第57回年次集会プログラム - 九州大学 医学部・大学院医学系学府

第 57 回
九州学校保健学会
プログラム・抄録集
と
き
平成 21 年 8 月 23 日(日)10 時~16 時
ところ
九州大学医学部百年講堂大ホール
福岡市東区馬出 3-1-1
電話 092-642-6257
主
催
九州学校保健学会
後
援
福岡県医師会
福岡市医師会
九州小児科医会
福岡県小児科医会
福岡地区小児科医会
福岡県教育委員会
北九州市教育委員会
会
長
松本壽通
九州小児科医会
九州大学医学部百年講堂交通案内図
裏門
正門 東門
地下鉄
裏門
百年講堂
東門
<JRご利用の場合>
●JR「吉塚駅」下車
正門
徒歩 12 分
からお入り下さい
<市営地下鉄をご利用の場合>
●地下鉄 2 号線(箱崎線)「馬出九大病院」下車 徒歩 5 分
福岡空港から 13 分
/
博多駅から 10 分
/ 天神から 6 分
<バスをご利用の場合>
●西鉄バス「県庁九大病院前」下車
徒歩 3 分、又は「九大病院」下車
徒歩 1 分
博多駅から約 15 分(系統番号 9・10・29) / 天神から約 15 分(行先番号 1・12・13・51・
52 等)
●JRバス「九大病院県庁前」下車
徒歩 2 分
<タクシーでお越しの場合>
JR博多駅から約 15 分
/ JR吉塚駅から約 5 分 / 西鉄福岡(天神)駅から約 15 分
*福岡空港をご利用の場合
タクシーで約 15 分 / 福岡市営地下鉄で 13 分
参加者の皆様へのお知らせとお願い
学会場のご案内
開場および受付開始時間は、8 月 23 日(日)午前 9 時 30 分です。
参加手続き
事前登録はありませんので、受付にて記名をお願いします。
学会員でなくても一般演題、会頭・特別講演、シンポジウムに参加できます。
参加費・会場費
参加費・会場費は 1,000 円、学生は無料です。
年会費
学会当日、会場に事務局受付を用意します。2,000 円を納入下さい。
新入会受付
入会金は無料です。年会費を納入下さい。
評議員会
8 月 23 日 12 時 10 分より 2F 会議室にて開催します(昼食を用意しております)。
昼食について
併設のカフェテリア、正門出て左手のレストラン(Royal Host)等をご利用下さい。
駐車場について
百年講堂前に駐車場(有料)があります。入ることができるのは正門のみです。
※台数に限りがありますので、できるだけ公共交通機関をご利用下さい。
日本小児科学会専門医の単位取得
日本小児科学会会員の方は、専門医資格更新のための 8 単位が取得できます。
受付にて本抄録裏表紙の参加証に学会印を捺印しますのでご利用ください。
一般演題発表者の方へ
一般演題の発表時間は、講演 7 分、討議 3 分の計 10 分を予定しています。
学会事務局・開催事務局
〒812-8582 九州大学医学部小児科学教室内
九州学校保健学会事務局(担当:實藤雅文)
TEL:092-642-5421 FAX:092-642-5435
E-mail:[email protected]
プログラム(○は発表者)
開会の辞
9:55~10:00
九州学校保健学会会長 松本壽通(九州小児科医会)
一般演題(1) 10:00~10:40
座長:郭 義胤(福岡市立こども病院)
1.長期入院治療の変遷~過去 10 年間の実態~
○増本夏子、小田嶋 博、本村知華子、岡田賢司、柴田瑠美子、西間三馨
国立病院機構福岡病院小児科
2.不整脈による突然死をきたす QT 延長症候群の学校心臓検診における抽出と管理
○牛ノ濱大也1)、佐川浩一1)、石川司朗1)、下村国寿2)、藤野正典2)、山本愛文2)
