンバ ャルを把握するため、東京都内の3地域を対象に、 ージョンを誘発する大きな推進力となっている。民間 既存ストックの不動産的価値(investment value)に関 建築物の場合、既存ストックをいずれの用途に転換す わるデータ収集・分析を行った。調査対象は、神田 るにせよ、コンバージョンの動機付けの根本は資産価 地区、秋葉原地区、目黒地区の地域であり、不動産 値の維持・向上を実現するための事業の成立性にある 情報提供会社HPの2004年1月分募集物件より、貸オ ことは言うまでもない。 フィス、賃貸住宅の規模、月額賃料、管理費・共益 建物経営面、事業性で見ると、現状のオフィスビル 費、最寄り駅からの距離などのデータを収集した。 から住宅へのコンバージョンは、事務床賃料と居住床 さらに、対象3地域の特性を把握するために、東京 賃料とのレントギャップ(事務床<居住床)といった 圏(千代田、中央、港新宿、渋谷の都心五区)のオ 即時的な問題解決を主たる動機として行われている。 フィスマーケット関係(オフィス賃料の推移、オフ 個々のオーナーが「手持ちの物件を何とかしたい」と ィス空室率の推移、オフィス供給量の推移)、賃貸 いう目的意識は十分に理解できるが、長期的な視野に 住宅マーケット関係(着工数の推移、住宅賃料の推 立ったベースビルの保有性能やコンバージョンコスト、 移)のデータを収集した。 再コンバージョンの可能性など、個別建築物に対する 垂直展開的な検討がなされなければ、対処療法的なス 3.分析および考察 トック活用手法に止まる可能性を否定できない。また、 3.1 都心5区のオフィス供給状況 個々のコンバージョン事業を面的に展開し検討しなけ オフィス床の坪当たり賃料、およびオフィスの空 れば、虫食い的な都市構造をさらに助長することにも 室率の推移を図1,2に示す。2002年以降、平均賃 繋がり、都市の賦活に対し有効な手法にはなり得ない。 料は下がり続けている。空室率の増加に伴い賃料水 本プロジェクトでは、建物経営的視点にとどまらな 準が下降する傾向が見られるが、最新のデータでは いコンバージョンの様々な効果を示すとともに、それ 空室率もほぼ落ち着きを見せている。これらの結果 をベースビルディングの潜在的価値として適切に評価 には所謂2003年問題が大きく関係しているわけであ する手法を構築することを目的としている。あわせて、 るが、今後のオフィス需要のあり方が両者のトレン 都市の賦活に不可欠な地域環境に対するインパクトな ドを左右することは言うまでもない。空室率につい どを、コンバージョンのlocation/allocation要素ととら ては、一定規模以上のオフィスビルの動向を把握し え、building capacity(B25)と統合することにより、よ ているに過ぎない。特にコンバージョンの場合、対 り実用性の高い評価手法を提示する。 象規模(オフィス一棟全て、部分的なフロアのみ、 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis 円/月坪 平均 新築ビ ル 既存ビ ル 千代田区 中央区 港区 都心5区平均 新宿区 渋谷区 千代田区 [2004/06/01] 中央区 港区 新宿区 渋谷区 % 10.00 29,000 27,000 8.00 25,000 6.00 23,000 21,000 4.00 19,000 2.00 17,000 15,000 0.00 199712 199812 199912 200012 200112 200212 200312 200404 199712 199812 199912 200012 200112 200212 200312 200404 図2 都心5区のオフィス空室率の推移 図1 都心5区のオフィス床賃料の推移 円/月坪 \35,000 \35,000 \30,000 \30,000 \25,000 \25,000 \20,000 \20,000 \15,000 \15,000 ここでは、オフィスおよび住宅の立地性を示す指 \10,000 \10,000 標である月額賃料を取り上げ、コンバージョンの事 \5,000 \5,000 業性を考察する。図3~5に3地区の募集床面積と \0 など)で事業条件が大きく異なってくる。現状では 個別オフィスビル単位での空室率データが存在して おらず、詳細な把握は今後の課題となる。 3.2 対象地区のオフィスおよび住宅の供給状況 0 坪当たりの月額賃料の関係を示す。オフィスを見る 10 20 30 坪 \0 0 \35,000 \35,000 かわらず設定されていることがわかる。一方、目黒 \30,000 \30,000 \25,000 \25,000 \20,000 \20,000 \15,000 \15,000 \10,000 \10,000 \5,000 \5,000 最寄り駅からの徒歩分、築年数などが影響している と考えられる。またこの地区は他地区と比べ、平均 で3000円ほど高くなっている。 レントギャップ(図6)は神田地区で大きく見られ、 秋葉原地区でも近傍丁目では賃料の顕著な差違が確 \0 0 10 20 30 0 円/月坪 \30,000 \30,000 \25,000 \25,000 \20,000 \20,000 ければならない。また賃料以外の指標、例えばオフ \15,000 \15,000 ィスならば公的機関への移動時間などの利便性、住 \10,000 \10,000 宅ならば教育・医療機関への移動時間や騒音・治安 \5,000 敷金、保証金などは考慮されていない点に注意しな などの環境安全性について総合的に検討しなければ、 コンバージョン事業の妥当性は評価できない。 今年度の成果はコンバージョンによる都市の賦活 に対し、具体的な対象地域を選定するための立地ポ テンシャルの把握に止まっている。得られた知見よ り、3地区にはそれぞれコンバージョンの援用方法 が異なる立地特性を有するものと判断でき、今後は 地区内の街区レベルに対象を絞り込み、都市的視点 0 10 20 30 30 20 30 \0 坪 0 10 図5 目黒・中目黒地区 募集床面積と坪当たり月額賃料 住宅賃料 レントギャップ \20,000 \15,000 \10,000 \5,000 \0 秋葉原 神田 目黒・中目黒 \-5,000 図6 3地区のレントギャップ 地域区分 も加味した建築ストックの総合的評価手法に不可欠 神田地区 な要件を抽出するための詳細な調査を行う。 