内耳窓破裂症による外リンパ瘻（古賀総合病院耳鼻咽喉科：永井）めまいと急性の難聴の中に、手術でよくなる疾患があります。内耳窓破裂症とは内耳窓破裂症とは、内耳と中耳の間にある前庭窓あるいは蝸牛窓（下図の□→の部位）が破れ、外リンパ液が中耳に漏れる病気です。蝸牛に傷害が生じると、耳閉感と難聴と耳鳴が起こり、前庭と半規管に傷害が生じると、めまいと平衡障害が起こります。半規管中耳内耳前庭鐙骨と前庭窓蝸牛耳介蝸牛窓中耳脳脊髄液と交通外リンパ液（赤） 1 内耳窓破裂症の症状内耳窓破裂症の症状には、３つのタイプがあります。 1. 急に難聴が発症するタイプです。めまいを自覚しない場合と、激しいめまいあるいはふらつきを伴う場合があります。突発性難聴に似ています。突発性難聴の治療の後に、めまいが残っている場合には、外リンパ液が漏れている可能性があります。 2. 聴力は正常で、急に激しいめまいだけが発症するタイプです。前庭神経炎に似ています。 3. 変動する難聴とめまいを反復するタイプです。メニエール病に似ていますが、2 日以上めまいが続いたり、難聴が進行したりする場合は、外リンパ液が漏れている可能性もあります。次の出来事は、内耳窓破裂症の原因となります 1. 脳髄液圧あるいは中耳圧の急激な変動を起こすような行為（重量物の運搬、鼻かみ、飛行機、潜水） 2. 発症の直前～数十年前に、頭部打撲 3. 耳外傷（耳掻き、綿棒、山登りで木の枝） 4. 数日前～発症の直前に、強大音に暴露内耳窓破裂症の発症がわかる人もいます 1. ポンと音がして発症 2. 水の流れるような耳鳴，水の流れる感じ、ぷつぷつという耳鳴 2 3. 耳の痛みを伴う場合があります。内耳窓破裂症の確定診断確定診断は、手術で漏れを確認することです。病歴と症状で内耳窓破裂症と確信できる症例だけを手術すると、保存的治療では治らない人が良くなる機会を失います。反対に疑わしい全ての人に手術をすると、内耳窓破裂症でない人が手術を受ける結果になります。内耳窓破裂症の CT 写真を拡大すると、内耳窓の周囲の中耳に、漏れた外リンパ液と思われる何らかの影が見えることに、私が気付きました。ＣＴ検査で内耳窓の周囲に影があった１１０症例の手術を行いましたところ、１０９症例で漏れていました。内耳窓破裂症の治療方法内耳窓破裂症の治療は安静か手術です。安静で３～４割の人は治ります。下記の症状の内耳窓破裂症は、自然に治癒する可能性が低いので、手術をお勧めしています。 1. めまいが激しい。 2. ふらつきが続いている。 3. 急に難聴になり、眼振がある。 4. 難聴が日に日に悪化している。 5. 変動する難聴があり、眼振がある。 3 内耳窓破裂症の手術方法通常は全身麻酔下に耳後切開で手術を行います。前庭窓と蝸牛窓を確認して、外リンパの漏れを確認できた内耳窓にだけ、筋膜とスポンゼルで内耳窓閉鎖術を行っています。手術時間は１時間半くらいです。入院期間は最短で２泊３日です。手術の欠点は、耳後部の切開のために耳介の感覚が数ヶ月鈍くなることです。また手術側の舌の前半分で、味覚が低下する事があります。前庭窓と蝸牛窓の間に舌の前半分の味覚神経があり、手術中にこの神経を触らざるを得ないためです。多くの方は数ヶ月で回復しますが、残念ながら手術した側で舌の前半分の味覚が戻らない人もいます。内耳窓破裂症の手術成績手術によって９割以上の人のめまいが消失します。難聴は発症から早期に手術をしないと回復しません。６０ｄＢ以上の急性の高度難聴で、治癒か著名回復（３０ｄＢ以上の回復）した割合は、発症から１週間以内に手術を受けた方では６８％、２週目に手術を受けられた方は４１％でした。しかし３週間目以降に手術を受けた方には、著名回復した人はほとんどいませんでした。また完全聾の方は実用聴力域に戻りませんでした。 1. 2. Nagai T, Nagai M（2012）Labyrinthine window rupture as a cause of acute sensorineural hearing loss. Eur Arch Otorhinolaryngol.269: 67-71. 永井知幸（2012）内耳窓破裂症による眩暈と難聴．医療 66：99－102 4