1)福岡市立こども病院、2)福岡市医師会学校心臓検診部
3.学童期の尿路先天異常のスクリーニング
○西村美保1)、津留 徳2)、進藤静生2)、郭
川野
義胤2)、波多江 健2)、堤
斉2)、兼光聡美2)、井原健二2)、筒 信隆2)、久野
康2)、
敏2)、寺町昌史2)、
井藤奈央子2)、下村国寿3)、長野英嗣3)、入江尚3)、長柄均3)、宮崎良春3)
1)福岡逓信病院小児科、2)福岡市医師会学校腎臓・糖尿検診部会、3)福岡市医師会
4.学校検尿で発見された無症候性蛋白尿の3例
○森貞直哉1)、森下高弘2)、宮川隆之1)、楠原浩一2)
1)福岡県済生会八幡総合病院小児科、2)産業医科大学小児科
一般演題(2)
10:40~11:20
座長:住田 実(大分大学教育福祉科学部)
5.食行動の異常を主訴に「子どものこころと発達外来」を受診した学童3例の検討
○實藤雅文1)、山下 洋2)、出口美奈子3)、堀井麻千子2)、今永桐子2)、松永真由美2)、
吉良龍太郎4)、遠矢浩一5)、岩元澄子6)、吉田敬子2)、原
寿郎1)
1)九州大学病院小児科、2)九州大学病院子どものこころの診療部、
3)榊原病院児童思春期部門、4)国立病院機構福岡東医療センター小児科、
5)九州大学大学院人間環境学府、6)久留米大学文学部心理学科
6.食育を通した健康教育の実践
○松本
恵
福岡市立梅林中学校
7.対人緊張傾向がある生徒の自己表現を促す養護教諭の支援の在り方
~遊戯療法的な手法を生かした「ココロほぐし活動」を通して~
○中原万利子
前原市立前原西中学校
8.福岡県における地理情報システム(Geographic Information System:GIS)を用いた交通事故
後の救急救命率の地図上解析—小児及び高齢者を含む年齢別解析
○澤口聡子1)、島 陽一2)、藤谷克己2)、池田大輔2)、井出あやこ2)、佐々木燈子2)、
藤本佐和2)、上杉睦美2)、アレンコフ2)、青島陽平2)、河原和夫2)
1)福岡女学院大学人間関係学部子ども発達学科
2)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科政策科学分野
会頭講演
11:30~12:00
「乳幼児保健と学校保健
座長:原 寿郎(九州大学医学部小児科)
-とくに子どもの心の問題を中心に-」
九州小児科医会会長 松本壽通
昼休み
12:00~12:50
総
12:50~13:00
会
特別講演
13:00~13:55
「発達障害への考え方
(評議員会 12:10~12:40)
座長:松本壽通(九州小児科医会)
-特に境界領域について-」
NPOこども相談センター・福岡医療福祉大学教授 竹下研三
シンポジウム
14:00~15:55
「学校現場における健康生活上の諸問題への対応」
座長:照屋博行(福岡教育大学教育学部)
松崎彰信(九州大学医学部保健学科)
1.小児生活習慣病と食育
青木内科循環器科小児科クリニック 青木真智子
2.ケータイ・インターネット
国立病院機構九州医療センター小児科 佐藤和夫
3.不登校の解決に向けて
藤川こども心療クリニック 藤川貞敏
4.喫煙と薬物
おかもと小児科クリニック 岡本茂樹
閉会の辞
16:00
松本壽通
一般演題(1)
座長:郭
義胤(福岡市立こども病院)
1.長期入院治療の変遷~過去 10 年間の実態~
○増本夏子、小田嶋 博、本村知華子、岡田賢司、柴田瑠美子、西間三馨
国立病院機構福岡病院小児科
近年の喘息治療の向上により、特に学齢期においては QOL が著しく改善し、当院を含め長期入
院療法を実施してきた施設では、入院患者数が大幅に減少した。しかし現在もなお、長期入院の
対象となる患者は存在する。当院での入院治療の変遷を検討し、その実態と問題点を考察する。