秋葉原地区 データ出所 オ フ ィ ス 賃 料 http://www.officenavi.com/ 2004年 1月 17日 現 在 募 集 物 件 よ り 抽 出 住 宅 賃 料 http://www.chintai.co.jp/, http://www.isize.com, http://www.athome.co.jp/ 2004年 1月 募 集 物 件 よ り 抽 出 20 \5,000 \0 オフィス賃料 4.今後の課題 10 図4 神田地区 募集床面積と坪当たり月額賃料 \35,000 みの比較であり、賃借に付随する共益費・管理費や 30 \0 坪 \35,000 認された。ここで、レントギャップは純粋な賃料の 20 円/月坪 と、神田、秋葉原の両地区の賃料は募集床面積にか ・中目黒地区は多少のばらつきが見られ、これには 10 図3 秋葉原地区 募集床面積と坪当たり月額賃料 神田須田町・神田鍛冶町・神田多町・神田司町・内神田・神田淡路町・神田美土代町 外神田・東神田3・神田佐久間町・神田佐久間河岸 神田平河町・神田和泉町・神田松永町・神田花岡町・神田相生町・神田練塀町 目黒地区 目黒駅、中目黒駅、恵比寿駅より徒歩10分圏内 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis B25 [2004/06/01] 住宅へのコンバージョンにおける ベースビルディングのキャパシティ分析 Capacity Analysis of Base Building in Converting into Residential Building 門脇 耕三(助手) 深尾 精一(教授) 鈴木 啓之(学部生) Kozo KADOWAKI (Res. Assoc.), Seiichi FUKAO (Prof.) and Hiroyuki SUZUKI (Undergrad.) ABSTRACT The long use of building has increasingly come into important with the rise in demand for sustainability of the built environment. Converting office building or the like into residential building is effective in long use and activation of the building. On the occasion of building conversion, the choice range in laying out, equipping and finishing space depends on a capacity of base building. The objective of this research is to build an evaluation method of base building capacity in converting into residential building. キーワード:ベースビルディング,キャパシティ 1. はじめに 現在、オフィスビルなどの住宅へのコンバージョン が、都市を活性化する手法として注目を集めているが、 住宅へのコンバージョンを行う際には、ベースビルデ ィング 注1) のキャパシティがコンバージョンの成立可 Keywords: Conversion, Base Building, Capacity ョンが行われた事例の図面を収集し、ベースビルデ ィングの特性が住戸割などに及ぼす影響を把握した。 3. 住戸レベルでのキャパシティ分析 まず、我が国において1980年以降に建設された中高 層集合住宅、160事例の図面を収集した。これらの中 能性や事業性などを大きく左右するものと考えられる。 から、1住棟につき1住戸を抽出し、分析の対象とした。 ベースビルディングのキャパシティとは、ベースビル 次に、住戸各部の計画上の特性を表すと考えられる、 ディングがどのようなコンバージョン計画を受容する 多数のデータ項目を図面から測定した。さらに、量的 ことが出来るのか、などといったことを表す。つまり、 項目については、相関係数行列を作成の上、相関の強 コンバージョン計画には、階高や採光条件など、ベー さや、その意味などについて検討した。 スビルディングの様々な特性が大きく影響を及ぼすも 表1に、相関係数行列の一部を示す。ここに示した のと考えられる。本研究は、住宅へのコンバージョン 項目は、断面計画に関する項目、設備計画に関する項 におけるベースビルディングのキャパシティ評価手法 目、平面計画に関する項目に大別することが出来る。 を確立することを最終的な目的とするが、平成15年度 断面計画に関する項目の中で、最も多くの項目と強 は、特にベースビルディングの特性がコンバージョン い相関が認められるのは、スケルトン天井高、すなわ 計画に及ぼす影響を定量的に把握することを試みた。 ち、階高からスラブ厚を減じた値であるが、スケルト 2. 研究概要 ン天井高と直接の相関関係にある項目は、天井懐、天 ベースビルディングのキャパシティには、住戸レ 井高、床懐といった項目であり、他はその間接効果で ベルのキャパシティと、建物レベルのキャパシティ あると考えられる。例えば、設備機器と排水竪管の最 の2つを想定することが出来る。そこでまず、住戸 大距離と、床懐の最大値との間には強い相関(0.57) レベルのキャパシティ分析を行うため、我が国にお が認められることから、階高の増大の間接効果として、 いて1980年以降に建設された中高層集合住宅を対象 設備機器配置の自由度が向上することが考えられる。 とし、躯体の特性が住戸計画に及ぼす影響を把握し また、設備機器と排水竪管の最大距離と、排水竪管の た。この分析は集合住宅を対象としたものではある 数の間には強い負の相関(-0.58)があり、横引管を が、住宅へのコンバージョンに際しての様々な有用 長く引き廻せない場合は、排水竪管を局所的に計画す な知見が得られるものと考えられる。 ることによって、水廻りの平面計画への対応がなされ 次に、建物レベルでのキャパシティ分析を行うた ているものと考えられる。住宅へのコンバージョンの め、イギリス、スイス、フランス、アメリカ、オー 際にも同様に、階高や確保可能な床懐は、コンバージ ストラリアの5カ国において、住宅へのコンバージ ョン計画の難易度を大きく左右すると考えられる。 