69 第 6 章 代数方程式の解法 6.1 対称式 n 変数の多項式 P (x1 , · · · , xn ) について、x1 , · · · , xn をどのように入れ換えても、P (x1 , · · · , xn ) が不変な時、 P を対称式と呼ぶ。 6.1.1 基本対称式 n 個の変数 x1 , · · · , xn から、重複なしで k 個選んだ積を作り、これを可能なすべての組み合わせについて和を とったものは対称式である。これを k 次の基本対称式といい、sk (x1 , . . . , xn ) と書く。 s1 = x1 + · · · + xn s2 = x1 x2 + · · · + xn−1 xn .. . sn 6.1.2 = x1 · · · xn (6.1) (6.2) (6.3) 基本対称式での表現 一般に対称式 h が与えられたとき、これを基本対称式で表すことが出来る。 β γ ω S = xα 1 x2 x3 · · · xn + · · · β γ ω ω α β γ ω α β γ という対称式を考えると、S には、変数を入れ替えた xα 1 x3 x2 · · · xn , x2 x1 x3 · · · xn , x2 x3 x1 · · · xn , が含まれ ている。この指数の数列 (α, β, γ, . . . , ω) で、一番大きい(右の数字から順に比較して大きい数列)を指数列と 呼ぶ。 例えば、 h = x1 x2 x3 x44 − 3x1 x2 x23 x24 + · · · なら、指数列は (1, 1, 1, 4) なので、h − s4−1 s1−1 s1−1 s14 を計算する。これが、 1 2 3 h − s31 s4 = −4x1 x2 x23 x24 + · · · であれば、 h − s31 s4 + 4s2−2 s2−1 s1−1 s14 1 2 3 を計算する。これを繰り返していくことで h を基本対称式の組み合わせとして表すこと が出来る。 6.1.3 方程式の係数と解の関係 方程式 f (x) = an xn + an−1 xn−1 + · · · + a1 x + a0 = 0 (6.4) 第 6 章 代数方程式の解法 70 の解を x1 , . . . , xn とすると、 f (x) an = (x − x1 )(x − x2 ) · · · (x − xn ) = xn − (x1 + · · · + xn )xn−1 + · · · + (−1)n x1 · · · xn . (6.5) (6.6) これより、係数 ai は x1 , . . . , xn の基本対称式で表される。 an−1 /an = −s1 (x1 , . . . , xn ) an−2 /an = s2 (x1 , . . . , xn ) .. . a0 /an = (−1)n sn (x1 , . . . , xn ) (6.7) (6.8) (6.9) これを、根と係数の関係という。 方程式 f (x) の解、xi , i = 1, . . . , n に対してその差積 (x1 − x2 )(x1 − x3 ) · · · (x1 − xn )(x2 − x3 ) · · · (xn−1 − xn ) を考える。これは、xi に対して対称ではない。例えば、x1 と x2 を入れ替えた式を考えると、負になっている。 しかしながらこの式を二乗したものを考えるとこれは対称式になっている D = (x1 − x2 )2 (x1 − x3 )2 · · · (x1 − xn )2 (x2 − x3 )2 · · · (xn−1 − xn )2 (6.10) これは、根と係数の関係を使うことで、方程式の係数 ai で表すことができる。この式を、方程式の判別式と言う。 例えば、二次式 x2 + bx + c の判別式は D = (x1 − x2 )2 = (x1 + x2 )2 − 4x1 x2 = b2 − 4c となる。 判別式の性質として、 D = 0 ならば、方程式は重解を持つ。 6.2 二次方程式 方程式 ax2 + bx + c = 0, a 6= 0 (6.11) の解を、x1 , x2 とすれば、解と係数の関係より、 x1 + x2 x1 x2 = −b/a (6.12) = c/a (6.13) このとき、 したがって、 (x1 − x2 )2 = (x1 + x2 )2 − 4x1 x2 = (−b/a)2 − 4c/a (6.14) √ x1 − x2 = ± (b/a)2 − 4c/a (6.15) これから、 x1 , x2 = を得る。 √ 1 (−b ± b2 − 4ac) 2a (6.16) 6.3. 三次方程式 6.3 71 三次方程式 方程式 ax3 + bx2 + cx + d = 0, a 6= 0 (6.17) にたいして、全体を a で割って x3 の係数を 1 にする。更に x + b/3a −→ x と置き直すと、方程式は次の形に なる。 x3 + 3px + 2q = 0 (6.18) ただし、p = (3ac − b2 )/9a2 , q = (27a2 d + 2b3 − 9abc)/54a3 . 一般に n 次の方程式に対して、同じような変換を行うと、xn−1 の係数をゼロに取ることが出来る。この変換 をチリングハウス変換という。 6.3.1 カルダノ法 三次方程式として、 x3 + 3px + 2q = 0 (6.19) の形で考える。 