過去 10 年間に当院小児科で喘息の診断のもと長期入院療法を行った児を対象とし、入院前の治
療・通学状況、入院時診断、検査所見、治療内容、社会的背景因子、退院後の経過について検討
した。
アドヒアランスの悪い症例は、入院により一旦改善するが、退院後に再度悪化することも多か
った。不登校(長期欠席)は、心理的要因を伴う症例が増加傾向にあり、彼らは退院後も通学が
うまくいかない場合が多い。治療薬の進歩に伴い、検査所見は改善がみられたが、十分な治療を
してもなお重症な症例が存在した。その他の治療や予後に関する要因、今後取り組むべき課題に
ついて検討し報告する。
2.不整脈による突然死をきたす QT 延長症候群の学校心臓検診における抽出と管理
○牛ノ濱大也1)、佐川浩一1)、石川司朗1)、下村国寿2)、藤野正典2)、
山本愛文2)
1)福岡市立こども病院、2)福岡市医師会学校心臓検診部
QT 延長症候群は元気な児童・生徒に失神や突然死をもたらす不整脈疾患である。心電図におけ
る QT 時間の延長を特長とするが、この QT 時間だけでは診断できないため、学校心臓検診におい
ては正常者の抽出を極力避け、異常者をいかに的確に抽出するかが大きな課題である。また、本
診断を受けた児童・生徒も普段は無症状なために、その発症予防を薬物と本人の運動制限だけに
求めることは難しく、現実には学校現場における突然死といった事故が起こっている。学校心臓
検診における精度の高い抽出とともに、発症時の対処が学校をはじめとした公共の場で可能とな
ることがきわめて重要である。それが、
『救命の連鎖』であり、自動除細動器(AED)の普及であ
る。
3.学童期の尿路先天異常のスクリーニング
○西村美保1)、津留 徳2)、進藤静生2)、郭 義胤2)、波多江 健2)、堤 康2)、
川野 斉2)、兼光聡美2)、井原健二2)、筒 信隆2)、久野 敏2)、寺町昌史2)、
井藤奈央子2)、下村国寿3)、長野英嗣3)、入江 尚3)、長柄 均3)、
宮崎良春3)
1)福岡逓信病院小児科、2)福岡市医師会学校腎臓・糖尿検診部会、
3)福岡市医師会
福岡市では尿路感染症をスクリーニングすることにより尿路先天異常を発見するために平成5
年より試験紙法による尿中白血球検査を導入した。98例の尿路先天異常が発見され、35例に
手術が必要であった。手術例のほとんどが下部尿路異常で膀胱尿管逆流症が多かった。将来腎機
能障害をおこしうる両側膀胱尿管逆流症が9例、単腎症に膀胱尿管逆流症を合併した1例が発見
された。診断には排尿時膀胱尿道造影が必要で、尿路感染症の既往、受診時尿路感染症、エコー
の異常、反復しての学校検尿陽性者などに施行されていた。腎機能は全例正常だった。従来の尿
蛋白、潜血反応で発見された尿路先天異常は9例で全例エコーの異常があった。尿路感染症の既
往は1例のみで、膀胱尿管逆流症2例に逆流防止術が施行され、2例に腎機能障害を認めた。
4.学校検尿で発見された無症候性蛋白尿の3例
○森貞直哉1)、森下高弘2)、宮川隆之1)、楠原浩一2)
1)福岡県済生会八幡総合病院小児科、2)産業医科大学小児科
わが国における学校検尿は 1973 年に開始された大規模な腎疾患スクリーニング検査であり、こ
れまで主に IgA 腎症などの慢性腎疾患の早期発見に多大な実績を挙げてきた。
学校検尿における主な検査項目は尿潜血、尿蛋白、尿糖であり、北九州市ではこのうち尿潜血
の陽性頻度が最も高く、次いで尿蛋白である。尿蛋白陽性者のほとんどはいわゆる無症候性蛋白
尿であるが、これは尿検査で尿蛋白以外の検尿異常がなく、かつ蛋白尿に基づく臨床症状(浮腫