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis 表1 住戸計画の特性を表すデータ項目の相関係数行列 0≦| r |≦0.2 断面計画に関する項目 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 スケルトン天井高 標準天井懐 標準天井高 標準床懐 最大床懐 スラブ段差 スラブ下がり面積 最大床段差 排水竪管-設備機器最大距離 水廻り平面形状複雑度指数 水廻り-外気面最短距離 排水竪官数 住戸内排水竪官率 専有面積 住戸平面形状複雑度指数 単位面積あたりの採光可能壁面長 個室面積総計 / 専有面積 公室面積総計 / 専有面積 無窓区画面積 / 専有面積 無窓個室面積 / 個室面積総計 無窓公室面積 / 公室面積総計 無窓水廻り面積 / 水廻り面積総計 個室数 1 1.00 0.63 0.24 0.72 0.70 0.69 0.67 -0.54 0.53 0.29 0.07 -0.38 -0.34 0.25 -0.09 -0.08 -0.19 0.16 0.06 -0.03 0.03 0.01 -0.01 2 0.63 1.00 -0.18 0.21 0.34 0.33 0.25 -0.20 0.34 0.28 0.10 -0.22 -0.29 0.27 -0.02 -0.10 -0.24 0.21 0.06 0.11 -0.07 -0.05 0.00 3 0.24 -0.18 1.00 -0.18 -0.16 -0.05 -0.06 -0.01 -0.07 0.14 0.05 -0.01 0.12 0.18 0.01 0.00 -0.12 0.11 -0.01 -0.04 -0.01 0.05 0.11 4 0.72 0.21 -0.18 1.00 0.82 0.76 0.75 -0.58 0.52 0.06 -0.05 -0.35 -0.32 -0.03 -0.14 0.00 -0.06 0.05 0.03 -0.12 0.09 0.01 -0.15 5 0.70 0.34 -0.16 0.82 1.00 0.86 0.67 -0.50 0.57 0.09 -0.05 -0.44 -0.41 0.09 0.04 0.07 -0.03 0.00 -0.06 -0.13 0.05 -0.05 -0.08 6 0.69 0.33 -0.05 0.76 0.86 1.00 0.83 -0.71 0.61 0.07 -0.01 -0.45 -0.44 0.12 -0.02 0.08 -0.07 0.06 -0.10 -0.12 -0.04 -0.05 -0.06 [2004/06/01] 0.2<| r |≦0.2 設備計画に関する項目 7 0.67 0.25 -0.06 0.75 0.67 0.83 1.00 -0.69 0.58 0.03 -0.02 -0.43 -0.40 0.16 -0.06 0.04 -0.07 0.08 -0.07 -0.04 -0.07 -0.04 -0.02 8 -0.54 -0.20 -0.01 -0.58 -0.50 -0.71 -0.69 1.00 -0.41 -0.03 -0.03 0.26 0.17 -0.11 0.06 -0.05 0.03 0.00 0.06 0.11 0.05 0.04 0.04 9 0.53 0.34 -0.07 0.52 0.57 0.61 0.58 -0.41 1.00 0.04 0.00 -0.58 -0.57 0.22 -0.16 -0.13 -0.07 0.11 0.00 -0.03 0.02 0.03 0.08 平面計画に関する項目の中で、特に重要な項目は、 住戸の単位面積あたりの採光可能な壁面の長さである。 10 0.29 0.28 0.14 0.06 0.09 0.07 0.03 -0.03 0.04 1.00 0.08 0.12 0.00 0.13 0.06 -0.06 -0.01 -0.02 0.04 0.08 -0.06 0.06 0.10 11 0.07 0.10 0.05 -0.05 -0.05 -0.01 -0.02 -0.03 0.00 0.08 1.00 -0.01 0.27 0.00 -0.23 -0.40 -0.09 0.09 0.22 0.12 0.01 0.50 0.09 13 -0.34 -0.29 0.12 -0.32 -0.41 -0.44 -0.40 0.17 -0.57 0.00 0.27 0.43 1.00 -0.23 -0.07 -0.19 -0.04 0.04 0.18 0.06 0.14 0.23 -0.07 14 0.25 0.27 0.18 -0.03 0.09 0.12 0.16 -0.11 0.22 0.13 0.00 -0.08 -0.23 1.00 0.31 0.16 0.02 0.00 -0.33 -0.02 -0.34 -0.20 0.64 15 -0.09 -0.02 0.01 -0.14 0.04 -0.02 -0.06 0.06 -0.16 0.06 -0.23 0.06 -0.07 0.31 1.00 0.47 0.15 -0.16 -0.40 -0.01 -0.33 -0.29 0.21 16 -0.08 -0.10 0.00 0.00 0.07 0.08 0.04 -0.05 -0.13 -0.06 -0.40 0.11 -0.19 0.16 0.47 1.00 0.27 -0.22 -0.74 -0.27 -0.51 -0.61 0.22 17 -0.19 -0.24 -0.12 -0.06 -0.03 -0.07 -0.07 0.03 -0.07 -0.01 -0.09 0.05 -0.04 0.02 0.15 0.27 1.00 -0.91 -0.38 -0.21 0.01 -0.20 0.61 0.7<| r |≦1.0 18 0.16 0.21 0.11 0.05 0.00 0.06 0.08 0.00 0.11 -0.02 0.09 -0.04 0.04 0.00 -0.16 -0.22 -0.91 1.00 0.31 0.17 -0.01 0.14 -0.52 19 0.06 0.06 -0.01 0.03 -0.06 -0.10 -0.07 0.06 0.00 0.04 0.22 -0.01 0.18 -0.33 -0.40 -0.74 -0.38 0.31 1.00 0.37 0.65 0.57 -0.40 20 -0.03 0.11 -0.04 -0.12 -0.13 -0.12 -0.04 0.11 -0.03 0.08 0.12 0.02 0.06 -0.02 -0.01 -0.27 -0.21 0.17 0.37 1.00 -0.19 0.09 -0.06 21 0.03 -0.07 -0.01 0.09 0.05 -0.04 -0.07 0.05 0.02 -0.06 0.01 -0.05 0.14 -0.34 -0.33 -0.51 0.01 -0.01 