ここで、1 の三乗根を ω, (ω 2 + ω + 1 = 0) とし、方程式の解を x1 , x2 , x3 として、u, v を u = (x1 + ωx2 + ω 2 x3 )/3, v = (x1 + ω 2 x2 + ωx3 )/3 (6.20) と置く。このとき、x1 + x2 + x3 = 0 に注意すると、次の式が得られる。 9uv = (x21 + x22 + x23 − x1 x2 − x2 x3 − x3 x1 )/9 = −9p 27(u3 + v 3 ) = 2(x31 + x32 + x33 ) − 3(x21 x2 + x1 x22 + x22 x3 + x2 x23 + x23 x1 + x3 x21 ) + 12x1 x2 x3 = −54q (6.21) (6.22) これより、t = u3 , v 3 を解とする二次方程式は t2 + 2qt − p3 = 0 (6.23) である。この二次方程式をといて、u3 , u3 を求め、三乗根を求める事により、u, v が求められる。これから、 x1 = u + v (6.24) が三次方程式の解となる。 6.3.2 チリングハウス変換 方程式 x3 + 3px + 2q = 0, に対して y = x2 + αx + β と変換すると、y について y 3 + 3(2p − β)y 2 + 3(pα2 + 2qα + β 2 − 4pβ + 3p2 )y + 2qα3 − 3pα2 β − 6qαβ + 6pqα − β 3 + 6pβ 2 − 9p2 β − 4q 2 = 0 の形になる。これはチリングハウス変換の一つである。 第 6 章 代数方程式の解法 72 この式から、y 2 および y の係数がゼロになるように β = 2p pα2 + 2qα − p2 = 0 を満たすように α, β を選ぶと、y について y3 + 8(p3 qα + q 3 α − p5 − p2 q 2 ) =0 p2 の方程式が得られる。これは一番簡単な 3 次方程式で解は √ 8(p3 qα + q 3 α − p5 − p2 q 2 ) y=−3 p2 および、これに 1 の三乗根 ω = √ −1+ 3i 2 あるいは ω 2 を掛けた値になる。 これから、 x2 + αx + β − y = 0 の二次方程式を解くことにより、x を求めることができる。 なお、α についての二次方程式は、pα = t とおくと、カルダノ法で現れる u3 , v 3 を解とする二次方程式に一 致する。 三倍角の公式による解法 6.3.3 余弦関数の三倍角の公式は cos 3t = 4 cos3 t − 3 cos t である。cos t = z と置くと、 と表される。ここで、x = √ cos 3x = 4z 3 − 3z −4pz と置くと、元の三次方程式は 2q 4z 3 − 3z = √ p −4p となる。| p√2q | ≤ 1 が満たされるなら −4p から、t を求めると、 2q cos 3t = √ p −4p √ √ −4p cos t x= −4p cos(t + 2π 3 ) √ −4p cos(t + 4π 3 ) が解を与える。 6.4 四次方程式 方程式 ax4 + bx3 + cx2 + dx + e = 0, a 6= 0 (6.25) 前の節と同様にして、全体を a で割って x4 の係数を 1 にする。更に x + b/4a −→ x と置き直すと、方程式は次 の形になる。 x4 + px2 + qx + r = 0 ただし、p = (8ac − 3b2 )/8a, q = (8a2 d − 4abc + b3 )/8a2 , r = (256a3 e − 64a2 bd + 16ab2 c − 3b4 )/256a3 . (6.26) 6.4. 四次方程式 6.4.1 73 フェラーリの方法 x4 + px2 + qx + r = 0 (6.27) x4 + px2 + qx + r = (x2 + α)2 − (βx + γ)2 (6.28) で、 置くと, 2α − β 2 2βγ α2 − γ 2 = p, (6.29) = −q, (6.30) = r, (6.31) これから, α2 − q2 =r 4(2α − p) (6.32) となり,α に関する三次式が得られる。これを解いて、α, β, γ を求める事によって、これを、四次方程式の 3 次 分解方程式という。 元の四次方程式は、二つの二次方程式 x2 + α ± (βx + γ) = 0 (6.33) に分解される。これから、解を求める事が出来る。 6.4.2 ラグランジェの方法 別の解き方としては、四次方程式の解を x1 , x2 , x3 , x4 とする。 y1 = x1 x2 + x3 x4 , (6.34) y2 = x1 x3 + x2 x4 , (6.35) y3 = x1 x4 + x2 x3 , (6.36) とおくと、y1 , y2 , y3 の対称式は、x1 , x2 , x3 , x4 の対称式から、 y1 + y2 + y3 y1 y2 + y2 y3 + y3 y1 y1 y2 y3 = s2 = p, (6.37) = s1 s3 − 4s4 = −4r, = s21 s4 − 4s2 s4 + s23 (6.38) = −4pr + q , 2 (6.39) と表される。これから、y1 , y2 , y3 は次の 3 次方程式 y 3 − py 2 − 4ry + 4pr − q 2 = 0 (6.40) を満たす。y = 2α と置けば、これは上の 3 次分解方程式と同じ。 この解と、x1 x2 x3 x4 = r と y1 を組み合わせれば、x1 x2 と x3 x4 が二次方程式の解として求められる。