など)がみられないものをさす。無症候性蛋白尿の大部分は起立性蛋白尿などの生理的蛋白尿で
あるが、膜性腎症や巣状糸球体硬化症といった将来腎機能異常を引き起こしうる重大な疾患が潜
んでいる場合があり、その診断に苦慮することもしばしばである。
今回、学校検尿での初発見時に無症候性蛋白尿であった3例を提示し、蛋白尿を呈する疾患の
鑑別について考察する。
一般演題(2)
座長:住田
実(大分大学教育福祉科学部)
5.食行動の異常を主訴に「子どものこころと発達外来」を受診した学童3例の検討
○實藤雅文1)、山下 洋2)、出口美奈子3)、堀井麻千子2)、今永桐子2)、
松永真由美2)、吉良龍太郎4)、遠矢浩一5)、岩元澄子6)、吉田敬子2)、
原 寿郎1)
1)九州大学病院小児科、2)九州大学病院子どものこころの診療部、
3)榊原病院児童思春期部門、4)国立病院機構福岡東医療センター小児科、
5)九州大学大学院人間環境学府、6)久留米大学文学部心理学科
「食べない」
「食べ過ぎる」という「食行動の異常」の訴えは珍しくない。九州大学病院では平
成 17 年に「子どものこころと発達外来(平成 21 年 5 月から、子どものこころの診療部)」を設立
し、小児科と精神科で診療連携を行ってきた。そこで経験した「食行動の異常」を主訴とする学
童3例を対象に、DSM-Ⅳ-TR(精神疾患の診断統計マニュアル)に基づき多軸診断を行った。主訴は
「肥満」
「食べ過ぎる」だった。Ⅰ軸(臨床疾患)は、自閉性障害、衝動制御の障害、不適切な保健
行動であった。Ⅱ軸(精神遅滞)は2例で認めた。Ⅲ軸(一般身体疾患)は、肥満、2型糖尿病と非
特異的であった。Ⅳ軸(心理社会的および環境的問題)は、2例でネグレクトや学校不適応を認め
た。Ⅴ軸(機能の全体的評定)は、全例で重度の機能障害を認めた。多軸診断により、学童におけ
る持続する食行動の問題に発達の問題や家族機能の障害が関与していることが明らかとなった。
6.食育を通した健康教育の実践
○松本 恵
福岡市立梅林中学校
本校では、生徒の生活習慣の改善と学力向上をめざして、平成 19 年度から食育を通した健康教
育に取り組んでいる。具体的には、生徒が自分で弁当を作って登校する「梅中弁当の日」、学校栄
養職員による食育学習、外部講師を招いての講演会、生活習慣の振り返りと自己点検等の取組を
家庭や地域と連携して行ってきた。
これまでの取組の結果、全体的に生徒は意欲的に学習活動に参加しており、
「食」に関する認識
は徐々に高まっていることが、種々の感想文やレポートの内容からうかがえた。生活習慣の自己
点検では、ほとんどの生徒が睡眠や食事に関する目標を設定しており、これまでの学習内容(朝
食の内容や食事の栄養バランス、早寝早起きなど)をふまえた行動ができ、生活習慣が向上して
いる生徒も見られた。今後も家庭や地域、関係機関との協力・連携のもと、教育実践の質的な向
上および食育を通した健康教育の定着(教育課程への明確な位置づけ)を図りたい。
7.対人緊張傾向がある生徒の自己表現を促す養護教諭の支援の在り方
~遊戯療法的な手法を生かした「ココロほぐし活動」を通して~
○中原万利子
前原市立前原西中学校
生徒が、自ら緊張をほぐし自分の思いや考えを他者に言葉や表情・動作・声量・作品などで多様
に表出【自己表現】できる生徒をめざした養護教諭の支援の実践である。自校において心身面に
配慮のいる生徒の中から特に対人緊張傾向がある生徒を抽出した。手立てである「ココロほぐし
活動」とは、子どもの感情表出や関係づくりを行うために「遊び」を介して行う活動と緊張した
心と体をほぐすために自律訓練や呼吸法を組み合わせた活動である。この「ココロほぐし活動」