0.65 -0.19 1.00 0.27 -0.24 22 0.01 -0.05 0.05 0.01 -0.05 -0.05 -0.04 0.04 0.03 0.06 0.50 0.00 0.23 -0.20 -0.29 -0.61 -0.20 0.14 0.57 0.09 0.27 1.00 -0.16 23 -0.01 0.00 0.11 -0.15 -0.08 -0.06 -0.02 0.04 0.08 0.10 0.09 -0.01 -0.07 0.64 0.21 0.22 0.61 -0.52 -0.40 -0.06 -0.24 -0.16 1.00 ベースビルディングの単位面積 あたり採光可能壁面長(m/m2) ベースビルディングの単位面積 あたり採光可能壁面長(m/m2) -2 -2 14 ×10 14 ×10 相関係数:0.91 この項目は、住戸において無窓の区画が占める割合と 強い負の相関(-0.74)を示しており、住戸の居住性 12 -0.38 -0.22 -0.01 -0.35 -0.44 -0.45 -0.43 0.26 -0.58 0.12 -0.01 1.00 0.43 -0.08 0.06 0.11 0.05 -0.04 -0.01 0.02 -0.05 0.00 -0.01 0.4<| r |≦0.7 平面計画に関する項目 相関係数:-0.36 10 10 6 6 に大きく関わる項目である。また、住戸の個室数や、 個室に充てられる面積の割合とも弱い相関が認められ、 間取りの自由度などにも影響を及ぼしているものと考 えられる。これらの結果をより詳細に分析することに よって、ファミリータイプの住戸を計画しやすいもの、 SOHO型住戸を計画するのに向くものなど、どのよう なコンバージョン計画に適したベースビルディングで 2 4 ×10-2 8 12 16 住戸の単位面積あたり 採光可能壁面長(m/m2) 図1 ベースビルディングと 住戸の採光条件の関係 2 0 4000 8000 ベースビルディングの 基準床面積(m2) 図2 ベースビルディングの 面積と採光条件の関係 あるかを判定する手法を構築することも可能であろう。 住戸割など、建物レベルでのコンバージョン計画にも 4. 建物レベルでのキャパシティ分析 様々に影響を及ぼしていることなどが明らかになった。 次に、前述した5カ国における、住宅へのコンバー 5. 今後の展望 ジョンが行われた建物、32事例の図面を収集し、ベー 本研究では、ベースビルディングの特性が、コンバ スビルディングの特性がコンバージョン計画に及ぼす ージョン計画や住戸計画に及ぼす影響を定量的に把握 影響を分析した。 することが出来た。今後は、これらの結果のより詳細 集合住宅を対象とした分析では、住戸の単位面積あ な分析を行い、コンバージョン計画の難易度を評価す たりの採光可能壁面長は、平面計画に関する項目と強 る手法や、どのようなコンバージョン計画に適したベ い相関関係があったが、海外におけるコンバージョン ースビルディングであるかを判定する手法など、様々 においてもその傾向は同様であった。図1に示すよう な側面からのベースビルディングのキャパシティ評価 に、住戸の単位面積あたりの採光可能壁面長は、ベー 手法を確立する予定である。 スビルディングの単位面積あたりの採光可能壁面長と 一方で、コンバージョン計画の策定の際には、ベー 極めて強い相関(0.91)があり、ベースビルディング スビルディングの特性だけではなく、その立地条件な の建物レベルでの特性が、住戸計画にまで影響を及ぼ ども充分に勘案すべきであるし、また、街の性格など していることが示唆される結果となった。また、ベー よってベースビルディングの持つ潜在的な価値も変わ スビルディングの単位面積あたりの採光可能壁面長は、 ってくるものと考えられる。今後は、B24プロジェク 基準床面積と弱い負の相関を持つ(図2)など、他の トと連携し、これらを総合的に捉えた上で、ベースビ ベースビルディングの特性を現す項目とも様々な影響 ルディングを評価する手法も構築していく予定である。 関係をもっている。さらに、アクセス方式や、光庭を 注1) ベースビルディングとは、サポート / インフィル 注1) 理論における、サポートとほぼ同義の語であるが、 注1) よりフィジカルな意味合いが強い。 設けるか否かなど、ベースビルディングの採光条件は、 東京都立大学 21 世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis B27 [2004/06/01] アメリカの建築再利用と自立型建築活用計画に関する研究 Studies on Reuse of Building Stocks and Self-supportive Program in America 黒川 直樹 (助手) Naoki KUROKAWA (Res. Assoc.) ABSTRACT Regarding to adaptive reuse of building stocks in U.S.A., market trends and design approaches were drawn from on-site surveys of projects. A program of Historic Hotels of America was introduced as an effective tool of enhancing the value of rehabilitated buildings by distributing their information through internet network. キーワード:アメリカ建築、再利用、建築再生ネットワーク Keywords: American Architecture, Reuse, Architectural Rejuvenation Network はじめに 都市建築ストックを賦活・更新する手法として着目さ れるコンヴァージョン(既存建物の改修・用途変更)に関 して、アメリカにおける先進実績から我が国にも有効な 方策を探るのが本研究の目的である。 1.研究の方法 本年3月に現地調査を行い(資料1/2)、住宅転用事 業を手がける開発業者に対して計画の理念と手法を巡 る聞き取り調査を進め、併せて各社の代表作品を事例 調査した。次にコンヴァージョンを含めた建築資産のデ ータを集約し全国的ネットワークに情報提供することで 建物の自立再生を支援する方式について、その主催 団体から実績と展望を、さらに加盟者に受益者の立場 から同事業の有効性などを聴取した。 2.最近の動向 まず最新事例のホテル・モナコを紹介する。