この二 根が異なれば、x1 + x2 + x3 + x4 = 0 に注意して、(x3 + x4 )x1 x2 + (x1 + x2 )x3 x4 = (x1 + x2 )(x3 x4 − x1 x2 ) = −q から、x1 + x2 が求まる。これと、x1 x2 の値から、二次方程式の解として x1 , x2 が求まる。もし、x1 x2 = x3 x4 ならば、 (x1 + x2 )(x3 + x4 ) = −(x1 + x2 )2 = s2 − (x1 x2 + x3 x3 ) = s2 − y1 (6.41) から、(x1 + x2 ) が求まる。これと、x1 x2 の値から、二次方程式をとく事により、x1 , x2 の値が求められる。 第 6 章 代数方程式の解法 74 チリングハウス変換 6.4.3 x4 + px2 + qx + r = 0 に y = x2 + αx + β という変換を行うと、y について 4 次式が得られる。 β = p/2 とおくことで、y 3 の係数がゼロにできる。y 2 と y の係数は、それぞれ、 2α2 p + 6αq − p2 + 4r 2 α3 q − α2 p2 + 4α2 r − 2αpq − q 2 となる。α を α3 q − α2 p2 + 4α2 r − 2αpq − q 2 = 0 を満たすように選べば、y に関する方程式は 3 次と 1 次の項 が消えて、y 2 に対する二次方程式の形になる。 6.5 高次方程式の解の個数 6.5.1 スツルム列 定義 6.1. 多項式の列 {f0 , f1 , . . . , fm } が次の性質を満たす時、これを区間 [a, b] でのスツルム列という。 (1) fm (x) は a ≤ x ≤ b で 0 に成らない。また、f0 (a) 6= 0、かつ f0 (b) 6= 0. (2) k = 0, 1, . . . , m − 1 に対して、もし fk (α) = 0 となる α ∈ [a, b] が存在するならば、fk−1 (α) · fk+1 (α) < 0 となる。k = 0 の時には、f1 (α) 6= 0 となる。 定理 6.1. 無平方多項式 f (x) に対して、f0 (x) = f (x), f1 (x) = f 0 (x) とおく。k ≥ 1 に対して、fk−1 (x) を fk (x) で割った商を qk (x) として、 fk+1 (x) = qk (x)fk (x) − fk−1 (6.42) で fk+1 を定める。fm+1 (x) = 0 この時、{f0 , f1 , . . . , fm } はスツルム列になる。 スツルム列に対して、点 x0 における {f0 (x0 ), f1 (x0 ), . . . , fm (x0 )} の符号の変化の回数を v(x0 ) で表し、x0 に おけるスツルム列の符号変化数という。 6.5.2 実数解の個数 定理 6.2 (スツルムの定理). 多項式の列 {f0 , f1 , . . . , fm } が区間 [a, b] でのスツルム列とする。この時、有理式 p(x) = f0 (x)/f1 (x) の区間 [a, b] での零点の個数は v(a) − v(b) (6.43) になる。 定理の系 6.2.1. 多項式の列 {f0 , f1 = f 0 , . . . , fm } が区間 [a, b] でのスツルム列とする。この時、f (x) = 0 の区 間 [a, b] での零点の個数 (重複解も 1 個と数える)は v(a) − v(b) で与えられる。 (6.44) 6.6. 問題 6.6 75 問題 問題 6.1. 次の問いに答えよ。 (1) x21 + x22 + x23 を x1 , x2 , x3 の基本対称式を使って表せ。 (2) x31 + x32 + x33 を x1 , x2 , x3 の基本対称式を使って表せ。 問題 6.2. 二つの数 a, b について、a と b の和が 3 であり、積が 1 である。a と b を求めよ。 問題 6.3. 三つの数 a, b, c について、 a+b+c 2 2 = 3 2 = 17 a3 + b3 + c3 = 27 a +b +c である。このとき、a, b, c はいくらであるか。 問題 6.4. 次の方程式の解を求めよ。 (1) x3 + 9x − 26 = 0 (2) x4 − 6x2 + 16x + 21 = 0 問題 6.5. 次の方程式の解を求めよ。 (1) x3 − 18x − 35 = 0 (2) x4 − 6x2 − 16x − 15 = 0 問題 6.6. f (x) = x3 + 9x − 26 のスツルム列を求めよ。 問題 6.7. f (x) = x4 − 6x2 − 16x − 15 のスツルム列を求めよ。 これから、x = 0 と x = 5 の間に、f (x) = 0 の解がいくつ存在するか調べよ。 問題 6.8. 四次方程式 f = x4 + px2 + qx + r = 0 の 4 つの解を x1 , x2 , x3 , x4 とし、 y1 = (x1 + x2 )(x3 + x4 ), y2 = (x1 + x3 )(x2 + x4 ), y3 = (x1 + x4 )(x2 + x3 ), とおく。このとき、y1 , y2 , y3 の対称式は、x1 , x2 , x3 , x4 の対称式で表されることを示せ。 y1 , y2 , y3 を解とする 3 次方程式を求めよ。
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