を「ウォーミングアップ・表現・クールダウン・振り返り」とし、この活動の一連の流れを繰り
返し、段階的(三段階)に養護教諭が働きかける。このことより、生徒が緊張をほぐしながら自分
を見つめたり、他者との関わりをとおして、自分の思いや考えを表出できるようになるものと考
える。養護教諭として、人との関わりが楽しいと感じられ、学校生活に適応できる生徒を育みた
いと思う。
8.福岡県における地理情報システム(Geographic Information System:GIS)を用
いた交通事故後の救急救命率の地図上解析—小児及び高齢者を含む年齢別解析
○澤口聡子1)、島 陽一2)、藤谷克己2)、池田大輔2)、井出あやこ2)、
佐々木燈子2)、藤本佐和2)、上杉睦美2)、アレンコフ2)、青島陽平2)、
河原和夫2)
1)福岡女学院大学人間関係学部子ども発達学科
2)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科政策科学分野
近年、小児と高齢者の交通事故の増加が目立つ。少子高齢化を課題とする日本では小児と高齢
者の交通事故施策が必要であり、地域における交通事故の特性の分析と交通施策が必要である。
今回、福岡県における小児及び高齢者に焦点をあて、年齢層別の交通事故後の救急救命率の地図
上分析を施行した。
交通事故総合分析センターの ウエブサイトより、福岡県の交通事故に関する年齢層別基礎デー
タを抽出し、交通事故後の救急救命率を概算した。福岡県における救急救命医療へのアクセシビ
リテイーに関するデータを2次医療圏毎に準備し、有意差を検討した。更に福岡県における市町
村別の年齢層別救急救命率を Geographic Information System(GIS)の Market Planner を用いて
可視化した。
その結果、交通事故後の救急救命率が低い地域は、成人及び老人に比較して、小児において非
常に広い。また、吉富町・上毛町・矢部村においては、交通事故後の救急救命率は高いが搬送時
間は長く、大木町・桂川町・糸田町・苅田町においては、搬送時間は短いが救急救命率が低い。
更に、全年齢層において、交通事故後の救急救命率が最も低いのは赤村である。赤村において、
既存の病院の救急救命機能の充実等を図れば、福岡県における交通事故後の救急救命率の上昇を、
最も効率よく果たし得ると示唆された。
会頭講演
座長:原
「乳幼児保健と学校保健
寿郎(九州大学医学部小児科)
-とくに子どもの心の問題を中心に-」
九州小児科医会会長
松本壽通
現代の学童、生徒にみられる心の問題について、不登校、引きこもりや暴力、非行など目にみ
える問題だけでなく、むしろ一見、何の問題もない、普通に育っている子ども達の心や行動につ
いて注目する必要がある。例えばイライラしたり、ムカツクことが「よく」、「ときどき」ある子
は小学5、6年生に 84.2%(福岡県、2002)、その他、「とても疲れたと思うことがある」、「何も
したくないと思うことがある」
、
「生きているのがいやになる」、「生まれて来なければよかったと
思うことがある」などの感情をもつ現代の子ども達は少なくないことが、色んな統計で指摘され
ている。同時に、国際比較でも自尊感情、規範意識など、わが国の子ども達は目立って低いこと
もわかった。
これらの子ども達の心の問題は、小、中学生になって急に現れるものではなく、実は乳幼児期
における遊び、睡眠、食など基本的な生活リズムの乱れが、その要因となっている可能性が否定
できない。即ち子どもの心の豊かな発達のためには乳幼児保健と学校保健の連続性が求められる
といえよう。
学校保健といえば、通常、就学時健診や定例の学校健診が考えられるが、近年では体の問題だ