19世紀 の税関(1842, Robert Mills)を客室数184の宿泊施設に 再生したもので、一街区を占めて建つ古典様式の3階 建が2002年に新装なって以来、ワシントン北東部で文 化地区の再開発を先導している。内部はアール・デコ 調の調度を備えるなど、設えを個人向けに特化したデ ザインが従来型ホテルとは異なる特徴を与えた。モナコ 館のように、単独経営で客室数が200以下、歓楽街近く に立地するホテルを一般にブティックホテルと呼び、シ カゴ窓の開放感で高層ビルの先駆けになったシカゴ市 のリライアンス・ビル(1895, Burnham & Root)が1999年 に122室のホテルに生まれ変わったのを契機に、このブ ティックホテルが歴史的建物を再生活用する流れを作 った。ブティック以外では、インターナショナル・スタイル による超高層建築の幕を開けたフィラデルフィア市の PSFSビル(1932, Howe & Lescaze)が、36階建で580室 のホテルとして2000年に再登場した。また現代作品でも、 ニューヨーク市の超高層ガルフ・アンド・ウェスタン・プラ ザ(1969, Stanley)が1997年に住宅兼ホテルの複合ビ ルに変貌したように、国際様式の盛期作品が歴史保存 の対象に浮上し始めた現在、良質資産に対する課税 控除にも後押しされて、中高層の商業建築からホテル や住宅への転用が現代建築を存立させる一つの定式 と期待されている。 3.住宅転用の事例調査 The Metropolitan, Philadelphia 1927年造の26階 建ホテルで、多色彩色のテラコッタ装飾などアール・デ コの秀作。81年にHistoric Landscape for Living社が購 入し、5年後に120室の賃貸アパートメントとして再生し た。基本ユニットはスタジオ(50m2 前後)と1寝室(約 80m2 )が各38戸、また各19戸の1寝室2浴室(85m2 )と2 寝室(113m2)の4タイプで、家賃は月額1000〜1600ドル。 Le Rivage, New York 1931年建造のニューヨーク 銀行の支店で、朱茶色のタイルを貼り、ムーア風アーチ や迫り出した隅部が特徴のアール・デコ建築。放棄後 の1998年にRose Associatesが入手して賃貸アパートメ ントに改造。住戸はスタジオ(53m2)、1寝室(63m2)、別 室付き1寝室(113m2)の3タイプで、賃料は各1800ドル、 2300ドル、3200ドル前後。 入居者はどちらもヤング・プロフェッショナルと総称さ れる20歳代半ばから40歳までの専門職で、対象をこの 階層に絞った販売戦略が特徴である。アメリカのコンヴ ァージョンではまず需要の所在を予測する市場調査が 最優先され、対象を絞ったあとで建築計画が始動する。 既存建物のスペースを最も有効に利用できる新用途を 検証し、住宅転用が採択されたら、法的に許される最 大室数を得るとともに、市場に照らしながらいかに各戸 の価値を高めていくかが設計の中心課題になる。その 結果、上2例では美麗なロビーが個性あふれる建築美 東京都立大学 21 世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis を醸し、門衛と受付を常備して入居者の安全と交流を 促すなど高級感を創出した。居室についても最新の設 備はもとより、面積の広さと3.6m程の天井高、ユニーク なレイアウトと細部意匠を魅力に打ち立てている。さらに 後者の場合は3段にセットバックする建物構成を反映し て56タイプもの平面を用意し、個別化を好む最近の風 潮に巧みに対応した。 4.「アメリカ歴史的ホテル」事業 同国では文化財級建物から一般の商業建築まで所 有者が自助努力によって建築資産の維持経営を図る 必要が高まった状況下、歴史的建物を積極的に利用し て運用益を上げ、そのために各件の利用便益情報を集 約して一括管理し、インターネットを通じて需要を掘り起 こす建築再生ネットワークが実効を挙げつつある。アメリ カ 歴 史 的 ホ テ ル ( Historic Hotels of America 、 以 下 HHAと略記)がそれで、由緒と建築と雰囲気のいずれも よく保持している良質なホテルを認知する目的のもと、 歴史保全ナショナル・トラスト(1949年設立の民間保存 団体)が運用する事業の一環として1989年に32の発起 人で発足した。HHAは自らの任務を歴史的ホテルの振 興を通して国民資産の保全を進展させることと規定し、 衆知、攻略的な市場開拓プログラム、会員への特典付 与とサービスの還元、収益の4つの事業目標を事業概 要に定めてある。そのもとに展開されてきた6つのプロ グラムは即効性があってわが国でも有用なので、別稿 にまとめ発表する予定である(資料3)。ここではアメリカ 歴史的ホテルが果たした建築保存さらに自立再生への 寄与について要約する。加盟数は2004年現在で40州 以上から203を迎えるに至り、規模は8室の家族経営か ら1400室の巨大ホテルまで多岐にわたる。ディレクトリィ と題する頒布カタログから会員施設の建築データを抽 出した結果(資料4)、建設年では19世紀後半と1920年 代に集中し、来歴は元からの宿泊施設が当然多くて過 半を占める一方、30%弱は住宅等からの転用であり、さ らに全体の66%弱が国指定の登録文化財であると判明 した。ほかの分析も含めて判断すると、文化財に指定さ れながら経営が順当でないホテル群を救済すべく、 HHAという支援策が打ち出され、その後15年間の運用 の中で指定外物件あるいはホテル以外にも波及しなが ら、建築資産の維持運営に腐心してきた所有者に支援 の手を拡げてきた経緯が読み取れる。 会員データを一括管理し全国ネットで提供する情報 ネットワーク・サービスの効用はとくに顕著で、HHAは潜 在需要そして客室稼働率の3/4程を掘り起こしたとの実 績を最新資料で報告している。歴史的建物の情報を一 本化し広く提供するこのシステムが資産の文化的価値 を喧伝するとともに、集客ほかの実利も促した有用性は 注目して良い。ただし、この企画による受益度を宿泊予 約数の増加など具体的数値で計るのは難しいようで、 HHAの事業担当者も把握しておらず、また数件の都心 型ホテルで支配人に尋ねた範囲だと、大雑把に捉えて [2004/06/01] 3割見当の利用増を促したとの返答だった。むしろPR の強力な手段としての効用をどこも強調していた。つま り、ホテルの歴史そのものを販売および市場開拓の手 段として用いるHHAの戦略が、歴史文化の探訪に興味 を抱く旅行者が増大する最近の傾向に適って、とくに地 方の会員ほど大きな実効を挙げたと推察できる。 5.用語コンヴァージョンの妥当性 改修に伴う用途変更方式の建築再生を当プロジェク トではコンヴァージョンと通称するが、調査先の仄聞で は、この語は昨今のアメリカではほとんど使われていな い。用途変更という一般的意味には使うが、再開発事 業の事例でも建築行為を指す代名詞としてももはや影 が薄い。歴史的建物の改修・転用が隆盛だった1980年 代まではHistoric Conversionの、歴史的を冠した合成 語 が 流 布 し 、 と く に 住 宅 へ の 転 用 に は Condominium Conversionの用語が当てられたが、90年代に入り一般 建築からの用途変更が通例化するにつれ、歴史を連想 させがちなこの語は自然消滅した。以降の転用事業で は企画段階で、たとえ文化財級でない一般建物であっ てもそれが地元で固有に培ってきた歴史性をいかに評 価し尊重したかの証を計画案の中に提示して周辺住民 の了解を得なければならず、そうした前提のもとでは敢 えて旧来のコンヴァージョンを継承する意味がなくなっ たのである。代わっていくつか用語が編まれたが、まだ 一語に収斂するには至らず、住宅転用の場合だと都市 ごと業者ごとに別個のスローガンを謳っている。たとえ ば都市開発コンサルタント業のアーバン・ランド・インス ティテュート(ワシントン市)はAdaptive Reuseを立てて、 機能的に時代遅れになった建造物を現代に適応した 形で最適に利用する計画という意図を標榜している。 HHAも同旨のAdapted Useと、周辺に及ぶ面的事業に はCommunity Rehabilitationを推奨する。また先掲ロー ズ社はコンヴァージョンには商業用から住宅への転用と、 住棟管理を賃貸から分譲へ転換する経営上の両義が 混用されがちなので、建築価値を昂進する主旨ならリ ハブ(Rehabilitation再生の意)で表すとの説明だった。 コンヴァージョンを今次プロジェクトでキーワードとする には我が国の事情に基づく事由説明がまず求められる。 まとめ 従来のコンヴァージョンが改修=用途変更という建築 再利用のハードウェアを問うのに対し、アメリカ歴史的ホ テルに代表されるソフトウェア方式は再生後の運用を着 実に伸展させうる点で今日的意義がある。今後我が国 でも建築再生事業を増進させる上で、硬軟両方式を連 動し補完させるのが必至と考える。 添付資料 1) 出張報告(記録)書 2) 調査訪問先一覧 3) 拙稿、「アメリカ歴史的ホテル」事業とアメリカの建築 資産保存活用、日本建築学会大会学術講演梗概集 /F-2、2004年8月に発表予定。 4) 「アメリカ歴史的ホテル」事業の分析チャート 5) コンヴァージョンの事例調査データ 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis [2004/06/01] ファサードの活用 B31 ―既成市街地に建つ中小ビルの開口部の活用― Practical Use for Doors and Windows of Buildings in Urban Area 西田 司(助手) 須永 修通(助教授) 木原 正進(協力者,キマド株式会社) Osamu NISHIDA (Res. Assoc.), Nobuyuki SUNAGA (Assoc. Prof.) And Masanobu KIHARA (COE Collaborator, KIMADO.Co.Ltd) ABSTRACT Repairing the exterior wall of the building facing the street in urban area, especially the doors and windows. A new frame is built with wood so that it may fit into the existing section of frame entirely. The doors and windows are changed into the new frame depend on how to use. Therefore, heat insulation performance and prevention of noise can improve. キーワード:開口部更新, 既成市街地, 性能向上 Keywords: renewal of doors and windows, urban area, improvement of condition 1.はじめに 図1 23区におけるオフィスの空室率 2003年問題と言われる都市の空洞化により、大企 業による都心域の大規模開発に引っ張られる形で、 周辺部の中小ビル群は地盤沈下をおこして空きビル化 し不良債権化しはじめている。その使われていない空 きスペースはオフィスや店舗として借りる店子の変化 していく要求水準にうまく適合していないといえる。 そこで賦活更新提案として、街路側に面したファサー ドの開口部に着目し、その開口部を店子の要求や居住 性向上に対応して更新していけるシステムを研究開発 し、実施プロジェクトの形式で提案する。 図2 アルミサッシュの枠断面と新規枠の横断面 2.開発方法 既存サッシュの枠の断面にすっぽりとはまるよう木 製で新たな枠(アタッチド・ウインドウ)をつくり、 新規の枠内で開口部を作り替える。断熱試験や遮音試 験など研究協力先として木製サッシュで防火認定を取 得しているキマド株式会社と研究開発を行なった。 (認定番号91-01 *ガラスは、網入6.8ミリ+空気層 12ミリ+フロート4ミリ) 取り付け過程を示す。 (1) 既存アルミサッシュの可動部(障子)を外す。 (2) サッシュ枠と外壁との接合部はいじらず、サ ッシュ枠のレール溝にあった掘り込みを新た に取り付ける木製サッシュの外枠に施す。 (3) 樹脂パッキン(t=1)をかませ、新規枠をはめ 込み上下二カ所をステンレスビスで既存サッ ッシュと接合する。(取り外しの際にはアル ミ補修材で埋め込む) (4) 枠内を使用方法や要求性能にあわせ、開き方、 分割形式、ガラス種等で更新していく。 図3 既存枠と新規枠との取り付け過程 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis [2004/06/01] 3.実施提案 千代田区神田地区のS造4階建てのオフィスビルの 図4 対象建物の既存外観と新規外観 1階を、研究対象地とした。現在神田地区は1980-90 年頃のオフィスブーム時期に自営商店から中小ビルに 建て替えたものが多く、空室が顕在化しているビルの 多くは、敷地規模が大きくない。