けでなく、心や行動の問題に広がりをみせている。その問題に対応できる学校健診のこれからの
あり方に言及したい。
特別講演
座長:松本壽通(九州小児科医会)
「発達障害への考え方
-特に境界領域について-」
NPOこども相談センター・福岡医療福祉大学教授
竹下研三
発達障害という言葉は 1961 年、
ダラスの銃弾で倒れた J.F.ケネディによって広められました。
50 年の歴史です。この 50 年間、障害の概念は福祉という言葉を巻き込んで大きく変わりました。
何よりも世界保健機関(WHO)による障害概念の提案(1980)とその変更(2001)に代表されま
す。前者は、障害を機能障害、能力障害、不利益の 3 面でとらえるとしました。2001 年にはこれ
を心身機能、活動、参加としました。周りが評価するのではなく、本人がどう思うかとなったの
です。
一方、医学では、アメリカ医学の考えがわが国の医学に大きな影響を及ぼす時代となりました。
ドイツ医学の病気の背景をしっかり考える立場ではなく、アメリカ医学では表面に現れている症
状を客観的にみることで病気を考える姿勢です。具体的には診断基準であります。
自閉症にも注意欠陥/多動性障害にも診断基準があります。その基準に応じて時間をかけ、場所
を変え診断していくことが求められています。このことは多くの人々の理解を共通にすることで
は大変良いことなのですが、障害の概念が変化してくると理解の基準も多様化してきたのです。
その上困ったことには脳波や血液・尿などからの裏づけ情報が発達障害には少ないことです。
ここに診断上での混乱だけでなく、治療・教育上での混乱もおこしています。さらに日本語の
もっているあいまいさがこれに輪をかけています。ちょっと目立つこだわりが自閉症になってし
まうのです。
今回の講演では、この危険性について具体例を提示しながらお話をしてみたいと思います。
シンポジウム「学校現場における健康生活上の諸問題への対応」
座長:照屋博行(福岡教育大学教育学部)
松崎彰信(九州大学医学部保健学科)
1.小児生活習慣病と食育
青木内科循環器科小児科クリニック
青木真智子
厚生労働省研究班は「小児期メタボリックシンドロームの診断基準」を策定し、内臓脂肪の増
加と動脈硬化の危険因子が発症していないかを示した。一方、小児肥満症は、治療すべき一つの
病気の単位と考えられるが、学校現場も医療現場も共通の認識を持っていないと思われる。病院
を受診する頻度も減る学童期にあって、小児肥満症を見つけ、指導していくには、学校現場の力
がとても大切である。また中等症(肥満度30%以上)の小児肥満症では、多数の検査値の異常
が指摘されるが、外観でわからないことも多い。学校現場での食育と、積極的支援を必要とする
学童を健診で見つけ、学校、家族、行政、地域医療が連携して、医学的介入をするシステムの構
築が必要と考える。そのためには、肥満度の計算と、母子手帳と同様に学童、思春期を通じて、
成長曲線、肥満度曲線を記載し、1 年ごとの点の記録を線に変える必要がある。我々は、福岡市
医師会後援のもと、福岡市健康づくりセンターにおいて、小児生活習慣病対策室(あいれふ子ど
も教室)を立ち上げ、積極的支援を開始した。それについても言及したい。
2.ケータイ・インターネット
国立病院機構九州医療センター小児科
佐藤和夫
今年4月1日より青少年ネット規制法(青少年が安全に安心してインターネットを利用できる
環境の整備等に関する法律)が施行されたことをご存じであろうか。
小学6年生の約 25%、中学2年生の 46%、高校2年生の 96%がケータイを所有している現状であ
る(文科省調査)