このエリアの平均的 な延床面積であるテナント空間の道路側ファサードに 対して実施提案した。 用途がオフィス兼ギャラリーであり、街路から内部 の展示などの様子がよくわかるよう、開口部には内外 の視覚の連続性をもつ仕様が求められていた。ここで は既存入口がアルミ障子の引き違いサッシュであった 図5 既存内観と新規内観 ので、クリアーガラス(フロート6mm+空気層12mm+ 網入り6.8m)を入れた1枚枠の縦軸回転扉に更新し た。また、腰高の引き違いサッシュも同様のガラスで 1枚枠の横軸回転窓に変更した。 4.性能評価 4-1.断熱性能 ガラスをシングル4mmからペア6mm+12mm+6.8mm 図6 音響透過試験 図7 気密試験結果 にしたことで、性能向上がみられた。またアルミ枠の 結果(JIS A 4706に基 ( JIS A 1516 に 基 づ 結露が木製枠になったことで極端に発生しづらくなっ づく) く) た。 4-2.遮音性能 試験体の音響透過損失試験により、30dB程度の 低減がみられ、道の騒音に対してサッシュ部での性能 向上がみられた。 4-3.気密性能 JIS A1516「建具の気密性試験方法」により気密性 区分0.5等級線の範囲であり性能向上がみられた。 4-4.ガラスの自浄作用 2階以上のビル面にサッシュを取り付ける際に、メ ンテナンスの窓掃除が問題となる。そこでペアガラス の外側ガラスに酸化チタンを800℃で融解させたガラ スを使用することで風雨により自然に汚れが剥離し、 図8 既存街並と開口部の活用後の街並 自然と流れ落ちるようにした。 5.まとめ 内部空間と外部空間との接点である開口部を活用す ることで、店子(内装改修)とオーナー(建物改修) のどちらのニーズからでも対応できるシステムの提案 となった。また外壁の部分改修という枠にとどまらず、 新たな街並をつくっていくきっかけとして汎用性のあ 参考文献: る提案へと発展できる可能性を示唆できた。今後は、 コンバージョン計画設計マニュアル:松村秀一(東京大学 開口部の多様性を開発するとともに、部分的に外壁に 大学院助教授)監修 現れてくる建築要素のうち内部環境と密接に関係して 地域再生の実践− コンバージョン、SOHOをツールとして いる軒やオーニングも研究対象として取り上げていく。 (資料集):横浜まちづくり倶楽部 小林重敬他 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis [2004/06/01] 街路ファサードの改修実態に関する研究 B32 ―中央区銀座を対象として― Actual Conditions of Exterior Walls Refurbishments in Ginza Area 門脇 耕三(助手) 深尾 精一(教授) 西川 謙一(学部生) Kozo KADOWAKI (Res. Assoc.), Seiichi FUKAO (Prof.) and Ken’ichi NISHIKAWA (Undergrad.) ABSTRACT Refurbishment of exterior walls of building is an effective method to activate the building and urban fabric, though, so far the research of exterior walls refurbishment has been superficial. We investigated the actual conditions of exterior walls refurbishments of 1,044 buildings in Ginza area by comparing the pictures took in 1987 and the ones took in 2003. The important results are as follows: there were various exterior walls refurbishments in 25% of the buildings, no changes in 52%, and the rest were rebuilt into new buildings. キーワード:外壁更新 改修 中高層 1. 研究の背景と目的 Keywords: Renewal, Exterior Walls 表1 外壁更新の定義 補修・改修およびその他の建築的手法により、もとの外装材になんらかの処理 を施すことで外装材もしくは外観が変化すること。また、建替や新築も広義な 意味で含むこととするが、広告や看板などを外壁に付加したものは除外する。 近年、改修などによる既存建物の活用の必要性が高 まっている。外壁の更新はその手法の一つであり、更 表 2 立面パターンの分類 新後の建物の外観に変化を与えることができる。しか 立面パターン し、建物により更新の時期・要因が異なるため、外壁 Y SS WA EX PRE 首都 高 速道路 銀座通り GINZA-DORI 横連窓 柱+ガラス よって構成されている建物 4丁目 晴海通り HARUMI-DORI 更新による都市の表情の変化を把握することは困難で 5丁目 外堀通り SOTOBOR I-DORI あった。 本研究では都市型中高層建築物の外壁に着目し、個 柱+梁型 柱間に開口部が連続して取られ ている建物 不連続窓 開口部が連続して取られていな い建物 6丁目 バルコニー付 バルコニーが付属している建物 7丁目 スラブが外壁より外側に出てい ウインドウウォール る建物 々の建物の外壁の更新状況を調査し、現状を分類・分 8丁目 析することで、複雑な都市における外壁更新の実態お その他 開口部を不規則に扱っている建 物(無窓も可)、様式建築など 不明 建替・新築などで過去の建物の 立面が特定できない場合。また は工事中のもの。 N よび傾向を明らかにすることを目的とする。 2. 調査対象及び方法 図 1 調査対象地域 0m 建つ3階建以上の建物全件について調査を行った。外 50m 100m 200m 不明 1%,8件 図1に示す、東京都中央区銀座1丁目から8丁目の昭 和通りと外堀通りに挟まれた地区を対象とし、そこに 全面 14%,147件 外壁の更新有 48%,500件 外壁の更新無 52%,536件 建替・新築 22%,233件 壁の更新状況に関しては、秋山の「都市型中層建築物 の外周壁に関する研究」*で撮影された写真データを利 用し、1987年に撮影された建物と今回調査時に撮影し 柱よりも外側で開口部が横に連 続して取られている建物 躯体となる柱部分とガラスに 3丁目 昭和通り SHOWA-DORI 外壁の集合体が都市の外観を形成しているため、外壁 JR YUR AKUCHO STA . な敷地に建ち並ぶ都市型中高層建築物の場合、個々の 2丁目 JR有 楽町駅 更新は個別解にならざるを得ない。