。急速に普及・進化したケータイ・インターネットが子ども達に甚大な影響を及
ぼすことを私達は十分認識する必要がある。
出会い系サイト(関連被害者の8割以上が子ども)やアダルトサイトなどの有害サイトの問題
や学校裏サイト、メールによるネットいじめの問題(被害者だけでなく加害者にもなりうる)は
マスメディアでも取り上げられよく知られるようになった。しかしこのような直接的影響だけで
なく、夜更かし・プチ家出などの生活の乱れ、メール依存症・対面コミュニケーションスキルの
低下といった間接的影響は、一部の子どもではなく子ども全体に及んでいるといっても過言では
ない。ケータイ・インターネットは子ども達の健全な発達を阻害しうる重大な問題なのである。
シンポジウムでは、子ども達とケータイ・インターネットに関する現状を紹介し、学校保健関
係者としてどう対応すべきかをいっしょに考えてみたい。
3.不登校の解決に向けて
藤川こども心療クリニック
藤川貞敏
不登校というのは医学的病名ではない。その医学的病名は、気分障がい(主としてうつ病)、不
安障がい(主として社会不安障がい)
、適応障がい(主として、いじめや担任との相性の悪さ)と
いったものが大半である。また、その基盤として発達障がい(AD/HD や広汎性発達障がい)を持
っている者が医療機関受診者中の 20-30%は存在する。発達障がいを持っている子どもを発見す
ることは重要である。発達障がいの子どもは、両親・学校といった、周囲の大人が、その障がい
特性を理解する、という配慮が必要になるからである。
発達障がいの有無にかかわらず、不登校児に対して必要なのは、
「なぜ登校できないのか」とい
う関わりかけよりも、自己評価を上げる関わりかけである。不登校児の何よりの苦痛は、なぜ登
校できないのか、なぜ責められるのか、自分自身でも分からないという点にある。このために、
「登校できないことに関して、何もできない自分」という自己イメージしか持てなくなり、
「自分
には何かができそう」という発想すらできなくなっている。この自己評価を上げるための面接法
として、演者は「解決志向アプローチ」という面接技法が有用であると考えている。当日は時間
の制約のため、紹介程度になるかと思うが、臨床場面でのこの手法について説明したい。
4.喫煙と薬物
おかもと小児科クリニック
岡本茂樹
健康増進法成立後、公共空間における禁煙化が急速にすすみました。公共施設の禁煙化は、公
立病院はじめ医療機関にはじまり、教育機関では、保育所・幼稚園、小学校、中学校、高校にお
ける敷地内禁煙化が一気に進みました。しかしまだ不十分です。
わが国の喫煙率が徐々に低下している一方で、20代の若者の喫煙率は男性80~90%、女
性40~60%と高率です。最近のある統計によれば、こどもたちは10歳頃から喫煙をはじめ、
喫煙者の90%が20歳前に喫煙を開始し、25歳までに98%が開始しています。25歳以後
に喫煙を開始する大人は稀であるといえます。10代の若者の喫煙を防止することに最大の努力
が必要です。タバコの有害性や若者を標的にした広告の問題性をわかりやすく訴えるのみでなく、
地域的な禁煙活動、広告規制、タバコ販売規制などの環境整備も重要です。また喫煙する若者を、
処分の対象とするのでなく、禁煙支援プログラムを提供し具体的に禁煙を支援する活動が求めら
れます。
学校における喫煙対策は、社会全体の包括的喫煙対策の一環として行われることが必要です。
喫煙は、薬物(シンナー、覚醒剤、麻薬など)の導入薬とも言われます。タバコと薬物は法的規
制に違いがあるものの、身体的精神的依存性と有害性は基本的に同じです。喫煙対策の多くが薬
物乱用対策に有用であると考えられます。