それに加え、狭小 詳細 立面全体が、ガラスによって構 全面ガラス 成されている建物 1丁目 低層部 11%,120件 図 2 外壁の更新状況 328 331 322 件数 300 253 た建物とを比較し、分析を行った。なお調査件数は 1,044件である。 3. データの分析 外壁の更新を表1のように定義し、外壁更新の有無 200 100 不明 1987年 55 331 9 96 154 19 13 253 116 2003年 93 322 8 100 150 26 9 328 8 図 3 立面パターンの比較結果 った場合には、外装材の変更状況について調査を行い、 化と規模について整理を行った。 を明らかにした。低層部のみの更新では、開口率の変 8 全面 柱+ 柱+梁 不連続 バルコニー ウインドウ 横連窓 その他 ガラス ガラス 型 窓 付 ウォール 低層部のみの更新に分類した。全面にわたる更新があ さらに立面パターンの変化を伴う場合は開口率の変化 116 19 26 13 9 98 0 について整理した。外壁更新があった場合は、更にそ の手法に関して、建替及び新築、全面にわたる更新、 154 150 96100 93 55 また、立面の構成を、表2に示す9つに分類した。分 類方法に関しては、秋山の研究を参考にした。 東京都立大学21世紀COEプログラム 巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成 Development of Technologies for Activation and Renewal of Building Stocks in Megalopolis [2004/06/01] 4. 調査結果及び考察 変化有 20%,29件 4-1. 銀座地区における建物の外壁の現状 建物の外壁更新状況を図2に示す。1987年の時点か 開口率の変化 無 21%,6件 開口率減 41%,12件 変化無 80%,118件 ら外壁が更新された件数は全体の約半数に上り、建替 開口率増 38%,11件 ・新築はその内の約半分を占める。また、建替では3 った事例もみられた。既存の建物の外壁に手を加える ことで外壁が更新されたものは、全体の4分の1程度で 図4 全面外壁更新(147件)に 図5 立面パターンの変化に伴う 開口率の変化(29件) おける立面パターンの変化 1987年 つの建物を解体して1つの大規模な建物を建てるとい 28 ある。 1987年と比較すると横連窓の割合が多い傾向に変わり 金属系 全面にわたる外壁更新状況の概要を図4・5・6・7に 示す。全面の更新において、立面パターンが変化する ものは2割程度あり、そのうち開口率の変化を伴うも のは約 8割である。写真1に立面パターンの変化を伴 った外壁更新の例を示す。 全面にわたる外壁更新における外装材の変化を見る と、1987年に半数以上を占めていた、タイルや塗材・ 吹き付けからの変更の割合が多く、更新後は金属系・ 石系が増加している。その中で、特にタイルから金属 系への仕上げの変更が最も多い。立面パターンが変化 0% 10% 38 20% 18 30% 40% 14 50% 35 18 打ち放し ガラス 塗材・吹き付け その他 タイル 62 がないが、全面ガラスとその他の割合が増加している。 4-2. 全面にわたる外壁の更新状況 46 石系 2003年 立面パターンの比較を行った結果を、図3に示す。 9 21 60% 4 6 70% 22 80% 90% 100% 図6 全面にわたる外壁更新前後の外装材の割合 2003年 1987年 金属系 石系 塗材 打ち放し ガラス 吹き付け タイル 塗装 その他 不明 金属系 28 石系 9 タイル 47 塗材 吹き付け 37 打ち放し 3 ガラス 5 その他 13 5 不明 55 16 6 7 3 6 33 15 6 147 〇立面パターン変化有 ●立面パターン変化無 図7 全面にわたる外壁更新前後の外装材の変化 する場合は、金属系、ガラス、塗材・吹き付けからの 変更が多く、変更後はガラス・金属系の外装材にされ ることが多い。施工方法は、既存壁の上から新しい外 (解体) 装材を施工する方法が多く、また、更新方法として塗 装が多いことも一つの傾向と言える。 4-3. 低層部のみの外壁の更新状況 低層部のみの外壁更新の概要を、図8及び図9に示す。 1987年 → 2003年 事例① 1987年 → 2003年 事例②(写真右) 写真1 立面パターンの変化を伴った外壁更新の事例 低層部のみの更新の場合では、開口部の変化を伴った 不明 4%,5件 建物は約半数である。低層部の更新では、壁面だけで なく、開口部の位置や形態も変化させる積極的な更新 開口部の変化無 47%,57件 が行われたものが多い。また、その際に開口率が増加 開口率増 31%,37件 開口部の変化有 47%,58件 開口率減 18%,21件 した建物は6割以上あり、低層部における開口部の変 更を伴う更新では、開口率を増す傾向にあると言える。 図8 低層部の外壁更新における開口部の変化 更新の規模については、第1層部分のみの更新が行 われたものが4割強、第2層部分までの更新が行われた 54件 0% 10% 20% 1層のみ 5件 5件 3件 53件 30% 40% 2層まで 50% 60% 3層まで 70% その他 80% 90% 100% 不明 ものは全体の9割弱となっている。その他には、増築 図9 低層部における外壁更新の範囲 するなど、低層部全体でなく、限られた一部のみの更 わたって大規模に外壁を更新する事例も見られたが、 新を行った建物も見られた。 大多数は立面変化を伴わない外装材の変化などに止ま 5. まとめ っていること、一方で低層部においては、開口部の変 本研究では、銀座地区における都市型中高層建築物 の外壁の更新状況を分析することによって、現状及び その変化の傾向を把握することができた。建物全面に 化を伴う外壁更新を行う割合が比較的高いことが明ら かになった。 〈主要参考文献〉* 秋山 茂:都市型中層建築物の外周壁に関する研究, 〈主要参考文献〉* 東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻,昭和62年度修士論文
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